祭壇室の操り人形
“当たり”を引いたのは、唱とランテだった。
暗い、暗い廊下の先に、その入り口はあった。
火事の時の熱で変形したのだろうか、重々しい金属の扉には少し隙間があり、そこから明かりが漏れている。
唱とランテの元に全員が合流して、今、まさに突入しようと扉の前に九人が立った。
「ふっ、あの魔王は到達できないとかぬかしていたが、見事おれ達はやり遂げたってわけだ」
ペザンが得意げに呟き、RYU-Jinが呆れたように言う。
「何言ってんだ。やり遂げるのはこれからだろ」
YAMAが全員を見回した。
「魔王の攻撃力は未知数だが、少なくとも、さっきのように悪魔で攻撃してくる可能性が高い。手はず通りに行くぞ。――ニシモ、お前がおれ達の生命線になる。長丁場になるかもしれないが、大丈夫か」
「うす。やれるだけやります」
「おれとリュウでお前のことは守るからな。いつも通り、結界を張るのに専念してくれ。――攻撃の主力はフオゴだ。頼むぞ」
「ああ、任せろ」
唱は大きく息を吸うと拳を握りしめた。
「よし、みんな。行こう」
そして、扉を開けようとした時だった。突然、扉が重い音を響かせながら勝手に開いた。
――ようこそ、音楽騎士達よ。まずはここまでたどり着いたことを祝福しよう。
「けっ。ばれてるぜ。性格ワリーな、ちきしょう」
RYU-Jinが毒づく。
扉が開き切ると、唱達一行は中に足を踏み入れた。ランテが緊張気味に、手を祈るように組んだのを、唱は視界の端で見た。
祭壇室は、思ったより広く、天井の高さはおよそ二階分あった。部屋はやや弧を描いており、弧の中心の壁際に、小さな祭壇がある。
そして、目に入ってきたのは、縄で吊り下げられている男。石造りの壁に取り付けられているランタンの明かりで、壁にその影が大きく映っている。
「コモードさん!」
唱が叫ぶと、彼は申し訳なさそうに顔を上げた。
「ショウさん……全く面目ない……」
「やめてください。コモードさんが悪いわけじゃないです」
コモードに声をかけている唱の横を、誰かがすり抜けた。
「マーニ!」
ランテだった。ランテは、コモードの真正面にある檻に向かって走り寄ろうとした。
その途端、黒い壁がランテの前に立ちふさがった。数匹の悪魔が、ランテを襲おうと手を伸ばしている。
「ランテさん、危ない! ここは下がってください」
唱は、慌ててランテを抱きかかえるようにして後ろに下げる。
「マーニ、マーニ! 大丈夫なの? けがしてない?」
唱に引きずられるようにしながらも、必死で檻に向かって声をかけるランテ。すると、檻の中からマーニの声が聞こえた。
「お姉ちゃん、あたしは大丈夫よ、けがもしてない! それよりも、ショウ様の言うことを聞いて、危ないことしないで!」
「マーニ……」
とランテは呟くと、小さく肩を震わせた。
――勇敢なお嬢ちゃん達ね。でも、その勇敢さが破滅を招くこともあるわよ。
いつの間にか、コモードとマーニの間に、ディレトーレの姿をした魔王が立っていた。
「え? あれ? どうやってあの女現れた?」
ペザンが目を白黒させている。YAMAがなだめるように言った。
「落ち着けよ。相手は魔王だぞ。もう、何でも有りだ」
魔王は、薄い笑みを浮かべた。
――よく、あの悪魔達を退けたわね。前には見かけなかったお兄さんがいるけれど、彼の功績かしら?
指摘されたフオゴは、少し驚きを含んだ声で、小さく唱に話しかけた。
「おい、あれが魔王なのか。普通の女性にしか見えないが……」
「いや、魔王は変身するんだ。さっきは悪魔にも化けた。あの女性の姿は、あくまで、人間を騙すための一つの姿なんだ」
「なるほどな……」と、フオゴは一人うなずいた。
ディレトーレは、どこから聞こえてくるかもわからない奇妙な声で言った。
――さて、面白いことになったわね。魔王を前にして、悪魔を呼び寄せるお嬢ちゃんと、悪魔を消滅させる音楽騎士がいるなんて。でも、役者が足りないと思わない? だから、呼んでおいたのよ。
ディレトーレはそう言って、入り口の方を見やった。
そこには、白いドレスをまとった一人の少女が立っていた。
「あれは……光の巫女じゃないか!」
驚いたペザンの声を遮るように、マーニの声が聞こえた。
「タメラ? タメラ、だめよ、こんなとこに来ちゃ! この人は魔王なのよ。タメラは騙されてるの。早く逃げて!」
マーニの叫びもむなしく、タメラはゆっくりとこちらに向かってくる。
あれ? 何か変だな。まるで、意思がないような――
タメラの目はうつろで、意識があるようには見えない。まるで操り人形のように不自然に歩いている。
唱達の間をまっすぐに通り抜け、タメラはディレトーレの前に来ると立ち止まった。
――いい子ね。私のお人形さん。
ディレトーレは、長い腕でタメラを包んだ。
――世界は、もう、闇のものなのよ。あとは、この子の力で、残った人間を支配するだけ。お前達は邪魔。今から闇に葬ってあげるわね。
そう言うと、ディレトーレは人形のようなタメラの体を、その細く長い指でなめるように撫でた。




