2 人形が目醒める日 ②
空から巨大な腕が降ってきた。
ドスンと、ものすごい重量感で。狭苦しいスペースがほぼ占領される。
危うく先ほど完成したばかりの俺の人形が潰されかねなかったし、そもそも俺自身も危なかった。そしたら間違いなく死んでたぞ。
「誰だ!?」
俺は空を見上げる。
遠い穴の向こうでは、きっと、この馬鹿でかい腕を投げ込んできた誰かが、こちらをのぞき込んでいるに違いなかった。
遠すぎて見えないけど。
くっ――俺にもっとよく見える視力があれば!
自慢じゃないが産まれたその瞬間より俺の視力は0.05だった。
「危ないだろ! 死ぬとこだったぞ!」
罵声は返ってこない。
通常、牢の上に誰かがいたとして、そんな時にこちらが何かを言うと、「ゴミ」だの「死ね」だの「クソ」だのの集中豪雨が降ってくるものなのだが――
違うとなると、上にいる人物はもう一人しかいない。
「アリスか」
彼女以外にはあり得ない。
アリスはこの牢獄に向かって話しかけてくる者の中で唯一、というかきっとこの世界の中で唯一、俺と対等に話をしてくれる人物だ。
俺の生い立ちや家族の情報、事情、世界の理、仕組み等、俺の知り得る情報は全て彼女からもたらされたものだった。
その正体が誰なのかは、分からない。
家族の誰かなのか、家臣なのか、従者なのか、召使いなのか、業者なのか、住み込みの客人なのか……。
きっとこの城の関係者だとは思うけれど、それも推測の域を出ない。
彼女は言わないし、当然産まれてすぐここにぶち込まれた俺にも心当たりなどあるはずがない。
でも正真正銘のゴミである俺なんかに、「生きて。あなたには力がある」と心からの励ましと思いやりをくれる、聖母みたいな人であるのは間違いない。
「聖母なんかじゃありません。だって私は、結局、あなたを助けてはいないんだから」
助けられる立場なのに様々な事情でそれをしない。それは彼女曰く、”完膚なきまでの悪そのもの”なのだという。
彼女の言うそれはきっと正しい。
けれど俺としては、こっそりとここに来て、話し相手になってくれて、そしてささやかな自尊心を俺に与えてくれる――それで十分だった。
彼女には心底救われていたし、心から感謝していた。
俺が自死せずここまで生きてこれたのも、彼女の存在が大きかった。
「アリス、これはなんだ?」
しかし今日の彼女は、なぜだか反応がにぶい。
長い沈黙の後に、
「それを使って」
とだけボソリと聞こえた。
使って……?
十中八九、人形の材料にということなのだろう。
とりあえず俺はその腕がなんなのか調べる。
ぶっちゃけ調べてみてもさっぱりなのだが、サイズ感からして人間のものじゃないことだけは分かる。
太さからして直径一メートル以上あるし、そもそも長さも尋常ではない。
もしかするとこの腕を掴んで上がっていけば、この深い牢獄の上にもたどり着けるんじゃないかというくらいの先が見えない長さだ。まあ、俺って貧弱だからどのみち這い上がるなんて絶対無理だけど。
「巨人……?」
この世界に巨人がいるのかどうかよく知らないが、たぶんそういう感じの人の腕なんだと思う。
そういえば我が家の祖先は、その昔、この地の原初より生きていたという”巨大な古き神”を討伐した神殺しのメンバーのうちの一人だったと聞いたことがある。
じゃあ、もしかしてこの腕はその神の……?
いや、さすがにそれは無いにしても、いずれにせよ、この貴重そうな生体パーツを役立たずの人形なんかに変えちゃって果たしていいものだろうか?
「アリスー! ホントにこれ使っちゃって良いのかー?」
訊いてみる。
返事はなかった。もう立ち去ってしまったのだろうか。
「うーん……」
少し悩んだが、しかし決断する。
「やろう!」
せっかくアリスが持ってきてくれたのだから、使わないと失礼に当たるよな。
というわけで人形制作にはいる。
頭の中に人形の構造、形、サイズを思い描き、図面を引く。
そして目の前の腕に手を当て――
「【ドールマタ】発動!」
声を発すると、その腕が光で解析、分解され、再構築、凝縮、そして人形に生成されていく。
「うお……」
しばらくして完成した。
自分で言うのもなんだけど、言葉が出ないくらい素晴らしい出来映えだった。
今度は男性型にした。
「いいじゃん……!」
見とれていると、また頭の中にメッセージが流れる。
――『レベルが1上昇し、レベル3になりました』
――『新たなスキル【レプリカント】を習得しました』
きたああああああああ!!
人生二度目の経験!
今度はどんなスキルなんだろ?
でもまあどうせ、またなんかの材料で人形を作れるだけなんだろうなあ――と諦観の苦笑を浮かべながらステータスを開く。
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【レプリカント】
人間と人形を交換出来る。
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…………は?
本日は昼か夕方か夜のどれかでもう少し更新する予定です
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