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ボシーヘイデッド編~ギルドマスターのイケメン~

━━━━━━━━━━━━━━━

ボシーヘイデット・ギルド

━━━━━━━━━━━━━━━






────カランコロンッ♪



なんだろうか、こういう木で出来たような扉ってのは大概こんな音を立てる気がする。


別に嫌いじゃねぇが、ヒッソリと登録を済ませたいオレからしたら今はただウザイだけ。



「「いらっしゃいまっせぇー♪」」



パタリと締まった扉に睨みを利かせていたら、なんとも若々しい声がオレらに掛けられた。



「登録ってのをしに来たんだけど、ここで出来んの?」



振り返るオレより先に声を掛けたのは剛。

相手は自分の腰あたり程しかない女の子供二人だった。



「うんうん♪お兄さん達見ない顔だね♪」


「ギルドの登録はここから出来るよ?」



カウンターによじ登りながら二人の子供は1枚の紙を剛に手渡した。



「──店番でも頼まれてんのか?…保護者はどこだ」



剛から渡された紙には“登録について”と一番上に押し付けがましく書かれており、その下からは眩暈がするほど細かい文字が並んでいた。



「私は受付のマナ♪ギルドの管理をしています♪」


「私は受付のルカ♪ギルドの案内をしています♪」



「ふふ♪双子ちゃんなのね。可愛い♪」



よじ登ったカウンターの上に立ちながら二人の子供はまるでステージに立つ役者のように自己紹介をしてオレをドン引かせた。


…ルシファーはコレが可愛いのか。


ごめん、あんまりガキ好きじゃねぇからタダの行儀の悪い糞ガキにしか見えねぇわ。



「おいコラ、ガキ。机の上に乗っちゃダメって母ちゃんから習わなかったか?」



剛が、ミアとルカの後ろ首を掴みカウンターから降ろす。



「だって、カウンターに乗らないと高すぎて何も見えないんだもん!」


「そーだよ!チビをバカにするな!」



「あ、コラガキ!叩くなッ!」



ほぉ…オレはまた持ち前の引き運の悪さを惜しみなく発動してめんどくさそうな奴らに出会った訳だ。



「…ふふ♪可愛いですね♪」



じゃれ合う剛とチビ二人を見ながらルシファーがオレに楽しそうに言った。



が、

ごめんルシファー。オレ子供嫌いなんだわ。

…とは言えず。“そうだな”と自分でも驚くほど感情の“か”の字もない声が出た。



「アタシうるさいガキ嫌いなのよね。あんまり関わり合いになりたくないから早く手続きしよ。」



これまで黙って腕を組んでいたフェリスが、剛の周りでギャンギャン騒ぐチビを見下しながら言った。


いや、オレの気持ちを代弁してくれた訳だが…結構感じ悪いのな。


口に出さなくてよかったかもしれない。



「まあまあそんなこと言わないの。フェリスにもこういう時期あったでしょ?」


「…ッ…──フンッ、さあね」



一瞬苦しそうに顔を歪めてから鼻で笑ったフェリス。

──今、コイツの闇を見た気がする。



「──わ、わかったから!とにかく登録させてくれッ!」


「え、今からするの!?」

「もう夕方だよ!?」



楽しそうにはしゃぐ二人を必死に相手しながら本題に戻す剛にチビ二人がピタッと動きを止めた。



「んぁ?夕方からじゃダメなのか?」



信じられないと言いた気に見上げる二人を

頭を撫でながら剛は答える。



そんなこと無いけど…とマナがチラッとルカを見た。



「…ここのギルドは登録する時に自分の能力値のデータを取らなきゃならないの」


「…ああ、だから?」



子供相手に上手く接する事が出来ないオレに、ビクッと怯えたルカがそのまま続ける。



「…え、…っと、夕方は1日の終盤だから体力魔力共に疲労がピークだから…えっと…いいデータが取れないかも…って」


「…ちょっと、コッチは何もわかんないんだからハッキリ喋んなさいよ」



「ヒッ…ご、ごめんなさい!」



威圧的な声で責めるのはフェリス。

…お前の子供嫌いは分かったけど…これ以上ビビらせんなよ。泣いたらどうすんだし。



「…いいデータが取れないと何か変わるのか?」


「あ、え、あの…引き受ける事の出来る依頼が変わってくるの。ここのギルドではひとつひとつの依頼はミッション制になってて…登録時のステータスに合わせて依頼を受ける方針だから…」



フェリスの言葉で完全に怖気付いたルカは俯きながらゴニョゴニョと説明をした。



「…気遣いは無用だ」


「え…」



「だから問題無いって言ってんの。早くデータ取りなさいよ!」


「はい、ごめんなさい!」



飛び上がるように返事をしたルカは、カウンターの後ろにあった扉の中へ逃げるように走って行き、ソレを見たマナが抱かれる剛の腕を振りほどいて追いかけて行った。



「おい…」


「ふん、ガキは嫌いなのよ」



オレが何を言いたいのか悟ったのかは知らないが、ソレを言わせないようにとフェリスは威圧的な態度を示した。



「おいフィー、あのガキがお前に何かしたのかよ。あんな小さいのに仕事して偉いじゃねぇか」


「ッ…だから嫌なのよ…ッ!」



剛の説教に、またしても顔を歪めたフェリス。こりゃコイツの闇も相当深いようで。


深く詮索すりゃまた揉め事になりそうだからあえて黙っておくが。



「まあ、オレも子供は苦手だから気持ちは分からなくもないが、泣かせるなよ」


「…」



これ以上二人が騒ぐ前に止めておいた方がよさそうだ。



「──あの…お客様がお見えだと受付から言われたのですが…そちら様でしょうか」



やんわりと優しげな雰囲気でカウンターの後の扉からぬぅっと現れたのは、薄い水色の髪色をした気弱そうな女。


歳は…同じくらいか、少し下くらい…か?

まあ…タイプではない。


そもそもどんなに見渡してもオレ達しか居ないんだから聞くまででもねぇだろ。

そういうくだらない事を聞いてくる時点で論外だ。


…と童貞が何を言ってんだって話だよな。



「…ああ。ギルドの登録に来たんだが」


「あ、はい、伺っております」



その女は自分の足元にしがみつくさっきの双子に目を向け微笑んでからオレ達を見直した。


…そんなビビる事したつもりはないが、フェリスが原因で怯えてるなら、それこそ受付やめろって思う。


もっと怖いヤツや、

イカついヤツなんていっぱい来るだろう。

…なんかこの双子…あざとく見えるな。


いや、考えすぎか。



「ギルドの登録にはステータスの記録が必要とかなんとか、今そっち子供に言われたんだけど」



出来るんだろ?と剛は腕を組みながら双子の事を顎で差してから言った。

オレも人の事を言えた義理じゃねぇが…子供相手に(ry



「あ、それなら──」


「──俺が担当だ」



女が不安そうな面持ちで何かを言おうとした時、ふとカウンターの扉が開いて中から恐ろしいくらいに整い尽くした顔の聖騎士っぽい男が一人出て来た。


…もれなくイケメン。

出で立ちからしてクール過ぎて男のオレでも照れるレベル。…絡みにくい。



「あ…お兄ちゃん…。昼寝してたんじゃないの?」


「…ソレ(ガキ)がうるさくて起きた。だからアレだけガキは拾うなと言ったんだ…」



バリバリと頭を掻きながら椅子にドカッと座ったソイツはこの水色の髪した女の兄貴…?みたいだ。


似てなさすぎて大将とシェイさんを思い出してしまった。



「俺が受付け変わるからお前はこのガキどっかに連れて行け。…鬱陶しい」


「え、…そ、そんな言い方」



「…そうだな言い方を変える。俺の前から消せ。…これでいいか?」


「…ッ」



ハハ…圧巻というかドン引きと言うか。


今さっきここに登録しに来るヤツらでイカついヤツや恐そうなヤツなんて…って思ったけどまさかここで働いてるヤツがドス効いてるなんて思いもしねぇよ、普通。


ガキ相手に容赦ねぇな。


あの双子今にも泣き出しそうな顔してるけどいいのかよ。泣いたらもっとうるせぇぞきっと。



「っ…グズッ…ひ、酷いよ…お兄ちゃん…し、シリウスのバカァッ!」



…そしてここにも“まさか”がもう一つ。


先に泣き出すのはミアちゃんでしたか。

いや立ち振る舞い的に泣き虫属性っぽいな

とは思ったけど…。


めんどくさ。…帰りてぇ。



「おい、暴れるなよ。お前の属性と俺の属性は(スコブ)る相性が悪いから止めるのも面倒だ。…泣くならうるさいから国壁(コクヘキ)の外で泣け」



ミアの顔を見向きもしないで心底面倒臭そうに溜め息混じりに言った男。身内にまでそんな塩対応ですか。…すげぇなコイツ。



「──ッ!」



男の座る椅子を後ろからドカッと蹴り上げて“大嫌い!”と叫んだミアは、双子を連れて出て行ってしまった。


…本当に国壁の外まで行くのだろうか。



「──チッ。女ってのはこれだから嫌になる。

それで、お前ら全員ギルドに登録にするのか?」



「あぁ──」


「──あー俺の名前はシリウスだ。火帝を務めている。ギルドマスターだ」



カウンターの下からゴソゴソと紙を取り出した男は、質問の返事をする間もくれずに自己紹介を始めた。


…コイツ、コミュ障かよ。会話が下手くそもいいとこだ。



「はぁ…オレの名前はソウ・イング───」


「──あ…これに書け。ペンを持つことすら面倒臭い」



「ッ、ああ」



バンっと紙をわざとらしくカウンターに叩きつけてその上にペンも同様にわざとらしく叩きつけるシリウス。


オレはコイツが会話のキャッチボールをする気がないと悟った。



「…これ、1枚に全員分の名前を書くのか?」



出来る事なら結構わりと本気で歩み寄りなくないが、わからない事は聞かなければならない。


…みんな黙ってるけど誰か代わりにキャッチボールしてくんねぇかな。



──する訳がないよな。



「…お前達は依頼を受ける時常に4人行動か?」


「いや、そうとは限らない」



「なら別々に書け」



あ、はい。


そうします。



…。



「…」



そしてオレはシリウスを強くみつめた。



「…なんだ。俺の顔に何か付いてるのか?」


「いや、紙1枚しか貰ってないんだが」



「………………………………………チッ…ほら」



え、今のオレが悪いのかよ。

なんで舌打ちされた?



…コイツ絡みにくい。



またしてもバンっとカウンターに叩きつけられた紙を受け取った。



気が荒いって言うか…横暴というか…。

…1枚足りねぇんだけどオレ出直していいかな。



もう何も喋りたくねぇ。



「…なんだ、言いたい事があるなら言え。そんなクソの詰まったようなツラを見せるな。…もしかして…クソ、したいのか?」


「…いや1枚足りねぇなって思っただけだ。 」



「………………………………………………ハァ」



────バァンッ!!



…ヒッ!って感じ。

今オレの周りに居る全員ビクッとなった。



「ッ…」


「指紋が擦れてカサカサしてるから紙が掴めないんだ、悪いな」



そしてカウンターの上には100枚とかのレベルじゃない束の同じ紙が。


…あぁ、ね。…なんかごめん。


オレは今にも吹き出しそうに横で震える剛の足を踵で思い切り踏み付けてから目の前にある束に手を出した。


あの…ペン…一本しか…


いや、もういいや。ホント喋りたくねぇ。

指紋がねぇからっつってダースで出されても困る。そろそろオレも笑いそうだから視界にコイツを入れたくねぇんだよ今。



「…オレから書くから順番待ってろ」



とりあえず後ろでまごまごしてる三人にそれだけ伝えてカウンターを机代わりに文字を記入していく。




名前 ソウ・イングラム

出身国 リトルウィアーク

身長 178cm

体重 68kg

属性 全属性


ステータス(ギルド記入)

戦闘力

魔力

スピード




「…っし、これでいいか」



ギルド記入と書かれている欄以外は全て埋めた。


因みに身長は180ってサバ読んでやろうかと思ったがバレてややこしくなるのもアレだったんで我慢しました…はい。


オレのすぐ後ろで記入を見ていた剛にペンを渡す。いくらのバカでも名前くらいは教えなくても書けるだろ。



「えーっと?名前──」



サラサラと記入して行く剛の手元を横目で見る。




名前 ゴウ・カーライル

出身国 リトルウィアーク

身長 185cm

体重 75g

属性 なにそれ


ステータス(ギルド記入)

戦闘力

魔力

スピード





…。



ちゃっかり身長盛ってんじゃねーよ!!

オレはすぐに念話で指摘した。



「自分の属性わかんねぇのか?」



これはさすがに口から出た。



「うん」


「──後で調べられるからわからないなら書かなくていい」



椅子に腰掛けたまま腕を組んでうつらうつらしてるシリウスが、ボソッと言った。


つかそのくらい先に説明しろや。

お前の口は何の為にあるんだ、飯食う為だけの物か?ならば一切喋るな。


目を綴じてるのをいい事にありったけの念を込めて睨んだ。



「フッ…」



意味もなく笑われたが。



「──じゃ、これでいいか」



次にペンを渡されたのはルシファー。

何やら熱心に剛の記入を覗いていたがコイツ体重とか書けるのか…?




名前 ルノ・アンジュ

出身国 ドロップデッド

身長 158cm

体重

属性 全属性(聖光属性中心)


ステータス(ギルド記入)

戦闘力

魔力

スピード



ここまで書いてルシファーがパッとオレを見た。



「…ッ、あ…わ、悪い」



そうだったコイツ女だ。体重見られたくねぇよな。


即座に目を逸らすオレ。…見たいけど我慢。

ついでに興味深々に覗き込む剛の襟を掴んで引き下げておいた。



「ん、これでいいですね」



そして、最後にフェリス。


ブツブツと記入内容を言いながら書くから、見なくても内容がわかる。

…耳、シャットダウン出来なかったッス。




名前 フィオナ・モリス

出身国 コイグジスタンス

身長 163cm

体重 62kg

属性 全属性(水氷、風雷属性中心)


ステータス(ギルド記入)

戦闘力

魔力

スピード




恐らく紙にはそう書かれているはず。

…てか失礼だけどフェリス意外に体重あんのな。


出るとこ出てるが体は引き締まってるから軽いと思ったが…コイツ筋肉で重いタイプか。そもそもコイツ神獣だし。


勝手に自己解決した。




────バァン!!


「…ん、書けたわ」



ちょ、!?



「…ッ…ビックリするだろうが。もっと静かに置けないのか」


「…寝てると思ったからつい…ね。これビックリするわよねアタシもさっきアンタにやられてビックリしたもの」



シリウスの真似をしたフェリスは見上げるように睨まれると笑顔で返してた。

──やっぱり女って恐い。



根に持ってたのな。



そして、むくりと体制を整えたシリウスは、面倒臭そうにオレらの紙を受け取った。



「ほう…ルノ・アンジュ…。お前ドロップデッド出身なのか…珍しいな」


「ふふ、そうですか?私もこんなに気怠げな対応初めてされました。…珍しいですね」



ルシファーまで…あんまりニッコリ笑ってくれるなよ。お前がそういう笑顔見せるとオレのトラウマが(ry



「…ほぉ…で、お前はコイグジスタンスか。…獣人か?」


「は?…何見て言ってんの?」



「…その邪魔そうな尻尾だな。…見ていて心底暑苦しい」


「あらそう。見えてるなら聞かないで貰える?しかもアタシ“お前”じゃないんだけど。…もしかしてアンタ文字読めないの?」



「…そうだな。読むのも面倒だ」



バチバチと見えない何かをぶつけ合うフェリスとシリウスにたじろぐオレ。



「ま、まあさ!とりあえず書き終わったんだし能力検査的なのやってさっさと帰ろうぜ」



静かに会話のドッジボールをする女子組とシリウスの間に入って剛が言った。

…ちょこちょこ役に立ってます。



「ああ、そうだな。本来なら一人ずつ査定するのだが、面倒だから今日は4人一気にやる。──ついて来い」



シリウスは、余計な事は一切言わず椅子から立ち上がるとカウンターから出てきてオレ達が見る右側の扉に向かって行った。


この扉だけやけに頑丈そうだから、おそらくこのすぐ先で調べるんだろう。

──オレ達もその後ろをついて行った。






━━━━━━━━━━━━━━━

ギルド・測定室

━━━━━━━━━━━━━━━




「不正を働かないように査定するヤツ以外はこの中に入れ」



扉をくぐり抜けると、だだっ広い空間の中心に床から突き出した棒の様な物の上に丸い水晶のような物があるのが見えた。


シンプルイズベスト…まさしくそんな言葉が当てはまるほど何も無いただそれだけの為に造られたような部屋。


昔の建造物を思い出させるような白いレンガが積み上げられている様は、外観の木造を翻すように神聖な雰囲気を漂わせている。


オレ達は指示された場所へと4人全員で移動した。



「全員こっちに来たら意味無いだろ」


「は?誰からとか言われてねぇし」



「そうですよ。どうします?」


「アタシは別に誰からでもいいわ」



ほう…ここに来て譲り合いの精神か。



「…ルーかフィーどっちか先にやれ」


「え、え!?…でも…」



訳もなく先に女子達を行かせた。



「じゃ、アタシ行ってくるわ」



こんなところで押し付けあっても意味が無いと思ったのか、特にルシファーと会話することなくフェリスが進んで前に出る。


後回しにしてもどうせやるならいつやったって一緒だろ的な。


オレより男らしいわお前。



「フィオナ・モリスが一番先か」



チラッと紙を見ながらフェリスの名を呼んだシリウス。興味無いから覚える気もないのだろう。



「それで?何をすればいいの?」


「この部屋は魔力を査定する部屋だ。この水晶は魔力を吸収して5段階のランク別に色分けしてくれる。SS、S、A、B、Cそれぞれ上から白、赤、黄、緑、青に変わる。

これを査定して先ほどの紙にランクを記入し戦闘力、スピードと合わせて平均のランクを割り出し、それに見合った依頼を受けることが出来るようになる」



フェリスの査定を待ってる間にここにいろと入れられたスペースはガラス張りのように透明で分厚い。触れてみると貫通する辺り、恐らくこれは魔力だけを封じている異空間なのだろう。


不正を働かないように、とか言ってたから前に誰かが余計な事をしたんだと思う。


例えば、あの水晶に魔力を入れてる時に横から魔力を注ぎ込んでランクをあげるとか。


まあ、フェリスもルシファーもそんな事する必要無いと思うが。



「そう…それでどうやって注ぎ込めばいいの?」


「この水晶に触れて魔力を解放すればいい」



「ふーん。それだけなのね」



わかったわ。とすぐに理解したフェリスは、躊躇なく水晶に触れた。



────パァァァァ…



もう念じているのだろうか、触れた途端に光を放つ水晶の色は…青。


ってことはまだ解放していない?



「…もういいの?」


「ああ、いつでも」



やはりまだだったみたいだな。

フェリスはそれから軽く目を閉じて深呼吸を2回ほど繰り返し、



「──ッ…!」



肩に力を込めた。



────パァァァァ…



一瞬、目が眩むほどの強く青い光が放たれたが、なんとか目を逸らさずに水晶を凝視すると緑、黄、赤、白まで1秒足らずで変わった。


そして、



────パキッ



妙な音がして変化が終わる。



「…っ」



誰よりも傍で見ていたシリウスは言葉を失っていた。



「…で、どうなの?」


「ッ、ああ…少し待て」



得意気なフェリスとは裏腹に戸惑いを隠せないと言った様子のシリウスは、まじまじと水晶を舐め回すように見てから部屋から出ていった。



「…なんなのよ」



因みに、水晶の示す色は白。

シリウスの話からするとSSランクに相当するはずだ。


ただ、オレの居るシェルターの位置からは細かい所まで見れないが、水晶のてっぺんから中心部にかけてヒビが入っているのがわかる。…それが意味することは?


シリウスが居なくなったことに関係しているのか。



『あ、あの…ソウさん。ちょっといいですか?』



悩み(フケ)っているとルシファーから念話が届いた。



『どうした?』


『はい、あの…この査定って属性がわかるってシリウスさん言ってましたよね…?私の属性に神属性があるんですけど…バレても大丈夫ですか?』



申し訳なさそうな声で言われた事は、結構重要な事だった。



『…そうだったな。お前がバレたらオレもバレるということだよな』


『ええ…』



この世界は基本的に八つの属性から成り立つ世界だ。火炎、水氷、風雷、土地、聖光、闇影…


そして、稀に見る属性、神属性と魔属性。

魔法の技がある訳では無い特殊なソレは、魔力の存在するこの世界で言うのなら性質みたいな物だ。


修行の時に親父から上辺だけ聞いてはいたが、なにやらこの二つの属性はフレイミスではそう簡単に出会えるものではないということから、その希少価値で興味本位に絡まれることも多々あるらしい。


このギルドの奴らを信用していいものか見定めも出来ていないのに、こちらの秘密事項をこうも簡単に提示していいのだろうか。



『いや、オレ達の重要な稼ぎ口になる。

まともな職につけないオレ達には都合のいい稼ぎ口だから潰したくない』


『わかりますが…』



さて、どうしたものか。


ここで引けばバレずに済むが、職を失うようなものだ。そして皆越との接触も遠ざかる。

何より、フェリスが査定を済ませてしまった以上怪しまれるだけだ。


…めんどくせぇなおい。



『いや、ここでは引けねぇ。いずれオレ達が動き回っているうちにバレる事だ。このまま続けるぞ。どうせビビらすなら恐ろしく思われるくらいの結果を出しときゃ迂闊に手を出さねぇだろ』


『…ソウさんがそう言うなら…』



『大丈夫だ。何かあったらオレが守る』


『…はい。ありがとうございます』



とは言っても相手は五帝だもんな。


手合わせした訳じゃねぇからその五帝ってのがどれほどの強さかは知らねぇけど、簡単に言わせれば個々の属性に対して世界で1番強いヤツらの集まりだろ?…厄介そうなんだよな。



「──から、とりあえずお前達も見ておいてくれ」



「忙しいんだからあんまり巻き込まないでよね!」


「まあまあ、そう言わずに。とにかく面白そうだからいいじゃないですか」



ルシファーとの念話を切って更に考え込んでいると、シリウスが金髪ショートヘヤーの女と緑色のロングヘヤーの男を連れて戻ってきた。



「…ッ」



──コイツ。



『おい、この男昼間の野郎じゃねぇか?』


『ああ、剛もそう思うか?』



フードこそかぶっていないが確かに感じるのは既に出会っているという既知感。


背中に背負うデケェ弓が何よりの証拠だ。



「んー?どれかな?…うわ…本当だ。こんなの初めて見たからビックリだよ。…でも、水晶の色は白なんだね」


「…凄いわ。アタシも初めて見た。これ、貴女がやったの?──ッ!」



金髪の女がフェリスにそう問いかけながらさり気なくこちらに目を向けて…固まった。


え?…オレなんかしましたか?



「…?」


「あ、…あ、貴方は…」



どうやら一方的にオレの事を知っているようだ。…と、思ったが…ちょっと待て。コイツ見たことあるかもしれねぇ。


──どこだっけ。



『おい、コイツ勇者召喚の時にいた女じゃねぇか?』



再び剛から念話が届きその言葉を理解すると、頭の中に剛を助けに行ったときの事が思い出される。


…あの時にいた女は…一人は神官ような白を基調とした布団のシーツみたいな服を着た女と…金髪の…──ショートヘヤーの…



「──ッ!」



ハッキリと思い出した。

そうだ、コイツは皆越が勇者召喚された時に居た女だ。



「…へぇ♪すっごい奇遇♪」



その女は俺達の居るシェルターまで近寄って来ると腰に付けていた剣に手をかけ、見せつけるようにして鞘から抜き出したレイピアをオレに突きつけようとした。



が、



────ガキンッ!!



「…まぁ♪」


「…」



分かっていた事だが、遅い。


即座に抜いた刀とぶつかり合い、重い音が響いた。咄嗟的に防御に回ったから力加減などしてなかったが、この女…一瞬怯んだだけでしっかりと耐えてる。


五帝とやらも伊達じゃないようだ。



「…ふ、やっぱり。アタシはフレイミス光帝アトリア。戦闘力査定の担当よ。アナタには興味があるわ。後でその力存分に見せてちょうだい」



アトリア…ってコイツがクリスの妹…?

確か大将がそんなような事言ってたような。


アトリアはそれだけ言うと、押し合っていたレイピアを緩め、鞘に戻してそのまま部屋から居なくなってしまった。


傲慢そうなところは似てるんだな。


…嫌いだわー。



「…おい、フィオナ・モリス。とりあえず別の水晶を用意したからもう一度査定する」


「なんでよッ!」



「何かの間違いかもしれないからだ」


「…はぁ?何アタシが不正を働いたとでも言いたいの?」



「いや、単なる確認だと思え」


「…偉そうにしないでくれる?ウザイんだけど」



「チッ…」


「フンッ…」



この2人は…性格が合わないんだな。

まあ気の強い者同士、そしてシリウスのこの態度からしたらフェリスがイラつくのも分からなくないが。



「とにかく言われた通りにしろ」



オレはフェリスに再査定を促した。



「…わかったわ」



そして、いつの間にか取替えられていた水晶に手を当てフェリスは渋々と大きく深呼吸した。


ムカツクからどうせなら割ってやろうと言う心構えがひしひしと伝わってくる。


そのムキになる所が可笑しくて少し笑いそうになった。



「──ッ!」



────パキッ



先程同様、触れた途端に青く光った水晶は、フェリスが力を込めた瞬間、見る見るうちに色が変わっていき、またしても小さな音を立ててヒビが入った。


コイツの魔力ではこれが限界なのか。



「…ほう、これは興味深いね」


「…だろ」



傍に居たシリウスと緑の髪の男が唸るように関心をする。


すげーだろ!?って言ってやりたかった。



「…で?」


「ああ、…フィオナ・モリスのランクはSS+だ。…属性は水氷と風雷。記入の通りだったな」



腕を組みながら、偉そうに聞いたフェリスにシリウスは少し雰囲気を柔らかくして答えた。


…強い者には優しいのか?



「SS+って…さっきSSが最高ランクだって言ってたじゃない」


「ああ、それは基本的な話だ。水晶にヒビを入れるヤツなどそう居ないから部類分けが出来ない。…俺達五帝くらいしかそんなこと出来ないからな」



「あらそう。大したことないのね」


「…ッ」



「嘘よウ、ソ。アタシも結構本気出してやっとヒビだからきっとアナタ達には適わないわ。五帝となるとこの水晶くらい簡単に割ってしまいそうだもの。…ね?」



悔しそうに顔を歪めたシリウスにフェリスがトドメを刺して踵を返した。


挑発系に関してはフェリスにやらせたら右に出る者は居ない気がする。


オレがシリウスだったらパキって心折れただろう。



「──次…私が行きます」



シェルターに戻って来たフェリスと入れ替わるようにルシファーが部屋の中心へと向かう。


フェリスを睨み付けていたシリウスが、それに気付いて水晶を取替えていた。…使い捨てなのか?


取り外しは思ったよりも現実じみていて、水晶を両手で持ち横に回して緩めるタイプだった。


少し萎えました。



「…」


「ッ…」



ルシファーが近寄って行くと緑の髪の男が2歩ほど後ろに下がったのが見えた。


そう、オレはこの瞬間を待っていたのだ。


ルシファーとフードの男がどういう接点なのか。口に出さなくとも動きが読み取りやすいルシファーを見ていれば、関係性まで把握出来なくても敵か味方かくらいは読み取れるだろう。


コソコソ接触しやがって。



「…」


「っ…!!」



見つめあって固まる二人は、恐らく念話で会話をしている。ルシファーが小さくフルフルと首を横に振ったのを見逃さなかった。


…うは…やべ。

オレ結構ヤキモチ妬きかもしんねぇわ。コソコソされる事よりも、念話する程の仲なのかとそっちばかりに気を取られる。



「…おいソウ…妬くなよ」


「…殺してきていいか」



「野郎の嫉妬ほど醜いものはねぇんだろ?」


「…クソ」



シェルター越しから様子を見てる剛がオレを肘で突っついて、嘗てオレが豪語していた事を口にする。


…そうだよ、野郎の嫉妬ほど醜いものはねぇんだよ。


──クソ野郎!!



「おい、運命の再会はどうでもいいから早く測ってくれないか?俺は暇じゃないんだ」


「あ…すみません」



その傲慢な物言いはムカつくけど、とりあえずあの緑野郎からルシファーを離してくれた事だけは感謝する。


緑野郎を睨むとバチッと目が合ったから、更に睨んでやった。


…挑発的に笑われたけどな。



「…ドロップデッド出身の女どもは闇影属性が多いんだが、お前は聖光属性だと自分で思っているんだな?」


「え、…ええ」



「…そうか」



興味無さそうに言ったシリウスは“やれ”とルシファーに命令した。…凄まじく死んでくれ。


たった今、少し感謝してやったのにすぐこうなるからな。根本的に誰とも合わない性格の奴って稀に見かけるけどコイツも例外じゃない。


嫌われるタイプだ。…そして、嫌われてる事に何も思わないタイプ。タチが悪いよな。



「…じゃ、いきます」


「…」



小さく呟いたルシファーは、不安そうな顔をオレに向けてから水晶を見直した。


…神属性がバレるかもしれない。

──そんな不安そうな顔だった。


バレたところですぐに何か変わる訳では無いと思うし、何か変わると言ってもその属性に対する興味が向けられるだけで大したことにはならないと思う。


…魔属性を引き寄せてしまう可能性は充分あるし、コレが公になればすぐに広まって悪用される可能性もある。


でも正直言えば、その魔属性や魔族の意識が全てこちらに向けばいいと思ってるから、悪用でもなんでも願ったり叶ったりな訳なんだけど…コイツらを巻き込んでしまう事には変わりないのか。


そんなこと言えば、仲間なんですから!!

ってまた怒られるんだろうけど。



「…はぁ…早くしろ。緊張してるのか?」


「…あ、いえ。集中してます」



そして、ルシファーは取替えられた艶やかな水晶に触れた。



────パァァァァ…



「うわ…アイツ…」


「ああ、触れただけだよな…多分。 」



「うん、多分。ルーは魔法特化だから」



シェルターの中で に居るオレ達はどよめき立つ。


そりゃそうだろ、だって触れた途端に水晶の色が黄色になったんだから。


フェリスの時は青。触れただけで測るならCランク。だが、ルシファーは触れた途端に黄色。

詰まりは最低ランクがSと確定したようなものだ。



「ハハッ、アイツ割るんじゃね?水晶」



「…かもしれないな」

「…そうね」



そしてルシファーは肩で大きく息を吸うと“いきます”とシリウスに再度宣言した。



「…ッ…!」


「「「「「────!!!!」」」」」



その場に居たオレ達三人だけでなく、ルシファーの傍にいる二人も圧巻と言った表情でルシファーをマジマジとみつめる。


魔力を解放したルシファーの周りが風に靡かれるようにふわりと揺れ、髪の毛からスカートから全てがヒラヒラと舞っている。


そして、水晶から光が放ったかと思えば、その光はルシファーの手を伝って全身を包み込んだ。


…なんだよそれ。



「なんか…神秘的なモン見てるみてぇだな」


「…全くだ」



「ルー…」



────ピシッ!!



フェリスの時とは少し軽めの破裂音のような音が聞こえると、白く放っていた光が収まり水晶とルシファーがやっと直視出来るようになった。


…眩しかったわ。



「はは…これは…」


「ッ…なんなんだ…」



五帝の二人が溜め息のように吐き出したのを聞いて遠目に水晶を見ると、うっすら虹色に輝いていた。


そしてピシッと言う音は、この水晶の中心部に入っている亀裂が立てた音だと推測する。


…もれなく例外を叩き出したのか。



「…ご、ごめんなさい!能力測定と伺っていたものですから、手を抜いたらいけないのかと思いまして…!」



唸る二人にアタフタと慌てて言い訳をするルシファー。まさか白以上の色を出してしまうとは自分でも想像出来なかったのだろう。


動揺もするわ。



「…すげぇなアイツ」


「…ああ」



「何かしらやると思ったけど…中心だけヒビ入れるって…」



正しくフェリスの言う通りだ。

何かしらやるだろうなとは思ったが、こんな結果を出すなんて思わねぇよ普通。



「…お前のランクはSS+αだ。全属性に長けているがその中でも聖光と闇影が強い。やはりと言ったとこだな。ドロップデッド出身なら闇影は必ず付いてくる」



SS+αってなんだよ。

そう聞いてやりたいが五帝の二人も動揺を隠しきれないように見えるから聞くに聞けない。


バケモノの集まり見たいな目で見られてるのがわかる。



「そう、ですか。わかりました、ありがとうございます」



ルシファーはそれ以上に何か言う訳でもなく、綺麗にお辞儀をすると逃げるように戻ってきた。


…あれ、神属性…バレてない?


シリウスの口から言われる事はなかった。



「──おし、じゃあオレが!行ってくる!」



気合い充分に息巻いた剛はルシファーがシェルターに戻ってくる前に飛び出して行った。


…魔力7野郎が随分気合い入ってんな。


何をそんな得意気に自信満々ですみたいな歩き方してんのか。…ウケるアイツ。



「──お前はリトルウィアーク出身か。

大したこと無さそうだが我慢して付き合ってやるから肩で風切って歩いてないで早く来い」


「っせぇよコラ。だったらモタモタしてねぇで早く取り替えろや」



「…口の利き方に気をつけろ糞ガキ」


「早くしろ」



「人の話を聞け──」

「──早くしろ」



「おま──」

「──早くしろ」



「ッ…」



…アイツ、勢いでシリウス捻じ伏せたぞ。

黙々と水晶を取り替えるシリウスが少し可愛く見えたわ。…すげぇなうちのゴリラ。



メンバーが色々カオス揃いだから、剛なんてって一瞬思ったけど、コイツが1番やらかしてくれるからな。…忘れてた。



「──やれ」


「おう」



ルシファーやフェリスのように息を吸い込む事なく間髪入れずにピトッと水晶に触れた剛。



…。



「「「「「…」」」」」



──何も変わらない。


触れる前の水晶は透明で向こう側まで透き通って見える透明度だが…そのまんま。


修行して少しはマシになったと聞いていたが、…どこら辺がですかね。


いろんな意味で一同圧巻。

誰一人言葉を発しなかった。


…魔力7ってのもある意味才能だよな。



「え、ちょ…どうやるのかわかんねぇんだけど」


「…」



剛が困ったような声でシリウスを見て水晶に触れてない方の手で頭を掻く。


すげぇ困ってんじゃんお前。


込み上げる笑いが止まらない。



「お…教えてくれ」


「ハァ…自分の中にある魔力の壺を想像しろ。見えたらそれを溢れさせるイメージだ」



「難しいなちゃんと喋れよ」


「ちゃんと喋っている」



「はぁ…?魔力ぅ…?壺ってなんだよ…」



そして、やっと集中し始めた剛は…何やらブツブツと呟き始めた。



「…魔力…壺…あ、これか…?…これを溢れさせる…イメージ…」



そう剛が呟くと(ホノ)かにだが、水晶が青色の光を放ち始めた。



「よし、アイツCランク確定──」


「──ちょっと待って…見てアレ」



正直測定不能なんじゃねぇかと気落ちしてたし、案外普通のヤツより魔力を持っているとわかった安心でつい気持ちが上がってフェリスに勢いよく振り向くが、“待って”と遮られた。



「…あ?」



フェリスが指差す先に見える水晶の…色!!



黒!?



「…ふ…ははっ…」



剛が俯きながら笑い始める。



「おいおいおいおい…」


「これはまた…」



ここまで来たらもうお手上げだと顔を抑える五帝の二人。


水晶の中で黒いモヤが竜巻のようにグルグルと回り、水晶に触れる剛の右手に吸い込まれて行く。


当の本人は薄ら笑いを浮かべて、静かに肩を揺らしている。


ちょ、どういう事だか説明…はよ!!


水晶の中で渦巻く竜巻が全て剛の体内に吸い込まれて行くと剛がフラッとよろめいて水晶から手を離した。



「…ッ…だぁぁぁあッ!見たかチクショー!」



うっすらと黒いオーラを見に纏う剛がこっちを振り返り──オレ達は全員固まった。



「…おい…ゴウ…なんだ…その顔…」



振り返った剛の顔には両頬に3本ずつ赤いラインが入り、牙のようなものが2本上から生えていた。



「おいガキ!お前魔力を吸収したのか!?」


「んぁ?なんだそれ訳わかんねぇこと言ってんじゃねーよ」



本人は無自覚。

その言葉を聞いたシリウスは更に動揺する。



「ち、力が沸いてこないか?」


「…あ?…あぁ、確かにゾクゾクするなぁ…」



ニヘラと嗤う剛はもはやバケモノの笑み。

そんな能力オレは知らない。



「…すごいな君…あり、え、ない…」


「おい!アルタイル!」



緑髪の野郎が息も絶え絶えにそう剛を褒めるとバタリと倒れてしまった。


そういえば…オレの力も入らない…。

どういう事だ?



「…お前…無自覚か。ここにいる奴らの魔力を吸い取ったんだな…?」


「あぁ?!知らねぇって言ってんだろ!」



その会話を聞いて、横に居る二人に顔を向けると、ルシファーも、フェリスも顔を歪めて息切れを起こしていた。



…剛が魔力を吸収した?…オレらの?



にわかに信じがたい事だが、横の二人を見ても、シリウスの様子を見ても、アルタイルと呼ばれた緑髪の野郎を見てもみんなが苦しそうにしている。


…なによりオレの身体の倦怠感も否めない。



「…その吸い込んだ魔力、使いたくてウズウズしてるだろ。解放させてやるからもう一度水晶に触れてみろ」


「はは…今すぐ暴れてぇ…」



ゾッとするような唸り声を上げた剛は、ぶるりと震える。少しでも刺激を与えたら爆発しそうな雰囲気だ。


それを感じ取ったシリウスも、気持ち宥め気味に剛に指示をする。


五帝二人、最強設定のオレ、魔力に長けているルシファー、それにフェリス。その五人から惜しみなく吸い取った魔力が如何程の威力を放つかなんて、無知なオレですら想像に容易い。


こんなところで魔力を使われたら、タダでさえ魔法を使うことに慣れていない剛は、匙加減も出来ずに持ってる力を注ぐだろう。


…フレイミス消滅どころの騒ぎじゃ済まない。

シリウスの判断は正しい物だった。



「一旦この水晶に魔力を注いでくれ。お前が倒したいと思う魔物にこじつけてやる。その為には先に魔力を測らないと紹介出来ねぇんだ」



恐る恐る剛に近寄るシリウスは爆弾処理班のように慎重に言葉を選んでいる。



「あぁ?あーいいよしてくんなくて。テメェで爆破させっからよォ」



だが、それを剛は突っぱねた。



「おい、ゴウ!言うことを聞け!オレ達がすることはなんだ!こんなところで下らねぇ問題つくるんじゃねぇ!オレだってまだ測定してねぇんだよ!」



一か八かの賭け。


正直剛に対して初めて恐怖心が沸いた。

オレも動揺してる。


だが誰かが止めなければ、コイツはそのままここから飛び出して行きそうな勢いだから、それだけは何とかしてでも阻止しなければならない。


オレの言う事が聞けないのなら今日ここで全滅。

頼む、剛…。止まってくれ。


オレは剛を睨んだ。



「んー?…あ、そうか。そうだったな。悪かったよソウ、次はお前の番か。…ん──」


「──待てッ」



────ッパァアァアァァァンッ!



「っく…!」



いとも簡単にオレの言う事を聞き入れた剛はすぐに水晶に触れ、その瞬間爆風のような衝撃が空気全体を揺らし、水晶は色を変える事なく粉砕して飛び散った。


シェルターがあったからオレ達に破片が当たることは無かったが、傍に居た五帝の二人は体中傷だらけで倒れている。


そして、剛は“やべ…死ぬ…”と呟いて倒れてしまった。



「──剛ィィィイッ!おい、行くぞ!」



オレは二人について来いと叫んですぐさま駆け寄る。



「おい、ルー!お前は赤髪の手当をしろ!傷と魔力の回復だ!フィー!お前は緑の野郎だ!魔力がキツイなら回復カードを使ってそれから手当しろ!」



“オレはコイツをやる!”

倒れ込み細かく息切れを起こす剛は、ガタガタと痙攣をして今にも死にそうに見える。


焦ったように付いてきた二人に、それぞれ五帝の手当を指示した。



やばい、


やばい、やばい、



──やばい。



「ライトニング!──ッ…ハァッ!ハァッ!」



────パァアアアッ!…



オレは着物の裾から昨日1枚だけ貰っていた魔力カードを取り出し発動させてから直ちに自分も回復する。



────パァァァァ…



「ハァッハァッ…き、つッ…」



床に大の字で寝そべって天井を見上げながら息を整える。


ライトニングは範囲全体に掛けられる全回復魔法。自分の決めた範囲内であれば全てのものが回復する仕様だ。


その範囲、人数伴(トモ)にそれなりの大きさの魔力を使い、オレまで死にかけた。



「ん…ソウ…?…どうした?」



横で横たわる剛が意識を取り戻しオレを揺さぶる。


…コイツ記憶が無いのか?



「オレ…魔力少ねぇからぶっ飛んだっぽいな。ハハ…情ねぇ…」



顔を見るといつもの剛。

頬に入っていた赤いラインも綺麗に消えて、猛獣の牙のような歯も無くなり、力なく笑った口からはいつもの八重歯が覗いていた。



「く、クソ野郎!無茶してんじゃねぇよ!お前…死んだらどうすんだよッ!」



オレは剛に背中を向けありったけの声で怒鳴った。


…お前さっきまで痙攣して息も細くて苦しそうに唸って…──思い返したら恐ろしくて震えた。



「みんな魔力スゲェからさ…少しでも結果出さねぇと同じ依頼受けれねぇんじゃねぇかと思ったんだよ」


「お前が無茶して死んだら意味ねぇだろ…」



「はは、悪かったって。ンな怒んなよ気を付けるから」



ヘラヘラしやがって。



「──回復助かった。因みに同じ依頼はグループを組めば受けることが出来る。お前はもう少し自分の能力を把握する必要があるな。そのままだと死に急ぐだけだ」



オレの放ったライトニングとその他の傷の手当を受けたシリウスが体を持ち上げて剛に適切な事を言う。


グループを組んでいればランクは関係無かったのか。



「…オレ…なんかしたの?」



感心していると剛が申し訳なさそうにシリウスに訊いた。



「ッ…」



困ったようなカオでオレの方をチラッと見てくるのは、話してもいいのかと言う確認なのだろう。


その視線を辿って剛までオレの方に顔を向けた。



「…あー自分の限界を見極めろという事だ」



自分で話して何故本当の事を言わなかったのかわからない。──誤魔化してしまった。



「まあ…な。オレ魔力を弱いし…。でも力はあるから!次の戦闘力で取り返してやる!」



ヘコむだろうと思ったが案外平気そうで安心した。


何故言わなかったんだ?と言いたそうにシリウスに睨まれるが今は言うべきではないと判断した迄だ。


何かの間違いかもしれないし。



「…また随分と興味深い結果を出したね」



次はお前だろ?期待してるからな!と笑顔でシェルターに向かった剛を神妙な面持ちで眺めるのは意識を取り戻したアルタイルだ。


シリウスが何かを書き込む様子をマジマジと見ている。


そして考え込んだシリウスはシェルターで待機している剛に“お前のランクはZ、属性は…限りなく闇影に近い無属性”だと言った。


これも今日初めて測定した結果なのだろう。

引き攣った顔がそう物語っている。


Zってなんだよ!と吠える剛は悔しそうに見えるが魔力を注ぎ込む道具から吸い取ったらマイナスになるに決まってるだろ。


この結果はしょうがないことだ。



「お前達御一行は…バケモンの集まりか…」


「悪かったな。…オレはすぐに終わるから心配するな」



嫌味を言うシリウスに適当に返した。



「お前も…リトルウィアークか。全属性と書いてあるが特にこれと言ったものは無いのか?」


「ああ、全て同じだ」



「そうか。…離れていた方がいいか?」


「知らん。自分の魔力がどのくらいだが想像もできないからな」



会話を繰り返すと横で話を聞いていたアルタイルが“とりあえず退いてようか”とシリウスの腕を掴んでシェルターに向かった。


涼しい顔してビビってんのか。



「──いいぞ」



シェルターから感情の読み取れないシリウスの声が聞こえる。


チラッと見ると後ろに居たはずの女子二人も移動を済ませていたようだ。



「…ああ、行くぞ」



オレは水晶に触れる前に軽く目を閉じて魔力の壺を想像する。


魔力の解放は、上天界で親父の修行を受ける前に1回やったっきりそれから1度だって試したことも無い。


──感覚が分からなかったからだ。



「…これか…」



脳みそのド真ん中に見つけた。

…そんな感覚がするだけなのだが、この感じは確かに魔力の壺。


溢れさせるイメージをすると自分の髪が靡いてるのがわかる。


ルシファー同様魔力が舞い上がっているのだろう。


そして、水晶に触れようと手を伸ばすと、



────ッ…パァアァアァァァンッ!



触れる前に割れた。



「──ッ!」



飛び散った破片が顔や体を掠り、頬から血が垂れるのがわかる。



「わり、触る前に割っちまった」



急いで駆け寄ってきたシリウスとアルタイルに謝った。



「お前…今のはどうやった?」


「わかんねぇけど、魔力解放させてから触ろうとしたら直前で割れた」



「…はぁ…すごいね君」



凄いのかはわからない。

ただ、ルシファー達は触れてから魔力を解放してたと思う。オレは開放してから触れようとした。



「なぁ、シリウス。もう一回出来ないか?アイツらは触れてから気を込めてただろ?今ので感覚掴めたから次は触れてから解放させて見る。…今のじゃ色もクソもわからなかっただろ」


「そうだな。新しいの着けるから待て」



シリウスもその方がいいと判断したのだろう、特に言い返してくる様子もなくすぐに新しいの水晶を棒に取り付けた。



「──…俺達は退いておくから次は触れてからにしろ」


「ああ、わかった」



水晶を見つめながら返事をすると、傍にあった足音が徐々に離れて行く。


制限かけられた状態でもやはりオレ達4人の中じゃ断トツで魔力に長けてるのか。


自ら魔法を使う事に慣れる為、ルシファー達になるべくやらせずオレが買って出てたが、正直さほど差があるように思っていなかった。


…だが、今の結果が全てだと言われたら疑いようのないモノを目の当たりにして、自分自身に言い訳が出来ない。


こんな…バケモノになった覚えはねぇよ。



「──いいぞ」


「ああ」



だからオレはもう一回やらせろと言ったんだ。

──なにかの間違いであって欲しいから。



「…」



────ッ…パァアァアァァァンッ!




だが、やはり奇跡ってのは早々起きるものじゃないらしいな。


何も考えずに触れたらそれだけで割れたこの砕けたガラスが全てを物語ってる。


…オレはきっとバケモノなんだ。



「クソッ──なんなんだよッ!」


「…お前の魔力は測れないらしい」



戻ってきたシリウスにそう言われた。



「…君達何者なの?」


「…何者って…普通の人間に決まってんだろ!オレがバケモノに見えんのかよッ!」



「普通の人間…ね…」



アルタイルに掛けられた言葉に対して返事をすると怪しい目でオレを舐めるように見てから何かを考え込む。


なんだよ、神様の子ですって言えば良かったのかよ。そんな事言ってもますます怪しまれるだけだろうが。



「多分…この子達がアイツの言ってた謎の御一行様なんだろうね」



そう呟くと怪しげに笑って、“じゃ、スピード測定でね”と部屋から消えて行った。


…ほんと…ムカつくわ。



「──おい、こっちの話だ気にするな」


「感じ悪いな」



「その内わかる」



その内わかるなら今話しても同じだろうに、と思うが別にいい。少しムッとした顔をシリウスに見られ顔を逸らした。



「…お前の判定は3Sだ。本来なら測定不能だと言いたいのだが、ランク付けをしなければならないから最高評価を作った。…属性は全属性だった。全てが平均的だ」


「なら全てのミッションを受けれるのか?」



「ああ、それだけでなくギルド員のこなす依頼も頼む事になるだろう」


「なら、そちらさんの大切な勇者と話す機会が近づくわ」



「…なんだお前、あの糞ガキに用があるのか?…確か昼に絡まれたと言っていたがあれはお前だったのか?」


「そうだ。オレはアイツに貸しが死ぬ程あるからな。“ここの依頼を全てこなせば場を設けてやる”とあの緑野郎に言われから早急に取り掛かりたいんだ」



「ふ、アルタイルか。…どうやらアイツも今回ばかしは喧嘩を売る相手を間違えたようだな」



ざまあみろ。と笑ったシリウスは、手に持っていた4枚の紙をオレに渡してきた。


全員分のデータだ。


受付で記入した欄の下にある、ギルド記入の下を辿って行くと魔力の所にシリウスの文字でそれぞれのランクが乱雑に書かれていた。


オレは“3S” 剛は“Z”、ルシファー“SS+α”

そしてフェリスが“SS+”


その横に属性も記入されていて

オレ“全属性” 剛“闇影/無属性”

ルシファー“聖光/闇影” フェリス“水氷/風雷”

だった。



「次は戦闘力測定だが、少し休んでから調べるか?」


「いや、めんどくせぇ事はさっさと終わらせたい。このまま行く」



「…そうか。俺は片付けがあるからお前達で行け。場所はこの部屋を出て真っ直ぐにある同じ扉の部屋だ。カウンター挟んで真向かいだからすぐにわかる」


「わかった」



受付の時より会話が成立してる事に気付いたが、ヤツの何がそうさせたのかはわからない。


案外普通のヤツみたいでこれから存分に嫌ってやろうと意気込んでたオレは肩透かしを食らったような気分だ。



「おい、行くぞ」



それでも、面倒くさがりはシリウスの性分らしく、それ以上に会話を弾ませる事もなく舌打ちをしてから足で散らばるガラスを集め始めた。



「──お前やっぱスゲェよ!バケモンだ!」



シェルターから嬉しそうに駆け寄ってきた剛に“そうだな”と適当に返事をしながら若干傷ついたオレはそれ以上は何も言わずにその場を離れシリウスの指示通り部屋を出た先に見える扉に向かう。



「分かってたけど、やっぱソウ凄いね」


「へへ、だろ?」



いや、アンタに言ってない。とフェリスは剛を抑えながら感心してた。


オレは神創神息子だからチート的な要素を2、3含んでてもおかしくないと思ってる。それより、ただの修行で五帝の腰抜かせたお前達の方が余程スゲェんじゃねぇの。



「…凄いと言われるのは好きじゃねぇ。こんな能力、親父が居なかったら無かったのと同じだからな」



オレが神創神の息子で死んだから手に入っただけだ。



「そんなこと無いです。

この魔力は紛れもなくソウさんの能力です。

グリンシア様に引き出してもらったと言いたいのでしょうが、元々はソウさんの中に潜在していたものなのでソウさんが凄いんです」



むぅっと膨れっ面を見せながらルシファーはオレが言いたかった事を聞くまでもなく否定した。


…その能力凄すぎな。



「まあ、そういう事にしておいてくれ。

…ただ、オレから言わせればお前らもなかなか凄まじいと思ってる」


「まあな、お前の傍に居たいなら強くなるしかねぇからな」



気怠げにアクビをしながら言った剛に、そうだよ、そうです、と二人が被さった。


そう思われる事は悪くない。



「──ここでいいんだよな?」


「あー…じゃね?」



シリウスに言われた通り、扉を抜けてカウンターを通り越した向かいにあるデカい扉の前で確認した。



「ここしかないもの」


「そうですね」



二人も辺りを見渡してから、間違いないと頷いた。



「…行くか」



引き戸になってる無駄に重たい扉に手を掛けた。



「──あら、来たわね。少し休まなくていいの?」


「ああ、面倒な事は先に済ませておきたいからな。」



ちょうど出てこようとしていたのか扉を開くとすぐ傍にアトリアが驚いた顔して突っ立ってた。


部屋の中はさっきの場所より広めで何も無くカランとしている。



「…余程自信があるみたいね」



軽い皮肉を言われ、入って。と促される。


男で傲慢なヤツもなかなか腹が立つが、女だと尚のことイライラするのな。あんまり女と絡んだこと無いから知らなかったが、こういう女とだけはマジで付き合いたくない。


だが、めんどくせぇから言うことを聞いた。



「──おや?もう来たんですね」



先に進むと見えなかったところからアルタイルが現れた。



「…またお前か」


「ふふ、ここでは戦闘力とスピードの両方を測る事が出来るので待機してました」



昼間の威圧的な態度とも先程の妙に馴れ馴れしい態度とも違う柔らかな紳士っぷりでにこやかに微笑まれたが、胡散臭いことこの上ない。


…不愉快だ。



「そうか、ならさっさと終わらせる」



オレは部屋の中まで歩き進めた。



「…わぁ、天井が高いです」


「ホントね」



女子二人が見上げながら感心の声が漏れる。

つられて見上げると外観からは想像つかない程に高い天井が。



「魔法か」


「異空間ってとこですかね」



「…」



お前に聞いてねぇよ。独り言拾い上げてくんじゃねぇしこのクズ。──と、代わりに舌打ちをしておく。



「無駄話はいいから早くやるわよ。…誰から?」



ガサツな喋り方でオレに掌を差し出してくるアトリアは顎でオレの持つ紙を差した。



「順番はさっきと同じだ。フィー、お前から行け」


「わかったわ」



「勿体ぶるのね。まあいいわ、今からここに一体のブラックドラゴンを召喚するから倒してちょうだい。…因みにブラックドラゴンはこの世界で1番強いドラゴンだから気を抜くと死ぬわよ。その倒したスピードとドラゴンの傷を見てランク付けするわ。

あ、でも心配しないで。不正は出来ないように攻撃威力がここに映るようになってるから」



なんでこんなに威圧的に言われなきゃならないのか。アトリアの顔を見てため息しか出ない。


こんな事さっさと終わらせて帰る。

登録さえしてしまえば後は依頼を受けるだけなんだから接点もねぇだろ。


…皆越の件があるけどな。




「…4人で倒すのか?」


「ッ…1人ずつよ。先頭に巻き込まれたくないなら少し離れてるけどそこのシェルターに入ってて」



剛の質問に少し間を置いたアトリアは、嘘をついたと思う。


返事に葛藤があったように見えた。

…あわよくば死ねばいいとか思われてんのか?


ブラックドラゴンがどれだけのデカさなのか知らねぇけど、あの地下牢に現れた化け物に比べたら可愛いと思うんだが…。



────ガァァァァアァァァァア!!!



「──ッ!」



つい耳を塞いでしまうほどの咆哮が空気を揺らした。



「じゃあフィオナさん。倒してね」



それだけ言うと、タブレット端末のようなものを弄りながらシェルターに向かっていくアトリア。


…ちょっと待て、これを1人で倒すのか?

──開いた口が塞がらなかった。



「ふ、フィー!」


「大丈夫よこのくらい」



ルシファーの心配をよそにフェリスは、すぐさま爪を成形し青光りのオーラに包まれたままドラゴンに向かって行く。


…勝てないかもしれない。そんな不安が頭をよぎった。



「フィー!キツかったら無理すんなよ!」


「わかってる!ウアァァァァアァァア!!」



────ガキンッ!!



危険を顧みず立ち向かっていくサマはまさに神獣。止めてもきっと言うことを聞かないだろう。


カッコイイとか考える前に無事である事を祈るしかなかった。



「おい、移動するぞ」


「いや…」



「判定が狂ったらどうするんだ!…心配なのは分かるけど手を貸せないならこんな所にいても邪魔になるだけだ!」


「ソウさん行きましょう!!」



残されたオレはルシファーと剛によって無理矢理シェルターに連れて行かれる。


戦闘の様子から目が離せなかった。




────ドカァァァンッ!!



「くっ…!」




──ガルァアアッ!




────バシュッ!!


「アイスウォールッ!」



────ギャァアァッ!!



────ドゴォォッ!!



ここが室内だと忘れてしまうような勢いで戦闘を繰り広げるブラックドラゴンとフェリス。



なんとか自分の全能力を駆使して立ち向かうが体格の差から全てがかすり傷程度にしかならない。今も、防御で咄嗟に作り上げた氷の壁を一瞬にして砕かれていた。


このままだと倒す前にフェリスの魔力が尽きてしまう。



…ランクなんかどうでもいいからやめさせるか。──今の状況に何が得策なのか頭を回した。



「まだアイツが戦ってるのに助けようだなんて思うな」


「…ッ」



剛に横から言われて向き直す。


…そう、だな。

フェリスはまだ気合充分。膝もついてないヤツに対して失礼だったか。


無理そうなら助ける。それでいいんだ。



「あのブラックドラゴン…火属性ですね」



ふいにルシファーが呟いた。



「よく気が付いたわね。…そうよ。私の召喚するブラックドラゴンは属性がランダムで選出されるの。この査定のミソはそこにある。如何に早く弱点を見つけて攻撃するか」


「…弱点を見つける」



ルシファーの呟きを拾い上げたアトリアが詳しい事を教えてくれた。


出来ることならフェリスが戦闘に入る前に説明して欲しかったがそれじゃあ意味が無いと思ったのだろう。



「火属性の弱点ならフェリスは大丈夫だ」


「後はそれに気付くかどうかだな…ルーは何故気が付いたんだ?」



剛に返事をしてからすぐにルシファーに問い掛けた。


ドラゴンが召喚されてからずっと見ていたが、オレは火属性だと気付けなかった。



「まさか属性があるとは思いませんでしたが、あのドラゴンがこちらに攻撃をしてくる度に口元で火が燻っているように見えたんです。そして先程から攻撃を仕掛けてくる度にシェルターが暖かくなります」



ガラス張りのようなシェルターに触れると確かに暖かかった。


にしてもルシファーの観察力にはド肝を抜かれたな。静かに見守っているだけだと思っていたがオレとは全く違う視点で考えていた。


ルシファーはフェリスが諦めると思っていない。むしろ、そう思っていたのはオレだけだった訳だ。


…情けねぇ。



────ドォォオォオンッ!



「うわッ!」


「ッ!」


「…キャッ!」



大きい音が聞こえた瞬間、砂埃が舞って何も見えない状態になった。



「──ウォータージェットッ!」



フェリスの呪文を唱える声が響きザァッと水が撒かれる音が聞こえる。シェルターにもかけているのか視界が開けるのが早い。



「アトリアだっけ…?アンタ、よく見ておきなさいよ。こんな砂埃の為に測定不能だなんて冗談じゃないからね!」



フェリスは雨の代わりに水を真上に撒いていた。そのおかげで巻き上がる砂埃を抑えることが出来たのだ。


こんな乱闘であんなデカいドラゴン相手によくそこまで頭が回ったもんだ。…女のくせにやるなアイツ。


フェリスはデカイ声でアトリアを挑発すると、“獣化!!”と叫んだ。


見る見るうちに変わっていくフェリスのシルエット。


足元から真っ白な毛に代わりに手元に達した時には四足歩行の体勢、頭まで変わるのに1秒も掛からなかった。



────ガルァアアッ!



獣化したフェリスがドラゴンに引けを取らない咆哮を上げる。大きく吠え終わると口元から冷気のようなものを漂わせ、動物らしくグルルルと威嚇をしていた。



「やべ…アイツ…カッコよすぎる…」



剛が唸った瞬間、フェリスは前足で地面を踏み鳴らした。



────ガァァァアンッ!!



「っ、!」


「わ!」



この空間の全てが大きく揺れる。

地面から視界から空気から全て。


獣化したところを見るのは二回目だが、前の時はきっと念話で語りかけてきていたのだろう。さっきまでフェリスの呪文が聞こえていたのに、今は何も聞こえなかった。



────ウォオオォォォオォオ!!!


────ガァァァァアァァァァア!!!



グラグラと揺れる視界で辛うじて見えるのは、ドラゴンが足元を取られて怯んでいるところ。


フェリスがドラゴンの属性に気付いていれば、ここで一気に畳み掛けられる。暫らく続いていた戦闘もそろそろ限界に近いだろう。


…頑張れよ、フェリス。




────ガアァアッ!



フェリスが天井に向かって咆哮を上げるとドラゴンの上から夥しい量の水が勢いよく降ってきた。



────ウォォオォオッ!



ガブガブと口から黒い煙を吐いて苦しそうにもがくドラゴン。



──いける。



「今のは…デリュージュですね。大洪水に巻き込む技なんですけど、普通は左右から流れます。でもフィーは無理矢理上から流した。…もう体力が限界なんだと思います。稀に即死させる効果がつくみたいなので、それに賭けたのでしょう…」



だが、まだドラゴンは倒れていないって事は…ハズレだ。



────ガルァアッ!



フェリスがまたしても怒鳴るように吠えると、上からとめどなく流れて行く水が一瞬で凍った。


中に居るドラゴンも動きを封じられ唸りながら目だけが動いている。



「フィー!早くしねぇと溶かされるぞ!」



剛が戦隊モノのアニメを見ているかのように飛び跳ねて叫んだ瞬間、



────パァァアァンッ!!



固まった氷が弾けて中に居たドラゴンの右翼が吹き飛んだ。



────グォオォオァァアッ!



ドラゴンから悲鳴に近い雄叫びが放たれて耳を塞ぎながら様子を見る。



────ガルァァアッ!



間髪入れずに視界が霧で覆われ、もう一度フェリスが大きく吠えるとキラキラと細かい粒子の様なものが光って見えた。



「フィーがミストを凍らせました…自然現象で言うダイヤモンドダストです。…多分これからトドメを刺すんだと思います」



ルシファーが解説をしながら息を呑む。その横で呆気に取られてるアトリアも戦闘を見上げながら口をあんぐり開けていた。



「行っけェエ!フィイィイッ!」



────ガルァアァアッ!


────グォオォオァアッ!



細かい刃物のようになったミストが意図的にドラゴンへと突き刺さりフェリスの咆哮に被さって苦しそうなドラゴンの呻き声が響く。


水しぶきが上がる。

──そして一瞬にして氷結した。


これはさっきの技と同じ、デリュージュとフローズンの混合魔法。



────ヴォオォオォオッ!


────バリィイイィィンッ!!



ドラゴンごと凍らせた氷の塊が爆発しドラゴンまでもが粉砕され…決まった。



「す…げぇ…」


「ッ…」



迫力満点のその光景に言葉が出ない。

横に居る剛も抜け殻のように呆然と立っていた。



「ゼェッ…ゼェッ…」



パラパラと飛び散った氷が溶けて雨のように降り注いでいる。


視界を多い尽くした冷気が晴れると中心にフェリスが背中を向けて立っていた。


獣化を解いたみたいだ。



「…ハァッ…ど、どうよ…」



肩で息をするようにぜぇぜぇと揺らすフェリスは途絶え途絶えにアトリアに確認する。



──今にも倒れそうだ。



「フィー!」



そう言って駆け寄るのは剛。

フェリスはビクッと体を強ばらせてからゆっくりと剛の方を振り返るとそのまま気絶してしまった。



「…回復は私に任せてください」


「おう、頼むわ」



肩に担いで連れ戻してきた剛は、特に焦ること無くルシファーにフェリスを託しオレの傍に戻ってきた。


今の戦闘で腹括ったみてぇなツラしやがって。

…気合入れすぎてヘマすんなよ?


魔力に関してはオレ達の中で1番劣っているかもしれないが、コイツの突発的な力は下手するとオレよりも強いから特に心配はしてない。



「…フィオナさんの戦闘力は人化の場合と獣化の場合の両方を測ったわ。人化の時はランクS、獣化の時はSSってとこね。Sランクでも充分凄いと思うけどやっぱ獣化すると全ステータスがあがってる」



興味深そうにタブレット端末を弄りながらゴニョゴニョと説明するアトリアにどちらのランクを記入するのか聞いた。



「…普段は人化のままなのよね?」


「ああ」



「…Sランクにしなきゃダメかもね 」


「…それでいい」



「わかったわ」



耳にかけていたペンを取り出しタブレット端末を下敷きにして紙に記入していた。



「…次は私ですね」


「ああ…お前大丈夫なのか?」



フェリスが戦闘タイプなのは想像出来ていたが、ルシファーに至っては何かを傷付ける事が出来ると思えない。


…回復中心って聞いた気がするし。


そんなんであんなデカいドラゴン倒せるのかと不安になってくる。



「…正直自信は無いですけど出来る限りの事はします」


「…気をつけろよ?」



他に言いたい事なんて山ほどある。

出来ることなら怖気付いてやりたくないと言って欲しいくらいだ。


だけどコイツら女二人はやたらに頑固者だし負けず嫌いな一面もある。オレが言ったところで止まらないんだよな。


みんながやるのに自分だけやらないのは許せない。と言われるのが目に見えるわ。



「決まったのね。じゃあドラゴン召喚するから自分のタイミングで倒しに行って。…因みに召喚した瞬間に測定開始だからスピードも関わってくるからね」


「…はい…!」



そして、書き物を終えたアトリアはパチっと指を鳴らした。



────ウォオオォオォオッ!



──コイツがルシファーの相手。



フェリスが倒したのより二回りほど小さいブラックドラゴン。


小さいと言ってもルシファーの3倍くらいの大きさだから、気を抜けば踏み潰されて終わりだ。



「ルー…」



ホントに行くのか?


そう聞こうとしたが、いつになく集中してドラゴンを睨むルシファーの顔を見たら言えなくなった。


代わりに今一度“気をつけろよ”とだけ伝えた。



「…行きますッ!」



掌を光らせてロッドを成形すると握り具合を確かめてから走り出すルシファー。



どいつもこいつも頼りになるよなマジで。

一番強いはずのオレが誰よりもビビってるってのに。


あんな気弱そうな女でも戦う意思はしっかりと持っているから侮れない。…ナイフが欲しいと言い出した時に気付くべきだったが。



「ダークゾーン」



シェルターから走り出たルシファーはドラゴンより少し離れた所で足を止め、魔法を唱えた。



────ガァァァアッ!



あたりをキョロキョロと見渡すドラゴンの様子を見ると、まんまと術に掛かったのがわかる。


あれは視界を闇に葬る魔法だ。



…てか、大天使が手始めに闇属性の魔法唱えるってどうなのよ。


イカつすぎるんですけどうちのエンジェル。



「…シャイニング」


────ウォオォオォオッ!



訳が分からないといったようにグルグル回るドラゴンに躊躇なく放った次の魔法は聖光属性の魔法。効果は、光の強さで相手に混乱を与え、その効果が続く限り魔力を吸収するというものだ。


少々やり方が卑劣な所もあるが、ルシファーはきっと相手をなるべく傷付けないように倒したいのだろう。アイツらしいと言えばそうなんだが。



「ダークブレッド」


────ガァッ!



そして次に唱えたのはまたしても闇属性の魔法。幻覚効果のある催眠魔法だ。


見える景色が変わったのか、ドラゴンは一瞬驚いたように声を上げたがすぐに落ち着きを取り戻しその場に座り込んだ。



「なァ…アイツ何やってんの?」


「わからない」



「あんなんじゃいつまで経っても終わらねぇだろ」


「アイツなりの戦闘方法なんだろ。変にドラゴンが暴れないだけマシだ。見守っててやれ」



剛が不思議そうにルシファーの様子を眺める。


ゴリゴリに押しまくる戦闘スタイルの剛からすれば退屈極まりない戦闘法なのだろう。興味無さそうにアクビをして壁に寄りかかって座るフェリスの横に腰を下ろした。



「あの子…戦闘出来ないの?」



タブレット端末を小脇に抱えて腕を組むアトリアも不思議がっている。


…オレは見てて楽しいんだけどな。いろいろな先頭方法があって勉強にもなるし。



「いや、そこに書いてある通りアイツは全属性を使える魔法特化だ。…おそらくドラゴンを傷つけたくないんだと思う」


「はんっ、ランク付け出来ないじゃない。…なに偽善者ぶってんの?」



「それ…どういう意味で言ってんだ?皮肉を込めた悪口なら答える気はないぞ」


「ふーん。アンタ…あの子にホレてるの?」



「お前には関係の無いことだ。…無知なお前にアイツが変わった戦闘法を見せてくれるってんだから余計なこと喋ってねぇでしっかり見とけ。監視官だろ」


「…ふんっ、可愛くない」



お前もな。


顔はルシファーの方を向いたままで会話をするオレとアトリア。苦手通り越して嫌い。


はっきりそう思えて安心したわ。




────パチンッ!!



────ウォオォオォオッ!



ルシファーが指を鳴らすと催眠が解けたように立ち上がるドラゴン。


ルシファーが目に入るなりすぐさま向かっていく。



「フェイクミスト」



前方のドラゴンに向かって魔法唱えると、掌から優しい光が次々と溢れるように放たれ、モヤがかかったかのようにふわりとした光を空中に漂わせた。


無鉄砲なのか、ドラゴンは向かってくるスピードを落とすこと無く走り続ける。


そして淡い黄色に光るモヤに突っ込んでいったドラゴンはビリリと静電気が鳴るような音と共に電気を纏って動かなくなってしまった。



「──あ、…あの、アトリアさん。その端末から読み取れると思うのですが、このドラゴンの魔力はほとんど底無しの状態で一度でも攻撃すれば倒れてしまいます。…ここで終わりに出来ませんでしょうか」



ルシファーは麻痺状態になったドラゴンの顔を撫でながら続けた。



「私が使ったダークブレッドで信頼関係を植え込んであります。ですからこの麻痺が解けてももう攻撃をしてくる事はありません。…それでも倒さなければいけませんか?」


「…ランクがひとつ下がるわよ」



「構いません。それは依頼を受けているうちにあがるものですよね。このドラゴンの命はひとつです。…こんな生易しい事を言っているようでは魔物の討伐とか出来ないだろうと思われると思いますが、ただの能力検査でドラゴンに害を与えることは出来ません」


「…いいわ。終わりにしなさい。アナタのランクはSランクよ。おつかれさま」



「あ、ありがとうございます!」



アッサリと受け入れたアトリアは指を鳴らしてドラゴンを消した。


…殺されたのかしまわれたのかはわからない。

とにかく消えた。



「ハァ…」


「ルー…」



すぐにシェルターに戻ってきたルシファー。

…正直これから本気出しでドラゴン倒すつもりだったが、とてつもなくやりにくい空気を作られて動揺してる。


これ倒したら可哀想って思われるんだよな?

でも、手なんか抜きたくないし。



「…あ、私が臆病なだけですからソウさんも、ゴウさんも、思いっきりやっちゃってください!」


「…え、ああ…はい」



コイツの人の心を読み取る能力、マジで何とかしてくんねぇかな。



「──よぉし、じゃあオレ行ってくるか。…おいフィー。うっすらでいいからちゃんと見とけよ?魔力ん時とは比べ物にならないくらいの迫力見せつけてやるから」


「えー?…あー…うん…」



目を閉じて休むフェリスを軽く揺さぶって起こす剛にイラッと眉を寄せたフェリスは適当に返事する。


…あんだけ体に負担かけたんだから休ませてやれよ。


コイツはホントこういう所ガキだからな。

見ててくれって言われたものを見るって結構忍耐力が必要になってくることもあるんだよ。


ましてやこんなに疲れきってる相手に。

スーパーヤンキーかお前は。



「──準備はいい?」


「おうよ、いつでも来い」



「ブラックドラゴン召喚」



────ガルアァァァァァア!!!



程なくして忽然と現れたブラックドラゴン。

お決まりの咆哮もそこそこに、出現と同時に地面を踏み鳴らしその場を揺らした。



「ヘヘッ…可愛いじゃねぇかよ」



舌舐りをした剛は、行くぞ!と自分を奮い立たせてドラゴンに向かって飛び出して行った。



「──神崎流奥義…百花繚乱ッ!」



────ヒュンッ────


ヒュンッ──── ヒュンッ────


────ヒュンッ ────ヒュンッ ────ヒュンッ


ヒュンッ── ヒュンッ── ヒュンッ── ヒュンッ──





────ギャァアッ!




始めから手加減一切無しで奥義を発動した剛は淡々と切り込みを繰り返し、ドラゴンは避ける暇も反撃を仕掛ける余裕もない。


ただひたすら攻撃に耐えているだけだ。



「くっ、硬ぇなコイツ!!」



…192回…か。


この連斬技は切込み開始から30秒、最大で1分間程の連続斬撃。それぞれのステータスに合わせて切り込む回数が違い、今の剛は1分で190回を超えていた。


オレが30秒弱で200回程度…そのうち抜かされるかもしれない。


ちょっとした焦りを覚えた。



────ガルァアアアァアッ!


「クッ…!!」



そして連斬を終えた剛は、刀を構え直すとドラゴンに向かって追撃の体制をとる。



「ウォオオォォォ!!鬼!百合ィっ!!」



刀をすくい上げるようにドラゴンへと切り込んだ剛は、自分より遥かにデカいハズのドラゴンを斬撃だけで宙に飛ばし、技の名前の通り百合の如く振り上げた刀で地面へと叩きつけた。



────ガァアァアッ!



「トドメだぁぁ!神崎流、山茶花ァ!」



もはや虫の息となった衰弱しきるドラゴンの傍まで駆け付け、剥き出しなった腹に技を繰り出す。


ドンッと重たい音が響き、剛の刀とドラゴンの間に空気の波動が出来た。



────ギャァァァアァァァァ!!!



苦しそうに叫ぶドラゴンが剛の放った波動に飛ばされ勢いよく壁に叩き付けられると、そのまま動かなくなってしまった。



「…なんなのあの子」



横で呆気に取られるアトリアが目を見開いたまま吐き出した。


査定始まってからずっとこんな顔しているが、口から吐き出す言葉の傲慢っぷりと今の顔が伴わない。…すげぇ不自然だぞ。



「アイツはパワーファイターだ。魔力が無くとも大抵はその超人的な戦闘力で補えるから何ら問題は無い」


「…バケモノね」



「…ああ、血に飢えたバケモノだ」



ギラリと笑ってやると怖じ気付いたように息を飲み込むアトリア。


そうだ、お前はそのままオレ達にビビればいいんだ。生意気な口を聞くんなら今すぐ殺してやるぞ、くらいの迫力はつけておいた。


…あ、自己防衛としてな。

だってドラゴン召喚できるとかホント恐いもん普通に!



「…ハァッ…アイツ硬いだけで大したこと無かったわ。おいオレの評価は?」



剛が汗を拭いながらシェルターに戻って来た。



「いやそれはお前が何かされる前にゴリ押しで捻り潰したからだろ」


「だってあんなデケェ奴の攻撃食らったら痛てぇじゃねぇかよ!無理だわ骨折とか」



…ビビる内容がリアルなんだが。

てか、骨折って言うか踏み潰されたら肉から何から弾け飛ぶ勢いだと思うぜ?


恐かったから先に倒しちゃったって事なんだな?



「アナタのランクはSSランクよ。最高ランクって事。これでスピードでS以上のランクだと魔力のランクも考慮してAかSのどっちかになるはずだわ」


「…チッ、3Sじゃねぇのかよ」



「何を言ってるの?そんなイレギュラーな判定早々出るわけ無いじゃない。調子に乗らないで」


「…うるせぇよ若作りババア」



「なんですって?!」



身を乗り出すアトリア。

どうでもいいけどオバサン、オレの番は?



「あー、オレも早く査定したいんだが」


「コホン…そうね。こんなガキ相手にしてても意味無いわ…こんなガキ」



そうだな、まず根に持ちすぎだしタブレット割れそうだし液晶が波打ってるし…早くしろ。



「オレが場についてから召喚って出来るか?」


「出来るけど、どこに現れるかわからないから危険よ」



「危険なのはどの道変わらない事だ。出来るならそうしてくれ」


「何企んでるのか知らないけど、わかったわ」



アトリアとの会話を済ませて不安そうにオレをみつめるルシファーに目を向けた。



「ソウさん…」


「…なんだよ、大丈夫に決まってんだろ?」



「き、気をつけてください」


「ああ、わかってる」



頭を撫でて願掛けをしてからシェルターを離れた。



「準備が出来たら合図して」


「ああ」



背後から聞こえるアトリアの声に反応し返事をする。


…この辺でいいか。


オレは空間の中心よりも左寄りに詰めて立ち止まった。


どのくらいの規模が現れるのか検討もつかないが、ここまで横に詰めれば目の前に現れた時に壁がすぐそばにあるから追い詰めて攻撃がしやすい。


もし仮にド真ん中に出現してもここからだとオレの得意な型に入りやすいんだ、真後ろでも振り返りざまに勢いをつけて斬り上げられる。


…完璧。



「いいぞ」



────グルァアァアァァッ!



手を上げてから程なくして、オレの右斜め前に現れたドラゴンは冷気と共に火を噴き出す本物のバケモンだった。



「そ、ソウ!ま、魔力が暴走したって!ソレ消すこと出来ねぇから避難しろって!あぶねぇからこっちに戻れ!」



見上げたソイツは頭までふたつ。


ドラゴンなのかなんなのかわからない生き物だった。


後ろでギャンギャン吠えるように焦る剛とは裏腹にオレの心臓は不思議なくらい落ち着いてる。



「危険よ!離れなさい!」


「ソウさん!!」



フェリス以外のシェルターに居る全員が叫ぶ。



「…倒す」



オレは握り締めた柄をギュッと捻ってからあえて狭い左に向かって走り出した。



────ガルァァァァア!

グギァァァァア!────




いかにもモンスターらしい喚き声が耳を(ツンザ)くように放たれるが鼓膜なんて気にしてる余裕は無い。



────ブォンッ!!



「クッ…やっぱりか。バケモンてのは大体同じ動きすんだよな。」



尻尾を薙ぎ払い、オレに向かって攻撃を仕掛けるソレを避け、一瞬に向けた背中に飛び乗り壁に向かって飛んだ。



「いい子だからそこから動くんじゃねぇぞ」



────ガァァアァアッ!


ウォォオォオッ!────



「…っ、ンだよコイツ…」


「ソウ!やめろおおおぉぉぉ!」



剛の声がハッキリと聞こえる。

大丈夫、まだ冷静だ。



オレは、勢いをつけて壁に飛び移った瞬間更に上へと蹴り上げた。



「…耳元で…騒ぐんじゃねえぇぇぇえッ!」



────プチッ!…プチ…



気前の良い弾けるような感覚と音を感じた。



────ギャァィォオォウァァァッ!!



左側にある冷気を吐く方の頭に飛び乗り、こめかみから刀を刺して両目を潰した。…片目だけだと思っていたからこれは嬉しい誤算だ。


迸る劇痛に抗うようにブンブンと頭を振るソレに必死でしがみつく。


恐らく目を潰した時にかすり傷程度にだが脳みそにも傷が入ったハズだからコイツの命はそう長くない。


…まあ、脳みそが頭にあればの話だけどな。



────ガァァァァアァァァァア!!!



「──なっ…!!?」



バチュンッと身の毛の弥立つ音が聞こえた。



「イヤァァァア!ソウさん!!!」



何が起きてるのかわからない。


が、オレの真下で元気な方の頭が、痛みでもがいていた方の頭を食らいついてるのだけは確認出来る。


…ルシファーが叫んでる。



「てめぇ…意識が持っていかれないように片方を潰したのか…」



…小賢しい真似しやがって。



────グルルルルルル…



ブチンと頭を喰い千切ったソレは、旨そうに咀嚼しながらオレに威嚇をする。

…大したバケモンじゃねぇか。


咄嗟に上に飛んで良かったわ。

あのまましがみついていたらオレごと食われてたとこだ。


横に飛んでも巻き込まれて居たかもしれない。


勘ってのは案外大事らしいな。

重力加速度により上から落下し始めるオレはそんな呑気なこと考えた。


…さて、コイツは元気いっぱいだがどうやって倒すか。



────ガァァァア!!!



「っぶね…」



アブねぇなコラ!!

急に噛み付いてくんじゃねぇよ!!

今落ちてんだろ見てわかんねぇのかよ!!


一つの頭を飲み込んだ音がしたと思ったら、間髪入れずにオレを食おうと噛み付く素振りを見せた。



────シュンッ!…フォンッ!


────ギャァァアァァァ!!!



「クソッ…外したか」



咄嗟的に刀を振って傷を付けようと思ったが、片方の目にかすり傷を付けた程度だった。


いや…それでも痛てぇよな。



「ウィンド!!」



オレは強風を下に吹き流して着地の体制に入る。



────ビュンッ!!



「───ッ?!」



────ドォォォオン!!



「…グハァッ…!!」



気を緩めていたら薙ぎ払われたみたいだ。



…体が痛てぇ。

つか、オレ大丈夫?死んでない…?


パラパラと瓦礫が床に落ちる音が聞こえる。



…少しヤバいかもしれない。



────グルルルルルル…



目の前からドォン…ドォン…と地面を揺らしながら向かってくるヤツも、二つあるうちの一つの首がダラリとだらしなく垂れて血を噴き出している…まさに死にかけ。

…ついでにオレも死にかけ。



…いやむしろオレの方が死にかけ。



くそ。



「シャイニング!!」



────パァァァァ…



ここは一旦回復しねぇと死ぬと悟った。



────ガァァァァア!!!



グルグルと回り出すヤツは、今ので混乱効果と魔力を奪われているはず。



「ライトニング!!」



────パァァァァ…!!



それをいいことにオレは自分の怪我と魔力の回復魔法を唱えた。


普段ならとてつもない疲労感に苛まれるだけの魔法だが、今はヤツから魔力を吸い取っている状態だから通常より体にかかる負担が少ない。


…よし、体軽くなったぞ。



「…汚ぇモンで触りやがって…」



立ち上がろうとした時、ヤツの動きがピタリと止まった。──混乱が解けたようだ。



「…チッ…クソが」



中腰で血だらけの刀を握りしめるオレと、今にも喰いつきそうなヤツとで睨み合う。


お互いに動いたら殺すと思ってるのだろう。

徒ならぬ緊張感が場を包む。


オレの体力は魔力と共に万全。

回復のおかげで、戦闘前より絶好調だ。

…そしてコイツは死にかけ。



────いけ!



「スティングシェイド」



────シュンッ!!



そこからは早かった。



「デリュージョン!!」



闇属性の魔法でヤツの死角へと瞬間移動したオレは、水属性上級魔法で地面から円柱の水を吹き上げた。


これは、フェリスが使った魔法の一段階強化された魔法だ。



────ガルルルルルル…



水に包まれていくヤツは、火が鎮火したかのように水蒸気を上げて弱る。



「フローズン!!」



こんな所で気を緩めるわけにはいかない。

コイツは正真正銘のバケモンだ。弱っていようがオレより力がある事くらい馬鹿でもわかる。


無駄にでかい図体しやがって。



────ピシッ…



円柱を凍らせて、



「バーストォォオオオオッ!!!」


────ドカァァァァアァァンッ!!



爆破。



────ギャィァアァウウゥァ!!!



今のでヤツの体力は塵のように減ったはずだ。


…魔力を回復してもこうして使い続けていれば体も重くなってくる。



ここらで終わりにしねぇと…



「…っ…ウオォオラァァァァァア!!!」



走る…走る。

ありったけの力を込めて走る。


今からやろうとしてるのは、何の技でもないただの斬撃。コイツを1発で持ち上げられたらオレの勝ちだ。



集中しろ。


出来るはず。



「うおぉぉおぁあぁぁあッ!」



────…ガァァァアァァァア!!!



────ザシュッ!!



入った。



「クソォオォオオォオォ!!」



刀が折れてもいい。コイツが今持ち上がればなんでもいい。オレは今出せる最大の力を使って一心不乱に刀を振り上げた。



────ギュイァアァァァァ!!!



オレが刀を入れたのは脇腹。


振り上げた際に思い切り切り込んでしまったのか、宙に飛ばされるヤツから雨のように血が降り注ぐ。



「チッ…汚ぇな、ンのやろう…!!」



顔に着いた血を袖で拭い、トドメを刺しに壁に向かって走る。


大丈夫まだ間に合う。


空中で暴れるヤツから目を離さずに、たどり着いた壁に飛び移って蹴り上げる。



「神崎流奥義…花鳥風月ッ!!」



────ビュンッ!!



────ガァア…



地面に落ちていくヤツの傍まで移り、渾身を込めた一撃、必殺技を叩き込んだ。


これは神崎流の中でも群を抜いて威力の高い技。


ただでさえ即死に近い威力を与えるのにわざわざ小細工までして実行したのは中途半端に痛い思いをさせたくなかったから。


…多分これはさっきのルシファーの言葉の影響。何かされたわけでもないのに、ただの査定の為だけに殺されていくコイツが哀れだと思った。


ならばせめて、一瞬で殺してしまおうと。

…相手が強すぎて瞬殺とまではいかなかったが、唸りながら命が尽きるのを待つのはもっと苦しいと思うから、一切の手を抜かなかった。




────ドォォォオォォォオン!!



オレが叩き落としたのもあるし、そもそもオレより遥かにデカいヤツは先に地面へと落ちて、自分の重さで跡形もなく飛び散った。




「ウィンド」



────ゴォッ…



着地して血塗れの地面に足をつけた。

さっきまでの死闘が嘘のように静まり返る空間に虚しく感じる。


…罪の無いものを殺す。


勇者A。…いや魔神サカエ。

お前もこんな虚しい気持ちになったのか。

こんな罪悪感のようなものを背負って戦い続けたのか。


…苦しいじゃねぇかよ。ふざけんな。

こんなのオレ聞いてねぇぞ。



「──…アトリア。二度と査定にドラゴンなんか召喚するな。いや、ドラゴンだけじゃねぇ…。…命あるもの全てだ」


「え…?」



あーうるせぇなぁ…オレの心臓。

自己主張よろしくバクバクいってやがるぜ。

一度死んだ分際でおめおめと忙しく動きやがって。


てめぇの心臓なんぞ、地球の火葬場で焼き尽くしたんじゃねぇのかよ…こんなモンがあるから無駄にギュウギュウ締め付けられて苦しくなるんだろうが。



「──ッ!…わかったかァァァァッ!」


「…ッ」



居所が悪いこの怒りをどこにぶつけていいのかわからず、怒鳴ってしまった。


知らず知らずの内にオレの元へ駆け付けていたアトリア含めた4人。ガッと振り返り睨んだオレを恐ろしいものを見るような目で怯えていた。



「…帰る。オレの査定が気に食わないなら取り消してもらっても構わない」



紙を受け取ること無くその場を後にしようと扉に向かって歩くと、パチパチと拍手を送るアルタイルがにこやかにこっちに向かって来た。



「──素晴らしい。アナタの評価しっかりさせてもらいました。…アナタだけではありません。お仲間の方達も未だ嘗て無いほどの成績です」



歩き進めるオレの前に立ちはだかってスッと握手を求めるように伸ばされた手を払った。



「…興味ねぇな」


「おや、こちらで任務をこなして勇者様にこじつけるのでは無かったのですか?」



「ッ…」


「──はぁ!?U様に何か用なの!?」



アルタイルの言葉に突っかかるのはアトリア。都合が悪いのか焦ったような言い方をした。



「…そのつもりだったが、もうどうでもいい。こんな所でグダグダ時間潰す余裕なんか無い。お前らの所の勇者が何もしねぇならオレが動く迄だ。…関わるな」


「その言葉がどういう意味だか理解しがたいのですが…貴方はそれでいいのですか?」



「…あ?」



アルタイルの言葉に俯いていた顔をやっと上げた。



「アナタ…勇者様に用事があって来たのですよね。その用事がどんなものかは存じませんが、あんな人前で公言する程の意気込みで、こんな所で諦めるんですか?」



熱血タイプはいつの時代も嫌いだ。

諦めるな。やれば出来る。お前ならいける。

頑張れ。応援してる。


…クソ吐き気がすんだよ。



「…いや、諦めるなんて言っていない。お前らじゃ信用ならねぇからテメェで何もかもすると言った迄だ。勘違いするな」



「──」

「──ッ!」



アルタイルとアトリアが何かを言っていたがどうでもいい。たかだかドラゴンだかなんだかわかんねぇ生き物一体殺したくらいで何をウジウジと思われたと思うが、胸糞悪いもんは悪いんだよ。


下天界であんな話を聞いた後なんだからしょうがねぇだろ。


あー。頭がくらくらする。

久しぶりに沸点まで血が登ったな。

…少し冷静になりてぇ。



「…おい、お前ら適当に宿に入ってろ。腹減ってんなら飯食いに行け。…オレは少し用がある」



オレの背後でひっそりと息を呑む三人にそれだけ言い残して、オレは振り返ること無く部屋を出た。


何をこんなにイラついてるのかわからないが胸のあたりがムカムカといきり立ってどうしようもない。


…勇者Aに同情した自分がそんなに気に入らないのか。──とにかくすごく不愉快だ。



「──終わったか」


「…ああ」



「ちょっと付き合え」



扉を開けてすぐ見える受け付けに反り返って座るシリウスと目が合ったが、何も見なかったことにしてギルドの出口に向かうと涼しい声で呼び止められた。


…人に興味無さそうなツラしてクソ野郎。



「忙しいんだ、呼び止めるな」


「つまらない事を言うな、少し付き合え」



早くしないとアイツらが来るぞ?と今さっきまで居た部屋を顎で指す。


…それもイヤだが、だからってなんでお前様にオレが付き合わなきゃならねぇんだよ。



「…どうすんだ、早くしろ」


「…チッ…わかった行けばいいんだろ」



「それでいい」



ニヤッと笑ったシリウスは、じゃあ行くか。と立ち上がると椅子にかけてあったパーカーを羽織って入口に向かって行った。


めんどくせぇけど言った手前行くしかねぇよな。


しょうがなく後を追うことにする。






━━━━━━━━━━━━━━━

ボシーヘイデッド・城下町

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──で、なんでオレ、コイツん家に来た訳?えナニコレ新手のナンパ?お持ち帰りされたわけ?



「…聞いてねぇぞ」


「言ってないからな」



それでもなけなしの平常心でなんとか静かに唸ることが出来たが…ホントは逃げ出したいからねオレ!



「…聞いてたら来ねぇよ」


「だろうな」



とりあえず上がれと促されるも抵抗する。

さすがにあまり見知ってないヤツの家にノコノコと上がり込む程のオレの頭の中は花畑で出来てる訳じゃない。


せめて目的を知るまでは玄関から先に入りたくないわ。



「…目的はなんだ」


「ただ友達が欲しかったんだよ」



「…は?」


「なんて言うと思うと思ったか?」



…よし帰ろう。


オレは踵を返して扉に手をかけた。



「──お前の相棒の話と勇者の話だ」


「…ッ」



それを言われたら弱いだろうが。

コイツ…わかってて言ってんな?



「どうでもいいってなら俺は一向に構わないが」



シリウスはニヤリとオレを見据えた。

…汚ぇなクソ。



「…少しなら聞いてやる」


「…聞き分けのいいヤツは悪くない」



邪魔するからなと踏み入れて進んだ先は馬鹿みたいに広いワンルーム。玄関からはわからなかったが、巨人でも住んでんのかと思うくらいに天井まで吹き抜けていた。


無駄に観葉植物とかあるし、天井でゆっくり回るプロペラ…羽に模様が彫られてるし。


洋室の雰囲気は和室育ちのオレにはただ落ち着かないだけで居心地悪いから好きじゃねぇけど、ここはそうでもなさそうだ。むしろ自然と白を基調とした部屋のインテリアが統一されていて落ち着く。


窓際に配置された二人用の小さなテーブルに付けられた椅子に腰掛けたシリウスは、外から吹き込む風に少し長めの赤髪がサラサラと揺れてそれなりにサマになってた。


…つか、そのテーブル普通庭とかに置くやつじゃねぇの?どこまでもオシャンティーですかよ。



「で、話は?」


「…酒でも飲みながら話そう。夜は長いんだ」



テーブルの近くに置いてあった膝の上に乗るくらいの小さな箱から取り出された茶色の瓶を受け取るとラベルにbeerと書いてあった。


今、中身見ちゃったけどビール専門の冷蔵庫なんだな。シャレてんな。


…デキる男を見せつけられてるみたいで居た堪れないんですけど。



「…何故酒屋にしなかったんだ?もしかしてこの住処を見せつける為か?」


「お前…童貞か?」



「…るっせぇよ」


「そんなものを野郎に見せて何になると言うんだ。いいから座ってくれ、お前がソワソワしてるとこっちまで落ち着かなくなる。取って食ったりなんかしない」



ポンッと栓を抜いた瓶をそのまま口に持っていくシリウスは、マジマジとみつめるオレに目を細めて誘うように笑ってる。


…イケメン過ぎて具合悪くなってきた。

フレイミスって顔が整った状態で生まれてくる事必須なのか?


出会うヤツ出会うヤツみんなもれなくイケメンなんだが、もしかしてオレ暫くヌいてないから溜まってる…?いやいや、だからって男にまで欲情してるってのかよ!


…んな訳ねぇよバカ野郎!


つか出会う女も性格はどうであれみんな可愛いよな。


え?じゃあなに、性欲溜まりすぎてフィルター掛かってるだけで実際みんなブサイクだって事?



「…ッ」


「なに物欲しそうな顔してんだ。お前にも渡しただろ。…もしかして人のモノが欲しくなる体質か?」



…そうだ…そう思ったらこの目の前に居る赤茶髪のイケメンもブサイクに思えてきたぞ。やっぱり気のせいだったんだな。


大将もクリスもシェイさんも…いやもしかしたらルシファーもフェリスも。


…どうしよ、ルシファーとフェリスは可愛くあって欲しい!オレが見たままにフワフワキリリとして欲しい!



「あ…いや」



テンション、ダダ下がり。

よし決めた。今日宿入ったら1人でイイことしよう!そしてスッキリして明日みんなの顔確認しよう!


そう心に誓った。

だって…ほら、勘違いしたまま、


“やっべ、アイツ可愛すぐる!!ハスハス”

“うわアイツめっちゃイケメン滅びろ!!”



なんて言ってて実はこの世の終わりくらいブサイクだったらソイツらに失礼じゃねぇか。


な?

うん、だから絶対ヌく!決めたからね!





━━━━━━━━━━━━━━━

ボシーヘイデッド・シリウスの家

━━━━━━━━━━━━━━━





「──それよりお前の相棒…ゴウ・カーライルって言ったか?アイツの能力はお前も把握していなかったようだが…どうなんだ」



小一時間、他愛もない話をしてシリウスがやれツマミだなんだと色んな食い物を押し付けてきて、それを二人で食べながら酒を飲み続けてたらオレもシリウスも気が付いたら打ち解けたように普通に話をしていた。


ようは酔ってきた。



「んあー?あー…な。アレ、オレも知らなくて正直驚いたってもんじゃねぇよ。ガキの頃から一緒に居るが、初めてアイツに恐怖というものを感じた。…アレはなんだ?」


「…そうか…いや、アレは極めて稀なんだが、魔力の弱いヤツらは生きていく術で人から魔力を奪う能力も持って生まれてくるヤツが居るんだ。本能が身体をそうさせるというか」



「まあ、そんなとこだろうと思った。…でも悩むべき所はそこじゃねぇよ。…アイツ無自覚であんなことしたろ」



仮にあの状態を覚醒と言うのならその覚醒が収まった時、剛は何も覚えていなかった。



「そうだな…そこが一番のネックだ。あのまま無自覚で人から魔力を吸収してしまうようなら行動を共にして居るお前達も安全とは言いきれない」



今まではそんな事無かったんだろ?と付け足しで言われて思い返した。


…確かに初めて見たと思うくらいだから、今までにそんな事があった記憶はない。


いや、だが、



「…それはアイツ自身が自分の魔力が少ないと魔法を使う事を避けていたからじゃねぇのか…?」


「…ほう。じゃあ、あんなふうに自分の魔力を数値にして出すのは初めてって事か?」



「少なからずオレの前ではな」



そうか、と呟いたシリウスは手に持っている瓶をクイッと仰いでビールを飲み干す。


オレもつられて残り少ない中身を飲み干した。


ビールの最後の方って温くて不味いよな。

ブルっと震える。


それからオレ達は暫く黙っていた。



「…お前達が何の為に旅をしているのかは知らないが、これから先に進むなら、あの能力は使いこなせるようになっておいた方がいい」



小さい冷蔵庫からまた2本瓶を取り出したシリウスは気を利かせて栓を抜いてから渡して来た。


テーブルの上は戦場のようにナッツやらチーズやらが転がっていて皿の役目を果たしていない。


転がる瓶は大砲の様だった。


…少し飲みすぎかもしれねぇな。旨いから止めらんねぇけど。


てか、冷蔵庫の大きさ的に上段下段共に12本ずつ位しか入らなそうなのにまだあんのかよ。コイツ飲み切る気でいるだろ。


なかなか手を伸ばさないオレを見兼ねてシリウスは微笑みながらテーブルに瓶を置いていた。



「…アンタの事を疑っているわけじゃないが、知り合って間もないヤツにペラペラと喋れる程、簡単な事をしている訳じゃねぇ。

正直オレは今すぐにアンタを信用して全部話しちまいてぇさ。…でも、出来ねぇんだ」



そう、自分より頼りになるヤツが欲しい。

全ての責任を押し付けて最後まで付き合ってやるから全て指示して欲しい。


オレは言うことを聞いて言われた通りに戦うだけの駒になりたい。


…嫌なことがあるとすぐにそう思う。

これじゃ皆越と何も変わらないってわかってるのに、とてつもなく逃げ出したくなる時がある。


…シリウスはオレをどんなヤツとして見てるんだ?



「…それを聞けただけで充分だ。

俺はギルドが出来るまでは、ただの放浪者だった。気ままに行きたいところに行って金がなくなったら魔物倒して皮や肉を剥いで売り物にして、その日食う物、寝る場所適当に見繕って好きなように生きてきた」


「…なんで腰を据えたんだよ」



「あー…まあ…なんていうか“仲間”というモノが欲しかったのかもな」


「…仲間?そりゃまた…なんでだ?」



「ああ。この国に5年くらい前まで暗殺屋が雇われていたんだが、ヤツらは血の繋がりはなくとも家族同然、俺が見て羨ましいくらい仲良く生活してるんだ。

暗殺屋の分際でガキを育てるわ、そのガキに自分達の仕事がバレないようにコソコソ家を出て外で着替えてから任務に行ったりするわ。…暗殺屋でもこうして仲間を作って楽しそうに生活してるのに俺は一人だって」



“柄にもなく寂しくなったんだ”



シリウスは瓶を覗き込みながらポソリと呟いた。



「…そうか。」


「自分で好き勝手親元を離れてプラプラしてたクセにふとすれ違った当時の名前も知らないどこかの暗殺屋を羨ましいだなんてな。…我ながら自己中な思考を持ったもんだ」



自嘲気味に笑うシリウスが今度こそ普通の野郎に見えた。



「…アンタいくつだ?」


「21だが?」



やっぱりか。

物怖じしないようなドッシリと構えた雰囲気を持っているがらその中でチラチラ見えるのはガキみたいな寂しそうな顔ばかりで気になっていた。



「んだよ、4つしか変わんねぇじゃねぇか」


「…25だったのか」



「ちげぇよ、18だバカ野郎」


「なに…?18で仲間をまとめているのか?」



「…まあな。だから気が滅入ってんだよ」



てっきり同い年くらいだと思った。とシリウスは口を尖らせた。



「…悪かったなオレが年下で。態度改めた方がいいか?」


「いや、やめてくれ。そんなつもりで言ったわけじゃない。…それにこんな話せるようになって今更かしこまられても…困る、というか…その…」



「寂しくなっちゃうか?」


「ッ…そうだ」



「…アンタ可愛いとこもあるんだな」


「…っば!か、可愛くない…」



──すっかり打ち解けてしまった。



「…で?ギルドマスターになったのは何がきっかけなんだ?」



普段なら特に誰に対しても興味なんか微塵も沸かないが、シリウスには違った。歳が近いってのもあるんだろうが、それより放浪主義者が1箇所に腰を据える理由がどうしても知りたくなったから。



「あー…あの頃は生活をする金が無くてな、この国で何か金目の物でも集めて生活の足しにしてやろうかと思ってたんだが…そんな時にギルドを設立するから経営者を募集するという話を商人から小耳に挟んだんだ。

正直俺はそんな役職どうでもよかったが、能力判定で上位10位内に入れば賞金が貰えるって聞いて試してみようと思ってな」


「あ?でも五帝だろ?10位ってなんだよ」



「…賞金目的の奴も参加できるって言いたかったんじゃないのか?…知らないが」


「で、受けてみたら一番の成績を取っちまったと」



「…そうだ」



──だと思ったわ。

もう、普通に序盤の方でわかってたわ。

苦労しないでトップに立てるヤツはいいよな。


オレなんてマジキツい修行してきたんだぞ。

──思い出したら吐き気がした。



「そんなアッサリ、ギルドマスターになって抵抗とかなかったのかよ」


「いや、そんな簡単な話じゃない。

自分の得意属性を様々な方法で測ってその能力の数値を競うんだが他の属性の事は結果発表まで知り得ない。

金だけ貰って他にやりたい奴がいれば譲ろうと思ったんだが、水帝に選ばれたのが故郷に置いて来た妹だったんだ」



ああ、あの水色の髪の毛の。

確かにシリウスの事を“お兄ちゃん”って呼んでいた。



「…本当に兄妹だったんだな」


「いや、血は繋がっていない。…俺はミアの両親に拾われたガキだ。親が誰なのかも知らない。シリウスと言う名前もはたして本名なのかもわからない」


「ッ」



…って、重てぇよ!

嫌だわこんなヘビーな話!


オレ今、普通に放浪していた頃の旅の話を楽しく聞こうと思っただけなんだぞ!なんだよそれ!



「…ちょ、」


「ああ、今更気にしてない。…あまりにも俺とミアの扱いが違うもんだから嫌になって出て行っただけだ」



…それが嫌なんだっての!

気にしてねぇとどころか気にし過ぎてんじゃねぇかよ。なんだよこれ構ってって事ですか?


気の利いたことなんか言えねぇんですけど普通に!



「…ッ」


「だが、ミアに罪はない。ただ自分の嫉妬から飛び出して行っただけでアイツに非はない。だから出て行ったあともずっと気にかけていた。…泣き虫だし、弱いし」



「…あーだろうな。普通の会話でも震えてるくらいだからな」



やっと、まともに話せた気がする。

このまま話が逸れてくれればいいが。



「だろ?アイツのああ言う所が嫌いだ。ビクビクしてれば誰かが助けてくれる。そう思ってるみたいな甘ったれた思考。…俺は物事をハッキリと言えるヤツとしか関わり合いになりたくない。こっちが気を遣うから疲れるだけだ」


「…うわぁ、すげぇわかるわ」



さっきからシリウスと仲良くなれる気しかしないんだが…仲間に勧誘してもいいのかなコイツ。今なら押せばついてくる気がするけど、…でもギルドマスターだしな…。


仲間に入れてぇ!



「…血が繋がらなくとも一瞬でも兄妹だった訳だからそれなりに思い入れはある。…まあ水帝って言われた時につくづく他人なんだと気付かされたが」


「で、選ばれて断る勇気もない貧弱な妹を見守ってやろうと引き受けたって事か」



案外心の優しい野郎なんじゃねぇかよ。女の兄弟を持つとみんなシスコンになるのか…?オレの周りってやたらそんな奴ばかりいる気がするんだが。



「いや、別にそれでもいいんだが…お前はどう思う?」


「は?なにが」



「いやそんな気弱な女が、わざわざ人前に出て可能性がゼロじゃない所に首を突っ込むか?…選ばれるかもしれないのに」


「はぁ?金に困ってたとかじゃねぇの?…あんま悪く言いたかねぇけどミアって奴、お父さんとお母さんが困ってるから私も頑張る!ってタイプだろ?」



「いやそれはない、あの家は金に困るような家ではなかった」


「じゃあなんだ」



「知るか、俺が聞いてるんだ」


「兄妹のアンタが知らねぇのにオレがわかるわけねぇだろ」



だよな。と前のめりになった体を後ろに逸らして笑ったシリウス。…なんだコイツ…存外冗談通じるクチか。



「…まあ、その意図を知りたいが為にギルドマスターになったと言ったら?」


「さすが放浪者はやる事が違ぇやと言ってやる」



「ブハッ…ククッ!そりゃあいい」


「…ッ、笑ってんなよアンタのことだぞ」



「あぁ…そうだな。久しぶりに人とまともに話したから、自分が変わった人間なんだと再確認した」


「んだよそれ」



掌で転がされているようなやり取りに口を尖らせそのまま炭酸の抜けたビールを煽った。



「…でもよ、放浪者で居た時間がどれだけだか知らねぇけど、ずっと同じ場所に居て嫌にならねぇの?」


「…嫌にはなるが…生活は安定してる。それに周りに人が居るから…その…一人じゃないだろ?」


「ッ…」



…なんだこの生き物。イケメンのくせに可愛いってなんだよ。寂しんぼとか完全に必殺スキルだろ。


つか今遠まわしで一緒に行く?って言ったつもりなんだが…遠巻きで断られたよな…コレ。



「い、1回引き受けたらそう簡単に辞めますなんて言えないだろ」


「そ、そうだな…」



ええぇぇナニコレ。ホントは行きたいけど行けないの…的なアレ?!うは、やべ、意地でも連れていきたいどうしよ。



「──お前、闇帝に会ったことあるか…?」



心の葛藤を繰り広げてたらシリウスがふと関係の無い話にすり替えてきた。



「あ…?闇帝?…いや、無いな」


「そうか、…俺は五帝の素性を調べているんだ。ミアもそう、アルタイルもアトリアもシャウラも…」



「シャウラ…?」



その名前に聞き覚えがあった。

…確か…ルシファーとフェリスがリトルウィアークで絡まれたと言っていたヤツの名前…?



「シャウラを知っているのか?」


「いや、直接は会った事はないが連れが隣国でシャウラと接触して脅されてる」



「…リトルウィアークじゃないのか…?」


「…」



答えるべきか一瞬気の迷いがあった。やっと冷静になったというか、よく考えればシリウスも今日初めて会ったヤツだ。


コイツを悪いヤツだとは思わないが、オレ達の事を容易く喋ってもいい相手なのかは、まだ見定めてない。…少し気を抜きすぎていたようだ。



「いや、言いたくないならいい。…ただ、アイツらが敵なのか味方なのか正直わからないのが不気味でならない。…特にシャウラ」


「…まあ人の事を殺すとまで言って脅すくらいだから白だったとしても限りなくグレーに近いわな」



「アイツは滅多にギルドに顔を出さない。普段何をしているのかもわからない。たまたまどこかでアイツを見かけては追いかけるのだが必ず見失う」


「何をやってるのか気になるって事なんだな」



“私の計画の邪魔をするならば、問答無用で殺す”

ルシファーとフェリスは確かにそう言われたと言っていた。


…その計画とはなんだ?



「…まあいい。とにかく俺は気弱な妹が五帝になった理由も、アトリアが勇者召喚に携わりやたら勇者につきまとう訳も、シャウラが何を企んでるのかも全て気が済むまで調べたいんだ」


「…アルタイルは?」



「いや、アイツはただの女好きのキザな野郎だ。放っておいても構わない、俺は、…な?」



シリウスは意味深な笑顔を向けた。



「…なんだよ、何か言いたそうだな」


「いや…ルノ・アンジュ…だったか?目を配っておかないとあの緑に口説かれるぞ」



やはり言うと思ったわ。


確かにルシファーのような押しに弱そうなヤツは、ああいう…所謂女誑しのような男に誑かされ易いだろう。


が、


シリウスの目にルシファーがどう移っているかは知らないがアイツはあれでも大天使だ。それなりに意志の強いヤツじゃねぇとそんな偉大な役職に就けるはずがない。


…と…思いたいだけで正直気が気じゃねぇよ、オレだって。



「…別にいい。それで靡くならそこまでの女だ」


「取られてもいいのか?」



「取られるもなにもオレ達はそういう関係じゃない」



内心はハラハラしてるし、やはりそうかとイライラもするがオレに止める権利もクソもない事は百も承知だ。


悔しいが放っておくしかない。

もし、ルシファーがアルタイルに落ちたらその時点でオレとの約束を守れなかったという事、…ただそれだけだ。



「まあ、俺は何でもいいし興味もない。

お前のとこで興味があるのは、やはりゴウ・カーライルだな。ヤツの能力は早急に把握しないと厄介だぞ」


「…そうだな。どうすればいいのだろうか」



手に持つ瓶を軽く煽ると、気持ちよく飲んでいた酒が急に不味く感じるようになった。



「はぁ…」


「はぁぁぁぁ…」



そしてオレ達は自分達で出した話題に尽く頭を悩ませた。






━━━━━━━━━━━━━━━

ボシーヘイデット城下町

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~その後~




「遅くまで引き止めて悪かった」


「ああ、いいんだ。存外悪くねぇ時間だったからな」



あれから更に2時間くらい自分の理想像やら夢はなんだとか、女の話とかいろいろ語って気が付いいた時には22時を過ぎたところだった。


結局皆越についての話は大した収穫もなく、詳細を知っているのはアトリアだけだと聞いてそれ以上に膨らむ話もなかった。


で、この街を詳しく知らないオレを宿街まで送ってやるって事で今はこうしてぶらぶら歩いてる訳だが…。


いや、ホントはその前に泊まって行けだの、もう少し大丈夫だろだのと一悶着あったが、泊まるにしても同じベッドで寝るとか言いやがるし、オレはヌくと決めているから早く帰りたいって事でなんとか説得した。



「あー…その…また…」


「ああ、付き合ってやるよ。でも次はゴウも連れて行くからな。じゃねぇとうるせぇと思うし」



今日だって抜け駆けした事がバレたらキレると思うし。まあ次がいつになるか分からねぇけどな。



「…そうだな」


「なんだ、アイツ苦手なのか?」



「いや苦手というか、俺が嫌われるだろうな」


「ハハッ、なんでだよ」



「お前を独り占めしたいと思ってる…と思う」


「は?アイツが?…まあそういうところもあるが、別にシリウスに害はないハズだ。人付き合いはアイツの方が上手いからな」



オレなんて根っからのコミュニティ障害だから。ホント、こんなふうに誰かと二人でどっか行くとかぶっちゃけ剛以外初めてですから。



「…まあ嫌なら時間作ってオレだけで行くよ。…てか外で飲むのは嫌なのか?」


「…嫌ではないが、街ゆく女共がうるさい。それに誰が聞いてるかわからない」



ほう…用心深いんですね。

いいことなんだろうけど。



「…そう言えば、お前仲間に連絡取らなくていいのか?そろそろ宿街に着くが、何処なのか分かっているのか?」


「…あー忘れてた」



シリウスに言われるまで完全に頭から抜け落ちていたが、よく考えたらアイツらが今どこに居るのかすらわからない。


不貞腐れて置いてきてしまった手前、こっちから念話するのはすげぇ気が引けるが、金をほとんど持っていないオレはアイツらに合流しないと一人じゃ宿に入れない。



オレは一旦足を止めてルシファーに念話をしようと目を閉じようとした──



が、



“──こんなに綺麗な女性と食事が出来て嬉しかった”



後ろの方から聞き覚えのある声で聞こえてきて自分の足がピタリと止まり、念じようと閉じていた目を開いた。



“あ…はい。こちらこそありがとうございます。…約束は守って貰えますよね?”


“ああ、もちろん。私が自分で言い出した約束だから守らない訳にはいかないだろう?とても残念だけど…ね”



返された返事の声も馴染みのある高い声で耐えきれなくなったオレは話の途中で振り返った。


目に映るのは風帝アルタイルとルシファー。

宿の前で話をしているって事は今晩泊まる宿はここなのだろう。


…何でコイツらが二人で居るんだ?

フェリスと剛はどうした。



「…シリウス、この場所覚えられるか?」


「…なんだ…どこか行くのか?」



「少しオレに付き合え」


「…わかった」



これ以上あの二人の会話を聞きたくない。

それに宿に入るにしたってアイツらの横を気付かれないように通るのすら不可能だ。


踵を返してシリウスの横を通り過ぎる時に言った。


別にいい。付き合ってるわけじゃないし。

それでも、少しはオレの事考えて欲しかったわ。


何故お前と付き合わないのか、それでも何故お前に告白まがいの事をしたのか。


…なんにも考えてねぇのかよ。

なんかすげぇ傷ついたんだけど。



“──ギャハッ!マジ酔っ払い!”


“お前だって酔ってんだろ!”



踵を返した方向に暫く歩き進めると、タイミング悪く目の前から仲良さげに肩を組んで千鳥足になるフェリスと剛に出会した。



「あー!ソウだぁ!アレ?ギルドの人も?」


「んぁー?…うわ、マジだ!ソウ!探したぜぇー?」



イェーイと肩を組まれると剛の全てが浴びたのかって勢で酒臭い。



「…今帰りか?」


「えーうん、なんでー?」



「…少し付き合え」



オレは勝手に決めつけて先に進んだ。




━━━━━━━━━━━━━━━

ボシーヘイデット・大衆酒屋

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「──おう!来てくれたのか!今日は人が引いちまって暇してたんだよ!」



オレ達が向かった先は、初めてこの国に来た時に一番最初に寄った店。あの日はお祭り騒ぎだったこの酒屋も今日はこじんまりとシケていた。



「ああ、あの後寄る予定だったんだが立て込んで来れなかったから日を改めたんだ」


「そうか、で、若干ベロベロのヤツが二人ほど居るんだが別の卓にするか?」



「いや、座席につかせてくれ。カウンターだと座ってられねぇかもしれねぇから」



店のマスターであるオッサンは、ガハッと笑ってそうだなと言った。



「おい、俺も居なきゃダメか?」



気が付いたら目をハートにした女達に囲まれたシリウスが困ったように聞いてくる。


…オレも人のこと言えねぇがコイツも歩くフェロモンみたいなヤツだな。


ギルドマスターとしてコイツの方が有名だからそっちに流れてくれるのはいいんだが、オレの周りにもチラホラと群がってくる女がウザくてしょうがねぇ。



「お前この状態で帰ったら恨むからな」


「…わかった、耐える」



「それでいい」



ギルドのときにやられたのと同じ笑みで返してやった。



「とりあえず一番奥に個室があるからそこに行けよ」



オッサンがグデグデになったフェリスと剛を担いで先に奥へと進みながらオレを振り返った。



「個室なら許せるだろ?」


「…ああ、助かる」



抱きついて来る女に“触るな”と冷たい視線を浴びせながら無理矢理引き剥がすシリウスが心底鬱陶しそうに言うのを見て、自分と同じ思いをしてるヤツが居るってだけで嬉しいとか思ったり。


…この世界に来てそんな事は無くなったが、地球に居た頃はホントこんな感じだったからな。



「──で?何にする?」


「コイツらには水で、オレ達はビール」



席に着いてからオッサンが注文を取って飲みすぎてる二人に水、飲み直したい気分のオレと、それに付き合って欲しいシリウスにはビールを注文した。


いいだろ?とシリウスに確認すると“構わない”とクールに言われましたよ。


はいはい、カッコイイカッコイイ。



「すぐ持ってくるから待っててくれ。それと適当にツマミも持ってきてやる」


「ああ、悪いな」



注文を確認したオッサンは個室から出ていった。



「…何をそんなにイライラしてるんだ」


「あ?別に」



「…そうか。ならばお言いやすいように聞き方を変えてやる。何故ルノ・アンジュをあのまま放っておいたんだ?」


「…ッ」



程なくして運び込まれたビールとツマミを嗜みながら、一息ついてからイラつくオレにシリウスが問いかけてきた。



「…俺はてっきり振り返った時にアルタイルから引き剥がすと思ったが」


「…さっきも言ったが、オレとアイツはそういう関係じゃない。…そういう事を出来る立場じゃねぇんだよ」



「…そうか」



それ以上は深入りしてこないコイツと話してるのは本当にラクだ。


言いたい事だってもっとあるハズなのに、余計な事を言わないように黙ってくれるのは先に生きてる年の功とでも言うのか。



「ルーのこと呼ばなくていいの?多分一人で居るから寂しがってるハズだよ?」


「…そういや何故お前らは二人で居るんだ?」



思い出したかのように、ソファーに凭れながらダルそうに呟くフェリスにずっと疑問だと感じていた事を質問返しで訊いてみた。



「あー…なんか、ご飯食べに行こって誘ったらソウが戻ってくるかもしれないから先に行っててって言われて…待ってる間につい飲みすぎて酔っちゃったのよ」


「違ぇだろ、お前がいろんな奴に絡んで飲み比べだって浴びる程飲んだんだろ?」



「だって少しでも稼いでおきたいじゃない」



剛がフェリスの話に割り込んでやり取りを始める。



「金持たなかったのか?」


「あーうん…まあね貰うの忘れてたし戻るのめんどくさいし…」



「また金は要らないとか言われたらツケで払うって言えばいいかなって」


「で?会計はどうしたんだ」



「んー…ちゃんと払ったわよ?」



…ならいい。

食い逃げまがいな事していたらどうしようかと思ったがそれは無いようで安心した。



「で、ルーは呼ばなくていいの?」


「…ッ、…いい」



「なんで?」


「…アイツも忙しいだろ」



「忙しく無いでしょ──」


「──いいって言ってんだろッ!」



ガンッとジョッキを叩き付けた音に飛び跳ねたフェリスと剛が“何怒ってんの?”と呟いた。



「…わり。何でもないから気にするな。オレも今日は少し酔ってる」



その様子を見ていたシリウスは、何食わぬ顔でジョッキを煽りオレを見透かしたように眺めていた。



「…てかさぁお前が何を見てそんな不機嫌なのか知らねーけどさ、オレ達をほっといたのはお前だからな。何やってたのか知らねぇけど」



剛が体制を整えてからシリウスを睨んだ。



「確かにそうかもしれないが、シリウスは何も悪くない。失礼だから睨むな」


「はーん、シリウス…ね。まあいいんじゃね?誘ってもらってなんだけどオレ気分乗らねぇからフィー連れて帰るわ」



────ダンッ!



「…あ?」

「──これで会計しろ」



「おい、ゴウ──」



剛はテーブルに1万ルンドの札を叩き付けてフェリスに行くぞと声を掛けた。



「あ、ちょっと待ってよ…」


「早くしろよ──」


「──ちょ、ゴウッ!」



イライラした様子で、フェリスを担いだ剛はそのままオレに目もくれず個室を後にする。



「…チッ…なんなんだよ…」



剛を掴もうと伸ばした手が宛も無く彷徨った。



「…どこに行ったかわからない親友が、どこの馬の骨かわからない野郎と帰ってきたら普通腹が立つ物じゃないのか?」


「…ンだよそれ、オレはアイツの恋人じゃねぇっての…」



「同じようなもんだろ。…やはりアイツは俺が気に入らなかったみたいだな…」



グシャグシャと頭を掻き毟るオレに、悪かったと謝った。


まず…なんでオレ謝られてんの?

普通に仲良くなっただけじゃねぇか。何が気に食わないんだよ。アイツだって友達くらい作れってオレに何度も言ってたじゃねぇかよ。



「あー、マジ意味わかんねぇ。…てか、シリウスは謝るな、腹が立つ」


「いや、でもお前達が喧嘩になったのは…」



「謝んなって言ってる。…オレが初めて自分から仲良くしようと思ったんだ…謝られたくない」


「…お前…それはずるいぞ」



「ずるくねぇよ。いいか?オレは今日お前と一緒に浴びる程酒飲んでんだ。酔っ払ってて感情の制御が出来ねぇんだよ。頼むから怒らせるな」


「…わかった」



テーブルに突っ伏したまま言うと、上から戸惑ったような返事が聞こえた。


うつらうつらと記憶が飛んだり戻ってきたり、個室で飲み続けたオレはそろそろ限界なのかもしれない。



「おい兄ちゃん!いつまでもそんなとこでグダグダやったって何も変わらねぇんだから帰って寝ろ!」


「あ"ぁッ?!…ウック…っせぇよこらッ!」



…帰りたくねぇ。

宿でルシファーに出会したらどんな顔すりゃいいんだよ。何も知らなかったフリなんて出来る訳がねぇ。



違う男とメシ食いに行った?

…ふざけんじゃねぇ。



「ふざけんじゃねぇぇえッ!…ヒック…」


「…おい、飲みすぎだ」



…クソが。

なんでこんなにムカムカしなきゃなんねぇんだよ。酒飲んでぶっ飛んで忘れたらそれでいいと思ったのにイライラは増すばかりじゃねぇか。



「もう…全部やめてオレ…シリウスん家住もうかなァ…」


「…」



「…なァ…シリウス…?」


「ッ…」



助けてくれよ、もう嫌だこんなの。気持ち悪い、吐きそう。…オレ今日どんだけ飲んだっけ?


…どうでもいいわ。



「う、…ぷ。…帰る」


「…その前に水飲め」



「いっ…らねぇよ!余計な事すんなッ!」



うっせぇんだよ優しくすんじゃねぇ。オレはそこらの“か弱い女”と違ぇんだよ。



「…送ってやる」


「…ウップ…ク…クソが」



「今日のは無かったことにしてやるから黙って俺の肩借りておけ。その様子だとホテルに戻れない」


「っせぇよ、こるぁ…」



会計を済ませたシリウスがつり銭か何かをオレの着流しの裾に突っ込んだ。



「おい、シリウス!ちゃんと宿まで届けてやれよ?」


「ああ、わかってる。騒がしくて悪かったな。 」



「おう、早く休ませてやれ。顔色が悪い」


「あ"ぁ?…っせぇよコラァ」



何もかもがうるさい。世界がグルグル回ってて立ってんのか歩いてんのか座ってんのかよくわかんねぇ。


酔っ払うってこういう事なのか。


両側から開けられる木で出来た扉を抑えながらオッサンはオレの頭を撫でた。



「ガハハッ、どんなに酔っても威勢だけは消えねぇか。いいじゃねぇか面白い友達見つけたな、シリウス」


「ああ、仲良く出来たらいいんだがな」



「番犬が獰猛だからな」


「ああ…アレは手強そうだ」



「っせぇよコラ…早くしろ」



じゃあな。と言うシリウスのイケメンボイスがオレの耳元で聞こえた。


…っせぇよコラ。





━━━━━━━━━━━━━━━

ボシーヘイデット・ホテル

━━━━━━━━━━━━━━━





「──ほら、着いたぞ」


「…ふざけんな、はえーよ」



暫く歩かされて10階くらいありそうな無駄にデカい建物に足を踏み入れたシリウスは中に入ってからオレを軽く揺さぶった。



「…大丈夫か?」



「受け付けしねぇと…」


「…だな。なら受付済むまで居る」



シリウスの肩に回した腕を引かれ体制を整え直されて足を踏み出した時、



「──ここで大丈夫です」



小さな声が聞こえた。



「…ルノ・アンジュ」



シリウスの呟きに少しずつ覚醒されていくオレの脳内。


ベロベロに酔ったハズなのにさっきまでとは比べ物にならないくらいハッキリと頭が回り始める。



「ここまで送っていただいてありがとうございます。後は私が部屋までご一緒しますから大丈夫です」


「だが、コイツは今1人で歩けない」



「大丈夫です。ソウさんと少しお話がありますから」



…話って…さっきの言い訳か?オレはお前の嘘を今から聞かなきゃならねぇのか?


…冗談じゃねぇ。



「──シリウス。オレを部屋まで連れて行け」


「いや…だが…」



「連れてけってんだ」


「…わかった」



「それとルー。オレに話があるんだろ?お前もついて来い、部屋で聞く」


「…はい」



まずは部屋に戻ってラクな体制になってから話がしたい。


コイツじゃオレを運べないと思ったからシリウスに付き添ってもらった。


会ったばかりだというのに甘ったれてんな。

相当嫌な思いをさせてるんだろうな。

もう一緒に飲みに行ってくれねぇかもな。


そんな事ばかり考えてた。



“そちらのエレベーターから上に上がってください”



受付の女がシリウスを案内して、オレ達三人はエレベーターに乗り込んだ。



「シリウス…ごめんな」


「何が」



「…初対面でこんな世話焼かせて」


「…存外悪くはない。俺には友達が居ないから新鮮で楽しい。…また飲みに行ってくれるか?」



迷惑かけてんのはオレなのに、おずおずと訊いてくるシリウスがいじらしかった。



「当たり前だ」



そんなやり取りをしていたら、チンとベルが鳴って扉が開いた。



「つ、着きました…。502号室です」


「ああ」



ルシファーが静かにそう言うとシリウスはすんなりとオレを引きずってエレベーターから降りた。



「──随分遅ぇじゃねぇか」


「ゴウさん…」



ルシファーの出迎えのおかげで覚醒したとはいえ、まだまだフラフラなオレをシリウスが懸命に支えながら進んで行くと、部屋の前で待ち伏せていた剛がなんとも不機嫌そうに出迎えてくれた。



「んぁ…?ああ…」


「テメェ…今何時だと思ってんだよ」



「…知らねー」


「…2時過ぎだ」



「へー…いいんじゃね?…ルー入れよ」


「おい…まだ話は終わってねぇ」



「…は?気が乗らねぇっつって居なくなったのはお前だろ?オレはコイツと話があるから外せ」



何をそんなに怒ることがあるのか、剛はいつもに増して怒りを隠すこと無く露にする。


だが、別にコイツに対して疚しい事なんて一つもないからそこまでキレる意味がわからない。


どうでもいいが、早くルシファーとの話を済ませて眠りにつきたいんだが。



「…チッ…さっさと済ませろ」


「ああ。…ほら、入れ」



「…はい」



何か言いたそうに一瞬体を強ばらせた剛は、諦めたように舌打ちをして隣の部屋に向かっていった。


多分ルシファーとフェリスの部屋だろう。


先にルシファーをオレらの泊まる部屋である502号室に入らせて、オレはここまで支えてくれたシリウスと少しだけ会話をした。



「…お前が今日見たものはお前にとって腹が立つものだと思う」



「…ッ…なん──」


「──聞け。腹が立つのはわかるが理由も聞かずに責めることだけはするな。お前にとって必要なヤツならちゃんと向き合え。ルノ・アンジュだけじゃないゴウ・カーライルともだ」



オレを腕を肩から外し、両手を掴んでオレを真っ直ぐに見つめるシリウスは、わかるな?と諭すように優しく言った。



「…ああ」


「ん…大丈夫だな。もし何かあったら念話でもいいから呼べ。腹が立ってどうしようもないなら俺ん家に来い。…ただ、お前は我慢しなきゃならない立場だって事を忘れるな。…いいな?」



俺は帰るからな。と伝えたい事だけ言ったシリウスは掴んでいた手をパッと離し潔く背中を向けて帰って行った。


イケメンは去り際もイカしてるのか。

結局何も言い返せずに見送るだけだったな。

ありがとうくらい言えばよかった。



「ファ…ッ、ねむ…。ルーのところ行くか」



抱えられてて少し汗ばんだ身体の右側が、やけにスースーして寒かった。






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ボシーヘイデッド・一室

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「それで…話ってなんだ」


「い、いえ…あの…今日はどちらへ行かれてたのか気になりまして…」



シリウスに釘を刺されてから大して時間も経っていないのに、いざルシファーを目の前にすると怒りがこみ上げてきてどうしてもキツい言葉になってしまう。


シリウスの家に泊まろうかと本気で悩む。

この際溜まってるとか、ヌくとかどうでもいい。


こんな空気の中で、ルシファーと和解できる気がしない。…術もない。



「シリウスと話をしていた」


「そう…ですか」



簡潔に答えるとルシファーは黙ってしまう。



「…話はそれだけか?ならば部屋に戻れ」


「いえ、あの…楽しかったですか?」



「…」



楽しかった…だ?ふざけるなよ。

お前はどうなんだよ。散々思わせぶりな態度取っておいて、オレが目を離した隙に違う野郎と出掛けやがって。


そういうお前こそ楽しかったのかよ。



「ああ…楽しかった」


「そう…です、か…」



話があるって言うから、さっきの事を説明してくれるのかと思ったんだが、オレの思い違いだったみたいだな。


一生懸命話題を探してなんとか場を繋げてるが、悪いが何の意味もない。


…ルシファーの様子からすると何故オレが不機嫌なのかわからないって感じだし。

探り入れてるつもりなのか。…このオレに。



…気に食わねぇ。



ベッドに腰掛けて、簡易的なテーブルセットのソファーにチンマリと座るルシファーを見て萎えた。



「あのソウさ──」


「──ルー、疲れてるんだ。言いたい事あるなら回りくどく言ってねぇでハッキリ言ってくれないか?」



「…ッ」



これ以上付き合ってられるかよ。

剛だって訳わかんねぇキレ方してるしアイツとも話がしたい。


コイツが今、何を言いたいのか知らないが、こっちはお前に入れ込んでる一端の野郎なんだよ。あんなもん見せつけられて気分いい訳ねぇだろ。


正直今はお前の顔すら見たくねぇんだ。



「…え、あの…どういう」


「…わかんねぇならいい。オレが勝手にお前を縛っただけだ。たかだかブレスレットひとつで勝手に安心してただけだ」



「─ッ、あのッ!違うんです!」


「…自分の部屋に戻れ」



「ソウさん!聞いてください──」


「──いいから…戻れ」



信じられないほど冷たい声が出た。


息を詰まらせ言葉が途切れるルシファー。

泣かしたかもしれない。オレはシリウスの言ってた忠告を守れなかったのか。


怒りに任せてしまった。


今ので多分オレが言いたいことが全てわかったのだろう。ハッとして何か言おうとしていたからな。…もう遅いけど。


つか…ルシファーの顔が見れねぇ…。

そう思ったら俯いた顔をあげるのが更に恐くなった。



「…ソウさん…ごめんなさい…」


「…る…ッ──クソ…」



小さくおやすみなさいとすれ違いざまに言われた言葉が、オレを奈落の底に突き落とすような気にさせた。


酒の勢いで…何をしてるんだオレは。


パタリとしまった入口の扉に目を向け、独りぼっちになった部屋に辛気臭い溜息が響いた。



「…やっちまった…」



今は顔を見たくない。それだけで良かったんだ。とりあえずみっともねぇ嫉妬をしてる今はどうにも落ち着きそうになかったから、今だけほっといてくれれば明日にはいくらかマシになってるかもとか思っただけだ。



「…オレのクソバカ野郎…」



とりあえず着替えよう。1日中この格好はさすがにキツい。


自分の着やすいようにしていても腹回りを抑えてないと肌蹴るから帯だけはシッカリ巻いてある。死ぬほど飲んだし、たらふく食ったしパンパンだ。


この世界の主流なのか、どの宿に行っても置いてあるガウンに着替えて洗面所に向かった。



「──けっ…汚ねぇツラ」



デカデカと自分映し出す鏡を見てゲンナリ。


眉間にシワを寄せて目は虚ろ。イライラで何度も掻き毟ったボサボサの髪。酒のせいで赤く染まった頬。


…ただの酔っぱらいじゃねぇかよ。



「みっともねぇ…」



こんな人を喰いそうな顔してルシファーと話してたのかと思うとほとほと呆れて乾いた笑いしか出ない。


顔を洗って歯を磨くつもりだったが、何もかもを洗い流したくてシャワーを浴びることにした。






━━━━━━━━━━━━━━━

ボシーヘイデッド・ホテル

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「──ん…これ飲め」


「…ああ」



シャワーから出ると待ち受けていたように、洗面所の扉の前で剛が腕を組んで立っていた。


顔つきはさっきよりマシだが、まだ少し機嫌が悪い。


オレは渡されたミネラルウォーターを受け取り一気に飲み干した。


…すげぇ喉が乾いていたとこだ。



「仲間を連れてこの街に来た初日にそのお仲間さんを放って夜遊びした挙句、クソ生意気に女を泣かせたテメェに話がある。…座れ」


「い、引っ張んなよ!」



「うるせぇ。オレぁ今、(スコブ)る機嫌が悪いんだ」


「──痛っ、おい!」



渡された水を飲み干したこと確認した剛は、オレの胸倉を掴みあげ力任せに引きずった挙句にベッドに投げ飛ばした。


…訂正しよう。

オレの親友はまだ頗る機嫌が悪いらしい。

──抵抗したくとも力が入らなかった。



「…あんな雰囲気でギルドから出て行ってルーとフィーに散々心配かけておいて、テメェは見知らぬ野郎と肩取り合って仲良く酔っぱらいたァ…随分生意気だよなァ。あぁ?」


「い、や…あれは」



「…あれは、なんだ?悪ぃけどオレはテメェの言い訳なんぞ聞きたくねぇし、聞く気もねぇ。ついでにテメェがいつの間にか人見知り直してビッチに成り下がったのも知らねぇ」


「…お前…!」



「…凄むんじゃねぇよ、最強さん。強そうな仲間見つけたから気持ちが靡いたんだろ?結構なこった」


「おい…」



「…お前を泣かせる奴から全てを奪ってでも守るって言ったよな。…だからってなァ…オレぁテメェの仲間を泣かせていいなんて一言も言ってねぇんだよッ!」



────バキッ!!



ジリジリと詰め寄ってきた剛が声を一層デカくした瞬間、オレのこめかみで鈍い音がした。


「…ッ」


「…痛てぇか、このクソ野郎」



「つよ…」


「痛てぇかって聞いてんだよッ!」



────バキッ!!



避ける気にならないのは酒のせいか。

それともオレはこうして殴られたかったのか。


…剛すげぇキレてんなお前。

ちゃっかり自分の不満まで込めやがって。



…痛てぇよ。

そんな顔されたら…痛てぇに決まってらァ。



「…ッてぇ…」


「そうか…ざまあみろ…悔しいなら泣けよ。そしたらお前を泣かした邪魔なオレは今すぐテメェの目の前から消えてやる」



「ッ!オレはお前に居なくなって欲しいなんて思ってねぇッ!」


「…ああ、だろうな。お前はオレが居ないと1人じゃ踏ん張って立つことも出来ねぇからな。仲間でもねぇ野郎に支えられてフラフラ千鳥足キメ込んで歩く事すらままならねぇ…」



「わかってんなら…」


「お前が!今それを壊そうとしてんだよ!テメェのその足りねぇ脳ミソのおかげでなッ!」



「…う…ぐ…」



苦しい。

掴み上げられた胸ぐらも、一瞬持ち上げられて叩き付けられた背中も、コイツの言葉も。



「言っとくが…お前がルーに嫉妬する筋合いはねぇぞ。テメェは勝手に行動して他の仲間達は許されねぇなんてオレらの大将が許すハズもねぇ。…だよな?ソウ…いや──神崎創」


「…ッ」



「おお、苦しいか?これだけ掴みあげられたら喉も詰まるよな?息出来ねぇよな?…オレ達も同じ思いしたんだよ、わかるか?

お前は昼間に“暫く別行動はしない”って自分で言ったんだぞ。それなのに…

…ッ!テメェが居なくなって誰も指示する奴が居ねぇオレらはな…水と酸素がなくなった水槽の金魚と一緒なんだっつってんだよッ!」


「──ゴホッ!!…ッ、…ゴホッ!!」



馬乗りでオレの首を締めあげる剛は苦虫を噛み潰したように顔を歪めてバッとオレを解放した。



「おうおう、やっと息が吸えてよかったじゃねぇか。オレらも…ついさっきお前が戻ってきてやっと息が吸えたわ」


「ハァッ…く、そ…」



「…お前がどんなにとち狂った事をしてもそれを慕って待ち続けるバカ共が居るって事だけは忘れてくれんじゃねぇよ」


「…ッ、よし…」



「…お前が居なくなってから、しつこく迫った風帝の野郎にハッキリと断りを入れる為に1回のメシで1人で片付けたルー。お前を傷付けた光帝のアトリアと一戦交えたフィー。お前の知らねぇ所で使えねぇお前の為に、不器用なオレらの大将の為に女共だってテメェで出来る事を精一杯やってんだ。

何も知らねぇお前が…いや、逃げようとしたお前がアイツらを泣かすならオレぁお前を許さねぇぞ」



──クソ野郎。


そう叫ぼうと思ったのに声が出なかった。

口を開いたら嗚咽と共に感謝の言葉が溢れる気がしたから。


ポセイドンから聞いた勇者A…現魔神のサカエ。オレは自分とソイツを重ねて、あの、バケモノを倒した時に身が裂かれる思いだった。


同じ道を辿りたくない。

堕ちるなんて冗談じゃねぇ。


…でも少しでも同情できるって事は、オレがその糸を手繰り寄せ同じ道を歩んでしまう事の可能性はゼロじゃないんじゃないか。


コイツらのことを考えてる余裕が無かった。

あの時の自分がどんな顔で、コイツらを置いて行ったのか想像もしなかった。


…馬鹿だろオレ。

下天界に行った全員が聞いていたのに、早速捨てるような真似をしたのかオレは。



「…ッ」


「…今の気分はどうだ」



「…悪くねぇや。クソみたいなオレにピッタリだ。よく似合ってんだろ?」


「お前がどう思うと関係ねぇ。オレ達はお前のツレとしてここに来た。それを引きずり回して巻き込んだお前が逃げんじゃねぇよ。オレ達が要らねぇってなら立ち直れないくらい傷付けて突き放してみろ」



“何を勘違いしてんだか知らねぇが自惚れるなよ。今のお前じゃ勇者Aにもなれねぇただの尻つぼみだ”


…痛てぇとこ突きやがってよクソ野郎。

お前に怒られんのがオレの中で一番堪えるとわかってて説教垂れてんのかコイツ。



「おいおいゴウさんよ…こういう時、親友ってのは優しく慰めるもんじゃねぇのか」


「…は?慰めてんだろ。浮気者の可愛い親友をよォ。テメェの息子が切り落とされねぇだけマシだと思えクソ野郎」



「むす…」


「…オレは許した訳じゃねぇぞ。お前はあんなイイ男よりもオレみたいな芋野郎の傍で涼しい顔してるのがお似合いなんだよ」



コイツのいいところだ。鼻から全否定をしない。どんなにムカつく相手でもいいところを見つけてきちんと認める。


お前もシリウスがいい男だと思うのか。


…なら、マジでいい男なんだろうよ。

お前が言うんだから。



「けっ、野郎のくせにヤキモチ妬きやがって。めんどくせぇんだよお前」


「いちいち女みてぇにウジウジ考えてるお前の方がめんどくせぇよ。これならテメェの大好きなルーの方がよっぽど男らしいわ」



「ぐ…ッ」



…返す言葉もねぇわ。


オレの為なのかルー自身の為なのかそんなもんアイツの腹ん中でしかわからねぇ事だけど、オレがアルタイルにヤキモチを妬いてる間にその悩み事全てを解決したんだもんよ。


全くどっちが大将かわかったもんじゃねぇ。



「…アイツを泣かせたんだな…オレは」


「ああ?結構あっけらかんとして戻って来たけど…なんつーか…心が泣いてたな」



「…くせぇよ」


「は?風呂入ったから臭くねぇわ」



「そうじゃねぇよ!」


「ハッ…やっと本調子か。…ったく手こずらせやがって。お前を殴ってやり返してこなかった時どうしようかと思ったわ」



オレに部屋から出ろと言われてどんな気持ちだったのだろうか。


悲しみより先に怒りが込み上げただろうな。


お前が不甲斐ないからって怒鳴ればよかったのに。



「…反省した」


「あーはいはい。フィーが酔い潰れてただけマシだな。アイツがシラフだったら多分お前今頃消し炭にされてたところだ」



「…謝りてぇ」


「…謝ってどうする?」



「…殴られてぇ」


「殴られてどうする」



どうする…か。

そもそもどうにかなりたいのか?

今まで通り以上に何かを求めているのか?



「…わかんねぇけどいつも通りがいい」


「なら謝る必要ねぇよ。殴られる必要も」



“なぁ?ルー”

──剛が部屋の入口に向かって呼びかけた。



「…そうですよソウさん。自分のこと棚に上げて何でも勝手に決めてしまうのも、皆に心配をかけまいと心配させるのも私達の大将さんです」


「て…めぇ…ゴウ!」



全て聞かれてたのか。

毎度の事ながらオレの仲間達は、親みてぇな先公みてぇな医者みてぇなヤツらばっかりかよ。



「お前がどんなにグレたくても擦れたくてもオレ達がさせねぇから叶わねぇぞ」


「クソ…」



「情けねぇな。ホント情ねぇよお前。オレの親友なんだからもう少しシッカリしろや」


「とにかく!ソウさん…?暫くお酒禁止ですからね。お酒の勢い借りてまともな事を言うのかと思えば支離滅裂な発言で。…私があの男に気が向くとでも?」



「あ…あ、いえ」


「笑わせないでください。貴方以外に気が向くのならとっくに向いてます。…それともなんですか?私に諦めて欲しいと遠巻きに言ったつもりですか?」



「…いえ…その…」


「失礼承知の上申し上げますけど、無理ですから。私は諦めませんから。ここまで私を本気にさせた貴方が悪いんです」



おやすみなさい。と、ほとんど無表情で言い放ったルシファーは丁寧にお辞儀をしてから隣の部屋に戻って行った。



「「こ…っ…恐かった」」



オレ達は静かに閉まる扉を眺めて同じ言葉を吐いた。



「アイツ…ぶちギレだぞアレ」


「ああ、今日買ったナイフの切れ味を早速試されるかと思ったわ」



「お前なんて殺す価値もねぇって言いたかったのかもよ」


「…それ立ち直れねぇわ」



何も面白くねぇし危機しか感じねぇのに笑えた。


諦めない…か。



「オレは随分とまたいい女に惚れられたもんだ」


「ホントだよ。リア充暴発しろ」



「もうそれテロリスト」


「オレを巻き込んで消し炭にしてくれ」



「それはリア充じゃなくとも、うちのベッピンさん達を怒らせたら問答無用で消し炭になれるから心配すんな」


「ハハッ!だよな」



結局無駄にヤキモチ妬いて無駄に喧嘩しただけか。


親父が昔言ってた“どんなマヌケでも神様になれる”って満更嘘でも無さそうだな。


その証拠にこんなマヌケな野郎でも、コイツらの大将やってんだからな。…大将の器なんて持ち合わせてねぇ小さじ程度の度量で糞ガキがよぉ。



「…ホント…人生捨てたもんじゃねぇな」


「まあな…テメェで拾ったモンでもねぇけど」



万年厄日ってのもいい加減板についてきたってこった。



「…ンだよ、安心したら眠くなってきた」


「お前ただでさえよく寝るんだから早く寝ろよ。毎日毎日誰よりも遅くに起きてきやがって」



あ…ここで突っ込んでくるんですね。

確かにいつでも起きたら誰も居ないしオレが最後まで寝てるけど…



「お前が起こせばいいだろ」


「え…何お前、オレにモニコされたい訳?」



「モニコって電話で起こす事を言うんじゃねぇの?」


「は?耳元でプルルルルって囁くのも立派なモーニングコールだろ」



「迷惑です。自分で起きます」


「最初からそうしろよ。甘えんな」



「…はい」



…ホント…お前ら、マジでごめんなさい。

こんなオレでホントにゴメン。


もう少し自身がつくまでお前らに怒られてたいオレだから今は謝らなくていいか?


…意地張って謝らねぇけど…もっともっとムカついてオレに説教垂れてくれ。お前らの小言が物凄く心地いいんだ。…バカだろ?



だからさ…これからも傍に居てくれよ?



ウトウトと一人反省会をしてる内、襲い掛かる睡魔に耐え切れず意識を手放した。

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