先導者
やはり、フオゴの力は強力だった。即効性があり、一度火をつけてしまえばこっちの勝ちだ。
周囲の悪魔がどんどん燃えていく。悪魔も、恐れているのかなかなか近づいてこなくなっていた。
改めて、唱はフオゴの力に舌を巻いた。
単純な攻撃力で言ったら、やっぱり、フオゴが最強だな。
しかし、だからと言って、気落ちするようなことは今の唱にはなかった。突然駆けつけてくれた助っ人を、心から頼もしく、有り難いと思っていた。
唱も負けじと歌った。光の粒が闇の中を昇っていく。
周囲は、紫色の炎と、細かいキラキラとした光に照らされ、幻想的な光景になっていた。
「よし、ほとんどいなくなったね。残ってたやつも逃げちゃったみたい」
Taiyoの声で我に返る。辺りはまた静寂な闇に包まれ、歌い切った音楽騎士達の荒い息遣いが反響していた。
「大丈夫か。水飲め、水」
RYU-Jinがニシモに水筒を渡す。
「あざす。おれは大丈夫っす。ペザンさんが……」
ペザンは、階段に這いつくばるようにして、ぜぇぜぇと苦しそうに息をしていた。
「おいおい、大丈夫かよ。お前、歌い方がうまくねーんじゃねーか」
RYU-Jinがペザンの背中をさすりながら水を飲ませる。ペザンはかすれ声で言った。
「な、なんだと。おれの歌が下手だって言いたいのか!」
「違うよ。歌の上手い下手じゃなくて、喉の使い方の話。ペザンは喉で歌ってるから、負担が大きいんだよね」
Taiyoがにこやかに歌のアドバイスを始めた。
仲間達の様子を見ながら、唱は、階段の少し上で一人たたずむフオゴに近寄った。
「フオゴ、ありがとう。めちゃくちゃ助かった。でも、どうして来てくれたの?」
フオゴは、ちらりと唱を見ると、ふんと照れ臭そうに鼻で笑った。
「助けに来るのに、理由が必要か?」
唱も笑った。
「うん、そうだね……本当にありがとう」
そう言ってから、はっと思い出す。
「ところで、あの後、討伐隊と軍隊は……」
唱の質問に、フオゴは少し険しい顔をした。
「討伐隊も軍隊も、ほぼ解散状態だ。団長も副団長もいなくなったからな。喰われてしまった兵も多いし、生還した兵も、ほとんど心神喪失していて動ける状態じゃない」
「そうか……結構、生き残ってた人が多いように見えたけど、おれの思い込みだったのか……」
「いや、あの状況では良かった方だと思う。お前の力と、トラヴィさんのおかげだ」
「? トラヴィさん?」
「ああ、トラヴィさんだ。花姫と呼ばれていただろう。彼が、自分に悪魔を引き付けてくれたおかげで、多くの討伐隊員が救われたんだ」
「ああ! なるほど、さすが実力あるね。じゃあ、そのトラヴィさんが次の団長でもいいんじゃないの?」
すると、フオゴは目を伏せた。
「いや、それはできない。トラヴィさんは……自分を犠牲にして、皆を救ったんだ」
唱の脳裏に、ハルプ村で見た光景が蘇った。どこにでもいそうな、冴えない“オジサン”の姿が――
「そうなんだ……」
次の言葉を探してオロオロとしていた唱だったが、意外にも、フオゴはさっぱりとした表情で言った。
「上でシフレーに聞いた。あの少女を救うために行くのだろう。お前の力はすごいが、時間がかかるという弱点がある。その点は、おれが補えるだろう。だから、おれも一緒に行くことにしたんだ」
フオゴの言葉に、唱は喜ぶより前に驚いた。
「え……本当に……」
てっきり、フオゴは唱やマーニに対して、怒りを覚えているのではないかと思ったのだ。討伐隊が壊滅状態になってしまったのも、唱達が原因だったからだ。
しかし、そんな唱の考えを見透かすように、フオゴは少し微笑んだ。
「もとはと言えば、おれ達がお前を捕まえようとしたのが発端だ。おれが何か言う権利なんかどこにもない」
その言葉を聞いた唱はほっとしてうなずき、フオゴと固く握手した。
「改めて、来てくれてありがとう。大変な戦いになるけど、よろしく」
「ああ。では早速だが、計画を教えてくれ」
唱は、ついさっきの恐ろしい出来事をフオゴに説明した。
「なんだと。そんなことがあるのか。歌も効かない魔王と、どうやって戦うつもりなんだ」
「うん、実は、シフレーに聞いたんだけど……」
唱がフオゴに原典のことを説明すると、フオゴは「なるほど」とつぶやいた。
「そういうことか。上でシフレー達がやってたことにも合点がいった」
「ああ、シフレー達とペザン組の皆にも協力を頼んでる。それに賭けるしか方法が思いつかなくて……」
フオゴは、少しの間、思案気に宙を見つめていたが、やがて唱に向き直った。
「少なくとも、悪い計画ではないと思う。それに、おれは隊長の方針に従うまでだ」
唱は、フオゴの言葉にきょとんとした。
「えっ? 隊長? まさか、おれのこと? いやいや、違う違う。隊長はタイヨウさんとかヤマさんとか……」
すると、背中から声が聞こえた。
「この隊の隊長は、お前だよ。ショウ」
振返ると、クリワの四人がにっこりと笑っている。
「気が付かなかったのか? おれ達、お前に着いてきてたんだぜ。少なくとも、あの時からずっとな」
RYU-Jinはそう言うと、にやっと笑った。YAMAが続ける。
「隊の行動の方向性を決めるのが隊長だ。隊員は、どうやったら隊長が望む方向に行けるかを考え、補佐して着いていく。今のお前は、おれ達を率いてるんだよ。立派なリーダーだ」
唱は、驚きのあまり、しばらく言葉を失った。
おれが、隊長だって? そんなばかな。おれは、タイヨウさんやヤマさんの言葉に従って……
そして、はっと気づく。フオゴ組に追われた頃から、自分の言うことに、皆が着いてきてくれていたことに。あの時も、あの時も、そして今も。
フオゴが言った。
「真の先導者っていうのは、なろうとしてなれるもんじゃない。自分の行動に、自然と人が着いてくるようになったら、それが先導者になったって証だ。今のお前は、そうなんだろう?」
唱は急に恥ずかしくなって、思わず笑った。
「やだな……皆さん、やめてくださいよ。おれ、そんなつもりじゃなかったんだけど……」
笑い声が聞こえる。
「それだけ皆、ショウのことが好きなんだよ」
「うっわ、タイヨウ。お前、よくそんなこそばゆいことしれっと言えるな。こっちが恥ずかしいわ」
「えー、だってリュウもそうでしょ?」
その様子を見て、フオゴが言う。
「いい仲間だな」
唱は大きくうなずくと、そして言った。
「皆、ありがとう。――じゃあ、出発しよう」




