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ボシーヘイデッド編~傲慢な嫌われ者~

━━━━━━━━━━━━━━━

ボシーヘイデット入口付近

━━━━━━━━━━━━━━━



目の前には高く高く聳える積み上げられた壁。一体どのくらいの手間をかけここまで立派な門構えを施したのか。



「…無性に腹が立ってくるんだが」


「おうよ、冗談じゃねぇくらい“うちのガードは堅いッスよ”って感じだな」



オレの独り言を綺麗に拾い上げ皮肉たっぷりで返すは剛。



「でも、この壁があるから気が緩んでるんじゃない?こんな広い入口で兵士が一人も見当たらないわ」


「…リトルウィアークのように門の外まで見張りを置いてないのでしょうか?」



高い壁に沿って辺りを見渡すが兵士らしき人物は見当たらない。


むしろ人の気配がない。



「薄気味悪いな」



天候はピーカンの晴れ。


燦々と照り付けるような日暮れ前の最後の力を振り絞るかのように照らす日光だが、この国の真上だけがやけにどんよりとした空気を纏っている。



「…凶しか出ないおみくじから大凶引いた気分だ」


「あ?…意味不明だけど言いたい事はわかった」



いや、わかんねぇって言ってくれていいから。



「…とにかくここで固まってても目立つだけだ。誰も居ないんじゃこんな所に立ってたらオレら怪しい者だと言ってるようなもんだろ」


「…そうですね」



少し恐がる様子で不安そうに両手を握りしめながらルシファーがオレに近付いた。



「よし、手分けしてこの門以外で通路を探す。こんなガッチリ守り体勢キメ込む国だ、何か良からぬ事が起きた場合に自分達でも助かろうといくつか道を確保してるに違いない。…オレ達は向かって左側に沿って調べるからお前達は右に沿って調べてくれ」



「「──わかった」」

「──わかりました」


「…くれぐれも怪しまれるな。もし誰かに見られても絶対に素性を明かすな」



強く言い聞かせた。



「…じゃあ後でな。──行くぞ、フィー」


「うんッ!」



別行動が最善の策なのか皆目見当もつかないが、四人でまとまって行動して時間をかけて何かを探るよりこの方が目立たない上に目的を早く達成出来る。


完全アウェーの手探り状態で敵陣地にそう長く居座れるほど生温くねぇ事くらいオレでもわかる。



「オレ達も行くか」


「はい…」



とにかく今は少しでもこの国の地形や自分たちの得になるものを掴んで置かなければ。


オレから離れるなという意味でルシファーの手を取り足を進めた。



────にしても、どこまでもこの壁なんだな。



もう少し間隔を開けて西門とか東門とかの名が付けられてそうな門があってもいいもんだと思うが、この国はあのひとつの門に絞って完璧に人の出入りを把握しているのだろう。



「傲慢な…嫌われ者、ね」



この造りからしてそんな雰囲気が滲み出てるな。



「あ、知ってます?この国ボシーヘイデットになる前、“ノーブル・レイ”って名前だったんですよ?」


「のぉぶれい…?意味は?」



「…私もよく分かりませんが、ノーブルは、立派な、高貴な、気高い、崇高な、など様々な意味があるようで、レイは王様と言う意味らしいですよ?」


「…そうか。立派な王様、高貴な王様…」



「気高く崇高な王。とかですね」


「今とは全くの真逆だな。今は、ボシーヘイデットで傲慢な嫌われ者だもんよ、落ちぶれた名前付けやがって」



「あ、でもこれ噂程度のお話ですが、傲慢な嫌われ者と名付けたのはクリス王、本人みたいなんです」



クリス本人が?なんでまた…。


そう言いかけて口を閉じた。

もし、自分の本意じゃなく無理矢理王座に着かされたとして、何かに巻き込まれているなら、その名前こそがひとつの手掛かりな気もして来なくはない。


いや、でもそんな回りくどい事をわざわざするか?


…周りに居る者が誰も信じられないならどうだ?



「ソウさん…考えすぎは余計や混乱するだけです。どの道今日直接クリス王の元へ行って確かめるのでしょう?少しは何か分かるかもしれないんですから、今は手掛かりを探しましょう」



そう言われて息を吐くと、肩に相当な力が入っていた事に気が付いた。


今、結構難しい顔してただろうな。



「…そう、だな。お前の言う通りだ、ルー。

今はとにかく隠し通路だな。」



ペースが落ちていた足を再び前へと繰り出す。



「──!!」


「──!!」



正面の馬鹿デカい門から左に沿って裏側まで来ただろうか暫く歩いた気がするが、やっと進展がありそうな事が起こった。



「シッ!」



兵士の格好をした二人組が何やら会話をしてるような上手く聞き取れない声が聞こえてくる。


オレはルシファーを引き寄せ口に人差し指を立てて静かにしろと無言で伝えた。



「──か?──だってよ」


「マズい──。──だし」



どんなに耳を澄ませてもこの距離からは聞こえないようでもどかしくなってくる。


どうにか移動出来ないものかと辺りを見たら兵士を挟んだ向かい側から妙な視線を感じた。


…ん?ゴウ達か?

とりあえずフェリスに確認する為念話を試みる。



『 おい、お前達今どこだ?』


『 今、ちょうど裏に来て、兵士達の話を探ってるわ』



案外すぐに伝わったという事は、フェリス自身も念話で何かを伝えようとしてたのだろうな。


アイツは、人間の格好をした獣だ。人間より様々な体感が優れているから、おそらくこの距離でも兵士達の会話が聞き取れるだろう。


だからオレはそれ以上語りかける事を止めた。


念話で邪魔する程アホらしい事ねぇしな。


…剛が横で邪魔してなきゃいいが。



「──よ!!」


「確かに──!──か」



暫く会話が続き、黙って様子を伺ってたが、それが急に終わりを迎えた。


二人の兵士が壁に向かって歩き出した事で分かったことだ。正確には聞こえてないから急にと感じただけで、実はしっかり話し終えてると思う。


そして、二人の兵士は、そのまま壁の中へと消えて行った。



『 おい、フェリス。聞こえるか?

そっちから兵士達が消えて行ったところが見えるか?』



オレは合間を見て再度念話で語りかける。


やたらに茂みから出たら、せっかく身を潜めてたもんも無駄になる気がしたからだ。



『 うん…。なんかね、人が一人通れるくらいの小さなドアがある』



そして、フェリスからの返事はすぐに返ってきた。



『 …周りに人は?』


『 今は居ないけど今ここから入ったら絶対見つかる気がするからやめた方がいい』



『 …他に何か見つけたか?』


『 ここに来るまで何も無かったわ』



『 そうか…ちょっとそこで待ってろ』


『 うん』



そして一度念話を切った。



「フィーですか?」


「ああ。向こうからは兵士達が消えた所に扉があるのを確認できたみたいだ。どこに繋がっているのかはわからないが正面の門のようにデカいものじゃなく一人くらいしか通れない扉らしい」



「…もしかしたらお城に繋がってるかもしれないですね」



ルシファーは腕を組みながら顎に手を当て唸っていた。




「──ここで何をやっている」




背後からザッと砂を踏み込んで立ち止まる音が聞こえた。



「…あ?」


「ここで何をしている。…と、聞いたんだ」



その怪訝そうに呟く声に驚き恐る恐る振り返ると細身の男が立っている。



「ああ…サカれる場所が無かったもんでな、こんな所まで来ちまっただけだ気にするな」



自分の口から咄嗟に出た嘘があまりにもクズ過ぎて自分でも度肝を抜かれた。



「ハッ…小汚ぇガキだな。宿の金はくれてやるからとっとと失せろ」



細身の男は胸元から金を取り出しオレらに投げた。



「テメェ…」



バサッと落ちたのは帯で留めてある札束。



「こんなはした金持ってても意味は無い。…足りねぇならもっとくれてやるが?」


「要らねぇよ!お前がどこの坊ちゃんか知らねぇがオレは心まで貧乏人になった覚えはねぇ!」



バカにすんな。



「ほう?外で盛りついてたガキが言うか」


「それ、は…」



咄嗟についた嘘だなんて言える訳ねぇ!



「たまには野外でヤるのもいいってか?」


「バ、カじゃねぇの!」



何をいけしゃあしゃあと澄ました声でそんな事言ってんだよ。だいたい話がしたいならその隠してる顔を出せってんだ。別に寒くもねえのにマフラーみたいなもん巻きやがって。



「──俺が誰だか知りたいか?」



オレの意図を読み取ったように淡々と聞いてきた細身の男。



「…ッ」



…オレは眉間にシワを寄せた。

ここでそうだと言ったらこっちまで名乗らなきゃならなくなる。


そして考えた末、



「いや、興味ねぇな。オレは一刻も早くコイツとしっぽりカマしてぇんだ。失せろ」



と、最後までクズを貫き通した。


ルシファーめっちゃ黙ってるけどごめん後でスゲェ言い訳させてマジで!



「ククッ…お前面白いガキだな。俺が昔知り合った男にソックリで気に入った。いいだろう無条件で俺が誰だか教えてやる。そうだなぁ…──傲慢な嫌われ者って言えばわかるか?」



その男はハッキリと言った。


その瞬間オレの腕にしがみついていたルシファーがビクッと体を揺らした。



『 なあルシファー。これクリス…だよな?』


『 …おそらく』



念話で確認してから、ソイツを見る。



「何だそれ私は国の象徴ですとでも言いたいのか?ハッ…笑えねぇくらい面白い冗談吐くんだな」



なんとなく挑発してみた。


あ、個人的な感情で特に意味は無いです。

イラッとした…それだけです。



「…国の象徴か…そうだ。情けなくて誰からも好かれず王座にふん反り返る嫌われた王様だ」


「ほう?自覚してんなら改善の余地があるんだな。で?その嫌われた可哀想な王様がこんなボロ雑巾かぶって何お外フラ付つきになられてんですか?」



「…ああ、コレは昔ながらの(ヘキ)だ。前はヨボヨボな死にかけの相棒が居たんだが…今は一人だ」


「…相棒にまで嫌われたか。全くどこまで残念な王様だよ。傲慢な嫌われ者って(マサ)しくアンタを象徴してんじゃねぇか」



「…糞ガキが。とにかく俺がここに居た事は誰にも吐くな。…わかったか?」



そして細身の男は捨て台詞を吐いて踵を返した。



「おい、ちょっと待て。発情期迎えた怪しい野良犬を野放しにしておくつもりか?」



オレが食い下がるように呼びかけると、進めかけた足をピタリと止め、



「…何故そんな事をする必要がある?

何か捕らわれる事でもしたのか?…私がそんな理由も無しに人を(オトシ)めるような人間に見えるのか?」



と、少しだけ振り返った時に風に(ナビ)いたボロ雑巾からチラッと悲しそうに笑みを貼り付けた笑顔が見えた。



「…いや、見えねぇから聞いた。野放しにするってなら心置き無く発散してやるだけの事よ。じゃあな王様サン」



正直そのツラを見て一瞬戸惑ったオレ。

てか…なんて辛そうに笑うんだコイツ。



「──まあいい。

とにかく俺もコソコソ抜け出している身だ。それに、野放しと言ってもやはり放置するとうるせぇだろうから声を掛けた迄。お互い様って事で見なかった事にしてやる」


「へぇ…そうかい。そりゃありがてぇな」



ついに足を進めた男は結局名前も顔も知る事なく背中を向け、どこかへ消えて行った。



「…ソウさん?」


「やべぇな…あの野郎…」



「どうかされました?」


「いや、無性に腹が立つ」


「…あの笑顔にですか?」



「…ああ。人間って極限まで追い込まれるとあんな顔になるのか?」


「…わかりませんがまだあの方がクリス王だと決まった訳じゃないですし、今は動揺する時じゃありません。それに、あの方が本当にクリス王なら遅かれ早かれ必ずまた会えます」



ルシファーはオレの動揺を丸ごと包み込むような優しい言葉をかけてくれる。


十中八九クリスだと思うが、ただのコスプレイヤーかもしれねぇし、…いや、それはないにしろ全くの別人も有り得るし、むしろとんでもねぇ敵だった可能性もある。



「お前、一人用の転移使えるか?」


「はい」



「なら、アイツら(剛達)の所まで飛ぶぞ」



今ここで歩くより一瞬で転移した方が目立たない。



「テレポート」

「テレポート」



ほぼ同時に唱えシュンっと風の切る音がして、フェリスと剛の目の前に移動した。



「──あーだるい」


「ハァッ…」



そういやルシファーも魔法使う度に少し呼吸が乱れるな。魔法特化タイプの天使でもキツいものはキツいのか。


今はまだ、あんまり…使わせたくねぇな。



「さっきの王様だったでしょ?」


「…ああ。よくわかったな」



フェリスが転移を終えたオレに間髪入れず訊いてきた。



「風で流れる匂いとあとあの話し方でね」



さすが獣ってところか。

悪意がなくても差別用語に引っ掛かりそうだからあえて口にはしないが。



「…お前面識あんのか?」


「…あー…昔ちょっとね。でも、ホント昔だから多分アイツは覚えてないと思うけど」



「ふーん」



いや、こんなこと話してる場合じゃない。


これからどうするか。



「とりあえず良くも悪くもクリスらしき人物と遭遇してしまった以上、これまで以上に気を引き締める必要がある。

口振りではオレらを敵として見てる様子は無かったが、もしかしたら裏に手回ししてる可能性も有り得るからな」


「…そうね」



「なぁソウ。まず、街にのめり込むべきじゃねぇの?こんなとこでいつまでもコソコソしてたらそれこそ正面から侵入できなくなるぞ?」


「そうだな。オレもそれを考えてた。この小さい扉を出入りするんじゃなくあくまでも入口は入口としてあの正面の門から堂々と入って堂々と出たいのが本音だ。

何事もなくただ他の国から遊びに来た観光客の感じで居たい。それにはこの小さい扉は必要ねぇよな?ここは最終手段だ」



「そうですね。それが一番こちらの精神的にもラクな方法です。コソコソするのなんてイヤですから」



ルシファーがさり気なく冒険に向いてないアピールをしたが触れてやらない。



「よし、各自それぞれ転移で門の前に行け。そのままバラバラに中へ入るぞ。入ったら合流する。ゴウ、お前は門をくぐったらすぐ右に逸れてそこで待ってろ。誰かに怪しまれたら友達と待ち合わせしてるとでも言え。

で、お前達二人は暫くオレらに近付くな。どこかで時間潰しててもいいからとにかくこっちとは別だと演出してくれ」



「わかったわ」

「…その後はどうしますか?」



「…オレが呼び掛けるまでは好きに時間を潰してていい。こっちも少し用があるからそれを済ませてからお前達を呼ぶ。わかったか?」


「「はい」」



「ゴウ、先に行け──ってそうかお前魔法あんまり使えねぇのか」


「…わりぃ」



「ま、いいや、コイツはオレが連れていく。じゃあ、後でな」



オレは二人を順次に見た後にテレポートαを唱え、剛を連れて門の前に移動した。






━━━━━━━━━━━━━━━

ボシーヘイデッド正門

━━━━━━━━━━━━━━━





────ドンドン!!



見上げるほどのデカい門につくづくタメ息しか出ないが、早くしないとルシファー達が追ってすぐにここへとやってくる。


そしてあまりこの辺をウロつかれたくない。

クリスと再度接触するかもしれねぇし。


ただひたすらに戸を叩く。

もう叩いてるっていうか殴ってる的な。



────ドンドン!!



「おう遊びに来ましたぞコラァ。開けてくださーい」



剛が得意の輩モードで門を殴る。

し、蹴ってる。



「おま、それはやめろ。取り立て屋みてぇだ」


「いやこの扉無駄に頑丈だから叩くと腕が痛てぇし…。…てか出てこなくね?」



確かに門の内側に兵士の1人や2人をくらい居てもおかしくないんだが。



“明日は感謝祭もか何とかで国が総出で休暇に入る”



え…?


え?ちょっと待って、何今のフラッシュバック。

スゲェやなモン思い出したっぽいんだけど!?



「な、なあ…ゴウ。多分オレの聞き間違いだと思うし、全然関係ないことを今から口走ろうと思うんだけど、サラッと聞き流してくれるか?」



とりあえず、剛にとっても気前のいい前置きをした。



「なんだよ、かしこまって」



いいか?今からお前のその笑顔を真顔に変えるマジックするからな。


オレは断りを入れたからな?



「…いや、大将がだな…その、…昨日…“明日は感謝祭とか何とかで国が総出で休暇に入るんだよ”とかって言ってた気が…。まあオレの聞き間違い──…っ!」


「…」



そうなるよねー?!

そうなるよ!うん!お前のその表情なんっにも間違ってない!正解!100点!


完全に“うわ、マジだ。オレもそれ聞いたかもしんねぇ”って顔してる。お前のその顔ホント笑ってあげたいけどそれより先に焦りすぎて笑えないって!



「どうすんだよ!」


「どどどどど!どうすんッ!」



「いや、落ち着けってゴウ!」



…終了のお知らせですか。


とにかく今は念話でアイツらに伝えねぇと。




『 聞こえるか?!』



焦りすぎて怒鳴ったかもしれない。

そしてどっちに語りかけたのか自分でも分からない。



『 なに!?』

『…はい!! 』



同時に両方から返ってきてこの土壇場で1回に二人と念話をする能力を身につけたオレ。

天才の域を超えた。



『 今どこだ!まだソコか?』



ソコってどこだよって感じだけど伝わればなんでもいい。こっちに来ても入れないんだから魔法の無駄になるだけだ。



『 えっと…喫茶店です…』

『 今?!ここは…カフェ?的なとこだよ?』



『「…ぇぇえッ!?」』



なんなんですかこの斜め45度を行く返事。



『 なんで中に…』


「ソウ!どうしたんだよ!」



『 あの…実は昨日シェイさんに“明日はボシーヘイデットの感謝祭だから警備とかはいつもより手薄になってるハズだから城の中じゃなければ割と簡単に入れると思うわよ?”って言われてて…ソウさん達と同時に正面から入ったら怪しまれると思ったからスクリーン使って中の様子みて誰も居なそうな所からスケルター使ってすり抜けました』



『あぁ!えっと昨日シェイさんに“明日はボシーヘイデットの感謝祭で警備とかはいつもより手薄になってるから城の中じゃなければ簡単に入れるよ?”って言われててさ…四人揃って正面から入ったら怪しまれると思ったからスクリーン使って中の様子をルシファーに見てもらって誰も居なそうな所から魔法ですり抜けて入っちゃった♪』



…同じ事を2回も聞けて良かったです。

充分理解できました。



『そうか…なら後でな』



無性に悲しくなったオレはそれ以上何も言うこと無く念話を切り、剛と向き合う。



「どうやら使えないのはオレ達だな」



剛の両肩にポンッと手を置きため息混じりで吐き出した。



「どうしたんだよ」


「アイツら今日の感謝祭で警備が薄くなってるから魔法ですり抜けて中に入って今優雅にお茶してるってよ」



「…ククッ…ブァハハハハハ!やべー何かとてつもなく笑えてきた!」


「…悲しくてだろ?」



「やめろ、言うな」


「「ハァ…」」



完全に遅れをとってる。


だが言い訳するならアイツらは魔法に慣れてるがオレら地球人は魔法とかつかってラクして生きてねぇしそんなん使わなくても頭使って生きてこれたし?


…もういいオレが悪かった。



「お前魔力少ないからオレがすり抜けられる魔法かけるわ。ちょっと待ってろ」



そして門から少しズレた近くの壁に、いつか下天界でポセイドンが唱えていたスクリーンを唱えすり抜ける先の様子を伺った。



「お?誰も居ねぇんじゃね?」



横から覗く剛が首をめり込ませる勢いで上下左右の様子を伺う。



「…ッ、大丈夫そうだな」



ピュンッとスクリーンが消えいつも通りの倦怠感。



そして今のうちにと間を取らずスケルターを唱えた。



「──は、早く入れッ」


「あ?!え?!あ!!」



「いいから行けよ!」


「イデッ!」



お前それは蹴られてもしょうがねえよ。魔力使うの辛いって言ってんだろうが。何、テンパってフニャフニャ踊ってんだよ。



「ハァ…んとによぉ…」



これが一人用のスケルトンならまだこ倦怠感もマシなのだろうが、二人も透明化するなんて…キツいに決まってますだろーが!



「は、初めてだったからつい…壁通り抜けるって突っ込んでってぶつかったら痛てぇじゃん?絶対。…オレそういうのヤだし」


「ヤだし。じゃねえよ」



…ナメやがって。お前いつか絶対疲労限界の時にオレに回復使わせてやるからな。


覚えとけよ。



「まあいいじゃん、中に入れたんだし。で、わざわざ別行動にした理由を教えて貰おうか?…まさか風俗とか行くんじゃねぇよな!?」


「…お前スゲェな。尊敬するよ」



スケルターを解いてさり気なく人混みに混ざりながら歩くオレの後ろで、えぇ?!違うの!?と、わざとらしく大声で言いながら後を着いてくる剛。



「とにかく、オレらもどこか落ち着ける場所に行くぞ」


「…でも、金無いし」



…そうだった。



「…出したもんを取り上げるつもりはねぇが、事が事だ。お前にさっきやった金使わせろ」


「えー!!…わかった…しょうがねぇよ」



「後でやるから。まずはオレらも店に入るぞ」



ここらで気付いたのはいつの間にか日が暮れてた事だ。


感謝祭と言うのだから店も休みが多いかと思ったが、飲食店はボチボチ灯りがついていて、意外にも商店街は賑わいを見せていた。


だが、正直コレは嬉しい誤算。

この数ある店のどこかにルシファー達もいるみたいだが、喫茶店って言っていたな。



「オレらは先に酒屋に行くぞ」


「は?!またやんの?!」



腕相撲のジェスチャーを交えながら、剛がオレに嫌そうな顔をした。



「いや、金稼ぎじゃねぇ。今日は国が総出で休暇だと聞いたろ?ならば酒屋に兵士が飲みに来てるかもしれねぇ。情報集めだ。それにお前と話したい事がある」


「え…何、オレお前と別れるとかヤだよ!?」



「バカじゃねぇの!んな事しねぇよ!」



急に張り上げた剛とオレの声に驚く、街を行くヤツらが怪訝な表情でオレと剛を見比べる。


あー。完全に勘違いされたっぽいわ。



「絶対別れてやらねぇから!」


「余計なことばっかり言ってんじゃねぇよ!勘違いされんだろうが!ほら、行くぞ!」



「いでででででッ!」



ガシッと剛の腕を掴み、その場から逃げるように消えた。





━━━━━━━━━━━━━━━

ボシーヘイデット城下町

━━━━━━━━━━━━━━━




歩いても歩いても見つからない酒屋。


喫茶店だの飯屋だの溢れんばかりに建ち並ぶのに、いくら探しても見つからないのは酒屋だけ。


もしかして、この国酒を飲む習慣が無いとか…ってないよな?



「なぁソウ!もう疲れたからどこでも良くね?」



オレが言わんとしていた事をシレッと言いやがって。出来るならオレだってそうしたいくらいだ。



「──なあ、ちょっといいか?ここらに酒屋ってあったりするか?」



オレは道をすれ違ういかにもなゴツい野郎に話しかけた。



「あら、飲みに行きたいのぉん?それならここから四つ先の交差してる道を左に曲がってずっと真っ直ぐ行けば飲屋街に行けるわよん♪」



そしてその野郎はまさかのオネェさん。



「あ、ああ。ありがとな」



オレは手早く礼を言って逃げようとしたが、



「あら?ボク可愛い顔してるわね♪あらあら、そっちのボクも♪」



──捕まった。



「なぁに?もしかしてデート?」



ウフッと口元を隠しながら嫌な目で見てくるオネェさん。



「デートな訳──」


「んふふ~そうなのよ~ん♪もう彼ったら少しでもアルコール抜けちゃうと直ぐに手が震えちゃうから少しでも補給しておかないとダメだと思ってね~ん♪」



!!!!?


あまりの流暢な嘘に剛をガン見してしまった。



「あらま♪冗談で言ったつもりだったのに本当だったのねぇ♪残念…二人ともタイプだったから食べちゃいたかったのに…」



口を尖らせるオネェ。キモ怖い。



「あらまぁ~それは残念♪

…じゃ、そういう事だからオレと遊びたいなら時間がある時にいくらでも遊んでやるけど、コイツはやれねぇな。諦めてくれ」


「やあん♪男らしいのねん♪惚れ惚れしちゃう♪」



「また、どっかであったら一発アソぼうぜ?じゃーな」


「あ、ちょ──」



剛はそのままオレの腰に手を回し充分過ぎるくらい引き寄せてから1度も振り返ること無く歩き進めた。


あまりの無駄のない動きに驚きすぎてされるがままのオレ。


オネェさんに言われた通り四つ先の交差する道を左に曲がった所で“ほら、もう大丈夫だろ?”と、急に離された腰周りが涼しくなってやっと我に返った。



「おま…」


「…やだぁソウくんったらんもぉ~♪何?コーフンしちゃった?」



「するか馬鹿野郎!あんな息吐くように嘘ついてんじゃねぇよ!」


「ハァ…ったくお前は相変わらずノリが悪いんだからよ…」



「誰があんなクソ寒ぃ芝居に付き合うか!キモイんだよ死ね!行くぞオラ!」



オレは剛の頭をバシッと叩いて足を進める。



「そっち来た道だけど?」


「ば!わかってるわ!行くぞ!」



ホント、コイツと居ると調子が狂う。

余計な事ばっかり。余計な勘違いされんだよ。


そういうのは二人きりの時だけにしろって昔から言ってんのにコイツはどこでもかしこでもデレデレしやがって。



「ゴウよく聞け!オレを揶揄(カラカ)って楽しんでるのはわかるが、それが通用するのはオレだけであって気持ち悪いと思うヤツも居るんだからもっと場所を考えて発言しろ!」



耐えられなくなって言ってしまった。



「は?なんでオレとお前との間に他人への気遣いが必要なんだよ」


「もうガキじゃねぇんだから言わなくてもわかるだろ?それにお前が好きなのはフィーだ!オレを口説いてもフィーは手に入らねぇんだぞ!」


「んな怒鳴んなくてもいいだろうが…」



友達想いのコイツを突き放すような事を言うのは本気で気が滅入るがコイツは馬鹿だから、そのうち友情と愛情がゴチャまぜになっちまう気がしてそれだけは正してあげたい親友なりの優しさだ。



「…オレとお前だけがわかればいいと思ってても、誰かと関わるなら多少なりとも配慮が必要だって言ってんだ」


「…悪かったよ」



…だが、本当にコイツがオレの事をスキスキ言わなくなったらオレどうなるんだろ。


ふとそんな事を思ったが、



「別にいいわ、ラクになるし」


「なんだよ…」



「いや、こっちの話だ。

だが、お前は死ぬまでオレの相棒だからなそこら辺は心配するな。もしこれでまた違う野郎連れて“親友”なんて抜かしやがったらオレは多分この星ごと消し去っちまうかもしんねぇから気をつけろよ?」



それでもコイツしか友達の居ないオレは独占欲がチラつく。


矛盾だ。



「ブハッ!お前も大概オレの事好きだからなぁ!」


「なんだかんだオレにはお前しか居ねぇし」



「オレも!」



虚しい会話ですら笑えるってやっぱり最高だ。






━━━━━━━━━━━━━━━

ボシーヘイデット酒屋街

━━━━━━━━━━━━━━━





「ん?これじゃね?え?!てかアレも、あ、ソレも!」



暫くヘラヘラと肩に腕を回し合いながら歩き進めていたら剛が目に付く店を手当り次第指さした。



「うわ、てか全部じゃねぇかよ。とりあえず何でもいいから入ろうぜ」



何でもいいからと言葉付けをしたクセに、怪しくなさそうな店をシッカリと選ぶオレは今日もヘタレ絶好調です。



「ここならお前も入りやすいか?」



剛の言葉に、



「ああ、なるべく知らないヤツと絡み合うような場所は避けたいからな」



と、外から中が丸見えのカウンターバーみたいな店に足を踏み入れた。


バーと言ってもカウンターだけで、それ以外は大衆酒場のような、安酒をかっ食らうオッサンの宴会場のような雰囲気。


言い直すなら薄汚れたオッサンの穴場?

着飾って入る必要のない店だ。


入って入口のすぐそばに空いてる席があった。




「──とりあえず見せかけでも何か頼んでおこう!」


「じゃ、ビール二つにちょっとしたツマミでいいんじゃね!?」



ガヤガヤとうるさい店の中で叫び合うように会話するオレら。



「いや!酒はこれからに響くからダメだ!」


「酒屋に来て飲まねぇってどんだけヤンキーなんだよお前!」



ヤンキーってなんだよ。

今どきのヤンキーってそんな体に優しいことしてんのかよ。



「とにかくダメだ。大将に酒控えろって言った手前オレらが呑むわけにゃいかねぇだろ?!」


「…確かにな!わかった!じゃあ飲みモン適当で腹ごしらえしちまうか!」



「そうだなそれがいい!!」



にしても、盛り上がるに盛り上がってんな。


見渡す限り顔の赤いオッサン。

気持ちよさそうにバカ笑いしてへべロケで語り合ってる。


感謝祭だもんな。

みんな気を抜いて飲み散らかしてるんだろ。



「──おう!いらっしゃい!何にするんでィ?」



カウンターに向かって剛がひたすら手を挙げてたらノソッと大男が腰にエプロン巻いてやってきた。


デけぇなコイツ。2メートルあんじゃね?


そのデカさに呆気に取られてると、



「おい!オッサン、デけぇよ!!」



と、剛がデリカシーの欠片もねぇ言葉を一発目にぶち込んだ。


最強かよコイツ。



「ブァハハハハハ!お前ら小せぇなぁ!ちゃんと飯食ってんのか!?んな鉛筆みてぇな腕しやがって!──んで、何にするんでィ?」



このオッサンの腕の比率から言えば、オッサンは丸太、剛は太もも、…ならばオレが鉛筆か?


いや、若しくは、剛が鉛筆ならオレはシャーペンの芯だろ。


…ツラ。


出会うヤツ出会うヤツが(コトゴト)くゴリマッチョで、最近やたらにコンプレックス感じるわ。


あ、でも、さっき壁外で会ったあの自称傲慢な嫌われ者だと言ってたボロ雑巾野郎はオレと同じようなもんだったよな。


ふふ、仲間が居たぜ?



「──い!おい!勝手に頼んだからな!」


「え?!あ、おう、別にいい!」



やることが早いんだから。



「で、話ってなんだ?!」



剛は背もたれ目一杯に寄り掛かりながら腕を組んで叫ぶ。


いや、あんまデカイ声で話せないから、そんな出来る限り離れるシステムやめて欲しいんだけども。



「ちょっと寄れ!」



オレはそう叫ぶと、のめり込むようにテーブルに肘を突いた。



「これでいいのか?!」


「ああ!」



さっきよりは会話がしやすくなったものの、それでもやっぱり軽く叫ばないと聞こえねぇ。


でもこれは逆をつけば内緒話する絶好のチャンスだろ。


近くに人が居ない事を常に注意していれば、普通に内緒話が出来る。



「さっき外で会った野郎の話だ!」



「ああ!クリ──」


「──言うな!ソイツの話だ!本人かどうかの確かめは出来なかったがアレは完全にソイツだった!とにかく今言えるのは、オレ達が読んでいた通り何かに踊らされて巻き込まれてる可能性がデカいって事だ!」



「マジかよ!!で?!どうすんだ!?」


「いや、あくまでも予定通り動く!まだ、確かな事がわからない限り下手に動けねぇ!ただ戻ったら大将に話しなきゃいけねぇな!」



「おう、オレもそれでいいと思う!で?ここで時間潰したらどうすんだ?」


「飯食ってから合流する前に偵察に行く!中の作りがどんなもんか知りたい!」



「そうだな!それも賛成だ。それから合流な!」


「いや、でも──」



「──おう出来たぞ!揚げ鶏と、スタミナステーキとライス大とライス、シーザーサラダと野菜炒めだ!」



途中で割り込む一際デカい声でオレらの話は一旦中断した。



「おう!ありがとよオッサン!」



次々と渡される料理を受け取り机に並べる剛。


ドカドカとちょっとしたパーティみたいな量の飯が所狭しと並んでいく


え、つか…こんな食うの?言っとくけどオレは無理ですよ?



「で、これ飲みモン!レモンスカッシュと、アイスコーヒー!以上でいいか?」



ダンッダンッと置かれたアホみたいにデカいジョッキに並々注がれたレモンスカッシュと普通のジョッキに入ったアイスコーヒー。


いろいろヤバイ。



「おうよ!とりあえずコレ、金だ!」


「あぁ!今日は感謝祭だからいい!みんな飲み食いタダなんだ!」



「「は?!」」



剛がゴソッと着流しの袖から出した金をオッサンは受け取らなかった。



「うちの王様が感謝祭は店を無利益で空けろって言うから今日は金取れねぇんだよ!あ、でもしっかり費用は受け取ってるから赤字にはならねえから心配すんな!ブァハハハハハ!!」



高らかに笑って言い逃げされた。


金を握り締めたまま唖然とする剛を唖然としながら見るオレ。


今一瞬あのオッサンが何語喋ってんのかわからなくなったぞ。



「は?王様って!?」


「ああ!アイツだ!」



何考えてんだ?クリスの野郎。

さっきもオレに撒くようにして金を寄越してきたが…


まさかアイツこの国を潰そうとしてんじゃねぇだろうな?


──嫌な予感が頭をよぎった。



「とりあえず早く食うぞ!」


「おうよ!」



ひたすら掻き込むように置いてある料理に手を伸ばした。


…どういう事だ?


見当もつかねぇがとにかく無駄に金を使おうとしてるのは目に見えてわかる事だ。


感謝祭だからと言われればわからなくもない話だが、それでも知らない野郎に自分の懐から札束を取り出して平然と差出すか?


王様は金持ちだから普通なのか?


──わかんねぇ。



とにかくこれを食い終わったら速攻で城の様子を見に行かなければ。


ガツガツと口に放り込む剛を見てると腹がムカムカしてくる。口の周り油ギトギトだし。


でも、この野菜炒め旨いな。あとこのサラダ。剛にしてはいいもん選んだな。


あ、でもコイツ食生活の育ちだけはいいんだったわ。


今日は高まる気合からスタミナ系揃えてガッついてるけど、こりゃ絶対後になって胃もたれしたとか騒ぎ始めるだろう。



「おい!コレ食うか?!」



オレはサラダを剛に差し出した。



「おう!ありがとよ!」



ガシッと箸で持てるだけの生野菜を掴んでそのまま口へ持っていく剛。


ハイハイ男らしいですね。



「お前、この野菜炒め──」


「──おう!ありがとよ!」



「あ、はい」



言い終える前に食われていくオカズ。

ま、もうオレの腹に入りそうにねぇし別にいいけどさ。


そしてオレは今、このジョッキに入ったコーヒーと戦ってる。


ズズッ!ズゴォッ!!とストローから吸い上げる音がこの雑音の中でもハッキリと聞こえ、剛がテーブルの横に備えてあるペーパーを束ごと掴んで口の周りを拭いた。


フィニッシュって顔だな。

清々しかったけどお前…それは紙使い過ぎだ。


…環境に悪い野郎だな全く。



「まだかよ!」


「ちょっと待て!あと少しで飲み終わるから!腹がタプタプして入らねぇんだよ!」



オレはまだかと言いたそうにオレを見る剛に今の体内状況を説明した。



「ムリすんな!腹壊すぞ!」



お前が頼んだんだろうが!



「オレはタダだからとかって食いもんとかを粗末にする事はしねぇんだよ!」


「わかってるよ!貸せ!」



「──おい!」



オレからソレをひったくった剛はストローを外してそのままジョッキ本来の飲みっぷりでコーヒーを飲み干した。



「ゴェフ…ッ!これでいいだろ!?」



デカいゲップをカマし、ドヤ顔でジョッキを机に叩きつけた剛。


もうホントお見事です。



「じゃ、行くか!」


「ちょ──」



剛は、少しも腹を落ち着かせることなく席を立ち上がった。



「オッサーン!!じゃあなぁ!旨かったぜ!」



馬鹿デカい声で叫ぶ剛に気づいたオッサンは



「おーう!また来いよー!今日なら夜が明けるまで開いてるからよ!」



大声で厨房から手を振ってくれた。



「おーう!また来るわー!!」


「ちっす」



オレも会釈程度に挨拶しといた。

多分聞こえてねぇけど。






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ボシーヘイデッド・城下町

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「ああ!食った食った!」


「ちょ、お前声でけーよ」



散々声張り上げて喋っていたからか制御が利かなくて静かになった店の外で思い切り叫んだ剛。


道を歩くヤツらがクスクスと笑ってた。



「あぁ!あぁ、あ…うん、こんくらいか。あぁ、耳壊れたかと思ったぜ」


「オレは喉も壊れそうだったわ」



つか喉どころじゃねぇよ!胃袋も肺も逝っちゃいそうだわ!


食い終わった瞬間目まぐるしく動かせやがってテメェ。あんなドライブスルー的な流れ作業で飯なんか食うもんじゃねぇから!



「オレはノドは平気だな…とりあえず見に行くんだろ?」


「ああ、そうだな、なるべく早く中を見たい。…簡単に入れりゃいいが」



…またしても悪意の無いソレね。

はいはい、我慢しますよ。



「そもそも何を見に行くんだ?」



来た道を戻りながら歩くオレ達。

いい感じに太陽は沈んで夜の始まりを告げるように空は紺色に広がっていた。



「あんま言えねえけど、アイツの様子と箱(城)の下だな」


「箱?…のシタ…?…下…ああ!だな!でもアイツの様子は見れても下まではキツいんじゃねぇの?」



「いや、下の入口だけでも探さねぇとダメだ。詰まる」


「…まあ何でもいいわ、オレはお前に従いてくだけだし」



まあコイツならそう言うと思った。



「時間が無い。とにかく近くまで行くぞ」


「あいよ!」



オレ達は飯で膨れた腹を抱えながら走った。









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ボシーヘイデッド・城前広場━━━━━━━━━━━━━━━





所々で人に訊ねては走り、かれこれ15分以上あちこち走り回ってやっとの事で城がすぐ傍に見えるところまで来れたオレ達。


ビックリするくらい胃の中でさっきの飯がサンバしてる。気を緩めたら一瞬でリバース出来そうだ。



「…ハァッ…ハァッ!」


「…お、オレ死ぬ…ッ…」



「こんな、走っ、たの、いつぶりだ…ッ?」


「わっ、かんねぇ…ッ!ソウで、も辛いな、ら、オレ死ぬって!」



城の入口前に広々と設けてある緑豊かな園庭が鬱陶しく思える程に疲れた。華美な花々が目の淵を眩く飾るがそれすらも今は不快でしかない。



「時間が無い、行くぞ!」



城はもうすぐそこだ。

とにかく中の様子が見たいだけだ。それさえ出来れば体制を立て直してから慎重に進めばいい。


あまり遅くなると女子二人組も勘付くかもしれない。特にルシファーは勝手に動く事を許さないタイプの女だ。ましてやフェリスも待たせてると言う状態で役者は揃ってる。


こんな所で喧嘩してまた揉め事を作って騒いだ暁にゃ一発でお縄だろう。



「転移出来るようにギリギリまで寄るぞ」


「あいよ!」



休憩させたいのは山々だがもう少し待ってくれ。

──オレらはやっとの事で城の入口目前まで来た。



「これでいくらでも転移できる。

…よし、次は目立たない場所で尚且(ナオカ)つ城に入れそうな壁を探す。見つけたらそのまま入るからな。さっきみたいにモタモタすんなよ?」



口早に説明して息付く間もなく周辺を探った。


壁を見つければ後ろを振り返り人に見られやすいかを確認する。


都合がいいのは今が夜だってこと。

それに加わって今日は感謝祭という国全体が気を抜く日。


中に入って地下の入口を探すのか、クリスのツラを拝みに行くのかどっちが先か悩んだ。



「ヤツ様子を見ようと思ったが思ったより時間が押してる。予定変更このまま地下の入口を探してアイツらと合流するぞ」


「おう」



そしてそれと同時にタイミングよく見つけた茂みになってるポイント。立派な花壇の後ろが茂みになっている為、間違えても枝の隙間からオレ達が見える心配もねぇ。



「──ここだ」



オレは躊躇なく茂みに突っ込み城の壁にスクリーンを唱えた。



「誰も居ねぇな。…“スケルター(透明魔法)”」



まず先に剛は透明化させ自分にも魔法をかける。



「お前絶対喋るなよ?」


「おう」



オレ達は透明になった状態で城の中を散策し始めた。






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ボシーヘイデット城・???

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オレらがすり抜けて入ったのはよく分からない真っ暗な部屋。やけに埃っぽく一度噎せたら永久に咳き込みそうな換気のなってない部屋だった。



「真っ暗で見えねぇ」


「多分…物置じゃね?」



コソコソと話し合いながら手探りで前に進むと、いかにもな装いの真っ赤な絨毯が敷かれた廊下らしき場所に出る。



「…ッ!」


「ッ!?」



足を踏み出そうとした時、城に仕えている雰囲気の服を身にまとった男が曲がり角から現れた。


驚いて剛ごと暗闇に戻るオレ。



「なんだよ!」


「シッ!騒ぐな。この魔法は人に当たると魔力が反発し合って強制的に解除される。

オレの魔力でお前にもかけたからオレは見えるだろ?お前は周りに気を使いながらオレを見失わないようについて来い。くれぐれも人に当たるなよ?」



コソッと耳元で用件を済ませ頭だけをソッと扉から出した。


…よし、誰も居ねぇな。


オレは剛に手招きをして今度こそ廊下に出る。


声や息遣いは普通の人間のように聞こえる仕様だと親父から受け継いだ記憶にあった。


やたらに接近することも許されない。

何事も無く地下牢の入口を見つけられたらいいのだが。


急がねぇと時間が迫ってる。

それはオレを焦りに変えるだけだった。



…ここか?



廊下に出てそのまま真っ直ぐに歩いた突き当たりにある扉をすり抜けた。



「…ッ」



ガヤガヤとしていたそこは食堂らしき大広間で、溢れんばかりの汗臭い野郎共がドンチャン騒ぎしている。



危ねー。



「ここじゃねぇ…行くぞ」



後ろから大人しくついてくる剛にコソッと告げ、次に目に入った扉まで進んでいく。



…ここは?



ヌウッと扉からすり抜け次に見たのは兵士達の休憩室の様な一室。


簡易的な寝床で休んでる奴や古ぼけたソファーに腰掛け武器の手入れしている奴など、それぞれが自分の時間を思うがままに過ごしていた。



…違うな。



感謝祭で国が休み入っているってのにやっぱそれでも兵士は仕事するらしい。


外にこそそれらしきヤツらは見受けられなかったが城に入った途端やたら兵士やメイドを見るなんて。


休みたいだろうに。

哀れみの目を向けてその場を後にする。



「ここも違うみたいだ。どこだ?全然わかんねぇ」



剛に言いながら自分で焦る。



「…あのさ、ソウ。とりあえず下まですり抜けて地下牢から上に上がる道を探した方が早くね?…て、思ったんだけど…」



剛にしては物凄く小さい声で遠慮がちに呟いた。



「それだ!」



オレは天啓の如く閃きが衝撃的に舞い込み即座に意識を地下へ集中した。


正直、一か八かの賭けだ。


すり抜けて降りた場所が人の上だとそのまま魔法が解けて正体を暴く事になる。

だが、このまま虱潰しに部屋を探っても見つかる気がしない。


もう、そうするしかない。



「おい、今から意識を集中して下にすり抜けていくイメージをしろ」



剛はコクっと頷いてからすぐに床へと沈んでいく。


…よし、コイツも大丈夫そうだな。

魔力が著しく低い剛に、そんな事が出来るのかと少々不安に思っていたとこだ。


でも、存外すんなりとやってのけてくれたお陰でオレも躊躇なく地下へすり抜けられる。


視界がゆっくりと沈んで、やがて真っ暗になり、パッと地下牢の目の前に降りた。



「──ソウ!ヤベェって!」



先に降りていた剛が焦ったような声を出す。



「おい、静かにしろ──ッ!?」



着地早々騒ぐなと剛に顔を向けたら想像以上に姿がハッキリと見えた。



「おい、お前魔法が解けてるって!」


「お前もだ。何故だ?!」



ここまですり抜けて来れたって事は、透明化されていたという事。


だが、着地した途端に魔法が解けた。

…まさか魔法が制御されてるのか?



「とにかくバレたかもしれねぇからここからは慎重に進むぞ。完全にバレるまでは暴れんじゃねぇぞ」


「ソウはどうするんだ?」



「オレも、隠れながら進む。ヤバそうなら気絶くらいならさせてもいいが痕跡は残すな」


「ついでに人、助けるか?」



「いや、思った以上にここは広そうだ。全員揃って練り直さねぇと失敗する気しかしねぇ。今は出口を探す、ついでに道も少し覚える」



行くぞ。と静かに気合を入れて、出来る限り静かに走った。






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ボシーヘイデット城・地下

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「…グフッ!」



思った以上に兵士が居る。

感謝祭やら何やらで浮かれてたのはオレ達の方だったみたいだ。



「ソウ…お前もっと人に優しくしろよ。…何人目だよ」



かれこれ走り始めて5分、地下牢を迷い始めて5分、この10分の間に出会(デクワ)した兵士は八人。剛が見つかりそうになる度、全て気絶させた。


バレるのも時間の問題だ。

これ以上ここに居てはならないと本能が呼びかけるが一向に出口が見つからない。


なんだここ…広すぎるだろ。

さっきからどの牢屋も人が入ってる様子はねぇし…恐ろしく思うほど不気味だ。



「先に壁を探そうぜ。壁を伝って行けば必ず出口が見つかるハズだ」



オレの焦りを汲み取った剛はなんとか落ち着かせようと宥めてくれる。



「だな」


「突き当たるまで歩くぞ」



全く…どっちが支えられてんだか。


剛を守る為に必死になって見かけた兵士を手当り次第気絶させてたが、こんなふうに声かけられて自分の方が取り乱してると気付かされるなんて。



「…結構焦ってる」


「お前が発狂してもオレが気持ち悪いくらい落ち着いてるから何の心配も要らねぇよ」



“だから好きなだけ焦ってろ”



って。

頼りになるなぁチクショウ。



「──お?…壁じゃね?」



先頭を仕切ってたオレに変わり剛が前を歩いた状態で暫く進むとスピードを落として指さした。


間違いねぇ、壁だ。



「じゃ次は扉だな…って…は?」


「あ?」



先に壁に手をついた剛が何かを見つけたように声をあげた。



「コレ…扉じゃね?」



後ろから覗き込んで見ると剛の手がつかれた壁のすぐ横に扉。


戸惑いを隠せない剛が耐えきれず笑い出す。



「いや、でもこれが上に続くとは限らねぇ。中を見ねぇとな。…扉、開くか?」



次はオレが冷静になる番だった。



「開くか?…あ、開いたわ」



気が抜けるほどアッサリ開く扉。中を覗くと上に続く階段があった。



「…さすがに笑えるな」



ついにオレまで笑えてくる始末。


始めからこうしてればもっと早く解決したものをわざわざど真ん中走り回って迷ってたなんてバカも極めると哀れだわ。



「とりあえず上がるぞ」


「だな」



迷う事無く扉の先へ進んだ。





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ボシーヘイデッド城・???

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「スケルター」


───パァァァ…



螺旋のように回る階段を上がり1番最初に見えた扉の前で魔法を唱える。


階段はまだ上にと続くが今のオレ達に上階は見に行く必要が無かった。


そして、やはりと思ったのが魔法が使えないのはあの牢屋のある地下だけで、それ以外は問題なく魔法が発動された事。


オレや剛は刀術メインの戦闘法だから魔法な使えなくとも申し分は無いがルシファー達はどうなるのだろうか。


フェリスは何となく魔法を使わなくともいけなくはない気もするが問題はルシファーだ。


アイツは完全に魔法補助タイプだろ戦闘よりも回復メインだと言われなくてもわかる。


オレらに優しくねぇ城だよ全く。



「ま、いいや、人にぶつかるなよ?」



スクリーンで確認した扉の向こうを指差しながら、剛にしつこく言い聞かせた。



「わかってるよ!しつけぇな!」



いや、お前はしつこく言っても足りねぇくらいブッ飛んだ事すんの得意だろうが。



「じゃあ、行くぞ」



得意の扉から顔だけ出すスタイルで、辺りを確認してから手招きで剛を促した。


…これでやっとアイツらと合流出来る。


そして出た廊下を真っ直ぐ歩き、突き当たりの部屋に顔を突っ込んだ。



…あれ?



そこはガヤガヤと賑わう食堂らしき大広間。

──完全にデジャヴった。



「…こっちじゃない。戻るぞ」



気にした様子でオレを伺う剛に何事も無かったかのように伝えたった今歩いた廊下を戻りそのまま出てきた部屋に向かった。



「つか…お前、何してんの?」



剛が怪訝そうに聞いてくるが、恥ずかしいから無視。


完璧にガン無視をキメ込むオレ。


今はそれどころじゃなく、この目の前にある隙間なくピッタリ横に並んだ扉のどちらに入ろうか悩んでるとこだ。


邪魔をするな。



「お前…なんかよく分かんねぇけどダセェよ?」


「るっせぇよ!」



本能で感じるってかコノヤロウ。



「…オレなら左の扉だな」



ボソッと呟いた剛に妙な対抗心が沸いて、つい右の扉に顔を突っ込んでしまう。


そしてソコは今さっき通ったばかりの階段だった。



「…」



無言で頭を引っ込めるオレ。



「な?左だったろ?」



と、スカした声でドヤられて恥ずかしくて顔も見れなかった。





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ボシーヘイデッド城・外部

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「はぁぁぁぁ!シャバだぁぁぁ!!マジ辛かった!キツかった!!」


「ハァ…」



素直に左を選んでいたらすぐにこうして出れたのにオレの要らない反抗心で無駄な時間をくった。


ホント剛の言う通りマジで辛かったし精神的にもキツかった。



「よし、アイツらと合流だな」


「お?ついにか。なんか久しぶりに感じるわ」



「確かに。別に2時間弱しか離れてねぇのにな」



それだけ有意義な時間を堪能したって事ですかね。


もう、二度と御免だけど。



『 わり、待たせたな。今何処だ?』



オレは早速ルシファーに念話を繋げた。



『 …あ、よかった。あまりにも遅いんで、今念話しようと思ってた所でした。私達はお城前の庭園に居ます。ソウさん達は何処ですか?』



なんだよ、メチャクチャ近くにいんじゃねぇか。



『 オレ達も同じ場所にいる。ちょっと待ってろ今行く』



念話をしながら茂みを通してルシファー達を探すと、少し離れたベンチに一際輝いて見える二人組の女が居た。


この暗がりの中から見てつくづく思うけどアイツら二人どこから見ても綺麗かよ。



「おいゴウ。ルー達がすぐそこに居るから行くぞ」


「マジかよ!!…あ!ホントだ」



「…何してたかあんまペラペラ喋るなよ?」



ルシファーうるせぇんだから。



「ルーに怒られちゃうもんな」


「っせぇよ」



ガサッと茂みから出て、何食わぬ顔して合流した。





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ボシーヘイデット城前庭園

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「…じゃあまた私達に内緒で勝手に危ない事してきたんですね?」



で?…何故こうなった。


作戦の立て直しに必要な事を話して行くうちにどうしても暴露しなくてはならない状況に追い込まれそれでも頑張って誤魔化しながらも上手い具合に躱していたはずなのに。



「いやだから…何も知らずに入ってって手古摺(テコズ)るくらいなら少しは把握しておいた方が良いかなと…」


「ですから?」



「…お前らもここに来るまでの道を調べといてくれたからオレ達だってそのくらいしてやりてぇし…」



オレの声が少しずつ小さくなっていく。

横にいる剛が俯きながら肩を震わせ笑いを堪えてる。


どの道怒られてるオレらって超可哀想…とか思ってんだろうな。



「私達はこんなに危ない事してませんよ?お二人は完全に敵の陣地に入り込んでるじゃないですか」



一緒にしないでくださいと結構本気で怒るルシファー。言い返しても無駄だと悟り、それ以上は何の弁解もなく言い訳もせずに黙った。



「まあまあ、別に何も無かったんだからいいじゃん。あんまりプリプリ怒ったってどうせこの二人アタシ達の言う事なんて聞きやしないんだから疲れるだけだよ?」



フェリスが楽しそうにルシファーを宥める。


…てか何その全てを諦めたような言い方。

そんな利かん坊になった覚えは無いぞ?



「はぁ…何で言う事を聞かないんですかね。…私と約束した事ってそんなに難しい事なんですか?」



腕を組みながら頬を膨らますルシファー。



「いや、心配かけるから…」


「だから心配になるんです!心配かけると思う事をする訳ですよね?それを何度も何度も隠されてたらこっちだって別行動許せなくなります!」



どうしてわからないんですか!と半ば怒鳴り気味に叫んだ。



「そ、そんな怒るなよ…今それどころじゃねぇだろ?後でたっぷり説教されるから…な?」


「…全く。ホントやめてくださいね!」



機嫌取るの難しくなってきたなコイツ。

日に日に気が強くなってる気がするんだが気のせいか?


そのうちコイツも完全にオレのママンみたいになるのか。


…………………ヤだなぁ…。



「…あー…だいぶモチベーション下がったが計画の話をする」



ルシファーに対して軽い皮肉を込め、オレは続けた。



「まあ言った通り、城外はお祭り騒ぎで兵士達も活動していないが中は一部を除いて通常に勤務してる状態だ。そこまでは普通にスケルトン使って進めるが地下からは魔法が一切使えない状況だった。だからなるべく戦闘はしない方向で事を進めようと思う」


「「…」」



作戦らしくなってきたこの空気に気が引き締まる女子二人。


初めての任務だ、緊張するのも無理はない。



「それと助け出す民衆の件は、回復効果のあるオレのボックスに全員入れて外に出す予定のハズだったと思うが、魔法が使えないならそれすらも出来ない。

よって、民衆全てを魔法が使える場所まで誘導しなければならない事は言わなくてもわかるよな?」



今回の計画の山場がそこだ。


もし、兵士達に見付かればすぐに応援を呼ばれてパニックになる。だからこそ慎重に慎重を重ねなければならない。


ひと通りの計画を一気に話してから言葉を区切り、三人の様子を伺う。



「…じゃあ、辺りを警戒する係と、助け出す係に手分けしなきゃいけないのね?」



フェリスがそう答えた。



「そう言う事だ。とりあえずオレが今考えてるのは、まず見つからなかった牢屋を手分けして探す。見つけ次第全員合流して、ゴウとフィーは辺りの警戒、オレとルーで民衆の誘導、魔法が使える場所まで出たらオレのボックスに全員入れて、リトルウィアークに戻る。…こんな流れだ」


「広さはどのくらいでしたか?」



自力で機嫌を直したルシファーがいつもの可愛い声で聞いてきた。



「どのくらいだか分からないが、信じられないくらい広かった。もしかしたらこの城と同じだけの面積があるかもしれないな。

ただ、ハッキリとわかっているのは10分歩けば10人の兵士に遭遇すると思っていい程に警備が厳重だ。それが意味することが分かるか?

…民衆が捕らわれてる牢屋を見つけるのに時間が掛かれば掛かるほど兵士に出会す確率が上がるって事だ」



三人の息を呑む音が聞こえた。



「剛には指示したが見つかってしまえば面倒な事になるのは目に見えてるだろ?だから気絶させるくらいならやってもいい。ただ、仕事を全うしてる人間相手に本気で殺しに行きたくない。

ヤツらは与えられた仕事を(コナ)しているだけで中には不本意ながらに生活の為に打ち込んでるヤツもいるかもしれないだろ?」



物静かにオレの言葉を一言も漏らさず聞き入れる三人に胸の内を明かした。


オレは別に戦争がしたいんじゃないと。

人を殺めたり怪我を負わせたりする為にここに来た訳じゃないと。


綺麗事の一環に過ぎない戯れ言のようだがオレの本心は揺ぎなくそう思う。



「…じゃあ、お前のその理論に基づいて言わせてもらうけどさ、もし、ここの兵士が捕らえてる民衆を甚振(イタブ)ってたら、それは悪意と看做して抹殺していいって事だよな?」


「…いや、ダメだ」



「何でだよ!もしかしたらここで捕まってるヤツらロクに飯も食わせて貰ってねぇかもしんねぇんだぞ?怪我してるのを放置されてるかもしれねぇし。風呂だって満足に入れてもらえてねぇかもしれねぇのに…」


「…それでもだ。

もし目にした光景がそうならオレですら正気を失うと思うが、その怒りに任せるような真似だけは絶対にするな。…オレも出来るだけ冷静になるように心掛ける」



オレの言葉に“あんまりだろ!”と剛が叫ぶとルシファーがそれを遮った。



「違うんですよゴウさん。

聞こえが悪い事を言いますけど今回の件は裏で何が動いてるのか分からないモノ、所謂見えない敵と戦っているようなものです。今ここで手当り次第に制裁を加えていたら、真実に結びつけなくなる可能性が生まれてしまいます。

なのでまずは民衆全員の無事を祈って探し出し、元居た場所に返してあげる。ソウさんはその事だけを考えて欲しいだけだと…」


「…わかるかゴウ。

オレはコソコソ悪巧みしてる奴がこの上なく嫌いなんだよ。お前に言われなくともこの件の黒幕にはキッチリ落とし前つけて貰うつもりでいるから何も泣き寝入りしろとは言ってねぇ。

気持ちよく暴れる為に揃えるもん揃えとかねぇと後味悪いだろ?だから今は止めてくれって言ってんだよ。然るべき時が来たら最高なおもてなしでジワジワ甚振ってやりてぇんだ、オレは」



「おま、…顔怖すぎ」



あ、想像したら楽しすぎて。



「ゴウわかった?いつもクールにキメてるソウがこんなに真っ黒な笑顔を見せるくらい頼んでるんだからさ、言う事聞いとかないと連れてって貰えないよ?」


「確かに…。わかった。じゃあ目をつぶってやる。でも万が一我慢出来なくてオレが暴れそうになったらしっかり止めてくれよ?」



「…なんだそれは。腕の一、二本へし折れば黙るのか?」


「あ…いや…拙者、腕二本しか無いからそれは困りまするでございまする」



真っ当なご返答有難う御座います。

でもお前みたいなゴリラ止めるならそのくらいしねぇと逆にこっちの身が危険だからな。



「大丈夫ですよ♪回復があるので♪」



ルシファーがニヤリと口元だけを緩ませた。


ごめんなさい、それは怖いでございまする。



「ちょ、回復っておま、堕天使かよ!ソウに骨折られたら多分粉砕どころじゃ済まねぇってば!」


「ほぉ?お前に危機管理能力がある事に驚きだわ。──なら暴れんな。以上。あー少し長くなったが、そろそろ行くか?あんまりのんびりしてられねぇし」



「そうね」

「ええ」

「よっしゃ…」



じゃあくれぐれも怪我をしないようにと話を締め括り、茂みの方へと並んで足を向けた。



「──さっきすり抜けたのはこの辺だったな?」


「おう」



「じゃあ…このくらいか?」



オレらは茂みに入って先ほど剛とすり抜けた壁を頼りにそこから少しズレたところに立った。



「あぁ、直接階段があった部屋に入ろうとしてんのな?…それならもう少し左に寄った方がいいと思うぜ?」


「そうか」



剛の見解を聞き入れ、もう二、三歩左に寄った。



「誰も居なければいいですね…」



少しばかり緊張した面持ちのルシファーが不安そうに呟いた。



「大丈夫よ、ルー。何かあったらアタシが守ってあげるから」


「フィー…ごめんね。私少し恐くて…」



「わかってるわ。でも安心して?アタシ、自分でもビックリするくらい平常心だから、間違えてルーが腰抜かしても、アタシが担いであげられるから」



“だから好きなだけ震えてていいわよ”

どこかで聞いたようなやり取りだった。


フェリス、頼りになるなぁチクショウ。

…そう思ったら落ち着くやつだろ?ルシファー。


わかるよ、オレもさっきやったから。




「…スクリーン」



二人のやり取りを微笑ましく横目で見ながら、オレは目の前に立ちはだかる壁に向かって魔法を唱えた。



「お?…誰も居ねぇみてぇだな。どうする?もうここから別行動するか?」



剛が後ろで覗き込みながら言った。



「いや、まだいいだろう。下に降りたらすぐ別行動だ。…よし、大丈夫そうだな。二人とも今のうちにスケルトン掛けとけ」



「わかった!」

「はい!」



真っ直ぐにオレを見つめた二人は指示を受けてすぐにスケルトンを唱えた。



「オレらも行くぜ…スケルター」



剛から順に体が薄くなっていく。



「うわ、やべぇ、フィーが見えねぇ」



ビュンビュンと手を振りフェリスの居場所を確認する剛。



「おい!やめ──」


「「あ」」



あぁあぁぁぁぁもう!


言ったそばからやるってお前どんだけ期待裏切らねぇ野郎なんだよ!いちいちイライラさせるんじゃねぇよ!


魔力使うと疲れるって何回言わせんだ馬鹿野郎!



「だからさっき言ったろうが。人にぶつかったら見つかるんだって。無駄に魔力使わせんなよ」


「え、スケルトン相手にも?」



「当たり前だろ!一番魔力が反発するわ!もういい全員同じ魔力でやるぞ。もう1回掛けるからちゃんとしろよ?」



ルシファーにスケルトンを解けと指示した。



「…本当に…ゴウさん、勘弁してください」



スケルトンを解いたルシファーが全身を曝け出してすぐ剛に詰め寄り文句を言う。



「悪かったって…」



コレにはいくらの剛も少しは反省したのだろう。口を尖らせてバツの悪そうな顔で謝ってた。



「よし、オレの魔力で行くぞ。…正直結構キツイけど地下に出たらどの道魔法が使えねぇんだ。…まだいける」


「無理しないでくださいね」



「ああ…大丈夫だ。行くぞ。スケルター」



オレの目に映ったヤツから消えていく。

ルシファー、剛、フェリス、オレの順だった。


こんな調子で地下牢潜り込んで大丈夫なのかと本気で心配になるが、ここまで来たら後に引けねぇだろ。


連れて行くしかねぇんだから。



「おいお前ら。もう茶番は無しだ。気を引き締めて行くぞ」



全員の面構えを確認したオレは、先陣切って壁をすり抜けた。



「ここから先は魔法が使えない。扉を越えるまで効き目はあるが向こうに出たらそのまま姿を現す事を理解して進め。お前とフィーは入って右な。ルー、お前はオレについて来い」



全員が声を出さずに頷く。


今目の前にあるのは地下牢へと続く無駄にでかい扉。下天界の宮殿程ではないが人間が通るのに充分過ぎる大きさだった。


入ってすぐバケモンとか出てきたらどうする?とかって気の抜ける剛の声が聞こえるが、



「──行くぞ」



ソレを無視してオレは足を踏み出し地下へと繰り出す。


想像通りと言えようか入った瞬間には全員の姿がハッキリと見えた。



「おいゴウ。フィーを頼んだぞ」


「…任せろ」



無駄な話は一切せずオレ達は別々に別れて走り始めた。


少しでも今の状況を理解して欲しかったから。







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ボシーヘイデッド・地下牢

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~その後~





「…まだ見つからない…」



案の定、予定通りとも言える迷いっぷりで闇雲に走り回ったおかげで右も左も分からなくなってる状態だ。



「真っ直ぐ進むぞ」



剛も今頃迷ってるはず。

オレ達だけでも牢屋を見つけてやらねぇと。


逸る気持ちを押し殺して冷静を言い聞かせながら前へと進んでいく。



「…兵士の方々が見当たらないのですが…」


「ああ…ひとつの場所に纏まってるのかもしれねぇな」



「人の気配…」



ルシファーはそう言うと黙り込み何かを空想する仕草を取った。



「ふ、フィー達が20人くらい兵士と遭遇したって…」



上擦る声でルシファーが言ったのはまるでオレの悪い予感に示しつけたかのように重なった。


何も捕らえてない牢屋を厳重に警備する訳ねぇ。監視の目が光る一箇所に纏まってそこにたまたま剛達が踏み込んだと考えていいだろう。



『 おい、お前達の居場所が知りたい。剛に何でもいいから刀術を使わせてくれ』


『 あ、うん!ちょ、ちょっと待って!今結構、ヤバ──』



フェリスとの念話はすぐに繋がったが言葉の途中で切れてしまう。



「ッ…合流しねぇと!」



走り出そうと足を一歩踏み出したらルシファーに袖を引っ張られた。



「落ち着いて風の動きを感じてください」



そしてピタリと止まったオレの頬を掠る風が一定の向きから流れ込む事に気付く。



「…こっちだ」



オレは震える手を堪え右を指した。



「ええ…ここから右進んで様子を伺いましょう。タイミングを見て場所を示す事をやってみると言っていたので…そろそろだと──」



────ドゴォォオォォンッ!!



「「──!?」」



ルシファーが言い切る直前、爆発音に近い音が響きオレ達が意識を向けていた右側から爆風が波のように通り過ぎて行った。



「大丈夫か!?」



咄嗟に抱きとめたルシファーに確認を取る。



「い…今のはゴウさんが…」


「…んのバカ野郎。加減を覚えろってんだよ。…風が吹き込んで来た方だな?」



「おそらく…」



技がデカ過ぎてよく分からないのが本音だが凡その位置はわかった。


もしかしてパニクってる…?



「──急ぐぞ!」


「はい!」



焦る気持ちを汲み取ったルシファーは風の向きに逆らって走り始めるオレの後にピッタリとついて走り始めた。






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ボシーヘイデッド城地下・???

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“──あれ?今でかいネズミが二匹いたと思ったんだが?”


“気のせいじゃね?んな事よりお前の番だ早く一枚引けよ”



“いやさっきの爆風といい、さっきから視界を彷徨く気配といいなんか今日少しおかしくね?”


“何もなかったんだからいいじゃねぇか。ほら早くしろよ。もしかしてお前負けそうだから誤魔化してんのか?”



“そんなんじゃねぇよ。確かにここにいたんだよ──”



今、真下に見えるのは少し広めに設けられた兵士達がトランプをしながら寛ぐちょっとした広間。


そしてその場を挟んだ向かいの天井に身を潜ませるように固まる剛とフェリス。


剛達の気配に気付く兵士が二人の真下でピタリと足を止めた。



“…気のせいだったか?”


“なんでもいいだろ。現れたら捕まえればいいんだし”



“…でもクリス様の側近が…”



何かを言いかけて押し黙る兵士に“確かにな…”と苦そうに答えた片方の兵士。


──興味のある話をしていた。



『 ソウさん…側近って…』


『 怪しいヤツが出てきたな。もう少し調べたいとこだが…』



さっきから聞こえてくる女や子供らしき唸り声が耳に響いて上手く集中が出来ない。



『 ソウ!ここから牢屋に閉じ込められた人が見えるよ!』



フェリスから念話が届いた。



『 …何人くらいだ?』


『 …奥行が結構ありそうでそこまで見えないんだけど…今見えるだけで15人くらいかな?』



ビンゴじゃねぇか。


兵士達の溜まり場の前に房があったか。

…クソ野郎、手古摺らせやがって。


だが、助けに行くにはまずこの兵士達を何とかしなければならねぇ。親父に能力を授かってるなら剛も念話が出来るはずなんだが…


クソ、なんで確かめなかったんだ。



『 剛、聞こえるか?』



一か八かで剛に問いかけた。


向かいの天井で驚いたように体をビクつかせた剛がオレの事をア然とした顔で見つめる。


いや、ビックリするよな、ごめん剛。



『 念話だ。お前もオレに言いたい事を頭で念じて問いかけてみろ』



こっちの話ばかりが通っても意味が無い。

意思疎通をしないと動くに動けねぇんだ。



『──ッ、…、──、』



そして暫くしてからノイズのように脳内がザワザワしてくる感覚が流れ込んできた。


…この下手くそな感じ、剛だな。



『 お前なら出来る』


『 ッ、…ッ!…あ…!!』



センスのねぇ野郎だ。



『 ゴウ──』


『 ゥゥゥウウゥウウッ!ソウ!こうかあぁぁぁぁッ!?』



キィィィインと金切り音が頭の中を駆け巡り頭痛に近い衝撃が走る。



『 バカ野郎!念じろとは言ったが叫べとは言ってねぇぇぇぇえッ!!』



オレが念話で怒鳴ると向かいの天井で落ちないように体を突っ張る剛が頭を抱えてふらついた。


どうだ、うるせぇか。ざまあみろ。



『 創…これ、難しいって…』


『 お、その感じだ。普通に頭の中で独り言を言うようにすれば伝わるハズだ』



『 …何となく、掴めたかも。…で、何?』


『… ああ、そうだ。今からオレとお前でこの真下にいる兵士を気絶させようと思うんだが…。別にオレ一人でも構わないんだがなるべく相手の記憶に残らないようにしたいんだ』



『あー…二人一気に気絶させたいのか』


『まあそういう事だ。他に居た兵士達は?』



『全員気絶させて置いたけどそろそろもしかしたら目を覚ますかもしれねぇな』



剛が言い終えた時だった。



“──?!”


“───!!──、──!”


“─、────ッ、──…?”



背後から人の気配がこちらに向かってくるのがわかる。



『 言った側からお前が寝かせた兵士がお目覚めのようだぞ』


『うわマジかよめんどくせぇ』



オレは後ろを振り返り向かい来る兵士の数を確認する。



『ソウさん、どうしましょう…兵士が…』


『ああ、大丈夫だ。お前はここで待ってろ。フィーにも伝えてくれ…オレはもう一度アイツらを寝かしつけてくる』



動揺を隠さずに震えるルシファーを落ち着かせ、再度剛の方を見た。



『こうなったら行くしかねぇ。どの道、ここの目の前に牢屋があるんだ。先にコイツらを何とかしねぇと出せねぇだろ?』


『…確かにな。作戦は?』



『カッコよくキメろ。…だ。』


『ソウ…お前案外あざといのな…』




『うるせぇよ、…行くぞッ!』

「──そこをどけェェエエッ!」



オレは刀を振りかざしその場から兵士目掛けて飛び降りた。



────フォンッ!



風を強く巻き上げ着地する場所を作ったオレは剛より先に降下していく。


全ての兵士が飛び退きア然とした表情を浮かべる中、オレの後に剛も着地した。



「とりあえず…少しだけお寝んねして貰おうか?」


「──な」



────シュンッ…



何事だと騒ぐ隙も与えず、近場に居た兵士の鳩尾(ミゾオチ)に刀の柄の部分を打ち込む。


グァッ!と足掻くような声を上げて暫く苦しむ兵士はそのまま気絶したようだ。



「お前達全員が悪いヤツに見える訳じゃないが、今邪魔されたら困るんだ。悪いけど殺しやしねぇから耐えてくれ」



見せしめの如く、あえて時間をかけ一人の兵士が気絶していく様を晒した。


ヒィッと腰を抜かす兵士や、警棒のような物に手をかけ警戒をする兵士、中には逃げ出そうとコッソリ動き出す兵士も。



「おいコラ、オッサーン。どこ行くのかなぁ?」



それを見た剛が、させまいとすかさず飛び掛りオレと同様の手口で気絶させる。


助けに来たヒーロー側のハズなのにコイツのお陰で悪役が板に張り付いてる気分だ。



「貴様ら!何処から侵入した!?」



一人の兵士が、今にも飛びかかってきそうな面構えでギシリと歯軋りをしながら剣を構えて唸る。



「悪いな。それは言えねぇんだ。とにかく今は大人しく眠っててくれ」


「おい──」



────ドスッ!


「ギャッ」



───ドスッ!


「うっ!」



────ドスッ!


「あっ!」



とにかく魔法を使わなくとも出せる範囲のスピードで近くに居た兵士から次々と投げ打つように気絶させていく。


顔を覚えられたら後々面倒だと思ったからだ。



「お、おい、こんな事して許されると思うなよ──」


「だから先に謝ったろうが」



────ドスッ!


「ヴゥ…」



バタリと音を立てて崩れ落ちる他とは少し風格の違う兵士。ここの担当の代表なのか。


次々と仲間が倒されてゆくのを目の当たりにしたにも関わらず最後まで抵抗しやがって。

気の毒だが、今のオレ達には邪魔でしかない。


一人気絶させたなら、何人落としても同じだろ。


今更、怪しい者ではないと語ったところで信じてもらえる訳が無いのだから、仲間と仲良く気絶して貰うに尽きる。



「ハッ、大したヒーローだな」



剛が皮肉を込めて刀を腰に戻した。



「怪我させてないか?」



シンと静まり返った中、いの一番に訊ねた。



「お前が言うの?なら普通に突いたとこならアザぐらいにはなってると思うけど?」


「フッ…だな。二人共降りて来い」



横たわる兵士達がしっかりと気絶してるかを確かめてから上で待機させていた二人を呼んだ。



「さすがね。…瞬きしないで見てたけど目が追いつかなかったわ」


「…気の毒ですけど今は見なかった事にします…」



感心したようにタメ息を吐くフェリスと申し訳なさそうに兵士達を見るルシファー。



「あの…」



二人を眺めていたら背後から細く消え入りそうな声がひとつ。



「貴方達は…?」



振り返ると柵越しに言葉を投げ掛ける10才くらいの子供。


髪もボサボサに伸び変声期を迎えて無い様子からして女なのか男なのか見分けがつかない。(ヤツ)れた顔で目には恐怖を浮かべたような表情だった。



「…助けに来た…って言えばその不安そうな顔が笑顔になるのか?」


「えッ…!」



「私達はリトルウィアークからの使いでやって参りました。ここにいる全員を今から救出します」



オレの言葉にルシファーが続く。



「そんな…お兄ちゃ…クリス王はご存知なのですか!?」



誇らしげに言い放ったオレ達が想像した返事とは掛け離れた答え。


…クリスの事をお兄ちゃんと呼んだか?

それに、このガキ…今嬉しさの欠片もない嫌だとも思わせる顔をしたよな。



「王には内緒でやってきた。…何か問題でもあるのか?」


「…ならオレ達は行かない!急に居なくなったら…お兄ちゃんが心配するから!」



今一度ハッキリとお兄ちゃんと呼ぶ子供はどうやら男の子だったようだ。



「…参ったな」



柵を握り締めながら涙を浮かべ睨む少年。

恨みのこもったようなその目に一瞬怯みそうになる。



「いやぁ…内緒って言われたから言いたくなかったんだよなぁ。ほら、アイツすげぇ照れ屋だろ?だから“礼を言われたら照れる”って言ってたんだ。…悪かったな嘘をついちまって。クリスは知ってるから心配するな」


「そうなのよ、せっかくチャンスをくれたんだから早くここから出ないとクリス心配しちゃうわよ?」



剛が勢い任せに嘘を並べ便乗したフェリスも顔色ひとつ変える事なく優しげに笑う。



「ホント…?お兄ちゃん達はクリスお兄ちゃんの知り合いなの?」


「ま、親友ってとこだ!」



「じゃ、オレたちはここから出れるの?クリスお兄ちゃんのアイボーも?」



アイボー?

…相棒の事か?…相棒って…誰だ?



「当たり前でしょ?アタシ達皆がまとめて助けてあげる、約束するわ」



思考が追いつかず軽いパニックに陥っていた。



『な…相棒ってクリスの爺さんじゃ…』



剛から念話が届く。



『…大将が死んだと言ってた』


『そう思ってるだけで実は捕まってるとしたら?』



────ドクンッ!



心臓が大きく脈を打った。



…もし剛の言う通り捕まってるのだとしたら自分の国に監禁される目的はなんだ?


クリスが閉じ込めたのか?


だが、この様子からするとクリスはコイツらにとって兄ちゃんと軽く呼べるくらい親しい関係だったと言える。


…訳わかんねぇ。



『…話は後だ。お前のおかげで助かった。今は人質の解放が先だ。その後に探せばいい』


『…あー…だな』



そして念話を終わらせ柵の扉に近付いた。



「チッ…鍵を探す時間はねぇ。今からこの鍵を吹っ飛ばすから少し離れてくれ。扉ごと飛んでくかもしれねぇからなるべく柵側に寄ってくれないか?」



わかりやすくジェスチャーをつけ説明した。


無言で動き出す牢屋の中に居た人間は奥の方からソロソロと出てくる信じられない数。

横幅的に狭くは無い牢屋だが奥にこれだけの人間が居たとは正直驚いた。



「全員ズレたか?」



人が動く物音が止まりオレは確認した。



「…うん、大丈夫」



少年が周りを確認してからオレを見上げて答えた。



「…神崎流、山茶花ァッ!!」


────フォンッ!…キィンッ…



充分な間合いのお陰でしっかりと踏み込めた足に力一杯体重をかけ勢いのままに刀を腰から天井に向け振り上げると、バキッと鈍い音を立てた扉は吹き飛んでいくこと無く、付けられた無駄にデカい南京錠だけが二つに割れて床に落ちた。



「さぁ出れますよ。足元に気を付けて進んでください」



すぐさま扉を開け中に駆け込んだルシファーが、一人じゃ歩けない小さな子供を抱き抱えながら中に居るヤツらを外へと誘導する。


最初こそ怪訝そうに様子を窺っていたヤツらも、少年が房の外に出た事で少しだけ安堵の表情を浮かべ次々と外に出た。



「──主ら…どこぞの勇者かね?」



最後に出てきた一人の老人がオレの前を通り過ぎる時にピタリと止まった。



「あ?…通りすがりのしがない旅人だ。早く出ろ」



返す言葉が見つからず思いつきで口走った。



「…なら通りすがりの旅人よ。ジジイの頼みをひとつばかり聞いてはくれぬか?」


「…言ってみろ」



「…この地下のどこかに老い耄れたジジイが一人監禁されてる。ソイツぁワシの昔の(ヨシミ)で長い付き合いじゃ。

腐れ縁でのぅ…アイツを置いて自分だけ逃げた何て知られたら来世で会ったときになんて言われるか分かったもんじゃない。…何とかソイツもここから出してやりたいのじゃが…」



オレと剛は顔を見合わせた。



『ジジイって…』


『これは間違いないだろう』



──クリスの爺さんだ。



「…少し時間が掛かるかも知れないが必ず助けると約束する」


「フォッフォッ…なら安心じゃ。どれ、ワシは先に戻って酌の準備でもするかのぅ」



うんうんと嬉しそうに頷いた老人は満足そうに笑って先を歩く列に続いた。



『ルシファー。今、無事に全員外に出た。

オレらは少しやり残した事があるからそれを済ませてからそっちに戻る。お前はソイツら全員を地下から出たらボックスに入れて先に戻ってくれ』


『…理由を教えてください』



ルシファーからすぐに返ってきた言葉。


また勝手に何かしようとしてるのが気に入らないのだろう。低めのトーンで返事をした。



『…クリスの爺さんがこの階のどこかに捕まってるらしい。そっちに歩いてった爺さんに助け出してくれと頼まれたが、どこにいるのか見当もつかねぇ。お前達を待たせて置く訳にはいかねぇから先に戻ってソイツらのケアを頼みたい』


『…わかりました。気をつけてくださいね』



少し納得してない様子だったにしろだからと言ってダメだなんてルシファーが言えるハズがない。


渋々とはいえ今は文句を言われなくてよかった。



「アイツらを先に戻らせたから目一杯時間使っても大丈夫だ」


「いや手早く済ませようぜ。遅くなったらルーがうるさい」



…確かにな。



「だが…これだけ広いとどこに居るのか全くわからねぇな」



見渡す限り空の牢屋。

右を見ても左を見ても誰も居ない牢屋。



「…マジで気が遠くなるわ」


「全くだ」



とにかく足を動かそう。





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ボシーヘイデッド城・地下牢

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「ずっと同じ景色見てオレそろそろ気が狂いそうなんだけど」


「…オレはだいぶ前から同じ所で足踏みしてる錯覚がする」



右に曲がっても左に曲がってもずっとこの景色。


これだけ広いなら曲がり角ひとつひとつに数字でもマークでも残せばいいものを、何一つ手掛かりもなくただ殺風景な灯りがポツポツと灯るくらいだ。


ここで働いてるヤツらを尊敬するな。


…にしても…



『…お前気付いてるか?』


『…おう』



この後ろから延々と追い続けてくる人の気配を。


さて、どうしたものか。



『寝かせとくか?めんどくせぇならオレがやってやるけど』


『いや普通に考えろ。かれこれルシファー達と離れてからずっとだ。手を出してくる訳でもなくオレ達が迷ってる事も恐らく向こうは気付いてんだぞ。何故オレ達を放っとく必要があるんだ?』



『…いや、でも案外ただ純粋にオレ達が迷ってるのを楽しんでるだけかもよ?』


『…お前じゃねぇんだからさ』



『は?一緒にすんな。オレなら落とし穴の一発くらいお見舞いするわ』



大して変わんねぇよ!



『でもそろそろ鬱陶しいな。かれこれ30分くらい付いて来てるぞ』


『向こうはオレらをガン見してんのにオレらは顔すら見れねぇって不公平だよな』



『ま、そういう事だ』



オレらは顔を見合わせてアイコンタクトをバッチリ決めてから一斉に走り出した。



『まずは撒いた上でカオを拝もうぜ』


『ついでに何か知ってそうなら吐かせるのもアリだ』



手当り次第目の前にある曲がり角をクネクネと曲がって錯乱させる。


オレ達のスピードに合わせて後ろから迫る気配が徐々に薄れた所で壁にピッタリと体を張り、焦ったように探し回る気配が徐々に近づくのを息を飲んで待った。



『──ここまで来れば大丈夫じゃね?』


『ああ…だな』



ヒタッヒタッと遠い足音が少しずつ大きくなり相手の息遣いが聞こえた所で、



「みーつけた──って…お前かよ!」



勝ち誇った顔で言うつもりが目に映った人物に予想外のあまり腑抜けた声になった。



「よお…盛りは収まったか?野良犬」



目の前に居たのは昼間国の外壁で出会した自称ボシーヘイデットの王だと匂わせた細身の男。



「なんでこんな所に居るんだ?!」



剛がデカイ声で怒鳴った。



「…騒ぐな狂犬。なんだお前、予防接種受けてないのか?」


「だが…本当に…何故ここにいる?」



オレは周囲を警戒しながら男を睨みあげた。



「…それはこっちのセリフだ。

人の城で何をやっている。匿った民衆を逃がし、兵士に手を出し、挙句の果てに逃げ出しもせずまだウロウロと歩き回るとは」


「…お前、全部見てたな!?」



怯まず吠える剛。



「…おい、お前このバカ犬の飼い主か?シツケがなってねぇじゃねぇか」


「悪いな。コイツぁ特別な訓練を受けて怪しい人間を見たら吠えるようにシツケてあるからしょうがねぇんだ。気を悪くするな」



誰が犬だチクショウ!と喚く剛を完全に無視した男が話を進める。



「で、お前は何を探しているんだ?」


「…アンタは何を知ってるんだ?」



「ほう…質問返しか。…いいだろう。俺は何もかもを知っている。昼間にも言ったと思うが俺はこの国の王だ」


「…この国の王様がそんな汚ねぇ格好して地下をウロつく訳がねぇ。そもそも顔を見せてから物申せよ。アンタこそ王様のクセにシツケがなってねぇんじゃねぇのか?」



「…フッ。糞ガキが。そんなにぉの顔が見たいのなら見せてやる」



男がオレの挑発に乗っかると、首から上を隠すように巻いていたボロ雑巾のような布をクルッと外して顔を曝け出した。



い…



い…



イケメンかよぉぉぉおおぉぉぉ!!



「ハハッ♪滅びてしまえ♪」



すぐさま突っかかる剛。

そうだったコイツは昔からイケメンの類に入る顔の作りをしてる野郎が死ぬほどキライだったな…忘れてたわ。


…にしても…少し高めの鼻、青い瞳、そして何より半端なく目立つこの長い金髪。見れば見るほど大将の家で見た似顔絵によく似てる。


…もうさ、王様って言うか白馬に乗った王子様って感じ。


つまるとこ──滅びろってこと。


オレもこういうイケメンの類いは嫌いだ。今すぐそのボロ雑巾を巻き直してくれても構わねぇら、



「なんだ…あまりジロジロ見るな」


「あぁ悪いな。あまりにも殴られたい顔してるもんでボコボコにして差し上げようか迷ってただけだ」



「そうか。で、お前は何を探している?」



そうだったな。

顔を見せてから物申せって言ったんだっけかオレ。


あくまでもそんなくだらない話なんかいいからさっさと質問に答えろって所か。

めんどくせぇな、観念して吐けばいいんだろ?



「あーアンタの老い耄れた相棒探してんだよ。場所知ってんだろ?(サラ)ってやるから吐け」


「…誰にその事を聞いた」



「下らねぇ質問だな。全部知ってるクセに言わせんのか」


「いや、遠くに居たから聞こえなかった」



「嘘をつくな嘘を──」


「──本当だ誰から聞いた」



お、おう、やたら食いつくのな。


もう少しイジメてやってもいいんだが遅くなるとルシファー結構ヤバめだし何よりめんどくせぇ。



「あーなんかヨボヨボの爺さんだったな。腐れ縁でのぅとか入れ歯カクカクしながら言ってたぞ?」


「…リン王か」



いや知らねぇけど。



へえ…王か。

あの爺さん王だったのか…──え、なんて?



「…は?!お、王!?」


「ああ。背の低い年寄りだろう?あれはリトルウィアークの王だ」



このくらいの、と背丈を手で表現するクリス。…確かにそのくらいだった。



「は?じゃあ、アンタの爺さんとリトルウィアークの王が幼馴染みなのか…?」


「…ああそうだが?」



さも当たり前かのように答える顔が人を馬鹿にするようなスカしたツラでまたなんとも人をイラつかせる。


端から端までもれなくイケ好かねぇ野郎だ。



「…まあいい。とにかくその爺さんに連れてこいと頼まれたからアンタに止められても連れて行くぞ」


「…それは別に好きにすればいいが、場所とかは分かってるのか?」



「…いや、これから探すとこだ」



少し恥ずかしくなって声が吃った。



「…俺は知っている。素直に教えてくれと頼んだらどうだ」



が、よく考えたらコイツの発言の方が恥ずかしくね?



「…素直に助けてくれと頼んだらどうだ?」


「いや、俺は…別に」



なるほどね。剛がぶち込まれてたガキに想像で語ってたクリスの人物像はあながち間違ってなかったって事か。


…極度の天邪鬼患ってるたァ…愉快な野郎だ。



「ま、いいや、とにかくオレらアンタの大事な爺さん探すのに忙しいからアンタも監視にバレないようにそろそろ戻れよ。心配すんな殺さねぇから」



多分コイツは自分じゃどうすることも出来なくてそんなときに見つけたオレ達をどこまで信じていいのか見定めてたところを捕まったんだろう。


じゃあな、と背中を向けて手をあげると“待ってくれ!”と引き止められた。



「お、お前達が気絶させた兵士がそろそろ意識を戻してもおかしく無い頃だが、何故未だにお前達がこんな所でモタモタしてられると思っているんだ?」



──ほらな。


どんなツラでそんな事言ってんのか気になって振り返ると、発言こそ強気な言い草だが顔は縋り付くように焦っていた。



「…何だその顔は。恩の押し売りでもしてんのか?

悪いがオレ達はアンタが思うほど弱くねぇんだよ。そんな事してもらわなくとも、こんな弱い兵士の二、三十人なんざ10秒あればみんな揃ってお寝んねだ」


「だ、だから俺は!その手間すらも省いたと言っているのだ!」



うわ、めんどくさ。



「だからなんだよ。…言っとくけどオレは可愛く物が頼めないようなヤツの依頼など引き受けねぇからな」


「…く、そ…ガキ…。…む。…のむ」



「あ?聞こえねぇよ!デカイ声で言えホラ!」


「じ、じぃちゃんを…助けてくれ…。お、俺は…どうなってもいいから…!!」



…オレってもしかしてサドっ気あんの?

今、不謹慎ながらにゾクッとしたぞ。



「んだよ、言えんじゃねぇか。チッ…しょうがねぇな、わかったよ場所を教えろ」



そして、その可愛らしいツンデレなお願い事を“優しい”オレは聞いてやることにした。



「──あー…わかった。とにかくここを真っ直ぐ行くのな。リトルウィアークの民衆が捕らわれてた房を見つけたらその裏だな?」


「ああ、そうだ。裏に回ればちょっとした窪みがあるハズだ。そこに入ると階段があるからそれを降りたとこに居る…と思う」



「ん?随分不確定な言い方だな。見に行ったこと無いのか?」


「…ここは監視の目が厳しい。私は常に見張られているからなかなかここへ来る事が出来なかった。少ない時間でここに来ては探ってたのだがこれだけ広いとなかなか見つけらんねぇ。そして、やっとそれらしき場所を見つけたと思ったらお前達が居たんだよ」



元々王族の家系で育って来ただけある特有の偉そうな口調にちょこちょこ紛れる育ちの悪い言葉遣い。


言葉を崩した時の言い草が大将の喋り方に良く似てるもんでオレ的にはこの偉そうな物言いより田舎モンっぽく喋ってくれる方が幾らか話しやすいんだが。



「…何があったんだ?」


「…今は時間が無い。

俺はリトルウィアークに足を運んだ時に女を一人殺めた…んだ。こんな風にリトルウィアークの民へ優しく手を伸ばしてももう遅いと分かってる。だからせめてもの償いだ。俺はもう戻らなければならない。…この国の元、王様を…俺のじぃちゃんを…頼んだぞ…?」



クリスは最後に小さく笑って寂しそうに背中を向けた。



「…っだぁあッ!お前さァ!カッコつけて涼しい顔したんなら最後までやれよ!そういう後味の悪い事されんのマジでうぜーんだけど!」



我慢出来なかった。



「…お前も気取った勇者口調が台無しになってるぞ」


「ッせぇ!お前の事スゲェ嫌いだが絶対助けてやるからな!オレは決めたからな!二度とそんな顔させねぇから!…イケメンのくせに生意気なんだよ!クソ!

…今からキッカリ2時間だ。腰抜かす程のサプライズ用意して感謝祭に参加してやるからせいぜいオレらに刃向かう言葉でも考えとけバカヤロー!!」



勢い任せに怒鳴り散らかした。



「…楽しみにしている」



クリスは振り向いて笑ってからそのまま地下の奥へと消えて行く。


勢いをつけて怒鳴ったもんだから気持ち少しだけ息が上がってそれを整えながら思った。


アイツの去り際ってテンプレかよ。

まだ二回しか会ってねぇけど二回ともほぼ同じ動きで消えてったぞ。──って。



「クソ、ああいう憎みきれないイケメンが一番嫌いなんだよ!」


「まあまあまあ落ち着けって。オレなんて狂犬だのシツケがなんたらだの言われたんだぞ…!」



「──つよ…ッ!」



ポンッと肩を叩く剛を見上げたら、信じられない程顔を赤くして怒り狂ってた。



「やべぇなアイツ…。オレの怒りが…クソ。ムカつき通り越してムラムラするわ。あの野郎…絶対…絶っ対助けてやる…!跪いて礼を言わせてやるからな…!」



鼻息粗く肩で息をする剛。

瞬時に掴みかからないだけマシか。コイツも成長したんだな。



「…そうだな。ボコボコにするのは大将の仕事だからオレ達は靴でも舐めてもらおうぜ」



ほら、行くぞ。と剛の肩を叩きクリスが消えて行った方角を睨んでから言われた道を真っ直ぐ歩き始めた。






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ボシーヘイデッド城・地下牢

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~その後~





「──お、あったあった。…でも、あの野郎ホントに兵士をどこかにやったんだな」



目の前で剛が感心したように呟いた。

自分の城の構図は頭ん中に入ってますってか?


リトルウィアークの民衆が捕らわれてた房は

歩き回ってだいぶ離れてたにしろクリスに教えて貰ったおかげでわりと簡単に戻ってこれた。



「ここにいたヤツ全員寝かせといたハズなのに一人残らず消えてるなんてな」



さすが王様ってとこか。

こんな所で権力が有効利用されるなんて。王の名も捨てたもんじゃねぇらしい。



「この房の裏って言ったか?」


「ああ、確かにそう言ってた。裏へ回ってみるぞ」



オレたちはそのまま目の前にする房を通り過ぎ、裏へと回った。



「ん?これか?」



ちょうど真裏に差し掛かった辺りに人ひとり満足に通れないような窪みがある。



「いや、これ体横に向けないと入れねぇよ?…ホントにこんな所に階段なんてあんのかよ」



剛がそんなふうにボヤきながら窪みへと体を刷り込ませる。



「…どうだ?」



オレは辺りを警戒しながら剛を覗き込んだ。



「…ってぇ。マジ狭い。オレもしかしたらハマるかも」


「それは勘弁しろよ…アレなら変わるぞ?」



「あ!あった!階段あったぞ!」



無理矢理体を捩じ込んだ剛は両手足を使って窪みからスポッと抜き出た。



「…オレが行くわ。お前、ここで待ってろ」


「は?一人とかイヤなんですけど」



「いや、お前マジでハマりそうだから出れなくなったら困るだろ」


「でも一人とかイヤなんですけど」



「だからすぐ戻ってくるんだから大丈夫だ」


「いや、でも一人とかイヤなんですけど」



どんだけ嫌なんだよ!



「…わかったよ、じゃあオレが先に行くからお前は後から来い」


「よっしゃ!」



「…」



…はあ。

急に物分りの悪い奴になるのやめて欲しい。


融通の利かない仲間でオレはなんて幸せなんだちくしょう。



「──あ?案外通れる…お前太ったんじゃねぇの?」



先に窪みへと体を刷り込ませて隙間を通ったオレは特にどこに突っかかる事もなくソツなく通れた。



「い、や!キツいから!」



ポンッと音が出そうな動きで無理矢理隙間を通った剛の腹がポヨポヨと揺れている。



「お前筋肉減った?こんな腹してなかったよな?」



着流し越しに確かめるとモチッとした感触。



「こっちに来てずっと食べ続けてるから腹がパンパンで千切れそうなだけだ」


「食いすぎなんだよ」



「…気を付ける」



隙間に入ってすぐ段差になっている足場の悪い階段を1歩ずつ降りていく。


上からだとカーブ掛かってよくわからなかったがそんなに進むことなく柵が現れた。


位置的に下の階との中間辺りだろうか。

扉とかも施されていない特別な牢獄のようなそれだけの為に作られたような空間。


ここにクリスの爺さんがいるのか。



「おい、誰か居るか?」



オレは薄暗くて良く見えない房の奥を覗き込んで声を掛けた。



「あ…──うぅ…」



微かに聞こえる弱り果てた声。


──いる。



「今からこの扉を開けるから少し離れてろ…よッ!」


────ドゴォォォオッ!!



中の人物に声を掛け間髪入れずに先程と同様神崎流の刀術で扉を吹っ飛ばした。



「お前、爺さんに当たったら危ねぇだろ。…なんで鍵だけにしなかったんだよ」



剛が驚いたように呟く。



「…わりぃ。何も考えて無かったわ」



思った通りの言葉を返した。



「爺さんか?」



剛が吹き飛ばされて出来た入口から入り奥の方へ進んで行く。



「…どうだ?」


「爺さん弱ってる!」



やっぱりか。声を聞いて思ったんだよ。



「とにかく連れてこい。上がやたら騒がしくなってきたからそろそろバレる」



今、戻った所でバレることには変わりないが人が増える前に脱出したい。


ボックスに入れる事が出来ないのなら、担いで行くしかねぇのに大量の兵士達に囲まれでしまえば爺さんに被害がいくかもしれない。




──ゴゴゴゴゴ…

ドンッ!!──




「──ッ!」



地面が揺れて大きな音が階段に響いた。



「なんだ!?」



剛が叫ぶ。



「わからねぇ…見てくるから待ってろ」



オレはそれだけ言い残して足の踏み場の悪い階段を駆け上がった。



「…閉じ込められた」


「マジか…」



上まで登り切る前に見てすぐ気付くは入口となる隙間が無い事。出れそうな場所も見当たらない。


何故急にバレた。

まさかクリスが兵士達を回したのか?



「おい!出る事だけを考えろ!」



剛が考えに耽けるオレを正気に戻す。



「…ああ」



壁をぶち抜いて外で構えるヤツらを倒しながら進むか?…それだと爺さんが危ねぇ。


なら一旦爺さんをここに置いて片付けてから連れていくか?…どれだけ時間が掛かるかわかんねぇ。


オレが頭を抱えた時だった。



「ソウ!魔法だ!」


「は?だからこの階は──」



いや待てよ今居る場所で確かめた訳じゃねぇぞ。この階に降りるギリギリまで魔法が使えたんだ。あの階だけが魔力を封じてるんだとしたら…ここは?



「…ボックス」



オレは手の平を見て異空間魔法を唱えた。



────パァァァ…シュン…



それは一瞬神々しく光るだけで完全には発動されない。だが、申し訳程度の気休めにもならないが確かな手応えを感じた。



「反応が薄いが手応えはあった!」



剛に向かって叫ぶと、



「こっち来いよ。今オレが居るところが事実上一番上の階と離れてるだろ?」



オレを落ち着かせるように冷静な言葉が返ってきた。


すぐさま下までかけ降りる。


そして房の奥まで足を進め剛の横に立ってから再度ボックスを唱えた。



────パァァア…



モヤモヤと手の平から広がる球体。



「でかした!」


「爺さんを中に入れてくれッ!」



ここに来るまで魔法を使うことなんてねぇと見込んで魔力カードも使わなかった。底尽きるにはまだまだ魔力が有り余ってると思ったが以上に疲労がキテる。


早くしろ!と剛を急かした。



「ちょっと待ってろよ爺さん!オレらスゲェ怪しいけど悪いヤツじゃねぇからな!」



剛は爺さんを担ぎ安心させるように語りかけながらボックスへと入っていく。



「…限界だ!お前も入ってろ!」


「おい──」



騙すつもりはなかったがとにかくボックスを維持するのに負担が掛かり体が震える。


もしかしたら二人分の転移が出来ない気がして剛ごとボックスに閉じ込めた。



「転移!」



────シュンッ!!



上の様子を確認すること無く転移を唱えボシーヘイデットからリトルウィアークへ飛んだ。






━━━━━━━━━━━━━━━

リトルウィアーク・大将の家

━━━━━━━━━━━━━━━






────シュンッ!!


「ブハァッ!!…ハァッ…ハァッ…カハッ…」



飛んできたオレは大将の家の前で転がるように倒れ込んだ。


息が出来ない…。



「「ソウッ!」」

「ソウさん!」

「ソウくん!」



噎せ返るオレを駆け付けて支えてくれるのは待たせていた四人。



「おいソウ!大丈夫か!?何があった!」



大将がオレを抱き込むと食らいつくように問い詰めた。



「ちょ、ま、ハァッ…て…くれッ…」


「ジスタ!今は話し掛けないで!ソウくん苦しんでるから!」



「ソウ!」

「ソウさん!」



苦しむオレに泣きそうな顔で叫ぶ女二人。


ちょっと待ってくれマジで苦しい。



「とりあえず中に連れてって!」



シェイさんが大将に強く指示をした。



「お、おう!少し揺れるが我慢しろよッ?」



大将に担がれバタバタと動き回る音を頭の隅でぼんやりと聞きながら呼吸を整える。


…死ぬかと思った。



「ハァッ…ハァッ…や…べぇな…これッ…結構、辛かった…」



魔力を万全にしておかないとこうなるんだな。


結構苦しいからルシファーとフェリスにも気遣せねぇと何かの弾みで息絶える事になるかもしれねぇ。



「…喋れるか…?」



シェイさんに言われた通り、気遣った話し掛け方をするのは大将。



「…ああ…もう…大丈夫だ…。悪かったな。全員呼んでくれ」



それでもまだ大声を出せそうにない。

オレは大将に頼んで全員を傍に呼びつけた。



「…少し問題が起きて思ったより時間が掛かってしまった」



そう口火を切るとこの瞬間を待ち望んでいたかのようにフェリスがオレに掴みかかる。



「ねぇ!ゴウは!?ゴウはどこよ!」



胸倉を握り締める手が震えていた。



「…フィー…心配するな。オレのボックスに入ってる。心配かけて悪い」



フェリスの手を取り出来るだけ優しく笑いかけてからボックスを開いた。



────パァァァ…


「──いやぁ回復最高!お前のボックスすげぇよ!」



ボックスから出てきた剛は大きく伸びをしながらオレの事を小突く。



「ゴウ!よかった…よかったッ!!」



剛に抱きつくフェリス。



「ちょ、おま、なんつー顔してんだよ。オレにソウがついてて何の心配してたんだ」



カタカタと剛の胸元で震えるフェリスを軽く抱き締めるように宥める剛は大丈夫だとおどけて見せた。



「──ジスタ…シェイ…元気だったかの…?」



少し声が(シャガ)れているものの、牢で会った時よりもいくら元気を取り戻した様子爺さんが、剛の後に続いて勝手に出てきた。



「じ、ぃちゃ…」

「おじぃ…ちゃ…」



二人は揃って口を塞ぎ目に涙を浮かべて言葉を失っていた。


無理もないだろう。

死んだと思っていた爺さんが生きていたのだから。



「悪かったのゥ…家の手入れが出来なくて。じゃがこうして出られたんだ、これからはちゃんと壊れた場所直してやるから許しちくれよ。」



二人の頭を撫でながらしっかりとした口調で愛おしそうに二人へ語り掛ける爺さん。


──見てるこっちまで泣きそうになった。



「…若い者よ、礼を言うぞ。ワシとクリスだけではこんな事は出来なかった」


「た…頼まれ事をやった迄だ。気にするな」



「フォッフォッ。立派な勇者じゃ」


「そ…んな大層な者ではない」




「──ソウ、今ルーを呼んだからそろそろ来るよ」



フェリスが間を割ってオレに報告してきた。


そうだ…ここからが本題だ。



「──遅くなりました。もうお身体は宜しいのですか?ソウさん」



横に着くなりすぐに心配をしてくれるルシファー。



「ああ。…よし全員揃ったな?ちょっと話をさせてくれ。まず、クリスの事だ。…シェイさん、オレ達は全ての事情を知った上で話す。聞きたくないのなら今のうちに席を外してくれ」



念の為に断りを入れた。



「大丈夫、聞くわ」



オレはその答えに頷き話を進めた。



「今日ボシーヘイデットに行って二度クリスと接触した。一回目は城の外、二回目は地下牢の階だ。クリスはボロ雑巾のような布を顔に巻いてバレないように変装をしていた」


「…アイツは昔からそうじゃ」



爺さんが口を挟んだ。



「そうか。…それでだな、一度城の外で接触した際に“オレ達を捕まえるのか”も聞いたのだが、あまり関心持ったようには見えなかった。…その後すぐオレらに背を向けてどこかに消えたしな」


「ああ…脱走はアイツの趣味みたいなモンでもあるからな。外に出る理由がなくても何となく脱走するのがアイツだ」



大将も腕を組みながらオレの話を聞きボソッと口を挟んだ。



「気になるのはここからだ。ある程度地形を散策してそれから地下に向かった訳だが、民衆を助け出す際ガキに“クリスお兄ちゃんが心配するから行かない”と叫ばれた。監禁してる国の王に言う言葉じゃねぇよな?自分が悪役なのかと錯覚を起こしたぞ。

だがそこはゴウの嘘でなんとか誤魔化して全員外へ出す事に成功したんだが、一番最後に出てきたこの国の王に腐れ縁の老い耄れを助けてくれと頼まれた事がキッカケでオレ達だけ残る事になったんだ」



「…あの老耄が…。余計な心配しよってからに」


「自分だけ助かるのが気に食わなかったんだろ」



「意地っ張りだもんねリン王」



爺さんと大将とシェイさんの三人が口々に話す。



「…それから剛とバカみたいに広い地下を歩き回ったんだが一向に見つからず挙句迷った。だけど爺さんを探し始めたときからずっと感じでいた気配が後ろにあってソイツから何か引き出せる思ったから先回りして捕まえたんだよ」


「そしたらまさかのクリス」



剛が思い出したかのように笑った。



「アイツはオレ達に“俺のじぃちゃんを助けてくれ”と泣きべそかきながら言っていた。

爺さんが捕らわれてる房の場所を教えて貰って、そのときに何故こんな事になったのか理由を聞いたんだが時間が無いと濁らされてそのまま逃げられた」


「…そうか…クリスの野郎…」



話し終えた後も誰もがしんみりとして言葉を発さない。



「…アイツは哀れな王じゃ」



その空気を破ったのは爺さんだった。



「…ワシらの国は今や隣の国である“トリザムホット”のドワーフ達に乗っ取られている。

じゃが、そのドワーフも後ろに大きなモノを抱えて脅されているようで理由はわからないがワシらの国が狙われた。

始まりは…ワシのバカ息子クリスの父親がどこぞの戦争に首を突っ込んだ事が始まりだったか…?無残に殺された息子を連れて城へ乗り込んできた一人のドワーフが次世代の王を監禁すると騒いだのだ。

だがそんな事を許せば後継者が居なくなる…それは国の滅亡を意味する事になる。だから“殺してくれても構わないからワシを代わりに監禁しろ”と頼んだ」



ポツリポツリとゆっくりと話し始めた内容は、傲慢な嫌われ者としてのクリスの話ではなく、ただ一人の可哀想な王子様と元王様の話。


クソ…やはり、巻き込まれていたか。



「…その言葉に何か良からぬ事でも思いつたのかそのドワーフはワシの申し出を聞き入れワシを監禁した。まあ…クリスがアレだけ取り乱せば弱味を握って有利になると思ったのだろう。…国の問題だけで済むのだと甘く見ていた」



「ンだそれ…只のとばっちりじゃねぇかァ!!」


「ジスタ!…落ち着きなさい。」



ガタッと立ち上がった大将が大声を上げいきり立つのを、シェイさんが止める。


悔しそうにソファーに座り直す大将の目には殺意が沸き立つように映っていた。



「…ワシはガキの時から城を抜け出しては同じく糞ガキだったリンとつるんで魔物の討伐やら、魔窟の探索やらとにかく大人が心配をするような事を楽しんでやってた。

その時に培ったアイツとの信頼性が今でも築かれていてアイツとだけは念話も出来る。

“こういう状況だから国には来るな”と伝えたんだ。もちろん鼻息粗くした返事が帰ってきたがそれでもワシは何度も語りかけられる念話を無視し続けた」



爺さんは大将の肩を宥めるように擦りながら続ける。



「…ある時、リンから信じられない念話が届いた。“お前の国から寄越したヤツを兵士長にすればいいのか?”と。暫く監禁されていたワシには知らぬ話だ。

そんな話は知らぬと答えるも“ジスタを兵士長から外さなければクリスを国ごと殺す”と脅された。…どこかでクリスとジスタが仲のいいツレだという事を知ったのだろうな。

止むを得ずワシもリンも受け入れるしかなかった。そもそもジスタは、クリスが王になることに憤りを感じていた事は有名な話だ。

恐らく、クリスが王座について間もなく怒鳴り込みにでも行ったんだろう?そのときにお前達の関係性がバレた。

そして、クリスに怒鳴りつけるソレを見ていた彼奴が虱潰しに調べあげかつては国同士で仲良くしていた過去を知りついでにリトルウィアークも乗っ取ってしまえと思い立ったのだろう」



聞けば聞くほど胸糞の悪い話だな。



オレらが生きていた時代の日本は、戦争や、領土争奪など指の先にも出てこない平和な時代だったがオレが生まれるずっと前に起きた戦争は、こんなに見苦しくて、胸糞の悪いやり取りをしていたのだろうか。



「そしてそれから暫く音沙汰がなかった念話がリンの焦る声と共に届いた。

内容は、“クリスがリトルウィアークに来て民衆を捕らえた!城に居た者城前広場に居た女を子供を根こそぎ連れて、今ボシーヘイデットへ向かってる!どういう事だ?!”と。

…訳が分からなかった。確かにクリスは独裁心が誰に似たのか少し他より強いとは思っていたが…仲間想いの優しい男だ。

そんな事する訳がないとすぐさま言い返したが、それからリンからの念話が返ってくることは無くその日のうちにワシが入ってる房の傍に人が入れられる音がして嘘ではなかったと知らされた」



“じゃが…そんなドン底の中でも、ひとつだけいい事が聞けたぞ?”と重い空気を無理に持ち上げる爺さんはそのまま続ける。



「全ての者がそうだと思い込んでいるクリスが見せしめに一人の女を殺した話は嘘だ。

細工を仕込んだ偽の刃物で殺すフリをしただけでその女は今もクリスの傍で容姿とかも変え別の人間になり済ませ働かせていると聞いた」



“これは兵士達同士の会話を盗み聞きしたから間違いない”と誇らし気に言う。



「…ッ!うぅ…クリス…クリ…スッ!」



シェイさんが肩の力が抜けたように泣き出した。


自分の愛する者が人を殺めたなどましてや何の罪もない女をなんて受け入れ難い事実だっただろう。


その無実が信頼のおける人間の口から聞けたんだ、ずっと心に押し込めた不安が解放されるに決まってる。


それが、真実とは決まったわけじゃないが、ひとまず安心するには充分すぎる内容だった。



「なぁ…じぃちゃん…俺が兵士をやめた意味は…」



大将が何か言おうと口を開いた時、





“ワシが、お前達を守りたかったんじゃ”

──力強い声が聞こえて、全員が顔を向ける。





「──よお老い耄れ。死に損なったか」



ノロノロと歩み寄ってくるのはこの国の王、リン王だった。



「…かすみ草の一つでも手向けてお前の死にヅラを拝もうと思っておったのに死に損ないやがって」


「フォッフォッ。言うじゃねぇかよリン。相変わらず小汚ねぇナリだなお前は。…会いたかったぞ相棒」



「気色の悪い事を口走るな相棒。…ワシも会いたかったぞ」



憎まれ口を叩きながらも嬉しそうに再会を喜び合う爺さん二人。


なんか、すごく…よかったな。



「ちょいと…ワシの話を聞いてはくれぬか?」



リン王が三人みっちり座るソファーにケツを無理矢理割り込みながらオレを見上げた。


ソファーから退かされる大将。



「ジスタを兵士長から外したのはワシだ。ジェイコブがこの国にやって来てボシーヘイデットの件を知っているな?と確認された。

コイツから少しは聞いていたが詳しいところまでは聞いていなかったワシは真実を知って腰が抜けるほど驚いた。

そして、クリスとジスタは昔馴染でコイツらが揃うと腕っぷしがバカにならない。それを脅威だと感じたヤツらはシェイを出し抜いてワシを脅した。

クビにする理由はワシの指示も無く勝手に他国に乗り込み王を傷付けたと言えと。そのような出来事が本当にあった後の話だったから理由にするには充分だった」


「やっぱりか…。だってジジイが俺の行動にケチつける訳ねぇもん!あんだけ兵士としての力を叩き込んで俺スゲェ頑張ったのにそれだけでクビにするとか…」



ホッと息を吐きながら大将は“なんだよ”とボヤいた。



「お前は相変わらず口の訊き方がなってないのぅ。ワシはこう見えてもこの国の王じゃぞ?もっと敬ってくれてもバチは当たらんぞ」


「うっせーよジジイ!アンタのお陰でどれだけ辛い訓練受けたと思ってんだ!毎日毎日仕事で疲れて戻って来てもアンタの暇潰しに付き合わされて服から何からボロボロにしやがって!」



「ファッファッ。そんなこともあったのぅ。ほら、城に居ると暇でしょうがねぇんだ。お前もワシの訓練を受けて強くなったんだからいいではないか」



ムッキー!と言いそうな顔を真っ赤に染め上げ、だからアンタが嫌いなんだよ!と怒鳴る大将は心做しかオレと親父を見てるようで胸がザワザワする。


てかそのイライラに共感出来てムカムカするわ。



「こら、あんまり大声出さないの」



シェイさんが優しく止めた。



「──ッ!クリスとキッカリ二時間後に会う約束を取り付けてあったわ!」


「あ!忘れてた!」



「は?お前らめんどくぇ約束すんなよ!アイツ時間だけはうるせぇ男だぞ!」



ヤベーめっちゃ忘れてた。…ごめんクリス。



「シェイさん。今回大将から受けた依頼だ。

ずっと黙ってて悪かったがシェイさんを悩ませたくなかった。…大将を連れていっていいか?」



オレは改めてシェイさんに申し出る。



「…クリスを助けて…助けてあげてください!」



頭を深く下げ語尾を怒鳴らせながらシェイさんは叫ぶように返してきた。



「よし…アイツをボコボコにしてやりたい気分だが姉ちゃんの分の一発は残しといてやる!だから姉ちゃんは何も心配するな!…ルーちゃん!フィーちゃん!姉ちゃんを頼んだぞ!」



気合を入れた大将がすくっと立ち上がり“着替えてくる”とその場から立ち去った。



「準備しとけって言ったろうが…。

ルー、フィー…弱ってるヤツらの看病を頼むな。──シェイさん、二人を頼みます」



オレも深々と頭を下げた。



「わかったわ」

「任せて!」

「ソウさんも気を付けて下さいね…?」



「…あ、そうだ。魔力カードを少しくれないか?」



そうだオレ結構限界キテるんだったわ。



「私が回復しましょうか…?」


「いや、いい。お前にはヤツらの看病を頼んでるから少しでも体力を温存しておいて欲しいからカードを5枚くらいくれ」



「…わかりました。使い方はカードを手に取り“召喚”です」


「ああ」



腰のカードケースからカードを5枚取り出したルシファーは使い方を簡単に教えてくれた。


そして受け取り次第すぐに使う。

5枚にしたのは1枚でどのくらいの魔力が回復するのか分からなかったからだ。



────パァァア…



カードから発された白い光が体内へ流れ込むと、疲れた体を熱い湯に浸けた時のような解放感が体を駆け巡った。



「数値的にはわからないが体はだいぶ楽になった。これ一枚で充分回復するな」



「…一番魔力の強いものを買い占めましたので」



ほう…このカードには、そういう魔力の強さ的なのもあるのか。



「一枚はオレが持っておくが後はお前に返しとく。無くなったらまた貰う」



3枚をルシファーに返した。



「──お主も大変じゃのぅ…」


「じゃが、ヤツらを見てると昔のジスタとクリスを思い出すわい」



「そうじゃのぅ、よく見れば似てるかもしれないのぅ」



フォッフォッと爺さん共は揃って呑気に笑うが、客観的に見てるから笑えるんだ。もしこれが自分の身に降り掛かってきたらそんな悠長に笑ってらんねぇからな。


言ってやりたいけど我慢した。



「チッ、遅ぇな…早くしろよ…」



イライラが貧乏揺すりに変わる。



「ソウさん…これ飲んで落ち着いてください」



ルシファーが両手に握り締めたマグカップをオレにそっと差し出した。



「んぁ?…あぁ悪いな」



受け取ったソレに入っていたのは黒々とした甘い香りのする液体。


…うわ。



「…砂糖もミルクも入れていないホットチョコレートです。甘いものが苦手と仰っていましたので甘くないものにしました。カカオは疲労回復にいいと聞きますから…」



迷惑でしたか…?と得意の上目遣いですか。

可愛いですよホントに。



「甘くないチョコレートか…」



オレは恐る恐るひと口含んだ。



…何これウマ!!



「フフッ…どうです?」


「…ホントに甘くないチョコレートなんかあるんだな。ビターチョコって言っても大概砂糖入ってるからな。…これはイイ。気に入ったよありがとうルー」



マグカップを持たない空いてる手で頭を撫でた。


嬉しそうに目をつぶるルシファーだけどこれはルシファーが喜ぶから撫でてるんじゃない。


オレが触れたいから撫でるんだ!的な。

はい、ごめんなさい。



「気に入ってくれて良かったです!」


「あら、うちの裏庭にカカオの木いっぱいあるから成ってるカカオ好きなだけ持って行っていいわよ?」



「え!?ホント!?」


「ソウくんが気に入ったんだもの毎日作ってあげたいでしょ?」



「うん♪」


「──…ブフォッ!」



やば、嬉しすぎて吹いたわ。



「あ、チョコレートは着くと落ちにくいから気をつけないと!」



それを見たシェイさんが近くにいたフェリスに濡らしたタオルを素早く渡す。


そして“早く拭きなよホラ”と全然可愛くない方法で渡されたソレで口の周りを拭き取った。


てか、フェリス絶対オレの事嫌いだろ。



剛の時との差よ?別にいいけどちょっとくらい優しくしろよな。


黙ってたら可愛いくせに。



「──あぁ!何飲んでんの!?オレも飲みたい!」



タイミングよく戻ってきた剛がオレに飛びついて寄越せとせがむ。



「いや、これお前の苦手な飲みモンだぞ?」


「は?そんな甘い匂いさせて嫌いとかバカにしすぎだろ。オレがチョコ好きなの知ってるくせに!お前こそチョコ嫌いなのに好きなフリしちゃって…食えねえ野郎だなオイ!」



「ちょ──」



スカッと取られたマグカップとそれを握り締める剛を交互に見ながらバカだなぁと心底思った。



「旨そー♪どれどれ…ン…!?」



入るだけの量を口に含め一瞬にして顔を強ばらせた剛は無理矢理飲み込んでから“何これマズ!”と叫ぶ。


甘党とそうでないのとの違いだな。

…こんなに美味いのに。



「…だから言ったろうが」



オレは不思議そうにマグカップを覗く剛から取り返し、残りを全て飲み干した。



「苦いって言えよ…」


「人のモンを取るのが悪い」



「いやこんな甘い匂いしてこんなマズイとか犯罪だろ。金貰っても飲みたくねぇ」



ルシファーとカカオに対して、いやむしろそれを育てたシェイさんに対しても失礼極まりない事を口走る剛。



「…マズイなら飲まなくていいです!別にゴウさんに飲んで貰いたくて作った訳じゃありません!」


「そーよ!ゴウちゃんはカカオ少なめの砂糖たっぷりな安いチョコレートで充分よ!カカオに謝って!」



ほらみろ、めんどくせぇの怒らせた。



「は?チョコレートは甘いもんだって昔から決まってるし!オレは断じて間違ってない!」


「チョコレートが甘いものだって決めつけてる時点でお子ちゃまよね!チョコレートだって料理に使われてるのにそれすら知らないだなんて!」



「そうです!そんなゴウさんなんて虫歯になっちゃえばいいんです!」



両手拳を振りながら一生懸命言い返す天使二人。カカオに対しての討論がアツすぎて軽くヒくけど剛の押されてる感じは見ていて楽しい。



横で腕を組んで眺めてるフェリスもサドっ気全開の笑みで楽しそうに笑ってた。



「お前…いいのか?ゴウやられてんぞ」


「なんで止めるのよこんな面白い戦い。下らなすぎて笑えるでしょ?…しかも見て、あのゴウの困った顔。ブフッ!」



「…」



コイツらが付き合ったらゴウが何かに目覚めてしまうんじゃないかと不安になった瞬間だった。



「──おい、何やってんだよ!ジジイも止めろようるせぇから!」



「いたっ!」

「イデッ!」



階段なら転がり降りるように戻ってきた大将がティッシュの箱でシェイさんと剛を叩いた。



ルシファーにはやらないんですね。

──案外優しいな。



「楽しそうにしてるからはしゃいでるのかと思ったんじゃ」


「そうじゃ。如何せん年寄りは目が悪いからのぅ」



わざとらしくボケる爺さん二人。

相当仲いいだろコイツら。息ピッタリだったぞ。



「ほら準備出来たから行くぞ。そろそろ時間ヤベェんじゃねぇの?」



自分が一番手間取ってモタクソしてたくせに急に仕切りたがる大将。


格好は半袖半ズボンだったのが深緑の着流しをカッコよく着こなしてた。



「…んだよ、真似すんなよ」


「真似って言うか、同じような格好の方が見栄え的にいいだろ?」



オレの言葉にドヤ顔で言い返した大将は着物を見せつけるようにふんぞり返った。

…理由が女子高生ですね、わかります。



「まあ、準備出来たんなら行くか」



気を取り直して二人に声を掛ける。



「よし荒くれ者のジスタ、久々に参上させちゃうぞッ!」


「全然キマってないからね…大将」



二人がふざけてる間に作り上げた転移用の魔法陣。一人だそそんなもの作る必要は無いのだが複数になるとそうしないといけないらしい。


めんどくぇけど魔法使えるヤツこの中にオレしか居ねぇしな。


聞いたことねぇけど大将も絶対使えない。


だからしょうがないんだ。



「──ほら、出来たから入れッ!」



ケツを振りながらハイテンションで(ジャ)れる二人に怒鳴りつけ早くしろと急かした。



「ソウさん、お気を付けて」


「──わかった。…テレポート、ボシーヘイデット!」




────シュンッ!!



再びボシーヘイデットに飛んだ。

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