表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/24

ボシーヘイデッド編~ギルドのお仕事~

━━━━━━━━━━━━━━━

ボシーヘイデッド・ホテル

━━━━━━━━━━━━━━━

~翌朝~





「──きろ…──ソウ」



意識の向こう側で誰かがオレを呼んでいる。

この高すぎず低すぎずの声は…剛か。



「──起きろって!」


「んぁー…もう少し…」



体がダルい。動きたくない。

でも早く起きないと剛が次の行動に出る。


頭では体を動かそうとしてるのにイマイチ力が入らない。



「おい、いつまで寝てるんだ」


「な?だから言ったんだよ。コイツ朝弱いからなかなか起きねぇんだって」



剛…?と、もう一人居るのか?



「ん…誰だ…?」


「ほう?9時間前に会ったのにもう忘れたのか。ツレない男だな」



9時間…?

区別の出来ない声の正体が気になって、やっと布団から顔を出した。



「おはよう」

「おそようさん」



「ゴウ…と、シリウス…」



なんでお前らが一緒にいんだよ。



…え、てか9時間前?!



カバっと飛び起き、壁に掛けられた時計に目を向けた。



「──もう昼過ぎだ」


「んあー…悪ぃ」



「お前起きなかったからオレらだけで、すぐに終わらせられる依頼受けに行ってきたんだよ」



自分の目と耳に飛び込んできた時刻に頭を抱えていたら剛が更に驚かすような事を言いだした。



「は…依頼?」


「おうよ!昨日お前帰ってこなかったから説明出来なかったけど、あの記録を正式に情報として受理してもらって全員ギルドに登録したんだよ」



「あー…」


「なんかオレらの平均ランクがSランクなんだけど、いい依頼を受けるにはまた別のランクが必要で、依頼を少しずつこなしてランクを上げていかないと高ランクの依頼は受けれないんだと」



なんか元気よくペラペラ喋ってるけどさ、寝起きでそんな事言われても…



「…よくわかんねぇわ」


「まあ、所謂信頼度って言うのか。

依頼はルーキー、ビギナー、アマチュア、プロ、マスターの5ランクに分かれていて、それぞれのランクの依頼を20件ずつ達成すれば次のランクの依頼が受けれる」



剛の代わりにギルドマスターであるシリウスがわかりやすく説明してくれた。



「そうか。その任務は同時に複数受けてもいいのか?」


「大丈夫だ。ただ、依頼によっては制限時間があるものや、複数不可のものもあるからよく見ておかないと達成として扱われなくなる場合がある」



さすがはギルドマスター。

なるべく喋りたくない性格からくる一種の技なのだろうが要点だけまとめて実にわかりやすい。



「わかりやすかった。…で?依頼はどのくらい受けてきたんだ?」


「とりあえずお前以外全員アマチュアまでランク上げしてきた」



「は?40件依頼をこなしたのか?」


「まあそうなるな」



なんだその置いてきぼり感。

オレもすげぇ行きたかったし。



「お前は来なくて正解だったよ」


「…は?何故だ」



オレの表情を読み取った剛がそういうと、シリウスが口を開いで割り込んできた。



「基本的にアマチュアになるまでは、研修のようなものでこの国の外に出る依頼はない。ある程度戦えるステータスを持っている輩は、大体序盤の依頼で嫌気がさして来なくなる」


「…?」



ちょ、意味。



「ルーキーの20件は主に収集依頼だ。

〇〇を〇個採集しろだの、壁内2時間で15袋分のゴミを拾えだのそんなのばかりだ。それからビギナーの20件は軽い討伐。地下水路のドブネズミを駆除しろだの、巣を破壊してこいだの、民家に大量発生したゴキブリを駆除しろだの。蜂の巣を駆除しろだの」


「…で、お前達はそれをやってきたのか…」



「…おう」



剛は遠い空の彼方を眺めていた。


オレに引けを取らない程に虫嫌いな剛がゴキブリの駆除。


この反応は軽く4、5回くらい気絶しただろうな。



「アイツらもか…」


「アイツらすげぇ逞しかったぞ。最初こそビビってオレの背中に隠れて近寄れなかったけど皆でビクビクしてても終わんねぇからっつってフィーが悲鳴上げながら頑張ってた」



「ルーは?」


「アイツは地下水路で、顔に陰落としながらフィーごとネズミの巣を爆破させてゴキブリん時は一言も発さずにゴミ屋敷ごと火をつけてボヤ騒ぎ起こしてた」



うわ…やべぇ…。

“気持ち悪い”が最上級まで達したやつじゃねぇかよ。



「…鎮火してきたのか?」


「いや、あの家は夜逃げされた家で、もう造りも古かったから更地に戻した。俺が許可したから問題にはならない」



「アイツずっと風呂入ってるらしい。さっきフィーから念話きた」


「余程気持ち悪かったんだろうな」



可哀想なことした。

…とは思うが行けばよかったとは死んでも思えない。まず、そもそも虫嫌いだしネズミとか汚ぇし考えただけでも鳥肌モンだわ。



「結局それを全てこなしたからアマチュアまで上がったのか」


「まあな。…大変だったけど」



「…悪かった」



行けなかった代わりに謝った。


いや、だがそれにしてもオレが寝てから8時間もの間によくそれだけの依頼を終わらせたもんだ。


何時からギルトに行っていたのか知らないが、そんなすぐに終わるようなどうでもいい依頼ばかりなのか?



「40件…って凄いな」


「…ギルトに来る奴らは受付に居る双子の糞ガキから渡される注意事項を読まないヤツが多い。だから大抵の奴らが慣れるまでは依頼は1件ずつしか受けれないと思い込んで、その手間に面倒を感じて来なくなる」



「…ああ」


「お前達は昨夜共に飲み交わした仲だったし、少し助言して受けれる依頼を一気に受けさせたんだ。収集系の依頼の穴場や、駆逐系の依頼の裏技とかな」



穴場って…いや、裏技とか。

つか、語り合ったってなんだよ。



「お前達にそんな時間あったか?」



オレがそう訊くと二人は顔を合わせて気まずそうに俯いた。



「…お前がいきり立って飛び出してくると思ったから暫く帰らないでフロントで待ってた」


「…まあ、そんな気がしたからソウが寝てからフロントに行ったらシリウスが居て…少しな…」



「…」



絶対何かやらかしただろ。

そういう目で睨むと、慌てて言い訳を始める剛。



「いや、殴り合いにはならなかったぞ。…な、シリウス」


「ああ」



「…だが?」


「む、胸倉は掴…み、ました」



「はぁ…」



だと思ったわ。

コイツがする事なんて先が読めるから聞くまでもねぇのに何で探り入れたんだオレは。



「気にするな。お前を想っての行動だ。

…どこぞの知らない奴に長時間拘束されて日が変わってから帰ってくるなんてコイツの心配を考えたら胸倉掴まれたくらいどうってことない」


「…悪かったな。──おい、お前謝ったんだろうな?」



「あたりまえだろ!まずコイツいい奴すぎて怒る気にもならなかったわ。今じゃマブダチみたいなもんだよな?」


「マブ…ああ…そ、そうだな」



嬉しそうに肩に腕を回す剛と、されるがままに体を揺らされるシリウスの温度差。呆れて鼻で笑う程度が限界だった。


…シリウスが心広くてよかったわ。


ベロベロになった知り合ったばかりの野郎の介抱して、心配で帰れなくて挙句訳わけんねぇ奴に胸ぐら掴まれて。…どんな厄日だし。


オレと知り合って負のオーラが移ったのか?

こんなにイケメンなのに勿体ねぇ。



「…てか仕事はどうした?」


「ああ、13時過ぎたから休憩だ」



「休まなくていいのかよ」


「知り合いに浴びるほど飲んでグデグデに酔っ払った奴が居たからな、気になって飯どころじゃなかった。そいつの親友が今から起こしに行くと言っていたから同行させてもらう事になってな」



いや、すげぇいい事言ってるんだが、すげぇイヤミにしか聞こえねぇんだけど。


ナニコレ、ツンデレとかそういう類のアレ?



「…はは。で?ソイツ大丈夫だったか?」


「ああ、こっちは一睡もしないで仕事に出たって言うのに呑気に8時間も寝てたな」



「…すんません。…え、てか何時から仕事してんだよ」


「今日は寝たら起きれないと思ったからコイツと話終わってそのままギルド向かって…4時頃か?」



「ッ…」



ああああああもうホントすんまッせんッ!

いいヤツだって分かってたけど、それは良くねぇよ!


友達との付き合い方がわからないパターンかこれ。



「2時間休憩貰ったから少しここで寝かせてくれ」


「あ、もしかしてそれ目的で来たのか?」



「いや、純粋にお前が心配だった」


「ッ…」



くっそイケメンッ!ここまでくると滅びろどころじゃねぇよ!崇めさせてくれ!ってレベルだわ。



よかった男に生まれてきて。

ママン!オレに棒とタマ付けてくれてありがと!こんなヤツに惚れたらドツボにハマって這い上がれなくなるところだった!



「ソウその顔やめろウザい」


「は?」



「ムカつく」



…剛のおかげで我に返ったけどな。

つかその顔ってどんな顔だし。



「…まあいい、とにかく少し寝かせろ。お前達に今日は一日出来る限りランク上げするんだろ?」



ドサッとオレがさっきまで使っていたベッドに横たわるシリウスは、あくびを交ぜながらダルそうに剛に訊いた。



「その予定だが?」


「ソウ、お前はどうする?ルーキーランクから1人でランク上げするか?」



え、ちょっと待って…それなんて言うゴキブリ…?


うわぁあぁっムリムリムリムリ!!!



「…というよりシステムを理解してないんだが一緒にいるヤツの依頼に混ざる事が出来るって言ったよな?」


「ああ」



「なら、コイツのランクで依頼を受けたらオレのランクってどうなるんだ?」


「…やっぱりお前も紙読んでなかったか」



「すんません」


「…高ランクの依頼に混ざれるのはアマチュアからだ。それ以下のランクは1人でも出来るような内容が多い。都合がいい事にコイツらのランクはアマチュアまで上げてある。そこにお前が参加したから、5つの依頼を達成する事でアマチュアまで飛び級できる」



てことは?

オレ以外の剛達三人が引き受けた依頼を5件こなせばオレもアマチュアランクまで上がるのか。



「そもそもゴウ、お前なんでアマチュアまでランク上げしようと思ったんだ?」


「…シリウスがそこまで上げとけって言ってたから」



はーん…。

オレが他の奴より出遅れる事を見越して剛に吹き込んだんだな。


…イケメンは骨の髄までイケメンなのか。


すぅっと寝息を立て始めたシリウスをチラ見して思った。



「おい…ソウ。邪魔になるといけねぇから、ルー達の部屋に行こうぜ?」


「…は?チェックアウトしてねぇのか?」



「あーうん。なんかココ24時間でもいいって言うから二部屋丸一日借りた」


「…そうか、なら二時間したら起こしに来ればいいな」



気持ちよさそうに眠るシリウスに布団を掛けてから部屋を出た。







━━━━━━━━━━━━━━━

ホテル・ルシファー達が泊まる部屋

━━━━━━━━━━━━━━━





念の為に受付で受け取った部屋の鍵をかけて

真隣にある女子組の使う部屋をノックする。



「あ、おそよ!」


「悪いな。飲みすぎた」



サッパリしたような顔で出迎えてくれたのはフェリス。



「大丈夫大丈夫!すぐにやらなきゃいけないことがある訳でもないしたまにはガッツリ寝かせてあげようってルーがね」


「ああ、おかげで体が楽になった。…そういえばルーは?」



「お風呂。なんかブツブツ言ってて怖いから近付けないんだよね」



とりあえず入ってと言われてオレと剛は部屋に上がった。



「…アレ?二人?」


「…シリウスの事か?アイツなら寝不足だから少し寝かせてる」



全く同じ形に造られた部屋の中に案内されて、座ってと言われたのはオレ達の泊まってる部屋と同じソファー。


奥から順に剛と腰掛けフェリスは目の前にあるクィーンサイズのベッドに腰掛けた。



「そう。…でもなんか不思議ね。あの根暗イケメンとソウが仲良くなるなんて」


「ホントだよな。コイツが誰かと仲良くなる…ましてや出会ったその日に2人きりで出掛けるなんて今まで無かったからな」



「…確かにな。まあ、あんな感じでスカした野郎だが、ただ人見知りなだけで案外普通の野郎だったぞ」



剛に改めて言われると自分が剛抜きで遊びに行く事がどれだけ珍しい事かよくわかる。


地球に居た頃も、皆越に剛を取られてから誰かとつるむ気にもならなかったし只ひたすら道場で稽古つけて、親父が死んでからは学校とバイト先と家をローテーションで回ってただけの寂しい人生だったからな。



「「ちょっと妬ける」」


「何でだよ」



二人が被せてきた言葉に反応するとフェリスより先に剛が言葉を続けた。



「だってお前、今まで友達作れって言ってもそんな気配全く無かったし寧ろ誰にも近寄ろうとしなかったじゃねぇかよ。なのにこっちに来てからいろんな奴と話すようになってさ」


「そうそう!アタシ達だけのソウ!って感じだったのに今は少し顔が広まって“謎の勇者”とか言われてさリトルウィアークでもキャーキャー言われてたし」



「あの女達は心底どうでもいい」



不満を露わにしてくるのは嬉しいことだが、それを言われたところでなんて反応していいのかわからない。


ヤキモチ妬くな、なんて自惚れたことも言いたくねぇし。



「…じゃあ、シリウスは?」


「…ッ…まあ、アイツはいいヤツだからな」



「ほら、そういう特別がウゼェ」



個人的に挙げられた名前はシリウスだった。

…とんだとばっちりだよな。



「なんで大将とかクリスを置いといてシリウスだけに突っかかってんだよ」


「…いや、だってアイツお前の事大して知らないクセにやたら大事にしてんじゃん」



「なに、お前はオレがいじめられて欲しいのか?」


「違うわ!…あーでも、お前がいじめられてるのを助けに行くのもアリかもしんねぇ」



「…」



ふざけんな。


地球ではどうなのか知らねぇが、今この世界でいじめられた所でオレにとってのダメージなんて雀の涙程にしかならねぇわ。



「まあ、でもホントよ。こうやって一緒に旅するって出てきたけど、いろんな人と出会っていくうちに、アタシ達が疎ましくなったらどうしようとかね」


「…んな訳ねぇだろ」



お前達が居なかったらオレの精神安定剤はどうするんだよ。



「お前、友達っていうかツレの理想高いよな」


「なんでだ?」



「いや、初めて勝手に仲良くなって連れてきた相手があんないいヤツなら、こっちが全力で邪魔したくても出来ねぇじゃん。オレだって…シリウスと仲良くなりてぇし。でもアイツ、オレの事キライじゃん…」



軽く頬を膨らませながら口を尖らせる剛。

…ガキじみた言葉に可笑しさが込み上げた。



「ふ…お前、バカだと思ってたけどホントにバカだったんだな」


「なっ!」



「あのさ、お前は自分の友達の友達とは仲良くなれねぇような狭い男だったのか?違うよな?人の女を取ろうとしてる訳じゃねぇんだから普通に仲良くなればいいだろ。それにお前が嫌われてるんじゃなくてアイツが嫌われてると思ってるから壁が出来てんだよ」


「…は?」



訳がわからないと言ったように、首をかしげる剛に続けた。



「だから、オレとお前が長年のツレだということは、周りから見てオレらをよく知らない奴らですら感じ取れるんだ。

…親友を取られるの嫌だろうなって気を利かせてお前とオレの時間を奪わないように向こうが遠慮してんだよ」


「なにそれ。え、じゃあ嫌われてねぇの?」



嫌うって言うか…まあ、あの物静かな性格だとコイツのゴリ押しには苦手意識を持つかもしれねぇけど、嫌いって訳じゃねぇだろ。



「まあ、これからじゃねぇのか?お前ちょっとしつこいからな、オレに対する態度でグイグイ行ったら引かれるかもしれねぇけど」


「えーだってアイツ、ソウにそっくりなんだもん」



「だからって、性格までオレに似てるとは限らねぇだろ?仲良くしたいなら少しずついけよ。一回嫌われたらなかなか好かれねぇぞ?」



シリウスをいつか仲間にしたいと思ってる事が言えなかった。


剛がシリウスを嫌ってない事実がわかっても口にするのは早いと思ったのか、とにかく言い出せない。


珍しく穏やかに流れている今の時間を壊すようなことしたくねぇしな。



「てか、ルーは大丈夫なのか?…オレ、男だから見に行けねぇし」


「あーうん。わかんない」



オレ達の話をつまらなそうに聞いていたフェリスが、フッと顔を向けて首をかしげた。


…わからないって。

いや、気になるから見て来いよって言ったつもりだったんだが。


まあいい、念話で呼び掛けるか。



『おい、ルシファー。大丈夫か?』


『ハァッ…な、何ィ!?』



『あ、いや、あんまり長いんでな。目が覚めたから顔見に来たんだが』


『あ、え?!そ、ソウさん!?』



『…?…あ、ああ、そうだが』


『ご、ごめんなさい!今、すぐ出ます!』



強制的に切られた念話。

ガッツリ息切れしてたけどアイツ腕もげてるとかねぇよな?


絶対全身真っ赤にして出て来る気がする。



「ルー、すげぇいきり立ってたわ」


「ふふ、でしょ?怖いのよあの子」



「何ィ!?ってドヤされたからな」


「アタシなんて無視されてるからね」



どんだけ不快な任務だったんだよ。

…まあゴキブリとかハチとかネズミとか、オレなら逃げ出すレベルだけどな。



「てか、悪かったな。オレだけラクにランク上げする事になって」


「いいのよ。ソウはちょっと強過ぎるから少しでも追いつかなきゃって勝手に動いただけだから」



「…ありがと」



それ以上の言葉が見つからない。照れるより先に嬉しいじゃねぇかよ。



────ガチャ



「お、お待たせしましたッ!」


「ルー…お前それ…」



「あ、こ、擦りすぎて…」



ホカホカと湯気を纏って息切れしながら洗面所から出てきたのは腕から太ももまでもれなく真っ赤っかのルシファー。


想像通り全身を漏れなく擦りあげたのだと。

すげぇ痛そうなんですけど。



「ルー、ちょっとこっち来な」


「え、?」



「回復よ回復。そんな傷だらけじゃ外歩かせられないわ」


「ブァッハハハハ!!んだよそれ!どこのジャングル行ってきたんだよ!!」



本気で心配するフェリスを遮るように剛が馬鹿笑いしてルシファーを指さす。


オレも軽く笑いそうだけどコレ笑ったらフェリスに軽く殺される気がするから全力で我慢するけどさ。



「キュアルガ」


────パァァァァ…



「あっ…」



痛そうに両腕を掴むルシファーの顔が少しずつ癒されたように和らぐ。


てかその“あっ…”ってやつ止めろ。

恥ずかしいんだけど。ムラっとくるんだけど。



「…どう?少しは良くなった?」


「少しどころじゃない。すごくラクになった。傷も全部消えたし…ありがとう」



「思い出すのやめよう。もうランクも上がったしあんな仕事は二度と受けたくない」


「そう…だね」



オレが寝てる間にすげぇトラウマ抱えて帰ってきたのね。…改めて、ごめんなさい。



「──おいルー。報酬の話しなくていいのか?」


「あ、そうでした」



腹減ったから早く済ませろとアクビをする剛は、ルシファーに促すと“クソに行く“と席を外した。


“クソに行く”ってなんだよ。汚ぇんだけど。



「あの、今日の報酬がルーキーとビギナーの依頼を20件ずつ終わらせたので40件分の達成報酬の3人分のお金を貰いました」


「…報酬は1件につき幾らなんじゃねぇのか?

一人ずつ貰えるのか?」



「アタシもそう思ったんだけど、根暗に聞いたらオマケだって」


「んなもん受け取れねぇよ」



バカじゃねぇの。1件の報酬の相場が幾らなのか予想もできねぇけど40件終わらせただけで結構な額いくハズだしそれを三人分だなんてバカにならねぇに決まってんだろ。


何考えてんだシリウスは。



「でも、その件についてはゴウさんが話し合ってましたよ」


「…ゴウが?」



「ええ、こんなに受け取れないとシリウスさんに」



そこで少し揉めたんだろうな。だから席を外したのかアイツ。


余計な気を利かせやがって。



「…で、押しに負けたと」


「まあ…そんな感じかしらね。言いくるめられたって感じ?」



「…そうか。で?幾らだったんだ?」


「よ、48万ルンド…です」



「はぁっ!?48万!?」



バカ言ってんじゃねぇよ!ふざけろよ!



「ちょっとシリウスの所行ってくる。ルー金渡せ」


「あ…はい」



いくらの報酬だろうがこんなには貰えない。

48万なんて1日で貰う額じゃねぇよ。


これを3で割ったとしても16万だろ?高校生のアルバイトでも1ヶ月じゃ稼げねぇ額じゃねぇかよ。



おずおずと渡された金を受け取って、すぐさま隣の部屋に戻った。



「──おい、シリウス起きろ」


「んー…なんだ…もう2時間経ったか…?」



「いや、まだ後1時間ある。そうじゃねぇよ、金の話だ。なんだよこの金額」



寝起きのところ申し訳ない気持ちはあるが、今すぐどうにかしたい。ギルドマスターだとしても金まで自由に使っていいなんて決まりはないはずだ。


こんな賄賂みたいな金受け取れねぇから。


布団を剥いで寒そうに丸まったシリウスを揺さぶる。



「…んぁ…それは一定の条件を達成した報酬で加算されるんだ…」



ほら、布団掛けろ。と催促するシリウスを止める。



「よくわかんねぇから分かるように説明しろ」


「んー…眠い…」



「納得できたら寝かせてやるから」


「…ッ。…わかった」



「悪いな」



少し悩んだ素振りを見せたシリウスは、のそっと起き上がって腹を掻きながら大アクビをした。


クソ眠そうだけど譲れねぇ。



「…ルーキー、ビギナー共に20件ずつ受けないとランクが上がらない話をしただろ?」


「ああ」



「半日でビギナーに上がるとボーナスが加算される。アマチュアに上がる為のボーナスは依頼の難易度が少し上がるから20件を1日で達成すればボーナスが手に入る。1日で2ランク上がったら例外で、40件を半日で達成すれば報酬は3倍。…つまり一人ずつ報酬が配られたんじゃなくて3倍になっただけだ」



よく分かんねぇけど、俺達を特別扱いした訳じゃない…?



「気を利かせた訳じゃねえんだな?」


「ああ。いくら俺がお前を気に入ってもギルドの金をどうこうしようなんて出来るはずがないだろ。…それに、お前が嫌がる」



「あたりまえだ」


「…だろ?あと、これは受付の糞ガキが最初に渡した紙に書いてある事だぞ」



「う…そうだったのか」



そういう事らしい。…ホッとしたわ。

こんな金貰ってこれからも依頼受けるだなんて、恐れ多いにも程がある。


オレは不公平が嫌いだ。

只でさえオレの存在自体がイレギュラーを極めてるのに、人に世話になりっぱなしなんて…どこぞの糞勇者じゃねぇんだよ。



「イマイチ納得してないって顔だな。…振り分けを教えてやろうか」


「…ああ、頼む」



「まず基本的にうちのギルドはランクによって報酬が決まっている。

ルーキーは3000ルンド、ビギナー5000ルンド、

アマチュア10000ルンド、プロ100000ルンド、

マスター1000000ルンドだ。

今回お前の仲間達が20件ずつ受けたのはルーキーとビギナーだろ?本来の報酬はルーキーが60000ルンドでビギナーが100000ルンド。それを半日で達成したから3倍のボーナスがついて480000ルンドになったんだ」


「…わかりやすいな」



「納得したなら寝かせてくれ」


「お、おう」



シリウスはサラサラと頭に叩き込まれた内部事情を説明すると満足気に布団を整えて潜り込んだ。



「…後で起こしに来るからな」


「んー?ああ…頼む」



ルシファーから渡された金を手放すこと無く握り締めたまま部屋を後にした。


単なる説明不足だったのか。剛の理解力が欠けていたのか。


まあ、三人が理解してなかったのを見ると恐らくシリウスの説明不足でオマケって言う言葉だけで片付けられたのだと思うが。



「──戻ったぞ」



「「あ、おかえりなさーい」」


「…おう、どうだった?」



ベッドに腰掛ける女子二人が先に目について、中に進むとクソから帰ってきた剛がソファーに寝そべってケツを掻いていた。


てめぇん家じゃねぇんだよな、ココ。

寛ぎすぎだバカ野郎。



「どけ」


「おう」



とりあえず、ソファーに座って手に持っていた封筒をテーブルに置いた。



「報酬のシステムを登録前に渡された注意事項に書いてあったらしくてこっちの確認不足だった。…この金はお前らの稼いだ金だ。480000ルンドあるから三つに分けろ」


「いえ、これは私達の生活に回します」



「いや、オレが稼いだ金じゃないからそういうことしなくていい」


「またそんな喧嘩になるようなことを。ソウ、ここは仲間の顔を立てて有り難く受取りなさい」



「そうだよお前!ソウばっかりカッコつけられたらオレらもつまんねぇだろ」



まあ、こうなるってわかってたけど。


確かにフェリスの言う通り、ここでオレが引かなければ、この頑固者三人相手に喧嘩を売るのと同じ事だ。



「…わかった。これからはオレも参加するからそこで元を取ってやる」



これなら文句ねぇだろ。

最悪シリウスの任務について行って稼ぐ事だって出来ると思うし。



「なんかムカつくけどいいわ」


「そうですね」


「ったく、素直じゃねぇんだからな」



ボロクソ言われたけど我慢我慢。

寝坊したオレが悪いからな。



「それで…今日はどうするんですか?」


「ああ、とりあえずオレのランクもアマチュアまで上げておきたいから体力に余裕があるヤツ誰でもいいから付き合って欲しい。…シリウスの話だと5件依頼を達成出来ればランクが上がるらしいからな」



「あーそれならオレが行くわ。なんかコイツらマナルカに気に入られてお使いに付き添う依頼をミアに任されてたからな」



ルシファーが今日これからの予定を聞いてきて、こっちの希望を伝えたら剛が買って出てくれた。



でも…



「…マナルカ?…ミア?誰だそれ」



どっかで聞いたような。



「…お前ホント女の名前だけは覚えないよな。マナルカら受付のちびガキだよ。ミアは水帝の女だろ!」


「…ああ」



居た居た、思い出したわ。

シリウスの妹と、あのうるせぇガキか。



「勝手に用事作ってしまってごめんなさい。頼まれてしまったので…断れなくて」


「ふん、アタシは嫌だって言ったんだけど、ルーが1人で行くって言うから…」



「そうか気にするな。とりあえずこれからの予定は決まりだな。オレは今日中にランクを上げたいと思ってるから、アマチュアに上がるまで戻るつもりは無い。

そんな死闘を繰り広げるような依頼は無いはずだから何日も掛かる訳ねぇと思うが、遅くなりそうなら念話で伝えるから宿で休んでくれ」



まあ要は今日も同じ所で寝泊まりって事だ。



「別行動するなら金を少し渡しておかなきゃなんねぇだろ」


「ああ、だな。金の勘定ってのはあんまり好きじゃねぇが…今持ってる金を全部出してみろ」



「あ、はい」



オレが指示をするとルシファーはベッドからそろりと立ち上がってテーブルの前に腰を下ろした。


優しい光に包まれた掌の異空間から可愛らしい小物入れを取り出しパカッと開くときっちりと揃えられた金が見えた。



「一昨日だったか聞いた時は130000ルンドあると言ってたが、あれから飯だの宿代だので少し減ったよな?」


「ええ。ここにあるのは紙幣のみです。昨日の食事代と今日の朝ご飯で5000ルンド使ってます。それと宿のお金が24時間で一部屋6000ルンドです。二部屋借りたので12000ルンドでした」



「それで今あるのは?」



ルシファーが取り出した紙幣の束は色んなところで使われた古い紙幣ばかりでゴワゴワと嵩張(カサバ)って数えにくそうだ。


幾らかに分けて束ねてある紙幣の端数っぽい束を手に取り1枚ずつ数えている。



「…113000ルンドですね」


「今日の宿泊代で12000ルンド引いたら101000ルンドか。とりあえずココに48万ルンドあるだろ?その小物入れに50万ルンド入れておけ」


「はい」



恐る恐る封筒を手に取ったルシファーは、中身を引き出して札束を10枚ずつに分けた。


やっぱり10枚ずつだったんだな。

まあ、そりゃそうだ。


そして、渡された金は全て万ルンドで支払われてる事で大して時間もかからずにルシファーは50万ルンドを小物入れに押し込んで掌に召喚したボックスにしまった。



「…残りが8万と1000ルンドか。ルーとフィーは3万ずつ持ってろ。ゴウ、お前はオレと1万ずつだ。この前みたいに要らねぇなんて言わせねぇからな」


「わかってるよ!」



「残りの1000ルンドは募金しろ。受付に募金箱あったろ」



記憶が正しければ。


アレ、ちょっと待てよ…なんか大事な事忘れてる…?



「ソウさん…?」


「…金払ったのか?」



「何故ですか?」


「クリスが宿を無償で使えだなんだって言ってた気がするからだ」



「…」



そうか、これだ。


すっかり忘れて支払った気でいたが、昨日の話を思い返すと、オレらがクリスの目にかかりこの国の至る所でサービスされたとフェリスや剛から聞いた。


…この宿も例外じゃなかったはず。



「受け取れないと受付でちょっとした騒ぎになったけど…ルーが“ならばここに入れます”って募金箱に1泊の代金を捩じ込んでた」


「…そうか」



あんまりそういう待遇好きじゃねぇんだけどな。金が無い時に助けてもらうのは有難いことなんだが、金もあるのに使えないというのは心苦しいものがある。


オレらみたいに五体満足でそこそこ強いヤツ尽くすくらいなら、腹を空かせてるガキに菓子の一つくらい配ってやって欲しい。



「ルー。お前の行動は正しいと思う。オレでもそうした。…いいか?クリスの息がかかっている所は全てそういった待遇で接してくるはずだから全て(カワ)せ。どうしてもと相手が言うなら今回みたいに募金しろ。わかったな」



「そうね」


「わかりました」


「…だな」



三人はすんなりと受け入れてくれた。



「…よし。そういや、お前らは何時に出るんだ?」


「えっと…15時には出発したいと…っ!!」



言いながら時計を見たルシファーはドキリとした表情で“もう行かなきゃ!!”と立ち上がった。



「えー、まだいいよ」


「よくない!約束したんだから守らないと。ほら、フィー!行くよ!」



ドタドタと動き始めるルシファーをめんどくさそうに目で追うフェリス。


…相当行きたくなかったんだろうな。

まあ、ガキ嫌いみたいだし分からなくないが。


てかえらい急に騒がしくなったな。



「早くしてよ!」


「わかったってば!うるさいな!」



「じゃ、ソウさんゴウさん二人とも気をつけて下さいねっ。行ってきます!!」


「あ、ちょっと、もー!!!!」



すぐさま準備を整えたルシファーは先に扉に向かって歩き出し、そそくさと部屋を後にした。


そして一歩で遅れたフェリスもフサフサの髪の毛をクシャと掻き上げてため息を吐きながらベットから飛び降り、不貞腐れながらルシファーの後を追って行った。



「「…ッ…」」



一瞬で静まり返る部屋の中。

剛もオレも呆気に取られてマヌケな顔してただろう。



「た…台風みてぇな奴らだな」


「…ああ」



まあ、引きこもって外が嫌いって言うよりマシなんだが、あの二人案外人付き合い上手かったりするんだな。


なによりルシファーが驚く程アウトドアで

ボク様…大変ビビってます。



「てか15時って事はそろそろ2時間か?」


「ああ」



そろそろシリウスを起こしてやらねぇと。



「ってか…アイツらここの鍵置いてってねぇだろ」


「…マジかよ」



取られるものは無いにしても開けっ放しはよくねぇか。ドジ踏むのも2人らしいっちゃ2人らしいんだけど。



え、コレ…どうすんだ?



「いや、ちょっと待てアレ何?」


「あ?」



剛が指差すのはベッド横のサイドテーブル。


あー。アレは鍵ですね。

しかも二つ。



「スバ抜けたお嬢様育ちは危機管理がなってねぇから困るよな」


「…そう、だな」



とりあえず飾られたようにキレイに並ぶ鍵を見てあまりのドジさ加減に気が済むまで笑った。


五階の部屋に泊まると言っても外からの侵入が防げる訳じゃねぇと念の為に窓の戸締りをしてから部屋を出たが、よく考えれば魔法が使えるこの世界じゃ鍵なんて有って無いようなもんだと思う。


まあ、気の持ちようだと思うし考えすぎなんだろうけど。



「そんなきっちり戸締りしなくても、誰か入ってこようがアイツらなら大丈夫だろ」


「いや、番人でも雇いたいくらいだ」



「は?番人?アイツらが番人みたいなもんだろうが。…キレさせてみ?一般的な番人が小型犬に見えると思うぞ」


「…だな」



確かにあの二人が揃ってブチ切れたらこの世の終わりみたいなもんか。一人はガチのケモノだし。


もう一人は天使と見せかけてラスボス一歩手前の魔神だしな。


…いや、嘘です。

二人とも可愛くて、か弱い女の子です。



…腹ん中聞こえてねぇよな?



それでもとりあえず戸締りはした。

こんな魔界の巣窟に入ってくるバカが居ない事を願って。



「よし、行くか。とりあえず鍵はフロントに預ければ帰ってきた時に渡してもらえるだろ」


「あー、確かに」



オレ達はルシファーの泊まる部屋を後にして隣の部屋へ。



「それにしても贅沢な生活してるよなぁ」


「全くだ。…ほら、入れ」



小綺麗に飾られたホテルの壁を見渡しながらボソリと呟いた剛にドアを開けて入れと促す。


ホントにその通りだよ。

目先の危機を乗り越えて、幾らかホッと自由に息をつける環境になって気が付いたが、普通の高校生が送るような生活じゃねぇよな。


言い方を良くすれば、ホテル暮らしで外食三昧。自分の好きな時に起きて、好きな事をやって。


聞こえはいいけど、その対価に命を懸けてる。


…どっちがマシなのか。






━━━━━━━━━━━━━━━

ホテル・創達が泊まる部屋

━━━━━━━━━━━━━━━




「──シリウス、時間だ」


「ん…眠い」



「別に寝ててもいいが、後があるんだろ?」


「…討伐の依頼がな…」



「なら起きろ」


「…嫌だ」



…可愛いかよ。



「シリウス!討伐ってマスターランクのか?」



食いついたのは剛。

お前も参加したいのか。



「…トリザムホットとボシーヘイデットを繋ぐ洞窟で凶暴な魔物が大量発生してるらしいからそれの討伐に行くんだ」



寝ることを諦めたシリウスは、もそりと喋りながら体を起こした。


まだ全然寝れますよ。って顔。

そりゃ2時間じゃ疲れが取れる訳がない。

代わってやりたいけどオレ、ルーキーだし。



「え!?それってマスターランク?!」


「…ああ。オレらが動くのは基本的にマスターランクの依頼だけだ」



「オレも行きたい!」


「…別に構わないが、1日じゃ帰れないぞ?」



ベッド越しにキャッキャ騒ぐ剛を鬱陶しそうに苦笑いして、オレに確認をとるような目を向けるシリウス。


寝起きからごめんなさい。うちのゴリラが。



「…ゴウ、1日で帰れないなら無理だ。また別の日にするぞ」


「えー!!ヤダ!」



「ヤダじゃねぇよ。お前何の目的で今からオレとギルドに行くか分かってんのか?」


「…お…おう、覚えてるぜ?」



そうか、忘れてたんだな。ふざけろバカヤロウ。



「オレがアマチュアランクまで上がったらシリウスについて行ってもいい。先にこっちを済ませろ」


「マジで!?いいの!?」



「ああ」



漲ってきたと騒ぐ剛。…うるさい。



「…お前もギルドに行くのか。なら、俺も一緒に出る」


「ああ、そうしてくれ」



どこぞの知らねぇ五帝様々に依頼の説明されるのも気に食わねぇし、コイツの話ならすんなり聞き入れることができそうだし。


スクっと立ち上がったシリウスは眠そうに目を擦りながら“顔洗ってくる”と呟いてノロノロと洗面所に向かって行った。



「何お前、ああいうギャップ萌えタイプなの?」


「何が言いたいのかよくわからん」



またくだらない事を言い始めた剛。

コイツは少し黙ってるって事ができねぇのかよ。



「まあいいや。お前はオレのだから向こうがその気ならこっちも全力で切り刻むし」


「はいはい」



うぜぇから軽く流しておいた。







━━━━━━━━━━━━━━━

ホテル・受付

━━━━━━━━━━━━━━━





「本日もご利用になられますか?」


「ああ、隣の部屋も一緒に」



「承りました。ルームメイクはいかが致しましょうか」


「頼む」



「畏まりした。行ってらっしゃいませ」



体質の際に簡単な手続きを済ませるオレ達にペコリと頭を下げる受付の女に顔を赤くしながら見送られ暫く歩いた。


周りの視線が妙に痛てぇから二人を引いてそそくさとホテルを出たのはいいが…。



“見て!あの和の服着てる人イケメン!”


“ホントだ!イケメン!周りにいる人達も仲間かな。話しかける?”



なんだこれ。



“やば、ちょっと目が合った!“”



さっきからキャーキャーうるせぇ!



「おい…なるべくメスが居ないような所ねぇのか」


「久々に見たけど相変わらずだなソウ!よっ、モテ男!」



「うるせぇ、嬉しくねぇんだよ殺すぞ」


「…ソウも苦労してるんだな」



冷やかす剛に軽く八つ当たりすると横からフードを被ってグラサンを掛けたシリウスが仲間を見つけたとでも言いたそうにニヤニヤ笑ってた。


てか、フードにグラサン。

変装してもイケメンが滲み出てるし、まず着流しの中にラフな服装が混ざってると逆に目立つんだよ。



「不愉快極まりねぇよ。オレは動物園のパンダじゃねぇっつーんだよ」


「パンダか。ソウはパンダと言うよりライオンってとこだろ」



「…俺は見世物になった覚えはない。確かにこれは非常に不愉快だ」



…お前らも大概そんな感じだけどな。

そう言いたかったけど、バカ真面目に返されてもめんどくせぇから何も言わなかった。



「…お前ら揃ってるとオレがクソみたいに思えるわ」


「バカ言ってんじゃねぇよゴウ。もれなくお前も見世物組だ。心配すんな」



ほら、あの女に手を振ってみろ。と、傍に居た騒ぐ女の集団に目を向けさせた。


えー可愛くなーい。と小さく文句言いながらも満面の笑顔で手を振る剛。案の定、耳を劈くような黄色い声が上がって天然の女たらしは健在なのだと再確認。



「…コイツは歩くフェロモンか?」


「いやコイツはただの完全二足歩行タイプのイケメン風ゴリラだ」



歩くフェロモンってのはお前の事言うんですよシリウスさん。ンなことどうでもいいからオレは今すぐにこの場から離してくれ。



「飯でも行くか」


「は?時間大丈夫なのかよ」



「ギルドマスターだからな」


「…傲慢だな」



「早く行くぞ、ゴウ・カーライルせいで集まった女が飛び火してきてる」



お、おう。

自分に害が及んだ瞬間随分と俊敏に動くんだな、お前。



…つか



「おい、浮かれてんじゃねぇ」


「痛っ…あ、じゃあねー!」



結局楽しんで女どもにヘラヘラと手を振る剛を小突いて足早にシリウスの後を追った。



「チッ…オレの何が良くて騒ぐんだ」


「ぇええ?んー…スペック?」



髪の毛も手入れしてないようなガキ相手にキャーキャー言う女の気が知れねぇわ。



「俺が見てもソウはイケメンだと思うけどな 」


「お前だけには言われたくねぇ。そもそもオレ、なんの経験もねぇんだぞ」



「…心配するな俺もだ」


「「はあ!?嘘だろ!?」」



「…なんだ、可笑しいか?」



いやいやいやお前みたいなキマった野郎なら普通はとっくに女抱き潰してんだろ。22だろ?14、5くらいでチェリー捨て去ってても可笑しくねぇから。


何の経験もねぇってお前絶対意味履き違えてるって。



「オレが言ってんのは──」


「──童貞って事だろ?俺も童貞だ」



「「ッ…」」



いやお前昨日オレに全力で童貞バカにしただろ!女に困ってないどころか女を知らねぇって何様だコイツ!



「あ、ねぇねぇシリウス!因みにオレも童貞だよ!」


「ああ、お前は間違いなく童貞だろうな」



「うっせぇよコラ!童貞って言うな!」



そんでもってこのゴリラは何をほざいてんだか。



「…なんだシリウス。女に興味ねぇのか?」


「ああ」



「じゃあ野郎が好きなのか?」


「いや?」



出た。

まさかの恋愛興味無い系のヤツ。



「まさか討伐しか興味ねぇとか言わねぇよな?」


「…まあそれに近いが、多分俺は今まで本気で惚れるような奴に会ったことが無いんだと思う。もしこれから先狂気的なヤツに出会ったらそれが野郎でも女でも見境なく惚れるだろうな」



「狂気的って…お前イカれたヤツが好きなのか?」


「いや自分の中を駆り立てて欲しいだけだ」



…やべぇ、コイツ多分死ぬまで童貞だな。

いろいろ悟ったわ。理想が高すぎて良い奴探してる間に歳食ってぽっくりパターンだ。



「…そこそこにしとけよ」


「…?ああ」



よくわかんねぇ会話をした。



「──ねぇてかまだ?オレ腹減ったんだけど」


「ああ、もう着くぞ。──その店だ」



食いついた剛はそれから特に口を挟むことなく後ろを付いてきて、オレ達の会話が途切れたタイミングで痺れを切らしたようにシリウスに問いかけた。


シリウスの指が差される方に目を向けると、黒々とした外観の怪しい建物が。



「え、この黒いの?」


「ああ、俺の行き付けで殆ど客が来ない」



「なにそれ危なくね?」


「飯は最高に旨いんだが、店員のクセが強過ぎてな」



ほう、オレはまた引き運の悪さを遺憾なく発揮した訳だな。


…それこそ、そろそろ慣れそうだわ。



「飯は静かに食いたいから、お前達もそういう気分の時は来ればいい」



そう言って真っ赤な扉を引いたシリウスは闇のように暗い店内に先に足を踏み入れた。


どうしよ…スーパー怖ぇぇぇええ!



「と、とにかくオレらも行くぞ」


「そう…だ、な」



全く気が乗らないけど今は付いて行く他ないよな。



──店の中に入る前の廊下こそ悍ましい雰囲気漂わせていたものの、その先にある小洒落たアンティーク調な扉を潜ると店内は至って普通な店だった。


シリウス曰く、なるべく人を寄り付かせたくないこの店のオーナーが施した趣味らしい。


まあ、間違いなくシリウス居なきゃ試しに入ることもねぇわな。



「アレだけで足りるのか?」


「ああ」



「…お前は?」


「足りるぜ?」



店に入ってシリウスが普段座っている席とやらに着くと、いつの間にか背後に立っていたスキンヘッドの男が紙とペンを握り締めて無表情でオレ達の注文を待っていた。


普通にビビったよね。


つか、“いらっしゃいませ”くらい言えよって思ったんだけど、どうやらソイツは口が利けないらしい。


だからオレもなるべく関わりあいにならないように簡単に注文を済ませたのだ。



「…案外少食なんだな」


「いやお前もオレと同じモン頼んでんだから変わんねぇだろ」



「俺はあれだけで足りる」


「オレもだ」



因みに注文したのはホットコーヒーに軽食のサンドイッチが付いているセット。剛はオムハヤシ?とか言う訳の分からない食べ物と、アイスコーヒーセットを注文していた。


オレの頼んだセットのアイスコーヒー版みたいなもんだ。



「てか…なんでアイツ喋んねぇの?」


「あまりデカイ声で言うな。噂だとあのマスクの下は口がガッチリ縫われていて話す事が出来ないって話だ」



「「うわ、マジか」」



向かい合って座るオレ達三人はテーブルの中心に顔を寄せあってヒソヒソと話す。



「俺も見た訳じゃないから本当のところはわからないが、かれこれ俺がマスターになった頃から通ってて今まで一度たりとも声を聞いたことが無い」


「…よく通う気になったな」



「基本的に人が居ないからな。過ごしやすさだけは保証できる」



いや危ねぇだろうが。静か云々より大丈夫かよこの店。目玉のスープとか指の唐揚げとか出てこねぇよな?


マジそんなの見たら有り金全て置いて逃げるぞオレ。



「さっきも言ったと思うが料理の腕は確かだ。色んなものを食ってきたけどどれも美味い」


「ならよくね?ソウもそんなにビビってんなよ」



「いや、でもよ…」



あんまり来たくねぇなここ。そう言おうと口を開こうとした時、



────コトッ



またしてもいつから居たのかわからないスキンヘッドが静かに料理をテーブルに置いた。



「…ッ!」


「…」



スンッと鼻を鳴らして軽くお辞儀をしたスキンヘッドはそのまま厨房らしきところへ消えて行った。



「な…んなんだよ。心臓に悪いわ」


「ああ、慣れるまでは少し驚く」



少しどころじゃねぇよ!驚くで済ませんな!普通に恐いわ!オレは物理的に証明出来ねぇモンは苦手なんだよ!


…アイツ、オバケだったりしねぇよな…?



「は、早く食っちまおうぜ」


「そんな急ぐなよ。なにソウもしかしてビビってんの?」



「は、ば、バカじゃねぇの!全っ然ビビってねぇよ!ほらっ、アレだ!シリウスの任務もあるからな!」



そうだ、ただそれだけだ!

全っ然ビビってねぇ!そりゃ確かに苦手だと思ってますけど、アイツはオバケじゃなくて人間だろ?…怖くない怖くない。


全然怖くねぇッ!



「ソウが震えるくらい怖気付いてるようだから早めに済ませるか...な?、ゴウ」


「ハハッ、だな!」



二人は何食わぬ顔してオレをバカにしてから配られた飯に手を付け始めた。


お、オレだけか…この食い物たち全てが毒に見えるのは。


これ以上バカにされないように、震える手でコーヒーを口にした。


…いや、普通に美味いけども。



「──ソウ。アマチュアまでランク上げするって言ったな?」



なんだかんだ出されたものを口にしているうちに恐怖心なんかどこかに消えて、ポツポツ他愛もない会話を織り交ぜながら嗜んでいると、ふいにシリウスが話題を変えてきた。



「…そのつもりだが?」


「今日ある依頼は壁外に出て城の裏にある洞窟から出て来る魔物の討伐と、その洞窟の中にある魔法石の採集、洞窟の中のちょっとした魔物退治、外壁にある二つの集落に物資の配達などだ」



“など”っていう事は他にもあるのか。

ルシファー達が居ないなら何日かかるものでも受けれるんだが、アイツらを置いたまま日を跨いで行動すると騒がれる。



「…今日中に終わらせられるヤツあるか?」


「今言った5件は効率よく終わらせられる。…お前が起きてから依頼を受けに来ると思ってたからとっておいた」



「なら決まりだな」



城の裏ってことはオレ達が初めてクリスと出会した場所だと思うんだが、あんな所に洞窟なんてあったのか。


城ばっかりに気を取られて全く周りを見てなかったな。


だが、それなら遠出する事もねぇから1日で達成できるハズだ。



「因みに二人か?」


「…ああ。女達はお前んとこの妹から依頼を受けてそっちに行ったから今日は別だ」



「ミアが…?」


「ああ。なんか受付のチビ達のお使いに付き添ってくれってよ」



「…そうか。面倒かけたな」


「いや、引き受けたのはアイツらだ。それに今日40件も依頼を受けているのにハードルの高い依頼を受けさせたくなかったから丁度いい」



ただでさえルシファーもフェリスもつまらねぇ依頼のおかげで心身共に疲労してるのに魔物退治だなんてさせられねぇしな。



「何時までに戻りたいとかあるのか?」



シリウスに訊かれて剛を見た。



「オレは全然大丈夫だぜ?しかもアイツらに遅くなるかもしれねぇって言ってあるから別に丸一日掛からないなら何時でもいいんじゃね?」


「…だよな。少し寝る時間も欲しいから日が昇る前に戻れればいいと思ってる」



下心ありすぎる答えを出してみた。

そりゃ剛じゃねぇけど、オレだってマスター級の依頼ってのがどんなものか見てみたいし、あわよくば連れて行って欲しいと思ってなくもない。


マスターランクの依頼は一日で終わるのなんて無いと思うが…。



「お前達が、今俺の言った依頼を受けるならステータス的に4時間あれば終わるはずだ。…終わるはずなんだが…」



さっきホテルを出た時は15時ちょっと前だったって事は今夕方4時頃か。これからギルドに移動して依頼を受けて出発して4時間って事は…終わるのは20時から21時。


まだ、夜中にもなってねぇな。



「…ああ、そうだな」


「…もしかしたらそれより早く終わる可能性もあるな」



「ああ」


「…」



え、何この空気。


シリウスの言いたい事がわからないんだけど何て言って欲しいんだよ。



「あー…それなら20件やっちゃう?プロランクまで上げておくのもありなんじゃね?」



二人して吃るオレ達に剛が気の利いた事を口に出した。



「ああ、いいな。でも5件で4時間なら20件は無理だろ」



どうなの?とシリウスを見ると、バチッと目が合って逸らされた。


なんだし。



「…お、お前ら、その…す、少し危険な任務があるんだが…こ、来れないか?」


「「え?」」



口を尖らせながら耳まで赤くしてそっぽを向いたシリウスがゴニョゴニョと何か言っている。



「いや、あの…お前らさえ良ければだが…今夜行く予定の依頼に付き添って貰えないかと…思ってだな…その──」


「──行く行く!絶対行く!な?いいよな?ソウ!」



来て欲しいシリウスと行きたい剛。

二人はキラキラした目でオレを見つめた。


めっちゃ嬉しいけど…



「依頼内容は?」



でけぇ虫の討伐とかは本気で無理だからな。



「え、いいのか…?」


「いや、依頼内容による」



「…ストレインジグリーンで魔力が暴走したサーベルタイガーが人間に害を及ぼしてるらしい。ギルドの調査で2匹の確認が取れているから捕獲するか倒すか迷っている」



サーベルタイガーって…。あの牙が有り得ないくらいデカい虎だよな?


ちょ、…怖っ。



「マジかよ!デカさは!?」


「推定だと立ち上がらせて3メートル」



でけぇよ!!



「…嫌か?」


「…ッ」



シリウスは甘えるようにオレを見た。


剛は行く気満々でキャッキャ言ってるけど…どうするか。


…虫じゃねぇならいいか。

マジで虫嫌いだからそれが巨大化したヤツとかだったら考えようかと思ったけど、虎なら…。



「いいぜ行ってやる。…だが何故夜なんだ?」


「アイツらは夜になると自分の巣に戻る。もし、そこに他のサーベルタイガーもいたらまとめてどうにか出来るだろ?」



「ああ」


「それに昼間は食い物を探して森の中を彷徨いているから探し出せないかもしれない」



ああ、そういう事ね。

行き違いになって任務失敗になる事を避けてる訳だな。



「…行くんだろ?!行くよな!?」


「ああ。行くよ」



「やった!!マジか!やった!!!」



テーブルを叩いて喜ぶ剛。

…うるせぇよ。



「なら決まった事だし、とりあえずギルドに行ってお互い先にある依頼を終わらせねぇとな」


「ああ。俺もそろそろ向かわないと間に合わなくなる」



全員飯も食い終わったとこで、会計はシリウスの指示でテーブルに置いた。誰が払うだのゴチャゴチャに揉めたけど、結局埒明かないから自分のは自分で払うという事でまとまった。


あ、因みにここの店メニューはあっても値段もわからない。


とりあえずシリウスがコーヒーセットに1000ルンド出していたからオレは剛のも合わせて3000ルンド置く事にした。



あんまりふざけた金額にしたら、あのおっかねえスキンヘッドに調理されそうだったからな。






━━━━━━━━━━━━━━━

ボシーヘイデット城下町

━━━━━━━━━━━━━━━





「いやぁ、しっかしあのスキンヘッドの野郎恐かったな…」


「ああ…生きた心地がしなかったな」



「…まあ、お前達は初めてだからな。最初のうちだけだ。毎日通っていれば慣れるぞ」



ご馳走様と声を張り上げてから逃げるように店から出たオレ達は、シリウスの任務の時間が差し迫っていることから、そのままの足でギルドへ向かうことになった。


街ゆく女達にキャーキャー言われて逃げて見たものの、入った店であんな恐ろしい気分で飯を食うことになろうとは思いも寄らねぇよ。液体であるはずのコーヒーですら喉をつっかえてどうにもなんなかったんだから。


しかも何が嫌だって、撒いたハズの女達が、店に入る前より勢力を増して出待ちされていたこの今の状況な。


人だかりが人を呼んで状況を読み込めてないまま付いてきたっぽい奴らも居るし。

勝手にウキウキされてげんなりされる所を見てるのも気分が悪いんだが。



「…なァシリウス。お前もしかして外歩く時いつもこんななの?」


「ああ…いや?…こんなに酷くはない…な。今日は特段にうるさい。…勘弁して欲しい」



いやそれこっちのセリフだから。

あーヤダ。ホントやだ。


店に入ってこなかっただけマシだと思いたいが、出た途端にキャーキャー叫ばれちゃ適わねぇ。さっきの店防音バッチリの建物だったなと感心する事くらいしか嬉しい事がないですからね。


こんなに騒がしい中を歩き続けたら、今日は眠りに落ちる直前まで耳元が騒がしい錯覚に陥りそうだ。



「──ねぇ、シリウスさん♪カッコいいお兄さん達連れてどこ行くんですか?」



黄色い声が飛び交う中、特に相手にする事なく歩き進めて居いると背後からなんとも甘ったるい声でふと話し掛けられた。



「「…チッ…あ?」」


「──と、っと!ストップ!ちょっとお前らは感じ悪いから黙ってろ!…えっと…オレ達今から仕事なんだよ」



「えー、じゃあ暇じゃないの?」


「おう、ごめんな!」



振り返りざまに興味が無いことを悟らせる為、睨みを利かせようと目論んだが、隣りに居た同じ境遇の中で生活してるイケメンもオレと全く同じ反応をして振り返った。


…が、愛想のいい剛がすぐさまオレ達の壁となってフォローするように遮った。


──愛想の押し売りかよ。



「えーつまんなーい!適度に遊ばないとモテないわよ?」



女は頬を膨らませてわざとらしく怒ったフリをすると、巻き込んだであろう気の弱そうな連れを引っ張って“じゃあね!”と踵を返した。


それは…暇じゃねぇなら要らねぇよって事でいいのか?その連れの子必死になってオレ達に謝ってるけど逆ナン常習犯かコイツ。


…なんか、フェリスとルシファーみたいな組み合わせだったな。


まあ、フェリスは逆ナンなんて死んでもしないだろうけど。



「…行くか」


「…ああ、そうだな」



“うわ、さっきの子話しかけてたよ?”


“ウチらも行く?”



なんて言葉が聞こえてすぐさま逃げるように足を動かした。



「チッ…」


「…」


「はは…ごめんねぇ。今忙しいんだぁ。 」



…にしてもこの女の群れ。

右も左も女だらけで眩暈がしてくる。


なんか変なもの食ったのかと思うくらい群がってくるもんだから、自分が蜜を塗られた樹木か何かじゃねぇかと思えてくるわ。


──カブトムシかよ。



「おい、お前が相手にするから次々寄ってくるんだよ。もうほっとけよ」


「そうだ、ソウの言う通りだ。遊ぶ気がないなら相手にするな」



「いや、話し掛けられてるのに無視はよくねぇだろうが」



オレ達の言葉をまるで無視するかのように、話し掛けられる度に律儀に対応する剛。


…うぜぇからやめろって言ってんだよ。



「はぁ…。もうヤダこいつ」


「外ヅラはいいんだな」



ヘラヘラしながら手を振って尚もニコニコ笑う剛に、オレとシリウスはため息しか出ない。


ギルドマスターの看板をぶら下げてるシリウスに、他であまり見ない着物を来たデカい男二人は流石に目立つのか。


自分がパレードの主役になったみたいで実に不愉快だ。



「なぁ、ギルドまだか?」



耐えきれなくなって聞いた。



「…これでも一応裏道なんだがな。あとふたつ角を曲がれば着くからもう少し我慢しろ」


「…」



我慢しろって…ナニソレ無理って言ってもいいやつ?いや…ダメなやつだって知ってるけどさ。


しかし結構な距離早足で歩いてきたけど、残り二回の曲がり角に来るまで撒けないなんて…この国のお嬢様方、気合い入りすぎて引くわ。


地球に居た頃ですらここまで執拗に追い回された事ねぇからビックリなんですけど。



「チッ...あーもう...鬱陶しいな」


「ああ、全くだ」



シリウスが、あのスキンヘッドの野郎が居る店に逃げ込む理由がわかったような気がする。外出る度にコレなら怪しい店だろうが引きこもるってマジで。



「──よし、勇者U目的の出待ちのおかげで俺達も幾分紛れる事が出来るから人が引く前に紛れ込むぞ」



ちょうど二回目の角を曲がった所で、真っ直ぐ続く道の先で群がる人の集団を指差しながらシリウスは言った。



「…勇者様は、お戻りになられてるのか?」


「いや、もう行ったはずだ。俺の一件目の任務はアイツと一緒に行く任務だ」



うわー…それはそれは…ご愁傷様としか言いようがねぇな。



「…うわ何それめっちゃつれェ…頑張れよ」


「労ってくれるのか?ゴウ」



「おう、あまりに哀れだからな」



人混みに近付くと、やがてハッキリと聞こえるひとつひとつの言葉。


カッコよかったね。とか、もう一回見たいとか興奮気味に話す奴が多い事からして、シリウスの言う通りギルドから出発したばかりなのだろう。


…遭わなくて済んだ事に心底ホッとした。



「人混みに流されるなよ?」



「お、おう」

「わかってる」



先にグイグイと器用に人の間を擦り抜けて進んで行くシリウスのケツを追い掛けて、はぐれないように足を進めるが、思った以上に人の波ってのは威力があるみたいだ。


目の前に大きく聳え立つギルドは目と鼻の先なのに、この人ごみのせいで思うように足が動かない。



「や、やべぇなこりゃ」


「ああ、全くだ」



「とりあえずギルドは目の前なんだから、足を進めろ」



台風直後の荒れた川のような人ごみを横断した。






━━━━━━━━━━━━━━━

ボシーヘイデット・ギルド

━━━━━━━━━━━━━━━




なんとか人ごみをくぐり抜けてギルドに駆け込む事が出来たオレ達は、受付に着き次第すぐに別行動となった。


忙しそうに受付の奥へと入って行ったシリウスは、騎士団のようなイカした鎧を着けて、背中に自分の半身以上ある馬鹿デカい剣を背負って勢い良く飛び出して行った。


会話と言ったら“また後でな。”、“ ああ”…くらいか。


マスター級の依頼に同行してる皆越が羨ましい通り越して、ただひたすら腹が立つ。

オレ達も後の依頼に同行する予定だとしても、先に行かれる事に苛付きを覚えたのは紛れもない事実。


あんな奴がマスターランクの依頼だなんて、場違いもいいとこだ。…それとも実はその程度には鍛えてあるのか。


修行が終わって自分は最強だと余裕ぶってたオレに親父が言ってきた言葉を思い出した。


“その考えこそが甘いんだよ。

確かにお前を超える奴などそうそういやせん。でもこの短期間でここまで強くなったお前が居る。もちろんお前はこれからもっと強くなるだろう。それは何故だと思う?…相手が強く果てしないからだ”──と。


オレが相手にしているものに比べたら、皆越の脅威など微々たるもので、恐れるに足りないと分かっていても油断は禁物だと教えたかったのだろう。


現にオレだって本来持っているハズのない力をつけてこの世界に来た訳だし。



「では、説明は以上です。…夜になりますと魔物が凶暴化する事がありますので、どうかお気を付けてお願いします」


「──おいソウ。大丈夫か?」



「っ、ああ、大丈夫だ」



オレが考え込んでいる間に説明が終わったようだ。シリウスから先にある程度の説明を受けていてよかったな。


まだお使いから戻っていないあの双子の代理で受付はシリウスの妹…ミアがもじもじといろんな事を言っていた。



「とにかく、まずは集落に行かなきゃなんねぇな」


「ああ」



オレは、カウンター横にどさっりと置かれた荷物に目を向けた。


山のように積まれた木箱は、焼印でビールだの小麦粉だのリンゴだの記されていて、どれも一人では運び切れないような量。


この世界には魔法というものがあるから大して気にならないが、このお使いを地球で頼まれたら骨が折れると思う。



「オレ達は、集落に向かってそのまま魔物退治に行く予定だ。だから荷物は1回で運ぼうと思うのだが、コレはどう配分するんだ?」



二箇所に配れと指示されたものの、置かれた荷物にどう配分されるかなどは記されていない。


オレはその荷物を指差しながらミアに訊ねた。



「あ、あの…馬車で運びますか?…それともモンスターに乗せますか?」


「いや、どちらでもない。…オレ達はボックスで運ぼうと思ってる」



「ぼ、ボックス…ですか。この量が入りますか?」



一言一言ビクビクしながら問い掛けてくるミア。

そろそろ慣れてきたけど、やっぱりイライラする。



「大丈夫だ。オレ達は夜の9時には戻りたいんだ。なるべく早く分けてもらえないか?」


「あ、あの…それならこのリストに配分が書かれてますから…」



んだよ、さっさとよこせよ。

モジモジしてんじゃねぇって。急いでるって言ってんだろ。



「あそう、わかった。…おいソウ、オレはボックスあまり出せねぇからお前ので頼むわ」


「ああ」



横でユサユサと貧乏揺すりをしていた剛が、ソッと差し出されたリストを奪うようにして受け取りオレを急かし始める。


まあ、コイツはつまんねぇ依頼を40件こなしたから、目的は派手な依頼1点しか見えてないのだろう。


オレ達が今から行く依頼なんて、剛からしたらどうでもいいモノなのだと横に居てヒシヒシと伝わる。


ここで時間使って、マスターランクの依頼に間に合いませんでしたなんて冗談じゃないと言いたげだ。


ならば、ちゃっちゃと終わらせるに尽きるよな。オレだって出来る事ならド派手な依頼を早くこなしたいし。



「…ボックス」


────パァアアァアア…



「──とりあえず中にぶち込め」


「あいよ」



荷物の目の前に立ってボックスを開き、異空間を保たせる為に剛に物資を入れさせた。



「っし。終わったな。入れ忘れはないか?」


「おうよ」



散々寝かせてもらったから体力魔力共に万全絶好調なオレと、基本的に魔力を使う事が無い剛。


お互いにフル行動出来るわけだな。



「よし…今から出るが、オレの連れが戻って来たら先に休んでてくれと伝えておいてくれ。 」


「あ、はい…わかりました。」



そうしてオレ達は、全ての荷物をボックスにしまい込んでからすぐに出発した。






━━━━━━━━━━━━━━━

ボシーヘイデット正面門

━━━━━━━━━━━━━━━




────シュンッ



「なァ…ソウ、お前頭いいな」


「あ?何でだ?」



「いや頭いいって言うか、魔法に慣れてきたよな」


「…そうか?」



ミアに地図を渡されたが、地区の名前や門の名前など何も知らないオレ達が目を通しても糞の役にも立たないと知った。


1番手っ取り早いと思った転移魔法で璧外に出てしまえば、そこから右と左にある集落へ向かうだけの事。



…まあ、基本的に魔法を使わない剛からすれば、転移魔法の応用なんて思いつく訳ねぇんだけど。



「あー。…確かに魔法を使うことには慣れているかもしれねぇな」


「羨ましいな」



ぼそっと呟いた剛は、何事もなかったかのように笑うと、“さっさと済ませようぜ”と門を背に右に向かって歩き始めた。



「なんだっけ?正面門と向かい合わせで見て右の集落がイーストビレッジ?」


「ああ、で、左がウェストビレッジだとよ」



正式名称はライト・イブルとホーリー・レフトらしいが…。



いやもう聞いただけでも想像出来るんだが。

正直行きたくねぇと思ったのが本音だ。

特に“右の悪”とかいう町。


…ネーミングセンスどうにかしろよ。



「おい、お前ウェストビレッジから行くのか?」


「…ん?なんで?」



歩き進める剛の後を追う形でオレも足を進めながら問い掛けてみたが、多分コイツはイブルもホーリーも分かってねぇ。


先に天国を見て地獄に落ちるのか。



「まあいい。わかったそうしよう」


「?…なにお前まさかお使い如きでビビってんのか?」



「…ッ、いいから行くぞ!」



こうなったらヤケだ。

悪と言っても聖と言っても所詮は人間様相手だ。町の雰囲気こそ差はあったとしてもさほど気にする程でもねぇだろ。


こうしてオレは要らないフラグを立てた。







━━━━━━━━━━━━━━━

ホーリー・レフト

━━━━━━━━━━━━━━━




「ハァッ…ハァッ…て、めぇ…ッ…馬鹿じゃねぇの…」


「ゼェッ…ハァッ…わ、わり…」



入口は集落らしい木の柵で出来た簡易的なもので、ボシーヘイデット本部のようにガチャガチャと鎧を着たような輩は一切居ない。


代わりに町の入口に立っていたのは、白い麻のような布を羽織った天使みたいな男2人だった。


武器は弓…か。


ここからでも町の中を見渡せるが、歩いているヤツらのほどんどが背中に弓を背負って歩いている。


持ってないやつは外部からの人間なのだろう。布を羽織っているヤツとそうでないヤツで完全に分かれている。


圧倒的にこの天使のような奴らの方が多いが。



「て、んめぇ!勝手に動くなって言ってんだろうが!!」


「わ、悪かったって!早く済ませたいから!!」



「こらこら、この町では喧嘩は御法度ですよ。…本日は何用でいらっしゃったのですか?」



掴みかかるオレと、揺さぶられた剛はそのままの状態で声がした方に顔を向けた。



「…あ?」


「何用…って…物資の配達だけど?」



「まあ!そうでしたか。これはこれは。失礼致しました。では、中にお入りください」



声をかけてきた男は一応この町の門番だったのだろう。一緒に立っていたもう1人の男に“開けて差し上げなさい”と言うと、木で出来た門をカラカラと押して開けてくれた。



「…先程も言いましたが、喧嘩は御法度ですからね」


「わかってる。…どこに行けばいいのか教えてくれ」



「ここを真っ直ぐ進んで行くと一番奥にルミア神殿がありますので、そちらの神官様にお声掛けくださいませ」


「ああ、助かった」



こちらこそ。と優しく微笑むと、天使のような男はゆっくりと門を締め、立ち位置に戻ってしまった。



「感じが良すぎても気味悪いよな」


「やめとけ。今は余計な事言うな」



通り過ぎる奴ら一人一人が薄気味悪い笑みでこっちを見てるから。


どこで問題が起きるか分からない。



「…行こっか」


「ああ」



単なる歓迎の微笑みかもしれないが、こうも注目を集めて微笑まれると怖い。


三日月型に閉じられた目が開いたら呪われるような気がして逃げるように足を進めた。






━━━━━━━━━━━━━━━

神殿前

━━━━━━━━━━━━━━━






「──あら?お客様ですか?」



横目も振らずに黙々と歩き進めていたら、神殿のような建物の少し手前で輪とした声に呼び止められた。



「ッ…」


「うわ…」



振り返ったら強制イベント。

シカトしたら問題が起きる可能性。


あからさまにビビる剛。

コイツ肝据わってるクセにドッキリ苦手だからなぁ。


…さて、ついビックリして止めてしまった足をどうするか。



「神官に何か御用ですか?」



“──謎の勇者様”



「…ッ!」



──無理やり踏み出そうとした足を再び止めてしまった。



「ご無沙汰しております」


「お、お前…は」



振り返った先に目に入ったのは、ニンマリと微笑んだ神官の格好をした女。


…コイツ。

──皆越の勇者召喚をした時に居た。



「まあ、立ち話はなんですから神殿にお入りください」



そう言うと、女はオレ達の横を通り過ぎて神殿に向かって歩いて行く。



『おい、どうすんだよこれ』


『わ、わかんねぇけど行くしか無くね?』



剛も同様にパニックに陥っているようだ。

…そりゃそうだろ。


自分を殺そうとしたやつが目の前に居るんだから。



「…?どうかなされました?元々こちらに御用があったのですよね?…さぁ、いらしてくださいませ」



神殿の扉を開けながら振り返った女は、カチコチに固まった笑み向けながらオレ達を催促する。


…あの門番。

オレ達が誰なのか知ってたって訳か。


全然ホーリーじゃねぇんだけど。



「…ゴウ行くぞ」


「…でも」



「大丈夫だ、オレが居る。…離れんなよ?」


「…おう」



すっかり怖気付いた剛のケツを叩いて先に神殿へと向かった。





━━━━━━━━━━━━━━━

ルミア神殿

━━━━━━━━━━━━━━━




「──では本日は物資の配達でこちらにいらしたんですね?」


「ああ、それが済んだなら次があるからすぐにでもここを出る」



「そう…ですか」



ここは任せろと神殿に足を踏み入れる前に剛に念を押して黙っててもらう事にした。無効が触れてこない限り勇者の話も当時の話もするつもりはない。


次が控えている今はただのお使いで充分だ。


コトっと置かれたティーカップに注がれた飲み物に手をつけないでいると女が見せ付けるように口にした。



「…自己紹介がまだでしたね。私の名前はルミア・ガーディー。ここボシーヘイデットの神官及び守り神を務めています」


「…ほう。オレの名前はソウ・イングラム。

こっちはゴウ・カーライル。リトルウィアーク出身だ」



皆越と繋がりがある奴にオレ達の嘘なんてまるで通る訳がない事は充分に承知しているが、それでも悪足掻きする事くらい許されるだろう。


お前達とは今は関わり合いになりたくないとはっきり意思表示しているようなもんだし。



「…ソウ様とゴウ様ですね。では、失礼承知でご質問しますが、ボシーヘイデットのギルドで誰から依頼を引き受けたのですか?」



言われた言葉の意図がよくわからなかった。



「オレ達が依頼書にサインをした時は、水帝ミアが立ち会っていたが?」


「ミア…ですか。…それ以外には?」



「ハッキリと質問しろ」



慣れたような口調で尋問を繰り返すがコイツも腹の探り合いが苦手なのだろう。ひとつひとつの質問が怪しすぎて答える気になれない。


こうなったら単刀直入で聞くのが一番だ。



「深い意味はありません。ただこの仕事は本来五帝がこなすものなので少し不思議だと感じただけです」



普段は五帝の誰かがこなしている仕事…?

ミアもシリウスもそんな事言ってなかったが。


そんな仕事なら、オレらに託す必要はないハズだ。…てことは…ハメられたのか?


いや今はシリウスも出払っているからもしかしたら人手が足りなかったという事もありえる。



「苦情はギルドの奴らに言ってくれ。オレ達は頼まれた事をやっているだけだ」



そう、今は考えても無駄。

とりあえずここを出たらシリウスに念話で聞いてみるしかねぇな。火帝シリウスと謳われるくらいだから一応は魔法特化なんだ、念話くらい出来るだろう。



「そうですね…。では、運んで頂いた物資を受取りますが、どちらにありますか?」


「ああ、結構な量だから言われた場所に置くがどこまで持っていけばいいんだ?」



「こちらで大丈夫ですよ。…お急ぎなのでしょう?」


「まあな」



“ならばこちらでいいです”とハッキリと答えたルミアは、パチッと指を鳴らすと、どこからか飛んできた風呂敷のような布を地面に敷いた。


…コイツの前で魔法は見せたくないんだが…。


オレのボックスは特有の形をしている。

本来なら四角い箱のような異空間を造るのだが、オレのは親父と同じく再生能力のついた丸い形のボックス。


きっと再生能力も存分に活かされ、中に入ってる物が新鮮ホヤホヤになっているハズ。


それを見られた時にどんな反応されるのか、考えるのも億劫だ。


…でもやるしかないよな。


オレはため息をついてからボックスを開いた。



「──おいゴウ渡されたリストを見ながら中身を出してくれ」


「おう」



手のひらから放たれた光を地面に向け、そこに元々あったかのような異空間を造り出しながら、ルミアの行動に目を光らせる。


コイツは神官と名乗ってこそいるが、剛を証拠隠滅で殺そうとしたヤツに変わりはない。


つまるところ、いつここでルミアが何をするかなんて計り知れないから警戒をしている訳だが、当の本人はただひたすらオレの造り出したボックスに目を白黒させているだけ。


そんな仰々しい顔されても…。


オレだって好きでこんな可愛らしいボックスを造ってる訳じゃねぇんだよ。わかれよ。



「──し、これで全部だ」



ボックスと敷かれた布を往復した剛は額に汗をじんわりと浮かばせながら最後にリストをオレに渡して来た。…それでいい。


一瞬ルミアに渡そうと顔を上げていたが、何かを思い立っての行動だ。


…多分口には出さないが、勇者召喚の時のトラウマだろう。



「ん、これにサインしてくれ」


「あ…はい、わかりました」



女如きにビクついてる剛にイラつく心を抑えて平然とリストを渡した。



「ん…確かにサインは受け取った。オレ達は次の任務に行く」


「あ…」



「あ?」


「…いえ。ありがとうございます」



「ああ、じゃあな。…ゴウ、行くぞ」


「おうよ」



最後までオレ達の事は何もわからずじまいだったな。残念でならねぇだろ。

…探り合いってのはそんな単純な話じゃねぇんだよ。


まあそれによって、深くまで踏み込んでこなかったことが唯一の救いか。こんな状態の剛を横にこれ以上突っ付き合う必要はねぇよ。


お前らを相手にするのはもう少し先だ。



「そ、ソウ…」


「チッ…早く歩け」



…ンな悄気たツラ見せてくれるなよ。


オレは剛に視線を向けて、力一杯バシッと背中を叩いてから神殿を後にした。



──もう少し何かしらのアクシデントが起きると心構えしていたから、神殿から出てそのまま何事も無く町の外へ出れたのには少々肩透かしを喰らった。



「では、また」


「…ああ」



ニンマリと不気味に微笑む門番の男も相変わらず胡散臭いと言うか、怪しいと言うか。とにかくこんな町、いくら名前に聖と言う言葉が練り込まれても、また足を運ぼうとは思えない。


そもそも、あのルミアって神官がいる時点でオレは願い下げだ。



「…次はあの町だな」


「だな」



町を出て、真向かいに見える黒々とした旗に向かって歩き進める。


こっちが光ならあっちは闇か。

こんな対極的な集落を作った意味は何なのだろうか。


なんにせよ癖者には変わりないだろう。







━━━━━━━━━━━━━━━

ボシーヘイデット国・付近

━━━━━━━━━━━━━━━




『──おい、オレだ。聞こえるか』



ホーリー・レフトの旗が小さく見えるくらいまで離れてからオレはシリウスに念話を繋げた。


本当なら神殿を出てすぐにでも聞きたい事が山のようにあったのだが、変に探られるのを避ける為だ。



『…っ…あ…──…』


『オレが誰だかわかるか?』



不規則なノイズと共に聞こえてくるのは、細々と切られるシリウスの声。


やはり、出会って間もない相手に念話は難しいのか?…いや、それでもルシファーと緑野郎は確かに念話で話をしていた。



『…ソウか?』


『ああ。ちょっと聞きたいことがある。──今大丈夫か?』



『どうした?何かあったのか?』



少し間が空いて帰ってきたシリウスの落ち着いた声。



…コイツがオレを騙してる可能性…?

無いと信じたいが、生憎オレ達はお互いの事をよく知らない。


最初こそ傲慢な態度といい胸糞の悪い男だと思っていたが、関わり合いになってそんなに嫌な奴ではないと直感で感じたんだ。


剛以外のヤツにコイツには裏切られたくないと初めて思ったヤツなのに。


問い掛けるのも億劫だが、これから先にオレ達の足枷になりそうなものは排除しなければならない。


…シリウスもこのままオレ達を騙すってなら例外じゃない。凄く嫌な気分だ。


進める足も次第に重くなっていくのがわかる。


吐き出したくない言葉を無理矢理言おうとしてもやはり躊躇してしまう。


…クソ。

誰か代わってくれねぇかな。



『あー…その…配達の件なんだが』


『ああ。…何か問題でも起きたのか?』



いつもの調子で返ってくる落ち着いた声。ホッとしてしまう自分が本気で嫌になる。



「はぁ…」



言わなければ先に進めない。

自分のギルドランクを上げる5件は終わらせることが出来ても、その後に続くシリウスが受けた依頼にも行けなくなる。


気合を入れる為に溜息をひとつ。


それからオレは間違いが起きないようにゆっくりと念話を続けた。



『…ホーリー・レフトの神官に会ってきた。ソイツが荷物の受け渡しの時に気になることを言っていたから確認がしたい。…この任務は本来なら五帝の奴らが引き受ける依頼なんだろ?…何故オレ達に回した』


『…そうなのか?ルミアがそんなことを言ったのか?』



惚けてるのか本気で言ってるのか顔を見て会話をしているわけじゃないから声だけでは何を考えてるのかわからない。


また腹の探り合いをするのか。

…しかもシリウスと。



『…ああ。ルミアはオレ達に誰からこの依頼を引き受けたのか是が非でも聞き出そうとしていた。…何が言いたいのか分からなかったからこっちも問い掛けてみたんだが何も答えなくてな』


『…五帝専属の依頼…?そんなものは無いハズだが。…今何処に居るんだ?』



『今さっきホーリー・レフトの配達が終わって丁度今ボシーヘイデットの正門に居る。これからライト・イブルに向かうとこだ』



さっきの町から半分ってとこか。

黒一色に染められた旗が夕方の風に靡いて旗めいている。


どんよりと雲に覆われているその下にポツンとあるのは遠目に見ても綺麗とは言えないような薄汚れた建物ばかりだ。


カラスなのかよくわからない黒い鳥も取り巻くように空中を飛び回り見ただけでも行く気が無くなる。



『…そう…か』


『なんだよ』



『いや、ギルドマスターでありながらそんな事も知らなかっただなんて情けない話だと自分にげんなりした所だ。とりあえず詳しい話は後で合流した時にでも聞かせてくれ。俺はこのクソ使えない勇者様のお守りがあるからな』


『…ああ、そうだな』



ホントに調子が狂う。

この男を信じていいのか…。


だが、疑い出すとキリがない。こんなにもウツを感じるのはオレが勝手に信じたいと思っているからだ。


命をかけたも同然のこの旅で、正直出会うヤツひとりひとりに取り繕って信頼性を高めるなんぞ、その考えこそが邪念だろ。


…それでもたまたま知り合ったコイツにここまで拘るオレってなんなんだよ。



『…なんだ、念話に覇気がない。どうした?』


『いや…まあ、ちょっとな』



『…こんな事言えば余計怪しまれると思うが、我慢出来ないから言わせてもらう。

俺はお前を裏切ったりしない。もし仮にでもそうなった暁には俺をどうにかしてくれても構わない。…俺を信じろだなんて気前のいい事は言わないが、俺を信じたいと思ってくれたお前自身を信じてくれ』



そう思ってくれたんだろう?

と、いつになく柔らかい声が届いた。



『は…言ってくれんじゃねぇか。…言っとくけどその言葉、オレは死ぬまで忘れねぇからな』


『死ぬまで…か。フッ…そこまで言えたら上等だな』



マジでオレに竿と玉がぶら下がってて良かったわ。


いつか剛がそんなような事を言ってた時に、何を寝ぼけた事を言ってるんだと本気で思ったが、そうか…こういう事だったんだな。


なんかもう裏切られてもいいとか思ったり。

…ンなわけねぇけど。



『とにかく、オレは今からライト・イブルの配達終わらせたら魔物の討伐に向かってなるべく早くに片付けてすぐに戻る』


『ああ、俺もなるべくこのクソの役にも立たない勇者をどうにかしてでも動かしてすぐに戻る』



じゃあ、後でな。

そう念話でやりとりしてからボシーヘイデットの正門で止まっていた足を再び前へと繰り出した。



「──シリウスか?」


「ああ」



「なんて?」


「アイツ自身も状況が分かってなかったみたいだ。そもそもこの依頼が五帝専属の依頼だという事自体知らなかった様子だ」



「…ギルドの五帝…ね。曲者ばっかりだな」


「全くだ。…とにかくアイツと早く合流する為にこっちの依頼をさっさも終わらせるぞ」



「…だな」



反応を見てると、剛の言いたい事が頭に流れるように伝わってくる。



“お前はシリウスを信じるのか?”

“もっと疑え”

──そんな所だろう。



…でもまあ信じて裏切られる方が切る時バッサリ終わらせられる気がするし、妙に疑って裏切られた時のガッカリを体験しなくて済む。


とにかく今はあまりグダグダ考えたくねぇんだよ。


心配そうにオレをみつめる剛に“大丈夫だ”と笑いかけて、考えていた事を一旦頭から外す事にした。


…キリがねぇもんな。





━━━━━━━━━━━━━━━

ライト・イブル前

━━━━━━━━━━━━━━━




「──おい、ゴウ。グダグダしてるうちに着いたぞ」


「お、おう…」



「あ?なんだよビビってんならオレ一人で行くぞ?」


「…お前はシリウスに裏切られるの嫌じゃねぇの?」



「…は?嫌に決まってんだろ。でも、アイツは“俺がもし裏切ったら何してくれても構わねぇ”って言ったんだ」


「…そうか」



「“俺を信じなくてもいいから信じたいと思った自分を信じろ”ってよ」


「は?何それ責任押し付けてきたって事?」



「…は?」



その発想はなかったから咄嗟に言葉が出なかった。


え、じゃあなに、勝手に信じたお前が悪いって言う為の保険って事か?…いや、それなら何してくれても構わないなんてステータスの高い人間に普通言わねぇよな。


いや、ダメだ。考えない事にしたんだ。



「…ソウ」


「だぁ!裏切られたらその時だ、オレの見る目がなかった、それでいいじゃねぇか!まだそうなってねぇのに今からガチャガチャ抜かしてんじゃねぇよ!」



ホントやめてくれよ。オレだってさほどメンタル強くねぇのに、いや寧ろ豆腐の角にぶつけてバラバラに砕ける程度のメンタルしか持ち合わせてねぇんだよ。



「…せっかくお前が自分から仲良くなって帰ってきたのに…」


「…もう裏切られた気でいるのか?」



「…怪しいじゃねぇか」


「そうでもねぇだろ」



「…」



もういい。今のコイツに何を言っても無駄だ。

ソウくん可哀想スイッチ押してるから、どんなに気を紛らわせても何か違う物が頭に入るまでずっとこの調子だ。


…あークソ。



「おい、もう考えるのやめろとは言わねぇ。ただ口に出すな鬱陶しい。…たかだか野郎1人に裏切られるなんて大したことねぇよ。オレにはお前達が居るしな」


「…ッ」



「──行くぞ」



また暫くこれをネタにされて散々いじられるのか。…大将がここに居なくて良かった。


ソックリさん二人が肩を並べるとウザい以外の何者でもねぇからな。


こんな禍々しい雰囲気漂わせた廃墟のような集落を目前に何を呑気なことしてんだって話。


足止めもいいとこだよホント。

門番居ねぇと思ったらお前だったのね。

はいはい強行突破。


──顔を真っ赤にして口をパクパクさせる剛を尻目に気付かないふりをして町の中に入った。






━━━━━━━━━━━━━━━

ライト・イブル

━━━━━━━━━━━━━━━




静まり返った町。

人っ子一人見当たらない不気味な町。

まだ日が暮れる前だってのにどんよりと薄暗い。



「おい…なんなんだここは」


「誰も居ねぇのに物資なんか必要ねぇだろ…」



町の広さは向かいにあるホーリー・レフトとほぼ互角の広さだが人が居ない所為でやたら広く感じる。



「…薄気味悪いな」


「も、もしかしたらオバケいるかも。ねね、いたらどうする?」



ブルブルと身震いをした剛はそのままオレの着流しの袖を掴む。


クソほど嬉しくないんですが。



「何が起きるかわからねぇから気を抜くなよ?」


「わ、わかってる…」



とにかく奥に見える建物に向かうとしよう。

こんなとこ長居するもんじゃない。


周りを見渡してもボロボロに朽ち果てた家ばかりで本当に人が居るのかわからない。町に入るまであれだけ吹いていた風もピタリと止んでここだけ違う空間のように音さえも遮断されいてる。


散らばった家の残骸を踏み鳴らすオレ達の足音とビビったような息遣いしか聞こえない。



ちょ、ごめん!

実はマジですげぇ怖いんですけど!


そうだ…アレだよ、アレ。なんかよく分かんないけど鬼気迫るナニかを感じずにはいられない。


マジでここから出れねぇとかねぇよな?

知らないうちにイベント始まりました的な感じで気が付いたら攻略も脱出も出来ません的なアレとかだったらホント…アレだよ。


え、頼りに出来るヤツが居ないんだが。


でも悍ましい雰囲気こそ漂ってるけど一見めちゃくちゃ人の良さそうなヤツらの集まりだった反対側の集落よりこっちの方が思い切りあっていいよな!最初から怪しいです!って言ってるようなもんだし荷物パッと置いてガッと走りされば問題ねぇさ!



「と、とりあえずこの建物は他より少しマシみたいだから人が居るかもしれない」


「ヴァンパイア?吸血鬼?どっち」



「おい、それしか居ないみたいに言うな」



怖ぇだろうが。


…てか、誰も居なかったら荷物とかどうすればいいんだ?勝手に置いて帰って後から届いてませんなんて言われても困るよな。


そんな事を考えて、手にかけたドアノブを押すことも引く事も出来ないでいるオレ。そろそろ本気で呪われてる気がしてくる。



「…あーもう!行くぞ!」



ヤメだヤメ!

オレは地球で親父の落雷を受けた瞬間から幸運なんて持ち合わせちゃいねぇんだ。今更そんなもんに縋ったって立派な神創神殿がお許しくださる訳ねぇんだよ。


その代わりに世界消滅規模の力を手に入れたじゃねぇか。


そうだ、そんな事を嘆く暇があるんなら、さっさとこの中に入って荷物を降ろせってんだこのクソヘタレ童貞野──



────ギィ…



「おやおや珍しい。お客様ですかな」


「…あ…」



「何!?…誰?!…ソウ!何があった!!」


「ちょ、おま、目開けろよ!!」



決心つけて扉を引くと、重たく軋むような音がして中の様子を汲まなく窺えた。


…普通。そう、至って普通の教会のような造り。

つかここ教会だったのか。


横で目を固く瞑る剛を小突きながら奥の煌びやかな椅子に深く腰を下ろす老人に目を向けた。



「…こんな何も無い町によくぞいらした。…本日は何用で?」



嗄れた声を時々掠めながらゆっくりと話す老人は腰も曲がり杖を持つ手も震えている。…今にも死んじまいそうなんだが。



「今日は、ボシーヘイデットの使いで物資の配達に来た。他の者が見当たらなかったから町を歩いているうちにここまで来てしまった」


「ふぉっふぉ、そうかぃそうかぃ。それはそれは…有り難いのう。…この町は見ての通り朽ち果ててしまった町じゃ。3年前までは人も普通に暮らしておったんじゃが…王が代わってしまってから皆が逃げるように居なくなってしまってのぅ」



3年前…。

クリスが王座に就いた時からか。



「爺さん…話を聞こう。その前に物資を渡してもいいか?」


「…うぉ?あぁ、そうじゃったな。すまんすまん。ならばここに置いてくれ」



気になることだらけのこの国で、こんな廃れた町に留まるこの爺さんも理解し難いが、何より色々聞き出せる気がする。


大した時間は取れないが、何か重要な事が聞き出せたら今後に繋がる可能性もある。

まずは任務を終わらせてしまおう。


──話はそれからだ。


オレはボックスを開いて、爺さんの指が指定する場所に荷物を出させた。



「──…爺さんこれで最後だ」


「そうか。ありがとさんよ」



剛は大して量もない物資をボックスから出すと、爺さんを思っての事か荷物を平たく置き直した。


まあ、こんなヨボヨボの爺さんが積み上げた荷物を持てる訳ねぇから普通なんだが、案外気が効くのなコイツも。



「…で、話なんだが──」


「ワシも詳しくは知らん。…じゃが3年前まで頻繁に行われた戦争でボシーヘイデットの民はたくさんの人間が死に絶えた。…当時の王だった男が兵士だけでは足りぬとボシーヘイデットの若い男達を駒のように戦争へ繰り出していたからのぅ」



「戦争はまだ終わってないと聞いたが?」


「終わってないんじゃない。終わらせられないのじゃ」



爺さんは窓際からどんよりとした曇天の空を見上げながら寂しそうに呟いた。



「終わらせられない?」


「…そうじゃ、あの馬鹿な王が始めたゲーム感覚の戦争はもはや人間だけの問題じゃなくなっておる。…その証拠に戦争には隠された兵器のような魔物が何体も出てきて人間を殺しておった」



“始まりは…ワシのバカ息子、クリスの父親が、どこぞの戦争に首を突っ込んだ事が始まりだったか…?無残に殺された息子を連れて城へ乗り込んできた一人のドワーフが、次世代の王を監禁すると騒いだのだ”


──クリスの爺さんが言ってたような。

その話は丁度3年前。


そして、そのドワーフもどこぞの魔族に言いくるめられて言いなりになって行動に出た。全ての元凶…。



「…オレの目には戦争なんて無いように見えるが…」


「…それは今の王がボシーヘイデットを守っているからじゃろう。恐怖に捕らわれた民を自由にしたのもクリス王じゃ。ある日、本土から伝達が届いてこの国から出たい者は即刻出ろと言われたんじゃ。

…家族を失ったことで、この国を恐怖だと感じた民は皆挙って手荷物一つで出て行ってしまったわぃ」



あの野郎…。


そんなこと一言も聞いてねぇぞオレは。苦しむのはオレだけでいいってかよクソ。イケメンぶりやがって。



「…爺さんは何故ここに残ってるんだ?」


「…ワシは、今ここから逃げ出したところで先も長くない老い耄れじゃ。生まれ育った故郷で骨を埋めたいと思っての。…それに…」



見上げたままの首をゆっくりとこちらに向けて笑顔を見せる爺さんに“それに?”と聞いた。



「お主のように、過去を受け継いでくれる者が現れた時に話す奴が居ないと…な。ほかの奴らがどう思っているのか知らん。じゃが…クリス王は他の者が思っているほど野蛮な人間じゃない」


「ああ、それはわかってる。オレはアイツが王で良かったと思ってる」



「…ならいいんじゃ。ワシは1人でもいいから分かってくれる奴に出会いたかったのじゃ」



切ねぇこと言ってくれるなよ。



「…爺さん。オレは爺さんのやり方に口を挟むつもりはねぇが、これからどうするんだ?…一応物資は配達したから食い物とかには困らないはずだが…不自由があるならオレからクリスに伝える事は出来るぞ」


「…そうじゃのう。いつも配達ありがとうと伝えといてくれ。…たまには教え子の顔がみたいとも…な」



「…教え子?」


「そうじゃ、アイツに剣術を叩き込んだのはワシじゃ。…今はどうだか知らぬが、昔は名を馳せた腕前じゃったんだがのぅ…」



クリス…で剣術使えたのか?

…いや、聞いたこともねぇし見た事もねぇよ。


剣術が使えるなら…あの地下でバケモノみたいなのと戦った時何故参加しなかったんだ?


クリス王ってクリス王だよな?



「…わかった野暮用を全て片付けてからすぐにでも伝えておく」



知り合ってから日の浅い奴の意外な一面なんて当たり前だろ。そんな事にいちいち反応してたら体がいくつあっても足りねぇよな。



「おう。よろしく頼む」


「…じゃあオレ達はそろそろ次の任務に回らなきゃならねぇから行くぞ。──ソウ」



「…ああ、そうだな。爺さん、また時間作ったらここに来る。体に気をつけろよ?」


「わかっておる。お主らも生き急ぐんじゃないぞ」



「「あいよ」」



最後に貰いそびれていた受領書のサインを貰ってこれからまた独りぼっちになる爺さんに後ろ髪を引かれる思いだったが、次があると心にムチを打って教会を後にした。


…また来ればいい。

多分あの爺さんはこの町に人が戻ってきて欲しいだろうから。






━━━━━━━━━━━━━━━

ボシーヘイデット正門裏

━━━━━━━━━━━━━━━




「なーんか、世界って広いよな」


「…なんだ急に」



「いや…よ?なんつーかさ、出会う奴全てが色んなもん抱えて生きてんだなって」


「なんだお前、中二病再発したか?」



「いやソウ、考えても見ろよ。たまたま絡んだおっさんみたいな奴が実は28歳で地球出身で師匠と知り合いとかさ、一緒に旅してる仲間が神獣だったり大天使だったり」


「まあ、オレらも例じゃねぇよ。…そもそも死んでる訳だし」



「ホントそれ」



つい最近まで普通の高校生やってて、こんな大草原だの創世神だの魔法だの魔物だのは、正直ゲームか小説の中だけだと思ってたしな。


それが実は神と女神の息子だったなんて。

ホント…何があるかわかんねぇ。


こんな砂埃舞った荒野なんてテレビの向こうでしか見たことねぇっつーの。


何一丁前に地面踏み込んで前に進んでんだよ。



「なんかさ…未だに全てが夢だと錯覚する瞬間があるんだけどさ、あの地下牢で全身ボロボロにされた時は“オレってこの世界で生きてんのか”って実感した」


「これからもっと厳しい事が待ち受けているはずだ」



「…なぁ、オレ達に出来るのかな」


「やるしかないだろ。親父だって出来ねぇなら無理矢理にでもやらせねぇさ」



やるしかない。


…そうだよな。

一度引き受けたら最後まで責任持ってシャンとしろ。…母さんがそんなこと言ってたっけ。



「次行く所の任務ってさ、魔物の討伐だったよな?…何の魔物か聞いたか?」


「…いや、ミアからの説明は考え事して殆ど聞いてなかった」



「…ゴブリンだとよ。知ってるか?」


「…あの皮膚と骨しかないような耳の尖った小さい人間みたいなヤツか?」



…オレの説明能力のなさよ。

だが、確かにそんな感じだったはず。



「あーまあ…基本的に集団で出てくるとか」


「巣を破壊するのが目的なのか?」



「いや、討伐と言われただけだけど…どうせなら巣ごと潰そうかなって。…お前倒せるか?」



意味を含めたような言いぶりで足を止めた剛は心配そうな顔でオレを見た。


多分コイツの言いたいことは、ゴブリンに怖気付いてるのかと言う意味ではなくオレ達自身はヤツらに何もされていないけど倒せるのか?と言う意味なのだろう。


そこまで、敏感にならなくてもいいだろう。

逆にそんな事言われたらオレがやってること全て事実上なんの害も受けていない。



「…大丈夫だ。アイツらを討伐する事になった理由はオレに直接何かした訳じゃないが現実に人が被害を受けてるだろ」


「…ならいいけどよ」



「お前は本当に心配性だな。安心しろ、向こうが小石一つでもオレにぶつけたら問答無用で全て消し去ってやる」



これでいいかよ。

…全くオレの杞憂に逐一反応しやがって。



「…おうよ!」



そしてオレ達は丁度ボシーヘイデット城の真裏に辿りついた。



「──ここだな」



ボロ雑巾のような布を巻いたクリスに100万ルンドの束を投げつけられた場所。


あの時はただの変質者だと思って必要以上に関わろうとしなかったが、アイツはオレ達に捨て台詞を吐いたあと確かにこっち向かって歩いて行った。


日が沈みかけて薄暗くなってきたが、ポツリポツリと立っている樹木以外何も無いのがよくわかる。


クリスはあの後この洞窟に入っていったんだ。それ以外に行く場所なんてない。洞窟の入口以外何も無いんだから。


あの時オレ達が居た場所は城に入る裏口付近。クリスが城に入ったならその瞬間はこの目に映ったはず。



…この洞窟で何をしてたんだアイツ。



暗がりが苦手だと大将が言っていたが、それなら尚の事この中に一人きりで入るなんて理由もない奴が足を踏み入れる場所ではない。


…とにかく入ってみなきゃわからないな。






━━━━━━━━━━━━━━━

精霊の洞窟

━━━━━━━━━━━━━━━




「うっわぁ…ジメジメしてて気持ち悪ぃ…」


「足元が苔で不安定だから滑らせないように気をつけろよ」



中に入ると洞窟のわりには信じられないくらい明るかった。


特に光が差し込んでいる訳でもなく左右を見渡しても天を仰いでもどこからも外の光が入ってきている様子はない。


蛍のように点々と光り輝くのは岩間から時折見える原石の発光か。

神秘的ですごく綺麗だ。そして明るい。



「なあなあ…これ掘り返したら売れるんじゃね?」


「売り物にするかどうかより、何か自分たちのアクセサリー作りたいな」



「暗がりで光るアクセサリーってカッコよくね!?」


「まあ今は先にやる事があるからな」



今のところ生物らしい生物に出会わしていない。地図も何も貰わずに初めて洞窟に足を踏み入れたがこれは深く考えずとも完璧に迷い込んだパターンだな。


…それをコイツに言ったら騒ぐから絶対言わねぇけど。



「とくかくこの中のどこかにゴブリンが居るはずだ。大量発生していると言うくらいだから鉢合わせする時は十単位で現れると思う」


「見つけ次第抹殺?」



「…いや、ある程度向こうの行動範囲を調べたいからな…」



剛がさっき言っていた通り、ここらを彷徨(ウロツ)くゴブリンを倒したところで向こうの巣を崩壊しなければ繁殖も容易いだろう。


根本的な要因を解決しなければ万代不易だ。

下手すりゃオレ達が目先のゴブリンを倒したところで骨折り損って事になる。


…ならば巣を壊さなきゃならねぇ。



────ギギ…



「…シッ!」


「っ…!」



──今何か居た。



足を止めて柄に手を添えて体制を整える。



────ギギギギ…ギギ…



「…ソウ…」


「シッ…黙ってろ…!」



目を閉じて耳を澄ませるとハッキリとした音ではないが、コソコソと気配が動くのがわかる。


…十単位とかのレベルじゃねぇだろこれ…


ゆっくりと目を開いて気付いた事。…さっきまで見えていた蒼い光石ではないギラギラした金色の光が点々と見える。


まさか、この無数に光るコレは…全て奴らの目なのか?



「おいおい。堪んねぇなクソが。…オレ達はとんだ貧乏くじを引いちまったみてぇだ…」


「え…?どゆこと?」



────ギギギギギギギギ…



歯軋りのような…黒板を爪で引っ掻いたような寒気のする鳴き声らしきものが次第に大きく、そして確実に近付いて来る。


360度グルリと見てもギッチリと金色の光がユラユラと動いている。



「──…ッ、イグニションッ!」



────ゴオァァアッ!



「え…?えぇ!?」


「パニクるな落ち着け!視界が悪いから灯りを灯しただけだ!いいか?この炎柱は今オレらを包んでる!効果は1分くらいだ!恐らくヤツらはオレ達の視界を覆い尽くす数で囲っている!今は攻撃して来ないと思うが魔法が切れたら一気に襲ってくるだろう!お前も死にたくなきゃ刀を構えておけ!」



とにかく何も見えない状態で状況判断をするのは先頭経験の浅い剛には不利な状況だ。オレですらこんな数に囲われた事ねぇのにコイツが冷静でいられるわけがねぇ。



「ど、えぇ?!な、はぁっ!??ちょ、あの…えぇぇえ!?」


「…ゴウ!!頼む!魔法が切れるから落ち着いてくれ!」



そうコイツさえ落ち着いてくれればオレ達のステータス的に何の問題もなく解決出来るはずだ。



「……ハァッ!!…で、どうすればいい」



炎柱にゴウゴウと照らされたオレの顔を見て大きく深呼吸をした剛は、強く息を吐き出すともギラリ目の色を変えて静かに指示を待った。


よし、お前はそうでなくちゃな。



「今は誰も止めるやつが居ねぇ…ゴウ!!好きなだけ──」



────シュンッ…



「暴れろぉおぉぉぉ!エアスラッシュッ!」



────ブォンッ!!



「おうよッ!」



────ケケケケケケケケケッ!



魔法が切れた瞬間背中合わせにぴっとりとくっついてたモノがスンッと弾けるように飛んで行った。


特攻タイプだもんな…アイツ。



「ウラァッ!」


────ザシュ!!



ケケケケケケケ────



背後でやけに切れ味の良さそうな斬撃音と肉が千切れるような音。そしてヤツらの不気味な笑い声のような鳴き声。


耳の中から頭まで侵されていく不愉快な声に頭痛まで感じる。


刀を鞘から出す時に勢い付けて風雷属性の風波を交ぜておいてよかった。


アイツは今、半分パニック半分アドレナリン放出って感じだろうから多分この耳障りな音は聞こえていない。


好都合だ。こんな音聞いてしまえば正気ではいられなくなりそうだからな。


…さて、オレはこの山のようにいるヤツらをどう始末するか。



────クケケっ!!


ブォンッ!!────



「…っ、…危ねぇだろうが」



なんだコイツら、知能を持ち合わせているのか?


後ろに飛んで行って転がったものは掌サイズの石。…顔面目掛けて投げてきた。



────ケケケケ!!!!


ケケケケ!!!!────



…うるせぇ。

バカにしたような鳴き声しやがって。



「ヒートアップ…」


────パァァァ…



こんなクソみたいな数相手に刀術で対処するなんてめんどくさいにも程がある。ここは…多少魔力を消耗してしまうが、数が落ち着くまでは魔法で減らしていくしかないか…。



「フレイムウェーブ!!」


────ザァァァァッ…



────ケケケケケケケケ!!!!!



オレの視界に映る範囲全てに炎の波が覆いかぶさっていく。


嬉しいのか苦しいのか炎波のおかげて見えやしないが、鳴き声だけはハッキリと聞こえる。そして何かが焼けるような臭いが洞窟に充満する。


…クセェ。



「…ッ…」



パチパチと火の粉が飛んできて、避けるのも大変だ。せっかくルシファーに選んでもらった着物を汚したくねぇからな。



────ケケケ…



今のでだいぶ減ったな。

今目の前で辛うじて立っているゴブリンはざっと見積って20いかねぇくらいか。


灯りを消さずにして適当に全体攻撃できる魔法を使ったんだが、コイツら火に弱いのか。



「…くっそ!ウジャウジャ沸いてやがるぜ!!気持ちわりぃんだよッ!」



────ザシュ!!


ザシュ!!────



────ケケケケ!!!!



「…っ…すげぇなアイツ」



剛は色んな汁まみれになって戦ってるのか。


魔法無しだなんてこの世界じゃ壊滅的にアウェイなはずなんだけど、コイツに至ってはバケモノ級の戦闘能力が備わってるからな。


ものともしねぇってか。



「ハァッ…お、おいソウ!休憩してねぇで手伝えよ!気持ちわりぃんだよコイツら!」



…つってもずっと刀振り回してたら腕も疲れてくるよな。



「一旦オレの傍に来い!!」


「わかった!」



バックステップよろしくすぐさま飛んできた剛は、オレが相手にしていた方向に身体を向けまたしても背中合わせに刀を構えた。


全くよく出来た相棒だチクショウ。



「そっちはある程度数を減らしたから後は頼んだぞ。オレはこっちを引き受ける。…全滅しろ」


「おうよ♪」



「「ウラァァアァァアアッ!」」



刀を構え直したオレ達は目先の方向に向かって飛び込んで行く。



「ホット…フィールド!!」


────ゴオォォォオオォォオォ!!



ゴブリンは洞察力瞬発力共に桁外れに素早い。剛の攻撃を持ってしても軽々と躱すヤツらも居た。


ならば、避けれねぇ環境を作ればいいんだろ?



オレは範囲を狭めてゴブリンが後退できないように炎で壁を作り上げた。



────クククケケケケクケケ!!


ケケケケクククケケケケ!!────



ある程度数を減らした剛側のゴブリンは咄嗟に前方に出て炎の壁から間一髪躱しきれたようだが、山のように溢れかえるこっちのゴブリン達は半数が巻き込まれて焼け爛れていく。


…気持ちわりぃ。



「シャイニング!」


────パァァァ…



「クッ…ら、ライトニング!」


────パァァァ…



ここらで魔力の回復をしなければ。上級魔法と中級魔法を交互に使ってあまりの集中で気が付かなかったけど自分の動きに遅れを感じる。


とりあえずまずはコイツらゴブリンに混乱を与えて魔力を吸収させる魔法、その後にオレと剛の怪我を完全に治す魔法を唱えた。


大した怪我じゃなかったが、アイツも少しはやられてるみたいだったからな。



「…し…少しは楽になった」



そろそろ行くか。



「スティングシェイド!」


────シュンッ



神崎流石榴(ザクロ)!!」


────ススススススススス!



────ケケ────ケ────ククケケ


ケケケケクククケケケケ────クク────



とめどなく続く突撃に次々と貫かれていくゴブリン。オレの背丈的にも身長差があるヤツら相手だと頭に刀が刺さってドス黒い液体や緑色した液体が後頭部に吹き出していく。



あぁぁああもう!気持ちわりぃなァ…


気持ちわりぃよォ!



「…山茶花(サザンカ)ァ!!」


────ブォン!!!



────ケケケケクケ────ケ────ケケ


クク────クッ────ケケ



野性的能力だろうか、体が勝手に反応して受付けないものを突き放す技を繰り出す。


刀を薙ぎ払った波動で吹き飛んで行くゴブリンは、その殆どが眉間に刺された跡を残し立ち上がらない。


キモいキモいキモいキモいキモいキモい!

ヤベェってこれマジで気持ち悪いって!!



「ダークゾーン!」


────ゴォッ…



「…クソッ!気持ち悪ぃんだよォォォ!エスクプロージョン!」


────ッ…バァァァァンッ!



「ウォータージェット!!」


────ザァァァァァァッ!!



光を遮る異空間に閉じ込めた全てのゴブリンに火炎属性上級魔法の火の球を当てて爆発させた。


苦しむ声も何もかもが聞こえない。

無駄に早く動く自分の心臓の音が耳元でドクドクいってるくらいか。


さっき焼き払った時に強烈な臭いがしたから、原因となる消し炭からの黒煙を防ぐ為に黒焦げになったゴブリンに強烈な水鉄砲を御見舞してトドメを刺してやった。



「ハァッ…ハァッ…クソ…ク、ソ…ッ」



やった。



やりきったぞ…。



いやもう最後の方、襲い来る嫌悪感に飲み込まれてよく分かんなかったけど抹殺してやった。



ヤベェ…息するのも胸が苦しくて痛てぇ。

運動不足かオレ。



口の中までパサパサで膝が笑ってる。

オマケに手も震えてるたァ情けねぇザマだな。



力が抜けてその場に仰向けで倒れ込んだ。



「──らぁッ!」


────バチュンッ!!



────ゲッ!!…グ…



ピュンと風を切る音が聞こえてからカチンと鍔と鞘がぶつかる金属音が後ろから聞こえる。


そうか…お前も終わったのか。



「そ…ソウッ…」



剛がオレを呼んだと思ったら、ドサッと何かが地面に崩れた。


おい、ちょっと待ってくれ。オレもちょっと疲れてるから今動けねぇよ。


親父この世の最強って言ってたけど、最強ってこんなに疲れるのか?アイツまた嘘ついたんじゃねぇだろうな。


…それとも力に制限かけられるからオレもなんだかんだ普通の野郎くらいしか能力ねえのか?



いや、そんなはずねぇよ。だってギルドの能力査定信じられねぇ記録だしたもんよ。



てか、これアマチュアの依頼だよな?

オレ達ですらガタガタになってんのに一般人どうなるんだよ。


こんなんじゃ生きて帰れねぇだろ。怪我こそしなかったけど、体力とか魔力的にどうなのコレ。


ハードル高くね?



「く…ハハハハハッ!!」


「…ゴウ?」



「ハハッ!あー…ヤベェな…ヤベェよコレ!オレら魔物の討伐してるぜ?」


「ああ…」



「信じられねぇ…クソ楽しいわ…」


「ゴウ…」



やっとの事で剛の倒れる方へ顔を向けた。



「あー…マジ心臓痛てぇ…。生きてるって感じだ」


「…っ、ハハッ…そうだな…」



あまりにも嬉しそうに息を切らしながら天井に向かって笑うもんだから、なんだかオレまで楽しくなってくる。



“なぁ!オレら死んで生まれ変わったらさ!違う世界に行って魔物倒しに行こうぜ!”


“…そんな世界あるわけねぇだろ”



“バカ言うな!あるに決まってる!じゃなきゃこんな小説もゲームも作れねぇ!これはきっと誰かの体験談なんだよ!!”



昔、剛がそんなこと言ってたな。

ンなわけあるかってバカにしてたけど、まさか自分達が一度死んで違う世界に来るだなんてな。


魔物の討伐までして。



「…オレ…夢叶ったわ」


「フッ…そういや言ってたな」



お前も同じ事考えてるのか。

一心同体ね…。満更嘘でも無さそうだわ。



「──っし…ソウ立てるか?」


「ああ、大丈夫だ」



「オレ達もまだまだって所だな。最強って囃し立てられて余裕カマしてたけどこんなんじゃラスボスどころかゴブリン第2波が起きても持たねぇかもしれねぇよ」


「…鍛え直しか」



「だな…」



ゴブリンが居なくなったこの開けた空間。

今はキラキラと光石が蒼く光って神秘的な場所になっていた。


凄まじい量のゴブリンが居たんだな。


…そういや巣は何処なんだろうか。

アレだけの量が居たという事は、さぞデケェ巣に住み着いてるハズ。


もしかしたらまた戦うかもしれねぇ。



「おい…ソウ!コレ…」


「…んあ?」



ちょいちょいと手招きをする剛の居るところにダラけた身体を動かして向かうと、そこには(ネグラ)のように布が大量に敷かれていた。



「もしかしてさ…」


「…ああ、恐らくここがヤツらの巣だったんだろう」



「ハハッ、ラッキーじゃん」



塒だけじゃない。

キラキラと光る光石に気を取られて足元を見ていなかったが、よくみるとここを拠点にして動いてたのがよく分かるような物ばかりが落ちている。


ゴブリンってのは案外頭がいいみたいだな。

人間から盗み取ったのだろう鍋や包丁なども転がっていた。


所々で地面が丸く黒ずんでいるのは恐らく火を焚いた跡か何か。調理までお手の物って訳か。


後から気付いてよかったわ。

先に知っていたらヤツらの知能を意識し過ぎて時間がかかっていたかも知れないからな。


にしても、ノロノロと天井見上げて光石が綺麗だなんだと間抜けヅラぶら下げてるうちに敵の陣地に足を踏み入れるとは…さすがオレの引き運の悪さ。


まあ、今回に至ってはそのお陰で無駄に動き回る手間が省けたからよしとするが。



「このまま転移で町に戻ってもいいが。まだゴブリンの残党がいるかもしれない」


「んー…どうすっか。時計持ってねぇからなぁ。今何時だかわかんねぇし、そもそもこの洞窟の地形を把握してないから出れるかわかんねぇよ?」



「…それもそうだな」


「しかも、ここの残党倒したところで、外に出てるゴブリンだって山程いると思うから全部倒し切るのは不可能だろ」



それじゃあ結局はまたここに巣を作る可能性もあるって訳だな。


…これは任務達成になるのか?

もしガタくれられたら金は要らねぇからランク上げろって言ってみるか。



「ならば街に戻ろう。

シリウスと合流する前に魔力の回復がしたい。とりあえずは飯でも食って時間があれば時計を買いに行く」


「だな。よっしゃ決まり!!」



「──と、その前に」



オレは寝床のような布の敷き詰められた場所でボックスを開いた。



「ゴウ、オレのボックスにここに落ちてる生活用品を全ての入れてくれ」


「…なんで?」



「アイツらがここに戻ってきた時に、生活ができる物が落ちていたらまたここに居座るだろ?」


「…あんま意味ないと思うけど…まあ、気休めにはなるか」



しぶしぶ動き出した剛は汚いものを摘むように落ちている物を拾い上げて次々とボックスに放り込んでいった。



「──し、こんくらいか。ゴミはいいだろ?」


「当たり前だ。オレはゴミ収集車じゃねぇよ」



「ハハッ、つまんねー。ほら帰るぞ」



暫く二人で物を見定めてゴミと生活用品を分けた。目を凝らしてみるとかなりの物が落ちていてビックリしたわ。



「あ、ちょっと待て。──イグニション」



────ゴォオァアッ!



ゴミは燃やしておけばいい。

こっちが要らないと思ったものでも知能のある奴らからしたら何とかして使える物にするかもしれねぇしな。



「なに火遊びしてんだよ。それは放火って言うんだぞ。」


「ちげぇよ。ウォータージェット」



────ザァァァァッ…



やるなら徹底しないとな。

この行動が吉と出るか凶と出るかはわからないが、ここまで跡形もなく生活の拠点が潰されたら少しはヘコむだろう。


逆上して凶暴化しないことを祈る限りだわ。



「…気が済んだか?」


「ああ満足だ。ほら帰るぞ。──テレポートα…」


────パァァァ…



この魔法陣も見慣れたもんだ。

正直、洞窟や室内に居る場合転移魔法が効くかわからなかったが心配は無用だったみたいだな。


ガッツリ性能してる。



「早くしろ」


「あ、ちょっと待って──お待たせ!」



「ボシーヘイデットギルド前」



────シュンッ



まずは報告からだ。


オレ達はボシーヘイデットに戻った。







━━━━━━━━━━━━━━━

ボシーヘイデット・ギルド

━━━━━━━━━━━━━━━





────シュンッ



「あー!やべぇ!マジ疲れたわ!!」


「とりあえず先に報告を済ませてから時間見て少し休憩するぞ。アイツらから魔力カードを受け取ってないから、飯食って少しでも回復しねぇと」



「あーそうだな。お前ボコスカ魔法唱えてたもんな」


「そ、だからチャッチャと済ませて飯食いに行く」



ギルドの目の前に着いた俺達はそのまま中に入った。



────カロンコロンッ



毎度の事ながらこの間抜けな入口の鈴にそろそろイライラする。



「おかえりなさいませ」


「ああ、任務すべて終了だ」



「はい。配達の受領書はありますか?」


「ああ」



わざわざボックスにしまうのも億劫だったから着物の袖に入れておいたリストを取り出し受付に立っていたミアに渡した。


…てか、アイツらまだ帰ってねぇのか?

受付の仕事はあの双子の役目だろ。アイツらがいないってことは戻ってねぇって事じゃねぇの?


──そう思ったけど言わなかった。



「おい、ガキはまだ帰ってねぇのか?」



そう、剛が代わりに言ってくれたから。



「あ、戻ってますよ。ですが、夜も遅い事でしたので上がらせたんです。恐らくルノさんとフィオナさんと一緒に食事でもしていると思いますが」



食事ね。…懐かれたか、可哀想に。

フェリスすげぇ機嫌悪いだろうな。



「ふーん。ならいいけどよ。でさ、オレらゴブリンの討伐って依頼だったが、迷い込んだ場所がヤツらの住処だったらしくてよ、ついでに潰してきた」



剛はペラペラとそう言うと、オレにボックスから出せと催促してきた。


…ここであの汚ぇ物出すのかよ。


気が引けるが取っておいても仕方のねぇ物だからな。



「──ほら、コレだ」


「え、…これを…貴方達が?」



「おうよ、めんどくさかったんだからな!とりあえずこのガラクタ処分しといてくれ」



ガチャガチャと、布や食器をボックスから取り出してカウンターの横に並べていく剛は、要らねぇから捨てろとミアに指示していた。


五帝様相手に押し付けがましい奴だな。

…まあこんなふうにズケズケとモノを言ってくれるからオレも余計な事言う必要ない訳だし。


コイツが勝手に済ませてくれるおかげでな。

…9割余計な事だったりするけどたまには役に立つ。



「あの…それでゴブリン達は?」


「あの場にいたヤツはほとんど消滅したはずだぞ?コイツが焼き払って水で流してたから」



な?と、さも自分がいい事をしたかのように得意気に言う剛は今日も絶好調で調子乗ってるわけか。


一日動き回って自分の中に多少力がついたという自信があるんだろうな。


ガキの頃から辛い稽古がある時はこんな風にテンション上がりっぱなしだったから見慣れてるけど。



「え、あ…どうしよ…」


「なんだよ。何かダメだったのか?」



「い、いえ!!とんでもないです!…ただ、ゴブリンの巣の破壊はプロランクだったんですよ…。だから報酬とかランクとか──」


「──いいじゃない。そのまま計算して全ての報酬渡しなさいよ。どうせこの人達はアマチュア程度の任務じゃ物足りないんだろうから」



ミアがカタカタと何かを説明しようとしたら、カウンターの後ろにある扉から生意気そうに腕を組んだアトリアが口を挟んできた。



「…おい、プロランクって」


「そうよ、アンタたちゴブリンの住処で戦ってて思わなかった?“アマチュアの依頼の割にはキツい”って」



あー確かに言われれば…。



「キツいって言うか、こんなのがアマチュアなら相当ステータスの高い奴じゃないとこの任務にはつけないだろうとは思ったな」


「でしょ?…まあ、ゴブリンも倒してきたようだし、わざわざアンタの相棒さんが証拠を見せつけるようにガラクタ押し付けてきたんだから今回は報酬渡すわ」



オレが剛に目を向けると、“ンだよバレたか”と頭を掻いていた。


…侮れねぇな、コイツもアトリアも。

会話の主導権を握っていたのはこの為だったのか剛。



「アンタ達…気をつけた方がいいわよ?」


「あ?何をだ」



「んー…まあ色々?じゃ、アタシ次があるから行くわね。ミア、ちゃんと報酬渡しなさいよ」


「あ、はい!わかりました!」



同じ五帝でもその中に上下関係があるのか、キツい口振りでミアにモノを言ったアトリアは扉の中に戻って行って、ミアはビクりと体を強ばらせてから申し訳なさそうにこちらに目を向けた。


…性格の問題か?



知らん、どうでもいいわ。



「え、えっと…。今日の任務は5件、洞窟の外に出てしまった魔物の討伐と、魔法石の採集、洞窟の中の魔物の討伐に…配達が2件でしたね…」


「ああ、そのことなんだが…洞窟の外で魔物に出くわす事なんて無かった」



「ああ、それなら大丈夫です。見つけたら討伐してくれと依頼されただけですので、それに恐らく外に出てしまっている魔物も夜になると巣に戻ったりしてますので、ソウ様やゴウ様が倒してしまったと思います」


「は?え、じゃ何?外に出た魔物ってのもゴブリンだったのか?」



「はい。なので一応依頼は達成しています」



「…それならいいが…もうひとつ、魔法石が何だかわかんなかったから──」


「──ああ、ソウ!それならオレ拾ってきたぜ?」



オレの言葉を遮った剛はゴソゴソと着物の袖を漁ると、10個程のキラキラした石をカウンターの上に置いてミアに“これだろ?”と見せていた。


…いつ拾ったんだコイツ。



「あー、今お前いつ拾ったんだ?って思ったろ。お前が帰るって魔法陣作った時に、さり気なく見渡してたら光石の青い光とは違う色の光が見えたから近付いたら落ちてたんだよ」


「お前、抜け目ねぇな」



「いや、オレも五件依頼受けたはずなのに三件しか終わってねぇと思ってたからそれ見るまでは忘れてた。危なかったな」


「ハッ…そうだな。助かった」



「…10個も見つけたのですか?」


「ああ、ゴブリンの寝床だった場所に隠すように置いてあったぞ」



「そうですか…。依頼は三つだったのですが…。どうしましょう」



ミアが拾い上げた魔法石を上にかざしてキラキラとした石の中心を眺めながら言った。



「…どうって言われてもな…。その魔法石っていうのはどんな効果があるんだ?魔法石と言うくらいなのだから何かしらの魔力が働いているだろ?」


「…ええ」



ミアの言おうとしていることは、三つが依頼条件で、“残りは貴方達が欲しければ持っていくことも出来ますけど”と言う事なのだろう。


何か使える効果があるのならば加工するなりして身につけようとは思うが、要らねぇものならオレにも考えがある。



「効果は様々なものがありますが、この紫の輝きは毒を無効化、吸収する効果ですね。ここにあるものは全て同じ効果になります」


「毒か…。要らねぇな。それ三つで一つの依頼達成なんだろ?ならば、九個やるから三つ分の報酬をくれないか?残りの一つは近付きの印でアンタにやる」



必要ないものならば持ってる理由がない。それなら金にした方が幾分マシだろう。受け取ってどこかの質屋に入れるのも悪くねぇが、めんどくせぇからここで貰えるなら貰ってしまおうという腹積もりだ。



「い、いいんですか?!」


「ああ、構わない」



「た、助かります!ならばアマチュアの任務が7件と、プロの任務が1件として計算しますね。少しだけ待っててください」


「わかった」



オレの返事を聞いたミアは、カウンター裏の椅子に腰掛け、金の計算をし始めた。



「なあ…今日何食う?」


「…ガッツリと肉食いてぇな」



「お?ソウも肉食に目覚めたか」


「そうじゃねぇよ。結構動いたしこれからももう1件あるから備えておきたいだけだ。お前と一緒にすんな」



「ちぇ、食い放題とか食べ比べ勝負したかったのによ」


「残念だったな」



…絶対嫌だ。心からそう思った。



「──あの、お待たせしました。計算ができましたよ。内訳を説明します。今回はアマチュアの依頼が7件とプロの依頼が1件なので、1万ルンド×7件に10万ルンドを足して17万ルンドです」



「ッ…」

「…マジかよ」



はあ…。スゲェよこの世界。

オレ達の力を持ってギルドで依頼受け続けてたら一年で信じられねぇくらいの額稼げんじゃねぇの?


これなら、リトルウィアークの爺さんに金渡せたかもしれねぇな…。戻った時にでも城の建て替えとかに協力してやるか。



「次の依頼を受けておきますか?」



金を受け取ってカウンターに置いてあったマネークリップでまとめて袖にしまうと、ミアがひとつのファイルを出してオレ達に渡して来た。


…次の任務か。どうする…。



「時間制限が無くて他の事をしていても達成できるやつはあるのか?」


「はい…それならアマチュアランクでは、魔法石の採集と、森の雫と呼ばれている“神秘の泉”の採集。マンドラゴラの花の採集。ゴーレムの腕輪の採集などがあります」



──採集系ばっかりだな。



「…でもこちらを受けるなら、魔物から取れる物に至っては、討伐数に五体につき一任務として報酬を出せるので、簡単に稼げるかと。…あとは時間制限や期限があるものなので難しいですね」


「ならば、拾えば拾うほど金にはなるということなんだな?依頼を受けていなくても何かしら拾っておけば後から受けてその場で出すことも出来るということだろ?」



「ええ、そうなんですが、それならギルドを通さずに質屋等で買取りしてもらったほうが効率はいいです」


「いや、めんどくせぇからここでいい」



そうすればシリウスに会いに来る口実ができるしな。



「そうですか…では、今説明した依頼を全て受ける手続きをしてもよろしいですか?」


「ああ頼んだ」



“わかりました”と返事をしたミアはカウンターの下から紙を取り出して、なにやらコソコソと記入すると、オレ達にサインを求めてきた。


これは、今回の依頼を受けるときにも行われた、形式的なもの。



「っし…おい、お前も名前書け」


「おうよ」



オレ達はそれぞれこの世界で使う名前を記入して依頼を正式に受けた。…これで準備万全だな。



「はい、では全ての手続きが完了しましたので、今日はもう大丈夫です。任務頑張ってくださいね」


「ああ」

「おう」



ペコリとお辞儀をすると、オレ達がゴタゴタと並べたガラクタに手をかけてカウンターの後ろの扉に入っていくミア。


片付けろと言われるのだろうか。

結構の数のガラクタがあるから一人で片付けるのは大変だと思うが…。


まあいいや。とりあえず飯でも食いに行くか。


オレは可哀想な目でカウンターの扉を見つめる剛に“行くぞ”と声を掛けてからギルドを出た。






━━━━━━━━━━━━━━━

ボシーヘイデット・飯屋

━━━━━━━━━━━━━━━




…よく考えたら気になる事がひとつある。

早く飯にありつきたい一心で完全に頭から抜けていたが、結局ホーリー・レフトでルミアと会ったことをアトリアに匂わすのを忘れていた。


仕組まれていることなのだとしたら、恐らくあの二人が関わっていると変な確信が出来る。目的や意図が読めずにそのままにしていたが、落ち着いて考えると気になってしょうがねぇよ。


それに…

“アンタ達…気をつけた方がいいわよ?”

アトリアに言われたその言葉の意味もよくわからねぇ。多分オレは脅されたんだと思うんだが…何に気をつければいいんだよ。


あーモヤモヤすんなぁ。



「──おい、早く決めろよ。そんなに時間ねぇぞ。」


「…んぁ?…ああ、悪い。オレは適当に肉料理でいい」



「ならめんどくせぇからオレと一緒のにしろ。ステーキとスープセット。…サラダも付いてるってよ」


「ああ」



店員に、“大盛りと普通で”と注文する剛をぼんやり眺めながらオレの思考は完全に違う事を考えていた。


…コイツの能力についても少しは把握しておかねぇと、いつまた覚醒するかわかんねぇもんな。…魔力の吸収ね…。無自覚ってのがまたクセがある。


コイツに言っても理解出来ねぇことだと思うから多分パニックになるし、変に意識させても精神に差し支えるかもしれねぇ。


問題は相も変わらず山積みって訳か。



「はぁーあ…ったく忙しいな…」


「お?なんだよ、愚痴か?聞くぜ?」



“お前の事だよ!”…とは言えず、代わりにデカいため息をついてテーブルに突っ伏した。



『──ソウ聞こえるか?俺だ』


『…あ?…シリウス?…聞こえてるぞ』



『今何処だ?任務は終わったか?』


『ああ、全て終わらせたから今は時間潰しで飯食いに来てる』



『そうか、こっちも今終わったとこだ。このクソ勇者のおかげで2時間も時間を押した』


『ご愁傷様だな。とりあえず報告してから来るか?アレなら待ってるぞ』



『そうだな。とりあえずこのグズをギルドに戻さなきゃならないから終わり次第行く。飯頼んであるなら先に食ってろ。…店の名前は?』


『あー、“Honey Bee”』



『わかった』



シリウスからの念話だった。

皆越のおかげでだいぶイラついてるみたいだったな。お守りなんてやりたくねぇだろうによ。


どうせ、アイツなんてほとんど役に立たずに五帝の奴らが必死こいて動き回ってんだろうな。…ホント、何の為にいんのアイツ。



「──お待たせいたしました」



突っ伏した頭上から爽やかな声が聞こえて、顔を上げるとすぐにテーブルに置かれる料理。


眠そうにうつらうつらしていた剛は、鉄板に乗ったステーキを見て一瞬で目を覚ましていた。



「では、ごゆっくり」


「ああ」



店員が居なくなるまで背中を目で追った。



「…誰?」


「何が」



「いや念話の相手」



なにその彼女の探りみたいなやつ。

てか気付いてたのかよ。すげぇなお前。



「ああ、シリウスだ。こっちに合流するってよ」


「へぇ…で、あのクソ野郎も来るのか?」



「いや、皆越をギルドに戻してから来るとか言ってたからそれはねぇんじゃねぇの?」


「ふーん。調理場貸りてアイツを微塵切りしてやろうと思ったのに残念だなそりゃ」



ナイフを入れながらボヤいた剛がパクリとステーキを口に放り込んで噛む様子がやけに恐ろしく感じた。



「…そりゃ残念だ」



よし、連れてこないことを祈ろう。


お互い一息ついてどっと疲れが出たのだろうな。俺も剛も特に会話することなく飯を食べ勧めた。


…妙に静かな剛が不気味だと思ったのは内緒の話。




「──待たせた。」




黙々と食い続けた飯がいよいよ無くなってきた頃シリウスは現れた。



「おーう!お疲れ!アイツと一緒にいんの辛かったろ?」


「ああ、お疲れさん。そうだな…地獄のような一時だった」



すぐに気付いた剛はシリウスに片手を上げて返事をして、ウンザリといった表情を見せたシリウスはオレに“ここ座るぞ”と確認をとってから席に着いた。



「悪いな先に食ってる。今店員呼んだからすぐに来ると思うぞ」


「ああ、いいんだ。急に合流すると決まったんだからしょうがないだろ。俺も腹が減った。簡単なものでいいから何か腹に入れたい」



「…どうだった?」


「どうって?勇者の事か?…言うまでもないだろ。口ばっかりペラペラ動かしやがってロクに動きもしない。…なんだ?この街にある風俗街に誘われたな」



「相変わらず暑苦しい野郎だなアイツ。シリウスにはンなもん必要ねぇくらいモテモテだってのに余計なお世話だよな?ソウ」


「なんでオレに振るんだよ。知るかよンなもん」



「まあ、丁重にお断りしたんだが」


「ハハッ、そりゃそうだ」



涼しい顔して興味が無いと答えたシリウスは、メモを持って立っている店員に、“この店で一番早くて腹の膨れるものを何でもいいから持ってこい”と傍若無人を発揮していた。


仲良くなった奴には優しいのか。

まあ確かに初めてギルドで会った時は存在を否定されてると思うくらいアッサリ風味な接客だったもんな。



「…で、飯食い終わったらそのまま行くのか?お前達が何か準備するものとかがあるのなら先に済ませても構わないが」


「いや、オレは特に無いけど…ソウは?」



本当は時計を買いに行きたいのだが、剛の様子を見ると、早く任務に向かいたいという気持ちが前面に出ていて…言い出せなかった。


時間ならシリウスが把握してるだろ。



「あー…まあ、オレもねぇな」


「ならば、そのまま向かっても大丈夫という事だな?」



「ああ、そうだ。聞きたいことがあったんだが、この任務はシリウスの受けた依頼にオレ達が混ざってるって話だよな?…何の手続きもしてないんだが、大丈夫なのか?」


「ああ、それはこっちで済ませておいた。お前あんまりギルドの奴ら好きじゃないだろ?」



「…ッ、なんでわかったんだよ」


「俺も嫌いだからだ」



シリウスはふっと笑うと理由にならない事を言った。



「ちょ、ちょっと!オレを差し置いて自分の方がソウを知ってるみたいなのやめてくんね?オレ結構ヤキモチだからそういうのヤなんだけどー」


「ああ、そうだったな。いやコイツをよく知ってると言うか、俺と似たような奴だから何となく人の好みとかも似てくるのかと思ってな。…悪かった」



「あ、いや、違くて!謝って欲しいとかそんなんじゃなくて…今のはノリっていうか…」



言動が全て裏目に出て焦る剛。

だから言ってんだろ。シリウスはオレと似てるようで違うからオレに向けてくるノリを押し付けても、望んだ答えが返ってくるとは限らねぇんだよ。


言うこと聞けよなマジで。嫌われたいのかコイツは。



「…大丈夫だ。俺はコイツを気に入ってるが、お前から奪ってどうこうしようだなんて事は少しも考えていない」


「うー…」



完敗だ剛。お前の負け。

仲良くなる為にちょっと絡んでみただけなのだろうが、こうしてコミュ障患った相手にはお前のノリは通用しねぇってよ。



「ゴウ、もう黙ってろ。お前空回りしてるから今は何言ったって裏目に出るぞ」


「だって…」



「…空回り?…裏目ってなんだ。何か企んでるのか?」


「あーいや…まあな。コイツ、シリウスと仲良くなりたいみてぇなんだが、イマイチ距離感掴めてねぇって言うか…接し方がわからねぇみてぇなんだよな」



「ちょ、ソウ!!変な事言うなよ!」



顔を赤くして照れる剛は珍しい。

いつもはノリノリで煽ってくるくせに本心を突かれると弱いんだよコイツ。



そして、その様子を見てご自慢のサド心がウキウキとするのはオレだけじゃないようだ。



「ほう…なんだお前、俺と仲良くなりたかったのか。ゴツい体して可愛いとこあるとは…」



っかぁー!恥ずかし!


なにこれオレが言われた訳じゃねぇのにそんな煽り方してたら聞いてるこっちまで擽ったくなってくるじゃねぇかよ。



「ちょ、は!?ななななんだよ!おおおオレがそんな色仕掛けに掛かると思ってんのかよ!!ここ、こっちは年中無休でフェロモンぶち巻いてるソウのおかげで、そ、そういう免疫ついてんだからなっ!!」



あからさまにシリウスの目を見ないように顔を逸らした剛は助けを求めるようにオレの目を見た。


が、残念。剛よ…相手が悪かったな。



「なんだよお前、そんな照れたフリして食えねぇ野郎だな。満更でもねぇクセに一丁前にデレてんじゃねぇぞ浮気かコラ」


「はっ?!ちちちち違ぇよ!!つーな浮気ってなんだよ調子乗んな!それよりこの天然フェロモンマシーン止めろや!コイツからバラのみてーな匂い飛んできて気持ちわりぃんだよ!」



“なんだよお前まで!いつもは誰も味方してくれねぇからってここぞとばかりにオレをイジメやがって!”──と、あからさまに耳まで真っ赤に染め上げた剛は今にも頭から煙を噴き出しそうだ。


そうだよ。だからお前がやられてる時は全力でやり返すチャンスなんだろうが。オレが根に持つタイプでよかったな。このドM野郎。



「おい、誰がフェロモンマシーンだ。お前が勝手にそう感じてるだけだろ?自分の妄想で変なあだ名押し付けてくるな変態」


「…………グハァッ…」



はいご臨終。さすがシリウスだな。

トドメの差し方まで完璧たァ驚いたぜ。

良くやってくれた。


ここ暫くコイツにいいとこ持ってかれてるようでそろそろ潰しておきたかったんだ。恩に着るぜマジで。



「なぁソウ?…次はお前の番か?」


「あ、いや、オレは遠慮しときます」



だが、シリウスはオレと違ってヘタレ属性を持っていないから根っからのドS野郎だった訳だ。


調子乗ってすいませんでした、だからイジメないでくださいお願いしますから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ