17.新地・炎上
目の前で、テレビが炎上している!
私は怖くなって泣き叫んだ。その声に誘われ、母がやって来る。
「ギャー!」
母も叫ぶ。大人が慌てているのを見て、幼い私は更にパニックに陥った。
「お母さあああん!」
母は恭一からすぐさまライターを取り上げると、その頭を一発殴った。
騒ぎを聞きつけた祖母が、消火器を噴射する。
芸妓の誰かが消防車を呼んだので、おうぎやどころか新地一帯がパニックになった。
新地はそのほとんどが明治期の木造家屋。
火が燃え広がったら一巻の終わりだ。
皆散り散りに新地から逃げ、アーケードの向こうは貴重品を持って逃げて来た大人でいっぱいになっていた。
テレビへの放火は、何とかボヤ騒ぎで済んだ。
しかし恭子はその責任を痛感し、しょぼくれていた。
「お母さん、ほんまにすいませんでした。ほれ、謝らんかい恭一!」
恭一はなぜかぐずぐずと鼻を鳴らし、部屋の隅でいじけていた。
私は苛々した。なぜ火付けをした男がいじけておるのか。さも、お前たちのせいで怒られているとでも言いたげに。私は内心ひどく腹が立った。
「悪いけど、司はん」
祖母は諭すように告げた。
「火を付けるような子、流石に面倒見切れんわ。別の場所で見てもらいよし」
「……お母さん」
「私だけが迷惑かけられるんは、ええんや。けど、私以外に迷惑かけるんやったら、新地に置いておかれへん。それにな、これを放っておいたら、あんたの芸妓の名前に傷がつくことにもなるんやで」
恭子は絶望の表情を浮かべていた。
「親戚でも何でも当たって、そっちで見てもらいなさい」
「……」
「それが出来ないとなったら、あんたをここに置いておかれへん」
「……分かりました」
恭子は夏の終わりに、恭一を連れておうぎやを出て行った。恭一はしばらく恭子の母のところで見てもらうようにするのだと言う。
「またね、結ちゃん」
そう言い置いて、恭子は恭子の母の近くに引っ越して行った。
──それが、私が見た芸妓・司の最後の姿となるとは、誰が予想出来ただろう。




