悲劇
唱が結界の方に戻るなり、ランテは巧みな手さばきで檻の鍵を開けた。ガチャリと音がして扉が開くと、マーニが飛び出してきた。
「マーニ!」
「お姉ちゃん!」
二人は涙を流しながら抱き合った。
「良かった、本当に無事で、良かった……」
泣きじゃくるランテに、マーニがはっとしたように顔を上げる。
「のんびりしていられない! タメラ!」
タメラは、たたきつけられた壁の下で、倒れたままだ。
マーニが駆け寄り、慌ててランテとペザンが後を追う。
「タメラ! タメラ、しっかりして。お願い、目を開けて!」
タメラの頭を抱きかかえながら、マーニが必死に呼びかける。ランテも、体をさすりながら、一所懸命に声をかけた。
「う……ん……」
タメラがわずかに唸るような声を上げた。マーニがぱっと笑顔になる。
「タメラ! タメラ、あたしよ。わかる? マーニよ! お願い、目を覚まして!」
しばらくすると、うっすらとタメラが目を開けた。
「マ……ニ……?」
マーニは、目を輝かせた。
「そうよ! あたしよ、マーニよ! タメラ、大丈夫?」
マーニの姿を目に留めると、タメラは眼から涙をこぼした。
「マーニ……ごめん……ね……」
マーニがきょとんとすると、タメラは涙をぽろぽろとこぼしながら、か細い声で言った。
「マーニだけは……昔から、ずっと、私の歌を、好きって……言ってくれてたのに、ね……どうして、気づかなかったんだろう……ね……」
「タメラ……」
その言葉に、マーニも涙をこぼした。
しかし、すぐにそれをぬぐうと、いつもの元気いっぱいの笑顔で言う。
「そうよ、バカね! 何度も言ってるけど、今も昔も、あんたの歌はそれだけで素晴らしいの! リヴ村に戻って、また一緒に歌唱隊やろうよ、ね?」
タメラは、弱々しく微笑んだ。
辺りを見回していたランテが、マーニに声をかける。
「マーニ、ここに長くいては危ないわ。ひとまず、ショウ様がいる結界の方に行きましょう」
二人がタメラを介抱している間、ペザンが必死で悪魔をつぶしており、すでに悪魔の壁ができているのだった。ペザンも歌いながら、うんうんとうなずく。
「タメラちゃんをおんぶするわ。マーニ、背中に乗せてあげて」
マーニがしゃがんでいるランテの背中に乗せようと、タメラの上半身を起こした時だった。
突然、タメラがマーニを突き飛ばした。マーニがごろごろと床に転がる。
「あっ、痛……タメラ、どうし……」
起き上がったマーニが言ったのと、ランテの悲鳴が響いたのはほぼ同時だった。
さっきまで、マーニがいた場所には、大きな石があった。おそらく、魔王の攻撃によって、ひびの入った天井の石が落ちてきたのであろう。
そして、その石の下には、タメラの体があった。
タメラの頭は石でつぶされていた。石の下から、赤い血がじわじわと染み出していた。
「え……嘘……やだぁ、タメラ、嘘でしょ……いやよ、そんな……せっかく……」
マーニはタメラの体に飛びつくと、取りすがって泣き喚いた。
その横で、必死の形相のペザンが何度も腕で×を作る。
いつの間にか、四人の周りは悪魔の壁で覆われ始めていて、隙間がわずかしかなくなっていた。
ペザンの力は、悪魔をその場に押しつぶすことしかできず、後から動かすことはできない。もし、完全に悪魔の壁に取り囲まれる状態になってしまうと、誰かが悪魔を消滅させるまで、その場から動けなくなってしまうのだった。
ランテは、涙をこぼしながら、力づくで妹をタメラの体から引き離した。
「マーニ! 一旦、結界の中に戻りましょう!」
「いやよぉ、タメラを助けるの! タメラぁぁ……やだぁぁ、離して! お姉ちゃんのバカぁぁぁ!」
まるで小さい子供のように暴れるマーニを小脇に抱えると、ランテは全速力で結界へと向かった。ペザンが慌ててその後を追う。
ペザンがその場から離れたため、押しつぶされていた悪魔達が再び動き出し、一斉に結界の方へと向かってくる。そして、下敷きになっていたドラゴンの首も、再び蛇のようにくねくね動きながら、胴体を探して動き出した。
床の上には、タメラの体だけが残された。力を失った白い腕が、石の下からだらりと伸びていた。




