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ボシーヘイデッド編~マスターと初任務~

────精霊の洞窟入口────




「シリウス。ストレインジグリーンの森に行ったことあるか?」


「…ああ。何度もあるが」



「それならオレが森の入口まで連れていけるが、転移するか?」


「いや、少し話をしながら向かいたいから歩きでいい」



「そうか」



洞窟の入口まで来たところでオレはふと思い立ち、シリウスに提案してみた。

少しは時間を削る事が出来ると思って言ってみたワケだが…。



“精霊の洞窟然り、迷いの森と呼ばれるストレインジグリーンの森然り、魔物が沸くように現れるから討伐依頼が殺到している”


だから実態を調べる理由も兼ねて、転移魔法とかは普段から使わないのだとか。


仕事熱心もいい事なんですけどね。

コイツはきっと無理をして損するタイプだ。



「ふぁ…っ…んで?話ってなんだよ」



腹も膨れて、若干眠そうな様子を見せる剛が、頭に手を回しながら興味無さそうに聞いた。


光石が輝く洞窟の中は星空のように煌めいていて、ヒタヒタと結露した雫が落ちる音と、自分達から発される音以外は何も聞こえない心地の良い静けさだ。


一日暴れ回った剛が眠くなるのもわかる。

誰よりも遅くまで寝コケていたオレですら眠いもんな。



「ああ、アトリアの事だ。お前が昼間にしてきた話を詳しく聞こうと思ってな」


「ああ、それか。お前、ギルドマスターなのに把握してない任務とかってあるのな」



「いや、無いハズだ。その五帝指定だという配達の任務も、俺の記憶では一般の奴らがやっていたものだ。指定された覚えもない」


「…んだよそれ。つまりはどういう事だ?」



むにゃむにゃと面倒くさそうに口を動かしながら辺りの石を歩いてるついでに拾い集める剛は、大して興味もないくせに無理して会話に参加してくる。


正直鬱陶しいです。



「…つまり、俺の知らないところで誰かが動いてるって事だな」


「把握してない事あんじゃねぇかよ」



「…まあ、結果的にはそうなるな」



シリウスは少し悔しそうに顔を歪めてからボソリと呟いた。


そりゃ、イラッとするわ。

仮にもマスターと名乗れるほどの役職で全てを把握していたつもりが、自分の知らないところで勝手に行動されてるんだから。



「言葉に気をつけろや」


「な、少し可哀相だと思っただけだ!」



「それを言うなと言ってんだ!」


「え?そうなの?…ごめん」



「いや…いいんだ。自分で選んだ職だからな」



剛の神経の図太さには肝を冷やされる。

本人が一番気にしてる事をさらっと言ってのける剛のメンタルは鋼で出来てるとでも言うのか。



「…だが何故把握してないという事態が起きてるのかよく考えた方がいいんじゃねぇのか?」


「ソウの言う通りだ。俺はギルド内で起きた問題の全責任を負う役職だ。こう知らない事が周りで起きてると何かあった時に動けなくなる」



「まあ、でも実際は何も無かった訳だし別にそこまで考えなくてもいいんじゃねぇの?」



今回に至ってはそうかもしれないが、この事態がオレ達だけに留まっているなら問題にならない。…だが、それが違うギルドの任務なら内容次第ではテロ行為になり兼ねない。

多分シリウスはそれが言いたいんだと思う。


呑気に何も無かったことを笑ってる場合じゃねぇだろ。



「元々一般の登録者が行くような任務が急に五帝指定の任務に変わった件についてどう思う?」


「…不可解極まりないな」



「誰かに聞けないのか?…お前の妹とか」


「…ミアか?アイツに聞いても意味が無いだろう」



問いかけた瞬間に考える素振りも見せずに即答したシリウスは有り得ないと首を振った。



「何故だ」


「俺に話せる理由ならとっくに話をしてくるハズだ。…だが俺は何一つ言われてないし五帝の全員が匂わすこともしなかった」



徹底的に隠されてる事実という訳か。

まためんどくさそうな事に巻き込まれたみたいだな。



「あのよぉ…疑問なんだけど…ルミア?って女は人間か?」


「…そうだと思うが…何故そんな事を聞くんだ?」



剛が思い悩んだ様に腕を組みながら意味深な質問を投げかけたが、オレには何が言いたいのかよくわからない。


人間なのか…?ってだってアイツ普通に女だったし、二足歩行だったし身体の造りがオレ達と何ら変わらなかったと思う。


そもそもまず普通に会話したし。

オバケとかそういう類の事言ってんのかコイツ。



「へ、変な事言うなよ」



ぴちょんと地面に滴る水の音にゾッと寒気がしてとりあえず剛とシリウスの間にみっちりと詰め寄っといた。


…だって怖いんだもん。



「いや、あの女なんか嫌な感じがするって言うか…自分の身体が本能的に受け付けないんだよな。…だから」



剛の勘は普段はアテにならないが悪い時ほどよく当たる。…正直よく当たるってもんじゃねぇ。外す確率の方が圧倒的に低いって言ってもいい。


だからあんまりそういう嫌な事を言って欲しくないんだが…



「お前のタイプじゃないからそう感じるんじゃねぇの?」


「えー…そうなのかなァ…」



あ、タイプじゃないんですね。


まあ、確かにニヤけた顔して抑揚のない声で淡々と喋る姿は不気味以外の何者でもなかったが、剛の場合は出会いが最悪だったから本能的に拒否してるだけのような気がするんだよなオレは。


そもそもあの女が魔物とかなら魔属性と神属性でオレの身体が反応するハズだし、あまり近付きたくないとは思ったが、特別何かを感じたわけじゃないから人間で間違いない…と、言い切りたいが…。



「ソウに聞きたい事がある。一度聞いていたらすまない」


「…ああ、なんだよ」



足を止めて真っ直ぐに見据えられたオレは、つい気構えて不自然に足を止めただろう。


正体とか聞かれたらどうしてくれようか。

もうめんどくせぇから言ってしまった方がいいんじゃねぇのか?


反射する光石に照らされたシリウスの顔をまじまじと見ながら次の言葉を待った。



「…アトリアとお前達は登録に来た日が初対面じゃないだろ」



初対面なのか?と聞いてこない辺り、ほぼ確信に迫る聞き方だよな。思い当たる節があって問い掛けて来てると思うから下手に誤魔化したら要らぬ墓穴を掘るかもしれない。


オレがなんて答えるのか様子を窺う剛の目が、勇者召喚の事は言うなと物語っている。


ならなんて答えればいいんだよ。



「…はぁ」


「言いたくないか?…それとも言えないか?」



悩むオレを煽るように追求するシリウスに“ちょっと待ってくれ”と、手を上げた。


オレ達がここで濁らせても、アトリアに聞けば一瞬で分かる事だ。むしろアトリアだけじゃない。


皆越とも接点がある事を知っているシリウスならヤツを脅して吐かせる可能性もある。

それに、ルミアとか言う守り神とも当たり前だが、交流がある口振りだ。


オレが言わずとも、剛とアトリアの関係性がどこから漏れるかわからない。


究極の選択を強いられてるような気分だ。


コイツが事実を知って何かしてくるようなヤツだと思いたくない。だが、オレが信じたいだけで、信用できるかと聞かれれば“そうだ”と言い切れない。


他の奴が間違った情報を話したらどうする。

それなら先手を打ってオレが言った方がマシなのか?



『剛…お前がシリウスを完璧に信用していないのはわかってる。だが、全てを言わないにしても少なからず話しておかなきゃならない事はある』


『…どういう事だ』



『…今からシリウスに話す事だ。お前を悪いようにしないから、黙って聞いててくれるか?』



腹の探り合いは、いつか限界が来る。

誤魔化しきれなくなった時、めんどくさくなった時、相手を信用出来た時。


今はそのどれもが当てはまらないが、シリウスを信用できるか確かめるチャンスだ。


罠と言えば聞こえが悪いが、事実を少し話しておく事で何か少しでも周りが変わったらコイツは残念ながら信用出来ない男なのだと見切りがつく。


そんな関係性は虚しいと思ってる。

だが、関わり続けたいならこうするしかないだろう。シリウスを暫く泳がしておく必要がある。


…剛、シリウス…悪いな。


目の前でオレの言葉を静かに待っているシリウスから目を離し、剛に一瞬目を向けてから深呼吸をした。



「ハァッ…驚かないで聞いて欲しい。

まあ、勇者の存在を認めてるお前が今更信じないとか言い出すとは思えないが…一応な。…コイツは、勇者Uが召喚された時に魔法陣に巻き込まれてこの世に来た人間なんだ」


「…なんだと?」



「驚かせてるのはわかってる、だが事実だ」


「…それをアトリア達は知っているのか?」



「…知ってるハズだ。アトリアとルミアとか言う神官が勇者召喚の儀を執り行ったんだから」


「…そうだよな」



そう言ったっきり顎に手を添えながら難しい顔をキメ込むシリウス。ちょっとした混乱が起きてるようでなかなか足が進まなくなった。


時間だけが消費していくこの状況に少し焦りを感じ始めたのはとてもじゃないが今は言い出せない。


これなら森まで転移してさっさと終わらせてから落ち着いた場所で話せばよかったと心から思う。



『…端折りすぎ』


『…これ以上は今この段階でシリウスに話せる内容じゃない』



詳しく話すなら剛が転生した事もオレが神の子だという事も全て1から話さなければならなくなる。


都合のいい事にアトリアもルミアもオレ達の存在を完璧に把握している訳じゃ無さそうだから仮にシリウスが二人に剛やオレの事を聞いたとしても、“勇者召喚に巻き込まれたヤツ”、“それを奪いに来た謎の人物”で済む。



「で、そうなるとオレの存在が謎になるハズだろ?…シリウスは転生を信じるか?」



“アホみたいな話だが”と付け加えると当たり前のように“信じる”と答えたシリウス。ぶっちゃけ自分で聞いておきながら少しビックリした。


咄嗟に剛に振り向いて何事だと目で問いかけてみるも肩を竦めておどけるだけで使いモノにはならない。



「…オレは言うならば前世でコイツと一番親しかった人間だ。たまたま勇者召喚の場に居合わせたオレは一目でコイツがゴウだと言う事に気付いて咄嗟に拐ったんだ」


「そうか。…何故拐った?」



「ヤツらの選んだ勇者がコイツじゃなくてUだったからだ。もしコイツが勇者に選ばれていたのならオレは助けなかったし見なかった事にした」



半分事実で半分が嘘。

アトリアとルミアが皆越を選んだのは確かに皆越だった紛れも無い事実。


だが、選ばれたのが剛だったとしてもオレは間違いなくコイツを拐っただろう。


どんな状況になろうと地球に返す為に動いたハズだ。…だから助けなかっただなんて嘘に決まってる。



「…お前達を探してたのかもな」


「ああ、探してたハズだ。…見たろ?登録の時のオレを見つけた瞬間のあの嬉しそうな顔。わざわざ本人か確かめるように剣を向けてくるくらいだ」



「…これで繋がったな。五帝指定の任務の理由はわからないままだが、今回は間違いなくアトリアがルミアにお前達の存在を知らしめる為に俺を利用してまで仕組んだ事だ」



“全く仕事熱心な同僚を持って嬉しい限りだ”

と足元の小石を蹴りながら皮肉をボヤくシリウスが少し可哀想に思えた。



「あー…そろそろオレも喋りたいんだけどいい?」


「…ああ、やけに静かだから忘れてた。お前黙ってる事も出来るのか。感心した」



ニヤニヤと顔を綻ばせるシリウスに剛が“うるせぇよ”と口を尖らせると“冗談だ”と笑うシリウス。


剛には悪いけどオレも丁度同じ事を思ったと笑いそうになった。



「で?」


「…で?って…。いや、だから…今回の件の真相が少しわかった事だし、シリウスはそれに対してアトリア達に何かするのかと思って」



「…なんだお前まさかアイツらにビビってるのか?」


「…ッ」



お、おう。コイツ剛の痛い所突いたな。

ビビってるどころかトラウマだわ。



「…まあ確かに自分の事を殺そうとした奴が目前前に居たら気は抜けないだろうな。それに怪我をしているなら痛みの所為でトラウマにもなるだろう」


「…情ねぇけど…まあ…」



「でもお前、ソウがお前の横に居るのに何か怖い事なんてあるのか?」


「わかってるけど…なんつーか…身体が勝手に強ばるって言うか…」



シリウス…オレの事買い被りすぎだろ。


確かに強くなる為の修行は受けたが、所詮オレは人間だし、能力だって制限掛けられている。力を持ってしても経験値が圧倒的に低いオレなんていざという時にまともに動けるかわからないんだぞ。


制限を外せば最強だも言われるオレでも、魔物との戦闘慣れしたシリウスの力を借りたいと思ったりするんだからな。



「それが不思議だ。俺から言わせればバケモン級のステータスを持ったお前達の方が余程脅威だ」


「いや…ゴウのトラウマはゴウにしかわからないだろ。大した事無いと自分で思っていても死にかける程の怪我を負わされた事実を無かったことに出来る奴なんてそう居ねぇよ」



「何故だ。…情けない話だが、お前達四人に勝る能力を五帝の奴等は持ち合わせていない。…アトリアもルミアも迂闊に手を出せないハズだぞ」


「…オレ達は言うほど強くない」



埒の明かない話は今する事じゃない。

これ以上は剛もシリウスも同じ事を言い合うだけだと目に見えてるから強制的に終わらせた。


話し合ったって剛のトラウマが消える事なんてないんだからもういいじゃねぇか。

シリウスの言葉は直訳すると“そんなに強い力を持ってるのに”──そんなふうに聞こえた。


人に認められるのは嬉しい事だが、少しイラついたのも事実だ。好きでこうなったわけじゃねぇ。剛だって好きでトラウマ抱えてる訳じゃねぇし。


でも、シリウスの言いたい事もよくわかるからこれ以上はくだらない事で亀裂を入れたくねぇんだよ。



「──あ…?あれ出口か?」


「ああ、話してる内に洞窟を抜けたようだな」



「んだよそれスゲーな」


「俺は…通い慣れてるからな」



光石の光が途絶えている先がストレインジグリーンの領土らしい。


分かっていたことだが、街灯もなければ森のお陰で月明かりさえも遮断されている。

魔力の使いどころか。


言い合ってた二人も自然と会話が逸れて、森で見かける魔物の話をしている。無駄な言い争いの終わりが見つからなくて困ってたんだろうな。…特に剛。



「…思ったよりも時間が掛かった。陽が昇る前に片付けないと住処にいるヤツらの行動が活発化する。…任務失敗だ」


「だろうな。…誰のせいだ?」



「「…悪かった」」



背後から少し焦ったようなシリウスの声が言ったのは、正しくお前らのせいだろと言いたくなるような言葉だった。


言わずとも素直に謝ってきたからよしとするが、これ任務失敗とか勘弁だぞ。

ここまで歩いて報酬無しは虚しすぎるから。



「その虎?かなんか知らねぇけど、どこにいるのかわかんねぇんだろ?」


「…サーベルタイガーな」



「ああそれ。住処を見つけるまでは気を引き締めて探すぞ。見つけさえすれば後は時間掛けででも倒すなりすればいいんだから」



虎もサーベルタイガーも同じだろうが。


腹の中でボヤいたオレは、洞窟を出る一歩前で魔力が少ない奴らでも生活の為に使える無属性魔法“フラッシュ”を唱えてから再度二人に“頼むから気を引き締めろよ”と喝を入れた






━━━━━━━━━━━━━━━

ストレインジグリーン・迷いの森

━━━━━━━━━━━━━━━






正体不明の生き物が不規則に鳴き散らかす声に、得体の知れない何かがザワザワと騒がす音にいい加減気が狂いそうなオレ。遠くの方だったり、すぐ横から聞こえてきたり。


…自慢じゃねぇが生粋の虫嫌いな性分のおかげでさっきから鳥肌が止まんねぇんだよ。



「おいシリウス。まだ見つからないのか?」


「…ああ…見当たらないな」



「ねぇ、どこ歩いてっか分かってんの?」


「…ああ、なんとなくな」



「「なんとなくってなんだよ!」」



オレ達の文句の声が森の中を虚しく響き渡る。この際もう何でもいいから出てきて欲しい。暴れ回ってれば虫の声も気にならなくなるだろ。


手の平サイズのクモとか足の大きさくらいのアリとか等身大の幼虫とか出てきたらどうするつもりだ。むしろバケモンとして出てくるならそんなに小さい訳ねぇよ。普通に等身大のトカゲとか出てくる感じだろコレ。


さっきからずっとシュミレーションしまくってるけど、どうやってもオレが気絶する以外の選択肢が思い浮かばないしアリだろうがクモだろうが想像上のオレ、必ずぶっ飛んでたぞ。


…てことで無理ッ!ゾッとするわ!


だってうねうねしてる系とか、足大量系とかどうすんの?二人ともオレの事守ってくれるよね?そこら辺とかもっと話し合わないとアレだよ?


…オレ、冗談抜きで戦力外だからね?



「おいソウ俺から離れろ。湿気が凄いからベタベタするな暑苦しい」


「そ、そんな事言わないで下さいよぉ…」



「…なんだお前」


「いやあのほらっ、こういう時ってまとまってれば大きな生物に見えるだろッ?」



「…ソウ…。マジ笑えないわ」


「オレも全ッ然笑えねぇし、笑ってねぇからな!?」



スーパー真顔だから。

フラッシュがもう少しだけ光弱かったら顔を照らして見せてやりたいくらいだって。


ビクビクしながら前に進んだ



「ほう…?最強様が虫如きに柄にもなく怖気づいてる訳か」


「ううううううるせぇ!あんまバカにするとオレ帰っちゃうからな!一人でホカホカの布団に入ってぬくぬくするぞッ!」



「ガクガク震えてるクセによく一人で帰るだなんて言えたなソウ。帰りければ帰ればいい」


「そーだぞソウ。お前ならテレポート使えば一瞬なんだからビビってんならさっさと尻尾巻いてルー達に慰めて貰えよ」



「は──」



“ンなことみっともなくて出来るわけねぇ!”

そう叫ぼうとした時、



────ゲロゲロッ



──何かが鳴いた。



「ヒィィィイッ!!!何!?なんなの?!」


「おいゴウ。服伸びるからソウを引き剥がしてくれ」



「ちょヤダ無理!二人共冷たくしないでッ!」


「ブァハッ!どんだけビビってんだお前!」



いやだって今スゲェ耳元でゲロッて言ったじゃん!耳元だぞ、耳元!

ちょっと息みたいな風感じたしオレ!





え、ちょっと待って。──耳元…?



「ななななななぁ!今オレ耳元で聞こえたって言ったか…?」



「ああ、言ってたな」


「おうよ、オレもバッチリ聞いてたぞ」



「ちょ!笑ってんなよ!だっておま、耳元ってそれ…」


「──おいバカ!やめろ!光を照らすな!」



いやいやいや。有り得ねぇ、有り得ねぇよ。

だって今この辺で──…



────ゲロッ♪



「いっ…!!!」


「「──っ!!!」」



「い…い、イヤァァァァアィァァ!!!」



無理ー!ムリー!!デカい!!デカすぎる!



「チッ…だから見るなって言ったんだ。ソウ、お前は離れてろ。...で、どうするんだゴウ。コレ倒すのか?」


「倒すって!シリウスお前本気で言ってんのか?!言っとくけどこうなったらソウは使いもんになんねぇぞ?しかもコイツ座ってる状態でオレらと同じ目線だぞ…!?」



──グゲッ!!ゲロッ!!



「そんな事はわかってる。だが…相手さんはヤル気に漲ってるみたいだ」


「ああぁぁあもう!クソ!ったく余計な事しやがってお前!ふざけんなよマジで!」



「す、すみまッッせんした!!」



光に照らされたのはオレの背丈くらいの有り得ねぇ程デカいカエル。


これは魔物ではなく“ロッカーフラッグ”とか言う名前らしくこの生物自体が元々デカいらしい。


…冗談じゃねぇよ。

突然変異したらすぐさま自害してやる。


腰抜かしたオレは即座に木の茂みに追いやられた訳だが、この茂みもぶっちゃけ何が潜んでるかわかんないから怖くて座ってらんないんですけど。



「…とりあえず向こうが一歩でも引いたら逃げるぞ!」


「ああ、そうしよう」



こんな気持ち悪いモン見上げて普通に会話出来るコイツらは果たしてオレと同じ生き物なのだろうか。


いや、シリウスはこの世界に長い間居るし任務で頻繁にこの森に入ってるから見慣れてるとしても、つい最近までオレと一緒に“アオガエルきっしょ!キェエェェェエ!!キモイキモイキモイ!!”って指の第一関節レベルのカエル見て騒いでた剛はどんだけ順応能力高ぇんだよ。


いやもう、このゴツゴツしたイボみたいな質感とか見ただけで吐き気だし目が黄色とか恐すぎる!!



「ちょ、ゴウ!早く倒せよ無理キモイ!」


「っく、うるせぇよ!お前が焚き付けたんだろ!コイツの口ん中ブチ込むぞテメェ!」



「ゴウ!ソウはいいからお前は黙って攻撃しろ!」


「チッ…わぁったよ!」



シリウスは背中に背負った大剣を、剛は腰に着けた刀をそれぞれ構えて喋りながら当たり前のように攻撃をしていく。



…え、オレ?

フラッシュ掲げて爪先立ちしながら周りに何も無い所で応援してますが。


だって、木とかに腕が触れた時ヌルってしたらダメなヤツじゃん。絶対見ちゃうじゃん。見て虫だったらどうすんの?だって。



────ヒュンッ!!


ガチッ!!────



「シリウスッ!一旦離れろ!コイツ意外に硬い!」



────ブォンッ!!


ドゴォッ!!────



「…っ、ああ!大剣でも手応えを感じないから考えた方がいいなッ!!」



オレがブルってフラッシュに集まってくる蛾や夜蝶をガン見してる間に剛達が次の手に移るみたいだ。



──いいぞ、早くやれ。



そして焚き付けたのは謝るけどマジでそろそろカエルよりこの頭上に群がって飛び回るこの虫達でオレ本気で発狂しそうだから助けてください。



「神崎流、山茶──」



────エロンッ♪



「…え?」


「「ソォォオォォウッ!!」」



一瞬何が起きたのか分からなかった。

…いや現在進行形で何が起きてるんですか?


剛が神崎流刀術を唱え始めたから安心して気を抜いた所までは覚えてる。あと、このクソカエルの目線がオレの頭上に向いてた事も。


…で、何で真っ暗な訳?



「ソウ!」

「おい!大丈夫か?!」



真っ暗な中、少し篭ったような二人の声が聞こえた。…てか、声遠いんですけど。


やべ、ちょっとわかってきたかもしんねぇ。



「ふ、フラッシュ…」


────パァァァァ…



見たくないけど見るしかないよなコレ。

だって何も見えないってそれはちょっと…



「ひ、ヒィィィィィィイアィっ!!」



ほらクチの中ぁぁあぁぁ!もうヤだよぉぉぉおおぅ!



────ゴツッ!!────バツンッ!!


────ドォォォオォォォオン!!



「ソウッ!今助けるから完全に飲み込まれるなよ!」



────ドゴォッ!!────ザシュッ!!


────ゴオォオオォォオォンッ!!



「くっ…だがコイツ硬くて剣が通らない!」



い、今すぐ助けてください!!


ふにふにしてたしオレの許容範囲を軽く超える程度にヌルッヌルだしわかってたけどさ!でも飛んでる虫ごと飲み込まなくても良かったじゃん!


ぺっちゃんこに潰れた蝶の羽とかコイツの舌に貼り付いて今にもオレに当たりそうなんだけど!



「ちょ、もうムリですッ!無理だからぁッ!で、で、でり、でぇッ、デリュージュ!!」


────ゴオォォォオオォォオォ!!



「「おい──ッ!」」



…一か八かだった。



極度のパニック状態で何を唱えたらいいかわからずとにかく口内から出る事だけを考えて咄嗟に叫んだのは水属性の中級魔法“デリュージュ”。


胎内の粘膜に耐えられず…唱えてしまった。



「うわぁぁぁあぁあぁぁあッ!!!」



自分が吹っ飛んでも、カエルが吹っ飛んでもこの際どっちでもいいからオレはカエルの口の入口を背にして胃袋に向かって大洪水を起こしたのだ。



────グェェエェエェァアッ!!


「う、…ウォエェェエッ!!」



カエルの苦しそうに吐き出す声につられて、オレまで吐き散らかす始末。


顔とかにバチバチ当たってるのは木の葉だろう。吐き出されたと言うより打ち上げられた感じか。


…くそぅ…情けねぇ。




「──ソウッ!」


「ウェッ!?」



パニックで気が遠くなりそうな中、オレを呼ぶ声が聞こえると同時にガシッと身体が何かに包み込まれる感覚がした。



「おま、ふざっけんなよッ!」


────ボコッ!!


「いてっ──ゴウッ!!」



どうやらオレの愛しい相棒が、咄嗟に捕まえてくれたらしい。ついでに殴られた。


…うむ、やるなコイツ。



「お前のそのヘタレ具合もここまで来るといっそ清々しいわ」


「はは、ごもっともでございますな」



ブリブリと文句を垂れながら剛の身体が浮いたり沈んだりする感覚から察するに、木の枝を伝って地面に降りてるのかと思われる。


…お前の包容力で気絶しそうなんですが。

いやむしろ安心しすぎてこのまま死にそうなんだけどオレ。



「──ッ大丈夫か?!」


「おうよ、なんとかな」



一際大きく剛の体と共にオレの身体も揺れで地面に着地すると、すぐにシリウスの声が聞こえた。



「はは、ヤベ…怖かったわ…」


「怖かったじゃねぇよ!降りろクソ野郎!」



「痛でぇッ!!…ちょ、もっと優し──」


「ふざけんなッ!ふざけんなよお前ッ!」



「おい、ゴウやめろ!ソウが死ぬ!」


「おうよ殺してやんよッ!」



「いっ」



…ってぇス。

その蹴り打撲どころじゃねぇス。


着地と同時に投げ落とされたオレはそのまま剛に本気蹴りされた。…やむを得ない。


オレのせいだからしょうがないけどさ、オレ喰われかけて精神的にアレなんだぞ!?完全なる戦力外だった事はスライディング土下座して謝るから少しは労れよ!



「ゴウ!もういいだろ!」


「クソがッ!少しは人の言う事を聞けよバカ野郎ッ!」



剛の声がより一層響き渡り、大きく振りかざされた腕がオレ目掛けて飛んでくる。



「…ッ」


「やめろと言っている」



そして、寸止めの所で剛の動きが止まった。


…助かった。



「うぅ…い、てぇ…」


「クソ!お前シリウスに感謝しろよ!コイツ居なかったら今頃ボコボコにブチ殺して裸で木に括りつける所だったんだからな!聞いてんのかゴルァ!」



「す、…ませ…ん、した」



…てか威力。やっぱ人間じゃねぇだろお前。

今息吸えませんからねオレ。



「まあ咄嗟の出来事とは言えソウの魔法で助かったんだ、もういいだろう。これからサーベルタイガー相手にするんだからあんまり痛め付けてやるな。」


「コイツのせいでこうなったんだからテメェでケツ拭くのはあたり前だろうがッ!」



静かに宥めるシリウスに対峙して剛だけが、いつまでも怒鳴り続ける。蹴られまくって乱れていた呼吸が落ち着いてくると、いくらか冷静になって辺りを見渡せた。



…本当だ。

さっきの馬鹿デカいカエル居ねぇし。

水の勢いでオレだけじゃなくヤツも吹き飛んだのか。



「サーベルタイガーの相手は例えソウが居ても向こうの数によっちゃ戦力不足かもしれない。ただでさえ危険だというのに戦力を潰す訳にはいかないだろ?」


「…フンッ、クソ野郎」



ふいっと顔を背ける剛。


何をそんなに怒ってんのか言ってくれないからわかんねぇけど、今までにねぇくらいキレてることだけはよーくわかった。



「ほら、立てるか?ソウ」


「あっ…ありがと…ございます…」



痛み3%気まずさ97%の割合で顔が見れません。もうホントお見苦しいところをお見せ致しまして…。



「チッ…ほっとけよそんなの」



オレの腕を掴み上げて自分の肩に回したシリウスがそっと立ち上がると、剛がオレを見下すように冷たく言い放った。



「…何言ってんだお前。ソウがヤツの口から噴き出た瞬間にすぐ飛んでったクセして笑わせるな」



「し、しょうがねぇだろ。コイツに怪我させるとうるせぇのが待ってんだから」


「あーはいはいそうだったな。お前の恋敵のあの物静かそうな女だろ?ルノ・アンジュ…だったか?」



「チッ…そんなんじゃねぇよ!」



頭から“プンスカ”って文字が浮き出てきそうな程にぶー垂れる剛はガニ股でズカズカ先を歩く。


オレに目もくれない辺り、どうやらオレは本気でヤツを怒らせたらしい。


そして…お兄さん達、外明るくなってきてますヨー。



「あの…シリウス…」


「んぁ?言っておくが俺は変わりに謝らないからな」



「いや、そうじゃなくて…太陽が──」



“昇り始めてます…”そう言おうとした時、



────キェエェエエェッ!



オレが虫に出会した時のような咆哮が上がった。



「──っせぇコラァッ!」


────バチュンッ!



「「ッ…」」



だが、それはほんの一瞬の出来事で、咆哮と同時に怒鳴った剛がその声の主を即座に葬り去ったらしい。



「…なんだ今の…」


「ああ、さっきのお前の魔法で土が抉れた所から剥き出しになってたマンドラゴラとかいう魔物をアイツが踏んだんだろ」



「詳しく」


「…マンドラゴラはマンドレイクと言う植物が変異した魔物なんだが、一体でも啼くと辺り一面のマンドラゴラが覚醒して聞いた者が気絶する事もある厄介な魔物だ」



「…それを?」


「アイツが一瞬で真っ二つにした」



「一体だけか?」


「いや…見ろ」



シリウスの肩を借りながら剛の通った道を後から汲まなく見ていくと小人のような形をした木の根が人で言う額の部分から上がガッツリと切り離されたのが無数に転がって居た。



「え、これアイツが一瞬でやったのか?」


「らしいな」



「…」



えぇぇぇ何アイツ凄くねッ?!

オレの知らない間にそんなに強くなったって言うのかよ!!



「──おいソウ。ミアがマンドラゴラの花の採取がどうとかって言ってたよな…?」


「え?…あ、ああ、言ってたが?」



「これだろ?」



“ん”とつっけんどんに差し出されたのは切り離された所から赤黒い液体を垂れ流した綺麗な花だった。



「おま…」


「多分今ので20は倒してるから四つ任務完了だろ。花は…咲いてんのと咲いてねぇのがあるからアレだけど、とりあえずオレはボックスとか無理だからお前が持ってろ」



「…ああ」



半ば押し付けられたように渡された茎の束をシリウスと少し眺めてからボックスにしまった。剛はオレに託してすぐに前に向き直りまたしても先を歩いて行く。



「ゴウ…」


「…お前も大概バケモンだが、アイツはお前以上に計り知れない能力を隠し持ってそうで末恐ろしいな」



「…全くだ」



さすがに予想外だったから結構オレ動揺してるんだけど。──前を歩く剛の背中が少し遠く感じた。



「…てかソウさぁ、お前魔法慣れしてんだよな?」


「…多少なら…」



「ならいつまで人の肩借りて歩いてんの?」


「──ッ!」



言われるまで気付かなかった。



「みっともねぇとこ晒すな。思い出したなら早く回復しろよ迷惑かけやがって」


「…悪ぃ…」



何故かボロクソに怒られて謝るハメになったが剛の言う通りだ。


さっきまで転移魔法だフラッシュだ言ってたくせにすっかり頭から離れてたけどそうだよなオレ魔法で回復出来んじゃん。


剛めっちゃキレっキレなんだけどなんか変なもんでも食ったのか?


いや…わかってる…オレのせいだ。



「シリウス…もう大丈夫だありがとな。回復する」


「ん…?ああ。大丈夫なのか?」



「ああ──ライトニング」


────パァァァァ…



魔力を存分に使う広範囲の全回復魔法。

剛に謝っても許してくれなそうだからとりあえず全員の回復もしておいた。



「…マンドラゴラはこの辺にたくさんいるのか?」


「ああ、土の下死ぬ程居るだろうな」



「そうか…シャイニング」


────パァァァ…



混乱させてしまうのは可哀想だが土の中に居る限り目覚める事は無いとシリウスが言ってたから寝てれば混乱もわからないだろ。


とりあえずマンドラゴラさんから魔力を頂いて自分の回復もしておこう。



「…楽になった。ありがとな」


「ああ、いいんだ。迷惑かけたし。オレも全ての傷治ったし魔力も万全」



“マンドラゴラ様々だな”



シリウスとそう言って笑うと、剛がふと振り返ってオレを強く睨んだ。



「…どうした?」


「気を引き締めろと言ったのは誰だ」



「…オレ…?」


「…わかってんならヘラヘラすんな。

お前もわかってんだろ?明るくなってきてんの。時間がねぇんだよ、やるって決めたんならちゃんとしろ。シリウスに迷惑かけるなっつってんだよ」



「ッ…」



正論ド真ん中で返す言葉もない。

ピリピリしてたのはそれが原因か。

コイツ時間とか約束事には昔からうるせぇからな。


オレも親父がそこら辺は厳しくして育ててくれたから一応それなりに出来るつもりだったが、コイツは見掛けこそヤンキーだが、これでも超がつくほどの坊ちゃん育ちだからオレより厳しく育てられてるんだったな。


毎度の事ながら忘れてたわ。



「ソウ…気にするな。まだ時間はあるから大丈夫だ。ヤツらは太陽が真上に上がるまでは活発化しない。」


「…悪かった」



「気にするなと言ってる。それに調べた情報が正しければこの辺で──」



────パンッ!!────パンッ!!



「「「──ッ!」」」



シリウスが何かを言ってる途中でわりと近い辺りから2発の銃声が聞こえた。



「…誰か居る…」


「ああ」



オレの呟きに返事をしたのはシリウス。

先を歩く剛もピタリと足を止めて様子を窺っていた。



「シッ!動くなッ!」



地面スレスレに腰を落とした剛が、オレ達を制しながら辺りを見渡して音の方角を確かめる。


いつになく集中している剛を見ると、言われた通りにジッとする事しか出来ない。なんだか、誰が先頭切って歩いてんのかわからないチームだ。


シリウスも特に出しゃばって何か言うわけでもなく普通に剛の言いなりになって行動してるが、それでいいのかよ。



「まあ…アイツ張り切ってるからな」


「…ああ」



オレの思ってる事が届いたのか、シリウスはそんな事を言った。



────ガルァァアァァァッ!


────パンッパンッ!!────パンッ!!



────グルルルルル…


────パンッ!!────パンパンッ!!



今居る位置から向かって左か…。


百獣の王が吠えてるような鳴き声だが、木が所狭しと並んでいるおかげで何かを目で確認する事が出来ない。


…ただ、咆哮と銃声の間に人らしき声も薄らと聞こえる。



「子供と大人の二人か…?」


「…恐らくな。一人は男だとわかるのだが…

もう一人は判別がつかない」



「…おい、こっちに来い」



少し先で音のする方角を確かめていた剛が遠くを覗き込むように背伸びをしながらオレ達のことを手招きした。



「──アレ…って」


「ああ、サーベルタイガーだ」



「嘘だろ…?」



近付いたオレ達に“あそこだ”と指を差して視線を誘導させた剛の指先に見えた光景は、少し開けた空間にポツリと立つ二本の木。


その一本ずつに一人の男と明るい髪色の子供?のような影が見えた。


木の下には、サーベルタイガーだと思われる熊のような体格をした上顎の牙が角のようにデカい虎がグルグルと木を周りを回っている。そして、驚くべきはその数。


数十単位で群がるサーベルタイガーは、100メートル程離れているここからでもわかるくらいデカい。


…てかイカついッス。



「…何頭か倒してるみたいだな」


「早く行かねぇと木によじ登ろうとしてるヤツもいるぞ」



このまま放っておけば木の上に居る人間が食い殺されるのも時間の問題だろう。


正直デカいとは聞いていたが、ここまで迫力あるとは思ってなかったから若干ヒいてるオレ。


請負人であるシリウスも、いやらしくデカいサーベルタイガーのその数に言葉を詰まらす始末だった。



「ゴウ、今からあの中に入っていくわけだが…お前死ぬなよ」


「あ?ヘラヘラしてるお前に言われたくねぇわ」



「ゴウ!…オレが気に食わないのはわかったから今は黙って頷いてくれ!」


「…はぁ。わぁったよ、その代わりお前も死んだら許さねぇから」


「ああ。──行くぞッ!!」



…充分だ。


シリウスが後ろでオレ達を引き止めてるのがわかったが、もう一度でもマジマジとサーベルタイガーを見てしまえば気持ちが負ける気がしたからとにかく走った。


恐らく今見えるそこが住処で間違いないだろう。


近付けば近づくほどハッキリと見えてくるのは、広場に見えた一帯も、二本しか立っていない木もヤツらが生活していく中で、立っていた木が薙ぎ倒されて出来たと思われる空間。


証拠にサーベルタイガーの足元には、ボロボロに朽ち果てた丸太が至る所で倒れている。



『創ッ!もっとスピード落とせ!!』


『一回上げたらなかなか落とせねぇんだよ!虎の弱点はッ?!』



『知らねぇよ!動物なら火が怖いんじゃねぇの?!…オレが追いつくまで待て!一人じゃ危ねぇよ!』


『…火な!?わかった!』



軽く振り返った時にはもう剛の姿が見えなかったステータスの差がここに来てハッキリと映し出された。


50メートル以上離れている剛を待つか…だが、前を向くとサーベルタイガーが集まる場所が目の前まで来てその内の一頭は木の半分まで登っている。



『はじ──』


『やっぱダメだ待てねぇ!説教なら後で聞くッ!』



考えている内に木の茂みから飛び出してしまったオレは剛にそう伝えて、腰から抜いた般若刀を木登りしてるサーベルタイガーの後頭部目掛けて投げた。



────ギャァァアァァィァァア!!



見事に命中したサーベルタイガーがどうなったのか確認する余裕もない。


完全にオレの存在に気付いた別のヤツらが一斉に飛び掛って来るそれをどう捌くか考える事に必死だった。



「イグニションッ!」


────ゴオォオォォオォッ!



アイツ…火って言ってたよな?

とりあえず一旦体制を立て直さねぇと喰いちぎられる。


近寄れないようにするなら自分を火で包むのが一番手っ取り早いはず。


アイツがここ追いつくまで何秒だ?


早く来てくれ剛。



────ガァァァアァァッ!



「…うっ、クッソ!」



────パンッ!!



炎をものともせずに突っ込んできたサーベルタイガーが一発の銃声でオレの目の前に崩れた。



────シュンッ!!



そのタイミングで魔法の効果が収まると、ちょうど木の上でライフルを構える男と目が合った。



「悪ぃ!助かった!」



誰だか知らねぇけど命中率からして只者じゃねぇ。狙われたら堪んねぇからとりあえず相手を怒らせねぇようにしねぇと。



「──ソウッ!」


「遅せぇよッ!早く来い!」



ガサッとオレが抜け出した茂みから飛び出てきたのは剛。コレで少しはラクになる。

動物相手に戦うんだから正直野生の本能で勝てると思えない。


背中を誰かに預けておかねぇと、後ろからガブリとかホント冗談じゃねぇからさ。



「ハァッ…待たせたな…っ、で?どうすんだ?」


「ゴブリンの時と同じだ。逃がさないように壁を作るからお前はボコボコにしろ」



「…わかりやすくていいわ」


「だろ…?行くぞ!!ホットフィールドッ──!」



────ゴォァァアッ



瞬く間に広場の外周を炎で囲っていくオレの手。



「うぁぁぁあッ!!」


────ヒュンッ!!────ヒュンッ!!


ヒュンッ!!────ヒュンッ!!────



────ガァァァァァァアァァッ!!



技を出さずに一頭ずつ確実に倒していく剛。


オレも負けじと目の前に迫るサーベルタイガーを片っ端から切り上げていく。



「…ソウしゃがめッ!!」


「ッ!」



────フォンッ!!────ザシュッ!!


────ギャァァィァァァァア!!



聞こえた瞬間にしゃがんで頭上で何かが風を切って通り過ぎるのを確認してから振り返ると、剛が大将から貰った漆黒斬がサーベルタイガーの眉間に突き刺さっているのが目に入った。



「助かった!」


「おうよ!お前の背中はオレが守るから前だけ見てろッ!」



オレは剛の刀をすぐに引き抜いて刃を下にして剛に投げ渡した。



「──なぁソウ!コレ数減ってんのか?!」


「知らね!居なくなったら終わりだと思え!それまでは一切気を抜くな!!」



「…チッ、わかったよ!!」



────ガァルァァアァァァッ!!



残りの頭数はざっと見積って10頭弱。

このまま数が増えたりしなければなんとかいけそうだな。



「ッラァッ!!…………あ」


────ザシュッ!!


────ギヤァァィァァァァア!!




やべ、武器無くなったわ。



「ゴウ!一瞬だけこっちも頼むわ!」


「はぁ!?てかなんでお前刀持ってねぇんだよ!死にてぇのかバカ野郎!」



「違ぇよ!!間違えて投げたんだよ!」



頭を貫いて掲示板に画鋲で貼り付けられた紙のようになっていたハズのサーベルタイガーは自分の重さで刀は木のままに見事ずり落ちている。


口を大きく開けたまま、頭が真っ二つに割れてるサーベルタイガーは死んでも尚、息を吹き返してきそうな迫力だ。


オレは噛み付こうと大口を開ける一頭の頭に飛び乗り、その反動で自分の刀の刺さる木まで飛んだ。



「…よぉ、もう少し待ってろよ。コイツら殺して助けてやるから」



光景を目に焼き付けるようにマジマジと見つめている気の上に居た子供に声を掛けて、オレはすぐに引き抜きた刀二本を剛の背後に迫るサーベルタイガー二頭に投げた。



────シュンシュンッ!!



────ガァァァァァァアァァァァ!!!

────ギヤァァィァァァァア!!



やっぱ、ボシーヘイデットの地下牢で戦ったバケモンもそうだし、ギルドで倒したバケモンもそうだったが、体がデカければデカい程吠える声の大きさも比例してくるんだな。


鼓膜が破れそうな咆哮を浴び続けて軽い脳震盪(ノウシントウ)に苛まれる。──キツい。



「おい!刀ッ!!」


「ああッ!」



目前の一頭を倒し終わった剛が振り返って倒れる二頭からオレの刀を引き抜くと剛もオレと同じようにして刃を下にそのままオレに投げてきた。


…残りは五頭。



────パンッ────パンッ!!



…いや、三頭か。


木の上からさり気なく応戦していたスナイパーが二頭に倒してくれた。


そしてオレ達は信じられない光景を目の当たりにした。



────ガァァァァァァアァァァァ!!!



「ゴウッ!離れろ!」



一頭のサーベルタイガーが頭を抱えてしまうほどの咆哮を上げると、残りの二頭が吠えたサーベルタイガー目掛けて走って行く。



「何かが起きるからオレから離れるなッ!」


「わかってる!!」



叫び続けるサーベルタイガーにかき消されないように負けじと声を張り上げるオレに返事をする剛。


オレは般若を鞘に戻して、白夜光だけを握り締めて何が起きるか凝視する。横で刀を構える剛もジリジリと警戒しているのがわかる。



そして──



────グォァオェェィオィァァアッ!!!



「「──っ!!?」」



何を思ったのか、声高々に吠えまくったサーベルタイガーは近寄ってきた二頭に食いついて捕食し始めた。


ゴリゴリと骨の割れるような音、断末魔のような叫びが咀嚼する口から漏れてくる。



「…おいおい…信じらんねぇ」


「…っ」



オレも剛も、その様子を唖然として見上げるしかなかった。


そして更に驚くべきは、旨そうに飲み込んだ後に少しずつデカくなっていく図体。


タダでさえ見上げるデカさが、更に膨らむようにモリモリと揺れ動きながら気が付いたら首が痛くなる程に変異していた。



────ヴォオォォオォオッ!!



「っ…!!」

「カハッ…!!」



漠然と見上げるオレらに向かってさっきまでとは違う声音の咆哮を挑発するように吐き出すと、風までがオレらを吹き付けて立っているのがやっとだった。


歪めた顔をゆっくりと戻すとサーベルタイガーは虎柄のストライプが消えて真っ黒な皮膚も硬化されたようにテカテカと嫌な光沢を見せている。


もはやサーベルタイガーじゃねぇ。



「ちょ、ソウ。説明はよ!」


「わかるわけねぇだろ!!」



────ヴォオォオッ!!



「「はい、すんませんッ!!」」



ちょ、なにこれコワすぎ。

恐怖通り越して笑えてくるんだけど。


え、だってコイツ虎だよね?

なんで蛇みたいなウロコ柄ついてんの?

さっきまで普通にフサフサしてたじゃん。


待ってどうしよウケる。




────パンッ────キィンッ!!


パンッ────キィンッ!!────




「「──ッ!」」



弾が貫通しない…だと…?

…じゃなくて!何撃ってんだよソコォォォォ!


お前木の上にいるからオレ達より若干安全かもしんないけどさ、オレ達はこの訳わかんねぇ元サーベルタイガーと同じ土俵でシコ踏んでんだからな?!わかってんのかアイツ!


涼しい顔してニヤけやがってこのイケメンが!!直ちに滅び(ry



────グルオァァウオァアッ!



「ッ…」



…てか戦い方わからないから詰んだ。



「…コイツ吠えるだけで何もしてこなくね?」


「…さっきからチラ見されまくってるから遊ばれてる気がするんだが」



「…それな。“お前らなんぞいつでもわさび醤油で美味しく頂けるんだぞ”的な感じが伝わって来る気がする」


「…ッ…へぇ」



ゴメン剛、つまんない。


そんな極寒の冗談とかいいからとりあえず獣の視姦やめさせろ。ムラムラするどころか縮み上がってそろそろオレのJr消えそうなんだけど。…嫌な汗止まんないけど。



「──どうするんだ?お前らでもお手上げか?」



…お、おう。お前…シリウスじゃねぇか。

何してたんだよ。


なんでそんな平然と出てこれるわけ?

普通にパニック状態で戦ってたんですけどオレら。



「あの…なんか、うん。ソウ…この視姦獣倒す前にこのクソ倒していい?」


「いや、ゴウ…“クソ”はさすがにアレだからせめて“クソ野郎”に留めておけ」



「いや、本当にすまない。お前達があまりにもハツラツと暴れ回ってるから入ったらついでに殺される気がして入れなかった」



多分今めっちゃシラケた顔してるよねオレ達。目とか細めすぎて糸みたいになってるよね


最初から二人しかいなかったみたいにお前の事なんて微塵も思い出さなかったぞ。請負人が存在消してどうすんだよ。許されるのかそんなことが。



「あはー…何喋ってんのかわかんねぇし腹立つから一発殴っちゃっていい?」


「…よしやれ」



「ちょ、ちょっ、悪かった。悪かったと思ってる」



ちょ、じゃねぇよ!

お前はキャラ的に“ちょ、”とか言ったらダメなタイプだろーが!!キャラ守れよ!訴えるぞ!



「じゃあさ、ほらアイツめっちゃ暇そうに見てるじゃん?一人で倒してみ?」


「ああ、いいなそれ。オレら疲れたしサーベルタイガーに出会す前にオレが回復したから体力も万全だったはずだもんなー」


「…」



「“悪かった”って思ってんでしょ?」


「ッ…ああ」



「じゃあ誠意…見せてみ?」


「…ッ」



ヤバい、剛の言葉攻めでサド野郎が屈服しかけてる。シリウス泣きそうだけど。俯いてるけど。もうこれイジメ、可哀想。



『そのへんにしとけ。コイツ真に受けるから』


『わかってるよ。321でいいか?』



『ああ』


『じゃあ行くぞ、』



“3”



“2”



“1”



「「うらぁあああぁぁぁあッ!」」


「え──?」



剛のカウントダウンに合わせて視姦獣目掛けて走って行く。


このバケモン何もせずに寛いでオレ達のこと眺めてたけど、コイツまさか雄叫び上げてオレらを怯ませた事忘れてねぇよな?許さんぞオレは。根に持つタイプをナメんなよ。


唖然とオレらを見上げるシリウスがあまりに可哀想だったから、口に出して他の奴に聞かれるのも癪だったし念話で“お前に怪我させらんねぇよ”とだけ伝えておいた。



「──っし、ゴウ!コイツの口をどうにかして開けろ!その後はオレの仕事だ!」


「あいよッ!」



気前よく返事をした剛は、刀は抜かずに横たわるヤツのケツから頭に向かって走って行く。


オレはダレけきった腕から頭に飛び移った。



「んー。もうコイツ倒さなくていいんじゃね?ってオレ思っちゃってるんだけど…」


「…ダメだ。さっきまでの暴れっぷり見ただろ?そんなのが街に出て来てみろ、皆仲良くコイツの餌だ」



「えー?!じゃあなに?わさび醤油?」


「だからそれつまんねぇっつってんだよやめろよ!」



「は?!つまんなかったの?言われてねぇけど!!」


「…まさかウケてるとでも思ってたのか?」



「いや…ややウケ?」


「ねぇよ!」



────ウォオォオォオ──



「引っ掛かったな!よし、ソウ行けッ!」


「え?…ちょ、──え?!」



────オオオォォォォォオ



「ほら、口空いたぞ行けよ!」


「えっ、今?」



嘘だろ力でこじ開ける系じゃないのかよ。まさかの忍耐勝負系で挑もうとしたのかコイツ。すげぇチャレンジャーだな。


たまたま口開けたからいいものの、開けなかったらあのつまんねぇ漫才みたいなの永遠とやるつもりだったのか。



「早くしろよッ!ビビってんじゃねぇ!」


「ビビってねぇよ!分かってるわッ!」



…いや、でも行くしかねぇか。

何はともあれ口開けてもらったし。約束だもんな。



────オオォォォオォオ───



「お前ら全員離れてろよッ!」



────ォォォオォオングッ!!



オレは“どうぞお入りくださいませ”と言わんばかりにわざとらしく開かれた口の中に入った。


…クチくっさ。





━━━━━━━━━━━━━━━

サーベルタイガー?体内

━━━━━━━━━━━━━━━





おう…やっぱりか。


引っ掛けられてる感じめちゃくちゃあったから内臓まで防御力MAXだったら消化されて糞として出てくるって一応腹括って中に入ったが、普通にヌメヌメしてて安心した。


そして何よりホント臭いし、歯の間にさっき食われたサーベルタイガーの破片が…。



「うっ、うぇえぇぇぇッ!!」



…まあ手始めに吐いといたよね。


よし、オレの到達目標は腹部。

今頃口の中で変な味がして飲み込もうか迷ってるハズだ。


いつもならこんな事絶対やりたくねぇけど、カエルの口内に入って既にドロドロのヌメヌメだったから今更気にしねぇよ。


…ていう事にしといて。泣きそうだから。



「てか、コイツの体内アトラクションかよ。普通に歩けるってなに「」



歩き進めながらそんな事を思った。

確かに柔らかさ的に“あ、体内だな”って感じするけど、なんかもう…そういうアトラクションだと言われたらそれでいい気がしてきた。


…鼻もげそうなくらい臭いけどさ。



「…お?ここ胃袋じゃね?」



真っ暗な中自分が灯した光を頼りに歩き進めると、暫くしてから足の踏み場が更に悪くなった。土足でベッドの上跳ねてる感じ。


よし、ここならダメージ与えらそうだ。


オレ、コイツの腹カチ割って腹から外に出てったら何太郎になるんだろ。


…つまんねぇ事しか言える気がしねぇから深く考えないけど、アイツら先帰ってなきゃいいなぁ。


オレはヤツが動いてない事を考えて、上に向かって攻撃を繰り出す事にした。腹地面にくっつけて寝そべってたから“切っても出れなくね?”って、歩きながら思ったからだ。



「…え、ちょっと待って。これ、どの道殺すまで出れねぇやつ?」



やべぇ、気付いちゃった。

コイツの表面上の皮膚、バリ硬だったじゃん。…って事は内側から切り裂いて出る事も不可能だよね。だってあの硬い皮膚が待ってるんだもの。



「え、一回出て考える時間くれるかなコイツ。って…くれるわけねぇぇぇぇえッ!!」



うわーお、オレってば勇者。


地味に痛めつけるしかないのか。

だからコイツ余裕で口開けてたのか。

…はぁ。視姦獣よりバカなオレってなに。


はは、どうしよ、普通に焦ってきたんだが。



「は、はは、まあとりあえず?攻撃してみて?それからだな、うん。余裕余裕。超余裕。…か、神崎流、石榴(ザクロ)


────スススススススッ!!



ただ、攻撃して痛めつけてもちょっとズキッてするだけでダメージにならない気がしたから、とりあえず腹の中で赤く炎症になってる所を中心に突き技で攻めてみた。


これで普通に痛がるなら少し威力の高い技を使いまくって内側から倒す算段がつく。


さて…



────ウォオォォオォオッ!



「うわっ、お、おい!暴れるとか聞いてねぇよ!やめろ!大人しくしてろッ!」



ヤツは想像以上のダメージだったらしい。

てかコイツ…ろくなモン食ってねぇだろ。


ぶっちゃけ光属性の魔法“フラッシュ”を使って辺りを照らしているから、それに重ねた魔法が使えない。辺りを確認しながら攻撃をしたいのであれば、魔力を使わない神崎流の刀術で攻めるしかない。


まあ、逆に好都合だったりするんだけどな。

オレの使える魔法は威力の高い技ばかりだから、変に連発すれば必ず自分も巻き込まれるし。


とにかく胃袋っぽいこの空間は爛れたように色んなところが炎症を起こしてるから攻撃も効きやすいハズ。痛みを体で表しているのか、どこかに掴まっていないと立っていられない。



「クソッ!連れ去られたらめんどくせぇ!」


────シュン…



「クラッグウォールッ!!」


────ゴオォォオォッ!



これ以上ふざけてる場合じゃない。

簡単に言ってしまえばオレがコイツに今やった事は口内炎に爪楊枝を刺し続けたようなもんだ。


一度二度なら耐えられるものも無数回に渡って地味に突っつかれたら痛てぇに決まってるわ。


胃袋の入口まで走って自分の安全を確保すると、岩で出来た壁をオレと胃袋の間に作り上げた。


フラッシュはもういい。

こんなんじゃいつまで経っても出られねぇし。



「──エクスプロージョンッ!!」



オレは防火壁となるように作った壁に手をつけ、壁の向こう側に魔法が流れるように念じた。


ほんのりと暖かくなるのが分かるという事は、向こうでしっかりと発動されているって事。


少しくらい様子のわかる隙間を作れば良かったと思ったが、そんな事言ってる場合じゃない。何せ今発動した炎の玉を爆発させるつもりだから。


巻き込まれたら一瞬で消し炭になれる訳だ



────ヴォオォオッ!



「うわっ…クソッ!足場が悪ぃっ!」



グラグラ揺れる体内で必死で壁にしがみつくが、揺れの力が思いの外激しいおかげで、どっちが攻めてるのかわからない。


ただ、空間を隔てたこの場所ですら汗が吹き出るほど暑いって事は尋常じゃないくらいの温度が間違いなくコイツを襲ってる。



────ヴォァァアッ!



苦しそうな声も健在。



「…あれ?不発?」



今か今かに待っていた爆発音が聞こえてこない。胃液が炎を消してしまったのか?…そんな弱いハズねぇだろ。


いや、わかんねぇ。壁のせいで向こう側がどうなっているのか確認出来ないからな。



「──チッ…フレイム…バーストッ!」



────ゴゴッ…ドカァァアァァンッ!


────ギヤァァィア!!



威力はエクスプロージョンより劣るが発動が早い分確実に攻撃できる。



ぜぇぜぇ息をするコイツの様子はあともう一押しで力尽きそうな程弱った。



「おう、涼しいからそのまま口呼吸してろよ」



そしてオレは効果が弱まり始めた壁を見て消える前にもう一度だけフレイムバーストを唱えると再び胃袋の中に戻った。



「あーもう…めんどくせぇよ」



──しかし驚くべきはコイツの生命力ね。


自分の腹の中で二回も爆発が起きたというのに死にかけとはいえ、まだ生きてるなんてな。


所々焦げた痕が残る胃袋は爆発前の綺麗なピンク色ではなく赤黒くなっていて肉を焼いた時の独特な匂いが充満してた。



「…お前しぶといな…」



ラクに殺してあげられないのは正直辛い。


オレの考えは、胃袋爆発させてそのままオレも体外へ投げ出される予定だったのだが、思いの外頑丈だった。


全く恐れ入るよこの世界のバケモンは。



『ソウ、大丈夫か?こっちは黒煙出してもがいてるが…生きてるか?』


『ああ、そろそろ消化されそうだがなんとかな』



『そうか、後少しで倒せると思うからもう少し頑張れ』



それはシリウスからの念話だった。

アイツの落ち着いた念話を聞くと、また高みの見物をキメ込んでるのがよくわかる。


どうにも手が出せないからしょうがないのだろうが嘘でも一緒に戦ってます的な雰囲気を少しは出して欲しいわ。



『ゴウが今そっちに行っ──』


「──ソォォオォォオッ!」


…愛しきオレの相棒




──襲来。

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