15回目 現地の目線 2
「凄いねえ」
新聞に目を落とし、短く感想を口にする。
会社の人間と終業後に入った喫茶店。
昨今の流行にならえば、カフェーというべきなのだろうか。
そこで、これまた流行にならってコヒーを頼む。
それが出てくるのを待ってる間だ。
「戦争が終わって、ようやく一息吐けると思ったら」
「大したもんだなあ」
同席する同僚達も同じような感想を口にする。
それだけ国内でも大きな動きが出てきていた。
「政治制度改革とはな。
戦争も終わって、軍の削減などはあると思ったが」
「そちらも軍制改革ときてるし。
一気にとんでもなく大きく動いてる」
そう言うしかなかった。
そのどちらも、やたらと増えた法律や部署。
それらの統廃合になっていく。
特に大きいのは監督権限の制限だ。
これは、各事業への監督という名による実質的な支配の廃止になる。
もちろん、安全性や不当な条件などの是正を強制はするが。
省庁から事業者や企業への命令などは消えていく。
そして、新規参入の緩和。
今までは監督の立場にあった省庁が、事業の参入を許可していたが。
これが届け出だけで出来るようになる。
それでいて、厳しくなる所はとことん厳しくなっていく。
不当な条件での契約やその強要。
そのほか不正となる事態が発覚した場合の処罰は厳しい。
ただ、正当な取引や契約、交渉をしてるなら何の問題もない。
つまり、
「まっとうな行いをしろ」
という事だ。
特に省庁などの役所はこれが一層厳しくなる。
今までも内部調査などはされていたのではあるが。
どうしても役人同士でかくまう性質が出ている。
そういった腐敗にも手が入る。
「それを陛下にやらせるとは」
「陛下直属の機関か。
これは逆らえんな」
新設される内部調査の機関。
それは天皇直属となる。
採用なども役所とは別になるので、接点は少ない。
それでも汚職はあるだろうが。
今までよりは幾分マシにはなる可能性はある。
もっとも、そんな機関そのものが腐敗したらどうしようもないが。
その時はその時である。
国が崩壊して終わるだけだ。
その一方で、様々な部署が統廃合される。
必要だからと増やしてきた省庁の部署だが。
今となっては必要の無い所もある。
それでも部署として存在するから予算が割り当てられたりしていたが。
はっきり言って無駄でしかない。
なので、ここで一気に統廃合をすることにした。
当然ながら、無駄になっていた配分が無くなるので、財政負担は減っていく。
もとより、税率10%なので、無駄に出来る予算など無い。
必要の無いものはさっさとなくさないといけない。
なので、消えた部署に配置されていた者は基本的に解雇となる。
とはいえ、それも可哀想なので、一応人柄を見てという事になった。
ただし、消えていく部署の人間だけではない。
省庁全体でである。
公家や武家の者によって構成されてるのが省庁だ。
どうしたって縁故による採用もある。
また、身分によって、つまり家の仕事だったからと役人になってる者もいる。
適性に合わない人間が在職してる事もある。
それらを一度見直して、配置転換などもしていく。
能力の不足などで、解雇する場合も出てくる。
それどころか、汚職腐敗の原因になってるような者もいる。
後者の場合は、解雇どころか逮捕となって法の裁きを待つ事になる。
また、その裁判所も見直し対象になっている。
こういった役人という身内に対して甘い処断を下す者が多いからだ。
それらは裁きを下す立場としてよりたちが悪いと罪が重くなっていく。
そんなこんなで、政治の内部は嵐が吹き荒れていた。
同時に汚職にとどまらない腐敗、更に凶悪な闇も暴かれていっている。
それは政治家にも、そして関係する民間の者にも。
さらには大臣や天皇の側近すらも巻き込んだ。
これらは全て隠す事なく暴かれ。
白日の下にさらされている。
全て、天皇の意向による。
「隠せばまた同じ問題が発生する。
全てをつまびらかにする事で、問題の根絶とする」
身内だろうが何だろうが、悪事を働けば決して許さない。
その事で綱紀粛正を図るのだ。
「全て、帝国の今後の繁栄の為である」
天皇は自分の意見をそう締めくくっている。
厳しくなってるといえば、更に厳しくなってるものもある。
国内の治安関係だ。
防諜活動の一環として、また政府転覆への対策として。
取り締まりが厳しくなっている。
くわえて、刊行や報道などにも制限が一部加わっていく。
「共産主義ねえ」
「まあ、ロシアじゃ凄いって聞くが」
勢力を拡大してるというこの考え。
その賛同者と賛同者が起こしてる行動。
それが問題になっていた。
これに対して日本はいち早く対策をたてていった。
その為の、制限や規制である。
取り締まりも厳しくなるという。
特に旧ロシア方面での活動の取り締まりは厳しく。
これについては日本が関与する全ての国・地域に働きかけていくという。
「しかし、ここ最近は本当に色々変わっていくな」
「まったくだ」
「うちの会社も、これに合わせて色々動いてくみたいだし」
制度が変われば、それに併せて動き方も変わる。
ただ、それは悪い事ではなかった。
「厳しくなってるのもあるけど、解放されたのもあるし。
全体で言えば、動きやすくなってはいるよな」
「ああ、新規参入がしやすくなって、会社も本腰をいれてるし」
「競争相手も増えるから大変だけど」
大きな機会が訪れてるのは確かだ。
その分、厳しい戦いをも強いられるが。
「とにかく海外交易。
これに更に乗り出すそうだ」
「フィリピンは資源開発が進むっていうし」
「満洲と旧ロシアも、この先10年20年を見据えて動くそうだ」
「治安が安定すれば、利益は出るだろうからな」
日本に無い地下資源。
それを求めて動き出す。
「それと東北。
かなり大がかりなてこ入れがされるって」
「そっちの方が早く結果が出そうだ」
「どっちに手を出すんだろ。
両方に手がけるのは難しいと思うけど」
「いや、うちの会社ならやるんじゃ」
「ああ……」
「そうだな……」
言われて苦笑する同期達。
「強引な我が社長ならなあ」
「やりかねん」
利益を考えれば、その強引さもやむなし。
しかし、その下で働く者は壮大な苦労を負わされる。
「これで給料が良くなけりゃ……」
「とっくに潰れてたな」
働いて、利益が出た分だけ給料も報償も出す。
そこがはっきりしてるのだけが救いだ。
「ま、頑張っていこう」
「おう」
「そうだな」
苦笑もそのままに席を立つ。
休憩を切り上げ、仕事に戻っていく。
まだまだ片付けねばならない仕事は多いのだ。
そんな彼らが戻った会社では、山積みになった書類が手ぐすね引いていた。
それを見て、彼らは大きく肩と気持ちを落としていった。