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3 人形が目醒める日 ③




======================

【レプリカント】

 人間と人形を交換出来る。

======================


 ………………は?

 新スキルは予想外のものだった。


 なに? 交換って。ちょっと怖いんだけど。

 説明文をどんなに見つめても、しかし記載内容以上のことは分からない。


「交換ってことは、俺が人形になれるってこと?」


 なれるって言うか、なってしまうって言う感じの方がしっくりくるけど。

 だって誰も人形になんかなりたくないよね?

 ほぼ、ホラーじゃん。俺と入れ替わりで人間になった人形が夜な夜な街に出て人々を襲うやつじゃん。


「うーん、てことはこれは、」


 またもや無駄スキルか。

 いやむしろ今回は災いですらある。


「でも……」


 せっかく覚えたのに、使わないのも、寂しいよな。

 どんなにこれがゴミスキルだからって、俺しか使ってあげることはできないんだぜ? だってこのクラスは世界で俺しか持っていないのだから。


 そう思うと、なんだか途端にゴミ同士のシンパシーで気の毒に思えてくる。

 そして是が非でも、使ってあげないといけない気がしてきた。


「そうだな。使おう。もうどうなってもいいや」


 自分のスキルを信じてあげることにした。

 俺はアリスに信じてもらえて、どん底なりに救われた。だから、俺はこのスキルを救ってあげたいって、そう思った。


 意を決して、右手で自分を、左手で人形に触れ、スキルを発動する。


「【レプリカント】――っッ!!」


 目を開く。

 すると――


「え…………?」


 目の前には、俺がいた。俺の身体がそこで立っていて、次の瞬間崩れ落ちるように地面に倒れる。

 まるで魂の抜けた脱殻みたいだった。


「じゃあ俺は……今動かしているこの身体は……?」


 身体を見る。

 間違いなく、先ほど俺が巨人の腕で作りあげた、人形の身体だった。


「まじかよ……。俺、人形になっちゃった」


 どうしよう。

 脱人間しちゃった。

 急いで俺の身体に戻らなきゃ。

 慌てて元の身体に触れてスキルを発動しようとする。


 ――でも。


 ふと思う。

 俺はそんなに、この身体にこだわる必要があるのか?

 ひ弱で、何も出来なかった俺の生来の身体。

 愛着はある。

 でも――


 俺は、徐々に気がつきだしていた。この新しい身体には、おびただしい力がみなぎっている。

 巨人製だから、その性質も引き継いでいるのかもしれない。


「うん、いっか。俺もうこれでいいや」


 人形になるわ。

 そう思った。


「俺は人間をやめるゾオオおお!!」


 叫び、そして今ならば出来そうな気がして、思い切り地面を蹴り、跳びあがる。

 すると、


 ブワアッッ――――――っッ!!


 と、ものすごい勢いで俺の身体は真上に射出された。

 気付けば、牢獄など軽々飛び抜けて、天高く――雲のあたりまで浮かび上がっていた。


「まじ……?」


 なにこのアホみたいな脚力……。

 ちょっと跳んだだけのつもりだったのに、こんな空の上にまで届いてしまうなんて。

 いったいこの身体、どうなって――

 中空で混乱極めていたとき、ふと真下の方で、小さな黒い穴があるのを視界が捉えた。

 そして今さらになって気がつく。


「あ――……俺、今、……牢獄から出られたんだ…………?」


 感情が遅れてやってくる。

 両目からボロボロと涙がこぼれているのが分かった。


 出られた……出られたんだ……!


 感激した。

 二十年続いた地獄がようやく終わったこと。

 そしてなにより――自分でも可能性を諦めていたこのスキルで、最終的にその地獄に打ち勝てたことに、俺は心から打ち震えていた。


「やめなくて良かった……。生き続けていて……良かった……」


 涙が止まらない。きっと今の俺はとてつもなく不細工な顔で泣きじゃくっている。

 でもいい。

 俺は今、とっても幸せだ。


 未だ上昇を続けていた俺の身体は、そこでようやく停止し、下降を始める。

 高い放物線を描いており、どうやらこのまま城壁の向う側の遠くへと落ちていきそうだ。


「城が、遠ざかっていく……」


 俺の実家。

 でもこの城に、俺の居場所はない。

 未練はない。


 ひとつだけ――心残りがあるとすれば、


「アリス……」


 彼女の姿は、どこにもない。

 きっと、隠れてしまったのだろう。それはつまり、今俺に会う意思は彼女には無いということだ。


「会ってはくれないのか……」


 でも、そういうことならば、尊重しよう。

 俺は心から、彼女に感謝しているから。それ故に、彼女の意思を汲む。


「いままで、ありがとう。アリス」


 感謝を口にする。

 すると、風に乗って、アリスの返事が聞こえてきたような気がした。


 ――「ごめんなさい……ずっと助けてあげられなくて。どうか、私を恨んで。そしていつか、私を殺しにきて」


 …………。


 …………馬鹿だねえ。


 俺がキミを恨むことなど、出来るはずがないというのに。


 けれど、そうだね、分かった。


 俺はやがて、キミを殺すだろうよ。


 約束する。


 だから、絶対にまた会おう。会いに来るよ。

 その時まで、

 俺がキミを見つけて、

 キミを殺しにきみの前に現れるどうかその時まで――

 ご健勝でいてください。


 その元気な声を、その時に、また俺に聞かせてくれると、嬉しいです。

読んでくださりありがとうございます


少しでも先が気になる、面白かったとおもっていただけたなら、ページ下部より評価を是非お願いします

めちゃくちゃ執筆の励みになりますので


何卒宜しくお願い致します

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