地下の約束
カツン、カツン、カツン――
足音が止まった。
「あ、階段、終わった。一番下の階に着いたみたい」
先頭を歩いていたTaiyoの声が響いた。
一同、安堵のため息をもらす。
「ふぅ、やっとかよ。なんか十階分くらい下りてた気がする」
「結局、あの後は悪魔も攻撃してこなかったですね。あれで全部だったんでしょうか」
「いや、おそらく逃げたやつもいるだろう。そのままいなくなってくれれば御の字だが、この先また出てくるだろうな」
唱は、クリワの会話を聞きながら階段を下りた。そして、塔の中心と思われる辺りまでくると、ランタンの光をかざして見上げる。真っ暗で、上の方は何も見えないが、この巨大な吹き抜きの上に屋上階があり、その上に処刑の鐘があるのだ。
見上げながら歩いていたら、ふと、足が何かを踏んだ。その途端、ガランと固い音が響く。
「ん? なんだ?」
びっくりしてランタンを照らすと、足元に、一振りの剣が落ちていた。
「おい、どうしたよ、唱。火事起こったところだからな、変なモン踏まないよう気を付けろよ」
「あ、大丈夫です。剣が落ちてて……昔の看守とかが持ってたやつでしょうね」
唱がRYU-Jinに返答すると、YAMAがやってきて剣を調べ始めた。
「……いや、これは昔の物じゃない。普通に、今の兵隊が使っている剣だよ。一つの錆も汚れもないから、ごく最近ここに持ち込まれた物だ」
「え? じゃあ、兵隊がここまで来てるってことですか?」
唱が驚くと、YAMAは少し黙って考えた後、口を開いた。
「たぶんだが、コモードさんをここまで連れてきた人物の剣じゃないかと思う」
すると、ニシモが思い出したように言う。
「あ。言われてみればそうっすね。確か、三人ぐらいの警備兵に連れてこられたと思うんですけど、おれ達を牢に入れたの、二人でしたから」
YAMAがうなずいた。
「ニシモの話だと、コモード氏だけ、更に地下に向かったということだったよな。であれば、辻褄が合う」
「でも、肝心の持ち主はどこ行っちゃったんでしょうか……」
「これも推測ではあるが、口封じのために殺されたんだろうな。死体がないのは、悪魔に喰わせたからだろう。であれば、もう二人も、ペザン達を牢に入れた後に同じ運命だっただろうな」
「つくづく、酷いことしますね……」
「おぉい! 寝覚めの悪いこと言うなよぉ!」
ペザンの叫び声の後、フオゴの淡々とした声が響いた。
「おい。急がなくていいのか。あの少女が捕まっているんだろう」
はっとすると、落ち着かなさそうなランテの姿が目に入った。
唱は慌てて皆に声をかける。
「王様の話だと、この階のどこかにマーニがいる祭壇室があるってことでしたね」
「なんか、入り口いくつかあるぜ。くそっ、さっきクソ国王に場所聞いときゃ良かったな。どれに入りゃいいんだ」
「入り口は……一、二、三、四、五つか。よし、手分けして探そう。組分けするぞ」
YAMAの言う通り、円を描く壁の途中に、ぽつ、ぽつ、とトンネルのような穴が五つ開いている。
組分けの結果、TaiyoとRYU-Jin、KassyとYAMA、ペザンとニシモ、フオゴは一人、そして、唱とランテでそれぞれ中に入ることになった。
「いいか、見つからなかったらすぐ戻ってきて入り口の前で待っててくれ。最終的に、誰もいない入り口を当たりとみなしてみんなで追う。それと、悪魔が出た時も、倒せなければすぐに戻れ。十分気を付けて」
唱は、階段の下り口から三つめの入り口に、ランテと共に足を踏み入れた。
小さめのエレベーターくらいの狭い廊下を、真っ暗な中進んでいくのはかなり恐ろしかった。ランテがいなかったら、もっと恐ろしかったに違いない。
「ランテさん、悪魔が出るかもしれないので、できるだけおれから離れないでください」
そう声をかけると、ランテが唱に体を寄せた。ふと、手がふれあい、ごく自然に唱はランテの手をつかんだ。
「あ……」
ランテが小さく声を漏らす。唱も、握った手が震えているのを感じて、思わずランテの方を振り返る。
ランタンの明かりに照らされたランテの顔は、ひどく怯えているように見えた。
「ランテさん、大丈夫ですか?」
目を伏せたまま、ランテは申し訳なさそうに口を開いた。
「ショウ様。私、ずっと、言いたかったことがあって――こんなことに、巻き込んでしまってごめんなさい」
「え? 何を言って――」
「ショウ様に初めてお会いした時、この方なら、マーニがまた元のように歌える世界にしてくださるって、私、マーニのことしか考えていなかったんです。あの時は、こんな大変なことを背負わしてしまうなんて、考えてもいませんでした――」
「大変なことなんて、そんな……」
意外な言葉に唱が驚くと、ランテは首を振った。
「でも、同時に、マーニを助けたいって気持ちも大きいんです……自分勝手ですよね。私なんて、悪魔を倒すこともできないし、何の役にも立たないのに」
その時、なぜそうしたのか、自分でもわからなかったが、ほとんど無意識に、唱はランテを抱きしめていた。
体が重なり、トク、トク、トク、と鼓動が伝わってくる。
ランテの温かさを感じながら、唱は言った。
「ランテさん。何の役にも立たないなんて、言わないでください。おれは、あなたに何回も救われた。本当に感謝してます。それに……音楽騎士になって悪魔退治をすることにしたのも、おれ自身が、あなたとマーニを助けたいと思ったからですよ」
「でも、さっきの魔王……あまりに恐ろしくて……私、ショウ様が危ない目に遭うのが、すごく怖い……」
ランテは泣いているようだった。唱は、ランテを抱く腕に力を込めた。それほど身長差がない二人なので、ランテの吐息が、唱の耳元をわずかにくすぐっている。
「ありがとう……ランテさん。おれ、あなたに会えて――いや、この世界に来て、あなたとマーニに会えて、本当に良かった」
「ショウ……さん……」
「約束します。必ず、マーニをあなたの元に返します。そして、おれも絶対、生き残ります」
ランテが体を震わせた。
「ショウさん、お願い。どうか、ご無事で……私も、できるだけのことはしますから……」
ランテを抱いたまま、少しの間、唱は目をつむった。
そして、体を離すと、再びランテの手を強く握った。
「行きましょう」
ランテがうなずき、指を絡めるようにして唱の手を握り返す。その顔は、いつもの彼女のように、穏やかで芯の強さを感じさせるものだった。
二人は、真っ暗な廊下を、足早に駆け抜けていった。




