少し外れにある小さな村にて
勇者まさとし(以下、ま)「やっぱりどの街や村でも、電源オフになるとトイレが混むなぁ」
魔法使いゆかり(以下、ゆ)「この村は、生まれ育った最初の街に比べたら少しはマシじゃない? 人口が少ないからかしら?」
村人A(以下、村A)「人口が少ないのもあるけど、そもそも途中で立ち寄る小さい村なんて、冒険のストーリー上そんなに重要視されないからね。せいぜい、次の街や洞窟への情報を喋るくらいだから」
村人B(以下、村B)「だから、この村みたいにあんまり冒険で立ち寄らない場所に配置されてる人は、案外ゲーム中でもトイレ行ってるよ。俺なんか、一行に話しかけられたら「ここは☓☓の村だよ!」って言うだけだし」
ま「どこの街や村にも1人はいる「この場所をひたすら紹介してくれる人」ね」
ゆ「でも、たまにダンジョン近くにある村なんかでは、そこがどんなに小さくても、有力な情報を教えてくれる長老みたいな人いるわよね」
村A「何回か話しかけるとアイテムくれる人とかね」
ま「小さい村なんかでは、建物の割に人口が少なすぎる所や、逆に人口の割に建物が少ない所あるよね」
ゆ「商業施設や工場、畑や病院もなくて、税収とかどうしてるのかしら……」
村B「この村もそうだけど、その辺をモンスターがうろついているにも拘らず、柵一つすらないところも少なくないね。反対に、めちゃくちゃ防壁で固めてたり、護衛兵を配置しているのにモンスターから襲われまくる街もあったり」
ま「まぁ、考え方を変えれば、それぞれの特色が出ていて面白いんだけどな」
ゆ「街や村のみんなからヒントを貰うのもRPGの醍醐味、やりこみ要素の一つよね」
村A「まぁ、冒険者は一言も発していないのにべらべら俺たちが勝手にべらべら喋るのは少し気になるけどな」
ま「ウィンドウに表示されてないだけで、実は喋ってんだよ……? 俺たち……」
? 「やぁやぁ君たち」
村A「長老! ……役の人!」
長老(以下、長)「なんで今回のプレイヤーはなかなかワシに話しかけないんじゃろか……? ワシが普通の家にいるから? 普通の家の普通のおじいちゃんに見えるから……?」
ま「たしかに、村の長老と言われる人でも、なんの変哲もない普通の家にいることが多いですよね。お前が長老だったんかい! って」
ゆ「そうそう。村人との何気ない会話の中で、「そういえば向かいの家の長老が〜」とかいきなり言うのよね」
ま「プレイヤーがマメな人で、街や村に入ったらとりあえず全員に話しかけないと気がすまない性格だったらまだしも、普通の家にいる普通のおじいちゃんなんて、なかなか話しかけないよな」
長「いっそ、家の壁に「長老の家」とでも書いていてほしいわ!」
村B「そんな荒ぶらないで、長老さん……」
ゆ「そういえば長老さん、どこかで見た気が……」
長「言わんとしていることは分かる。そうじゃ、ワシは役を掛け持ちしとる。勇者たちが生まれ育った街でも、ワシは普通の民家のおじいちゃん役をしているよ。ただ、本当に何の有益な情報も発しないただの数合わせ的な存在だから、別にいなくても気付かんじゃろうな。基本的には長老の役をしなくてはいけないこの村にいるんじゃから」
ま「ゆかりよく覚えてるな……。俺は全く覚えてなかったよ……」
ゆ「覚えてないのも無理ないわ。だって今回のプレイヤー、最初の街でこの人の家に入ったのに、勝手にタンスを物色しただけで、誰にも話しかけていないもの」
長「ワシの家のタンスから「スパッツパンツ」を持って行きよった。これではただの下着泥棒じゃのう」
ま「え……。じゃあいま俺が装備しているこれって……」
長「ワシの「スパッツパンツ」じゃ。ゲーム上は防御力が少し上がる設定のようじゃが、実際にはただの肌着じゃよ。暖かくて履きやすいから重宝してたんじゃが……」
ま「……」
ピロリーン。
ゆ「ま、元気出しなさいよ。あ、村人さん、ゲーム始まっちゃうからトイレ借りるわね」
村A「大丈夫だよ。俺たちはゲーム中でも普通に行くから」