6 人形に毛がない問題 ③
~~~前回の内容は~~~
全裸で人に話しかけていたら賞金首になっていた
俺は今日も今日とてもはや近頃のライフワークとなりつつある毛の巡礼に出かけていた。
毛の巡礼とは、その名の通り、毛が生えている人を見つけては「毛を分けてください」と全力でお願いする所業である。
「今日こそは良い髪の人に出会えるといいなあ!」
数日巡礼をして分かったことだが、いくらまた伸びてくると言っても、普通の人は誰かに髪を分け与えることに抵抗がある。
実際、けっこうな頻度で断られる。
あと、たまにOKしてくれる人もいるのだけれど、なんだろう、いざそういう人の髪をしげしげと見ていると、「これじゃない」感がすごかったりする。
毛に対する姿勢が毛の質感に現れ出ているというか……。
だからなんだかんだ、OKしてくれている人でも「やっぱりいいです」とこちらから辞退してしまって、そういうのを繰り返して今に至っている。
「どうしよう、しっくりくる毛が見つからねえ」
これが問題だ。
自分の毛になるのだ。どうせなら「これだ!」ていう毛が良い。
そういうわけで街道に出かけて、さっそく三人組を見つけたので声を掛ける。
「こんにちは! 良い天気ですねえ!! ふっふうー!」
「………………」
なんだろう、礼儀正しく挨拶をしているのに、どうしていつもみんな、若干引き気味なんだろう。
「毛をいただけないでしょうか!」
そう頼みながら、俺は三人を品定めする。
一人目は――うわっダメだ! 全然ダメだ! 一本も生えてない! 滅び行く草原状態だ! この人に頼んでいい髪なんてない!
しかもなんかこの人の目からは殺意を感じるし……。
次。
もう一人は……、うーん、なんか、いけ好かねえ目をしているなあ。どうだろう、世界の自分以外の人間全てを下に見ているかのような目だ。
いや、見た目で判断するのはいけないな。でも、うん、この人のもいいや。
最後の一人。
え……なにこの子。めっちゃ綺麗な髪。天使か? しかも穢れなき真っ直ぐな目をしている。マジか……。
「キミに決めた!!」
俺は叫んだ。真ん中の少女に、全力でお願いする。
心なし、他の二人が「メルセデス様のだと!?」と恐れ入っている気がする。
「お願いします! あなたの髪を俺に分けてはくれませんか!?」
「いやです」
即答だった。
そ、そんなあ……。
それから十分くらいかけてお願いし続けたが、うんと言ってくれなかった。悲しみ……。
「じゃあいいです。帰ります。無理言ってすみませんでした」
回れ右をして俺は帰ることにする。
――が、
「馬鹿め、帰すはずがないだろう?」
しかし全世界を下に見ている男がニチャリと笑ってそう言った。
「いや、でもあなたの髪は欲しくないので……」
「そういう意味じゃない!」
彼は怒った。当然だ。自分の髪をいらないと言われれば誰だって怒る。
「馬鹿にしやがってクソが。いいか露出魔! 僕たちはお前なんかを殺す為にわざわざこんな所までやって来たんだ」
「……ああ、なるほど」
近ごろどうしてか、俺に襲いかかってくる輩がいる。どうやらこの人たちも同じであるらしい。
「でも、なぜ? 俺を殺すのです? 誰かの迷惑になることをやっているのでしょうか?」
「うるせえゴミが!」
ゴミ――また、それなのか。
みんなそうだ。理由を尋ねても無視して、中傷して、それから問答無用で襲いかかってくるのだ。
この人たちもそうなのだ。
諦めかけたその時――
「あなたが、服を着ていないからよ」
真ん中に立っていた綺麗な目と、髪を持つ少女がそう言った。
「え……?」
「だから、服を着ていないことで、迷惑を被っている人がいるの。その苦情を聞いて、私たちはなんとかする為にここに来ているのよ」
「服……?」
服。そうか、服だ。
思い出した。昔アリスが言っていた。人は皆、人前に出るとき、衣服を身につけその身を隠すのだと。
たしかに往来で見かける他の人たちは皆、服を着ている。
「そ、そうだったのか…………!!」
俺は感動で打ち震えた。
「メルセデス様! 何をおっしゃっているのです!!」
男二人が、真ん中の少女に驚きの声を放った。
「そうですよ! こんな者に口を利いて……僕たちの任務はこいつをこの世から消し去ること――」
「違うわ。私たちの任務は、露出魔をなんとかすること。つまり彼が服を着ても解決になるのよ」
「しかし! こんなゴミを――」
「いい加減にして。さっきから不愉快よ。人をゴミと決めつけるのはやめなさい。B級、あなたはいったい何様のつもりなの? この露出魔は、きっと話せば分かる人よ。そんな気がする。実際、この人は服を着ていないことを除けば、間違ったことは何一つしていない」
「我らの仲間をボコボコにしているが?」
「ダマ――今のあなたたちもそうだったけれど、殺す気で襲いかかれば、反撃されるのは仕方のないことだとは思わなくて? しかも彼の方は殺しをしていないのよ」
「…………――っ!」
ダマと言われた男は、理解を示した。
しかしB級と言われた方の男は、そうではなかったようだ。悔しそうに震え、憎悪の表情を浮かべた。
「黙れ……だまれだまれだまれだまれ!! クソ生意気なビッチが!! 貴様こそ何様のつもりだ!! この僕にたてつきやがって! 間違ったことはしていないだ? ゴミと決めつけるのはやめろだ? ふざけるなっっ!! 僕がゴミと思えばそいつはゴミだ! 僕が殺すと決めればそいつは死ななくてはならないんだ!!」
叫び、そいつは剣を抜く。
「殺す――死ねよくそゴミが!!」
「やめなさいB級!」
「僕の名前はB級じゃない! ――ガイア様だあああああ!!」
止めに入ろうとしたリーシャに、B級――否、ガイアは手をかざし、
「【バインド】――っ!!」
と唱える。
途端、彼女の手足に光の鎖が巻き付き、その自由を奪った。
「なっ――!?」
「ざまあみやがれ! これが僕の最強たる所以だ! 魔力封印による絶対拘束! 不意だろうとなんだろうと、とにかく一度これで縛ってしまえばもう誰も逆らえねえ! 締め上げ殺すことも、お前を好きに楽しむことも、全ては僕次第だ! おいそこのハゲ! このビッチの命が惜しければ僕に協力しやがれ!」
「はげ……! くっ、しかし、いざ仕方ない。協力する!」
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