行先はサイコロ次第
「ほんじゃ、次は俺様の番。」
サイコロを手にしたアーチは訳あり連中の寄せ集めの中では、最年少。本当だったら、まだ学校に通っている年齢のはずだ。どこで手に入れたのか、偽造された身分証明書では16歳ということになっているが、ありゃ絶対に嘘だ。
舐められまいとしているのか、ワザとデカく見せている態度に、周りの連中も薄々気付いているが、黙っていてやる程度には皆、大人だ。
「6と6。すげえ! 12だぜ。決まりだな。」
幸運にも最高の目を出した興奮で、アーチは、子供らしいはしゃぎっぷりを見せている。
「おお、すげえ、すげえなあ。んで、どこにするんだ? さっさと決めてくれや。」
1人、大人げない奴が混じっていたようだ。あからさまに、ムッとした顔で、水を差している。
「アーチ、どうでもいいけど、食事が不味いところは勘弁だかんな。ロンドアとかはやめろよ。」
「あら、ロンドアなら、最近変わってきてるんだから。ロンドアいいわよ~。あそこならショッピングも楽しめそうだし。」
自分の希望をあからさまに押し付けてくる奴2名。ったく、どいつもこいつも。
「アーチ、そいつらに耳貸すな。お前の勝ちなんだから、お前が行きたいところにしろ。慌てなくていい。どうせ準備には丸1日以上かかるんだ。」
俺は見かねて、アーチに声をかけた。
「俺、行ったことがないところがいっぱいなんだ。どこに行っても楽しめそうなんだけど……。」
アーチは壁に貼られた航宙図に顔を寄せながら、思案していた。そして、
「空飛び猫が棲んでいるのってどこ? 俺、空飛び猫の群れが飛んでいるところが見たい!」
と言ってきた。空飛び猫だって? あんなもん、何が面白れぇんだ?
「ははは、空飛び猫な。よっしゃ、決まりだな。うんうん、いいねえ。美味い魚が食えるぞ~。」
「まあ、悪くねえ選択だよな。んじゃ、手続き行ってくらあ。出航予定は明後日になるな。おい、航宙局に用がある奴他にいねえか? 乗っけてくぞ。」
「あたしも行く。持ち出し上限まで準備しなきゃでしょ。やっぱりカジノじゃない? あそこに行くんだったら。航行許可証の期限は問題ないから、途中で降ろして。」
3人は満足したらしい。面白くねぇのは、俺だけかよ。
「ブランは別のところが良かったんか?」
アーチは困惑したようだった。
「いや。そう言えば、何で空飛び猫なんだ?」
「だって可愛いじゃん。」
俺の問いに、アーチは、無邪気に答えたのだった。