光の巫女
「ショウ様ー!」
雑踏の中から、マーニが元気に駆け寄ってくる。
「ごめんね。長い時間待たせちゃって。町はどうだった?」
「うん、すごいの! 色んなお店がいーっぱいあって。ほら見て、こんなおっきなクッキー!」
言いながら、マーニは自分の顔くらいあるクッキーを唱の前にかざした。
「ははは。空がこんなになる前だったら、もっとすごいものをたくさん見せてあげられたんだけどねぇ」
ニコニコしながら、コモードがやってきた。後ろから、ランテもついてくる。
「おかえりなさい、ショウ様。お疲れでしょう」
「お疲れ様です。ショウさん。いかがでしたかな? さぞかし評判になったでしょうなぁ」
唱は苦笑いした。
「いやいや、おれなんかとんでもない。すごい力の音楽騎士もいて、完全に井の中の蛙でした。――あ、コモードさん、四人の音楽騎士にも会いましたよ」
「おお、早速会えましたか。どうですか。彼らは力になってくれそうでしたか?」
「ええ、それなんですが、実は、明日から一緒に行動することになったんです。つまり、同じ組になったっていうか」
「ほぉ、そいつは頼もしい! やはりショウさん、期待されているんですなぁ」
ひたすら上げ続けるコモードに苦笑いで返すと、唱はランテとマーニに向き直った。
「で、ですね。新しい仲間の四人には、ランテさんとマーニのことも話してあります。良かったら、この後も一緒に悪魔退治の旅を続けませんか? その……危険かもしれないし、無理にとは言えないんですけど……」
マーニが万歳して喜んだ。
「わーい! もちろん、そのつもりよ!」
「でも、本当に大丈夫なんですか? 新しいお仲間もいらっしゃると言うのに……」
「彼らは問題ないです。みんな、快く賛成してくれましたから」
ランテは、ほっとしたように微笑んだ。
「そういうことでしたら……私も、ショウ様や皆さんのお役に少しでも立てるよう頑張りますね」
「ショウ様、よろしくー!」
ランテが深々と頭を下げ、それを見たマーニも真似をする。
その様子をニコニコしながら眺めていたコモードが言った。
「では、そろそろ次の仕事がありますので、あたしは失礼しましょうかね」
唱は、「あっ」と気づいて、コモードに頭を下げた。
「コモードさん、道中本当にお世話になりました。なんだか寂しいですが、おれが音楽騎士として働いていれば、また会えそうですね」
「そういうこともあるでしょう。その頃には、国一番の音楽騎士になっていることを期待してますよ」
コモードがそう言って片目をつむった時だった。突然、遠くからラッパの音が鳴り響き、人々が騒ぎだした。
「あら? どうしたのかしら。大通りの方が随分にぎやかですわね」
「えー? なになに? お祭りかなぁ?」
きょろきょろと辺りを見回す姉妹を見て、コモードがぽんと手を叩いた。
「おお。これは皆さん、運がいい。光の巫女の出兵ですよ。いつも突然なんでね。見れたら運気が上がるなんて言われてますよ」
「ああ、そういえば、さっき、今日遠征があるとか聞きました。これのことだったんですね」
話しているうちに、大通りに、馬に乗った隊列と大きな神輿が現れた。コモードがひょいと指をさす。
「あの神輿の中にいるのが光の巫女です」
「あれ? 結構若くないですか? っていうか、むしろ子供のように見えますが……」
神輿にはレースのような薄い布がかけられているが、中が透け、人が座っているのが見える。
「ああ、そうですね。見かけからすると、ウチの娘とそう変わらないくらいだと思いますよ」
「えー、あたしも見たいー。見えないー!」
マーニがぴょんぴょんと飛び跳ねる。
うっ、ここはおれが持ち上げてあげないといけないやつかな……
そう思って、意を決してマーニに声をかけようとすると、
「あら、そうね。はい、これでどうかしら?」
と、ランテが猫でも抱くようにひょいっと両手でマーニを持ち上げた。
「うん! お姉ちゃん、ありがと。よく見える!」
唱は、がくっと肩を落とした。
「ら、ランテさん……力持ちなんですね……」
ランテがにっこりと微笑む。
「うふふ。マーニくらい、何てことないですわ」
その時、大はしゃぎだったマーニが、突然固まったように動かなくなった。
「あらマーニ、どうしたの?」
マーニは呆然と神輿を見つめながらつぶやいた。
「タメラ……! タメラが、なんで……?」
タメラ? どこかで聞いたような……
タメラが、一か月ほど前から行方不明なのです。
教会の先生が言った言葉が頭によぎった。
はっとして、唱はもう一度神輿の中を見る。
黒髪を肩まで下ろし、頭にカチューシャのような冠をつけ、白いドレスを着た少女がいる。
彼女はなぜか、これから罰でも受けるかのように、硬い表情を浮かべ、じっと座っていた。
第一章はこのお話で完結です。
ここまでお読みいただいた皆様、ありがとうございました!感謝でいっぱいです。
次は、”ある人物”のお話を一つはさんで第二章に続きます。この後もぜひよろしくお願いします。
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