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プロローグ

初投稿、初異世界作品です。よろしくお願いします。

神書(しんしょ)、第三章。『世界の退廃』。

 万物の神、ソーノ神が八つ目の音より生み出した人々は、皆、心の美しい善良な人々でした。

 人々は、神が創りし美しい世界で、美しい音楽を奏で、素晴らしい歌を歌いながら、幸せに暮らしていました。

 空は美しく青く、時には恵みの雨が降り、草原には見事な緑が広がっていました――」


 ああ、退屈だ。こんな話、聞きたくもない。


 教師の話を聞きながら、コンテ・ルート・マイスターは大あくびをした。


 穏やかな春の昼下がり。窓の外に目をやれば、青空の下に広々とした庭園の緑が広がる。剪定係の男が、庭園の木々を刃物でちょこちょこと整えているのが見えた。


 髪の毛を短く刈り上げ、針のように細いひげを鼻の下に生やした教師は、生徒が退屈しきっていることに気づきもせず、得意げに神書の朗読を続けている。


「しかし、人々が生み育てた人々の中から、争いを始める者がありました。

 やがて土地は荒れ果て、人々の死骸があふれ、世界は恐ろしい姿に変わってしまいました。

 怒ったソーノ神は、自らの右腕を引きちぎると、それを恐ろしい魔王へと変え、地上に遣わしました。

 地上に降りた魔王は、空を闇で覆うと、悪魔を生み出し、地上に解き放ったのです――」


 教師の声は、コンテにとってただの子守歌だ。半分閉じそうになった目で再び窓の外へ視線をやると、コンテは人差し指を鼻の穴に突っ込んだ。


 十歳のコンテにとって、八日に一度ある宗教学の授業は、この上ない苦痛であった。

宗教など、人を都合よく動かすためにどこかの誰かが作った、所詮は創作だ。それを、さも事実かのように勿体ぶって聞かなければならない。これほどばかばかしいことはないと、コンテは考えていた。


 特に、こんな外遊びにうってつけの日であれば、なおさらである。

 

 あーあ、ダカポ教のホラ話なんて聞いてないで、外で虫捕まえて遊びたいなぁ。掘り返したミミズを全部つぶしてやるんだ。


 土から掘り返したミミズたちを足で踏みつぶす妄想を楽しんでいると、

「こら、コンテ」

隣の席の兄が、コンテの脇腹を指でつついた。


「大事な神書のお話だぞ。集中して、ちゃんと聞け」


「だって、兄上。こんな作り話、真面目に聞いてる方がバカらしいですよぉ」


 うんざりしながら言い返したコンテに、兄はまっすぐな目をして言った。


「何を言っている。これは作り話ではないよ。コンセール王国を治める王族として、創造主のお話には耳を傾けなくてはな。我々の、統治の基礎になるものなのだから」


 けっ。こんな話、本当に信じてんのかよ。ばっかじゃねーの。


 心の中で、コンテは王子にはあるまじき口の悪さで兄を毒づいた。


 三歳年上の兄を、コンテは密かに煙たがっていた。


 兄、グラヴェは賢く、人望があり、周囲から評判の良い王子だった。


 幼い頃から、次期国王としての自覚もあるのだろう。兄は常に、気高く、寛大で、聡明な、王子として相応しい振る舞いをした。

 両親だけでなく、使用人に至るまで、皆、兄のことを賞賛した。皆が兄に期待の眼差しを寄せ、可愛がっていた。


 ただ生まれた順番が先ってだけで、不公平だ。おれだって、王子なのに。と、コンテは常日頃から不満を感じていた。


 更に面白くないのは、こんな鬱屈した思いを抱えた弟に対しても、兄が誠実に接してくるところであった。格の違いを見せつけられているようで、何とも惨めな気持ちになる。


 だからだろうか。兄と机を並べて、王族として必要な知識を学ぶ授業を受けていても、最初からひねくれた気持ちでしかとらえられず、ほとんど身に入らなかった。


 コンテのだらけた姿勢にやっと気づいたのか、神書を読み上げる声が止まった。


「コンテ様。話を聞いておられなかったようですね。では、質問です。神の怒りに対し、人々はどのように行動しましたか」


 教師がコンテを見る目は冷ややかだ。


 こいつ、王子のおれのことをバカにしやがって。おれが王様だったら、すぐさま処刑してやるのに。


 ぶすっとした顔で体を起こしたコンテは、椅子にもたれかかりながら答えた。


「はーい。剣と槍で神をやっつけましたぁ」


 教師が眉をひそめると、即座に兄が発言した。


「はい。人々は音楽を奏で、美しい歌を歌い、神の怒りを鎮めようとしたのです」


 教師はにっこりとした。


「グラヴェ様。正解です。ですから、ダカポ教の祈りの歌は、神の怒りを鎮める内容のものが多いのですね」


 けっ。また余計なことを。


 コンテは、また兄に対して毒づいた。


 おそらく、兄は弟が怒られないように気を利かせたのだろう。だが、その正義ぶった態度こそが、コンテをイライラさせるのだった。


 きっと、この兄は、いずれ賢王として賞賛を浴びながら国を治めることになるだろう。

 まっすぐに前を見据えて教師の話を聞く兄の姿を見ながらコンテは思った。


 だったら、もしおれが国王になることがあったなら、兄とは真逆な王になってやる。周辺諸国を攻め落としまくって、この世界を巨大な権力で支配するんだ。神がいるというのなら、おれが神になってやるさ。


 そして、再び窓の外の美しい世界に目をやったコンテは、自分の考えに満足してにやりと笑った。


 目の前の生徒が、神の話を聞きながら恐ろしい想像を巡らしているなどとは露ほども思わず、教師はなおも得意げな様子で神書を読み上げ続けていた。


「悪魔は、闇のように真黒で、人々を次々に食べてしまいました。

 人々は、神の怒りを鎮めようと、心を込めて歌いました。

 やがて、人々の中から、悪魔と戦うことのできる不思議な歌を歌う音楽騎士が現れたのです――」


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