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4 人形に毛がない問題 ①

~前回までは~

人形の体を得て実家を飛び出した




 新しい身体を手に入れ、薄暗い牢屋から外界に出てからというもの、新しい発見と驚き、そしてなにより喜びの連続だ。


「すー! はー! すー! はぁぁああーっマジかよッ! 空気ってうめええーッッ!!」


 日光の下で息をするだけで至福があふれ出てくる始末。

 人生って素晴らしいな!


 俺はとりあえず進路を東にとることに決めた。

 というのも以前にアリスから、桔梗院皇国を東にまっすぐ行ったところに、ここらでは桔梗院国の次に大きな”ジークフリート英雄国”があると聞いていたからだ。

 桔梗院皇国は皇帝をトップとする国であるが、対するジークフリート英雄国は、なんでも、”英雄”をトップにしている国であるとかなんとか。

 街にはギルドがあり、そこには腕自慢の冒険者たちが集い、しのぎを削っているという。

 よくわかんないけどなんか面白そうなので、その国に向かって冒険者になることに俺は決めた。


 そう、面白そうならばなんだっていいのだ。

 せっかく自由になれたのだから、どうせなら思い切り人生を満喫する。広い世界を好きに生きるぜ!


 というわけでウキウキ俺は森の中を進んだ。

 ちゃんと街道もあるのに、どうしてわざわざ森の中を歩いているのか? と疑問に思う方ももしかするといるかもしれないが、それには深いワケがある。

 いや別に深くもないけど。


 結論から言うと、往来を歩くとみんなに変態呼ばわりされるのだ。


 失礼しちゃうよな。

 一目で俺を変態だと決めつけ、話も聞かずに逃げていく。逃げていくだけならまだしも、場合によっては襲いかかってきたりもする。


「うーむ、俺の一体どこらへんが変態だっていうんだ?」


 俺は森の中の湖畔を見つけて、水面に映る自分の姿を見てみた。

 惚れ惚れするくらい立派に人間である。

 こう見えて、ある程度の一般常識は、アリスとの会話で身につけているつもりだ。

 そんなスーパー常識人な俺から言わせてもらうけど、マジで俺人間! 真人間だから!


 【ドールマタ】で造った人形の質は本当に高い。

 表面的には、どこからどう見ても、触感から何まで人間そのもので、まず何人にも見分けはつかない。


 致命的な違いと言えば、以下の二つくらいか。


◎違いその1:皮下装甲

 俺の身体は触ると柔らかいし、人肉そのものだ。

 が、しかしそれは完全に表面上だけで、皮といくらかの肉の下には、全身を覆うクッッッッソ丈夫で超硬質な装甲がある。材質は巨人の骨。

 故に肉の下を見られると人でないことがバレる。人にはない丈夫な殻があるから。


◎違いその2:重量

 材料があの馬鹿でかい巨人の腕である故に、俺の身体はけっこう重い。

 生成の際に出来るだけ圧縮して軽量化したつもりだが、それでも現在の体重は二百キロちょいだ。


 まあでも、どちらも些細なことだろう。普通に生活していれば、まずバレることはないと思う。


 なんとなく普通の人より今の俺は、多少身体能力が高くなっている気もするけど、それも俺がもともとひ弱だったからギャップでそう感じちゃっているだけって気もしないでもないし。


「うん、てことはやっぱ普通の人間だわ俺」


 なので、変態扱いされる謂れはない。

 いったいこの健全な若者のなにが変態だというのか。


 水面には、全身肌色の壮健なる肉体を持つ若者の姿が映っている。胸筋もあるし、腹筋もあるし、ちゃんと生殖器もついている。なにもおかしなことはない。


(……ん? いや……そうかっ…………!)


 しかし俺は気付いた。

 変態の由縁に。


「毛がねえな」


 そう、俺には毛がない。まったく生えていない。頭髪、睫毛、眉毛、陰毛、脇毛、漏れ無く存在していない。全てツルツルである。

 地下牢産まれ地下牢暮らしである俺には、少し世間の観念に疎いところがありよく分からないというのが正直なとこだが、たしかに毛がないというのは考えようによっては変態的なのかもしれない。そんな気もする。


 生やし忘れたというか、巨人に毛がなかったので、作れなかったのだが、やはり毛は必要なのかもしれない。

 きっとこのまま毛のない状態では、英雄国に着いても冒険者になれないだろうし。


 うーん……。


「アリスはたしか、髪、睫毛、眉毛以外の毛は全てむだ毛であるとして、もれなく除毛していると言っていたな。……じゃあ、俺が今生やすべきなのは、顔の三カ所の毛か」


 毛は勝手に生えてこない。

 故に誰か、毛を持つ生き物から材料として分け与えてもらう必要がある。


 周りを見る。

 獣がいた。


 うーむ、獣。

 やっぱ人間由来がいいよな、どうせなら。


「人間に毛をもらおう」


 誰かに頭を下げて毛を分けてくださいと頼んでみることにしよう。



 しかしこの時の俺は、思ってもみていなかった。

 まさかこれが、アイツらを引き寄せることになるなんて。

お読みくださりありがとうございます

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