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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

東方二次「なれそめでたらめ」 紅魔館もの

作者: シロクマ

なれそめでたらめ


 むかーしむかし、紅魔郷異変より昔のこと。

 あるところに吸血鬼の少女が住んでおりました。彼女はカリスマ溢れる最強最速の悪魔で、人間たちはとても彼女のことを恐れていました。


 やがて満月の夜、吸血鬼を退治するために一匹の犬が命知らずにも殴りこんできやがりました。カリスマ溢れる少女は華麗に戦い、犬をやっつけ首輪を繋ぎます。


「さぁお前の名は十六夜咲夜、これからは私の犬として生きるのよ」

「わん!」


 めでたし、めでたし。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 私は友人の文才のなさに飽きれて言葉も出なかった。


 私の友人、つまり今読んだ物語の登場人物その人であるレミリア・スカーレットは得意げに感想を待っている。しかし文才なさすぎだ。自分のことを美化しすぎだし、肝心なところはしょりすぎだし、「わん!」がもう意味わからない。


「レミィ、貴方は少しおバカすぎるわ」


「えー? この私のストーリーテラーぶりに文句あるわけ? だったら自分で書いてみなさいよ!」


「私の知らない貴方と咲夜の出会い話を、私に書け、と? そうね、それはそれで興味をそそるわ」


 カチャカチャと司書が紅茶を机に並べてくれる。


「あ、でしたら私こんな話を思いつきました!」


―――――――――――――――――――――――――――――――――


 1888年――

 霧の立ち込める倫敦、歓楽街の路地裏では宿に属さぬ娼婦が客引きをしていた。


 歳を重ね、一線を退いても娼婦に落ちた女が娼婦をやめることはできない。拾い上げるものもない。

 行為が終わり、金を受け取り、しばらく休憩したらまた客を探しにゆく。そんな娼婦の平凡で鬱屈とした営み。穢れていると言われようとも彼女とて倫敦の一部なのだ。


 そして事件は夜霧の倫敦で起きた。

 丁寧に切り裂かれた娼婦の死体は、あたかも解剖実験か、牛馬の屠殺跡のように綺麗にバラされていた。それもごく短時間のうちに目撃証言もなく。


 事件は五度に及んだ。

 語るも無残、臓物をバラされた上にいくつか持ち出された娼婦の死体、その手口は恐怖と戦慄によって倫敦を支配した。


 切り裂きジャックと、その犯人は呼ばれることになる。

 しかし、犯人はついに捕まることはなく、いずれの容疑者も逮捕するには至らなかった。

 今なお、この事件の真相は闇の中である。


 であるが、私はここに一人、ごく身近なところに真犯人の眼星がついている。

 そしてそれを口にしたら、あっさり白状されそうで味気ないように思えた。


 お嬢様に付き従い、時を操るナイフ使いの彼女――十六夜咲夜は果たして切り裂きジルなのか? 私の疑念と空想は尽きなかった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


 司書は語り終えると、尻尾をぴこぴこ揺らして「褒めて褒めて」とアピールする。


「はぁ……はいはいおじょうず、おじょうず」


「えへへ」


 ぽんぽん頭を撫でて労ってやると、これまた勢いよく羽をぱたつかせ瞳はぱぁーと輝き、面白いくらいに喜んでいた。語った内容に比べてギャップがひどい。


「なによ、私とコイツの差は何なのよ!?」


「センスの有無ね、うちの司書はやるもんよ」


「うーーー! カムヒヤー! 咲夜3!!」


 レミィが大げさに叫ぶと、次の瞬間にはお澄まし顔でメイド長の十六夜咲夜が佇んでいた。なぜかお茶菓子つきで。


「なんの御用でしょうか、お嬢様」


「咲夜! 貴方も語ってみなさい! 私と貴方のなれそめ話を! フィクションでね!」


「え……なれそめ? そ、そうですね」


―――――――――――――――――――――――――――――――――


 わたしはいぬである。なまえはまだない。

 ぺっとしょっぷのてんいんさんはうれのこったわたしのことをだいきらいだといっていた。たかかったのに、たかすぎてうれないんだって。


 ともだちはみんなおきゃくさんにつれていかれちゃった。ごしゅじんさまをああしてみつけることがいぬのしあわせだっておそわったの。


 ぺっとしょっぷはおしまいになりました。

 みんないろんなところへひきとられていって、わたしはひとりっきり。そだちすぎたいぬはうれないんだって。


 わたしはほけんじょというところにつれていかれました。

 いろんないぬがかなしそうなひょうじょうをしていました。もうすぐわたしはしんじゃうんだとしりました。


 のらいぬのおばあさんはいいます。これはうんめいなんだからしょうがない、と。

 ああ、これがわたしのうんめいなんだ。


 うんめいだったらしょうがないのかな。ごしゅじんさまにかわいがられてみたり、もっとひろいそとであそんでみたかったけれど、うれないわたしがいけなかったんだ。


 わたしはそっとねむりにつきました。


「いぬをいっぴき、ゆずってくれない? 」


 ほけんじょに、ちいさなおんなのこがやってきました。えらそーにほけんじょのひとにめいれいしてます。ぺっとしょっぷで、いつかみたことがある。きっと、あのこがごしゅじんさまになってくれるんだ。さいごのちゃんすかもしれない。


 みんないっしょうけんめい、ほえたりはしゃいだりしました。わたしもほえようとしたけど、てんちょうさんにおこられるからいままでちゃんとほえたことがありませんでした。きゃんきゃんとちからなくほえても、みむきもしてもらえません。


 わたしはあきらめてしまいました。


 これがうんめいなんだ、しょうがないんだ。そうおもって、いきたがるのをやめました。


「そこのいちばんきにくわないやつをちょうだい」


 え。


「あいそがなくて、やるきなくて、いきてやるってこんじょうもない、そこのしろいだけんをもらうわ。きっとしつけするかいがあるもの」


 そういって、おんなのこはわたしをそとのせかいへつれていってしまいました。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


 情感を込めて、絵本の朗読のように咲夜は話を終えた。


「くどい」


「そうですか?」


「くどすぎる、おなみだ頂戴って感じだし、絵本のような雰囲気はわかるけど不完全、小賢しいわ、だいたいあんたいつから本物のいぬになったのよ。他人任せなところもイライラするわ」


 私は辛辣な感想を述べるのだが、一方の友人はといえば号泣していた。


「いいはなしねぇ、さくやぁ……! あなたにそんな過去があっただなんて!」


「いや、あんたね、これ作り話だから 第一咲夜はいつから犬になった」


「ふーん。じゃあ、パチェはさぞ良い話を用意できるんでしょうね? 」


「そ、それは……」


 ヤバイ。ハードル上げすぎた。どうする、どうする私。

 急に言われたって完ぺき主義が祟って半端なものは言い出せないし、えーと・・・。


「むきゅがはっ」


 吐血した。否、吐血した振りをしてごまかした。


「パチェえええええええええ!? だだ、だいじょうぶ! 」


 単純だった。友人はとても単純だった。動揺しまくりだ。


「きょ、今日のところは休ませてちょうだい……小悪魔、お薬を」

「は、はい! 」


 小悪魔に担がれて、私は寝室へ脱出することに成功した。

 そう、この修羅場から生き残ったのだ!


「元気になったらパチェの書いたの、読ませてね!」


 顔面蒼白。喘息再発。吐血で咽る。

 私はこの友人のことを悪魔だと確信した。        -fin-

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