冒険終わりの街にて
勇者まさとし(以下、ま)「おい、そろそろ起きて大丈夫だぞ……」
魔法使いゆかり(以下、ゆ)「……。電源切れてる? 大丈夫?」
ゆかりは一旦死んでいる。もちろん「設定上」である。
ゆ「もーっ! せめて教会で生き返らせてからセーブしなさいよね! 次プレイし始める時、また一旦死なないといけないじゃない!」
ま「なんでこう、マップ上の橋を一個超えたら、出てくるモンスターの勢力図が変わるんだろね? それまでスライムとかばけねずみばっかりだったのに、橋を渡ったら急にデカい棍棒持ったゴブリンや毒を吐くカエルが現れるんだもん」
ゆ「回復が薬草ってのも心許ないわよね。今日何枚食べたか……」
ま「薬草って普通、すりつぶしたり煮たりして薬にしてから飲むものじゃないの? なんで生の薬草をバリバリと……」
ゆ「とりあえず、街の中でセーブをしてくれたのはありがたいから、しばらくの間休憩しときましょ」
ま「俺は宿屋で休むことにするよ」
ゆ「自分の家には帰らないの?」
ま「帰っても誰もいないしね。父親は死んだ設定だし、母親は電源オフの間、これ幸いと隣町まで買い物に行ってるし」
ゆ「まさとしのお母さん、随分アグレッシブね……。次ゲームが起動されたら戻ってこれるのかしら……?」
まさとしは宿屋へ、ゆかりは自分の家へと向かった。
ま「宿屋のおじさん、今日はここに泊まるよ」
宿屋のおじさん(以下、宿)「お、そうかい。あんたたち、いつも大変だねぇ。ゲーム中に宿屋に泊まる時はいつも「5秒」ほどしか休んでないじゃない。それでも体力は満タンに回復するからよく出来てるよな」
ま「宿屋のおじさんだって、1人「5ゴールド」で泊めてて営業は成り立つのか?」
宿「ここはストーリー上最初の街だからね。ここで1人1,000ゴールドも取ってちゃ、あんたらもキツイだろ?」
ま「まぁ、そうだけどさ……」
宿「あと、若い男女二人で泊まるってことは、あれかい? 毎晩「お楽しみ」なのかい?」
ま「たった5秒の暗転で何かできると思っているのかい? 実際にはあの暗転中、宿屋のカウンターから一歩も動いてないからね」
宿「そりゃそうか! こりゃ失敬!」
ま「じゃ、部屋借りるよー」
一方、ゆかりの方は__。
ゆ「ただいまー。あ、王様役の人来てたんだ」
ゆかりのお母さん(以下、ゆ母)「王様役である故の愚痴を聞いてあげていたわ。なんでも、冒険者を見送った後やることがなくて暇だそうよ」
王様(以下、王)「おかえり、ゆかりちゃん、お邪魔してるよ。ゲームの中の王様はめちゃくちゃ暇なんだ。冒険者を見送った後は基本的に座ってるだけだからね。そばにいる護衛の方がよっぽどウロウロしてるよ。いい加減本当に痔になるわ、ってね」
ゆ「ストーリーが進んで最初の街からだいぶ離れたら、出番が無くなるものね」
王「だから、実は出番が無くなったキャラクターは、別の場所で違うキャラクターになって出てきているよ。人手不足だからね」
ゆ「同じアニメ内で違うキャラクターを同じ声優さんがやってるのと似てるわね」
ゆ母「今日も疲れたでしょうから、早めに寝なさいね」
ゆ「はーい。王様役の人も、ゲームが始まる前にたくさん動いとかなきゃね!」
その頃街の酒場では__。
教会の神父(以下、教)「今日だけで何回生き返らせたと思う? 5回だぞ? 一応死んだ設定だから生き返らせるも何もないんだけど、雰囲気作りのために一応呪文みたいなことは言わないといけなくて。でも流石に何回も言い過ぎて暗唱できるようになったわ!」
酒場のマスター(以下、酒)「神父はまだいいよ。酒場のマスターなんて、冒険者が立ち寄ってくれなかったら出番もセリフもないからね。そもそもRPGの主人公は未成年というのが相場なんだから、普通酒場なんかには立ち寄らないし」
教「でも操ってるプレイヤーはそんなこと関係ないと思うぞ。街に着いたらとりあえず全員に話すプレイヤーもいるらしいからな」
酒「意外と酒場というのは情報の穴場になりやすいからな。しかし、まさとしくんたちは来てないな。今回のプレイヤー、誰にでも話しかけるタイプじゃないのかね?」
ピロリーン。
教「始まったか。じゃ、また来るんで」
酒「今頃トイレが混み始めたが、始まる前に余裕持って行っとけよな……。あ、まさとしくんとゆかりちゃんもいる」