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そして夜は明ける  作者: 轆轤輪転
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空想世界のシナスタジア

 コーヒーポットの中で水が沸騰するのを横目に電子レンジの合図を待つ。

ここに引っ越してきて・・・いやっ、奪ったって言った方が正しいかもしれないね。ここのを盗んで引っ越しえ来てから早くも数日が経った。そろそろ僕の爪痕も調査にかけられている頃合だろうか。

僕は少々古臭い冷蔵庫をかけて牛乳を取り出し、未来形でコーヒーを入れるマグカップに半分ほど注ぎ込む。

それにしても僕はついている。衝動的に殺した相手がまさか独立した生物学者だとは思わなかった。おかげで、ある程度環境の整った家で安定した生活ができている。しかも、彼の亡霊や怨霊の類の祟りも何一つない。

僕は沸き上がった熱湯をコーヒーの中に注ぎ込む。

同士よ。感謝する。

僕はキッチンを出て、リビングに向かい、椅子に腰を下ろす。そして、新聞を開く。

同士よ。君と僕は同士だ。同じ肩書、僕も生物学者なのだよ。訳あって本研究所から命からがら逃げてきたが今は安全が確保された。本当にありがとう。

僕はミルクコーヒーの入ったカップを右手で掲げ上げ、哀悼の意を込めた乾杯をする。

「この数奇な運命に感謝を」

実に美味しい。幸せの味を謳歌しながら新聞を読む。なんて平和なんだろう。これでまた一つ、大きく計画が進むよ。

僕は今、途中で断念せざるを得なかった計画を新しく手に入れた研究所で継続することを画策している。前の事務所の統率者が頭が固い人でね、僕の研究は危険だからと待ったをかけられてしまったのさ。それでも僕は諦めなかった。僕に付き従っていくれる同士を引き連れて極秘裏に研究していた。でも、あの・・・、

憎きあの小僧小娘たちのテロ組織のおかげで断念を余儀なくした。もう少しで完成だったのに。それに同士も僕を残して皆あいつらに殺された。

「・・・」

僕はまだ温かいミルクコーヒーを食道の奥深くに流す。喉元過ぎれば熱さを忘れるとはこのことなのだろうか。一瞬だけ思い出した記憶と激動が、飲み込まれたミルクコーヒーと共に腹の底へと消えていった。そして少量生き残ったカフェインが冷静と稼働を誘う。頭が凪いでいく感覚が快い。

「はぁ・・・」

しかし、彼らは無駄死にした訳ではない。テロ組織の何人かは道連れにし、尚且つ僕の逃亡時間を稼いでくれたのだ。感謝されても恨まれることなんてありはしなかろう。

そんなことを思いながら僕は新聞を読む。フと、一つの記事に目が留まった。

「・・・?「クレアーレ株式会社社長、作理氏が税金を使わずして生物研究機関を復興することを表明」?」

そう大きく書かれた見出しの内容を読む。

「今回のテロで犠牲になったクレアーレ株式会社生物研究機関。その被害総額は推定100億ともいわれている。今回、記者会見にて、作理・D氏は、復興給付金の募集はせず、全て自らの費用で復興する考えを公表した。尚、政府側は政府に一番貢献しているという建前のもと、一部復興費を支援する姿勢を表明した」

僕は昔から政治経済は苦手だったためにこの手の情報はあまり理解できない。そもそも自腹であれだけの損壊を直せるのかも不明だ。これを読む限り、政府は復興費を支援として贈ることになっている以上、どの道税金は上がる。

こんな無知な僕でも一つ言えることはあの社長、信頼と栄光を買ったなと。

税金が上がるとは言え、今回は全て国民に委ねられる訳ではないから推定上昇価格よりも遥かに下回る。

欠点のテストで後に修正が加えられて一気に高得点にまで加点をくれた時の気持ちになるだろう。僕なら間違いなくせられる。

僕の目的はあくまで社長抹殺という訳ではない。「副産物」を完成させることだ。

その計画の進行を妨げるのであれば、こっちも容赦はしない。

こっちは二体のクイーンを人質の取っている。そう簡単には進ませやしないよ。

僕はミルクコーヒーを飲む。

「僕が帝王キングにして最終兵器リーサルウェポンだ」

大昔からの一人称を口にして、モチベーション操作を終えたところで今日の予定を企てる。

今日は彼にとっては久しぶりの研究所の出勤だが、僕にとっては初めての出勤だ。昨日は子供にものを教えて疲れたが今日は得意分野の一日。疲れという概念は僕の中から消え去る。

とは言っても流石に丸腰で直に対面する訳にはいかない。彼と僕は顔があまり似ていないのだ。

多少の施しは加えたがそれでもあまり似つかない。今日の午前中は成形に行くことにしよう。折角、早くに起きたんだ。時間はある。

僕は焦げたトーストをかじる。僕は子供の頃から調理済みの食べ物の焦げの部分が好きで、今もそれは変わっていない。

僕の耳に時計の鐘が八回、つんざいた。


 太陽が東寄りに傾く時間帯に私を率いた作理兄弟は例の場所へと歩を進めていた。正直に言って、あそこには早くも悪い偏見が根付いてしまった。嫌いと言う訳ではないけれど、あそことの出会いが物理的に痛い思いをした末だったからなのか・・・、はっきり言って行きたくない。

「今日こそお前たちを捻り潰して天日干しにして我が歯の錆としてくれるわ!」

「俺ら食われんのかよ。よぉ、鏡神、俺らこいつに食われるんだとよ。その暁には俺ら二人でこいつの中性脂肪となって、二度と野外に出れない体にしてやろうぜ」

「盾となり碇となるのだね!やってやろう!」

ここ最近に入って彼ら二人の辛辣な言葉の投げ合いにも慣れてきてある程度処理できるようになってきた。こうなてくると最初の偏見が今じゃまた別のものへと変わっていた。怖かったのが楽しいのに変わっていた。

これを彼女にも見せることが出来たならどれだけよかっただろう・・・。

「ならば俺はその中性脂肪を使って戦艦になるまでだ。決して沈まないふねにな!そうすれば碇の制御もこっちのものだ!」

間髪入れずの速攻の投球に不意打ちを食らった私は目を泳がせ、言葉を選ぶ。

「あ、えっと・・・」

言葉に詰まった私にれんぐ助け舟が一隻。

「ならば俺らは不純物だ。注水口から忍び込んで内部から破壊していってやろう」

しかし、この中でこの手の技に一番長けていたのは織成おりなだった。

「はいぃ、お前今鏡神に助け舟出したー、お前らアウトー!俺の勝ちぃー!」

何故か勝負に発展していた。織成がガムを踏んで、練が煽ったことで始まったこの会話。織成の主観で一体どこからが伝言ゲームなのか一切理解できない。

「ってな訳でー」

織成は練の方に手を置く。

「今日はお前が鬼だ」

「は?珍しいな。お前が俺にシャイニングスターを委ねるだなんてな」

練は心底意外そうな顔をした。そこには熱でもあるのではの意を込めた顔色も伺えた。

「その代わり、今日の皿洗いはお前だぞ?」

その一言で練から不安気な色気が消え失せた。

「は?ふざけんなよ?母さんから二人でやれって言われてんだろ?」

「なんだぁ?お前?負け惜しみかぁ?」

練は髪の毛を藻掻くように掻き回す。

「だぁぁぁ!畜生めがぁぁぁ!」

練の両手がマジで殺す三秒前を指していた。雰囲気の危険を本能的に感じた私は別の話題を持ちかけようと周辺を見る。そんな時に目に入ったのが皮肉にも例の建物だった。お世辞にも有難いと思えない例の建物を指さして話題の取舵とりかじを切る。

「あぁ、ねぇ、二人とも、そろそろ着くんじゃない?」

一瞬の静寂。

そしてほぼ同時に二人は視線を私の指さす方向へ向ける。

「あー・・・」

練がそう空虚な声を呟き、視線を織成に移す。織成はしばらく建物を見つめ、やがて私に衝撃を与える。

「なんだ?あの汚ねぇ建物・・・」

「・・・えっ?」

「・・・えっ?」

練と私の声が重なる。双子で、いつも悪ふざけの過ぎる織成の世話役である練ですら状況を理解できていない。一見、いつものいたずらなのかと思い、念を押して探りを入れてみたけれど・・・

「えっ?あそこでするんじゃないの?」

「違うが?てか、何あの建物。見たことねぇよ」

探りを入れるどころか弾かれてしまった。一瞬、たじろいだ私を見て織成は変な笑みを浮かべながら冷ややかに言う。

「俺らが向かってるのはそこじゃねぇ。あそこだ」

そう言って、住宅が立ち並ぶ道とは異なる、二つの空き地に隔たれて成っている自然豊かな道を指さした。一見、何もない。

目的地に気が付いたのか、練はハッとし笑いを堪える。そんな練を一瞬睨みつつ織成は歩を進める。

「あぁ、ちなみに馬鹿には見えない建物だからな。お前は果たして馬鹿か、それ以上か、どっちかな?」

つべこべ言わずについてこい。そう言っている。

私は練を見る。

練はため息交じりに首を横に振り、織成の後へ続く。そして私も続き、神域へと進み始めた。

 この一本道は独特な雰囲気があり、そしてとても馴染み深いもの。私がここにくる以前に、色々な世界を旅した。海を渡ったりもした。変な島にたどり着いては酷い目に遭ったりもした。ここの雰囲気はその島を経由して触れた数々の文明に隠れた微かな雰囲気と似ている。そしてその変な雰囲気を感じた場所では神の悪戯とも言うべき災難が決まって起きた。ほとんどが内戦であったために私の身体はその都度、強化されていった。そして最後の文明を後にして日本に上陸した途端にぱったりと体の成長が止まってしまった。背こそ記憶上最初から伸びてはいなかったのだが後を追うように肉体強化も弱体化も止まった。

自分で言うのもなんだけど、私、意外と筋肉があったりもするんだよ?昔は今みたいに地位こそ物を言うのではなく、力こそ全てを制するという概念が世界に根を張っていからね。

あっ、じっ、自慢じゃないよ!(汗)

そんなこともあったって思い出してただけだからね!(汗)

 織成が言っていた馬鹿には見えない建物らしい建物は意外と寛大かんだいな自然の中にそびえ立っていた。

例の建物2号は一言で印象付ければ倒壊寸前の襤褸ぼろ屋敷。文字通り、例の建物1号よりも遥かに劣化した廃墟だ。

私に冷や汗が伝う。

「ちょっと待って、今日、ここでするの?」

織成は切り株の上にランドセルを置いて、中からシャイニングスターを取り出し、整備点検を始める。

「おぉ、勿論さぁ。スリルがあって面白そうだろ?」

「スリルって・・・」

私はジト目で例の建物2号を見る。壁や窓は所々、砕けていたり、無かったりする。それに、壁の欠落部分からは既に崩落した二階に相当する部屋の床がこちらを除いていた。

目が合った気がした私は鳥肌を立て、作理兄弟の方へ向き直ろうと腰を捻じったその時、織成に肩を組まれた。

「よぉし、鏡神ぃ、行こうぜ!練、準備は良いか?」

「OっKぇ!」

いつの間にか練はシャイニングスターを離陸させ、操縦させていた。私は織成に引っ張られながら練に表情で手助を求める。それに気が付いた練は、慈悲の表情で黙祷もくとうを捧げた。

「うあぁぁぁぁ」

心の中だけの叫びは大地に木霊した。

 私の体感は間違ってはいなかった。中に入るや否や、奥底から湧いて出てくる圧力に早々に潰される感覚を覚えた。ここは以前、薬局でも営んでいたのだろうか。そこら中の床に灰被った薬の袋が散らばっていた。それもかなり昔のものだ。

手に取って、詳細を確認することもできたのだけれど、私にはそんな得体の知れない大昔の代物を手に取る勇気はない。

「うぅ、はぁ、汚ねぇ、なんだこれ、座薬かよ・・・、デザインが古りぃ・・・」

この子には恐怖というものはないのだろうか。後先考えず、好奇心が赴くがままに手に取っては離しを繰り返している様子に私は織成に対し、より一層恐怖心を強める。

「ちょっ、むやみに触ると危ないよ・・・」

織成は今拾った薬を摘まんで揺らす。

「なんだお前、怖いのか?大丈夫だろこのくらい。ここにはだれも住んでない。つまり叱りに来る輩なんていないってことだ。何をそんなに怖がる必要がある?」

「いやっ・・・そう言うことじゃなくて・・・」

きっとこの子にはこの不穏な圧力も感じていないのだろうなと諦めの肩を竦める。しかし、それも束の間。程なくして、織成の言葉に竦んだ肩が強張る。

「そろそろだな。さぁ、鬼が来るぞぉ!」

織成は二階に通じているであろう木造の階段を指差す。

「二階へ行くか。あいつは律儀な犬だから、ここは真面目に玄関で靴揃えて入ってくると仮定した立ち回りを踏んでみようぜ」

この手もゲームに手慣れている織成は計算に優れると思う。ここは賛成の一択だ。

「わかった」

そうして何故か私が先頭に急かされるがままに今にも崩れそうな階段を登っていった。


「すまないな・・・、鏡神。まったく、あいつはいつまでたっても人使いがりぃ。鏡神も不幸よのぉ」

前進の時間だ。逃げるはここまでだ。

俺はタイムリミットを切って起動したシャイニングスターのかじを取る。戦闘開始からまだそんなに時間は経ってはいないが、心理戦は既に始まっている。

馬鹿兄の性格上、俺の妥協点を突いてくるはずだ。とすると・・・。

俺は馬鹿兄との私生活の記憶から探り出す。自分の弱点を理解していない以上、回りくどいがこうするしかない。

俺は自分の脳を刺激させ、生まれ持っての特技を稼働させる。生まれ持ってのそれは、人は才能と呼ぶ。

その一部を使う。

俺は目を閉じる。

瞼の裏には肉眼では視認できない時の世界がある。勿論、個人差はあるだろうが感覚的に誰にだってあると俺は思っている。つまりはこの俺の才能は極ありふれているということだ。

記憶的に過去へ行く。それは精神を集中させる感覚を最後まで研ぎ澄ませ、フと目に入った過去へ入る作業。そうすれば、あたかも居着いた過去が現実のように感じるのだ。過去完了形が感覚的現在進行形となる。

「・・・」

一つ気になった過去に俺は入る。

厳選はしない。時間の無駄だからだ。特に今は。こういうのは大体を勘に任せればどうにかなる。

勿論、選ぼうと思えば選べるのだが。

過去に入る感覚はうつ伏せの姿勢で微温湯ぬるまゆに入っていく感覚と似ている。妙に温かいのだ。

人の言う「命を感じる」とはこのことなのだろうか。

全身から浮遊感が無くなる。どうやら着いたらしい。

眼を開ける。

「・・・ほぅ・・・、ここは・・・」

俺は自分の手を見る。今よりも、随分幼い手だ。

適当故に日時は分からない。しかし、目に映る光景から暫定はつく。ここは今住んでいる家に引っ越す前の一軒家。つまりは四年前より更に前の時代ということになる。

「おーいっ、れーん!!」

背後からの聞き覚えのある声に耳が吸い寄せられるように反射的に顔を向ける。

「・・・なんだ?」

そこにはまだまだ幼児体系な織成の姿があった。左胸に名札をはためかせ、背中のランドセルを大きく揺らしながら走ってくる。

「とぉっ!」

「ぐわぁ!」

織成からの突然のハグと結構強い締め付けの力で嘔吐物おうとぶつの代わりに素っ頓狂な声が絞り出される。

背後に倒れそうになるも肉の足りない足で奇跡的に踏む留まる。

その時の感触で気が付いたが俺もランドセルを背負っていた。

織成はキラキラした目でこちらを見ていた。

「練!今日は僕の誕生日だぞっ!」

作理さくり織成おりな 西暦2009年、3月3日生まれ。ちなみに俺と馬鹿兄は双子故、同じ日にちの生まれである。兄弟揃って遅生まれ。

 そのくらいの情報は流石に覚えてはいるが、今が誕生日だなんて知らない。適当に流すことにした。

「あー、そうだったね」

とは言っても俺は今感動していて上手く言葉が紡げない。

もう一度、過去のお前に会えるなんてな。

失われたお前にな。

こんな純粋だった兄がいた時代に対して少し、懐かしい気分に慕っていると何かが脳裏を過った。

「・・・ってことは・・・」

ってことはだ。

これが昔の記憶である以上、そしてこれが俺の記憶の中である以上、ほぼ確実にーー

双束ふたば姉ぇちゃん・・・」

俺の呟きに反応したのか、織成が後ろ指を指す。

「あぁ、お姉ちゃんなら部屋にいるよ?」

そこにはローマ字で「HUTABA」と書かれた木札を下げたドアがあった。その奥には自室が広がっている。

記憶上・・・。

俺は自分でも訳が分からないがどういう訳か覚束ない足取りでそのドアに迫った。

食料を前に野生に戻った人間のように。

そんな悲惨な俺を見た織成が心配の声で接してくるが完全無視だ。織成からの暖かな声に精神が行ってない。

今の状況が自分でも分からない。しかし、一つ言えることは、俺は今、

双束の生存確認を取ろうとしている。

「おっ、おい、どうしたの?練。様子が変だよ?」

俺はドアの部を強く握る。それには一縷いちるの希望に縋りつくに似た気持ちの表れでもあった。

俺はドアの部を捻り、引いて開ける。

 激痛。

「・・・?」

気が付けば俺はその場に座り込んでいた。額からは激痛が脈を打っている。感覚的に流血はないみたいだが。

「ごめん練!痛かった!?ホントごめん!」

目の前にはセーラー服姿の女性が屈んでいた。どうやら俺は双束の開けたドアに顔をぶつけたらしい。

その拍子で俺は正気に戻ったのか冷静な判断ができるようになっていた。さっき、自分の身に何が起きたのかでななく、お姉ちゃんとの対話がまず出た。

「あぁ、大丈夫だよ。別に痛くないよ」

双束はミディアムショートの髪の毛から覗く不安気な目に更に色を足す。

「練、変だったんだぜ?ボーってしてたと思ったら急にフラフラそっちに歩き出したんだ」

それを聞いた双束は俺の肩に優しく手を置いて優しく言った。

「今日は学校休もっか?」

どうやらこの後、俺は学校らしい。そんなに長く記憶に長居する必要はないために俺は予めの未来を予想した返答を返すことにした。

「いやっ、本当に大丈夫。ただ、お姉ちゃんが恋しくなっただけだよ」

半ば即興のでっち上げではない。それを聞いたお姉ちゃんは顔を赤くして口元を抑えてそっぽを向く。

「どうしたのさ、急に。昨日までそんなこと言ってくれなかったじゃん」

返答に失敗したらしい。そこでようやく思い出す。お姉ちゃんな極度な照れ症なため、賞賛が大の苦手なのだった。これ以上、なんと声をかけていいか分からず戸惑っている俺と状況が上手く掴めず、もはや目が点になっている織成を暗いキッチンから見ている合計四つの眼玉があった。

「何見てるんだよ!父さん!母さん!」

リビングは晴天の下のテントのように明るいのにキッチンは人間の影を認識できるくらいがやっとなほどに暗い。そんなキッチンから二つの影が背中を揺らしては出てくる。母は平然と立って歩いていたが父に関しては何故か匍匐前進ほふくぜんしんで出てきた。そして俺たちを見上げるなり嘲笑を放った。

「ぷぷぷ、It's funny to have a brother quarrel from the morning.ぷぷぷ」

(プププ、朝から兄弟喧嘩とは微笑ましいものですなぁ。プププ)

父は日本語の翻訳はできるが通訳ができないがために常に英語だ。だからって、それが許す理由にはならない。

「匍匐前進withム〇デ人間亜種には言われたくゎねぇよ」

「A variant of the monster! ??Maybe I feel sick?」

(ム〇デ人間!?もしかして、俺、気持ち悪い?)

「大いにな」

ちなみに俺はその逆バージョン。英語は翻訳できるが、話せはしない。

よく考えたらお互い可笑しな話だ。ちなみに織成も俺と同じ。双束に関してはどちらの能も習得済みである。

「It's stupid.I can't understand this sense.syousizennbann!」

(愚かなり・・・、このセンスが理解できないなどとは・・・、笑止千万!)

「なぁ!?あぁ!?」

俺が怒りの雄叫びの裏腹に抗弁の余地を探っていると二音の手拍子が戦況を割く。

双束と母さんだった。

「はいはい、その辺にして、そろそろ学校へ行こうね」

「ちょっとあなた、あなたも今日、仕事でしょう?社長なんだからもっと危機感を持ちなさいよ」

「sorry.」

(ごめんなさい)

強烈な抗弁を思いついた俺は隙を作った父さんに渾身の一撃を食らわせようと大きく息を吸い込むと俺と父さんのやり取りを見て終始笑っていた織成に首根っこを掴まれ、強制キャンセルを食らった。

咳き込む俺を自分悪くないの心情が浮き彫りとなった表情で織成は言う。

「学校行こうぜ」

「・・・はぁ・・・、はいはい」

俺は織成に引っ張られる形で玄関に歩きながらこの記憶との切断を開始する。懐かしい、もう二度と戻ってくることのないこの情景を見す見す脱却するのは凄ぇ惜しいし、胸を貫かんとする気持ちで一杯だ。

しかし、残念ながらこの特技には制限時間がある。それに体力もかなり使うために現実に戻ったとたん倒れるなんて洒落にならないことはしたくもない。後の、織成の機嫌に差し障る。面倒だ。

「・・・」

俺は再び俺の手を引く織成を見る。

かつてはこんなにも純粋だったのだ。何色にも染まらない心。俺は信じていた。

なりえたかもしれない。そんなシナリオだってあったはずだ。

ー全てはー

俺は後ろから見送りを目的としてついてくる双束に目線を向ける。当然の如く、視野の広い彼女はすぐに俺の視線に気が付いて

「どうしたの?」

と優しい表情で小首を傾げる。

ー全てはー

ー君が死んだからだよー

広い玄関故に軽く三人分の横幅を確保できる。俺たち作理さくり三姉弟さんきょうだいは並びそれぞれの靴を履く。

ー全てはー

「まったく練、父さんみたいなキャラは乗らない方がいいんだって。適当に流せばいいんだよ。練ったらすぐ真に受けて怒るんだから・・・。真面目なのが練の弱点だな」

「でも、練のその真面目さは尊敬するできるわー。」

双束は優しい表情をこちらに向ける。

ーあいつが双束を殺したからだー

「練は優しい子だね」


 そこで俺は記憶から完全に剝がされた。しばらく、記憶のさんざめく宇宙空間みたいな空間の浮遊感に身を委ね、現実世界に自然帰宅するのを待った。最後の一瞬に目的が達成されたのは不幸中の幸いだろう。俺の弱点は「真面目」。ならば今回の戦法は「不真面目」に行くこととする。

要するに玄関にのみ律儀に固執するのではなく、入れる場所から不義理に侵入すればいい。それによってするのとしないのとでは勝算は桁違いに傾くと俺は踏んだ。考えはまとまった。

 足の裏に地に着く感覚がぐ。真っ暗な視界も厚さが十分にして不十分な瞼が通す眩い光で照らされて少々明るい。

俺は目を開ける。


「・・・?」


「・・・、練・・・、動かないな・・・」

私は二階の絶好のハイドポジションから外にいる鬼の観察をしていた。っが、どう言う訳か当の鬼は目を瞑ったまま動かない。私の呟きを聞いた織成は私の隣に移動してもう一つ空いていた覗き穴から練を覗き下ろした。

「あー、多分作戦を練ってるなあいつ。あいつ作戦練る時、絶対、あんな感じになるんだ。変な奴だよな」

作戦を企てるお偉いさん達は皆、長考する時はあんな感じにはなったりするのは知っている。かなり巧妙に練っている時が該当する。もし、練がそんな感じなら瞬きが油断と化す作戦を繰り出してくるかもしれない。私は織成に作戦会議を繰り出す。

「織成っ!」

「慌てるな。分かっている。今考えているから鏡神は練の偵察を頼む。何か反応があったら肩叩いてでも教えてくれ」

織成は間髪入れずにそう言った。やはり、この手のゲームに手慣れている。

「分かった」

私は彼に賛同して引き続き監視を開始した。


 あいつがどんな手を使ってくるかは大体憶測が立つ。

恐らくあいつは今、特技と自称していた「記憶から端緒たんしょを得る」を実行中なのだろう。長年の俺の悪乗りで研磨された守備があそこまで無意味なものとなるのはそんな時以外考えられない。経験上。見た感じ、シャイニングスターは空中で右往左往しながら少しづつ距離を縮めて来ている。つまり、その程度の操縦なら無意識にでもできるくらいには精神の何本かは現実に稼働させているのだろう。

分かりやすく言うと、今あいつは寝起き、心身共に寝静まっている内の極一部の精神を稼働させて、目覚まし時計を止める時の圧倒的に少ない稼働率で少し動く。そんな状態だろう。ルール上、最終的に屋上に到達できれば逃亡者、つまり俺たちの勝利だ。

問題はどうやってそのゴールにたどり着けるかだ。

俺はここの存在と言うのは鏡神が現れる少し前、あいつ、日鴉ひからに教えてもらって初めて知った。要は少し前から存在自体は知ってはいたが、古場慣れしていたことで中々こっちに遊びに来るようなことがなかった。

二人をここに誘ったのは今日が初めての試みだ。

しかし、間取りの憶測は立っている。なんせ、さっき一階に壁に掲げられていた簡単なこの建物の間取り図を見たからだ。簡単故に簡単に覚えることができた。

俺の記憶力をなめてもらっては困るのだ。

俺は自分の才能を発動させる。

今日は調子がいいのか、発動が速く、早くも視界が暗黒から少し明るい砂嵐に見舞われ、そして宇宙空間のような空間にたどり着く。

俺は浮遊し、例の場所へたどり着く少しの時間の間に予め自分なりな画策をする。

言い方は悪いがまず、お荷物な鏡神をどうゴールまで持っていかせるかだ。練は俺と鏡神との間の実力の差、経験の差を知っている。だから、恐らく手薄な鏡神から仕留めに来るはず。厄介な俺を仕留めに来るという筋もあり得るが、ここは一つ、鏡神をおとりに使う作戦で行こうか。

すまんな鏡神。俺の平常心のためにも犠牲となってくれ。

俺は一寸先の未来を考えて作戦を絞った。そこから先は必ず、失敗する。

 一寸先の未来を想定して行動すれば成功する。しかし、二寸先を想定して行動すれば失敗する。

経験上、俺にはそれが戦法の基本であり、頭が呻く秩序でもあるのだ。

行動は人を裏切らないとあるが、頭を使わなければ簡単にそれは裏切るからな。それだけは何してでも避けたいのだ。

作戦を完全にさせるための儀式は完了だ。気が付けば俺は天下の宝物庫の扉の前に立っていた。

「モタモタしてられんな。脳内の世界であれ、時間の流れは現実と変わらないからな・・・」

俺は扉を押し開ける。


「・・・ここはどこだ・・・」

ほんの、一瞬の記憶の探索のつもりだった。一瞬でも自分の弱点を知れるだけでよかった。

そしたらどうだ。何なんだここは。

気が付けば俺は棚に無数に設置された液晶画面が並ぶ図書館のような場所にいた。右も左も、全てが同じ景色だった。下を向けば白と黒に分類分けされた色使いの大理石造りの床が俺を映していた。

そして、上を見上げると海中のような空間に無数の惑星が揺蕩たゆたい、漂っていた。時にぶつかり合い、超新星爆発一つ起こさずにまた来た道を戻るように途方もなく漂う。そんな何か複雑な気持ちに苛まれるような気持になる空間が空の景色たらしめていた。

「・・・?」

誰かいるのだろうか。ドアが閉まる音とそれと同時に誰かが駆けていくような足音が何度か木霊した。

音の聞こえた方向から考えて俺から見て5時の方向から1時の方向へと何者かが走って行った。

「・・・」

俺は変な化け物でないことを祈りながらそれを並行して追いかける形で追いかけていった。

少し走って、俺は足を止める。疲れた訳ではない。発見した。

何かを映したに砂嵐を撒き散らしている一つの液晶画面をだ。俺は来た道を数歩戻って、それをやや遠目から見つめる。視野に映っている他の液晶画面は電源が切れたように真っ暗な画面をしていた。その中で一つ。俺の視界の丁度中央の荒れた画面。ただそれだけが目立って、俺を誘っていた。

そこで一瞬、これを見たら閃光が迸って失明させられるのではないか、と思ったが自分の映画好きに呆れ、速攻で頭から追い払う。

そして決して警戒心を解かずにゆっくりと距離を縮めた。一定の距離まで近づくと突拍子もなく突然、画面が白一色になった。

その中央に、誰かがタイピングをして打ち込むようにして文字が現れる。

ー驕句多縺ッ螟峨∴繧峨l縺ェー

「・・・?」

読めない。こんな文字、見たことがない。

見たことも聞いたことのない文字に無駄な考察を巡らせようとすると、一秒と待たず文字は消え、また同じように文字が現れた。

ー莉翫d譎ゆサ」縺ッ鬚ィ縺ョ譎ゆサ」ー

相も変わらず読めやしない。暗号か何かならば俺は全くの専門外だ。第一、俺は謎解きが苦手だ。織成とのクイズ対決で一勝でもしたことなんてありはしない。やはり次男より長男の方が若干IQが高いという研究結果は事実なのだろう。さらにIQとは人と比べ、劣等感を感じると下がるもとというのも聞いたことがある。もし、それも事実なら俺のIQはそろそろ100を切るだろう。

 平均以下。

ー謨オ縺ッ蜷帙縺ョ縺吶$蛯阪↓ー

間髪入れずに再び文字が浮き彫りとなる。ここまで手短だとむしろ清々しいし、当時に何かしらの警告のようにも捉えられる。映画でのありふれた演出で、極秘情報の報告や、何かしらの警告は耳元で且つ遠まわしに告げるというものがある。そう模索できても別に可笑しな話ではない。なんなら俺たち兄弟は事実上、弱みを握られたらマズい立場にあるし、今の親父からすれば俺たち自体が弱みだ。

「・・・」

次の文字が来ない。言葉を選んでいるのだろうか。人工知能は言葉遊びと選別が上手い。この液晶パネルも同じなのだろうか。だとしたらこいつも人工知能?

俺は砂嵐だけが生きる画面に顔を近づける。この際、

「テレビを見る時は部屋を明るくしてなるべく離れて見てね」なんて警告、無視だ。頭の片隅にすらない。これだから好奇心は怖いのだ。

「・・・」

一瞬、かつての全てが変わる瞬間の記憶がフラッシュバックする。さや刀身とうしんたらしめる日本刀を振り上ている黒ずくめの男に、姉を殺させまいと必死にしがみつく織成の姿。

目が凝る最大の距離に近づいた時、この距離感を見計らていたかのように液晶パネルは次なる文字を表示させる。

ー謨オ縺ッ蜷帙◆縺。縺ォ霑代▼縺ー

そんな文字が浮かんだ瞬間、一瞬で場面は変わり炎の包まれた部屋で炎を右手から生えた筒のような機関から撒き散らしながら腰を抜かした二人の少年に詰め寄る全身に黒い衣服を纏った成人男性の映像が流れた。

ー縺昴l縺ッ蠖シ縺悟ョ医▲縺ヲ縺上kー

数秒間流れていた映像がまた砂嵐にまみれたと思ったとたん、また文字が刻み込まれた。そしてさっきと同じように、さっきと違う映像が滞りなく流れ始めた。今度はそんな火遊びな成人男性を髪の長い子供がドロップキックで突き飛ばしているというものだった。

そしてその子が着地し、倒れ伏した成人男性を見据える。顔は炎による影でよく見えない。ただ、途轍もなく怒っているのはひしひしと感じ取れた。

 そして映像はゆっくりと砂嵐に戻っていく。

ー縺溘□ー

ー縺昴縺ョ蠕悟スシ縺ッ蟇ク蛻サ蟋ソ繧呈カ医☆ー

今度はもったいぶたかのような羅列で文字が現れた。お尻の文字に星「☆」が付いているのを見るとなんだか俺が今こいつに弄ばれているように感じて癪に障る。ゲーム中たまに怒って所謂いわゆる「台パン」や「画パン」をしている人がいるが、ああなる怒りの初期症状ってこんな感じなのだろうか。

なんだか、食堂の奥の方に圧力がかかっている様な感覚。

そんな文字は消え、次の映像が流れだす。

その映像は大きく地盤が歪んだ大地に大津波が押し寄せる。そんな映像だった。

もしかするとこれは予言なのかもしれない。想像だにしたくはないが、そう捉えてしまうのも自然だった。思い込みだけで済んでほしい。

そんな残忍な被害妄想を書き立てる映像とは裏腹に消える時は幻そのものだった。

今度は砂嵐が無くなり、静かな純白な世界が画面一杯に広がった。

そしてそんな世界で目立つためか、今まで白色だった文字は黒色へと姿を変え現れた。

ー莉翫縺ョ莠コ閼医r螟ァ蛻縺ォ↓縺帙hー

ー蠖シ縺ッ蜈ィ縺ヲ繧呈舞縺」縺ヲ縺上l繧句ュ伜惠ー

そんな二行の文字を書き込んだ液晶パネルはまた意味深な映像を流す。今回のは今までよりも一層醜穢しゅうわいな要素を取り入れて。


先の髪の長い子供が黒い触手に胸を貫かれている映像。

成人男性と共に落下しながらショットガンを腹にもろに食らって臓物を空中で散布させながら海に落ちていく髪の長い子供の映像。

日本刀を持った奴が誰かに馬乗りになってその誰かの頭を斬首する映像。

病室で安眠する少年の映像。顔は何故か影がかかって見えない。

そして

髪の毛が青い少年と髪の毛が茶色い少年の二人が桜の木を横目に剣を交えている映像。


情報量の多さに、俺の頭脳では処理しきれない映像を漏れなく存分に流した液晶パネルは満足気に純白の風景に画面を戻す。

結局こいつが伝えたかったことは最後まで分からず終いだ。何なんだ、最後の5つの映像。何なんだあれ。もしあれが予言なのであれば今後少なくとも誰か一人は確実に死ぬいうことじゃないか。一つ目に映像が典型的なそれだろ。

俺はあることに気が付いた。

もしあれが現実世界での今後の予言なのであれば、あの髪の長い子供は・・・。

「・・・っ」

俺は多大で複雑な情報故に軽く痙攣をおこしていた。ちなみに、空想世界に入ればそこは経験上で感じた感じ、精神の世界だ。視野には身体が入っているがそれは体であって体ではい。虚数の塊だ。

だから、痙攣なんてもの、それに病気なんてものには絶対にかからない。

なのにこの痙攣。

考えられる可能性はただ一つ。

「精神が痙攣している・・・」

その言葉を聞いていたのであろう液晶パネルは、俺の額を指で弾くように文字を紡ぐ。

ー謖√▽縺ケ縺阪b縺ョ縺ッ菫。鬆シ縺ァ縺ッ縺ェ縺縺ー

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「仲よくね」


今度はしっかりと読める字での表示だった。

「仲よくね」

今までの文字が翻訳できたならすごく刺さるのもだったのだろうけど生憎、俺が習得している言語は日本語と英語だけだ。

「仲よくね」

っは、霞のように寂し気に消えていた。それが最後の力を振る絞った賜物だったのか、液晶パネルは力なく電源が切れる。砂嵐も純白の空間もなく、映るのは映らない世界と反射した俺の顔のみだ。

「・・・」

結局この液晶パネルが言いたかったことは本当に最後まで分からず終いだった。勿論、いくつか候補はある。この状況下で消去法で考えて思いつくのは依然この液晶パネルは未来を予知しているのではないかという仮説だ。ここの世界は少なくとも、俺の知ってる空想世界ではない。俺の脳内で新しく増設された空間か、誰か別の頭の中、この二択に限られると思う。

その中で、一番有力な選択肢は前者だろう。

後者は個人的にはあり得ない。もし後者が事実上の事実なのであればこの空想世界に俺以外に少なくとももう一人の人間が存在しているからだ。

この世界に接続してようがしてなかろうが、生きている限り、最後に接続を切った地点には本人の姿をした残像が残っているものだ。

「・・・」

そう考えれば、俺はまだこの世界の一部分にしか足を運んでない。てことはどこかにあるはずだ。本人の残像が。

そこで俺は思い出した。ここに来た時、誰かの足音が聞こえたことを。

「まさかこんなことが・・・」

「まさかそんなことが・・・」

俺とハモるようにして俺ではない何者かの声が覆い被さる。その声色には聞き覚えがあった。

いやっ、聞き覚えがありすぎて洒落にならない。というのが台詞的には正解か。何なら先まで一緒に行動を共にしていた。

俺は声の出所に、9時の方向に目を向ける。そこにはここの世界の主であろう男が立っていた。

酷く驚いた様子で。

俺は溜息を吐く。

「よりによってなんでお前なんだよ・・・馬鹿兄・・・」


 俺の冷静が伝播でんぱしたのか、織成もまたも元の本調子に戻り、いつものテンションで喋り出す。

「大君、我が世界へようこそ。・・・っで、お主どうやって来た?」

腑には落ちていないみたいだ。

「いやっ、知らなぇよ。帰ろうと思ったらここにいたさ」

「帰る・・・、お前も空想世界に行き来できるのか!てことは先の足音もお前が・・・。

いっやぁー、昔から俺たちぁ似てるって言われてたけどまさかここまで似てるとはなぁ」

織成は大きく深呼吸をして限界まで溜めた息を溜息のようにして吐き出す。

「はぁ・・・」

そして月曜日が垣間見える日曜日の夜のような顔をする。

「最悪だ・・・」

「ちょっと待ってね、今楽させてあげられる道具探すからよ」

織成は優しく笑う。心なしか、いつもの傲慢な態度が少し消えかかっているような気がする。

言葉にも、いつもほど棘は生えてない。

俺が奇妙な眼差しに気が付き、そして何かを言おうとした途端にまた下らないひらめきをしたのか一瞬祖のままで開いた口形が完全な薄笑いへと変わり、きっと本来の内容とは大きく違う内容を言い出した。

「なぁ、ここで人と会ったのは初めてだし、お互い触れ合えるかどうか試してみようぜ?」

そう言って織成は左手を差し出す。手を合わせようと言うことなのだろうが、正直に言って屈辱でならなかった。ただ同時に、久しぶりに見た織成の祖と本来の優しさを兼ね揃えた本性。これはきっと今この機会を逃せば今度はいつこの織成の見せるこれをお目にかかれるか分からない。

織成の滅多に見せない温厚な手。今これを逃せば実に勿体ないという気持ちも同時に渦巻いていた。

収集をつけるための時間稼ぎとして俺は今日、抱いた疑問を織成にぶつけてみる。

「あのさ織成。この空間ってお前のものなんだよな?」

織成は不思議と突き出した左手を下げることをせず、目線を下に向け、返答をまとめる。

「おーん、そうだな。昔は違ったみたいだが、今は俺が責任者だ」

「昔は・・・?その向かいの責任者は誰だったんだ?それに何故そう思うんだ?」

「・・・。まず、以前の責任者は知らん。で、何故昔に責任者がいたであろうと言えるのかはこの世界の間取りで判断したからだ。だから事実ではないかもしれない」

間取りを知っているということは一度この世界を一巡したということだろうか。それが容易いのならこの世界はそんなに広くはない。

「この世界は広かったか?」

「世界一周は流石にするには時間が足らない気がするからしてないが、まぁ、それでも結構広いように感じたな」

「ずっとこの液晶パネルが並ぶ世界が続いているのか?」

もしそうなら吐きそうだ。俺はブルーライトには滅法めっぽう弱いのだ。

「いんや、そういう訳ではない。俺がこの世界に来て一番最初にたどり着く場所はこことは違って、

この液晶パネルの数程にある引き出しがいしめく所だ。多分、人によるんじゃないかな?ちなみにここや俺の陣地以外にも本が沢山ある場所がある。個人的にはそこが、先代の領主様の陣地ではなかったのかなと俺は観ている。」

現時点で確認されている世界は、液晶パネルの俺の世界・引き出しの織成の世界、そして先代領主の本の世界。中々、興味深い話だが、そろそろ決心をつけなければ。これを最後の質問にして、いい加減泣いて馬謖ばしょくろうと心に秘める。

「織成はどうやって来た?」

「歩いて」

意外と自然な返答だった。

「歩いて?」

「おう、歩いて。物音が聞こえるから何だろなと思って来てみたらお前がいた。そんだけ」

どうやらこの世界は個々とした世界ではなく、一つの世界に多くの世界が詰まっているという構造になっているらしい。俺の立っている世界を陸と例えるとまるで地球だ。俺はフと多数の惑星が漂う天井を見上げる。宇宙そのものの展望は俺を不思議な気持ちにさせた。隣で一緒に見上げていたらしい織成も展望を見入りながら言う。

「絶景だよな。ホント美しい」

「あぁ・・・、あっ、そうだお前の実験・・・」

俺は織成を見る。案の定、織成も見上げていた。左手を依然突き出したままに。

「おぉ、そうだった」

質問に答えてもらったのだら俺からも彼の質問には答える。それが筋だ。

こんな気持ちになったのは久しぶりだ。一瞬、幼きあの頃に戻れた気がした。


 織成の手と練の手が重なり合う。

 そして、エネルギーが迸る。









「彼らは祝福を授かった」

どうも最近、中耳炎になって四日ほどあくびのできない生活を余儀なくした有機物の轆轤輪転です。

いやー、すっかりサドルでお尻が凍傷になる季節になりましたね。

皆さんはお体に差し障りないでしょうか?ちなみに私は記述通り、中耳炎になり丸々四日地獄を見ました。あれはトラウマレベルですわ。

くれぐれも体に差し障りのないようにしてくださいね。妥協してると本当に地獄を見ます

(; ・`д・´)

それではこの辺で。

あっ、最後に私轆轤輪転、執筆0.6周年と記念してTwitterを開設しました。興味があれば見に来てくださいね。

それではまた逢う日まで。

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