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ボシーヘイデッド編~腐れ貴公子~

━━━━━━━━━━━━━━━

ボシーヘイデット正面玄関

━━━━━━━━━━━━━━━





「…はぁ…わり。間違えた」




今目の前に見えるのは、これでもかと存在感を示すデカいデカい門の前。


ボシーヘイデット!とキメ顔もそこそこに、恥ずかしいくらいカッコつけて転移したのだが、“城”と言うのを忘れて飛んだ先は国の入口。



「ブフッ、ボシーヘイデット!とかって思い切り叫んでたもんなソウ」


「な。クク…」




クソゴリラ二匹に小馬鹿にされたような顔で笑われると、尚の事恥ずかしい。



「…すまねぇ。とりあえず中まで飛ぶか。時間もねぇし」



気を取り直して新しく転移用の魔法陣を作ろうと構えると“ちょっと待て”と大将に止められる。



「飛ぶんなら城の中に飛んだ方が時間も短縮できるぞ。…因みに、王座の場所は把握してるのか?」


「…いや、オレらは一階の物置のような所からすり抜けたから中の構図は良くわからない。城の中で飛べる場所は食堂のような大広間と兵士達の休憩所みたいな部屋、地下牢の入口ぐらいだ」



「…とりあえず説明すんのもめんどくせぇから、その食堂っぽい大広間に飛んでくれないか?…オレ、ガキん頃から結構忍び込んでたから入っちゃえば王座まで連れていけるぜ?」



そうだったな。

大将はクリスの昔馴染で城にも入ったことがあるんだよな。



「よし、わかった。…魔法陣作るから離れてくれ。…転移先はボシーヘイデット場内でいいのか?」


「ああ。そうすれば場内でお前が飛べる所に着くんだろ?…大丈夫だ」



「そうか。じゃあ──」



そしてオレは、今日だけで何回発動したのか、もはや覚えてない魔法陣を再び発動し、二人に早く乗れと呼びかける。


この動作にいくらか慣れてきた二人も、当たり前かのように魔法陣に乗り込み、念の為だと腰に掛けた刀を握り締めていた。



「テレポートα、ボシーヘイデット場内──」



────シュンッ!!



一瞬の暗闇を抜け目の前は上階へと続く赤い絨毯が敷き詰められた大きな階段の前。



「…と。誰も居ないようだな」



着地早々刀を構えた大将が周りを汲まなく詮索し誰もいない事を確認すると刀を手放し腕を組んだ。



「はぁ…。やっぱ疲れる」


「ソウ、大丈夫か?」



「ああ、ゴウ。…大丈夫だ。一回に使う魔力が減ったのか体に掛かる負担が少なってる」



キツい事には変わりないけどな。



「慣れたんじゃねぇの?それかまたお前のステータスが上がったか」


「どうだかな。でもこのまま魔法を使い込めば、もっと負担が軽くなる気がする」



いいなぁ。と呟いた剛に頼むから変わってくれよと言いたくなるのはご愛嬌だろ。



「ここは…玄関ホールだな。ほら、そこにデカい扉あんだろ?そこを出ると城前にある庭園だ」



見上げていた階段とは真逆の背後を指さしながら、それだ。と教えてくれる。



「この階段を上がった所に王座があるのか?」


「ああ。もう三年ほどここには来ていないから、変わってなければあの階段の側にある部屋が王座だ」



向き直った大将がアゴで階段の上に位置する扉を指した。



「でも、王座と王室は違うんじゃねぇの?」



剛がふいに口を挟む。



「…だな。王様だからって常に王座にふんぞり返って座ってる訳じゃねぇ。アイツの事だ、もしかしたら城の中フラフラしてる可能性だってある」


「とにかく行ってみないとわからないだろ」



想定で物を言う大将をピシャリと切り“こんな所で突っ立っててもしょうがねぇ”と、階段を踏み込んだ。




“──おや?お客様ですかな?”




後に続くように足を踏み出した瞬間に聞こえてきた薄気味悪いくぐもった声。



「はッ?!」


「誰だ!」


「──ッ!」



脳内で今この場にいる二人の声を思い浮かべたが、そのどれとも一致しない声に“他人”として話しかけられたのだと全員が振り向く。


声が掛けられた方向に振り返ると自分の腰ほどしか無い背丈のオッサンが、作り笑いを貼り付けたような顔で微笑んでいた。



…あれは…ドワーフか?



誰だか知らねぇし何でもいいが、ソイツが自分達にとって枷となる存在だって事が本能的に感じる。


振り返って目を合わせたままお互いに様子を伺うように睨み合った。



「どなたかは存じ上げませんが、本日はボシーヘイデットの感謝祭で王もお休みになられています。ご用件はなんでしょうか?」



オレ達を帰れと言いた気に手を胸に当て嫌味たらしくお辞儀をすると、ヤツは機械的な口調で淡々と話を進める。



…恐らくクリスの爺さんが言っていたドワーフってのはコイツだろうな。



「──久しぶりだな。アンタ、クリスの側近だったドワーフだろ?」


「…はて?私めをご存知なのですか?──…あぁ、これはこれは。気付きませんでした。貴方はいつぞやの哀れな隣国の兵士長殿」



妙に刺のある物言いでお互いを威嚇し合うように睨み合う二人。


過去に何があったのかオレに知る由もないが、雰囲気から察するに徒ならぬ緊張感からしてロクな思い出がないのだろう。


…嫌なヤツに捕まった。



「クリスは何処だ。オレはアンタと話に来たんじゃねぇ。クリスに用があって来たんだ」


「…相変わらず育ちの悪そうな出で立ちですね。王はお休みになられてると申し上げたと思いますが」



「そうか、なら部屋に行く迄だな」



埒の明かないやり取りにウンザリとしたため息を吐いた大将が踵を返して階段を登り始める。


無言で傍に居たオレ達も大将に合わせるように踵を返した。



「勝手に城の中を歩き回られては困ります。今、人手が足りていませんのでどうかお引き取り願えますか?」



感情ひとつ見受けられないサッパリとした口調が耳に届き、ついつい足を止めそうになったが、



「ヤツに構う必要は無い!…時間の無駄だ、行くぞ」



と、大将に怒鳴られたオレ達は、背後が気になりながらも言われるがまま上の階へと進んでいく。


あからさまな敵意を向ける相手に背を向けるのは、正直言って気が引けた。



「──おい、クリス!話をしに来た!」



階段を上がった目の先に存在するバカにデカい扉を前にノックもせずに勢いよく開けた大将は…居ねぇか。と肩を落とす。


ならば、次はクリスの部屋。


先程から、大将についていくスタンスでオレ達が口を出す事を一切していないが、如何せん大将は焦りを露わにして、見ているこっちが痛々しく思う程だ。


クリスの側近だと言っていたあのドワーフに会う前までは、なんて言うかこう、もう少し発言や動きに余裕があったと思うんだが。



心做しかイライラしてるし、何がそんなにアンタをそうさせてるんだ?



『ゴウ…見てわかると思うが、今の大将すげぇ気が立ってるからあんま逆撫でするよう事するなよ』



一応起爆スイッチである剛に念を押した。



『…わかってる。お前横を歩いてるからわからないと思うけど、後ろに居ると背中にピリピリしたモンまとわりついてて話し掛けるどころか息するのもキツイわ』


『多分あのドワーフに会ってからだと思うが大将は幾らか焦ってるように見える。もしかしたら急に何かが起こるかもしれねぇから気構えとけ』



『…あいよ』



剛と念話をしてる内に城の奥へとクネクネ進んだ足が止まった。



「クリスの部屋か?──」


「ああ。──クリス!話をしに来た!」



オレの方を見向きもせずに返事をした大将は、そのままドアノブに手をかけて扉を引いた。



「…クソッ!何で居ねぇんだよ!…外は真っ暗なのにアイツまた脱走してるのか?…いや、アイツは暗闇が苦手なはずだんな訳ねぇ…てことは城の中徘徊してんのか?」



ボソボソと呟きながら考え込む大将を見てられなかった。



「一旦落ち着けよ。何をそんなに焦ってるんだ」



オレは大将の肩に手を置こうと近付いた──



「──触るな!…あ、わり…」



(カブリ)を振った大将が驚いて固まるオレに気が立ってたと謝った。



「…なぁ。イラついてるとこ悪いんだけど、誰も居ないってさすがにおかしくね?」



平常心が保てなくなった大将に追い打ちをかけまいとあえて黙っていた事をついに剛が口走る。


今さっき言ったばかりなのに何でこのタイミングで口にしたんだよ馬鹿野郎。



「だから今探してんだろうがッ!」



腹の底に響くような重く低い声で怒鳴る大将。

…焦りが限界ってとこか。



『お前バカだろ。なんで追い詰めたんだよ。 』


『わ、わり…。これくらいなら大丈夫かと思って』



『地雷だから。…マジでふざけんな』



さて、どうするか。

とにかく大将をこのままにしておく訳にもいかない。だからと言って上手く気持ちが切り替わる事なんて有り得ないだろう。


ひとりでも人が居てくれたらまた少しは違うんだが、どんなに辺りを見回しても殺風景な赤い絨毯、転々とした照明、薄く柄の入った黄色い壁…それだけだ。


耳をすませても聞こえるのは隣で息巻く大将と、怒らせた事による動揺が隠しきれない剛の息遣い…



──と、もう一人居た。



「…またお前か…ッ!」



オレはソロリソロリと不敵な笑みを浮かべながら近付いてくるヤツを刀に手を掛けながら睨んだ。


今さっきオレ達の行動を阻もうとしたドワーフだ。



「勝手に城を歩き回られては困る、と言ったのです。意味が理解出来なかったのですか?」



「──ッ、クリスは何処だァァァアッ!」


「大将!…オレが話す」



オレは重心を低く保ちいつでも刀が抜けるように構えたまま怒鳴る大将を止める。



「この城に居た人間は…皆、死にましたよ?」


「…何!?」



「聞こえなかったのですか?ここにいた全ての者が死んだと言ったのです。理解が出来ましたら、直ちにお引き取りください」



丁寧に手まで添えてお辞儀をするドワーフはオレが聞き返した言葉に更なる挑発を上乗せして煽ってきた。



「…おま、え…今何て言った…?…死んだ?…クリスが?クリスが死んだだと…?」


「ええ、そう申し上げました。

…貴方は過去に王に手を下した事がありましたね。まあ未遂で終わってしまいましたけど。わざわざ足を運んで頂いて申し訳無いのですが、王が死んでしまった以上貴方の出る幕はありません。お引き取りください」



不気味に嗤う笑みに見覚えがあった。


…これは、リトルウィアークで倒したアデルとジェイコブの嗤い方と同じだ。


刀を握る力が強くなる。


今すぐ切り裂いてやろうか迷った。



『早まるなよソウ!嘘かもしれねぇ!』



剛から念話が届き何とか踏み止まるも手は怒りで震えたままだ。



「クリスが…ハハ…クリスが、死んだだと…?」



今にも正気を失いそうな声が後ろから聞こえる。


これ以上は大将の精神面が危ない。



「…そうか。全員死んだのか。リトルウィアークの恨みをオレの手で晴らしてやろうと思ったのに残念だったな」



間を取り持つように割り込んでドワーフの意識を自分に向けさせる。


こうでもしなきゃ多分大将は今すぐにでもコイツを殺してしまうだろうからやむを得ないことだ。



「…どこぞの者だか存じ上げませんが、親切心で首を突っ込んで居るのなら今すぐやめなさい。国同士のイザコザに関与すると痛い目に遭いますよ?」


「…忠告有り難く頂戴するが、生憎オレは血腥(チナマグサ)い話が大好きな性分なんでね。

お節介ついでに聞くが、この城のヤツらは皆死んだんだよな?」



「ええ、そう言いましたが?」


「それなのに何故お前だけがピンピンして生きているんだ?それは お前がここのヤツらを殺した、と言う事で解釈してもいいんだろうか」



オレもそろそろ限界かもしれない。

この反発し合うように体の内側で疼く殺意や共鳴はやはり闇影属性だな。


オレの中にある闇影属性が惹かれるように共鳴し、聖光属性の性質として拒絶のように反発するこの感情がとてつもなく不快だ。


魔属性の性質を持ち合わせていない事が唯一の救いか。勝てねぇ相手じゃねぇってわかっただけでも少しは気が楽になる。



「…ふむ。私が殺した…か。まあ、そういう事にしてやってもい──」



────シュンッ



「「「──ッ?!」」」



────ズシャッ!!



目の端で何がオレの横を通り過ぎたのを確認した時には遅かった。



「ァ……ァ……」


「…え?」



生温い返り血がオレの顔に掛かり、唖然とする。



「クソ野郎…この、…く…クソ野郎!」



ズシャッズシャッと肉を貫く生々しい音を立てて息の根が止まったドワーフを狂気的に切り刻むのは大将だった。



「おい!大将!落ち着け!」



その後からすぐさま羽交い締めにして引き離そうとする剛。


見るも無残に肉片と化するドワーフ。


オレも大将も剛も飛び散った血で全身ドロドロになっていく。



「く、そッ!…クリス…ッ、クリスが…!!」


「大将!いい加減にしろ!まだ決まったわけじゃねぇだろ!」



剛に動きを止められた大将に向かって怒鳴る。


オレ自身でも強い憤りを感じていたから気持ちはわかるがこれ以上は意味の無い事だ。



「オレ、大将の気持ちわかるから!な!?とりあえずクリスの部屋に入って落ち着こうぜ。ほら!」



剛も必死になって宥める。


大将の嗚咽とオレ達の食いしばるような息だけが城中に虚しく響いた。






━━━━━━━━━━━━━━━

ボシーヘイデッド城・王室

━━━━━━━━━━━━━━━






「…クリスを探すぞ。 オレは昼間この目でしっかりと見たんだ。そしてそれから2時間程しか経っていない。感謝祭で休みだと言っても1人じゃ殺しきれない程の人数がこの城に居た。

勢いでドワーフを殺しちまったが、もうそれは過ぎた事として一旦頭から外せ。生かしておけば何か引き出せたかもしれなかったんだ。もう死んだものはしょうがねぇから咎めるつもりは無いが、次誰かに出会(デクワ)しても勢いで殺すなよだから大将も少し抑えてくれ」



クリスの部屋で少し息をついたオレ達は先程よりか幾らか落ち着きを取り戻し大将も頭を抱えて静かに項垂れていた。



「…悪かった。つい、な。…でもホントに殺されて居たら…俺…」



わかるよ、スゲェわかる。

オレだって一瞬大将が狂ったの見た時に自分の事とスライドさせた。



剛が死んだと言われたら。


自分が殺したと言われたら。


そう考えただけで気が狂いそうだった。

だから…大将の気持ち、オレもわかるから。



「大丈夫だとは…言いきれないが決まったわけじゃねぇ。今からこの城全体を汲まなく探してみて、もしクリスが死んでたらこの城を消し去ろうがこの国を潰そうが口出ししない。

クリスを助けられなかったオレらを好きにしたって構わない。オレらはそれを受け止めなきゃならねぇ義務がある。…だが、クリスが見つかるまでは頼むから気をしっかり持ってくれ」


「…んな事しねぇよ。…俺ァ自分を…恨むだけだ」



大事な親友を疑いもせず見たままに信じて蔑んだ事をだろ?


自分がもっと強ければ周りなんか気にせずにお前を助けてオレがずっと守ってやるのにって思うんだろ。


オレだって…同じだ。

でも今はしっかり横で笑っててくれる。

横でふざけて怒らせてくれる。

手を伸ばせば殴る事も掴む事も出来る。


遅すぎるなんてことは…ないはずだ。



「根拠はねぇけど、大丈夫だ。──絶対間に合わせてやる」



オレはスクリと立ち上がった。



「行くぞ」



──ここからが正念場だ。







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ボシーヘイデッド城内

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~その後~





あれから先を行く大将に続いていろんな部屋を見てきたが一向に見付からない。


人、一人すらだ。



「恐らくこの国はクリス信者とあのドワーフ信者とで別れていたハズだ。だが、クリスの爺さんも言っていたと思うがこの国が乗っ取られている事を知らずに外面上では生活をしていただろう。

…胸糞の悪い話だが知らず知らずに巻き込まれているって感じだろうな」



「ああ、俺もそう思う。

クリスだけがアイツらに指示されてそれを自分の兵達に指示する。だから、何か人から顰蹙(ヒンシュク)を買うような事を言ってもクリスからの命令として受け取り誰も疑いもしない。

…その結果が傲慢な嫌われ者だ。アイツは…こういうふうに国が滅んでいく事を想定して、そんな名前を付けたのだろうな。“ノーブル・レイ”の名前を穢さないように」



「気高く崇高な王…か」


「そうだ。アイツにとってのじいちゃんは誇りだ。いつだって遊んでくれてくだらないワガママも全部聞いてくれる。国の皆から好かれたじぃちゃんを誇りに思わない訳ねぇだろ?そのじぃちゃんが造り上げたこの国を自分の手で穢すのだけはイヤだったんだろうな」



中を確認した部屋は扉を開けておく。


デカい国だけあって城のスケールもリトルウィアークのチンケな城とは比べ物にならない程の広さだ。


歩いても歩いても部屋。


一体何の為にこんなにも部屋を設備するのか理解ができないがひとつひとつしっかりと使われているようで古ぼけた部屋などひとつも無かった。



「にしても、広すぎるな」


「ああ、俺らの国とは比べ物になんねぇよ」



「こんなにたくさん部屋作ってどうすんだよな。大家族にでもなるつもりか?」



正直面倒臭くなってきた所でつい皮肉っぽくなってしまう。



「いや、このそんなに広くない部屋は城で働いてる独り身のヤツが住んでると昔聞いた事あるぞ。結婚すれば出ていくシステムらしいんだが、それまでは金を貯めろと言う意味で、飯から何から金を取らないんだと」



太っ腹かよ。



「…すげぇなこの国」


「今はどうだか知らねぇよ?ただ、オレらがガキん頃にじぃちゃんが言ってた。だから、お前達もしっかり働いて家族を養える蓄えをしろよ?って」



「へえ。てか、昔から感謝祭ってあったのか?」


「あーあったあった!国総出で祝って毎年花火とか打ち上げてたな」



「飯もタダだしな」


「は?メシはタダじゃなかったぞ?

元は日頃の感謝を込めて世話になってる店に貢献しようと兵士達がバカみたいに金を使う事から始まったんだ。

だから商店を営んでる街のヤツらがここぞとばかりに店を開けて叩き売りをする。力尽きるまで店を閉めないから明け方までうるさかったなぁ」



さも、自分が楽しんだようにしみじみと振り返ってるけど、



「…アンタは経験してねぇだろうが」


「まあ、そうだけど、ほら、記憶にはあるからよ!」



「…でも、それだとオレ達が見た祭りの様子とは全然違うな」



だって酒屋のオッサン金なんか取れねぇって言ってたし。



“不利益で店を開けろと言われてる”

そんなような事言ってたよな。


まあ、クリスから金を受け取ってたみたいだから実質不利益では無いんだろうけど。



「どんなだったんだ?」


「いや、オレら情報収集ついでに腹拵えしに酒屋に行ったんだが、金は受け取れねぇって返されたんだ。不利益で店を開けろとか王に言われてるって」



「…は?何アイツ、そんなガメつい事してんの?」


「いや、それがそうじゃねぇんだ。クリスから予め金を貰ってるみたいで不利益では無いっていうか」



今となっては事務的に扉を開き中を確認する動作。雑談を交えながら次々と網羅していく様はもはやかくれんぼのような。


こんな気を抜いた調子じゃ良くないよな。



「…多分それはドワーフの命令を聞き入れて指示したクリスなりの償いだろうな。店一件に対して幾ら払ったのか知らないが、おそらくアイツの金から出してる」


「…どんだけいいヤツなんだよアイツ」



「だから言ってんだろ?アイツはそういうヤツだって。慈愛に満ちたイイ男だ」



聞けば聞くほど大将が如何にクリスを想うかが伝わる。オレが誰かに剛を語る時にもこんなふうに誇らしげなのだろうか。


──その逆は?


剛もオレを語る時こんな嬉しそうに語ってくれるのか?


ふと、後ろを歩いてる剛に振り返った。



「…は?」



──居ない。



「ゴウ…?…ゴウ?!何処だ?」



ついさっきまで傍に居たハズだ。

急に居なくなる訳ねぇ。



「…んぁ?なんかイイもん見つけたんじゃねぇの?」



大将が次のドアに差し掛かろうと手を伸ばしながら言った。



「そ、そうだな…」



気持ち焦りながらも剛に念話を届けた。



『剛、何処だ?』





『おい剛、時間ねぇんだから早く来い』





『お前無視してんじゃねぇぞ。一人イヤなんだろ?置いてかれたくねぇならすぐに来い』





返答が無い。

ノイズすら来ない。


念話は相手と繋がりたいと言う意思があれば、言葉は返せなくとも反応は出来る。


それすらないって事は…



「大将!ゴウが居なくなった!」



オレは部屋の中まで確認していた大将に向かって怒鳴った。



「またぁ、アイツのことだからそこら辺でフラフラしてるって」


「違うんだ!念話すら反応しない!アイツがオレの問いかけを無視できる度胸なんてあるハズがねぇ!言葉は返してこなくても、反応は返ってくるんだ!」



沸き立つような焦り。


嫌な予感しかしねぇ。



「大丈夫だろ──」


「──大丈夫じゃねぇよ!!」



「あー…もしアレなら探すが──」


「──当たり前だ!!」



何腑抜けた事言ってんだコイツ。

オレがどんだけ焦ってんのか見て分かんねぇのかよ。


「お、落ち着けって」


「アンタ、自分の友達になるとアレだけ発狂するのに他となると随分冷たいんだな!オレも人事ならそんな対応かもしれねぇけど、真面目にゴウを探さねぇなら今すぐ殺すぞ!」



「わ、わかったって!」



オレに胸倉を掴まれて揺さぶられた大将は、どうどうとオレの肩を摩りながら苦笑いをする。


笑ってんじゃねぇよ。



「とにかく、今来た道を探す」


「…でも、俺ァはゴウを優先して探すとは言ってねえぞ?」



「あ"ぁ?」



何言ってんだコイツ。剛が先に決まってんだろ。



「いや、お前には悪いけどクリスが危ない目にあってるかもしれねぇのに…テメェのダチ後回しにして人探し出来るほどオレはお人好しじゃねぇよ」


「はぁ?お前依頼人が消えたんだぞ!ゴウが先に決まってんだろ!」



正当ぶった言い回しをした。



「いや、でも俺は先にクリスを探す。ゴウは…その後だ」


「ふざけんな!お前ら腕っぷし自慢なんだろ?二人揃えば強いんだろ!?だったらゴウが先でも少しは自分で戦えるだろ!」



とにかく必死だった。



「それを言えばお前達も強いだろうが。アイツだって男だ。多少降り掛かった災難くらい男なんだから自分でどうにかするだろ」


「お前バカじゃねぇの!?アイツの何処が強いんだよ!オレに傷一つ付けらんねぇアイツの何処が強いんだよ!言えッ!」



「ちょ、首、離せ…苦し、い」



確かに剛は強いかもしれない。


それでもオレの口がそれを言わんとする。

不安だからそう思うのだと言われれば正しくその通りなんだが。


オレの知らない所で…



「オレの知らない所で…アイツが誰かに甚振られてるのだけはもう勘弁なんだよ!!」



わかってくれと言わんばかりに叫んだ。


言葉で伝わらないのなら声量で伝えるしかねぇだろ?オレ、バカだからそのくらいしか思いつかねぇもんよ。


頼む、大将。わかってくれよ。

ここで大将が意地を張ってしまうと──



「わりぃ。ソウ…無理だ」



──分裂する。



目の前が真っ暗になったオレはその場に立ち尽くした。



「…そう…かよ。なら、この件はここで終わりだ」



もう、どうでもいい。

アイツが居ねぇならオレがこんな所で頑張る必要もねぇ。


気持ちまで卑屈になっていく。


それじゃあダメだとわかっているのにルシファーとの約束さえも頭から外れてた。



「違う。オレはお前の気持ちもよく分かる。全く同じ気持ちだからな」


「あ…?」



“待て”と言われて振り返った先の大将が気まずそうに頭を掻きながらオレに苦笑いを向ける。



「…たく使えねぇダチを持つとこうだからヤんなるよな。…とにかく譲れないならそれでいい。──今はな…お前は先にゴウを探せ。俺はこのままクリスを探す。ゴウを見つけたらすぐに俺のところへ来てくれ。…悔しいがお前にしか頼めねぇんだ」



大将はオレより何倍も大人だった。


自分のダチを蔑ろにされて好き放題怒鳴られたのにまだオレを必要とするのか。



「…怒鳴って悪かった」


「いや、お前が冷静に言い返してたら俺がそうなってたからいいんだ。大人がガキに怒鳴るなんてみっともねぇだろ?…とにかく時間が無い。ここからは別行動だ。お前も気をつけろよ」



そう言うと大将はオレの返事も聞かずに走り出した。


呆然と立ち尽くすオレは何をムキになっていたのかと今頃になって冷静になる。


そうだ。元はと言えば急に居なくなったアイツが悪いんだ。


クソ野郎無駄な言い争いをさせやがって。

待ってろよ?すぐに見つけてぶっ飛ばしてやるから。


オレは軽く息を吐いてから来た道を戻った。





━━━━━━━━━━━━━━━

ボシーヘイデッド城・一階

━━━━━━━━━━━━━━━





「──はぁ…居ねぇよ」



どこ行ったんだよクソゴリラ。


そろそろオレに念話してきてもいいじゃねぇか。なんか気に触ることでもしたのかよ。


今すぐあの人をバカにしたような顔がみたいだなんてクソ見てぇなこと思わせるんじゃねぇよ。



「お前こそ知らねぇ所でオレを一人にすんじゃねぇよ…クソが」



階段の下まで降りたところで意気消沈していた。



『……ッ…、…ッ……』



「──ッ!」



…微かに感じたノイズ。



『剛!?剛か!?』



ありったけの念を込めて剛に問い掛ける。



『……は……じ…め……っ……創…』


『おい!今どこだ!今すぐ場所を教えろ!』



オレは剛の念話を聞き漏らさないよう必死になって頭を抱えた。



『…みん…な…ココに…居る…。大将も…だ…』


『何ィ!?どういう事だ!…いいから場所を教えろ!』



途絶え途絶えに話す剛に浮き足立つ。



『…ダメ…だ。お前…は、リトル…ウィアーク…に…戻れ…』



確かにそう聞こえた。



『…何でだよ!おい!ふざけんな!…剛…!剛!剛ィィィイイッ!』



プツリと完全に切り離された意識。


何が起こってる。


何処に居る。


考えれば考える程、混乱に陥る。



「アイツはさっきまで傍にいた。誰かに連れ去られたとしても後から別行動を取った大将もそこに居る。…という事は」



近くにいる。



────ドォォォオォォォオンッ!!



「何だッ!」



城全体が大きく揺れた。


立ってることすらままならない地響きがオレを更にパニックに陥れる。



やべぇ…怖ぇ。

この恐怖は雄叫びのような唸りにじゃない。



ここを凄まじく揺らす存在の脅威にじゃない。



「…剛。剛イィィィイイ!!」



オレは揺れが収まって来た所で走り出した。


今、下から聞こえた…。

下からナニかの咆哮が響いた。



──地下だ。


何故早く気付かなかったんだ。少し考えればわかる事だろう。人は冷静さを失うとこんな簡単な事も分からなくなるのか?


クソ。このモタつく足が鬱陶しい。



「…クソ!テレポート!地下牢前!」



────シュンッ!!



「…カハァッ…ハァッ…クッ、そッ!」



────バキィッ!!



転移先はもちろん地下に入る一歩手前の階段。


瞬間的に移動して魔力を使用した事による軽い疲労が来るが、そんなもんに構ってる暇はない。足を止めることなく目の前の扉を蹴り開けた。



────ウギャァアォォオォッ!!!



地下に入るとすぐに耳を塞ぎたくなるようなけたたましい咆哮。


興奮してるのかソレはほぼ断続的に続く。


ナニが居るのか分からない。

ただ、その雄叫びから想像するのはとてつもなくデカい化物。



────ブォンッ!!

ガシャァァアアアアンッ



「──ッ!」



何かが遠くから迫るような風の音が聞こえ、反射的に腰を屈めた。


壁から何から全てを無視した触手のようなモノがオレの頭を掠り上げていく。


それは、巻き込んで行った鉄の棒やコンクリートとの破片と共に壁に打ち付けられ見事粉々になった。



「…ぶねぇ…なんなんだよ!」



触手のようなモノがスルスルと戻っていく。


やがて舞い上がる砂埃が晴れるとソレが施したお陰で切り開かれた視界がパラパラと現状の悲惨さを物語っていた。



「今の一撃で全てを吹っ飛ばしたのか…?」



有り得ねぇ。


とんだバケモンじゃねぇか。



「いや、関心してる場合じゃねぇ」



フルフルと頭を振り離れたところで蠢くナニかに目を向ける。


アレの近くに剛達が居る。

そう思った。



「クソっ!剛をビビらせやがって…!」



オレはボロボロに打ち砕かれたコンクリートの残骸を踏み場にして、飛ぶようにソレへと向かって行った。



────ウァアァアオォォォオ!ッ!!



「クッ!!」



────ドォォォオォオォオンッ!!



何度目かの薙ぎ払い。


無駄にデカいクセに速さもあるソレは近くで見ると触手じゃなく尻尾だった。


1箇所にまとまり怯えたようにソレを見上げる何十人もの兵士。ヤツらが守るようにして中心にクリス。


そして、その兵士達を何とか守ろうと睨み上げる大将と剛。大将は服が裂け片腕をダラリと垂らしている。


剛も頭から血を流して覚束無い足取りで刀を構えていた。



「た…いしょー…も、アンタは下がってろ!」


「ナメ…ん…じゃねぇ!クソガキ!俺はリンのクソジジイにこれよりツラい訓練を受けてたんだ!こんなもんじゃ──」



────ウォオオォォォオォオ!!!



「──大将オォォォッ!」



この醜い怪獣のようなバケモノは空気が読めないみたいだ。


大将の話の腰を折るように躊躇なく尻尾を振り下ろす。



「はは…や、べ…」


「大丈夫かッ!──テメェ…ッ!刻むぞコルァァアアアッ!」



転がるように何とか避けた大将はもはや立ち上がる力もない。


あるのは立ち上がろうとする意思だけだ。



────ウォオオォォォオォオ!!!


「うぉあああァァあッ!」



「つよ───ッ!」



──ギィンッ!…ドォォォオォォォオンッ!!



凄まじい爆風が離れたオレの傍まで勢いが衰える事なく届く。風に紛れ込む石や鉄を避けるのに精一杯だった。



「お、いおい…ど…した…子猫ちゃんよォ…。

そ、んなもん…じゃ、オレは倒せねぇ…ぞ?」



砂埃が晴れて尻尾に抑え付けられた剛が片膝を突きながらも必死に刀を震わせてる。


だが、それもこれまでだろう。

こんなデカいバケモノの攻撃を何度も受け止められる程アイツはまだ強くない。


精神的に勝てようが力が伴わなければ意味が無いのだ。


もう一度あの攻撃を食らってしまえば。


──死。



「──…ッ、クソッ!」



絶対させねぇぞこの野郎。オレ達の旅は始まったばっかりなんだよ!



…間に合え!


間に合えよオレ!



もっと早く!もっと速く!



魔法が効かない今の状況で頼りになるのは自分の身体能力だけだ。だてに魔力も戦闘能力も何もかもを鍛えてきたわけじゃねぇ。


こういう時に動けないんなら何の為に辛い修行を耐えたんだ。


仲間1人くらい助けられなくてどうする。



…剛



…剛…



「剛ィィイアアアアアッ!」



────ヒュンッ────ヒュンッ────ヒュンッ


ヒュンッ────ヒュンッ────ヒュンッ────


────ヒュンッ────ヒュンッ────ヒュンッ



自分が機械にでも生まれ変わったかのような感覚だった。徐々に上がっていくスピードに目が追いつかない。


色んなもんがオレにぶつかり過ぎ去っていくが確認する暇もねぇ。とにかく走れ。オレが間に合わなかったらあそこにいる全員が死ぬんだ。



──止まるな。



だだっ広い地下牢を走り抜く唯一の救いはあのバケモンが薙ぎ払ってくれたお陰で一直線に向かって行ける事だ。



────ウォオオォォォオォオ!!!



化物がトドメと言わんばかりに尻尾をこれまで以上に振り上げやたらに 溜めの多いスナップを効かせる。


コイツ…本気で殺しに来てる。



────ウォオオォォォオォオ!!!



バケモノの近くで1歩踏み込んだ時、一際デカい咆哮が響いた。



──今だ!



オレはここぞとばかりに剛の横に滑り込み、



「うぉォらぁぁあッ!ぶっ殺ォォすッ!」



ブォン────ッ!


────ドォォォオォォォオン!!



渾身の一撃を放った。



「…ハァッ…ハァッ…間に合った…間に合ったぞチクショウッ!」



高々と振り上げられた尻尾が勢い良く振り下ろされた瞬間、オレはすぐさま剛の傍に滑り込み神崎流派唯一のカウンター技である“蒲公英”の型をキメていた。


ピクリとも動かなくなったソレを足で確かめるようにして蹴りながら刀を振って鞘に戻す。



「…バカやろ…が。イイトコ…持ってく、なよ…」


「──おい!」



赤黒い血で染まるスカスカに震えた手をオレに伸ばしながら皮肉を吐いた剛は安心したように崩れ落ちて気絶する。


直ちに受け止めたオレは幸せそうに目をつぶる剛をマジマジと見た。


遠くからは分からなかったが近くで見ると体中にアザ。



「クソ野郎…ゴウをこんなにしやがって…」



…許さねぇ。


永久に再起不能にしてやらァ。



「ッ…クソがッ!テメェッ!ゴウがッ!死んだらッ!どうするつもりだコラッ!答えろッ!…殺す…殺してやらァアァアッ!」



そっと剛を横たわらせてから再度死んでんのか生きてんのかわかんねぇバケモノの傍に。


──オレは鞘から引き抜いた刀を無我夢中で振り回した。


そうだ…あの世でも忘れられないモンぶち込んでやらねぇと気が済まねぇ。


クソ野郎。

殺しても殺しきれねぇよ。


オレがあと一歩遅かったら死んでたかも知れねぇんだぞ。



「クソッ、こんなもんじゃ足りねぇよ!もっと…もっとだ!殺してやる!」



何度でも死ね。

二度とオレの目の前に現れんな。



「わかってんのかッ!おいッ!何とか言えやッ!あぁっ?!クソ野郎ッ!クソ野郎ォォオ──ッ?!」


「──やめろ。

もう肉片しかねぇじゃね何処まで微塵切りにするんだ。料理教室でも開くつもりか」



ふいに手を掴まれて斬撃を止められる。



「あ"ぁ!?」



見上げると涼しい顔をしたクリスだった。



「もうやめろ」


「邪魔すんじゃねぇ!コイツのせいで…コイツのせいでゴウが死にかけたんだよ!」



掴まれた手を振りほどいてもすぐに掴み直される。


…何なんだよコイツ。

お前も一緒にミンチになりてぇのかよ。



「…礼を言う。お前が来てくれなかったらここにいた全員が死に絶えて居ただろう」



クリスはオレの手を強く引きながら意識を自分に向けようも力づくで話を進めた。



「は?…別に──」


「──いや、礼を言わせてくれ」



「ッ、離せコラッ!おい!…大将!!!」



何か嫌味の一つくらい返してやろうかと目線を逸らすが逸らした先には剛以上にボロボロの姿をした大将が死んだように横たわっていて、オレはやっと大将が怪我している事を思い出した。



「…大将!おいコラッ起きろ!アンタ人の事呼び寄せといて死にかけてんじゃねぇよ!マジ、アンタを怪我させたらシェイさんに殺されんだろ!!」



とりあえず、とオレが与えられる最高魔法で回復をする。



「──ライトニング!」



────パァァア…



「グハァッ…!!ハァッ…あ、ヤバ、コレ!きっつ!!」



いつの間にか発動できるようになったこの魔法。──所謂上級魔法というものだ。


親父からの貰った知識から言えば、各属性の魔法、若しくは魔力の使い込みそれに伴った力を得ることが出来るらしいと聞いていたが…今日1日だけで唱えられるようになるとは。


ま、信じられない程の魔力を使ったからな。



…ん?でも待てよ。



「何で魔法が使えてるんだ?」



気付かずに思い付きで魔法を唱えたが、確かこの階は魔力が封じられていたよな?



「──…コイツが魔力を吸収していたからだ」



後ろのイケメンがオレに答えた。



「…そうだったのか。…クソ野郎。やっぱ殺したりねぇ──」


「──やめろ。もう死んでいるだろ」



もう一度殺してやる…といきり立つオレを両手を広げて止めるクリス。


…アンタ、めっちゃ力をありますやん…。

今、結構本気で振りほどいたけどビクともしなかった。


ふーん。腕っぷし自慢ね…。


そんだけヒョロっこいのに力あるんですね。はいはいチートチート、スゲェですヨー。



「…コイツはなんなんだ?」


「…いや、…兵士を休ませる事が先だ」



何かを言おうとしたクリスはハッとして口を閉ざし兵士達に向かって“おい”と話しかけた。



「お前達、この二人を私の部屋まで連れて行ってくれないか?…残りの者は…もう今日は休んでくれ。疲れただろう?ここの掃除は明日みんなでやろう」



誤魔化した事にムッとしたがよく考えれば兵士達の知らない事だ。最後まで知らなくていいと言うクリスなりの計らいだろう。


でも、大将が言ってた通りかよ。


慈愛に満ちた男。

兵士ひとりひとりを見る目が違う。

物言いひとつ取っても優しさに溢れた言い方をする。


…じゃあ何でオレらにはオラオラなんですか。何かしましたかボク達。



「ほら、いつまでもボケっとするな。少しでも体を休ませとかないと明日に響くぞ?」



ハッ!と敬礼をした兵士達はすぐさま剛と大将を運んで行き残された兵士達もまとまって頭を下げてから雑談を交えその場から退散した。


案外緩い感じかよ。



──そして、



「ハァッ…アイツらは…行ったな?」


「あ?」



兵士が地下牢から居なくなる事をしかと見届けたクリスはデカいため息をひとつ、それから何を思ったのかオレのせいでほぼ肉片しか残らない化け物の傍に歩み寄って行き、



「ふぅ…。──ッ!こんのクソバケモンがッ!テメェのせいでッ!どんだけの兵士がッ!危険に晒されたとッ!思ってんだコラッ!」


「ちょ、」



えぇぇえ…。


結構怒ってらっしゃったのですねアンタ。



「お前ッ!よくも…、よくもオレのじいちゃんをッ!長い間ッ!閉じ込めてくれたなぁッ!あぁ?コラ!わかってんのか!んんッ?!」


「おい──」



「しかも何が“私に逆らえばお前の大事なもんを奪ってやる”だコラ涼しい顔して抜かしやがってッ!人の弱味握り締めていけしゃあしゃあとテメェの国のように好き勝手しやがった気分はどうなんだよコルァァアッ!」



床にすり潰された肉片を憎しみ込めて更にすり潰す。


怒りが解放されたって感じだな。

人が変わったように発狂しちゃってさ。



「…はぁ」



もういいよ、好きなだけやってくれ。


オレはクリスに負けないため息もそこそこに、血が飛んでこない程度の少し離れた所で腰を下ろした。





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ボシーヘイデッド城

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~その後~





「──ふぅ…では私達も戻るぞ」



ほら早くしろ。と何事もなかったかのようにシレっとオレに向き直るのはここボシーヘイデットの王様クリスだ。


…いやいやアンタ跡形もなく蒸発するまで肉片を床に擦ってただろうが。何そんな涼しい顔してキメ顔晒してんだよ。イケメン滅びろつってんだろ。



「…ああ」



オレは“はいはい”と見なかった事にして立ち上がりクリスの後を追った。


時間にして?…30分くらい同じとこ踏んでたわ。お陰様で少し体力回復したっての。



「はぁ…」


「どうした、野良犬」



「…別に何でもないですよ、腐れ貴公子」


「そうか。…イヤでもまさかあの乞食とお前が知り合いだったとはな」



乞食って誰だよ!剛か!?とか一瞬思ったけどンな訳ないから多分…大将だな。


爺さんも爺さんならコイツもコイツだ。



「まあな。あの人はアンタの事が大好きでしょうがねぇみたいだからな。アンタの事を語る時は決まって嬉しそうに顔を綻ばせて、何処か得意気なんだよ」



そう、例えるなら、

剛がオレの事でドヤってるみたいにな。



「な…ッ!は、べ、別に嬉しくない…」


「…え、何それウケ狙い?ならやめといた方がいいぜ?野郎のツンデレ属性程、見てて胸見苦しいモンはねぇからな」



言ってやった。



「…ウケ?…ツンデレ…属性?なんだそれは。もっとちゃんとした言葉を話せ。…何を言っているのかわからん」



はあ?絶対嘘だろ。

今ちょっとムカッとした顔したじゃねぇか。


人間観察が趣味のオレを差し置いて何をヌケヌケと。オレの目は誤魔化せねぇんだよバカ野郎。



「はいはいそうですね。育ちの良いおぼっちゃまにはオレら田舎モンの言葉なんてわかりゃしねぇですよすんませんね。

なら、アンタでもわかりやすく言わせてもらうがオレは今アンタに“そんなつまんねぇ嘘をつくな。男の天邪鬼程聞いてて胸糞の悪いモノはない”と言ったんだ。…わかったか?」


「…ほう…なるほどな。とても分かり易い言葉に変換してくれて助かった。お前も少しは頭のキレる男だったんだな。もう少し低脳かと思ったが存外言葉を知ってるようで驚いた」



「…」



え…何これ、スゲェ負けた気がするんだが。



え、オレ今結構言い終わってからドヤったよな?恥ずかし!スゲェ恥ずかしいんだけど!!



「…アンタ…そんなんだとそのうち大将に嫌われるからな」



負けず嫌いの血がこんな下らないところで騒ぎ立てる。


高貴な出で立ちの野郎と血塗れの糞ガキが小洒落た城踏み鳴らして何してんだって話だよな。



「…えぇ!?あ、…コホン。いや、アイツはオレを嫌いになる事など断じて無い。故にお前のその優しい心遣いは無用だ。…そもそもアイツに嫌われたところで痛くも痒くもない。寧ろ大歓迎だ」



いや、今一瞬ウソだろ!?ってなったじゃねぇか。


何シレッと無かったことにしてんだよお前。



「…もういいや。アンタが大将の事嫌いだって事がよーく分かった。…大将傷付くと思うけ、付き纏われたら迷惑だもんな?オレから伝えといてやるよ。“お前のツラなんざ見たくもねぇんだ、俺に一切近寄るな。”って」



オレは今度こそドヤ顔をキメて勝ち誇った。


コイツ、物静かバージョンの剛だろ。

もしくは…言いたくねぇけど、まんまオレ。


オレとアイツのことはよく知ってるからこういうタイプ大ッ嫌いだけど扱いは得意だ。



「そ、は、はぁ?別に…言いたきゃ言えばいい。…けど、そこまでは思ってないって…言うか…」



別に近くに居て邪魔にならないなら、傍に居る分には構わねぇ。──だろ?



「べ、別に近くに居て邪魔にならないなら、…傍に居る分には構わん…が」



ほらみろ。ふざけんな、オレのテンプレかよコイツ。


気色悪い。



「なんかアンタ、オレみたいで気持ち悪いな。話す気失せるわ。とりあえず行こうぜ」


「お前とだけは一緒にされたくない。私はお前と違ってそんな貧弱そうな体型ではないからな」



流暢な受け答え有難うございますね、ホント。


ムキになるとこまでそっくりかし。



「人は見かけによらねぇんだよ」



オレはそれだけ言って、後からゴタゴタ皮肉るクリスを完全に無視した。





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ボシーヘイデット城・王室前

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「──ほら、入れ」


「…そんな言われ方されると意地でも入りたく無くなるんだが」



あの耐え難いピリついた空気の中をオレだけ先にテレポートで部屋に行けばよかったとか思いながら我慢してここまで来たのに部屋の前でまたしても意味の無い醜い争いが始まろうとしている。


自分で醜いと思えるだけまだマシだと言いたいとこだが、それでも売られたケンカを意地でも買い占めようとするのだから話にならない。


それでもコイツにだけは負けたくないと訳の分からない闘争心が沸くのだから諦めるしかないだろ。



「そうか。ならお前はここで大事な親友が目を覚ますのを待つんだな。それか先にリトルウィアークに戻るか?もしアレなら私から、“お前が弱すぎて使えないから仲間を外す”と言っていたと伝えといてやるが?」



何ヘラヘラ笑ってんだよ!ドヤ顔ですかソレ!オレの真似してるつもりかお前は!イケメンですな!おい!


コイツから見てのオレはこんな風に見えてるのかと思うと…。



「それは、やめてくれ。アイツにそんな事言えばこの国が滅ぶぞ」



胸糞悪いから素直に答えた。


どうだコノヤロー。オレには立派なクソ野郎親父が居てソイツのお陰でがっつりスルースキル持ってんだぞ。


ほら、言い返してみろよ!バーカ!



「この国が滅んでも金さえありゃ復興は出来る。だから心配するな。私はお前と違って裕福な家に産まれたからな」


「…」







くそ野郎おおうッ!勝てねぇってのかよ!


…だがオレは諦めないぞ。

皮肉が通用しないなら中に漬け込む迄だ。

内側から崩壊してやる!



「…悪かったよ。…ゴウの顔が見たいから入れてくれ。アンタも大将が気になるだろ?」


「…あ、ああ…。俺もムキになって見苦しい真似をした…許せ」



「いいんだ。お互い様だろ」


「…そうだな」



あーなんか…簡単でしたね。


“ほら早く様子を見てやれ”と優しく部屋に招かれましたよ。


…でも負けた気がするのは何故だ。


いや、剛の顔を拝めるならなんでもいい。

ぶっ倒れるくらいに怪我を負っていたんだ。


傍に居るとウザくてしょうがねぇけどさっきは寂しくてしょうがなかったんだぞ。


お前のツラ見れなかった分思う存分眺めてやるってんだよ。有難く思え。





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ボシーヘイデッド城・王室

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「ゴウ…。お前頑張ったなぁ。オレ結構ビビったぜ?」



スゥ、スゥと定期的に繰り返される静かな寝息を聞きながら剛の使う刀を見た。


刃…こんなにボロボロにしやがって。

これじゃあ使いもんにならねぇからリトルウィアーク戻ったらちゃんと刃を叩き直さねぇとならねぇじゃねぇか。


…だが…アレだけの威力をこれ一本で抑えたんだ。流石は三大秘宝と呼ばれるだけあるよな。


普通なら折れてもおかしくねぇと思うのに。



「──ジスタ…お前はホントいつでもバカだな。少しは俺の気持ち考えて行動しろよ。向う見ず無茶ばっかりしやがって。…死んだらどうすんだよ」



クリスが大将の眠るベッドの横に置いた椅子に座り優しく髪を撫でていた。



「…元気だったか?俺はずっとお前に会いたかった。聞いて…欲しい事も…山ほどあるんだ…。まずは…そうだなぁ。ジスタ…黙ってて悪かった…お前を傷付けてゴメン。…突き放して…ゴメン…ッ」



気持ち良さそうに眠る大将の布団を握り締めながら話すクリスは少しずつくぐもった声になり、絞り出すように言った。


次から次へと溢れてくるのだろう涙を必死に拭いながら何度も何度も謝る姿に深くにもオレまでジワリと泣けてくる。



辛かったよな。


苦しかったよな。



…会いたかったよな。


…謝りたかったよな。



山ほど言いたい事があるんだ。

何から伝えたらいいのかわからない程、色んな想いが溢れてくる。──オレもそうだった。


思い出したら更に泣きそうだわ。


剛…いい加減起きろよ。…笑わせてくれ。

この苦しさ思い出させんな。



「──は…おま、え…相変わらず…吐き気がするほど綺麗な…顔してんのな…」



“俺も会いたかったぜ?…クリス”



俯いて溢れる涙を強く握り締めた拳を睨んで堪えていたら大将の掠れた声が聞こえてハッと顔を上げた。


──大将が目を覚ました。



「…ジ、スタ…。…ッ!…ジ、スタ…ッ!」



堪えきれなくなった想いが涙と共に爆発したかのように泣き崩れるクリス。



「…全く。お前は相変わらず素直じゃないクセに泣き虫だな。…ホラ来いよ」


「ッ…!」



体を起こした大将がそのままクリスの腕を引っ張り抱き寄せたのを見て、いけないモノを見てしまった気になってつい顔を逸らすオレ。


そのまま顔を背けながら話だけ聞いてた。



「謝れクリス。寂しい想いさせてゴメンなって言え」


「あ、謝ったじゃねぇか…!」



「ブフォッ!お前赤くなり過ぎ!泣き止めオラ!」


「離せッ!…クソッ!」



「そーかよ。お前が寂しがってんじゃないかと思って頼もしい仲間引き連れてまでこうして出向いたんだが…そうでも無いみたいだな」



どこかで聞いたようなやり取りを始める二人。


大将はベッドから降りるとオレに帰るぞと催促してきた。


あまりの展開の早さに思考が追いつかないオレ。



「ジスタ…もう帰るのか…?」



長い髪の毛が顔にかかっているとイケメンの滅びろ的なツラしてるクリスだが髪を掻きあげて顔を出すと中性的なツラでビックリ。


…イケメンな事には変わりないがその長い髪のせいで美人とも言えるとか、どんだけ男の敵なんだお前死んじまえよ。



「俺の事嫌いなんだろ?」


「そ、そんな事は言ってない!」



剛を担ごうと傍までやって来た大将の着流しの帯を掴みながら縋るように否定するクリス。



「じゃあ何だ」



ワクワクするオレ。



「…ふっ…普通!…だッ!」



カアァッと顔を赤らめるクリスに残念でしかない。



「あー俺、萎えたし帰るから」


「ま、待てよ!」



「あ?」


「…ッ!」



チッ…ヘタレ野郎が。



「はい残念ヘタレおつかれー、じゃあな」



今度こそと剛に手を掛ける。



「ぅああぁぁああ!お前しか友達居ねぇの知ってんだろ言わせんなよバカ!」



ほお…そう来たか。…で?大将さんは?



「まあ内容的にはゴタゴタ余計なもん付けたから減点してせいぜい25点ってとこだな」



減点対象高ぇなおい!

大将は剛に布団を掛け直してベッドの方に戻って行った。


それにちょこちょこと付いていくクリス。

…もうオトメ。



「で?俺の事が大好きなクリス王よ。今回の事に言い訳する気になれたか?」



ドカッとベットに座ってクリスを睨む大将。

クリスは目の前のさっきの椅子にソッと座ってた。



「──てか、大凡は聞いてるからいいや。

…そんなことよりソウから聞いてたんだがお前脱走グセ直ってねぇらしいじゃねぇか。それなら、リトルウィアークまで来て説明出来たろ?なんで俺に言いに来なかった?」


「…見張られていたからだ」



「でも俺に言えばどうにか出来たかもしれねぇだろ?…しかもお前見張られるとか言うけど地下牢に行ってソウにペラペラじいちゃんの居場所を喋ったじゃねぇか。助けてくれ。まで言って。

それさぁ俺に言う言葉なんじゃねぇの?なんで俺じゃなくてアイツに言ったんだよ。…普通にジェラシー感じたわ」



オレの事を親指で差しながら、クリスに悪態をつく大将。


…わからなくない話だ。



「アイツは当たり前のようにこの国に入って来て、当たり前のように民衆を助け出した。…アイツならじいちゃんを助けられると思ったんだ。

地下牢の様子がおかしいと上でドワーフが騒いでいた。もし何か起きているならじいちゃんが危ないと思った。なら俺も様子を見に行って気を逸らせるならそのままじいちゃんを房から出して何処かに逃がそうと。

…そしたら外で会ったアイツが地下牢で涼しい顔して檻を壊してた。コイツならやってくれるって直感で思ったんだ」



「待て。聞けば聞くほど妬けてくるからもういい。…で?それはわかったけど俺に言わなかった理由にはならねぇよな?それはどう言い訳するんだ?」


「…言った所で、オレの立場は変わらない。こっちは国の民を人質に取られてるんだ!何も出来ないのに危険を冒してまでペラペラ喋っても、お前に心配かけるだけだろ!」



それはクリスの悲痛な叫びだった。



「お前、姉ちゃんの気持ち考えた事あんのかよ!姉ちゃんがどれだけ苦しんだと思ってんだ!お前は人殺しなんかしないって周りにどんなに蔑まれても信じて待ってたんだぞ!

俺はそんな事やってないと言い訳する時間なんていくらでもあったハズだ!俺を後回しにしても姉ちゃんだけはほっといたらダメなことくらいお前でも分かるだろうが!」


「そんなことして何になるんだ!俺は面前で人を殺めた事になってんだぞ!見た人間は一生忘れないだろうよ!世話になったヤツらがたくさんいる国でそんな裏切りをしてどのツラ下げて言い訳しに行けばいいんだよ!

そんな事したらシェイが俺を庇うに決まってんだろ!そうなったらアイツの居場所が…大事な場所が無くなっちまうじゃねぇか!」



「──おいおい…止めなくていいのかよ…」



怒鳴り合う二人を見入って居たら完全に目を覚ました剛がオレを突っついた。


起きてたんですねお前。



「いいんだよ。離れていた分の喧嘩してんだろ好きにやらせとけ。アイツらにしかわからない事に口を出す方が野暮ってもんだろ」


「まあ確かにお前とケンカしててたまに割り込んでくるフィーとかルーにイラッとクるときあるもんな。…特にルー」



そんな事思ってたのかお前。



「…お前もう少し俺を信じてくれてもいいんじゃねぇの?長い付き合いだろ?ツレねぇじゃねぇか」


「なんっにも分かってねぇのなお前。お前も見ただろ?何やったってあの化物の前じゃ俺達に勝ち目はねぇんだよ。ただ、好き放題暴れ回るとこを隅っこでいつ死ぬのかとビビりながら見てる事しか出来ねぇんだよ」



「ていうか…そもそも、あのバケモノはなんだったんだ?…お前あんなペット飼ってたっけか?」



「いや、アレは元々人間だ。魔族に成り下がった人間は、黒幕の匙加減でいつでも突然変異が出来て好きな時に覚醒させられるらしい」



オレと剛は顔を見合わせた。



「…聞いたか」


「おうよ。ガッツリ聞こえた」



「元々人間だったって」



悍ましい程に醜いナリをしてたアレが人間だなんて…(ニワカ)に信じ難い話だが、言っている本人が大マジなんだから嘘では無いのだろう。


それにアイツは大将が殺したハズ。

剛が居なくなった事でオレも気が動転していて完全に頭からすり抜けて居たが、城の中を歩き回っていてアイツの死体を見かけなかった。



「は?じゃあアレはこの国で働いて居たヤツか?」


「働く…ねぇ。まあそうなるんだろうが…ドワーフを言いくるめた魔族の幹部だ」



クリスの話を聞けば合致する。

魔属性を持っていなければ大将の渾身の一撃で生き残る事は出来なかったはず。


確かに息絶えたように見えたが、アレは単なる鎧を脱ぎ捨てただけだったってことだ。


一度倒された事によって身体の中にある本体を解放させて魔族として覚醒する。それが恐らくヤツらがバケモノ化する条件だ。



「魔界の役職を人間が担うとは世も末だな」


「全くだ。アイツらはソレを利用して俺を脅しかけて、まんまとビビった俺は手も足も出ずに情ねぇザマだなホントに」



いや、笑い事じゃねぇぞ。

魔属性の性質には神属性を持ったヤツでしか倒す事が出来ないんだ、オレの仲間で言うならオレ以外にはルシファーだけ。


今後そんなヤツがゴロゴロ出てくるなら対応できなくなってくるんだ。



「はぁ…。お前、次そういう目にあったら必ず俺に言えよ?ソウ(アイツ)じゃなくて俺!だぞ?」


「あーわかったわかった。必ずお前に言うからアイツも連れてこいよ?」



「だぁからぁ!なんでソウに頼るんだよ!…俺じゃ不満なのかよ」



何も悪いことしてないのにバツが悪くなる可哀想なオレ。



剛が“ライバル視されちゃったなドンマイ☆”と笑顔で慰めてくれた。



「不満って言うか…まずお前死にかけたしな。アイツお前がボコボコにされてまで必死でかすり傷与えたのに対して一撃で倒したんだぞ?…そりゃ頼りたくもなるわ。お前死んだら俺が困るしアイツなら死んでもいいかなぁ…なんて」


「「うをい!」」



オレと剛は揃って止めた。



「失礼極まりねぇなお前!」



剛がクリスに怒鳴りつける。



「──お、狂犬…お目覚めになったか。餌の時間なんじゃねぇの?感謝祭の残りカスなら残飯受けに入ってるから食わせてやってもいいぞ」


「…アンタ。それは言い過ぎだろ。コイツが犬に見てるってのか?…どう見てもゴリラだろうが!バナナくらい出せやコルァ!!」



「オイィィィィイ!ソウ…それはフォローになってねぇし、オレはゴリラでも犬でもねぇ!撤回しろ!今すぐ!」



ムカつく野郎だなチクショウ。

助けてやったってのに。オレのゴリ…親友に向かって犬とはなんだテメェ。



「まあまあ、ソウもゴウも気にするな。コイツが憎まれ口叩くって事はお気に入りの証拠だ。今一生懸命お礼してんだからわかってやれよ」


「「わかるかッ!!」」



なんなんだよツンデレでもねぇわ!ツンしかしねぇじゃねぇか!毒針だわ!



「なんだ冗談も通じねぇのか」


「ハハッ!まだまだガキなんだよコイツら!」



「昔のお前にソックリだな。可愛くねえ口聞きやがって無駄に腕っ節がいい生意気な小汚ねぇガキ。…まんまお前だな」



おいおい大将にまでそんな事言うのか。



「なんだよそんなに褒めるなよ。懐かしくてついつい可愛がっちまうだろ?」


「ああ。特にソウと言ったか?アイツはお前にソックリだ。俺の事を好き過ぎる様子はゴウ、だったか?ヤツが似てるな」



「いや、今のお前はソウによく似てるぞ」


「「コイツとだけは一緒にされたくねぇ」」



オレの言葉にガッツリ被さったのはクリス。

何狂いなくお前だと思ったわ。



「…あ?やんのかコラ」


「なんだ野良犬。お前も予防接種受けに行きたいのか?」



「ハハッほらな。お前とソウの思考回路ガッツリ同じ路線だ」



笑ってんじゃねぇよ!


こんなのと一緒とか不愉快の塊が服着て歩いてるみたいでイヤだわ!



「──まあでもよかったなクリス。一件落着ってとこか?」


「…いや状況は何も変わってないと思え」



大将の切り返しに、途端に苦い表情を浮かべるクリスは、なんでだよ!と凄む大将にこれからの予測を話始めた。



「今回ドワーフの国で拡大を目論む黒幕は大切に育て上げた魔族とドワーフの手下を二人失った。内、一人は幹部だったヤツだ。自分の仲間を(コトゴト)く討たれて黙ってるヤツが居ると思うか?

それと風の噂で聞いたんだがボシーヘイデットとリトルウィアークを行き来していたアデルという魔王が居ただろ?ヤツも何処の馬の骨だかわからないガキに瞬殺されたらしい。

そして、この国からリトルウィアークに派遣されたジェイ・ド・ゴブラと言う吸血鬼。アイツも何者かに殺された。

今回の一連で向こうは総合して四人の仲間を失った。…しかもガキ相手にだぞ」



“今頃、どうやって人間を支配するか息巻いて考えてるに違いない”…って。マジか。

うわ…やべーよ…どうしよオレその内の魔族全て殺してるんだが。



「…クリス。別に黙ってても良かったんだが、お前に面白い話があるんだ。…聞いてくれるか?」


「…なんだ?」



「アデルとジェイコブ殺したのソウ(コイツ)なんだよ」



急に暴露された真実。



ッ…余計な事を…!



一瞬の静けさが気まずさを促進させる。



「…クク、ブァハハハッ!嘘だろ!?本当か!?お前が!?吸血鬼と魔王を?!アハハハハ!やべぇよソレ!笑える!」



盛大に吹き出してバカ笑いするクリスは両手に腹に抱えて涙を流す。



「あー…あー…おもしれぇ…。魔王瞬殺するくらいだ魔物の一匹くらいソツ無く倒すわな!ハハハハハ!しかも一撃で!ブァッハハハハハハハ!!」



ヒーヒー言いながら腹を抱えて笑ってるけど、コイツも大将と全く同じ反応するんだな。


そして、もう一度言いたい。

…全っ然笑えねぇーですが。



「ますます気に入っただろ」


「ああ、俺の国に来て欲しいくらいだ」



「…それはムリだな」


「まあ、扱いにくいから要らねぇけど」



笑い泣きした涙を拭いながら、“そうか、お前だったか”と感慨深く視線を巡らせてくるクリス。



「…んだよ、オレじゃあ悪いのかよ」



とりあえず突っかかっといた。



「いや、国の外で初めて会った時から何か惹かれるものを持っていると思っていたが、こんな逸材だっただなんてな。狭い世界だ」


「まあ、俺も最初コイツらの本気を見た時度肝抜かれたけどこのバケモノじみたヤツでもしっかり思春期のガキやってんだから可愛くてよ」



「ああ、そうだろうな」



二人してニコニコ笑ってた。



「ちぇっ、人をガキ呼ばわりしやがって」



剛がボヤくが顔がニヤけて説得力ゼロなんだよなァお前。



「はぁ…まぁその、とりあえずアンタら二人がとてつもなく仲良しなことはわかった。

…だがこれからどうするんだ?その黒幕の仲間達を三人倒してしまった事でオレ達は向こうといずれ顔を合わせる事になる。それは別に構いやしねぇ。

ただ標的をオレ一本に絞って欲しいんだ。何かあれば助けに行くことは出来るがタイミングと状況によってはすぐに出向くことが出来ない」



ヘラヘラしてる場合じゃねぇよ。

リトルウィアークの民衆そして長年脅され続けたクリス。その両方を助けた事はデカイが状況は悪化しただけ。


オレの言いたいことがわかるか?と二人を交互に見た。



「…また何かが起こる…」



剛の呟きに対してオレは静かに頷いた。



「…そういう事だ。

ここまでの規模で行動してくるヤツだ。その黒幕がどれだけのバケモノか知れねぇがさっきの怪獣を何体も出されたらケガ人だけじゃ済まなくなる。…トリザムホットの火山に潜んでると言ったな?…詳しい所はわかるのか?」


「…いや、オレの側近だったドワーフが誰かと念話をしていてその後に呟いた独り言を聞いただけだ」



「なんて言ってた」


「…チクショウこのままだと火山が噴火させられる。オレはどうすればいいんだ。…と」



当時の事を深く思い出すように目を閉じ、うろ覚えなのか首を傾げながら答えるクリス。


火山に居る事くらいしかわからないのか。



「…まさかお前。…倒しに行くのか?」



黙りこくる剛とクリスに代わり、慎重に口を開いたのは大将だった。



「…そうだな。オレらの真の目的はこの世界の魔物退治だ。…相手が魔物なら、オレはそれを倒すまでだ」


「…お前は一体何者なんだ?」



クリスの言葉にドキリとしてつい大将の顔を見てしまう。


別に隠す必要はないのだが、何となく上天界から来ましたとは言えなかった。



「えっと…」


「──謎の勇者、だな」



困り果てて言葉を選ぶオレに被せるようにしてズバリと言い放つ大将。


助かるんだけど、その言い方は好きじゃねぇって言ってんだろ。そんなスゲェもんじゃねぇって何度も言わせんなよ。



「…でも、そろそろ謎じゃ無くなってくるんじゃねぇの?」



剛が冷やかすように笑う。



「有名にもなりたくねぇし謎の勇者でも勇者でもねぇよオレは。その呼び方はやめてくれ。正直不愉快だ」


「…それもそうだよな。勇者って言ったらフレイミスには“(ユー)”が居るからな」



「「ゆう?」」



聞き覚えのない名前に、オレと剛が反応する。



「…誰だそれ」


「確かに…誰だ?俺も国から何も聞いてないぞ?」



オレに続き大将までが首をかしげてた。



「…なんだ。お前ら知らないのか…。俺のバカな妹が何処か知らない星から一人の勇者を呼び出したんだ。…確かユーシャショカーン?とか言ってたな」


「アトリアが!?」



「そうだ」



…ユーシャショーカーン?


勇者を世界に呼び出した…?



「──ッ!」



ハッとした。


そうだ、忘れていたがこの世界に皆越が勇者召喚されていたんだった。



「ソイツの名は!?」


「Uとしか聞いてないな。…なんだ?知り合いか?」



皆越…じゃないのか?

いや、でも待てよ…確かアイツの名前は…



“ミナコシ ユウ”



…くそ。



「ッ…いや、知らねぇ。ソイツはこの国から選出した勇者って事になってるのか?」


「…まあ、俺はあんなイケ好かねぇ野郎なんか、勇者として認めてないが、どうもアトリアのヤツが偉く気に入っててな」



「…ソイツは何処に居る」


「なんだ、エラく食いついてくるな。

…ソイツは基本的に五帝(ゴテイ)と行動を共にしているみたいで、俺も一度しか顔を合わせていない。…この国のギルド(職安)に顔を出せば会えると思うぞ?」



五帝…?職安…?


また理由のわならない言葉出してきやがって。



「なんだよ五帝って。しかもなんたって勇者が職安なんかに入り浸ってんだよ」



そんなの勇者って言わねぇよ。

ニートって言うんだバカ野郎。



「お前…見かけは成人してそうなのに案外何も知らないのな。…もしかしてどっかのボンボンか?」


「んな訳ねぇだろ」



「ブハハ!そんな育ちの悪そうなガキが御曹司な訳ねぇか」



…お前も大概だけどな。



「…いいから五帝とギルドを教えろ」



もう相手にするのもめんどくせえよ。



「…なんだ言い返してこないのか。…五帝って言うのはこの世界にある六つの魔法属性、火炎、水氷、風雷、土地、聖光、闇影、それぞれの魔法に特化した者が選ばれた特別魔法使いだ」



…それか。確かポセイドンかルシファー辺りに聞いたような。



「で、ギルドは?」


「ギルドってのは街人、村人、国色んなところから魔物の討伐依頼や、人探し、探し物の依頼、後はそうだな…庭掃除とかか?

まあそいった依頼が集まってくる場所で、それぞれが自分にあった依頼を選んで達成と共に報酬が得られる場所、所謂職安だ」



ほぉゲームとかのギルドと何ら変わりないのか、想像通りだった。



「なるほどな、理解出来た。ならそこに五帝が請負人として依頼を受けてそのUとか言うヤツが一緒に付いてってるのか?」


「いや五帝はギルドの経営者だ。様々な依頼を世界中から集めてきて請負人に託している仲介人っと言ったとこか?」



「そいつら魔法なら誰にも負けねぇんだろ?なんで自分達でやらないんだ?」


「…もちろん並のヤツらじゃ手に負えないような件については自らが請負人として動いてるようだが如何せん溢れ返るように依頼が来るのでな。職に就いていない若者とかを中心に金を稼がせているのだ」



随分良心的なシステムだな。

…いいこと聞いたぜ。



「…で?Uは?」


「聞く話だと簡単な依頼なら受けているらしいのだが基本的には国内の見回りという名目で街をフラフラ遊び歩いてるみたいだが」



「…クズかよ」


「ああ本当にクソみたいなガキだ。大したことねぇのに常に女を横に付けてヘラヘラしやがって。これでは何の為にわざわざ召喚したのかわかったもんじゃねぇ。…お前が勇者やった方が何倍もマシだ。

普段は五帝のヤツらに指導を受けて修行だと本人は息巻いているみたいだが日頃の行いからしてたかが知れてるだろ」



本当に皆越なのかはひとまず置いといて聞くだけでウンザリする。


クリスの妹も引きが悪い。



「…じゃあ…そこに行けばそのイケ好かねぇ勇者様がいらっしゃるのな?」



オレ達の会話を黙って聞いていた剛がボソリと唸った。


…そうかコイツ皆越と一緒に居たから巻き込まれたんだったな。今となっては自分の意思でこの世界にいるが元を辿ればあの野郎が横に居たからこうなったんだ。


そのおかげで今はオレと一緒に居れるんだとしても怪我させられた話は別だよな。


そりゃ、剛も唸るわ。

お礼参りしたくてしょうがないだろうに。



「…街をウロついてなければギルドに居るだろう。例え依頼を受けて出ててもアイツの受ける依頼は基本的に街から出ないものを選んでるらしいからな」


「ハッ、つくづくクソッたれな野郎だな」



剛は呆れたように鼻で笑いそのまま窓の外を眺めてた。



「…アンタのことは好きになれそうにねぇけど、ソイツを嫌う気持ちには激しく同意出来る。それだけで充分だ。…明日にでもギルドに登録しに行きがてらその野郎のツラがどんなもんか拝みに行くとするよ」


「そうか、それなら今日は泊まって行け。ここからならわざわざ山を越えなくても行けるだろ?」



「気持ちは有難いが向こうにツレを2人任せてるんだ」



だから悪いけどオレ達は戻って明日改めて来るよ。と付け足す。


が、



「…そうか。俺はもう少しクリスと話がしたいから今日は泊まっていくわ」



お前達だけで帰ってくれ。と大将に言われた。



「…お前助け出したヤツらをシェイさんとルーとフィーが看ててくれてるんだぞ?付きっきりで疲れてるだろ。代わってやる優しさはないのか?」


「なに?シェイとお前達の仲間が一緒に居るのか?」



オレの言葉に驚いたように首を挟むクリス。



「あぁそうだ。ついでにアンタのボケてる爺さんとリトルウィアークの老い耄れた王様も我が物顔で家に入って寛いでたな」



オレがそう言うとクリスは確かめるように大将に目を向けそうだと頷かれては肩を落としてた。



「はぁ…そうだったな。色々ありすぎて、じぃちゃん達のことを忘れていた。ならばオレも一緒に戻ろう。久々にお前の家でゆっくりしたい」


「…姉ちゃん居るけど大丈夫か?」



「…そうだったな。シェイとも話をしなければならないと思っていたところだ。今更何かを許して貰おうとは思ってないが言い訳くらいなら聞いてくれるだろう」


「まあそれで寄りが戻せるかは微妙な所だけどな。でも心配するなもしフラれたらオレが嫁に貰ってやるから」



ん?なんだ?このデジャヴ感。


丁度同じような顔で得意気にオレも言われたような気がするんですけど。



「はぁ…何言ってんだお前。そういうのめんどくせぇからやめろ」



反応に困るだろ。とか口を尖らせながら文句を言ってるけど満更でもなさそうだなお前。



「照れんなよ。参考までに言っただけだ。

…でも、お前だから本当のこと言うけど、許してもらえても──」


「──いや、俺はシェイと戻るつもりは無い。俺なりの償いだと思ってるし俺みたいなヤツよりアイツはもっと普通の立場の男が似合う。…バカにしてる訳じゃないぞ?

アイツは優しい女だから俺みたいなヤツの傍に居たら身が持たねぇよ…それに、危険に晒したくねぇ」



「…ふーん。別にそれはお前達の事だからどうだっていいよ。…いや本当はお前が姉ちゃん捨てて自分だけいい思いしてんじゃねぇよって思ってたけど、でもそれは違うとわかったしだからと言ってまた俺らから離れる訳じゃねぇんだろ?」


「それは断じてない。シェイさえ許してくれればまた皆で仲良くしたいと思ってる。…それが無理だったとしてもお前とはずっと一緒だ」



爽やかに微笑んだクリスのイケメンな顔に釘付けだった。


心底ホレて結婚まで考えてた相手なのにどうしたらそんな気持ちになれるのか。コイツらと同じだけ生きてればそのうち分かるのか?


未練がない程に浅い気持ちだったとか?

…いやそれならまた仲良くしたいだなんて言わないよな。わざわざ言い訳しに行くこともしないだろう。


考えたってわからねぇものはわからねぇし考えるだけ無駄だから気にしないことにする。


一回ホレた女を今さら友情として見るだなんてオレには心底理解出来ねぇからな。



「お前…たまには俺の心臓を鷲掴みするような事こと言えるんだな」



危ねー危ねーとワザとらしく言う大将がどこまで本気なのかはわからないがホント、クリスの言った通りだな。


大将のこういう所、剛によく似てるわ。



「お前は昔から俺に必要とされてないと寂しくて死にそうな顔してたもんな」


「何言ってんのお前。何年お前と一緒に居ると思ってんだよ。お前は俺の心臓みたいなもんだから無くなると生きていけねぇに決まってんだろ」



「ばっ…!お、俺がそんな事言われて喜ぶと思でも思ってんのかっ!」


「いーや、お前は今嬉しくてムラムラしてるハズだ」



「バカだろお前…」


「ああ、バカなんだろうな」



…。



…もう誰かコイツら止めてくれ。


テンプレわかったから聞いてて恥ずかしいから止めろマジで。


てか、普通にオレと剛こんな感じで絡んだりしてるけど、第三者から見たら結構衝撃的なんだな。…少し抑えなきゃ誤解の要因でしかねぇ。



「…あのさ、イチャついてるとこ悪いんだけどスゲェ帰りたいんだよね…オレ」



ここにきて…めっちゃナイス剛!

若干気まずそうではあるが充分だ。



「あぁ悪い、コイツがあまりにも麗しい目で見つめてくるから、つい完全二人きりの世界だと思ってたわ」



何その“つい”。使い方間違ってんだろ。



「別にアンタらはここで好きなだけイチャついてりゃいいけど、オレらは先戻るぜ?…あらかた話は終わったんだ。別にこんな所で無駄な時間使う理由はないよな? 」


「ハッ、羨ましがってんじゃねぇよ」



「…はぁ?」



ンなわけあるかよ。

なにそれ美味しいんですかって感じですが。


てか大将、クリスに会えて浮かれるのはいいけどこうしてグダグダ話してる間も女子組はせっせと動き回ってるって事もう少し考えられないのか?


…あれ、これさっき言ったよなオレ。

わかってねぇのかこの人。



「…なんだお前羨ましいのか?」


「え!?なにソウ羨ましいの?!よしわかった!帰ったらたっぷり──」



「羨ましいワケあるかバカ野郎!ほら、帰るぞ!」



オレをそういう目で見るな腐男子が!クリスも剛もうるせぇよバカ野郎!



「おい!馬を用意させるから少し待て」



立ち上がって魔法陣を作ろうと部屋の開けたところに向かおうとしたら何を勘違いしたのかクリスがそれを止めた。



「兵士達を休ませたんだろ?

せっかくゆっくりしてるのにわざわざ呼び出す事なんて無神経にも程がある。オレが転移魔法で全員連れて行ってやるから少し離れてろ」



馬が転移に勝てるわけねぇだろとか思いながら、それは言わずに魔法陣を作った。



「…凄いな…」


「「ふふん、まあなっ♪」」



クリスの洩らした感心のため息に一瞬ニヤけそうになったが、剛と大将のドヤ声で萎えた。


剛は毎度のことだから今更何を思う訳じゃないが、なんで大将までドヤってんだよ。



「ック!四人だからなっ…!よし、出来たぞ、早く乗れっ」



「おうよ!」

「あいよ!」



二人は慣れた様子で乗り込むが、一人だけアタフタしてるヤツが。


結構キツイんだから勘弁しろよ…。



「早くしろ!」



大将が叫んでクリスの腕を引き寄せる。




「──リトルウィアーク、小さな丘っ──」



────シュンッ!!



あえてソコを選んだ。





━━━━━━━━━━━━━━━

リトルウィアーク小さな丘

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「…疲れた…」


「オレも魔力が気兼ねなく使えたらいいんだけど…」



ボシーヘイデットから飛んで四人で一息ついていたら剛がオレを労るように言ってきた。



「お前には力がある。オレはお前に無いモンを補ってるだけだ。…お前だってオレが行くまで必死にあのバケモンと戦ってたじゃねぇか」



正直、先に帰れと念話で言われたりボロボロの剛を見た瞬間は気が飛びそうになったが、よく考えればコイツもオレと共に戦う覚悟を決めて上天界からここまで来たんだ。


…お前は弱くなんか…ねぇよ。



「…ソウが来てくれなかったら今頃死んでた。一人で何とか出来ると思ったんだ…ごめん」



別にそれについて剛を責めたつもりは無いがコイツにとっては大事なことだったんだろうな。



「…そうだな。お前がその無駄にイケてる顔を歪ませながら戦ってるとこオレも近くで見たかった。…次はしっかり肩並べて戦ってもらうから覚悟しとけよ?」


「…ッ…ありがとな」



言いたい事はたくさんある。


なんで自分だけで何とかしようと思ったんだ。…とか。それでオレが本当お前に託したらどうするんだ。…とか。


勝手に死なれては困るんだよ。…とか。

でもコイツは自分で勝手に反省したみたいだしそれ以上ゴタゴタ言っても終わったことだから。



「…次はねぇぞ」


「おう」



この話はここまでだ。


そしてオレは丘で肩を並べて空を眺めるイケメン二人に目を向けた。



「…大将。そろそろ戻ろうと思うんだが」



ここから見える距離にある大将の家。


灯りがまだついているという事は今が何時だか知らないがアイツらは起きて待ってるって事だ。



「あぁ、俺達も行くか?」



大将はオレの話を聞きクリスに問いかける。



「いや、もう少しここで星を眺めさせてくれ。ここから見る星空は久しぶりだ。…シェイには俺が来てることをまだ言わないでくれ」



クリスが大将に頼んでた。



「コイツが残るなら俺も居る。そう時間は掛からないようにするから」


「…わかった。シェイさんにはまだ言わないでおくが大将が居ないと不安がるからなるべく早く戻ってきてくれ」



オレは言われたことに対しそう答えると剛に行くぞと声を掛けて立ち上がった。





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大将の家

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「──ただいま」




我が物顔で当たり前に開ける大将の家の扉。


一日しかこの家で過ごしていないのに扉を開けた瞬間向かってくる家の中の匂いにキュッと心臓が痛くなった。


学校から帰宅したのと同じような安心感。

オレもいつか社会人になったらこんなふうに仕事帰りみたいな毎日を送るハズだったなんて事無い一日の終わり。


ただ違うとすれば、ここは地球でもなければオレはサラリーマンでも、日当で働く野郎でもない。


そして、

孤独だったオレの居場所には──



「おかえりなさいっ!」


「ソウ!ゴウ!おかえりっ!」



“コイツら(仲間)が居る”



「──会いたかった…ッ!」



パタパタと走り寄ってきた二人を迷わず抱きしめた。


命の危険を目の前にしたからだろうか。

ボロボロになった仲間を見て初めて自分の置かれている状況に気付いた。


オレと共に来れば危険は隣り合わせだという事。


ここに来るまで大して気にも留めなかった命の重み、やっと少しはわかった気がする。



「お疲れ様です。待ってましたよ」


「ホントめちゃくちゃ心配したんだから!」



「遅くなって悪かった。でも今出来る事を全て片付けて来たからひとまず良かったよ」


「とにかく今はゆっくりしてください。私達も、お姉ちゃんと交代して休憩です」



「ああ、そうさせてもらうよ」



お茶、入れてきますね。と、パタパタその場から小走りで去っていくルシファーを見送り、なんとなく剛に視線を向けた。



「…入ろうぜ」


「…お?…おぅ」



「ゴウ…ケガは無い?痛いとこは?誰かに何かされた?」


「…大丈夫だフィー。心配かけてゴメンな?見ての通りピンピンしてる」



しばらく見つめあっていた二人がフェリスのキッカケで話し合う。



「…先、入ってるからお前もすぐ来いよ?ルーじゃないが、少し休んだほうがいい」


「わかった。すぐ行く」



「わッ──」


「──フィー…」



ガサッと布の擦れる音とフィーの驚いた声が聞こえたが、二人に背中を向けたまま家の中へと進んだ。


アイツもフィーの顔見ていろんな思いが溢れたんだろ。


…なにより心底大切なお前の恋路だ。

邪魔はしねぇさ。



「──あ、ソウくん。お帰りなさい」


「ああ、こんな遅くまで悪かった。これからオレ達も看病に回るから休んでくれ」



ダイニングに入ると丁度キッチンの勝手口から中に戻って来たシェイさんと目が合った。



「看病じゃないわ。あれから皆帰って今裏庭に居るのは少し出来上がったお爺さん二人よ」


「…そうか。後で顔を合わせに行くから今はシェイさんも休んでくれ」



久々に会って宴でも開いてんだろう。

それなら別に放っておいても差し支えないハズだ。


戻って来てすぐに思ったんだが三人とも普通に会話してるが表情が少し疲れてるな。



「…そう言えばジスタは無事なの?」



ルシファーの横で自分のマグカップに温かい何かを注ぎながらカウンター越しにオレを覗いた。


モワモワと立ち昇る湯気からホッとするような香りが漂い返事をする前に先にと深く匂いを吸い込んだ。


…これはコーヒーだ。



「ッハァ…大将は無事だ。さっき丘で少し休憩すると言っていたからそろそろ来るんじゃないか?大丈夫だから心配するな」


「そう…それで…ううん何でもない。…あなた達お腹空いてるでしょ?」



シェイさんが何かを言いかけて止めた。

言われなくてもわかる。…クリスの事だ。


クリスに言わないでくれと頼まれた事を喉のソコまで言いかけたが堪えた。



「…こんな時間だったんだな。そんなに要らないが小腹は減っている」



飯の話でハッと気付いたが壁に掛けられてる時計を見ると時刻は夜中の2時を回ったとこだった。


昼間ココを出たのがちょうど14時。

腰を下ろす時間はあったがそれでいても半日動き回ってたって事だ。



「分かったわ。なら出来上がってるもの温めるわね。…因みにゴウちゃんは食べるかしら。二人が頑張って作ったカレーなんだけど…」



剛のリクエスト通りにカレーを作ったのか。



「ああ、山盛りに食わせてやってくれ。材料費は後で払う」


「わかったわ。あと材料費は要らないわよ?この国を助けてくれたお礼としてこんな事しか出来ないけど受け取って欲しいの。…ウサギのリンゴもあるわ」



シェイさんはそう言うとカチカチっとコンロに火をつけお玉で鍋の中身をかき混ぜ始めた。



「…ありがとう」



オレはそれだけ言うとお盆にマグカップを何個か乗せたルシファーに視線を移した。



「ソウさん達が1度戻って来た時がちょうど22時頃でした。…それから4時ですね。本当にお疲れ様です」



どうぞ。と淹れたてのブラックコーヒーを渡された。


よかったホットチョコレートじゃなくて。


今はちょっとそういう気分じゃねぇんだ。

…安心した。



「ああ、ありがとな。お前も顔が少し疲れてるように見える明日またボシーヘイデットに行くつもりだから今日はしっかり休めよ?」


「はい」



オレの座る席の前に座りながら微笑んだ。


こういう時に何も聞いてこないルシファーは気が利くよな。別に隠したいとかそんなんじゃねぇけどとにかく今は何も話したくない。


相当疲れてるみたいだ。



「──いい匂いがすんだけど!」


「今日は動き回ってて忙しかったからカレーにしたの。…あ、べ、別にゴウが食べたいって言ってたからじゃないからねッ!」



たまたまよ!とか声を張り上げるフェリス。

二人がダイニングに入ってきた。


…てか何その典型的なツンデレ。キャワイイかよ。



「カレー?!え、オレめっちゃ好きなんだけど!無茶苦茶好きなんだけど!やば、疲れぶっ飛ぶわ!シェイさんただいま!オレ、大盛りにして!」


「ふふ♪帰宅早々騒がしいわね。ソウさんから注文受けてるからわかってるわ。もう少しでアツアツになるから待っててね」



剛の勢いで流れてったけどフェリス思い切り剛の為にカレーにしただろ。


何みんなシレッとスルーしてんだよ。

オレだけか、気になんの。



「はいはい、二人共そんな所にいつまでも立ってないで座ってください。お茶入れましたから」



バタバタと飛び跳ねる剛と横で赤くなるフェリスに呆れたように促した。



「ゴウ、埃が立つから座ってくれ」



鬱陶しいわ。


分かった!と元気よく返事した剛がドカッと椅子に座ってから、そう掛からないうちに湯気を立てたカレーは運ばれてきた。



「──はーい、お待たせぇ♪アツアツにしたから火傷しないように気を付けて食べてね♪」



コトっと目の前に置かれるカレー。


オレのは指示通りにミニサイズだった。

スゲェ食欲そそるけど今はこのくらいでいい。


そして、オレのとは少し違う重量感のある音を立てて置かれた剛のカレーは…



「お、おう」



信じられないほどの量。

いや、これさすがの剛も食えねぇだろ。



「うっわぁ!めっちゃ旨そう!ねね!おかわりある?」



渡されたスプーンを握りしめながらルンルンとシェイさんに問いかける剛に本気で…マジか。と思った。


オレのカレーの10倍くらいありそうだぞ?

無理だろ食えねえよ。


少し食欲が衰退するオレ。



「このカレー、フィーちゃんが野菜切ったのよね?」


「うん!あ、でも別にゴウに言われたからとかじゃ…ないから!」



黙ってればいいものを、聞きもしない事をわざわざ言うなんて。


極度のツンデレか、あざとい系女子とみた。



「じゃ、いっただっきまぁぁす!!」


「いただきます」



目の前にテカテカと輝くカレーに我慢出来なくなった剛が張り切っていただきますを叫ぶ。


それに合わせてオレもスプーンを差し込んだ。


が、


なんっじゃこれぇぇぇぇぇえッ!


持ち上げてビックリ人参が拳の半分位のデカさでスプーンが小さじに見える奇跡が起きてる。



…嘘だろ!?

一旦掬いあげた人参を置き直し他の場所を掬うと、次はほぼ丸ごと入った芋。



野菜切ったんじゃねぇのか!?

これ、切ったって言わねぇけど!?



咄嗟にそう言おうと思ったが、パッと見た剛がメチャクチャ旨そうに頬張るから、空気を壊すような事は言えなかった。



「…んぐ…ふふっ…あ、でも旨い」



すんなりと口に収まってくれないジャガイモを半ば強制的に頬張りながらそのデカさに笑えてくる。


だが、味は完璧だった。


旨い。



「旨いよな!?旨いよ!めっちゃ旨い!」



褒め上手な剛がそのスキルを発揮して旨いと連呼する。横で様子を眺めるフェリスが幸せそうに見えた。


ガツガツと頬張る音を聞きながらスプーンで野菜を細かくしては口に運び味を噛み締めるオレ。



肉までゴロゴロしてるのにはさすがにどうしようかと思ったがせっかく作ってくれたんだ文句は言わねぇよ。



「──…ムハッ…おかわり!」


「もう食べたの?よく噛まないと消化出来ないわよ?」



オレが手榴弾のようなジャガイモと睨み合いながら冷戦を繰り広げている間、剛はまるで飲み物の如くカレーを腹に流し入れたようだ。



「…お前と言いフィーと言い…腹ん中どうなってんだよ」



遂に零れたオレの内心。



「…何言ってんの?アタシあの皿三杯おかわりしたわよ?」



小さく呟いたハズのボヤきを丁寧に拾われてまるでオレが変態かのような言いぶりでフェリスは笑う。


さすが神獣。耳もよければ食う量も違ぇや。



「ん、どのくらい?」


「さっきと同じ!」



「はーい♪」



とんでもねぇ事を当たり前の顔して投げ返す剛にドン引き通り越して尊敬した。



「アチチっ!今持ってくわね──」



カウンターから皿を両手でつまんだのが見える。もれなく山盛りだ。


そんな呑気なことを考えていたら、



「──シェイ…」



クリスの消え入りそうな声でシェイさんを呼ぶのが聞こえた。



「…ッ!」


────ガッシャーン!!



皿が割れる音が響きカレーだけに意識を集中していたオレはその音でハッと顔を上げた。



「あーあ姉ちゃん…どんくせぇな。ほら、危ねぇから退いてろ俺が片付ける」



オレの位置からでは見えない所から大将の声が聞こえて部屋に姿を現した。



「…ぅ…ぁ…」



大将を見向きもせず何かを見上げるシェイさんの目にみるみるうちに溜まっていく涙。


このタイミングで大将とクリスが戻って来たみたいだ。



「…カレーが…」



皿ごと床に飛び散ったカレーをスプーンを咥えたまま切ない顔で見てる剛。



「…やるから静かにしてろ」



ちょっと可哀想になってほぼ野菜を切っただけの減ってないオレのカレーを渡した。



「うん…ハムッ…ッ…」



受け取ったカレーを静かに口に入れてそっと噛み締める剛は肩を窄めながらスプーンを進めてた。


真後ろでそんな事になってるから気まずいんだろう。それでも食べ止めないのはコイツなりの気遣いなのか。


どっちにしろ可哀想になってくる。




「──シェイ…」


「い、今更何しに来たのよッ!」



「シェイ…黙って消えて悪かった」


「ッ…。…ッ!アンタと話す事なんかないッ!」



ダッとダイニングから走り去るシェイさんは自分の部屋に篭ったようだ。


階段を踏み上がる音でわかった。



「──…だよな」



バタンッと家中の窓が揺れ、場の空気が静まり返ると、クリスはシェイさんを捉えられなかった手握りしめ自嘲気味に笑った。


居た堪れなくなったオレはただひたすら手で顔を抑える。この場から逃げようにもその出入り口を塞いでるから通れない。



「…とりあえずお前も座れよ。身体痛てぇだろ?」



あらかた掃除を終わらせた大将がスクリと腰を上げながクリスを見ずに言った。



「──…ここにいていいのか?」



その場から動けないクリスは絞り出すような声で小さく呟く。



「何言ってんだお前。みっともねぇからガキの前で卑屈になってんじゃねぇよ。とりあえず座れお前は俺の客だ」



勘違いすんな。と冷蔵庫から取り出したビールをクリスに投げる。



「…ああ」



それを受け取ったクリスは、両手に握りしめながら見てらんねぇくらい情けないツラで、ここに座ってもいいか?とオレの横を指した。



「お、お前…ハァ…座ればいいだろ」



何か言おうとしたが何を言えばいいのかわからなかった。



「あ、ジスタさん!後は私達でやるんでクリス様とお話してください。」


「うんそうだよジスタ!後は任せて、ね?」



気を利かせたルシファーとフェリスがキッチンに駆け込み大将の背中を押す。



「…ああ、悪いな」



すんなりと言う事を聞いていた。



「てか、体痛てぇって…そういや少し汚れてるが何かあったのか?」



野暮な質問だが訊かずにはいられなかった。

場の空気的に押し潰されそうで。



「ああ…。じぃちゃんとリンじぃちゃんにな…」



俯きながらポソリと答えるクリス。


…もうヤダこの空気。


なんかそれぞれが音立てたらダメだと気を使うように慎重に動いてるのが目に見えてわかる。


勘弁しろよクリス。

お前そんな女々しいヤツだったのかよ。



「手厚いハグを御見舞されただけだ気にするな。…で、クリス。お前もいい加減にしろ。ガキに気を遣わせてるのがわからないのか?」


「…わかってる」



いや、無理だから。

どんなに頑張っても明るく振舞えとか今のクリスには無謀過ぎるだろ。



「…席外すわ。ゴウ、お前食い終わった皿ルーの所に持って行け」


「あ、おう」



そう言って席から立ち上がると、大将は“悪いな”と謝ってきたが、クリスは“行かないでくれ”と言いた気にオレを見上げてた。



「…なんだよ」


「いや、別に席…外すこたァねぇ…だろ」



自信無さそうに目を逸らすクリスにだんだん腹が立ってくる。



「…お前みたいな気弱な王様知らねぇな。誰だお前。たかが一度拒絶されたくらいでウジウジしてんなよ。こうなる事くらい安易に予測出来ただろ」


「…ああ…」



「心底ホレたヤツが急に目の前から居なくなって、ほとぼり冷めた頃に現れてみろ。──誰だって混乱するだろうが」



お前の今の胸の痛みはシェイさんの苦しみに比べたら鼻くそ程にもならねぇわ。



「ッ、そう…だな」



何とかして喝を入れてやりたいのに言いたい事が空回りする。



「おい、ソウ!やめろよ!オレらには関係ないだろうが!外の空気でも吸いに行くぞホラ!」



剛がオレに食ってかかるように怒鳴るが、一度火がついたら早々消える事はない。


オレは構わず続けた。



「お前何しに来たの?ツラ見れただけで満足してんならとっとと自分の城に帰れよ。皮肉のひとつも言い返せねぇお前なんて見たかねぇんだよ。ガキに気を遣わせるとか、そんなくだらねぇ気遣い要らねぇから自分のやるべき事やれよ。何シケたツラして悄げてんだ」


「お前…ッ!いい加減にしろ!」



「離せよゴウ。オレはまだ言いたい事終わってねぇ」



オレの胸ぐらを掴みながらダイニングの外へと連れて行こうとする剛を振りほどきながらオレは続けた。



「…シェイさんはな。…シェイさんは、そんなクズなお前の為にオレに頭下げたんだよ。必ず助けてくれって泣きながらオレに頭下げたんだよッ!

…女にそこまで言われてんのにホントお前は──」


「ッ…」



なんだそのツラは。

…重く受け止めるってかこの野郎。


ここまで言っても何も言い返さねぇのかコイツ。

…萎えたわ、もう好きにしろよ。



「…大将。アンタの親友扱き下ろして悪かった。言い過ぎたと思ってるが弁解はしねぇ。少し…頭冷やしてくる」



大将がどう思ったのかは知らない。

返事を聞く前にダイニングを後にしたから。


ただ、その際に通ったキッチンで、アチャーと顔を歪めるフェリスと、気に入らなそうに俯くルシファーを見たら早速言ったことを後悔した。


でも、もう言ったからにはしょうがねぇ。


そのまま何も言わずにキッチンを素通りして玄関へと向かった。






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リトルウィアーク小さな丘

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「…女々しい野郎だよなァ。オレも何発か爆弾落としてやろうかと思ったけどソウがオレの言いたいこと全部言ってくれたからスッキリしたよ」



やって来たのはやはりこの丘。

自分でも不思議だと思う程この丘を気に入ってる。


オレらは再びソコに腰を下ろして空を見上げればまるで散りばめられたようにキラキラと輝く星を眺めていた。



「…ただでさえ許されない事をしたのにあそこまでヘタレだといっそ清々しいよな」


「でも…オレ、少しクリスの気持ちがわかるぜ?自分の信頼出来るヤツに黙って勝手な事して合わせる顔がないって言うか…。

ほらオレ、皆越の件も黙ってたし今回のあのバケモンだってソウに黙って自分でなんとかしようとして死にかけたし。

心配かけたくまいと必死になって色々考えるんだけどさ…空回りすんだよ」



あ、流れ星!と見上げた夜空に向かって指を差す剛は少しだけ寂しそうな顔してた。



「…お前にそれ言われたらクリスの事キツく言えなくなるだろ」



オレだって勝手に動いては仲間に心配かけて…お互い様なんじゃねぇの?って思うが…そんなふうに落ち込む事は無かったような。



「どっちにしろいつまでもグダグダられらたらこっちも困るんだよなァ。オレ達はオレ達でやらなきゃいけない事が死ぬほどある訳だしさ。てかその前にいつまでも大将の家に世話になる訳にはいかねぇから自分達で寝泊まりする場所考えねぇと」


「そうだな。…オレはこの国が好きだ。お前達との始まりの街。大将達にも会えてルーやフィーが楽しそうに笑うこの街が好きだ。オレはこの国の土地を買って家を建てたい。…諦めきれない」



「いい考えだと思うぜ。オレもこのどっかオレらの育ったクソ田舎に似てるこの空気が好きだ。…頑張って金貯めてデケェ土地買おうぜ」



口出すだけで(ミナギ)ってくるこの想い。


旅人が冒険の途中にどこかに腰を据えるなんて聞いたこともない話だがそれだけいい街って事だ。


出来ることなら普通の人間として何も考えずにこの街に残りたいが剛が言うようにやる事は腐るほどある。


ならはせめてこの国がオレ達の帰る場所にしたい。





「──その必要は無いぞよ?」




見上げた星空に思いを馳せて居たら、ふぉっふぉっ。と聞き覚えのある嗄れた声が背後から聞こえた。



「爺さん…クリスの爺さんは何処行った?」



振り返ると頬を真っ赤に染め上げたこの国の王であるリン王。


片手に透明のグラスを持って、なみなみと入った液体を零しながら近付いてきた。



「あの老耄は潰れてしもうたわい。人に付き合えと息巻いたくせに自分が先に飲み潰れるとは、ヤツも年を取ったのう」



どっこいせ、とオレと剛の真ん前にドカッと腰を降ろすリン王。


へべロケになったそのサマは何処にでも居るただの爺さん。大酒カッ食らって気持ちよさそうで何よりだ。



「──で?その必要は無いとはどういう意味だ?」



オレはリン王に着流しにかけられた酒を払いながら訊ねた。



「…ヒック…ああ?…おお、そうじゃ…お主らこの国の…ヒック…土地を買いたいと言ったな?ヒック…」


「ああ。今はまだ金がないが稼いでいつかこの土地に家を建てれたらと思ってる」



「──じゃから!ヒック…その必要はない!と、言っておるのじゃ…!」


「じぃちゃん何言ってるか全然わかんねぇからもっと簡単に言ってくれ」



剛がもどかしそうに笑った。



「…ッ…土地をくれてやる…ヒック!」



なん…だと?



「…はい?」


「おい爺さん。酔っぱらいの戯言なら聞かねぇぞ」



母さんに酔っぱらいの言う事ほど信用出来ないものはないと昔から言い聞かされていたがこんな時に思い出すなんて。


だが本来ならこの国を助け出した報酬で土地を少し譲って貰おうとした事は事実。こちらから言う前に相手がそう言ってくれるのは喜ばしい事なんだが…



「ワシは酔っ払っても自分の言ったことくらい覚えとるわぃ!ヒック…

今回この国を助けてもらって本当に感謝してるんじゃ…お主らが居なかったら、ヒック…ワシはこうして昔の馴染みと酒を飲み交わす事なく死んでいたかもしれん…ヒック。

この国の民もそうじゃクリスが居たからまだ精神的にも耐えられていたが、ヒック…あのまま何年も過ごしていたらと思うと…な」



「…オレは最初この国に恩を売って自分達の拠点を作る事しか考えてなかった。

だがここのヤツらはみんな暖かい。まるで自分の故郷に居るみたいだ。こんなふうに企んでいたオレを疑うこと無く優しくしてくれて。…企んでいた自分が恥ずかしくなった」



親父と一緒になって“恩を売りつけて拠点を置く”と息巻いていたあの時のオレが。



「…みんな最初は…そういうもんじゃ。

自分の心が安定していないと自分の為ならどんな事でも考える。…いい事だろうが悪いことだろうが。今はそう思ってないのじゃろう?…このチンケな国を好きだと言ったな?」


「…この国を自分達の帰る場所にしたい」



オレは俯いた顔を上げて真っ直ぐにリン王をみつめた。



「お主が、元は何を企んでたかは知らん。ワシはその言葉が聞けただけで充分じゃ。…この国の土地をお主に譲ろうぞ。…ヒック」



締まらねぇな。ヒック…じゃねぇよ。



だがこれは願っても無い話だ。



「…有り難く…頂戴していいのか?」


「ふむ。場所はどのへんがいいんじゃ?」



リン王に言われてオレは剛を見た。



「…んなもんとっくに決まってるよな?」


「ああ」



剛に確認するつもりで目線を向けたがコイツも同じ気持ちで安心した。


お前もここでいいんだなと。



「「──この丘だ」」



奮い立つまでにビシッと揃ったオレ達の希望。



「あい、わかったぞ。ならばこの丘の土地を今日からお前達の土地として好きなように使っていい。家を建てるなり、店を開くなり。…ジスタ達とも仲良くやるんじゃぞ?」



込み上がるものがあった。



「本当に有り難い」


「…じゃ、ワシはソレを言いに来ただけじゃからあの老耄を連れて城へ戻るとするかのぅ。明日城前広場の掲示板にお前達の事を張り出しておく。…土地の件もな」



リン王はそれだけ言い残すとフラつきながらに立ち上がり大将の家へと歩き始めた。



「もしあれなら送ってってやるが」


「そーだよじぃちゃん!そんなフラフラじゃ歩けねぇだろ?」



と、すかさず立ち上がったオレ達に“大丈夫よ”と少し高い声が返ってきたその主はシェイさん。



「私達で送るから大丈夫よ。ありがとうソウくん、ゴウちゃんも。…これから少しクリスと話をしようと思うからリン王達をお城へ送るついでに散歩しながらって思って」



そして暗がりから現れたのは泣き腫らしたような目をして笑うシェイさんと気まずそうに後ろに立ってるクリスだった。


クリスの背中にはグデグデに酔い潰れた爺さんか…。コイツもコイツで面倒ばかりな男だな。


つか、さっきよりクリスの体に傷が増えてるような気がするが…



「そうか、ならば頼んでいいか?シェイさんも気が済むまで話し合ってくれ」


「うん。本当にありがとうねソウくん。アタシ…あなた達に会えて良かったわ」



「ああ、いいんだ。全員が無事に戻ってよかった。…じゃ、オレ達は先に戻るからな」


「おいヘタレクリス!せいぜいこっ酷く怒られろよッ!」



「グッ…」



オレ達はそれぞれに別れた。


後ろからシェイ!ワシもおんぶ!とかリン王の甘えた声が聞こえる。


その後に自分で歩きなさいとシェイさんの怒った声が聞こえてオレ達はクスリと笑った。


──こんな国にオレらの家が建つ。


ボシーヘイデットに比べればチンケな街だが一人一人が愛に溢れた街。


やる事が沢山ある中でなかなか帰ってこれないとは思うがここに自分の居場所があるってだけで嬉しくてウキウキする。



「ソウ…嬉しそうだ」


「ああ…正直言うと…スッゲェ嬉しい!」



「素のソウが顔を出すぐらいか?」


「…嬉しい」



「はいはい無理して抑えなくていいよ。誰も聞いてねぇから思い切り喜べ!腹の底から喜びを表してみろ!」



ハイ、3、2、1、キュー!と無茶振りをするから、



「リトルウィアーク最っ高ぅぅぅッ!」



と、普段なら絶対に見せることが無いであろうテンションで驚かしてやった。


どうだオレだってたまには冗談通じるんだぜ?

これだけ嬉しいことがあればテンションも上がるってもんだ。



「っ、…ククッ…ハハハッ!ソウが叫んだ!しかも怒りの雄叫びじゃないやつ!ハハハハハッ!やば嬉しすぎて笑いが止まんねぇ!なんか無駄に泣けてきた!」


「バーカ。笑いすぎだし泣くとか意味わかんねぇ、引くわ」



「うォォおおおおおああああリトルウィアーク最っ高ぉぉぉぉお!!」


「ちょ、うるせぇよゴウ!夜中だぞ!」



「お前だって叫んだじゃねぇか!」


「イデッ!おい!人の背中を叩くなバカ野郎──あ、クソッ!待てやこらァァァ!!」



「お前の背中が叩きやすいから悪いんだろ!

ほら、追いついてみろや!」


「クソゴリラァアァアッ!」



そのままの勢いでドアを弾き飛ばしたオレらは玄関先でもみくちゃになってたところをルシファーの隠された腕力で無理やり引き剥がされた。


…死んでよかったわ。




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大将の家

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「え、じゃあ起きたらあのお色気ボンボンを探すの?」


「ああ。クリスの話によるとボシーヘイデットのギルドに居るみたいだからな。もし仮に居なかったとしても自分達の稼ぎ口に使える」



「では私達もそのギルドに登録するんですか?」


「…何か問題でもあるのか?」



家に戻ったオレはちょうどリビングで家事を済ませた二人に明日の予定を話した。


剛は家に戻るなり大将に刀を研いでもらうと言って先に上に上がったがそれは別にいい。アイツは一部始終を自分の目で見て耳で聞いた訳だから言う必要も無いだろうし…


問題はコイツらだ。



「…ギルドに登録するって事は自分の情報を提示するって事ですよね?本当の名を名乗っても宜しいのでしょうか」


「…その事なんだがオレはこの世界では神崎創と名乗るつもりはない」



オレは普通の人間として18年間生きて死んでから修行を経て強くなった。


同じ人間の為す技だとしてもオレの中では正直別の者が自分の体を動かしてるような気分だ。


神崎創は強いんだと言いふらすつもりはなくとも人は見たままを信じる。


ならばそれを神崎創の行為としてじゃなくフレイミスに生きる別の人間に成りすまして自分とは別の人物として存在するしかない。



「それでは限界があります。フレイミスにも地球と同じく苗字たるものが存在しますから」



そうなのか。それは面倒だな。


一番最初に浮かぶ言葉をゴクリと飲み込んだ。



「…ならばオレはホウレン・ソウでいい」



剛がオレに書き置きしてくれたおかげでデカデカと張り出されてたからな。もしかしたらそれを剥がしたオレを記憶しているヤツが居るかもしれない。


名前の一つくらいどうってことは無い。

知るべきヤツらがしっかりと認識してくれさえすればなんでもいいだろ。



「…野菜嫌い」



フェリスが呟いた。



「フィー」



焦りを見せながら止めるルシファーに別にいいと宥めた。



「お前が嫌いなのは野菜であってオレじゃないだろ?」


「えーうん」



え、違うの?…名前変えた方がいいのか?


無理矢理言わされたような顔でまあ可もなく不可もなく?ってな言い回しされると心苦しいもんがあるんだよ。


やめろフェリス心が折れるだろ。

豆腐メンタルなめんな。



「…あー名前…変えた方がいいのか?」



大した気の逸らしも浮かばず話は元の位置へ無事に戻っただけだった。



「ホウレンソウは嫌だ!マズイもん」


「ホウレンソウは美味しいよ!おひたしにしたりソテーにしたり。あ、ほらフィーの好きなシチューにだって入ってるじゃない」



「え!?あれホウレンソウなの!?」



知らなかったー!って。

あのさ…今オレの話…してるんだよ、な?



「じゃあホウレンソウでいいだろ?」


「ダメ!」

「待ってください!」



おおう、まさかのルシファーまで否定派だったなんて。ここは面倒臭いから“いいよ別に”のフリだろ。



「…そんな名前如きにゴチャゴチャ言ったらゴウだってボウクウゴウだぞ?それはどうすんだよ」


「え?ゴウさんはこの世界で生活するなら名前は“ゴウ・カーライル”がいいと仰ってましたよ?」



え、何それ聞いてない。

しかもなにそのカッコ良さ気な感じ。


厨二病かよ。



「ほ、ほぉ?そうか。ま、でもオレは別にこれと言って浮かばないからそのままでいい」



シャンとして言い切ってやった。


…実はすごく羨ましかったりするが本当に浮かばないのだからしょうがない。



「あー!言ってたかも!朝話した時だよね?あ、もしソウが浮かばないならってゴウが“ソウ・イングラム”か“ソウ・アシュリー”を進めろって言ってたよ?」



フェリスが思いがけない爆弾を投下した。


…それオレの好きなゲームの主人公のとハマった小説の超絶イケメン魔王だから。


いやどっちも好きだったけど!

むしろ今でも男のくせにカッコイイとか本気で思ってるけど!…恥ずかし!



「…あー…いや…」


「いいじゃないですか!私はイングラムと言う響きの方がカッコイイと思いますよ?」



だろ!?とか言いそうになるが変に食いついて白状させられるのだけは逃れたい。


…だがあのキャラと同じ苗字か…悪くねぇ。


しかもルシファーもカッコイイと言ってる。


…どうする?



「…ソウ・イングラムって似合うか?」


「うん!ホウレンソウよりマシ!」

「ええ、とっても!」





「じゃあお前らが気に入ったならそれでいい」



そういう事だ。


別にオレは何だって良かったんだからね!

…という事にしておこう。



「じゃあ改めてゴウには先に挨拶をしたからソウに。アタシの本名はフィオナ・モリス。呼び方は今までのままでもいいし変えてもいいよ、好きなように呼んで!あーここには居ないゴウの分ゴウ・カーライルも一緒にこれからもよろしくね!」



ペコリと頭を下げるフェリスは少し恥ずかしそうにハニかんでた。


普通に可愛いわ…。

騒がなきゃコイツもオレの癒しになるのにな。



「ッ…ソウ・イングラムだ。…よろしく」



今、手に入れたてホヤホヤの名前を自分の口から吐き出しそれっぽく右手を差し出した。


改まるなら完璧にやりたいと思う(タチ)だ。


フェリスに求めた握手が握られささやかに微笑み返すオレ。


小っ恥ずかしいがソウ・イングラムってそんなヤツっぽくね?特にイングラムの辺りが…つって。早速調子に乗るオレも大概厨二病患ってるけどナ。


ヘラヘラと顔をふやかしていたらルシファーに軽く咳払いをされ“次は私ですね”と立ち上がりそのまま自己紹介を始めた。



「私の名前はルノ・アンジュ。大天使ルシファーとして生まれグリンシア様にこの名を授かりました。皆様からは、“ルシファー”と“ルノ”両方についてる“ル”の文字をとって“ルー”と呼ばれていますがこの愛称も気に入っております。改めてソウ・イングラムさんよろしくお願い致します」



左手を胸に手を当てて右手でスカートを持ち上げる様子は可憐で見蕩れてしまうほど。


先日シェイさんに自己紹介した時にクセづいてた両手でスカートを上げる仕草が改善され、真新しくぎこちない動きに微笑ましいく思った。


この服に合わせて考えたのだろう。

首を傾げながら色々なお辞儀を試すルシファーが脳裏に浮かぶ。


真面目だからこそ本気で悩むんだろうな。



「…ああ、これからもよろしくな。ルー」



ルノと呼ぼうか迷ったがそれは少しばかり抵抗があって言えない。


すごく申し訳ない気持ちになった。


あの夢さえ見なければ今すぐにでも呼んでやりたいが長年の枷であるあの悪夢たるものがオレの口を塞ぐように締め付ける。


ルシファーそっくりなあの女が、ルシファーから吐き出された本名を名乗るあの女が、目の前に居る狂おしい程に愛おしいコイツと全く同じ顔したあの女が。


縛り付けるように言わせてくれなかった。



「ふふ♪ずっと、言いたかったんです。私はルシファーじゃなくてルノって言うんですって」



差し出されたオレの手にそっと触れたルシファーは嬉しそうにそんな事を言った。



「…そうだったのか。オレもてっきりルシファーって名前が本名だと思っていたから驚いた。どちらの名も似合ってていいと思う」



──嘘をついた。


宿のチェックインで聞いていた名前。

それからずっとルシファーと話す時に頭を掠める“ルノ”の文字。


初めて聞いた訳じゃないのに知らないふりをしたオレは自分の狡さにつくづく嫌気が差した。



「難しい事言いますがルシファーもルノもどっちも本名です。どちらも愛らしくて好きです」


「…」



握った手を離しそのまま自分の胸にそっと抱き締めるソレは、名前ごと包み込むように大切に守られているようだった。


…親父、よかったじゃねぇか。

たまにはマシな仕事すんだな。


ちょっぴりシリアスな気持ちになったオレは、それ以上は何も言わず黙ってルシファーを見つめていた。






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大将の家・リビング

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~その後~





今日は夜も遅いとの事でオレ達はあれから特に長話をすること無く解散した。


起きた後に詰まる予定があるからだ。


女子組二人は何の遠慮もすること無くシェイさんの部屋に上がって行った。


オレはと言うとダイニングのソファーに寝そべったままチクチクとダイニングの片隅で存在をひけらかす古ぼけた時計の音を聞きながら、ありったけの一人の時間を嗜んでいた。


皆越の事、剛のこと、ルノって名前、オレの夢…──今後の事。


さまざまな事が目まぐるしく起きるおかげで、よくよく振り返ることも先を見据える事も満足に出来なかった。



「まずは皆越か…」



お前は勇者としてこの世界に華々しく君臨して何をやっているんだ。


お前が根っからの坊っちゃん気質なのは言われなくとも嫌と言うほど理解はしているつもりだがそのお前を可愛がる父親はこの世界に居ないだろうよ。


あまりふざけた真似してねぇで、与えられた使命を粛々と果たしたらどうだ。


それが出来ないなら、ココはお前の居る場所では無い。──不要だ。


オレとお前は、本来なら立場上の名目で言えば肩を並べて歩いてもおかしくない所に居るハズだ。


片や勇者様として崇められ片や存在をひた隠しにしながら不要なモノを取り除く。

形は違えどそれは表立って動けるのと影の如く水面下で動く者の違いだ。目的は同じハズじゃねぇのかよ。


なのに何故こんなにもお前とオレとは見てる世界が違うんだ?


不本意で押し付けられたことならいっそ尻尾巻いて逃げた方が潔ぎいいんじゃねぇのか?そっちの方がお前らしいってんだ。


例え天と地が入れ替わろうともオレとお前が分かり合う事は無いと断言できるが、同じ地球生まれ日本育ちの野郎として情けなくなったわ。



──剛の事だってそうだ。



オレの側に居た剛が欲しくて欲しくて堪らなかったんだろ?オレから無理矢理奪っていったんだ、今更親同士がたまたま同じ会社だっただけだなんて言わせるつもりは無い。


お前はしっかりアイツを束縛したじゃねぇか。

事あるごとにオレの気が狂いそうになるほど見せつけて来たじゃねえか。


…それなのに何故お前は剛を探しに来ない?


大事だったんじゃねぇのかよ。もっと血眼になって探せよ。そうしたら少しはお前に同情してやれたかも知れないのに。


クズは召喚されても治らねぇってか?呆れ通り越して虚しいわ。


そんなんだからオレはお前が許せねぇんだ。

そんなんだからお前は剛と友達になれなかったんだ。



オレから奪っていったあの日から嫌と言うほど一緒に居たのに皮肉なもんだな。それでも剛は離れたハズのオレの為に死んでまで仲直りをしに来たんだ。


付け入る隙なんていくらでもあっただろ?

こんな中途半端にオレと剛を苦しめるなら、オレなんか忘れ去られるくらい剛を楽しませて欲しかった。


アイツがオレのとこに戻ってきた時に、皆越って案外いいヤツだぜ?って笑って欲しかった。


こんなんじゃ、何の為にオレが苦しんだのかわかんねぇじゃねぇかよ。散々掻き乱しやがって。


…剛があまりにも報われねぇじゃねえか。



「クソ…オレは多分…お前に会ったら勢い余って殺すかもしれねぇけどいい…よな?」


「────…え?」



…誰も居ないハズの真横で声がした。



「ッ!」



横たわらせた体を起き上がらせその声の正体を探る。



「あー…アイツら戻って来たのにお前がなかなか来ないから見に来た…。わり」



気まずそうな顔して頬を掻くのは──



「ゴウ…」



──剛だった。



「…何こんな真っ暗にしてんだよ」


「ああ、電気消して戸締りして上がろうと思ったんだけどなんか一息つけたい気分になってな。…心配したか?」



「…一人でトリザムホットに行ったのかと思ったわ」



剛は不安そうに吐き出した。



「そんな事はしねぇよ。心強い仲間を置いて一人で乗り込めるほどオレは自分を過信してない」



例えそうだとしてもお前だけは連れていく。

──オレはそう決めてんだ。



「そっか…いや、正直スゲェ嬉しいわ。…で?まだ一人の時間必要か?」


「…ああ、もう少しだけこうさせててくれないか?しっかり休むからお前は心配しないで先に寝てていいから」



「…オレには言えないんだな」



ポツリと呟く剛はどこか悔しそうに見えた。



「フッ…そうだな。お前がどんなに大切かをお前に語ってもつまんねぇだろ?オレにだって色々思うことあんだよ。今は何も言わずにほっといてくれ。起きてからたっぷり構ってやるからよ」



手を伸ばし剛の硬い髪の毛を触る。



「…お前、何緊張してんの?」



「…っ!は?緊ち──」


「──してるだろ?お前がオレの髪の毛を触る時は緊張してるか不安に押し潰されそうな時だ。…紛らわしい嘘はやめろよ?お前は嘘が上手いからオレでも探るの大変なんだからさ」



「…悪い。起きてボシーヘイデットに行けばわかる事だ。今はそれしか言いたくない。…オレがどんなに器の小さい野郎か見物だぞ」



自嘲気味に笑った自分の皮肉に傷ついた。


聞いて欲しいでも言いたくないだなんていつかの剛みたいで笑えねぇよ。


でも今は…



「──わかったよもう何も聞かねぇ。オレだってたまにはわかる男だ。スッゲェ聞きたいけど一万歩譲って我慢してやる」



それに起きたらわかるんだろ?とオレの頭を軽く叩いた。



「悪いな。オレの中では結構影響力があるらしい。…自分でもビビるくらい」


「あーはいはい!これ以上気になったらお前を問い詰めそうだからオレは先に戻るけど、お前絶対寝ろよ?少しでもいいから」



「ああ…わかった」


「…っ。…おやす…み」



名残惜しい程にくぐもった声が出た。


同時になんだ行っちゃうのか。と残念に思ったのもまた事実。


センチメンタルな気持ちってめんどくせぇな。


冷蔵庫からボトルに入った水を二本取り出した剛はひとつをオレに投げ、じゃ。と背中を向けて居なくなった。


…なに早速寂しくなってんだよオレ。



「…不安に押し潰されそうな時…か」



剛の居た場所を暫らく眺め一番最初に出た言葉がコレだ。


何を不安がってると言うんだ。知ったような口ききやがって。…とか言う強がりすら吐き出せそうにない。


剛の言う通りオレは不安なんだ。

いつだって。


ルシファーがオレに愛想を尽かしたら。

フィーがオレに呆れて居なくなったら。

それもあるがそんな事よりオレの一番は剛だ。


ルシファー達には悪いが、比べる事じゃねぇ事くらいわかってるが、それでもオレと言うこのチンケな人間は支えてくれる電柱のようなドッシリとした暑苦しいヤツが必要なんだよ。


オレが前に進む為に立ち止まらない為に。


皆越に会う。それはオレの中で剛と皆越との過去を振り返る事だ。あの一人取り残された苦しさを思い出さずにはいられないはずだ。


まだ会ってもないのにこんなにナヨナヨ考え腐ってるのはそれだけ不安だからだ。


もしかしたら皆越は剛を探してるかもしれない。剛の心の中で少しでも皆越に会って揺れる気持ちがあったら──とか。



女々しいなマジで。うんざりする。


剛を信じてないとか信じてるとかそう言った話じゃない。


ただひたすら不安なだけだ。

それを言った所でオレを信じてないのか?と言われるのが目に見えてる。だから言わねぇんだ。


これはオレと皆越の話。

ヤツには聞きたい事が山のようにある。

そう言った時間が取れないのならオレが一言で締め括るつもりでいる。


その為には心の準備か必要なんだよ。



「はぁぁぁぁぁ。…もうやだ」



逃げたい。


でも、逃げたらオレの中にあるこの不安はいつまで経っても取り除かれること無く燻り続けるだろう。


そうなる度にこんなふうに落ち込んで悩んで苦しんで、目敏い仲間達に気付かれ心配かける。


そんなのはもうゴメンだ。

踏ん切り付けれるならそれに越したことは無い。



「待ってろよ…クソ野郎」




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大将の家・リビング

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~あれから~





──皆越の事は悩み終わった。


正確には悩み終わったのではなく考えたって無駄だと結論付けただけだ。ボシーヘイデットに行けば今ここで悶々と考え込んだ事が全て吐き出せる。ならば別にもう考える必要はないだろうと。


…それよりもルシファーの名前。


あいつの口から改めてルノ・アンジュと聞いた時とてつもなく心臓が握り潰される感覚に陥ったのは気のせいなんかじゃねぇ。


顔に出さないようにテーブルの下で握り締める拳が真っ白になるくらいだ。


ルシファーが名乗ると立ち上がった時に薄らと頭のどこかであの名前が出る事を想像していたから驚きはしなかった。


その代わりに締め付けられた胸がキュウキュウと鳴るように傷んだ。



──あの夢に出てくる女はアイツだ。



今手を伸ばせば掴める距離に。


何度も何度も手を伸ばし息が切れるまで追いかけ続けたルノ。



「こんな近くに居たんだな…」



お前は何から逃れたくてオレに手を伸ばす?


何を手に入れたくて手を伸ばすんだ?


何度も見てる同じシーンでもそれだけがわからないまま何年も経った。


お前もオレもいつだって同じ格好をして同じ髪型で同じ言葉を交わす。



“おねぇちゃんなにしてるんだ?”


“大切な人にお花を編んでるのよ”



“たいせつなひとはどこにいるんだ?”


“…遠い場所に居て頑張って戦ってるの”



“おねぇちゃんはいかないの?”


“私はここで待ってるの”



“ふーん。ひとりじゃさみしいでちょ?オイラがつれてってやるよ!”


“…あなたは優しい子なのね、ありがとう。お名前教えてくれる?私はルノ。ルノ・アンジュよ”



“リュノ!…かわいいなまえだね!オイラのなまえは、かんだきあじめくん!あのね!ママとかトーたんとかはオイラのことソウ!ってよぶの!かんじがソウ!ってよむからだって!”


“はじめ…さま…?ソウ…さ、ま?”



“…ん?ユノおねぇちゃんどうしたの?”


“創様ですか…ソウ様?…本当に?”



“どったの?…ユノおねぇちゃ?”



“は──…。ソ──…”


“え、ユノねぇちゃん!どこいくの?まってよ!”



“…────”


“まって!ゆ、まって!はやいよ!おててとどかないよ!ゆの…る、ルノおねぇちゃん!”



“ッ──”



“いやだ!いかないで!おててのばして!…ルゥゥ──!”






「──ッ…」



ハラリと頬を伝った感触で我に返った。

回想していたら世界に入り込んだようだ。


息を切らし必死に手を伸ばすオレとルノ。

何の為にあんなに必死になるのかもわからずそれでも夢を見る度に同じことを繰り返し運が悪ければ起きても尚、涙が止まらない日だってある。


汗でベトベトになった顔を真夜中に洗い流す事だってある。


こんなに苦しいものなのに学習もせず毎回同じ所で笑い同じ所で泣き同じ所で叫びハッと目を覚ます。


呪いにも似た最高の悪夢。

もういい加減この夢からも解放されたい。


何がオレに見せてるのか。オレに伝えたい事でもあるのか。


どうして欲しいのかもわからずここまで来た。


ルシファーに聞けば何か分かるのかもしれない。

でもこれが全くの無関係だとしたらそれはそれでオレは更にこの夢を見る事を恐れるだろう。


…苦しい。


これからは今日よりももっと激しい戦闘を繰り広げる可能性がある。むしろ今日が戦いの始まりのようなものだ。


それなのに唯一体を完全に休める事が出来る睡眠を夢如きに邪魔され満足に体も動かせないようじゃきっとこの先は過酷な道しか浮かび上がらない。


いずれ三人に迷惑をかけることになる。

──そうなる前にどうにかしたいんだよ。



「…クソ…母さん」



オレは悩んだ挙句に最終手段である母さんに問いかけた。



『──母さん。聞こえるか?』



母さん相手に初めて念話を試みるから繋がる確信はなかった。



『──…──。…──…──』



断続的に返って来る不安定なノイズ。

──母さんだ。



『母さん。オレが今から言うことを、軽く聞き流してくれないか?何か言って欲しい訳じゃなくてただ誰かに聞いて欲しいだけなんだ』


『ぅ──…ぁ──…』



何かを言っているようだが上手く聞き取れない。


何も言わなくていいから聞いてくれ。と前置きしてからオレは続けた。



『五歳の時に見た夢だ。

バカみたいに広い花畑にポツリと座る女の子が居た。その女の子は自分の事をルノ・アンジュと名乗ってオレが名乗ると信じられないと言った顔で今にも縋り付きそうなくらい泣きそうな表情を見せる。

どうしたと聞いても変だぞと茶化してもその悲しそうな顔は笑ってくれなくて次第に離れて行くんだ。オレに手を伸ばしながら必死に何かを叫びながら目から死ぬほど涙を流して。


だからオレも必死に追いかけるんだけどいつだって届かない。─そして目が覚める。


この夢をオレは五歳から今までずっと見てる。もう苦しいんだよ。イヤなんだよ。

ルシファーそっくりのあの女があんなに泣いてオレに何か言おうとしてるのがイヤなんだよ。聞き取れない事にもその手を掴めない事にも…もう耐えられない。


これからもっともっと強い相手を目の前にする事になると思うのにこんなんじゃオレ何も守れない気がする』



“だから母さん。オレがもうあの夢を見ないように祈ってて。それだけでいいから。それだけでオレ頑張れるから。一人じゃないって思えるから”



──ありったけを吐き出した。



母さんが祈っててくれるはずだからもうあんな夢は見ないだろう。そう思うだけでただの言い聞かせに過ぎない事でもしっかり効果はあるようだ。



「ふぅ…」



気持ちが上向きなうちにオレも布団に入って寝るとするか。


…母さん…心配してんだろうな。

あーあ、全然親孝行出来てねぇわコレ。


でもまあ…たまにはな。

こんだけのことしてんだから許してくれるだろ。



「し…もうそろそろ本格的にいい時間だし布団に入るか」



…じゃねぇとまたオレが一番最後に目覚めることになりそうだしな。──そう思って沈みきったソファーから立ち上がろうとした時、



「…ん?」



誰かがコソコソと家に入ってきた。



…誰だ?



「───。──…」


「───。…────ッ」



思いがけない人の気配にオレは即座に戦闘体制に入る。


暗がりの中に長時間居たおかげで目を慣れていてはっきりとダイニングの入口が見える。


シトシトと聞こえる足音はどうやら一人じゃないようだ。


腰に控える刀に手を掛け、ジッと構えた。



────パチッ。



「──…っ!」



「…みんな寝ちゃったみたい──ッ」


「ああ、流石に疲れてるだろガキ達も──」



そう、話しながら電気をつけたのはシェイさんとクリス。


オレを見て一瞬で固まっていた。




「──っぶし…」


「あ、ごめん!少し暗くするわね!」



シェイさんはそう言うとパチッと電気をひとつ落とすと糸が切れたように笑い始めた。



「っ!ご、ごめん!めっちゃ面白い!」


「おい、シェイ…あんま、笑ってやるなよ。可哀想だろ」



でもだってと目の端に溜まる涙を拭いながら笑い続けるシェイさん。



「…二人のことを忘れていた」


「だろうな。今のお前の殺気と先頭体制は味方に対するモンじゃ無かった」



クリスまで笑いだす始末。


バカバカしくなったオレもつられて笑った。



「──あれ、みんな寝ちゃったみたいだけど何してたの?」


「いや、少し考え事だ。これからの事とか。

あ、そーいや、オレのことなんかよりシェイさんの方こそしっかり話は出来たのか?」



深く詮索されるのを恐れ先手を取った。



少し間が空いて“あー”と苦笑いを浮かべる二人。

なんだよ、戻ったんじゃねぇか。と吐き出しそうになったが、



「俺達は付き合う前のただの良き理解者ってとこに戻った」


「ま、そういう事」



──らしい。



「…結婚しないのか?」



「しー!声が大きいよ!…うーん。ちょっと私達元々複雑なのよ」


「結婚したくても出来ねぇと言うか…」



「え、もしかしてクリス、お前女なのか?」


「バカ!何クソ真面目につまんねぇ冗談吐いてんだ!」



なんだ違うのかビックリした。

…だが、何故だ?



「あーいや…気になるけど聞かない事にするわ。その様子だと大将も知らないみたいだしオレうっかり喋りそうだから。

じゃ、よりは戻らないんだな?わかった。オレは寝る!クリスお前も帰るならしっかり休んどけよ?」



え、とか、おい、とか呼び止めるような声が投げかけられたが全く聞こえないフリをして逃げるようにダイニングを出た。


これ以上の面倒事はオレのキャパを軽く越えるだろう。身内関係にまで首を突っ込むほど図々しい訳じゃねぇ。


聞かなくていいものは聞かないに尽きる。

あの徒ならぬ空気からして心底落とされる話に決まってるんだから。


今日は疲れたしオレもそろそろ休みたい。悪いけどその話はどっかの口の硬いヤツらとしてくれ。


階段を上がりながら背中でモノを語った。



──二人の視線を感じたからだ。







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大将の家・大将の部屋

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~翌朝~



相当な魔力を使い身体全体を酷使したオレは、部屋に戻ってから、ものの五分もしないうちに眠りこけたのだろう。


真っ暗にされた大将の部屋に入り二人の爆音で奏でるいびきを浴びながら“寝れるかよ!”と心で悪態を付いている内に何の問題もなくアッサリと寝落ちした。


あんなカエル顔負けの合唱の中ぐっすりと寝た自分に我ながらあっぱれと言ってやりたい。


そして、途中で目覚めること無く太陽が燦々と真上から照りつける中薄らと目が覚めた時には案の定左右を交互に居たはずのゴリラ二人は居なかった。



「…今日もオレが一番最後か」



毎日毎日どこまで弛んでるんだオレは。

ほかのヤツらもよく起こそうとしないよな。


これだけの人数がこのこぢんまりとした家に居るのだから一人くらい叩き起しに来てもいいと思うんだが。


オレだったら確実に言うね。

テメェだけゆったり寝こけてんじゃねぇよ!って。



「…ふぁーあ。マジ眠い」



心做しか体が少し痛む気もするし…え、まさか筋肉痛?


…なわけ。

重たい体を叩き起して、カーテンを勢いよく開けた。



「──ぐぁっ!」



バカかオレは。眩しいに決まってんだろうに。


ついほんのちょっと前に太陽が燦々ととかってドヤ顔で確認しただろうが。


…いつまで寝てんだよ。


それから妙に騒がしい窓の外を暫く眺め自分達の使った布団を綺麗に畳んで部屋を出た。





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大将の家・リビング

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「──あ、おはよ!ソウくん!」



下の階に降りるとダイニングの入口で見計らったようにタイミングよく聞き慣れない声で呼ばれた。



「んぁ…シェイさん。おは…ッス」


「んだよ、まだ寝てんじゃねぇか」



「冷たい水で顔洗って来いよ寝ぼすけ!」



それに気付いた大将とクリスが次々に口を出してくる。


二人に対しては、ん。と言う一文字で返事をしといた。



「あぁソウさん、ほら、ぶつかりますよ。洗面台はこっちです」


「んぁ…?ルーゥ?おはよ…」



「ふふ。おそようございます」


「ん」



オレはそのまま洗面台に流れるように連れていかれ、いつからそこに漬けてあったのか分からない氷水でキンキンに冷やされたタオルで顔を拭かれた。


ルシファーから、ものっそい小さな声で、ごめんなさいソウさん。と聞こえた時に嫌な予感しかしなかったが、



「ッドゥワァッイ!つ…冷てぇよ!!」



まさか、こんな朝から奇声発して怒鳴る程の事をされるとは。


しかもルシファー相手に。

…なんかダイニングからめちゃくちゃバカにしたような笑い声聞こえるし。


目の前のルシファー笑うのめっちゃ我慢してるし。


ハイパーどっきりですか。

そうですか。


お前がオレにこんな事するとは夢にも思わなかったわ。



「…もう自分で出来る」



楽しそうにタオルを構えるルシファーから危険を察知したオレはすかさずタオルを奪い見せつけるように顔を拭いた。


握り締めていてくれたおかげで少し生温くなっていてこれもまたあまり良くは感じなかったけど。



「よし。これ洗濯物でいいんだな?」


「キャッ!冷たっ!…はい、いいです!そこのカゴに──キャッ!」



キャッキャ言うのはオレが桶に入る氷水を指先につけてルシファーにかけたから。


本当に目が覚めるくらい冷たかった。


最後にもう一度だけルシファーにそれをパッパッとかけ、ダイニングに戻る。



「おう!どうだ?気持ち良かったか?」


「お陰様でしっかりと目が覚めたわ」



ならよかったじゃねぇか。とおっさん二人が肩を並べて爆笑。


その顔ときたら…

今すぐあの桶をここに持ってきて、全力でブッかけてやろうかと思ったわ。



「…あれ?ゴウとフィーは?」



何か手頃なものはないかと周りを見渡してふと二人が居ない事に気付く。



「あぁ、多分今外で街のヤツらに捕まってると思うぞ」



あんな大々的に知らされたらな。と大将がから不吉な言葉が返ってきた。



「はぁ?…なんだそれ」



怪訝そうに睨むオレに苦笑いをカマしてから窓の外を指差すクリス。


つられて窓の外を除くと信じられない程の人が一定の方向を向いて群がっていた。



「あの中心に二人は居ると思うぜ?」


「っ、なんだあれ…!」



もはや懐かしさすら感じる見渡す限りの女の大群。──吐き気がした。


ここに来てこんな数の女が自分の近くに寄ることなど皆無だと信じ込んでいたからだ。



「──あぁ!やべぇ!今日出れねぇかも!」


「──ホント!嫌になる!なんなのあの大量の女達!」



バンッと扉の叩き付けるような音が家中に響きドカドカと歩き進む音がどうにかしてくれ!と言う二人の叫びに変わった。



「あの爺さんマジで加減知らねぇよな!あんな事されたらそうなるに決まってんだろ!」


「てか、ソウも早く言ってよね!こっちだって知らなかったんだからホント朝の店支度の時大変だったのよ!?」



散らかすように二人が騒ぎ立てるが、正直オレには何の事を言ってるのかサッパリ分からない。


逃げ道を探るようにルシファーに目を向けた。


が、



「…ソウさんが悪いです。私達は、あの丘の土地を貰ったなんて知りませんでした」



どうやらサッパリわかんねぇのはオレだけじゃねぇっつーか、コイツらの方が被害者っぽいわ。



「…あぁ、それか。確かに言うのを忘れていた。それで何があの外の女達と関係があるんだ?」


「なにやらリトルウィアークきっての敏腕絵描き師がソウさんとゴウさんの似顔絵を国旗と同じ大きさの布に描いて、お城からはためかせているんですよ。そして、街中の至る所に“リトルウィアーク一等地!イケメン旅人腰をおろす!”と、張り紙がなされていて、城前広場の大きな掲示板には旗の写真とその文字が…」



…あんのクソジジイ。

そこまでしてくれとは頼んでない。

いや、むしろそんな事を頼んだ覚えはない。



「説明ありがとう。…ちょっと待っててくれ」



オレはルシファーにそう言うとすかさずテレポートを唱えた。





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リトルウィアーク城・王室

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────シュンッ!!



「おいなんだこの騒ぎは!掲示板に張り出すとは聞いていたが祭りにするとは聞いていない!」



リトルウィアークの城へ飛んだオレはそのまま王座に転移し、たまたまクリスの爺さんと仲良く二日酔いになって項垂れていたリン王にモノを申した。



「えぇ…?あぁ…うぅ…」


「今すぐやめさせろ!こっちには女二人も居るんだぞ!僻まれたりしたらどうするんだ!」



女に対してロクな思い出のないオレは想像でものを言った…が、間違ってないはずだ。


経験上、付き合ってもないのにあまり傍に居ると他の女が必ず騒ぐ。


オレに惚れてる惚れてない関係なくだ。

そんなのをルーとフィーにやってみろ、皆殺しもいいとこだぞ。



「ふぇ…なんて?」


「だぁかぁらぁ!今すぐ施した物をしまえって言ってんだ!オレ達にも予定あんのにあんなに家の外を囲まれたら何も出来ねぇだろ!それにアレはオレ達の家じゃねぇシェイさんと大将の家だろ!なんで関係のない奴まで巻き込んで迷惑かけなきゃなんねぇんだよ!只でさえ泊めてもらって迷惑かけてるってのに迷惑しか返せてねぇじゃねぇか!」



なんとかこのボケジジイに伝わるようにと精一杯気持ちを込めて怒鳴った。



「…お前は朝から愉快だのぅ。元気で何よりじゃ」


「まあまあワシらも若い頃はこんなふうに怒鳴り散らかしては他所様の王様を困らせて歩いたからのう。懐かしいわい」



わい。…じゃねぇえぇああ!!


あの忌々しい女の集団に少しでもルシファーのヤキモチスイッチ入られてみろ。止めるに止められねぇから頼み込んでんだよ!


言っとくけどオレは悍ましいバケモンしか連れて歩いてねぇんだからな!



「チッ…出来ねってなら悪いがこの国には住まねぇ。ぎゃーぎゃー騒がれて生活するのなんざ真っ平御免蒙(コウム)るってんだ。

こちとら落ち着いて体や精神を癒す場所として国を選んでるってのにこんな手厚い待遇されちゃ何の為にこの国の土地を手に入れたか分かったもんじゃねぇ」



オレは最終手段に出た。

もしこれでもとぼけた事抜かすならそれはそれで諦めて違う国で落ち着ける場所でも探す。


オレらはただ純粋に自然に囲まれた静かな場所で落ち着きたいだけなのにとんだ粋な計らい見せつけてくれやがって。



「…わぁったわぁった!うるっさいのぅ。外せばいいんじゃろ?外せば!」


「そーじゃ!せっかく新顔のイケてるメンズがこの国に来たのにもったいないのぅ!そんなイカしたツラさげてここで見せつけないで、いつ見せつけるつもりなんじゃ?

年を取るのはあっという間じゃ。今のお前達を見て欲しいと思った迄じゃったが?」



はぁ。と、溜め息をつかれるが、オレも負けずにデカい溜め息を吐く。



「…あのよぉ、爺さん。こんな事自惚れてるみたいで死んでも言いたくなかったがこの際だからハッキリ言っておく。

オレは年がら年中女に追いかけ回される生活を送ってきてやっとのことでここまで逃げてきたんだ。今更モテようが小指の先程も嬉しかねぇんだよ。…ただ大事な仲間達と落ち着いて生活したいだけだ」


「ほう…お主モテておったか。そうかそりゃ悪かったのぅ。てっきり女を知らないケツの青いクソガキだと思っていたわい」



「まあ、お前が要らぬ世話だと言うのならすぐにでも外させるが。死に損ないジジイのお節介だと思って許してくれや」



軽くジャブを入れられ危うくマウント取られるとこだが気を強く持ち堪える。



「その心遣いは有り難く受け取るが、生憎二人の相手でいっぱいいっぱいなんだわ。兵士達に頼んですぐにでも外させてくれ。今すぐだ。一つも残らずだぞ?」


「わぁってるわい!」



オレの念押しに更に逆ギレをカマすリン王。


パンパンッと手を叩き兵士を王座に呼び寄せた。



「あー悪いんじゃが、今日張り出した物全て跡形もなく片付けてくれ。…本人の要望じゃ、頼んだぞ。」



何用ですかとすぐに飛んできた兵士に落ち着かせる間もなく指示を出した。


本当に残念でならないと言った面持ちだが、譲れないものもある。


──今回のがそれだ。



「わかりました!全兵士に指示を送りすぐにでも外します。」



バカ真面目に返事をした兵士は素早く居なくなると廊下から今日のもの全撤回だ!と大声で叫び指示を仰いだ別の兵士達のハッキリとした返事が廊下に木霊するように届いた。



「…家は建てるんじゃろ?建てないと言われても、ワシら知り合い当たって色々段取りを初めてしもうてるし…」


「…女どもが落ち着けばいいんだが。とりあえず、このまま進めてくれ。完成するのに暫く時間がかかるだろ?少し長めの用事があって暫くこの国に戻る事は無いと思うから、その間に建てておいてくれると助かる」



ここまでやってくれる中でピシャリと拒否出来るほど図太い神経は持ち合わせてない。


まあ、最悪この騒ぎが落ち着かないんだとしたら他の誰かに売ればいいくらいに思ってたし。



「…1ヶ月は掛かると思うんじゃが」


「丁度いい。1ヶ月したら一度見に来よう。

もしかしたらこっちの用事も1ヶ月では終わらせられないかもしれないからな」



「そうか、わかったぞ。連絡手段が無いから何か報告があれば、世界中の掲示板に張り出させてもらう。…そういや、お主名前は何じゃ?」


「…ソウ・イングラムだ」



自分が思うよりスムーズに口から吐き出された名前。言い終わって照れ臭く感じることもなく、ピッタリと型に収まったような気持ちだった。


「ソウ・イングラム…。あいわかったぞ。

何か用があった時はこの名前宛に張り出しをするからな」


「ああ、頼んだぞ。…で、クリスの爺さんはボシーヘイデットに戻るのか?」



「いや、ワシは別に戻ってやる事は無いからの、もう少しゆったりして行くつもりじゃ」


「そうか。わかった」



わりと本気で壊滅的だと言えるあの地下牢の事を話そうか迷ったが、直せるものをわざわざこんな棺桶に片足突っ込んだジジイ捕まえて驚かせても何も出ないことくらい誰にだってわかる事だ。


オレは“そろそろ戻る、世話になったな”とだけ言い、二人も特に追言すること無くにこやかに手を振っているジジイ二人を後目に転移魔法を唱えた。



「──リトルウィアーク丘」






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リトルウィアーク小さな丘

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────シュンッ!!




向かった先は戦場と化してるオレ達の土地となったこの丘。


アイツらばかりに尻拭いさせる訳にはいかないからな。


それにこの様子じゃオレ達が居なくなるまでシェイさんも外に出るには通らなければならない道という道を塞がれてしまっている。


シュンッ!と風切る音がして視界が変わると、着地した途端林の奥から丘に向かって吹く風に蹌踉(ヨロ)めきそうになった。



「「「キャァアッ!!!」」」



オレが現れた瞬間に気付いた女達が訳の分からない勢いで叫びだす。王子様ー!だの結婚してー!だの。ここらへんは少し地球とは口説き文句が違うのな。


えっと地球のときは確か…

付き合ってー!とか、これ食べてー!とか、一緒に帰ろー!とかそんな感じで追いかけ回されてたっけか?


当時の恐怖を思い出しブルッと身が震えた。


…平常心平常心。スッゲェ嫌だけどオレは神崎創じゃなくソウ・イングラムだ。それらしく紳士的に言う事を聞かせる。



「こ、こんな何も無い所に何の用だ?」



出来るだけ優しく見えるように普段使わない表情筋を駆使して頬の上あたりがプルプル震える中、爽やかに微笑んだ。



「「「ギャァ!王子様ぁあ!」」」



飛び付かれて揺さぶられる。


…ま、まあこれは想定内。

地球でも散々同じ目にあってるから受身はバッチリ取れている。



「もしかしてオレの為に来てくれたのか?

有難いんだが実は人の家に世話になっていて家の者達に迷惑を掛けたくないんだ。…せっかく親切して貰ったのに急に何も無い林に人が集まって来たら驚かせてしまう」



オレはあの家族がとても大切なんだ。と、しんみりとした表情も忘れない。



「王子様…。アンタ達がギャーギャー騒ぐから王子様が悲しんでらっしゃるじゃない!」


「何よ!アンタだって今の今まで先陣切って騒ぎ立てたくせに!」



「なにぃ!?」


「何よ!」



掴み合う女二人がやんややんやと周りに囃し立てられ状況は悪化していく。


これもあらかた予想内だ。


わりと荒れてた高校に通っていたからか女も男も気の荒いヤツが普通の高校より多いと思うしこんな掴み合いなんて日常茶飯事だから驚きはしない。


ただ理由がオレという王子様設定なのが気に入らないだけだ。


…くだらねぇ。



「喧嘩して欲しくてこんな事言ったんじゃない。話なら時間が許す限り聞くから落ち着いてくれないか?」



ションボリと俯き加減の演出を入れた。

──もちろん演技だ。



「ちょ、王子様が困ってらっしゃる!みんなシッ!静かにしなさい!」



一人の女がやけにデカイ声を張り上げ叫んだ。


それと同時にシンと静まる女軍団。

やれば出来るじゃねぇか。



「ちょっと家の前に居る人達も呼んできてくれないか?」



オレはついでと言った形で番長っぽい大柄な女に頼んだ。



「わかりましたわ!ほら、ぼさっとしないであの子達をここに呼びなさい!」



手下なのだろうか周りにいる女達に指示を出し、言われたヤツらが返事をすると一斉に大将の家の方に走り出し、そのクセ途中あたりで“王子様が交流会を開くって!みんなこっち来て!”と叫んだ。



はい、マジふざけるなよ。



そして想像通りの迫力で大将の家から牛の大群の如く地鳴りを立てながらこちらへ向かってくる集団。



──オレは今日死ぬんですかね。



『剛…ちょっと助けてくれ。お前が彼氏っていう設定でオレに絡んでくれないか?コイツらを落ち着かせるいい方法が浮かばないんだ。ルーとかフィーでもいいんだが、女相手だと少々心許無い気がする』



こういう時は強烈な印象を与えて一歩引かせるのが一番いい気がする。


相手は昨日のオカマ野郎と違って正真正銘の女だ。流石にオレが野郎好きだと言う証明が出来れば少しは収まるんじゃないかと思っただけだ。


それには剛が一番手っ取り早く息も合わせやすい。




『どこに居んの?』



剛から返ってきた返事は冷静だった。


もうスイッチ入れてんのか。はぇーな。



『あ、ああ。丘にいるんだが──』


『──今すぐ行くから待ってろ』



言い切る前にそう告げられて念話を切られた。


気合入ってるだろうなぁ。

それもまためんどくせぇ極まりねぇけど止むを得ねぇ。


何されるかは読めたもんじゃねぇが、アイツに頼んでおけばオレの株はダダ下がりだが、いいもん見せつけられるに違いない。


どちらかを取るのなら、訳の分からない女に追いかけ回されるより剛に任せた方が数段マシだ。



「──ねえねえ王子様、お名前聞いてもいいですか?」



合コン的なノリで女集団対オレの攻防戦が始まった。



「オレの名前はソウ・イングラムだ」



“あ、私はアリシアです!”


“私ルミネ!”


“私───”



そんなような覚える気になれない自己紹介が始まる。


年齢層は高め…なのか…?

高めって言っても一般帯からすれば若いほうなのか?30は越えてなさそうなヤツらの集まり。


声にメリハリがあって妙に甲高い黄色い声が、頻繁に飛び交う。正直うるさくてしょうがねぇ。



「ねえねえ!ソウ様!ソウ様は恋人はいらっしゃるのですか?」


「あー!それ私も聞きたい!」


「私!ソウ様のお嫁さんになる!」



──ゾっとした。


この人生で何千回と聞かれたであろう有りきたりな質問。答えるのもアホらしいとさえ思う、聞かれて一番気分が悪い質問だ。



「恋人は…いる。だから──」



「イヤァァァア!聞きたくない!!」


「どうせ別れるわよ!そうに決まってる!」



オレの言葉は完全に空を彷徨った。


なんでもいいから早く来てくれ剛。



“──あら~ん♪お・ま・た・せ♪”



聞き覚えのある声が、そこだけくり抜かれたようにハッキリと聞こえた。


…剛だ。



「「「ギャアァァァァァァッ!」」」


「「「おおおおお王子様が二人!!!」」」



今日一番の歓声だった。



そうかコイツもモテる部類だってこと忘れてた。

…クソ、逆効果だったか?



「ソウきゅ~ん♪立てるぅ?」


「ちょ──あっ、」



「「「キャァァァアァァア!!」」」



ヒョイと抱き起こされて立たされるオレ。

そして更に沸き立つ歓声。


これはやばいかもしれない。


何がやばいってコイツのこの白々しいおネェさんモードが、だ。



「え!お二人はどういったご関係ですか?」



一人の女がオレと剛を交互に見ながら恥ずかしそうに言った。



「んふふ~♪知りたい~?ソウきゅんはね~はアタシのフィアンセよ~ん♪アンタ達可愛い子達には悪いけど、ソウきゅんは渡せないわね~ん♪アタシ~ソウきゅん居ないと~死んじゃうのん♪」


「ふぃふぃふぃ、フィアンセ?!」



アグアグと口をポッカリ開けたまま理解に苦しむ女。


ビックリだよな。うん、オレもスゲーびっくりしてるから大丈夫だ、病気じゃねぇ。


確かにオレがそういう関係として絡めと頼んだが、なにも婚約者とまでは頼んでない。


いや、それより誰かおネェについて触れてくれよ!お前らさっきまでイケイケオラオラのイケメンとしてコイツに絡んでたんじゃねぇのかよ!



「え、え、じゃ、お二人は…」


「んふふ~♪列記とした恋人~♪」



「おい──」



────チュッ



「ねぇ~?ダーリン♪アタシを愛してるでしょ~?」

『合わせろバカ野郎!』



…ってウオオオォォォオオイ!

合わせろって何を合わせるんだバカ野郎!


お前オレの事お姫様抱っこしながらおネェしてんだぞ!?わかってんのかよ!?



「あ、ああ」

『おま、お前!だからってチュッはねぇだろ!』



「んふふ~♪そういう事だから、暖かく見守ってくれると嬉しい~なぁ~♪」

『デコにされたくらいで騒ぐなよ。だから童貞って言われるんだお前は。そんなもん風呂は入ったら一発で消え去るんだからいいだろ?』



「…ッ!」

『ど、童貞ってお前もだろ!絶対やりすぎだから!』



「あなた達も、すっごくすっごく可愛いんだからアタシ達みたいにキュートなカップルになれる男の人にきっと出会えるわ♪」



パッとオレを手放した剛は両手を合わせながらパチッとウインクした。



大した千両役者だよホント。素晴らしいわお前。



風までお前の味方してイイ感じに靡かれてるし、気持ち悪い越していっそ清々しいっつーの。



「あ、やはり迷惑でしたよね。わかりました。もうあんな真似しません。…みんな、私たちは王子様の心の支えとして陰ながら応援してあげよう?」



番長らしき大柄な女が、1段と可愛らしい声を出して他のヤツらに呼びかける。


それぞれが、そうね!わかったわ!私たちは貴方達の味方です!と口々に発した。


…。



これでよかったのか?



騒がれないならそれに越したことはないが、なんかオレ色んなもん失った気がするし、むしろこの街でルーと仲良く歩く事が出来なくなったような。


…やっちまった。






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大将の家

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「ブハハ!そうか!じゃあお前らはこの国ではむさ苦しい野郎同士で愛し合ってる事になったんだな!?」



ガハハハハ!と笑い飛ばす大将。



「全然笑えねぇけど、そうするしかなかったんだもんよ。ルーとフィーは女だから変に絡まれたら可哀想だったしコイツならなんとか切り抜けられると思ったんだが、向こうも満更でもなさそうにギャーギャー言いやがって」



オレの言い訳にブァハハハハハ!!と心底楽しそうにクリスと揃って腹を抱える。


人事だと思いやがってこの野郎。



「じゃあ今外が静かなのは二人のことを応援するって言ってくださった方たちが、お家に戻られたって事なんですかね」


「ああ、なんかゴウが“暖かく見守っててくれたら嬉しいとか風靡かせて爽やか振り撒いてたからな。陰で応援するつもりにでもなったんじゃねぇのか?」



知らねぇしどうでもいいわ。


開放されて良かったとしか思わない。



「でも、アタシ達と一緒に歩いていたらそれもそれでめんどくさくない?」


「いや、それはゴウに任せてやれ。コイツがなんか言えば聞き惚れた女どもは挙って言う事を聞くようだから何とかなる」



「「透けこましかお前!ガハハハハ!」」



野郎二人、うるせえよ。



「でも、内容はどうであれジスタさん達にこれ以上の迷惑かからないように手回しできてよかったです。お姉ちゃんもお店に行けるし」


「…そうね。二人の恋仲は私も気になるけど」



「お姉ちゃん!ソウとゴウはそんなんじゃないから!」



あら、そう?とわざとらしく恍けるシェイさんに大将が、“いや、どうだかな”と冷やかす目を向けてきた。



「──おい!」



すかさず止めるオレは自分で現状をややこしくしてるとも知らず。



「なんだよオレは何も言ってないぞ?何必死になってんだ?」


「うわー怪しい。ジスタ、コイツらがイチャイチャしてるとこ見たのか?」



「あーいや、あれは…いやオレ寝惚けて…」


「やめろよ!ンなことしてねぇから!」



騒げば騒ぐほど誤解を生むことを忘れ。



「いや誤解するな。オレ達の関係性は恋人や親友、家族とかって簡単に言えるもんじゃねぇよ。自分の体の一部みたいなもんだ」



という、剛の言葉に助けられた。



「──…聞いたか?ジスタ」


「ああ、驚いたな」



「一語一句狂いなく言い切るヤツが居るとは」



ガハガハと大口開けて笑い飛ばした二人が今の剛の言葉で笑った顔から真顔に戻り妙におとなしくなった。



「…文句あんのか…?」



口を尖らせてブツブツ言い返す剛にそうじゃねぇと口を開くのはクリス。



「…俺、こんな見かけだろ?ガキん頃よく女と間違われて絡まれたりしてたんだよ。

その度に“この野郎は俺の嫁になる男だ!近づくんじゃねえ!”とか言って乗り込んでくるから色んな奴に茶化されて二人揃って馬鹿にされたりとかしてたんだよ。

でもコイツはそんなヤツらを見下したような

ツラで“いや誤解するな。俺達の関係性は恋人や親友、家族とかって簡単に言えるもんじゃねぇよ。自分の体の一部みたいなもんだ”

と誇らし気に言って触れ回ってな、…元が喧嘩番長みたいな野郎だったから誰も文句言わなくなったし俺も絡まれなくなった」



そうだったのか。…大将ならやりそうって言うか…イジメっ子をイジめるの好きそうだからな。



「ま、可愛い顔した相棒持つと横に居るゴリラは大変だよな?」


「ホントだよ。ことある事に絡まれやがって。でもソウはクリスと違って女が寄ってくるから何とかなるけど、もしこれが野郎だったらオレ多分ぶち殺すぜ?」



「ハッ、多分じゃねぇな、お前は間違いなくぶち殺すだろうよ。ジスタだって俺が野郎かどうか確認するとか言われて訳わかんねぇ野郎の集団に連れ去られて犯されそうになったとき相手半殺しにして暫く牢屋に入れられてたからな」


「っ…そ、そんなことがあったのか」



クリスも大将も大変だったな。



「まあ、それを機に俺もジスタと同じくらい強くなりてえって思って鍛えたんだ。いつまでも助けてられてばかりじゃつまんねぇって思って」


「そうそう!だからもう毎日服ドロドロになるまで喧嘩してきてね。洗うこっちが大変だったんだから」



シェイさんが思い出したように口を挟んだ。



「男って変な意地張るわよね」


「カッコ悪いのが嫌いですよね」



「そうよ?だから二人ともソウくんとゴウちゃんの子供産む時は女の子!って念じなさいね。男の子だったらこの二人の子なら大変よ」


「「ッ」」



カァァッと顔を赤らめるオレと剛。


いやまだ父親にはなりたくないっす。



「…あ、そうだ。お前達はどうなったんだ?」



何も知らない顔の大将が思い出したかのようにシェイさんとクリスを指差しながら問いかけた。



「あ、あぁ!オレ達は無事に──」


「──クリス!」



クリスの答えようとした言葉が上から被せられて消されていく。



「…てっきり仲良く話してるから戻ったと思ったんだが違うのか?」


「「…」」



はい気まずいー!



「──あーちょっとオレら先を急ぐ用があるからその後に話してもらっていい?ほら、暫く会えないと思うし」



困ったように顔を顰める二人に救世主のように颯爽と乗り込んだ剛。


お前も面倒事はゴメンなのか。



「…あ、そうだったわね。ボシーヘイデットに行ってそれからはどうするの?」


「…まだ決めてはいないがそう遠くない内にトリザムホットに行く予定だ。

先延ばしにしても火山でお寝んねしてる魔界のボスとやらがお目覚めするかもしれねぇし、だからといって今行ったところで満足に鍛えて無かったら殺されるだけだろ?周りの細かい事を片付けながら頃合を見てトリザムホットに向かう」



「…どのくらい帰ってこないの?」


「次に帰ってくるのは丘に家が建った頃だと思ってくれ。店一人で大変だと思うが戻って来たらいくらでも手伝ってやる。それまではもう少しだけ我慢しててくれないか?」



「ソウくん…なんか年下なのに…。気を付けて行って来てね。ちゃんと四人揃って戻って来るのよ?」



シェイさんは顔を赤くして何かを言いかけたがうまい具合に誤魔化された。



「おい、ソウにはルーちゃんが居るんだからホレるなよ?姉ちゃん」


「ほ、惚れないわよ!そもそもこんな10歳も年離れてるのにそんなことある訳ないじゃない!」



告ってもないのにコテンパンにフラれた気分です。



「へぇ…姉ちゃんがねぇ…」


「ふーんシェイがね…」


「ほう」


「お姉ちゃん…なるほどね…」


「お、お姉ちゃん…」



「な、何よ!べべ別に違うわよ!みんなしてなんなの!?アタシやっぱり店開けてくる!」



腰に着けていたエプロンを引き剥がしダンッとキッチンに置いたシェイさんはバタバタと玄関に走って行った。



「──おい!チッ…何怒らせてんだよ!」



ちょっと行ってくる!とそれだけ言い残し誰も動こうとしない中、すぐさま追い掛けに飛び出した。



「──シェイさん!」


「…ソウくん」



家から飛び出してトボトボと街に向かって歩くシェイさんに追いつくのは簡単だった。



「ゴメン…驚かせちゃったわね。私は大丈夫だから戻って?変な誤解されちゃう」



そんな訳の分からない事をシェイさんは言った。 さっきまで普通に話をして皆でニコニコ笑ってたのに。


あの一瞬で何が起きたと言うんだ…?



「…ちょっと待ってくれ。世話になった人が飛び出してって追いかけない方がおかしいだろ。ルーとフィーをあれだけ可愛がってくれて初めて他の人とまともに会話してるのを見たんだ。オレにすら一線置いて話す仲なのにシェイさんはその壁すら壊して歩み寄ってくれた。…アンタが居てくれてよかったと本気で思ってるんだぞ?」


「…めて…」



「え?」


「やめてよ…ッ!アタシをいい人みたいに言わないで!…もう行って。この丘に家が建つ頃にまた会えるのよね?その時には整理できてるように努力するから。ただ…隠してるのが辛かっただけなの。…私は───の────じゃないから…」



「──…ッ!」



走り去って行くシェイさんを咄嗟に伸ばした手が掴みきれなかった。



──なんだって…?



よくわかんないし上手く聞き取れなかったが今すぐルーの顔を見たくなる程度には動揺してる。



「…クソッ!」



──オレは来た道を戻った。



シェイさんが…まさか。だってシェイさんは…。


大した距離を走った訳じゃないのに無駄に息が切れるのは心臓がけたたましく脈を打つからか?



「ソウさん…大丈夫ですか?」



玄関の扉にもたれ掛かって息を整えていたらルシファーが心配そうに声を掛けてきた。



「──ッ!」


「え…」



ゆっくり近寄って来るルシファーに焦れったくなったオレはすかさず手を伸ばして引き寄せる。



「聞きたくなかった…なんで追いかけたんだオレは。」


「…何か言われたんですか?」



「…オレ達はシェイさんの苦しみを何一つとして理解してなかった。…あの言葉はシェイさんの精一杯の“助けて”だった」



たった一言で全てを理解できるなんてどれほど複雑で簡単な事なのか。



「ソウさん…とにかく今は落ち着いて。後で四人になった時に話しましょう。…中に入ってください」



促されるままにオレはルシファーから離れ引っ掛けた下駄を脱いだ。



「──おう、姉ちゃんに告白でもされたか?」


「…空気を読めお前は」



キッと睨むオレに何かを悟ったクリスが咄嗟に大将を止める。


大将バカだな…バカだよアンタは。

何も知らないクセに。



「…主にあの丘に建つ家の話と次ルー達が戻る時期的な話だった。あー…あと、あまりにもバカにされるから腹が立ったと言ってたぞ?今日は飯抜きだとよ。よかったな大将。反省しろ」


「ええ!?俺だけが悪いのか?」



「キッカケはアンタだろ」



お前だよ、お前。お前しか居ねぇわ。



「あーそうか…じゃあ今日は俺がご飯作ってやるか」


「いや、お前は止めておけ。俺は一旦コイツらとボシーヘイデットに戻るが今日も泊まるつもりだから夜にはこっちに戻って飯を作ってやる。地下牢の掃除を兵士達とやると約束したからな」



「そうか…。ならオレ俺行く」


「いや、お前はここに残れ」



「ヤだよ!姉ちゃんキレてんのに二人とか無理!耐えられない!」



大将がいつかの剛のように駄々をこねる。



「…ケンカしたまま飛び出して戻って来て誰も居なかったら寂しいだろ?…お前は残れ」


「…わかったよ」



クソッと吐き捨て立ち上がった大将は不貞腐れ気味にドカドカとキッチンへ向かった。



「大将、何かあったら掲示板なり使って知らせてくれ。オレらも大将の力を貸して欲しい時はこっちに飛んでくるから」


「…ああ。ホントに行っちまうのか…?ちゃんと戻ってくるんだろうな?」



冷蔵庫から取り出した瓶の栓をポンッと外しそのままラッパ飲みする大将がプハッと活きのいい飲みっぷりを見せる。



「大丈夫だ。あまり変な心配をかけないでくれ──」


「あーはいはい!じゃあ、お前達が戻って来たら朝まで飲み明かそうぜ!これでいいだろ?」



「…ふっ、そうだな。オレ達が出会ったあの酒屋でしこたま飲ませろよ?」


「おうよ、少しは飲める口になっとけよ?」



そういう事だ!と飲み干した瓶をキッチンに軽く叩きつけそのまま“じゃあな”と呆気なくダイニングを後にした大将。



テンポよく階段を上がる音が消えるまで、ジッとその場を眺めていた。



「あーあ。アイツお前らが居なくなるって寂しくなっちゃってんな」


「そうなのか?」



「どう見てもそうだろ?笑って行って来いって言える内に逃げるんだよアイツ昔から。行かないでー!行くなー!って騒いでる時はまだ別にそうでもないんだが、ああいうふうにいつ戻ってくるのか聞き始めたらなるべく早くに行かねえと…」



あんまり寂しそうにするからオレもほっとけなくなる。


クリスは自分の爪を眺めながらポツリと呟いた。



「──よし、じゃあ急で悪いが今すぐ出発する。お前らやり残したことないな?」



口早に全員のケツを叩いた。


呼びかけた全員が無いと言ったところでオレはすぐにテレポートαを唱え魔法陣を広げる。



「──ッ!よし、乗っていいぞ」



フェリス、ルシファー、クリス、剛の順に魔法陣に乗り最後オレが足を踏み入れた時、



「──ボシーヘイデット城!」



「なぁ──ッ!」


「たいしょ──」



────シュンッ!!



大将がダイニングに戻って何かを叫んでいた。

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