冒険初日が終わった後にて
ゲームの電源が切れる音がした。ここは、電源がオフの状態のゲームの中の世界……。
?「も、漏れるーっ!!!」
「まさとし」はトイレへ駆ける。
しかし、トイレの前では行列をなしていた。武器屋のおやじや教会の神父、さっきまで戦っていたミイラ男やゾンビ貴族まで並んでいる。
ま「これみんなトイレ待ちかよ……!」
結局、まさとしは用を足すのに数十分くらいかかってしまった。次回から本格的に対策を考える必要があった。
まさとしは勇者「役」である、このゲームの主人公的な存在である。と言っても、冒険を始めたのはつい先程で、このゲームの「プレイヤー」、つまり、まさとしたちを操作する者は、まさとしが生まれた育った最初の街と、レベル上げやゴールド稼ぎのために街の周辺をうろうろして、今回は終了した。
?「トイレ、なんとか間に合ったわね……」
幼馴染役の「ゆかり」が話しかける。
ま「今度からトイレ対策はしっかりしとかないとな……。攻撃や防御で踏ん張った際に漏れたらシャレにならんぞ……」
ゆ「それ、街のみんなやさっき戦ったモンスターたちも言ってたわ。冒険が始まったばかりということは、私達冒険者だけじゃなくて、街のみんなやモンスターたちも、まだその「役」を任されて間もないものね。何も知らないのも無理ないわ……」
ま「この「まさとし」って名前、絶対俺たちを操作してるプレイヤーの本名だろ。だとしたら、「ゆかり」は彼女か?それとも姉か妹か?」
ゆ「もっとRPGっぽい名前を付けてほしいわね」
?「おーい、お前たちやい」
遠くから、冒険をすることになったきっかけの一人である王様が歩いてきた。言うまでもなく、あくまで王様「役」であるが。
王「さっきの長セリフ、覚えるの大変だったよ。まさとし君に冒険を任せる理由やこの世界の状況、魔王がどんなことを企んでいるかとかね。街のみんなは覚えるセリフ少ないから楽で羨ましいよ。話しかけられたら「ここは〜の街だよ!」って永遠に言ってればいいから」
ま「そもそも街の王様にアポ無しで、しかも何度も会いに行けること自体凄い世界ですよね。ゲームの中の王様、一国の王なのに基本的にずっと座ってるだけだし」
王「そうそう。痔になるわ、ってね」
ゆ「いつプレイヤーがゲームに戻ってきてもいいように、ゲームを終了した時点の立ち位置は常に把握しておかなきゃね。今度からトイレだけは行っておかないと」
ま「あ、後で街のみんなにも挨拶しとかなきゃ。挨拶もせず勝手に家に入るだけでなく、勝手にタンス開けたり壺割ったりするもんだから……」
ゆ「私たちはしばらくレベル上げのために街の周辺のモンスターをひたすら倒すことになりそうね。倒しすぎて与えるダメージ量とか貰える経験値とか覚えてしまいそう」
ま「とりあえず、今は電源が切れてる状態だから、その間はゆっくりしとこうや。俺も新作のゲーム買いに行きたいし」
ゆ「そのゲームの中のキャラクターたちも、電源を切っている時は今の私たちみたいな会話をしてるのかしらね」
ま「……それを言うんじゃない。面白みが無くなるだろ」
ピロリーン。
ま「え!?もう戻ってきた?早くね?早く元の配置に戻らないと!急げーっ!!」