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リトルウィアーク編~仲良く喧嘩して~

━━━━━━━━━━━━━━━

大将の部屋・深夜

━━━━━━━━━━━━━━━







“ルノおねぇちゃん!──”


“──いかないで!”




…まただ。


ここの所、頻繁に見るようになったこの夢。

むしろ眠りにつく度に見てる気がするが何かの暗示なのか。



“ルノ──まって──”



いつだって手を伸ばしても掴むことが出来ないアイツの手。


…胸糞が悪い。

起きろ、起きろよオレ。



“──い…おい──ウ──”



「ソウ、大丈夫か…?」


「…ん…ぁ…?」



急に視界がグラついたかと思えば妙に聞き覚えのある声が聞こえて目が覚めた。



「おま…何ベソかいてんだよ」


「つ…よし…?」



うっすらと目を開けると視界いっぱいに剛の心配そうに歪む情けの無いツラ。



「変な夢でも見たのか…?」


「ああ…ちょっとな…夢見が悪かった」



辺りはまだ暗がりの中だった。

窓の外を見るとうっすらとした夜明け前なのが伺える。時期に日が昇るだろう。


すぐ横から大将の地鳴りのようないびきが聞こえる。



「…あの夢か?」



剛には兼ねてから話してあったこの夢。


初めは可愛いねぇちゃんが花編んでたんだぜ!とか浮かれて剛にも自慢げに話していた記憶があるが、いつからかオレの中で悪夢に近いものを感じていた。



「また…掴めなかった」



あの夢を見ると一日虚無感に苛まれ思考が上の空になる。



「お前、まだ追いかけてんのかよ」


「…アイツ…が手を伸ばすから…」



そうだ。


あんな泣きそうな顔で縋るように手を伸ばされたら助けて欲しいもんだと普通は思うだろ。



「あー…ずっと言うの我慢してたんだけどさ」


「…ん?」



「その夢に出てくるルノって…──」


「──違うッ!…この話は終わりだ」



「でも…」


「ゴウ、終わりだ」



「ッ…」



そんな事聞きたくねぇんだよ。


オレはガシっと頭をかいて思考を無理矢理振りほどいた。



「今…何時だ?」


「…朝4時前だ」



「アレから寝落ちしたのか」


「…おう。疲れてるみたいだからそのまま寝かしといてやれって大将が…」



「そうか。…悪かったな」


「いや、今日の予定はある程度話してからだったから大丈夫だ」



部屋に置いてある時計がチクチクと秒針を刻む音が存在感を示す。



「…もう眠れないのか?」



剛がオレの頭をフワリと撫でた。



「…ああ。なんか目が覚めたな」



昔からオレより拳ひとつ分背の高い剛の特権。


小学校のちょっとした成長期に少し追いついたなと思えば剛も競うように背を伸ばし、中学上がって三年生の夏休みでグンと伸びた身長も呆気なく抜かされ、気付けば成長期はもう無いとこまで育った。


180センチは欲しいと思っていた身長は、虚しくも178センチと微妙な所で止まり、オレの成長に合わせて185センチは欲しいと言った剛の身長も184センチとギリギリ残念な結果で終わったっけ。



「お前…母ちゃんとかに頭撫でられるの好きだろ」


「バカ言うな。お前が人の頭を撫でるのが好きなんだろ?」



「あ、バレた?人の髪の毛触ってんの結構好きなんだよねオレ。特にお前の髪はセットしてないとフワフワで気持ちいいし~?」



“ワックス付けてる時は絶対触りたくねぇけどな”と剛は、おどけてみせた。



「…お前眠くねぇのか?」


「…んー?…少し眠いわ」



体を起こしたオレとすれ違うようにして剛がドサッと体を倒した。


少しじゃなくて結構眠かったんだろ?



「起こして悪かったなゴウ。今日の出発は昼過ぎだ。まだたっぷり時間があるからもう少し寝とけ」



オレは剛の真似をするように硬い髪質の頭をポンポンと軽く叩いた。

──こうすると落ち着く。


お前もオレも口に出さねぇだけで今日の事少しビビってたりするんだよな。


お前の気持ちよくわかるからさ。



「あー…ヤベ。安心…する…わ…」



うつろうつろに呟く剛は、ソウ…?と、掠れた声でオレを小さく呼んだ。



「…なんだ?」


「──おや…す…み…」



「ああ…おやすみ」



上手く聞き取れなかった剛からの言葉に一瞬息が詰まったが、なんとか言い返した。



「ハァ…寝れそうにねぇし…少し外の空気でも吸いに行くか」



完全に眠りに落ちた寝息を確認して、オレは静かに布団から立ち上がる。


大将の部屋から身を潜めるようにしてコッソリ抜け出した。



────ミシッ…

ミシッ…────



ちょっとした廊下に出て下へ行く階段を踏むと昼間こそ気にならなかった年季の入った木の軋む音が響く。


手作りの家だから致し方ないと思うもやはり気になる。この様子だといつ階段が壊れてもおかしくない程に踏み込んだ段が歪む。


大将さえよければすぐにでも直した方がいい。


“じぃちゃんが死ぬ前に作ってくれた家だからよぉ”

そんな昨日の大将の言葉がふと蘇った。


…直してぇけど直せねぇんだろうな。


聞いてみないとわからないな。



「…ん?」



──壊さないように慎重に降りた階段を見上げて、首元を伝ったものに気付いた。


…汗か。


拭うと思いの外じっとりと湿る自分の手。相当魘(ウナ)されてたんだなと少し笑えた。


それにしてもあの剛の少し焦った顔。

起こそうか迷ったけど耐えられなくなって起こしてしまったってツラしてたな。



「…フハッ、なんだよあの八の字眉毛…」


思い出すだけでついでに笑える。


それからオレは、洗面台で清めるように顔を洗い流し鏡に映った水浸しの緩んだ顔を見つめながらその場を後にして台所で水を飲んだ。


ゴクッと冷たいものが喉を通っていく爽快感。

こういう時は炭酸でもジュースでもない水が1番旨い。


すっかり目が覚めたオレは、リビングにある窓の外を眺めながら遠くに見える淡い光に目を奪われた。



「…ん?あそこは…あの丘か?」



確かに見えるその光はオレの気に入ったあの丘から光っているようだ。


空を見上げると、うっすらと明るくなっている。


部屋にいた時はまだ充分に暗かったがさすが夜明け前と言えようか陽が昇るのが早いのはどこの世界も同じなようだ。


──にしてもあの光が気になる。

丘の下から照らされる商店街の灯りがこちらまで届いているのか?


いや、こんな朝早くに店を開けている事無いはずだ。


とにかく気になる。



「…クソッ」



オレは我慢出来なくなって玄関に向かった。



────カチッ…ガタッ



カチッと鍵のズレる音がして戸を押してみるが開かなかった。



「は?」



カチッと鍵のズレる音がして再度戸を押してみた。



「開いた」



どういう事だ?…鍵が開いてたってのか?

戸締りしたよな?


家から出たオレは静かに戸を締めながら探偵のようにその場に立ち尽くした。



「いや…誰が外に出たのかもしれない」



そう結論づいたオレはあの光に向かって歩き出した。何の根拠もないがそこにいると思ったから。


──ザッザッと砂利や土を踏み締める音が木々に囲まれた道に染み渡る。林奥の方で微かに聞こえるのは、鳥が(サエ)るような鳴き声。


朝らしい澄んだ空気を堪能した。


そして丘に近付くにつれて気付いたことがある。




“──も──から──離れ──ら──”


“─言葉────願うよ─”



誰かが歌ってる…?


近付くにつれてより鮮明に聞こえる歌声に既知感を覚える。



──ドクンッ



「…ル、…シファー…」



声に辿り着いたオレはその主を確認して動けなくなった。


あの丘で優しく光っていたのはルシファー。

儚げにうっすらと消えかけている月を見上げながら祈るように静かに涙を流していた。



「…お願い…どうか…」



そう呟いて祈りを捧げる手に額をくっつけそのまま膝立ちが崩れ、



「…もう誰も苦しまないで…」



──言葉にならない想いを込め吐き出すその様子はオレの胸を強く締め付けた。



「なにやってんだよ…お前…ッ」



────ザッ!



いてもたっても居られなくなったオレは来た道を勢いよく走り戻る。


何でアイツがこんな時間に1人で起きて泣いているんだ。昨日までそんな様子なかったのに。


またオレが気付かないうちに傷つけたってのか?


…クソ。



──ガチャッ──バタンッ!



「…クソッ…!」



ドアの開け方がうるさいとか締める音が響いたとか気にする余裕がなかった。ただひたすらドクドクと鳴り響く心臓を抑えるのに必死だった。



「…なんなんだよ…ッ!」



うるさい静まれ動揺するな。

お前には大事な任務があるだろう。


そう自分の胸に言い聞かせる。



「ハァッ、…クッ!」



…見たくなかった。


なんだよ手が震えて立てねぇ…

膝が笑って立てねぇよ。


とにかく今はルシファーと顔を合わせたくない。


アイツが1人で泣いていたって事は誰にも見せたくない想いだったはずだ。それなのに見てしまったオレは一体どんな顔をしてアイツと顔合わせればいいんだ。



「これも…あの…悪夢のせいか…?」



震える手を震える手で抑え、生まれたての子鹿のように震える足を叩きなんとか立ち上がって部屋に戻った。


二人を起こさないようにそっと部屋に入ると、そのままドサッと剛と使う布団に体を倒す。


心臓は依然として高鳴りを鎮めることが出来ない。


アイツ、寂しそうだった。

…すげぇ辛そうだった。


やっぱりアイツは上天界から出ない方が良かったのか?──そんな事が頭を過ぎり、それを振りほどくようにオレは布団を頭から被った。



「スゥ…スゥ…ん…」



むにゃむにゃと気持ちの良さそうに横で眠る剛に目をやると胸の内が引き出されるような感覚が。



「なぁ…ゴウ。オレ…間違ってんのか…?」



剛の針金のような髪をつまみながら呟いた。



「スゥ…」



返事が返ってくることはない。

寝てるんだから当然だ。



「…ルーが泣いてた。オレ…は、逃げた…。どうすれば良かったのかわからない…」



抱きしめればよかったのか?


でも抱きしめてどうするんだ。

何も聞かずに黙っていられる自信なんかない。


そっとしといてよかったのか?

それとも何か言ってやった方が良かったのか?



「…わかんねぇよゴウ…」



オレは剛に背を向けて布団に包まれるように全身を丸めて全てを遮断してたら、塞ぎ込んでるうちに気付けば深い眠りに落ちていた。







━━━━━━━━━━━━━━━

大将の家

━━━━━━━━━━━━━━━

~あれから数時間~






ガヤガヤと騒がしい生活音が響く。


機械的な何かをかける音、パンッパンッと何かを叩くような音、複数の足音が不定期に動き回る音、よく聞こえない話し声。


ひとつひとつを確認していくうちにたんだん頭が覚醒され、閉じていた瞼を持ち上げると眩しい程に太陽の光が部屋の中に差し込んでいた。



「…寝落ちしてたのか」



この照らし具合光の強さ的に陽が登ってからだいぶ経つであろう。


それに驚いたのは両サイドで眠っていたハズのゴリラ二人が居なかった事だけではなく、剛と二人で使ってた布団をが片付けられ大将が寝ていたハズのベッドにオレが丸まって寝ていた事だった。


とにかく体を起こさないには何も始まらない。


ギシッと鈍い音がしてオレはベットに背もたれるように座った。


さっきの今って事もあってホントこのまま引きこもりたいがなんと言ってもここは自分の家じゃねぇ。


泊まらせてもらった分際で何安らかに寝こけてんだよ。


学校に行きたくない。そんな過去に何度も魘された感情と同じような、それに加えて身体が重くてダルい倦怠感が体を蝕んでいた。



今日休もうかなぁ…と窓の外に見える空を眺めながら訳の分からないことを考えていると、



────ガチャ



「おう起きたか。朝飯持ってきてやったから食えるもんは食っとけ」



扉の開く音がしてそう言いながら入ってきたのは大将。


ベット際に置いてあるサイドテーブルに、野菜たっぷりのスープとバナナとオレンジが置かれた。



「…」



その様子を黙って見ていたオレは何故だかものすごく泣きたくなるような気持ちになった。



「まずは黙って体にあったけぇもんでも入れてエンジンかけろ」



大将がベットに腰を降ろしながらスープとスプーンを手に取った。


オレはその言葉の意味を理解出来ない。



「てか…お前、夜泣きグセあるのか?」



ほら、あーん。とスプーンに救われた野菜を口元に持ってくる大将から信じられない言葉が出た。



「…え?」



とりあえず一口食べるとジワッと野菜に染み込んだスープが身体を活性化させるように浸透していく。


うまい…うまいなこれ。

口を開けて催促するオレは何をやってんだ。



「…わり…自分で食える」



すぐさま大将から皿とスプーンを受け取り、もそりと食べ始めた。



「お前が泣いてたらみんな心配する。…お前もそうだろ?自分の知らない所で誰かが泣いてたら心配になって“ここ”苦しくなるだろ?」



ふいに大将は空いた手でオレの胸をつついた。



「…なんだよ…なんか知ってるって口ぶりだな」


「俺だけじゃねぇよ、ゴウも起きてた。…因みに姉ちゃん達も」



なんだと?


いや、だってアンタら気持ち良さそうに寝息立ててたじゃねぇかよ。



「お前があんな可愛らしくゴウに泣きつくからな」



オレの真似をしたいのか大将はオレの髪をつまみながら茶化すように呟いた。


いや、朝から普通にイケメンだけどさ。



「ばっ!なんだよ!泣きついてねぇよ!」


「ハハッそーかいそーかい」



両手を上げた所謂降参ポーズで笑う大将に少し照れるオレ。



「まぁ…でも、お前が寝落ちしてから大変だったんだからな」



お前のこれが。と親指を立ててウィンクされた。

…もう突っ込むのもめんどくせぇ。



「はぁ…ゴウか。次は何をやったんだ?」


「ソウにこんなツラさせやがって!って感じで」



あー。何となく察しがついた。



「…で?」


「ルーちゃん帰ってきてからお前以外総出で会議だ」



「は?なんでだよ」


「いやぁ、あの糞ガキが暴れそうだったもんで止むを得ず…」



呆れた。

アイツを甘やかすと調子に乗るから嫌なんだよ。



「なんで起こさねぇんだよ」


「ルーちゃんが眠りか何かの魔法をかけちまって、俺らじゃ解けなかったから…」



「ルー…が?」



何だってルシファーまでそんな事になってんだ。

オレの知らねぇ所で訳のわかんねぇことして欲しくねぇってのにアイツらはホントに…。



「いや、ゴウがサシで話をしろ!とか殴り込んで、フィーちゃんと少し喧嘩になって、ルーちゃんが、それならソウさんが起きないようにするならいいですよ。とか言って、いやオレも訳わかんないままゴウ止めてたから…」



そりゃ、バツが悪いわな。

そんな事説明するの。



「いや、大将は悪くねぇ。むしろアイツらが騒いですまなかった」



怒りでスプーンがへし折れるかと思うくらい震えてた。…いや、正確には人ん家のスプーンだから折らないように我慢して震えてたんだが。



「まあ、この話は聞かなかった事にしてくれ」



何言ってんだこの人。



「…それは出来ないに決まってんだろ」


「頼むよ」



「なんでだよ。アイツら喧嘩したなら今後に響くだろうが」


「いや、…今まで以上に打ち解けちまったみてぇで」



全員自分勝手かよ。知るかそんなもん。

他人の家でいつまでもゆったり寝こけてるオレが言えた義理はねぇが、朝から迷惑考えずに騒ぐヤツらをほっとく訳にはいかねぇだろ。



「オレもずっと聞いてたから、アレだけど、ルーちゃんの涙歌(ルイカ)の祈りは恒例だから気にしなくていいんだとよ」


「何を訳の分からん事を…」



そろそろいい加減にしてくれ。

いくらの大将でもそんなふざけたノリで済ませるとオレも流石に許さねぇぞ。


ため息をついて言おうとした時、



「だってルーちゃん、大天使ルシファーなんだろ?



オレの聴覚が大将の声だけを捉えた。



────ガチャンッ!



持っていたスプーンが空になりかけの皿に落ちた音が無駄に大きく聞こえる。



「…は…?…何言ってんだよ大将…。オレらは旅人だと言ったはずだが?」



動揺を隠せなくとも脳だけはしっかりと機能しているようで、必死になって弁解するオレの口が震えるのがわかる。



「いーや、お前は上天界女神の息子だ」



目の前が歪むように眩暈がした。


バレると何が起きるとかルールとかがある訳ではないがまだ黙っていたかったのも事実。


今後に響かないように今のうちはせめて誰にもバラさずに居たかった。



「…誰が話した」



オレ自信でも驚くほど静かに唸る声が出た。



「いや、別に誰とか──」


「…誰が話したッ!」



ビクッと身体が震える大将を睨んだ。



「…」


「…」



部屋に沈黙が訪れる。



「──…オレだ」



中途半端に締まりかけた部屋の入口から、やや俯いた様子の剛が入ってきた。


そりゃ顔も上げられねぇよな。

身バレするなとあれほど気にしてたのに。


そして、それをコイツにも話してたのに。



「…来いッ!」


「…お、ぅ」



おずおずと近寄る剛は申し訳なさそうにオレの座るベット際に立った。



「おい!ちが──」



スルッと(モタ)れていた背中を浮かせ剛に身体ごと顔を向けた時何を勘違いしたのか大将がオレを止めた。



「大将、ちょっと黙っててくんねぇか?」


「…ッ!」



オレは俯く剛の顔を覗き込んだまま、大将に手のひらを差し向けて黙らせる。



「…なぁゴウ。…いや、バレたからいい…剛。オレぁ毎日毎日怒鳴りたくねぇんだよ。喧嘩もしたくねぇ。…先に言ったからな。誰かを庇うとかテメェを庇うとかナシにして全て話せ。…何があった」



剛は気まずそうに大将を見てから口を固く閉じた。



「ほう…お前喋んねぇつもりか。

いいか?オレらは今日何しに行く予定だ?忘れんな、このままでいい訳ねぇよな?」



だんだんイラついてくる。



「…オレが勢いで──」


「──違う!」



「大将は口を出すなッ!」


「…ッ!」



それぞれが被せるように叫んだ。



「…自分の口で言え」



長い付き合いだ。お前の嘘などすぐに分かる。オレはそんな嘘なんかどうでもいいんだよ。お前が何を庇って嘘をつくのかその裏を知りてぇだけだ。


いいか、剛。1度オレに嘘をつこうとしたんだ。

…今更引くなよ?


そして、スゥッと息を吸い込んだ剛を探るように見張った。



「…オレさ!こんなに大将に世話になって隠し事してんのがイヤになったんだよ。だから最初はソウに確認とってから言いたかったんだけど、ルーがあんなになるしルーの事もそろそろ限界だと思ったし」



息継ぎもせずに言い切った剛。


ここからはオレの推察力にかかってる訳か。


コイツはルシファーやフェリスと違って一緒にいた時間が長い。オレがコイツの意図を読み取れるようにコイツもまたオレを探るのがこの上なく得意なはずだ。



「…そうか。怒鳴って悪かった」



案外潔く引いたオレにパァっと明るい表情を見せた剛は、その後に続いたオレの“あと…”と言う言葉でまた表情を濁らせオレの口を言うなとばかりに睨んだ。



「…ルシファーが話したんだな?」



カマをかける。



「違う!アイツがそんなヘマする訳ねぇ!」



オレが話したんだ!と耐えられなくなった剛がオレの襟首を握りしめた。


…やっぱりな。



「剛…ちょっとお前ここ座れ」



自分の横に座らせるようにベットを叩いて促す。


それを見ていた大将が少しズレて剛の座れるスペースを作った。


…めんどくせぇけど…手始めに…



────ッ!!



「ッ…!」


「…お前に嘘を付かせて悪かった。そんなつもりは毛頭ねぇから安心しろ」



「ソ…」



オレは剛の頭を軽く撫でた。



「オレが今更“やっぱお前ら要らねぇよ”とかって投げ出すと思ったのか?…心外だわマジで。お前が昨日言ったんだろ?オレらは4人でひとつだと。…違うのか?」



ん?と剛を優しく引き剥がして顔を確認する。



「…そうだ…ッ…」



不細工な顔してベソかいてた。



「…バカだなぁお前は。そんな顔するくらいビビったならオレを叩き起してでも話に混ぜればよかっただろ?」



何震えてんだよ。



「ソウは…身バレしたくねぇって言ってたから…ッ…それを…ルーが…」


「どうせバレるんだ。ただ今はまだ時期じゃねぇと思ってただけで絶対ではないだろ?」



「でもオレ…ソウを泣かしたアイツを…ッ…一瞬要らねぇって思っちまった…」


「…それは頂けねぇな…」



縋りつく剛の言い訳を聞きながらオレは天井を眺め優しく頭を撫でる。



本気で剛をイラつかせたんだな。


マジで一瞬要らねぇって思ったんだな。


そして、そう思ったことをすごく後悔してるんだな。



「…ならいいじゃねぇか」



嗚咽をあげる剛の背中を優しく撫でてオレは諭すように言った。



「…ルーちゃん…仲間から外すのか…?」



大将がビクビクと口を挟む。



「…ちげぇよ。コイツ今心から後悔してるんだ。そうだなぁ…悔しくてごめんなさいが言えないくらい…か?ゴウ」


「ッ…ごめん…悪かった」



「それはオレに言う事じゃねぇだろ?ルシファーには言ったのか?」


「…コイツら胸の内吐き出しまくりで心底恐ろしかったよ。もうダメかと思ってたし。でも、コイツらの仲間意識をナメないほうがいいぞ」



過呼吸気味に引き攣る剛の代わりに大将が話し始めた。


もう、別に普通に喋ればいいのに。



「何があったのか聞かせてくれ」



とうとう大将から説明をさせるオレのダサさ。


オレに慰められる剛は更にみっともねぇけどこのまま枯れるまでメソメソ泣けばいいと思った。



「まず、お前が帰ってきてゴウに弱音吐いただろ?それからすぐにお前は寝落ちしたんだ。したらゴウが俺に起きてるかと話しかけてきて、ぶっちゃけ俺はお前が夢に魘されてる時から起きてたもんで結構覚醒されてて普通に返事したワケよ」


「んだよ、聞き耳立てるとか悪趣味だな」



「まあ、なんか横でイチャイチャしてるから邪魔しちゃ悪いなぁとか思ったし、それにチューでもしたら死ぬまでバカにしてやろうと思ってあえてそのままにしてた」


「なんだそれ。目ェ腐ってんのか?」



「いや、でもそれに近いものをさっきも今も見たから、俺の中ではお前らの関係性を結構疑ってたりするぜ?」


「有り得ねぇから心配すんな。…冗談も程々にしとけよ」



バカ言ってんじゃねぇよぶっ殺すぞ!とかノドのそこまでやるキテたけどなんとか留めるオレ。



「まあお前らならアリかなとか思ってるから大丈夫だ。特にゴウ、コイツはお前に対する執着が異常だ。見てて引くくらい」


「いや…それは公認で頼む。コイツがオレの事大好きなのは昔からだ。今更気にすることでもねぇよ」



コイツは昔からベタベタくっついて歩くの好きだったからな。


…だが、よく考えたら“あたりまえ”って怖いな。


自分の中で常識化してることをやってても人から見たら誤解を生むような行動だったりする訳だろ?


オレと剛は周りからそんな風に見えるのか。

お互い平常通りの接し方してるから言われるまで気付かなかった。


ま、別に誰に何言われてもコイツとの関わり方を変えるつもりは今更ねぇし誤解すんなら誤解して妄想に更けてハスハスしてろって感じだけどな。



「ああそーかよごっそーさん。

…で、“聞いたか?ソウの言葉。ルーって言ってたよな?”って俺に確認するように聞いてきたからまさかこんな事になると思ってなかった俺は普通に“そうだ”と答えた訳。

…したらコイツ、“ちょっとアイツ殺してくるわ”とか急に声のトーン下げてスクっと立ち上がったから速攻追い掛けるだろ?

で、部屋から出た時にたまたま出くわしたルーちゃんに掴みかかったからオレはこうやって止めた訳よ」



身振り手振りで羽交い締めを再現しながら力説してくれる心優しき大将。


ちょっと楽しそうなのは見過ごせねぇが今はどうでもいい。



「…んで、すったもんだやって結構騒いだから姉ちゃんとフィーちゃんが部屋から飛び出てきてそのままフィーちゃんがゴウに掴みかかった」


「…」



「もうなんか言い方汚ねぇけど虫か何かの交尾見てるみたいでグロかったぜ?」



口元を抑えながら思い出したように顔を青ざめる様子を見ると結構本気っぽい。


…見なくてよかったかも。


…いやちょっと見たかったかも。

虫めっちゃ嫌いですけど。


──つか、説明能力皆無ですか。



「…掴みはわかったから何の話してオレ達の素性を吐く事になったのか簡潔にまとめろ。…あとゴウ、そろそろ暑苦しいから退け」



オレは剛を引き剥がした。



「えーヤダ!」


「話してんだよ」



「…む」


「追い出されたくねぇなら黙ってろ」



「おうよ!」



なんともまあコロコロ表情が変わる忙しいヤツで。


とりあえずオレは“それで?”と大将に言いながらオレの分であろうお盆に乗せてあったバナナを手に取り剛に渡した。


受け取った剛はウホッと言いそうなほど嬉しそうに受け取ってから一瞬何か考えオレに剥けと差し出し返してくる。



「…ちょっと待て。俺も…よくわかんなくなってきたぞ…?」


「とりあえず過程はいいから何の話をしたのか教えてくれ」



オレは大将に顔を向けたまま受け取ったバナナを向いてから剛に戻した。


なんてことない一連の動作だ。

違う人と会話しながらでもこんな事出来るとかマジお母さんって感じ。


そして剛は何を思ったのかオレの手から受け取らずそのままバナナにかぶりついた。



「──お前いい加減にしろ!」


「あは、ごめん!つい…」



ネチャッとバナナを食べる特有の音をさせながら喋るゴリラ。


つい…じゃねぇよ。



「──ンフォッ…」



わりとデカめだったバナナをそのまま皮まで押し込んであとは放置。


甘えるのもいい加減にしとけよ剛。

飼育代請求すんぞ。



「ガハハ!ラブラブごっそーさん!」



ついでにこのオメデタイ腐男子も滅びろ。



「笑ってんじゃねぇよ大将さんよ。アンタにこのゴリラ押し付けるぞ」



オレの一言で“話進めてもいいか?”と瞬時に真顔になるソレは魔法の言葉かと思った。


てか、こんな可愛いゴリラ飼いたくねえってのかよ。残念だなチクショウ!



「まず、ルーちゃんはお前が来た事を知らなかった。で、口を滑らしたフィーちゃんが“涙歌の祈り”とか言う言葉を出して俺とゴウが“それはなんだ”と聞いたことがお前らの素生が分かるキッカケだ」


「なんだそれ…よく考えたらみんな犯人じゃねぇか」



ん。という声が聞こえて、いつものクセで手を差し出したら置かれたのはバナナの皮(ヨダレまみれVer.)。



オレはソレを何食わぬ顔でおぼんに乗せて残ってたオレンジを皿ごと剛に渡してからハッとオレは何をやってるんだと幻滅した。



「おいソウ…お前はゴウの母ちゃんかよ」


「…あぁ、もう死にたい」



いや、でも、コイツがうるさい時に良くやってた手段だ。邪魔されたくなければ食いもん寄越せ的な?…ウゼ。


何がウザイってほぼ無言で食い終わったアピールのあの “ん”ってやつな。


昔も今も変わんねぇってお前どんだけ頭ん中成長しねぇんだよ。



「あー…ソウに悪いがそろそろコイツ本気で邪魔になってきたわ」


「だろ?」



やっとわかってくれたか。



「…まあいいや。

で、フィーちゃんがバラす事を阻止したルーちゃんが“私ルシファーなんです”って訳のわかんない事を言い始めて姉ちゃんが“え!?あの大天使の!?”みたいな感じになってあーだからアンジュって名前がつくのね。って独りで納得してた」


「──アンジュ?」



「ああ。どこの言葉かは忘れたけど、アンジュってエンジェル(天使)って意味なんだとよ」


「へえ。 …それは知らなかったな」



じゃあ意図的じゃないにしろルシファーは自分は天使だと宿でも言いふらした訳だ。


──頭が痛くなる話だなおい。

悪気が無くてもそれは天然が過ぎますぜ。



「で、なんでここにいるんだって話になってゴウがこうなった経緯を話したんだ。ま、あの女達にこれ以上失態を曝させない為にって感じだったな」



そうだったのか、ゴリ…



「ラ!?…何してんだ!吐け!コラ、今すぐ吐けよ!」



なんとなく目を向けてそのままビビったのは剛の口にオレンジの皮が。


説明するのも面倒臭ぇが、ほら居るだろ?小学校とかにいる口に皮はめ込んで笑ってるヤツ。


それ!


妙に静かだなと思ったらその顔でこっち見るまでスタンバってたって事かよ。そーかよコイツ。



「あーお前の顔面白かったわあ!」



オレに無理矢理外された皮がキュポンッと言う音を立ててネットリと色んなもんが垂れた。



「なぁゴウ。オレは今大将と話をしてるんだ。見てわかるよな?お前、オレを怒らせたいのか?」



ギャハッと腹を抱えて笑う剛に聞いてみた。



「…ゴウ。お前違う部屋に行け」



それと同時にオレの殺意を越える殺意が横から流れてくる。


なんかもうオーラがオーラに包まれて飲み込まれていく感じ。


あ、これヤバくね?的な。



「は!ヤだし!オレはここに居る!」



「ゴウ…だったらおとなしく──」


「──なら大人しくしてろクソガキッ!」



「「…ッ、」」



雄叫びみたいな怒号にオレもビクッとなりました。ええ、はい。


次余計なことしたらお前出すからな。と釘を指して話を穏やかに戻す大将。



いや、普通に怖かったっス。

ちょっと一瞬ベソっていいですか。



「で、続きなんだけどな、ルーちゃんは満月の夜になると涙歌の祈りをしろって瞳ちゃ…いや、女神に言われてるみたいで理由は知らねぇって言ってて──」



スラスラと状況を説明する大将の口から信じられない名前が出かかったのが引っかかった。


コイツ…今母さんの名前言おうとしたよな?



「──いやちょっと待て。なんでアンタの口からシレッとオレの母親が名前が出てくるんだ?」



死んだ時に会ったなら女神化してるんだからエレノア・グリンシアのハズだ。


本名なんぞ知るハズねぇ…よな?


オレは違和感を感じながら言われて顔を渋くした様子の大将をみつめた。



「お、おい、そんな整った顔で真顔になるな。イケメンに磨きがかかるだろ」


「冗談はよせ。何を隠してる?」



言えと催促した。



「…チッ。これ元に黙ってろって言われてたから言いたくなかったんだよなぁ」



ボリボリと参ったように頭を掻く大将。


アンタは何してても大概イケメンだけどな。

…滅びろYo!


イケメンはオレと剛だけで枠埋まってるってんだ──…って違ぇよ!



「…げん?親父の名前じゃねぇか。クソ、なんなんだよ。訳わかんねぇ。なんでオレの両親がここで出てくるんだ?」



オレもバリバリと頭を掻いた。



「…俺と瞳は2回目の地球人生で幼馴染みだったんだよ。家が近所で親同士が仲良くてさ。で、アイツもともと病気がちだから俺がいろんな所から時季の果物とか持って来て食わせてたんだ」


「…は?」



妹みたいなもんだ。と懐かしそうに笑った大将に言葉が出ねぇオレ。


とんだ裏話がこんなとこで出て来たじゃねぇか。どうすんだよこれ。



「俺が結構グレてたからよ、16で家出て自分で働いてる内に家に寄り付かなくなって気付いたら25になってた。

久しぶりに瞳に会いてぇなとか思って地元戻ったら訳の分からない男と結婚したから勘当したとかアイツの親から聞いてマジその野郎ぶっ殺す!って探したワケよ」


「…話の腰を折って悪いんだが…もしかしてアンタ…母さんにホレてたとかねぇよな?」



やめてくれよ?そんなデジャヴ。

そんな衝撃の過去など上天界のオカマ野郎だけで充分ですから。



「はぁ?瞳にホレてるぅ?ブハハ!バッカじゃねぇの!あんな恐ろしい女願い下げだわ!さっきも言っただろ?アイツぁ妹みてぇなもんでそれ以上でもそれ以下でもねぇよ!

…ま、アイツはずっと俺を想ってくれてたみてぇだが」



なにそれもっと聞きたくなかった…!



「ハァ…もういい。進めろ」


「んで、やっとこさ見つけた時にはその野郎の息の根止めてやろうと思ったけど、まあ見つけてビックリ会ってビックリだわ。自分そっくりだし?話し方とかも当時の俺そっくりだし?」


「…自分の刀持ってるしな」



聞きたくねぇことを黙って聞き続けるほどオレの神経太く出来てねぇ。


手っ取り早く話を進めるに限る。



「あぁ…だな。お前が生まれるまでは何となく関わって何となく遊びに行ってたんだが…俺が転勤になってから疎遠になっちまってな。…次会えたのは瞳の葬式だった」


「は?アンタ…葬式に居たか?」



「あの時は…瞳を助けられなかった元を殺す気で行ったからな。外に居た警備員に止められて帰されたよ」


「…なるほどな」



「で、そのあと都合つけてもらって会ったときに事情を聞いて神創神だの女神だの最初コイツ狂ったのか?と思ったがよく考えりゃ俺何回も上天界行ってる訳じゃん?“そこに瞳が居る。お前も死んだら会える”と言われて妙に納得したんだよ」



“まあ女神なんかあの恐ろしい女に務まるかと思ったけどな”…だってよ母さん。


言ってやれ、“恐ろしいんじゃない、悍ましいんだ”と。



「──元が地球(アスラ)から旅立つ直前に会ったのは恐らく俺だ。どうしても会いたいって言われて。

もうその時には全ての状況を把握してるから蟠りなく会えたんだが…さすがにお前置いて死ぬって言われた時はぶっ飛ばしちまったな」


「ああ、殺しても殺したりねぇだろ」



わかるぜ。

オレも精神面がズタボロにやられてたからな。



「押し付けてきたのは“たまにでいいから“創を見に行って欲しい。ヤバそうなら俺のふりして脅してくれ”って」



…一回あったかもしんねぇ。学校サボりまくってバイトしまくってたら親父に怒鳴られた感じの夢?だかなんだか。


疲れて家帰ってきたら道場に灯りがついてて見に行ったら親父がキレた顔して座ってて…



「…てことは…もしかしてオレは大将に向かって“いつまでもこんなトコ居ねぇで早く成仏しろやクソ親父”って言ったのか?」


「ああ、そうだ。あん時のお前窶(ヤツ)れてたよな?ほら、コッチはオバケ設定だから普通に絡めねぇからお前が寝たのを確認してから怒鳴って帰ってやった」



あー…あったわそれ。



“テメェ学校はどうしたんだよ!ガキが背伸びして働いてんじゃねぇ!そんなにヒマなら修行しろ!”



…ってな。あれマジでビビったんだぞ。

3日くらい家帰れなかったし。



「──で、正直ルーちゃんとは顔見知りだった訳で」



そして大将は勢いのまま今までの話を蔑ろにするかの如くサラッと話を変えて耳を疑う発言をした。



「あー──…は?今なんて?」


「いやだからルーちゃんとは元々知り合いなのよ」



やけに物静かな剛に一瞬視線を向けると眠そうにうつらうつらしている。



「…いや待て。急に何言ってんだよ」


「俺、一回フレイミスで生きてるって話したろ?だから適役だと思ったんじゃねぇの?ちょっと頼みがあるってルーちゃんが元の伝言を持ってきたんだ」



「…ああ」


「まあ、…えっと。その…お前がそろそろ死ぬから先に行って準備しろって」



「アンタ…姉ちゃんと幼少期過ごしたって言ってただろ?あれは嘘か?」


「いや、あくまで姉ちゃんと俺の記憶はそのまんまだ。ただ俺が経験をしていないだけ」



「はあ?ますます意味わかんねぇ」



なんだよ、次から次へとゴチャゴチャと。


そろそろ、メモリー不足で初期化する選択肢が浮かぶ頃なんですが。



「俺が実際にこの身体に入ったのはクリスが王になった日だ。それ以前の記憶は元々この身体の主だったヤツの記憶を台本のようなものだ。だが心配するなよ。俺は俺であるがこの身体の主でもある」


「…ダメだ!わかんぬぇ!」



「難しいよな!俺も難しい!だが、ハッキリと言えるのは今までの苦悩は全て嘘じゃなく俺の中で燻ってんだ。俺の前にココにいた奴の想いがそのまま受け継がれて恰も自分が経験したかのように思い出す。だから俺は姉ちゃんが大事だしクリスが大事なんだ」



剛に助けを求めて顔を向けると、いい感じに寝こけてた。…使えねぇっスね。



「…わかったようなわからないような」


「まあそんな事より…ルーちゃんは俺を見た一瞬で気付いたみたいだな。俺はこんな所に居るハズがねぇと思ってたから気付かなかったが。

アイツめちゃくちゃ俺にビクビクしてただろ?あれ多分俺が死んだのは自分が伝言を伝えたからって勝手に責任感じてて恨まれてると勘違いしてたからだろうな。だからさっきの話し合いでそれは伝えた」



「…オレだけ置いてかれてる気がしてきた」


「気にすんな大した事じゃねぇよ。…あ、因みに姉ちゃんとクリスにはオレがこの身体での途中参加って知らねぇからそこんとこよろしくな」



「あ、ああ」


「まあ、そんなこんながありまして、お前と俺は出会うのは必然だったんだよ。ごめんな騙して。

いろいろ探ってお前がどれだけの器で今回の事にどれだけ本気なのか知りたくて試してた部分もあった。そしてお前にバレないように必死になって誤魔化してたけどルーちゃん居たらいずれバレてたしな」


「…そうか」



正直何も分からなかったが、ここに来てやっと少しだけホッとできた。


大したことにはならなそうでひとまず安心だな。


ま、親父が何故大将をオレの監視役として出会わせたのかは未だに謎だが、そのおかげでやりやすくなることには変わりねぇしな。


… 結果オーライじゃね?

もうめんどくせぇし、なんでもいいや。



「…因みにゴウはしっかりと謝ってたぞ。なんか“オレは創の泣きべそかいたツラを見て、お前なんか要らねぇって一瞬思った。…でもそのくらいアイツが大事なんだ。ごめん”って」


「…バカじゃねぇのコイツ」



ホント…そんなどこでもかしこでもオレ好きアピールして一生春が訪れなかったらどう責任とってくれるんだよコイツ。


…まあ、コイツなら“お前を嫁に貰ってやる”とか訳わかんねぇ事ドヤ顔で言いそうだけどな。

考えたオレが馬鹿だったわ。



「…おま、顔真っ赤だぞ?…はーん、さてはゴウの漢気に照れてんの──」


「──ねぇよ!…ただ地球でちょっと色々あって離れてた時間があったからよ、まだそんなガキの頃みたいに純粋な気持ちで居てくれるのが嬉しいだけだ」



とりあえず、…恥ずか死ねる。



「…ここから面白いんだわ。言い返したフィーちゃんのキレ具合ときたら」


「は?ルーじゃなくてフィーか?」



「おう!アイツ握りしめてたグラス思いっきりゴウにぶん投げて“だったらアンタのそのハッキリしない大事な親友がアタシの大事な親友を無意識に傷付けるのやめさせなさいよ!”つってテーブル越しに胸ぐら掴んでた」


「…マジか」



うは…寝ててよかったわ。



「まあ、それに関してゴウは何も言い返さなかったけど」



ふーん。お前、オレのプライド守ったのか。


バカなヤツめ。

フェリスにキレられて傷ついたくせに。



「コイツそれから黙ってたのか?」


「いや、直接的な事には触れてなかったが、“…悪かった。でも、ソウもソウなりに考えてる事があるんだからオレらが口を挟む必要はねぇだろ…壊したいのか?”って、静かに問いかけてたな」



「お人好しな野郎だ」


「…それから少し二人がもみくちゃになって…まあ、別に俺からしたら大事な友達自慢みたいにしか聞こえなかったし危なく無さそうだからそのままにしてたんだけど…」



どなたか覚醒でもしたんですか?



「あー…いや、まあ…自分の方がソウを想ってる的なやり取りを小一時間見せつけられた。ハァ…思い出すだけで呆れるわ」


「ハァ…」



剛に一瞬目を落としてから顔を隠すように手で抑え込んだ大将はデカい溜め息をついた。


ついでにオレも同じ動作をした。

…つか大将、剛の真似上手すぎだろ。本人レベルでめちゃくちゃビックリだわ。



「──まあ…とにかく。全てをお前が背負い込む必要はねぇんだぞ。お前が男気懸けて必死で守ろうとしてるモンはそんなに脆いモンじゃねぇ。たまには頼ってやらないとコイツ含めた三人を不安にさせるだけだ。お前に覚悟があるようにコイツらだって腹括ってお前と一緒に来たんだから」



締め括りはそんなような響きの良い言葉だった。



「確かになぁ…オレの事好きなヤツが多いから勘違いで暴走されるしなぁ…」



──特にコイツと剛の頬を抓る。



「イデッ!痛てぇよバカヤロウ!」


「いつまで寝たふりカマしてだお前」



「はぁ!?お前寝てなかったのかよ!」



「な、なんでソウにはバレるんだよ!」


「コイツちょくちょく反応してたんだよ。オレはそれを見逃さなかったんだぜ?なぁ?剛」


「イデデデデ!やめろ!ほっぺた取れる!」



「…ガハハハ!んだよお前ら可愛いなぁコノぅ!」


「─ちょ、何でオレまで!?やめろ!」



「イデェー!苦じィー!」


「お前らなんかオレのこの腕筋で気絶しろ!」



…クソ野郎。


みーんなクソ野郎。

どいつもこいつも、仲間想いのいい奴ばかりが集まりやがって。



「…あ、そろそろアイツらが帰ってくる頃だ!よし、お前ら!昼飯作ってアイツらを喜ばせるぞ!」


「あ!待て大将!ヤリ逃げはいけませんって保健体育で習っただろ!?」



「おいお前ら!酷ぇぞ!オレなんか痛くて苦しかったんだからな!」



野郎三人がドタドタと体格も考えずに家が揺れる程全力で走る。



──バキッ!!



「「「…ん?」」」



────ガシャ!!



それから勢いよく部屋を飛び出したオレら三人が、オンボロの階段をぶっ壊して下の階までスライディングしてった話は言うまでもない。








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大将の家・階段

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「で?あなた達三人でふざけてたらこんな事になったと」


「「「はい、すんませんお姉様…」」」



「この階段が無いと二階にあがれないわね」


「「「…ごもっともです」」」



かれこれ土下座させられて1時間。

いい加減足も痺れて来た頃。


階段が壊れて下まで転がったオレ達が誰が壊しただの、誰のせいでこうなっただの下らない小競り合いを繰り広げている内に、朝の店支度を終わらせたシェイさん含めた女子組が帰ってきてこうなった。


結局、飯を作ろうと息巻いて飛び出したくせに何一つ準備すら出来ないまま、家を壊すだけ壊して今に至る訳だ。


…そりゃ、怒られるわな。



「はぁ…どうすんのよコレ」


「あー…もし二人が許してくれるのなら、オレがこの家を直、…しますけど」



大きなため息を零すシェイさんに恐る恐る提案をするのはオレだった。


だってこのゴリラ二人、さっきから謝るだけで何も喋んねえんだもん。



「直すって…どうやるのよ」


「魔法を使って…ッス」



もうね、ホント怖い。



「ね、姉ちゃん。コイツの腕は確かだから心配は要らねぇよ。任せてもいいんじゃねえのか?」



そう言った大将を睨みながら、シェイさんはやってみて。と冷たく言い放った。


何度も言うが、ホント怖い。


ルシファーもフェリスも空気を読んだのか、台所で飯の支度してるし。ちょっとは助けてくれてもよくね?


オレ達が悪いんだけどさ。



「…だが、オレが直したら新居のようになるけどいいのか?」



念の為の確認をする。

一概に直すと言っても、時の魔法を使ったものになる故、正式に言えば戻すと言う言い方の方が原理には当てはまる。


例えば、階段が壊れる前に戻せと唱えれば、いつ抜け落ちてもおかしくない古びた状態に戻す事になるし、それより前の状態に戻せば、(オノ)ずとこの家全体が一時期前の状態に戻ってしまう。


自分達の住んだ歴史を消し去ってしまうのと同じ事で年季もクソも無くなるという話をオレは詳しく説明した。



「…それは、イヤだけど…でも、このままじゃ二階にも行けないし、直すなら壊れないようにしてほしいし…」



シェイさんはうーんと唸るようにして悩んだ。



「この家の思い入れは大将から聞いてる。だからこそ、新しい状態まで戻してこれから先も長く住める家にしたいのだが」



壊す前の階段に戻しても、遠からずこのように壊れる日がいずれにしろやってくる。


その時にオレ達が傍に居れば、すぐにでも直す事が出来るが、そう上手く近くにいる事なんて無いだろう。


そうなれば、修理を頼んで直すまでに時間も手間もかかるし、何よりそれこそ立て直しさせられるかもしれない。



「…そう、ね。わかったわ。とにかく、今のままじゃ生活できないから直してもらえる?」



とうとう観念したようにシェイがため息混じりで言った。



「わかった。この家が出来たばかりの状態まで戻すからな」


「…ええ、お願いね」



そう寂しそうに笑って目を背けるように台所へと消えて行った。



「…大将」


「…ああ。なんか、感慨深いもんがあるから、一瞬嫌だと本気で思ったがお前の言う通り少し前のに戻してもすぐ壊れるだろうからな。…いい、やってくれ」



可哀想なことしたなって思った。


オレが悪いのかよく分かんねえけど、でも二人から了承も得たし…やるしかねぇよな。



「わかった。家の作りにだけ魔法をかけるから、置いてあるものは大丈夫なハズだ。少し集中するから静かにしててくれ」


「わかった」



剛と大将を移動させ魔法を唱える為に気を一点に集中した。


何度か唱えてるこの魔法。

毎度毎度酒が入ってる状態で唱えてたもんだから、素面での状態は初めてだった。


完璧に唱えれば難て事はないはずだ。

二人のどちらからか聞こえてきた生唾を飲む込む音のおかげで少し緊張してきた。


…できる。


──深く息を吸い込み、



「…リバース」



広げた掌に念を込めた。



────パァァァァァ…



何度見ても綺麗だと思う淡い緑色の光。

眩しいような、優しいような。


壊れた階段が光に包まれて元の位置に戻っていく様子を漠然と眺めながら、その光に癒された。


ひとつひとつのパーツが引き寄せられるようにお互いが重なり徐々に形が戻っていく。


時を戻す魔法だという事は、壊れていく動きが逆再生していくと言えば想像しやすいだろうか。音もせずに物が動くのが、また不思議な感覚にさせた。



「「す…げ…」」



視界に映る二人呆気に取られ光を目で追っている。


やがて、元の形に戻った階段の周りで輝く光が家全体を包み始めた。


損傷の激しい部分や劣化の進む部分はいくらか光が強くなるようで元が古びた家だけにかなりの時間が掛かるんだな。


上天界でグラスを戻したのが体感で言う10秒弱。2日前の酒屋を直したのが5分弱。

…そして今回のこれは10分くらいか?



────シュンッ…


「グハァッ!!…ハァッ…ハァッ…」



光が消えた途端に思いがけない疲労感がオレを襲った。



「「ソウッ!」」



さすが魔力と体力がスタミナとして等しい世界だけあるな。


すぐさま駆け寄ってきた剛と大将に返事をする事すらままならない程、息が上がり視界がボヤけてる。


制限掛けられてるとは聞いていたがこんなにも底が浅いなんて普通は思わねぇだろ。オレ今結構この世で強い部類に入ってると思うんだけど。



「──時の魔法は、魔力を最大に使います。特に今ソウさんが唱えた呪文は、世界の一部を変えてしまうので、疲労も膨大なものになってしまうのです」



そう言いながら、魔力を分けてくれたのはエプロン姿のルシファー。


いつから居たんですか。そしてそのヒラヒラエプロンむちゃくちゃ似合ってますよ。



「…マジックデバインドで応急処置しますね。キュアラだと小回復なので」



────パァァァ…



ルシファーはそう言うと掌をオレに向け魔法を唱えた。



「…だいぶ楽になった」


「よかったです。でも、私も無限に魔力がある訳じゃないので無理はしないでくださいね」



「ああ、ありがとな」



あの一件から初めて顔合わすもんで勝手に気まずい気持ちになっていたが、どうやらそれはオレだけだったみたいだな。


普段通りの接し方をしてくれて助かる。



「──わぁ懐かしい!」



シェイさんが台所の方で声を上げた。



「ふふ、はしゃいでますね♪」


「ああ、姉ちゃんも思いの外喜んでくれたみてぇだし…ありがとな」



ルシファーの微笑みに返事をすると大将はオレに礼を言ってきた。



「…オレらが壊したんだから直すのは当たり前だろ?」



マジで恥ずかしかったけど。



「おい…ホントに大丈夫か?死なねぇ?苦しくねぇか?嘘はダメだからな?」



普通に立ち上がって話をしてるのに一人だけ取り残されたような顔して床に座る剛が心配そうにオレを見上げる。



「はぁ…お前さぁ…オレが倒れたらショック死すんじゃねぇの?」


「ホントだよ!お前ソウがそんなに貧弱な訳ねぇだろうよ!」



「でもっ──」

「──大丈夫だから立て」



ほら。と手を伸ばすと嬉しそうにその手を取りすぐさま立ち上がる剛。



「…お前一回ソウに思い切りボコボコにされたらその執着心落ち着くんじゃねぇの?」


「な!ソウがオレをボコボコにする訳ねぇだろ!」



ガシガシっと頭を掻き乱される剛は振りほどいて自分より背の高い大将を見上げながら食いついた。


面倒臭い流れに苦笑いのオレ。


ルシファーは話題が変わった瞬間、興味無さそうに台所へ戻って行った。薄情なヤツだ。



「いや、ソウを本気で怒らせるのはこの世のどこ探しても後にも先にもお前くらいしか居ねぇだろって──」



そう大将が言い切る直前、



────ダンッ!



直したての家の中に鈍い音が鳴り響く。



「ソウ…オレの事ぶっ殺さねぇよな?」


「てめ、ぶっ殺すぞ退けよ!」



「ァでッ!!」


「ブハッ!ほら見ろ殴られてらァ」



せっかく直した壁叩きやがって。



「…お前、オレがどんだけ魔力使って直したかわかってて壁ドンしたのか?」


「あ…」



「どうなんだよ?」


「うは、お前イケメンだなコノヤロー♪」



「…」



…そうだった、何言っても無駄だったわコイツ。


お前がオレを愛してやまないのは今に始まった事じゃねぇからどうでもいいけど。



「大将、あんまりゴウを囃し立てないでくれ。ただでさえ最近スキスキ攻撃に磨きがかかってマジでめんどくせぇから」


「あー…なるほどね。確かにあの朝方のは面倒臭い以外の何者でもなかったもんな」



「だろ?だからコイツがこうなったら軽く流してくれ」



頼むから。


コイツの相手をまともにしてたら体力がいくらあっても足りねぇんだよ。




「──ご飯出来たわよー!」




そんなこんなしてるうちに結局何も手伝う事なく昼飯が出来上がったみたいだ。


使えねぇ野郎共を同時に三人も面倒を見るって大変なんだろうな女子組三人よ。


…ホント、すんません意外の言葉が見つからねぇ。



「あ、飯だって!ソウ邪魔!退いて!」


「──おいっ!」



剛がドンッと勢いよくオレを壁に突き飛ばし台所へ走り去って行く。



「いってぇ…あのクソゴリラ」



違う意味での壁ドンか。新しいなコノヤロウ。



「元気だなぁアイツ…」


「病気にでもなってくれりゃ静かなのにな」



「何言ってやがんだ。病気になったら誰よりも心配して夜も眠れなくなるくせに」


「今病気になってくれたら問答無用で上天界に帰すっつーの」



「あーはいはいそうですね。俺達も行こうぜ。飯食って使った魔力回復しねぇといけねぇだろ?」



真新しくなった床を勝ち誇ったように笑いながらズカズカと踏み鳴らし先に行く大将。


こんな調子じゃ、すぐにまたボロが来て直すハメになりそうなのは誰もが思う事だろうな。


打ち付けられて地味に痛む腰を擦りながらオレも後から付いて行った。







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大将の家・リビング

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「あ!アタシ達ボシーヘイデットの近くまで行ってきたからテレポートで行けるようになったよ!」



モサモサと出された新鮮なサラダを噛み締めていたらふとフェリスが思い出したかのように言った。



「…なら歩いて行く必要は無くなったんだな?」



無理矢理飲み込んで返事をする。



「あ、でもボシーヘイデットまでじゃなくて近くまでだから少し歩くけど…」


「どのくらいだ?」



「えー…どのくらいだろ?」


「1時間弱くらいですかね」



考え込むフェリスに見入ってたらルシファーが代わりに答えてくれた。



「そうか…だが何故急にボシーヘイデットの傍まで行ったんだ?何か用事でもあったのか?」



これについて口を開いたのはシェイさんだった。



「二人が朝から手伝ってくれたおかげでお店の準備がいつもより早く終わったから案内してあげたの。二人とも移動時間が知りたかったみたいで」



しっかりした仲間ね。と褒めてくれるシェイさんに照れるオレ。


…いや冗談抜きでこういう気遣いは本当に助かる。



「そうだったのか。付き合わせて悪かった」



ただでさえオレ達のせいで少し時間が押されてたとこだったし暗くなる前に国の周りを散策してある程度地形を把握したいと思ってたとこだ。



「──何時頃出るんだ?」



剛が空いた皿をカチャカチャと重ねながら聞いてきた。



「…何か他にやる事あるか?」


「…時間があれば…少し商店街に行きたいんですけど」



質問に質問で返したらルシファーが控えめに挙手した。



「どのくらいで帰ってこれるんだ?」


「2時間あれば戻ります」



「ならルー達が戻り次第出発する」



「じゃあその間オレらは──」


「──オレ達は散々世話になったんだから少しでも家事を手伝うんだ」



女子組は別として昨日からずっと世話になりっぱなしなのはどう考えてもオレらだし忙しそうで何もしてないのもオレらだ。


ちょっと株上げとかないと実は物凄く嫌われてるような気がしてならないからな。



「それはすごく助かるわ。なら私達は途中まで一緒に行けるわね」


「「うん!」」



勢いよく返事をする女子二人。



「戻ってきたらすぐ出れるように準備だけはして行けよ」



そう言い残してオレはテーブルにある重ねられた皿を持てるだけ持って台所へ向かった。



──それにしても出会いって結構大事だよな。

2日前酒屋で博打しようと思わなかったら大将に出会えなかったかもしれない。


そうなればこんな風に武器を上手く揃える事も、ルシファーのベルトやフェリスの防具を手頃な値段で買えなかったかもしれない。


大将から話を聞かなければただ人質を取り返すだけで肝心な事に気付けなかったかもしれない。


どれもこれもあの2日前に遡って酒屋で人暴れしたから今こうして落ち着いた時間が取れてる訳だ。


…大将曰く出逢うべくして出会ったと言うが、少しでも時期が遅れていたらこうも上手くボシーヘイデットの内情は流れ良く知り得なかったハズだ。


ちょっとしたきっかけを大事にしないといけねぇな。



「──おい!」


「っんだよ!ビックリさせんな!」



「いや、いつまでその皿洗ってんのかなって思って」



どうやら、ボサっとしてたみたいだ。

剛に指摘されるまで同じ皿を洗い続けてる事に気付かなかった。



「──ああ」


「オレもなんか手伝うよ。何すればいい?」



「あぁ、アイツらはもう行ったのか?」


「おう、今さっきゴキゲンで出てったぞ」



「そりゃ、よかった」


「で?何すればいい?」



キッチンのカウンターに肘を置いて見つめてくる剛をくまなく見つめ返して考えるが、正直やってもらえる事はない。


下手にやらせると仕事が増える可能性もあるし…。だからと言ってお前にやらせる事は無いとか言った日にゃ大騒ぎされるだけだからな。



「…お前はオレの傍に居てくれればいい。なんか、楽しい話しようぜ」



うん、これに尽きるわ。



「えぇー?」



面白い話ぃ?と目をルンルンさせる剛を見てたら笑えてきた。


単純且つバカって扱いやすくていいよな。

煽てりゃ機嫌もよくなるし何より見てるだけで愉快だ。



「あ、そーいや、ボシーヘイデットの件が終わったらどこに行くつもりなんだ?」



でも、剛が出した話題は案外楽しくない話で肩透かしを食らった。



「終わったらか…。

そこまで考えてなかったが、オレは今回リトルウィアークに居るのは拠点を置きたいからって言ったよな?この件が全て片付いたらとりあえずこの町に家を建てようと思ってんだよ」



土地を貰う交渉をしようとは思うが家一軒分の土地となればさすがに無償でとは言えない。


…少しでも金があればいいのだが。



「え!?マイスイートホーム?愛の巣かよ!いーなぁ!オレらはどうすんの?野宿?」



オレの思考とは裏腹にこういう事を半ば本気で思う剛にはたまに天才なんじゃないかと錯覚する事がある。



「なに…お前、野宿してぇの?」



真面目には大真面目で返すに限るだろ?



「いや、したくないけどでもオレお金ないし…ルーとソウの邪魔したくないし…でもフィーだけでも寝かせてやって欲しいなとか…いや、オレだって室内で寝たいけど──」


「あーはいはいわかった!悪かったよ!言葉が足りなかったな!この件が片付いたらオレ達四人の!家を建てようと思ってんだ」



デケェ体して何モリモリ言ってんだコイツは。


それに毎度の事のように思うが、なんでオレが謝んなきゃいけねぇんだよ。どんだけ面倒臭いか一回体験した方がいいんじゃねぇのコイツ。



「…なぁんだよ!ビックリさせんなよ!あーよかった、ソウってこんなに冷たい奴なのかと危うく認識する所だったわ」


「…はいはい、すいませんね」



キュッと蛇口の締まる音が一瞬響いて、最後に置いた皿がずり落ちそうになったのを焦って抑えた。



「──これで洗い物は終わりだな。他に何か頼まれた事あったか?」



ズレた皿を収まりの良い所にハメるようにして置き、ホコリが被らないように綺麗に畳まれた布巾を広げて掛けた。



「…お前、なんか母ちゃんみてぇだな。そんだけ完璧にやりゃ立派な嫁になれるぜ?」



オレのとこに嫁げるじゃん。とクソつまんねぇ事を真顔で言う剛を小突いてダイニングに戻る。


そーいや、シェイさんが布団を取り込んでおいて欲しいとか何とか言ってたような。



「あー大将、布団取り込もうと思うんだが、どこに置けばいい?」



三人掛けのソファーを目一杯使って寛ぐ大将に問いかけると、半分寝落ちしていたのか眠そうに体を持ち上げた。



「んあー…部屋にぶん投げときゃいいんじゃね?」


「いや、でも一応女の部屋だからさ…」



「お前女の部屋入ったことねぇの?」



バカにされた。



「は?ありますが」


「「え!?あんの!?」」



はいムカつくー。


こっちは一応他人だし、ましてや女の人だし、気遣って言ってんのにバカにされる意味。普通に女の部屋なんか何回も入ったことあるわ。


…母ちゃんの部屋…カウントすれば。


いや、上天界でサニーさんの宿に泊まったときだってルシファーが使ってる部屋で寝たし…。



「食いつくな。部屋入っていいんだな?オレは聞いたからな。布団、部屋に戻すからな?」



しつこいくらい聞いておく。


布団取り込んどけとシェイさんが頼んだのは大将にだった。


オレじゃなかったからあんま勝手な事出来ねぇじゃん。



「たかだか女部屋に入るくらいでそんな緊張すんなよハダカで待ってる訳じゃあるまいし」


「そーだそーだ」



「お前らホントうぜぇな!もういい!布団取り込んでくる!」



ムカつく。


いいよもう、知らねぇから。

畳み方とかオレのやり方でやってやるからな!


ドカッとダイニングの入口の戸を開け放ち、真新しくなった階段をわざとらしく音を立てて上がった。


あ、因みにこれは小さな反抗という意味で取ってもらっても大丈夫です。



とにかく虫の居所が悪い。すぐチェリー君バカにするんだから。気にしてるって言ってんのに。


いや…恥ずかしくて言ってねぇけどさ。


ガラッとベランダに出る窓を開けたら自然豊かな木々の香りが鼻に届いた。




────パンッ!!パンッ!!



「ホンット、うぜぇ、よなっ!クソッ!」



側に置いてあった布団たたきを振り翳しこれでもかってくらい爽快に布団を叩いてやった。


それから有り得ねぇくらい丁寧に何度も畳み直しシェイさんの部屋にそっと置く。一応…気合いは入る。…人の布団だし?


…てか部屋キレイだな。ここが女の部屋か…

──いや、別に気になるわけじゃねぇし!


何も見なかった事にして逃げるように部屋から出たオレは涼しい顔してダイニングへと戻った。



「──おう!どうだった?いい匂いしたか?」



下に戻るとすぐに飛び付いてきたのは剛。そうだ、お前も確かチェリー君だったな。



「ああ、女らしい花の匂いがしてたな」


「ええ!?マジで!?…うわぁ、オレも行けばよかった!」



布団を干し直してこようかな。とかフザケ過ぎだろ。



「おい、そろそろ気を引き締めろ。ルー達が戻ってきたらすぐに出るんだからな」



分かってんのか?と、釘を指すオレも人のこと言えた義理じゃねぇが剛の場合切り替えが遅いんだか悪いんだか永遠にフザケ続ける事も多々ある。


遊びじゃねぇんだからしっかりしてくれよと切に願うばかりだよクソが。



「──あー…俺は何してりゃいいんだ?」



割り込むように大将が確認するが特に何かしていて欲しいことはない。



「人質を解放したらすぐにボシーヘイデットへ戻るつもりだから大将はいつでも出れるようにしてくれれば何してくれても構わない。…あ、でも酒飲むのは控えてくれ」



へべろけでクリスに絡んでって後から記憶にございませんじゃ話になんないからな。



「わかった。姉ちゃんには俺が出発の時に言うつもりだとお前が寝てる時に話してあるからコイツらは大丈夫だと思うが、お前もバレないように頼むわ」


「…言ってなかったのか?」



「…言えるかよ。クリスの名前出すだけでも泣き出すってのに会いに行くなんて言える訳ねぇだろ?」


「…わかった。オレからは何も言わない」



まだ、好き…なんだろうな。


そりや、結婚まで考えた相手ならそう簡単に忘れる訳ねぇか。



「…ソウ。…オレ緊張してきたんだけど」


「…これまでそれらしい事はなかったからな。下手すると本格的に戦闘になる可能性もあるだろうし」



だから一切の油断も許されねぇ。



「…ソウ」


「んだよビビってんのか?来いよ」



「ッ♪」



何が悲しくて野郎の頭撫でながら黄昏(タソガレ)なきゃなんねぇんだ。



「終いだ」


「もっと!」



お前とイチャついてるとこなんか誰も期待してねぇんだよ。



「ハァ…ちょっと外の空気吸ってくる」



「あ、オレも行──」

「──来なくていい」



「えーなんで!?オレだって外の空気吸いたい!」



両手両足をフル活用して駄々をこねる剛に本気でウンザリするオレ。



「…じゃあ行ってこいよ」


「…ソウは?」



「あー…便所行ってから行く」


「ならオレ待ってる!」



…もうやだコイツ。



「ちょっと一人にさせてくれ」


「なんでだよ!」



「集中したいんだ。頼むよゴウ」



保育士でも飼育員でもねぇんだぞオレは。人の命掛かってんだから気を緩める訳にはいかねぇだろ?



「…どーせオレなんてさ…居ても邪魔なだけとかさ…うぜぇヤツとかさ…そんなふうに思ってんだろ?」



口を尖らせる剛。

言わなくてもわかる事だが…


心ッ底可愛くねぇ!



「ふざけていい所じゃねぇ事くらい分かってんだろ?」


「…でもさァ外の空気くらい一緒に吸ったっていいじゃねぇかよォ。そもそもお前の空気じゃねぇし」



「ハァ…」



剛が邪魔とかそんなつもりは無いが、いつでも誰かが傍に居ると1人になりたくなる時だってあんだよ。


正直ちょっと邪魔だと思ったけど。



「…おいゴウ、刀の手入れは?」



困り果てたオレを見てさすがに憐れに思ったのだろう大将が剛の気を逸らすように話しかけた。



「…まだ」


「手入れの仕方教えてやるから今のうちに済ませとけ。暫く使ってねぇから切れ味も落ちてるかもしれねぇ。俺の部屋行くぞ」


「…………うん」



長すぎる間にヤダとか言ったらどうしようかと思った。


まだ少しフテ貞腐れてるが自分の使う武器が気になるのはある種の性みたいなものだ。多少強引なやり方だとしても一旦はそっちに気が向いたみたいで正直ホッとした。


そして大将はソファーから立ち上がって先を歩く剛を追いかけるようにしてオレの横を通り越しざまに



「コイツは連れてくから今のうちに気を鎮めとけ」



オレの背中を軽く叩きイケメン振り撒いて剛をそのまま連れて階段へと向かってった。





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大将の家・リビング

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~束の間の休息~





「ふぅ…静かだな」



表に出て気分転換するか迷ったが、刀の手入れ終わらせた剛が戻ってきた時にオレがいないと騒ぐだろうと思って結局外には出なかった。


これから先いくらでも外に居る事になるんだから、それくらい我慢はできる。


それに大将が気を使って一人にしてくれたし、ここはここで物凄く静かだから何一つ申し分は無い。



「ふぅ…」



ソファーに横たわって天井を見上げた。



あれ…?



目に映ったのはお世辞にも上手いと言えない四人の似顔絵。


左から大将、シェイさん、金髪のロングヘアの男、禿げた男。おそらく、クリスとその爺さんだと思われる。


当時は皺を書く技量が無かったのだろう禿げた男は顔だけイケメンに描かれてなんとも不格好だった。


…ホントに大切だったんだろうな。


家を直す前はこんな絵は貼られてなかった。生活していく内に剥がれ落ちて捨てたのか、それとも意図的に剥がしてしまい込んだのか。


いずれにしてもシェイさんはこの絵に懐かしさを感じたハズだ。


昼飯の時にぼんやり天井を眺めてニコニコしてたから間違いないだろう。


オレも気付いて見上げればよかった。



「ハァ…」



とにかく今は捕まってるヤツらが無事でいてくれればいい。根こそぎ連れて帰ってみんなが元の生活に戻れればそれで充分だ。


ついでに大将とクリスを会わせて何もかも解決出来たら万々歳。そう簡単に上手く行く訳ないとわかっているが目標は目標だ。


口に出した手前こっちも諦める訳にはいかねぇからな。


ボシーヘイデットに着いたらまずは下見。非常用の通路くらいどこの城にもあるだろう。


転移が出来ないような状況に追い込まれた時に、道を把握してるのとそうでないのとでは行動手段が狭まれるだろうから。


アイツらは何を目論んでいるのかフレイミスの統合を目指している。それだけに何を隠し持って何を兵器として出してくるか想像すら出来ない。


それにしても、親父も心底食えねぇ野郎だよな。制限をかける程にオレを鍛えたならそれを活かせるようにして欲しかった。


これ以上は強過ぎると思う手前でやめて欲しかった。


…これだと宝の持ち腐れじゃねぇか。


まあ、でも文句を言おうが言わまいが制限かけられてるならしょうがない。出来る事なら、自分の魔力のメーターか何かが見えるようにして欲しいところだが、ゲームじゃあるまいしそんなうまい話が転がってくる訳ねぇんだ。


諦めてこのまま我慢するけどさ。

…てか諦めるしかねぇし。



「はぁーあ」



息抜きのため息が、憂鬱に変わった。



「…にしてもやる事ねぇな」



暇だ。


たんまりと寝たから眠くもない。

ルシファー達が戻るまで何してようか。


そして、ダイニングの入口に立て掛けておいた二本の刀に目を向けた。



「オレも手入れしとくか」



なんだかんだ言って刀を親父から受け取ってから大して触りもしなかったな。


やっぱマジマジ見るとカッコイイわコレ。

持ち主以外が触れない刀に戦闘能力がバカみたいに高い刀。


永遠にオレの物だとついニヤけてしまう。


もちろんこの刀で満足してるが…剛が大将から受け取った漆黒斬も気になる。どんな効果があるのだろうか。



──あの、呪われたように黒光る刀。

大将も呪われてるようだと言っていたが果たしてそれは気のせいだったのだろうか。


変な効果がついて剛が惑わされなきゃいいが。

…ま、アイツなら大丈夫だろ。


オレはジェイコブを斬った時に使った刀を鞘から出し刃の状態を確認してからしまった。


まだ大丈夫みたいだ。



────ドドドドドド…



「…んぁ?」



腰に刀をかけ収まりのいいポジションにずらしていたら慌ただしく階段を降りる音が聞こえてきた。



────バァアァンッ!



「──おいソウ!オレと勝負しろ!」



台所の側にある上の階につながる扉を勢いよく開けてギラギラと目を光らせ鼻息を荒くして突っかかって来たのは剛。


…いや、コイツしか居ねぇのはわかってた。



「はぁ?勝負だぁ?おま、…正気か?」


「マジだよマジ!大マジだ!大将に早く刀を使いてぇって言ったらソウに稽古つけてもらえって言われたんだ」



刃は出さないからいいだろ?

と室内で戦闘を始めるつもりなのか剛は握り締めた漆黒斬をオレに向け、構える仕草を取った。



「おい、待てって。お前また家壊す気──」


「──じゃあ、外な!」



剛はオレの言葉に返事にならない事を叫んで勢いのままに外へと飛び出した。



「…はぁ。…ったく、めんどくせぇなぁクソ」



剛はこうなったらもう何も聞かない。オレが相手をするまで騒ぎ続けるだろう。


…ため息しか出ねぇよ。


これからいくらでも刀使う機会なんてあるのにわざわざ今、この出来るだけ体力を温存したいこのタイミングで騒ぐんだもんなぁ。


…ホント嫌になる。



「あー…わりぃな。ちょっと相手してやってくれよ。自分の刀がピカピカになったのを見たら騒ぎ始めてどうしようもねぇからよ」



後から降りてきたのだろう大将も、心底めんどくさそうに顔を歪ませてた。


…元はと言うとアンタが余計な事言ったからなんだけどな。


お前がやれって感じだわ。



「ハァ…まあいい…とりあえず速攻で終わらせる」


「おう、期待してるぜ!」



「…」



…うるせぇよボケ。


しょうがなく外に出た。






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大将の家付近・広場

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ジリジリと見つめ合い、タイミングを図っているのか剛は刀をこちらに向けて握り締めたままジッと構えている。


オレはと言うと…



「ファ…ッ…ほら、さっさと来いよ」



──アクビで応戦していた。



「おい遊びじゃねぇんだ。真面目にやれ」



いつになく本気の面構えで低く唸る剛。

そんなマジになれるなら普段からそうしてくれよと思うのはオレだけだろうか。



「あーはいはい。でも、時間ねぇんだからさっさとし──」


「──ウオラァァァァァァア!!」



隙と見極めた剛が突如として襲い掛かる。


が、


お、…遅ッ!



「お、おま、バカにしてんのかッ?」



オレは真正面から向かってくる剛を交して、柄の部分で剛の脇腹を突いた。



「グァ…ッ!」



不意をつかれた剛が脇腹を抑えながらもがく。


いやいやちょっと待て。

オレ、そんな力入れてないんですけど。



「く、くそぉ…まだだ、ソウ!」



痛みをある程度落ち着かせたのだろう剛は、刀を杖のようにして立ち上がる。



「チッ…なんだよもう…」



この感じ…ものすごく懐かしいんですけど。


ガキん頃、河原でチャンバラしてた時も、いつもこんな感じで剛が何度も突っかかって来てたな。


諦めの悪い所だけがコイツの長所。

コイツの泥臭い戦いをこよなく愛すやり方で、お互い気を失う寸前まで手合わせしてたっけ。



「いざ…」


──シュン!!



「なッ!?」



────ガチッ!!



「──グッ…」



「ハッ…、意表を突いたつもりか?…驚いたが、まだまだだ」



────ズシャッ!!



今の動きは…上天界で身につけたのか?

3メートルくらい離れてたハズの剛が、一瞬消えたかと思うと次の瞬間には詰め寄って刀を振りかざしてた。


気を抜いていたから危うく斬られるとこだった。


鞘同士がぶつかる音が響いて、無理矢理解いたオレは飛び退くように後ろへと間合いを取る。


本気を出せば瞬殺出来なくもないが、案外コイツも本気で鍛えてきたみたいだな。


もともと戦闘能力が高い野郎だ、コイツなら少し本気で修行すれば、サマになる力などすぐに手に入れるだろう。



「…正直、見縊(ミクビ)ってたけどな」


「…へっ、だろ?」



ならば本気で倒しに行く迄だ。


睨み付ける剛を挑発するように見返し、少し汗ばんだ手が柄を握り締める。


息を呑むようにして生唾を飲み込んだ。



「スティングシェイド」



…いざ!



────シュンッ…



双方睨みあって固まって居た状態を利用して、アイツの人間らしい姿、瞬きをした瞬間に足を踏み出す。


この技は闇影属性の下級魔法、相手の死角を取る瞬間移動だ。



「神崎流…(キク)ッ!」



────シャシャシャシャッ!!



「グアァッ!」



上下左右、四方八方に切り込まれた剛が膝をつく。



「はっ…やっぱ魔法はあんまり使いたくねぇわ」



下級魔法でこんな疲れるとか何も出来ないレベル。


それともアレか?魔法を使う頻度が高くなれば体も慣れてくるのか?


これはオレの課題だな。



「──お前ホントに斬っただろ…」



腹を抑えた手を出血がないかどうか確認する剛。



「ンな訳ねぇだろ。そんなことしたら死んじまうじゃねぇか」


「クソいてぇ。…でもまだだ…」



「おい、やめとけよ。体力を無駄に使うな」


「いや、止めねぇ!オレがぶっ倒れるまで諦めねぇの、お前がよくわかってるだろ?」



「ばかやろう…とりあえず魔力は使うな!刀だけで戦え!じゃねぇと──」


「──うおおおぉ!神崎流!石榴(ザクロ)ォ!」



ばかやろう!



────ススススススススッ!!



闘牛のように突っ込んできた剛は、槍を持つように両手で刀を構え一気に突いてきた。


ま、オレはとっくに移動して何も無いとこを一心不乱に突きまくる剛を見物してる訳だが。


でも、やっぱ地球いた頃とは比にならないくらい強くなったと思う。しぶとい野郎だから敵に回したらマジでツラかっただろうし。


そしてオレ自身も修行しといてよかったな。

力こそ、付きすぎて制限かけられてるが、鍛えられた動体視力や瞬発力は、身体能力として扱われるようで、魔力のように制限が掛かることはないみたいだ。


故に、剛をはじめアデルやジェイコブが瞬間的に動いても、こっちの気さえ抜かなければ見失うことは無い。


もっとも、オレの能力値を上回る動きをされれば追いつく事が出来ないが。


…そうそう、そんなヤツ現れねぇだろ。



「ほう?石榴か…。お前苦手な型だったクセにずいぶん地味な攻撃しかけてくるじゃねぇか」



いつまでやってんだよ、と背後からド突くオレ。



「はぁっ!はぁっ!……アレ?」



振り返った顔の恐ろしいこと。



ゴリラとかの領域越えてエイリアンだったわ。未確認生物との交流。


…次の瞬間にはマヌケなツラしてたけど。



神崎流奥義



「ッ!…花鳥風月(カチョウフウゲツ)!!」



振りかざした刀が剛の体にバツ印を刻み込む。



────…ッ…フォン…ッ!



周りの空気を巻き込む刻んだバツ印が爆破するように弾け、剛の体がくの字に曲がった。


技自体は至ってシンプルだが、頭上で刀を構えた時に両手ごとー周回してから振り下ろす遠心力で並の斬撃とは比べ物にならない程の威力が加わる。


刃こそ向けてないにせよ、ゴリラ並みの体格が吹っ飛ぶ程には強いらしい。


…いい。すげぇカッコイイよ。



──ゾクゾクする。



「く…くそぅ!!まだだ!」



因みに神崎流刀術は魔力を使わない。元が地球での流派だからであろう。これは得した気分だ。


魔力が減るという、体力を削るとはまた別の倦怠感を感じず攻撃を繰り出すのだからラクである。追撃もしやすいしな。


あ、でも、生き物らしく動けば息切れ程度はするぜ?体使ってるわけだから当たり前だけど。


…それくらいだ。



「お前もうやめとけよ。今ここでヘバったら後に響くだろ」



のそっと立ち上がる剛に忠告をした。


正直こんな事言っても、挑発になるだけだとわかってはいるが、息切れを激しく起こし腹を抑えた状態で立ち上がられたら言いたくもなるわ。



「まだ、…に…決まってんだろぉぉぉ!」



────ガチッ!!



またしてもぶつかる鞘と鞘。


技も出さずに突撃してくるコイツはムキになってる証拠。


昔からそうだった。

ムキになればなるほど、ヤケクソに木刀を振り回して体に隙が出まくる。


──コイツの悪い癖だ。



「お前そのクセやめろって言ったよな?!」



────ガスッ!



「グァッ!」



────ガチッ!!



隙を突いて急所を攻撃するが、一瞬怯むだけですぐに刀を合わせてくる。


こういうしぶとさ、心底面倒臭い。



「なんで手合わせになると冷静になれないんだよッ!!」



────ドスッ!!



「…ハァッ!!」



────ガチッ!!



得意の粘り強さを発狂してる今、コイツに声が届くハズがないのだが、指導者のつもりで剛に言いかける。



「…オレは…オレはお前と肩並べて戦えるくらい、強く…強くならなきゃ、ならねぇんだ…!」



クッと合わさる刀に力が掛かり剛がオレから半歩飛び退いた。



「く、クソッ!か、神崎流奥義…!百花繚乱(ヒャッカリョウラン)ッ!!」



────ヒュンッ!


ガチッ!!────




────ヒュンヒュンヒュンッ!!


ガチガチガチッ!!────




────ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンッ!!


ガチガチガチガチガチガチッ!!────




剛の振り回す刀が徐々にテンポを掴んで早くなっていく。奥義百花繚乱は、技を繰り出す者によって威力が異なる連続攻撃だ。


お互いの鞘がぶつかり合う音だけが、周りの雑木林に響き渡り、その音の激しさからは鞘が割れてしまうのではないかと心配になるほど。


今出せる精一杯の力を使っているのか、オレ自身も少し本気を出さなきゃ食い止められない程の威力が刀越しに伝わってくる。


一撃一撃を集中して受け止めたい。

出来る事なら一発も漏らさずこの刀に集めたい。


何故ならオレが今からやろうとしていることは…


相手の威力を逆手にとる



「──蒲公英(たんぽぽ)ォォ!!」



──カウンター。




────ドゴォォォォォォォ!!



「グァハァッ!!」



全てはこの一発の為に。



「ハァ…ッ」


「ゼェッ…ゼェッ…」



──正直オレもヤケになってた。


早く終わらせないと長引けば長引く程、剛の体力が削られ細かい怪我が増えていく。出来るだけ早く終わらせて少しでも回復する時間を与えたいのが本音だ。



「うぅ…」


「終わりだゴウ。今はこんなことしてる場合じゃねぇ。とりあえず回復するからじっとしてろ」



ボロボロになりながらも尚、立ち上がろうとする剛を抑え、そのまま回復魔法を唱えた。



「キュアルガ──」



パアァッと回復らしい淡い緑の光が手から剛へ流れ、苦痛に歪める顔が少しずつ解れるように抜けていく。


本来ならライトニングと言う上級魔法で完璧に回復してやりたいのだが、親父が掛けた制限のおかげで唱えることが出来なかった。


無論、ネックレスに付いてる赤い宝石を噛めば、魔力が無限化するのは分かってる。

だが、それをしてしまえば神化に変異する事になる、──白に近い金の髪を晒すには少しまだ抵抗があった。


確かにここはリトルウィアークの端の方の雑木林。昨日からここにいるが人が通るような音も気配も全くしなかった。


故に、ここから先に続く道に用があって通る者はそう居ない。


だから、神化に変異しても見られると言う心配はないのだがもしもの事を考えると今はまだ“神崎創”ではなく“謎の勇者”で居る事の方が都合がいい。



「く…ハァッ…!」



ぼんやりと回復の光を見ながらそんな事を考えていたら、剛がある程度回復され光が収まった。


やっぱ嫌だわこの魔力を使った後にくる倦怠感。



「…ゴメンな?ソウ…疲れたか?」



剛が倒していた体を起こしながらオレに問いかけた。



「ああ、疲れた。…手合わせなら後に用がないときにいくらでも付き合ってやるからこう戦闘を控えてる時は遠慮しろ。お前も怪我するしそれを回復するこっちの身にもなれ。 」


「…わり、刀使いたかっただけなんだよ」



「わかってる。だから以後配慮しろと言ったんだ」


オレはそれだけを言うとぐったりと重くなった体にムチを入れ立ち上がった。


結局剛がどのくらい回復したのかはわからないが、目立っていた身体の腫れや、かすり傷は消えたようで安心した。


にしても、この倦怠感何とかならねぇのかな。


玄関横に備えられたウッドデッキに向かいながらいろいろ考えた。



「──ん、お疲れ」


「…本気で疲れた」



「こんなもんでヘバってたら先が思いやられるな」



腰をおろすオレにマグカップを渡しながら大将は笑う。


まあ確かにな。


中途半端なチートでこの世界に来ちまって、上天界では無敵を経験してるからこんなワガママな思考になるのだろう。


本来ならレベルを上げてくところから始めるものを100レベだったステータスが50レベになって放り出された感じだ。


50レベから100レベに戻すつもりで鍛えないとな。



「はぁーあ、めんどくせぇ」


大きなため息と独り言が虚しく青空に吸い込まれてった。



「ゴウ!お前も出発まで休んでろ!」


「わぁってるよ!」



少し元気になった様子で刀を素振りする剛を大将が呼びつけた。



「──…お前、今さっきソウに言われたばかりだろ?」


「これくらいならいいじゃねぇか」



渡された飲み物をガブリと飲み干す剛。


元々体力ある方なのは充分承知の上で忠告してるんだが、今周りでゴチャゴチャ動かれると見てるこっちが疲れるんだよ。



「はぁ…ゴウ、頼むわ。オレの言う事を聞いてくれ」



軽く泣き入りそうだった。



「…わかったよ」



渋々了承してくれたゴウは、そのままオレの横に腰掛けると空を見ながらポツポツ話し始めた。



「──…オレさ…一生お前の足枷になるのかな」


「…何言ってんだ。お前は充分強いだろうが」



「お前と肩を並べられるくらいじゃねぇと何の意味もないんだって」



わかれよ。と自嘲気味に笑う。



「オレが背中を任せられるのはお前しか居ねぇんだよ。そんなセンチメンタルな事言ってねぇで今日の計画を見返しとけよ」



何を言い出すかと思えば…コイツは何度言わせるんだ。



「でも、今日初めてお前が死んでから手合わせしたろ?お前もオレもみっちり修行してから初めて手合わせしたって事だ。お前がアデルとか言う魔族倒しに行ってる間、結構キツい修行したハズなのにお前はそれ以上になってた。

正直もう少しまともにやりあえると思ったのに、こんだけの力の差を見せつけられたら誰だって萎えるだろ。つけてきた自信が粉々に砕かれた気分だ」



“しかも、制限かけられてこの差だもんよ”



「…ッ、」



──何も言い返せなくなったのはオレだ。



「「…」」



大将が気を使ったように家の中へと戻りオレと剛は二人きりになる。


こういうの苦手だってのに。



「…お前、オレがずるいと思うか?こんだけ力の差を見せつけられてお前ばっかりって思うか?」



やっと言い出せたのはこの言葉。



「…そんなことは思わねぇ。

ソウもソウでオレが死ぬまでの合間に相当修行を積んだんだと思うし。…だだ、やっぱ悔しい。お前と同じタイミングで死んでお前と同じ時間修行して…お前と同じだけの力が欲しかった」



剛の心からの本音だろう。

──重く重く受け止めた。



「…オレだってお前と同等の立場でくだらない愚痴言い合って二人で強くなりてぇと心底思った。だが、そんな悠長なことを考えてる余裕が無いくらい時間が迫ってるんだ」



わかるだろ?と諭すように弁解する。



「わかるけど…」


「変えられねぇもんをいつまでもグダグダ言うな。オレが異常なだけでお前は充分強い。

いいか?敵はオレじゃねぇんだ、お前が今やるべき事はなんだ?もちろんお前がオレを目標にしてくれるのは嬉しいが先にこの世界を守る事だろ?」



“自身を持て。オレの背中を安心して預けられるのはお前だけだ”



もう何度も言ったこのセリフ。


オレは剛がこんなふうに落ち込む度こんな照れくさいことを言わなきゃなんねぇのか。



「でも──」


「でもじゃねぇ。強くなれ。まだ何も始まってねぇんだよ」



言いくるめる事でしかコイツを安心させてやれない事がもどかしい。


せめてテメェの腹ん中おっぴらいて曝け出せたらこんなふうにコイツを不安にさせる事もねぇのに。



「ハッ…ハハッ!そっか…そうだよな。悪かったよ。お前の言った言葉信じるわ。絶対他の野郎に背中任せるなよ?ここはオレの永久ポジションだ」


「ぃでッ!」



バシッと叩かられるのは言わずともわかるだろう…背中だ。



「あーなんか悩んでんのアホらし。オレが傍に居る限りいつだってお前に挑戦できるんだし悩むまでもなかったわ」


「…だろ?」



ホントはもう少し言ってやりたいこと色々あるが、せっかく持ち直したモチベーションを落とすようなマネするほどオレはバカじゃねえ。


──合わせるのが得策ってもんだ。



「っ♪」



どこで機嫌が直ったのか分かんねぇが、持ち直したのならそれでいい。



「──あー!二人ともただいまぁ!」



暫く青空を眺めてボーッとしてたら離れたところからフェリスの叫ぶ声が聞こえ、ふと我に返った。



「おう、おかえり!用事は終わったのか?」



すぐ横でブンブン手を振る剛を上手く(カワ)しながら、さり気なく手を上げた。



「うん!終わった!出発する前にもう一回シェイさんのお店に顔出したかったから少し遅くなっちゃったけど」


「──あ、おい」



小走りで寄ってきたフェリスが、剛の持つマグカップに手を出して中身を確認する。



「喉乾いちゃったよ!少し中で休憩したい。もうちょっとしたら出発しよ」


「オレは別に構わないが。…ルーもおかえり」



フェリスに軽く返事をしてから、後ろから追いついたルシファーに目を向けた。



「オレも飲みもん飲みたい!」



マグカップを取られた剛がフェリスを追いかけて家の中へと入っていく。



「…シェイさんのお店忙しそうだったか?」


「はい、結構なお客さんがいらしてたので、少しだけお手伝いしてました」



「そうか、お前達ばかり悪いな。…とりあえず座れよ」



剛が温めておいた場所に座らせる。



「…ふう。今日は少し暖かいので汗かきました。…でも楽しかった♪」



思い出すように空を見上げて微笑むルシファーに、よかったな。と返事をしてからマグカップの中身を見たらオレのも空だった。



「オレ達も中に入ろう。お前も少し休んだ方がいい」



そう言ってそっと立ち上がるオレを見上げたルシファーは、



「そうですね、私も喉が渇きました。それと、お二人に渡したいものがありますので」



嬉しそうに笑う。


オレは玄関の扉を開けるとルシファーを先に中へと行かせた。






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大将の家・リビング

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「昨日、お二人が私とフィーにプレゼントを下さったので、お礼がしたくて買いに行ってたんです」



冷蔵庫から飲み物を出しながらルシファーが言い出した。



「そうそう!ハイこれ、ゴウに♪」



するとフェリスが思い出したかのように、ソファーに置いてあった小さな紙袋を手に取り、剛に差し出した。



「…あ、…ありがと」


「これ、ソウさんにです」



「お、おう…」



剛が受け取るのを眺めていたら、マグカップを持ったルシファーが傍に来て小さな紙袋をくれた。



スマートに受け取れないオレ。


いや、剛も大概だけどな!



「二人とも開けてみて!」



フェリスが早く開けろと催促をする。


ぶっちゃけこうやって囃し立てられるのも苦手なんだが、二人ともキラキラした目でオレらを見るもんだから、“後でな”なんて言える雰囲気じゃない。


喜んだ顔とか上手く出来るかよ、オレ。



「ソウさん。何も気にせずとにかく開けてみてください。きっと今悩んでる事なんてすぐに忘れますよ?」



ルシファーがオレの心を読み取ったかのように笑った。



「じ、じゃあ…」



パリッと紙袋が鳴らす音に更に高まる緊張。

人から貰うものにこんだけ緊張した事は今まであっただろうか。



テーブルの向かい側でおずおずとしてる剛を見て“お前もか”と、笑いそうになった。


たかだかプレゼント如きで。



「おい…」


「マジかよ!!二重システム!」



ガサっと開いた紙袋に入っていたのは、一つの箱。…まさかの第二形態。


オレの勢いを返してくれ。

せっかく固めた決心が鈍ったじゃねーか。



「おま、箱とか気合い入りすぎ。どうせ出すんだからこんなにガッチリ見繕わなくてもよかったのに」



剛が開き直ったように文句を言いながら箱に手を伸ばしそのまま開け始めたのを見て、焦るようにオレも紙袋から箱を取り出した。



「ぷ、プレゼントなので、そのままより少し飾り付けしたかったんです…」



剛の言葉へ返すようにルシファーがボソッと呟く。



「いや、可愛いリボンだ。お前らしいセンスで嬉しいよ」



フォローになってます?

一応今フォローしたつもりなんですけど。


…クサすぎたか?



「はい!中身は2人で決めたんですけど、箱とリボンを決める時に少し意見が食い違ったので、各自に決める事にしました」



あー、お前はオレで、アイツはゴウって事か?なにその当たり前な感じ、嬉しすぎる。



「そ、そうか。ならゴウとは箱が違うのか」



剛の持つ箱に目を向けた。



「オレはこれ!カッコイイだろ?」



得意気に見せつけてきたのは、灰色の箱に銀と黒のリボンが付いた物だった。


オレのとは正反対だな。


オレのは、薄いピンクに金と白のリボンが付いた箱だし。


オレのを“可愛い”のと種類分けするのなら、剛のは“カッコイイの”と言っても差し支えない。



「とにかく開けてみようぜ!」



剛が勢い任せにリボンを解いてオレを急かす。一人じゃ不安だからお前も早く開けろと言いた気だった。


リボンを外し、パコっと重ね合わされた蓋を持ち上げると、可愛い形のクッションに囲まれるようにして存在を示していた、手の平サイズの四角い布のようなモノ。



「ソウさんとゴウさんのお揃いのリストバンドです」



ルシファーからの説明に頷くだけで、早速手に取ってみた。



「やべぇ、超嬉しい!ソウとお揃いとか!しかもめっちゃカッコイイじゃん!」



剛が手に取ったリストバンドを上に掲げて、嬉しそうに眺めてた。


いいな、剛。あんなふうに素直に喜べて。

オレだって思いっきり嬉しいのにまだ真顔キメ込んでんだぞ。



「とにかく二人とも付けてみてよ!ひとつひとつ時間かけて味わいすぎ!こっちがハラハラするって!」



フェリスが待ちきれない様子で上半身を揺らす。



「そうだな…余りにも嬉しすぎて反応できなかった。ゴウ、着けてみようぜ」



オレに出来る精一杯の喜び。


それをも誤魔化すように剛に流すとか、残念過ぎて嫌になってくる。



「どう?似合う?」



口元を隠すようにポーズをキメる剛。


性格とか体格とか色々ゴリラだけど、コイツはこれでも高校の五本の指に入る程のモテ男だ。顔だけはいいモン持ってるから、キメ顔するとそれとなくサマになるのがまたムカつく。



でも、いいよ。

カッコイイし金の刺繍がされた和柄がまた着流しによく似合ってる。



「すごい似合う!ゴウってよく見るとイケメンなんだね!」



フェリスが褒めてるようでさり気なくバカにした事を言った。



「バカ言うな。コイツはこれでも通ってた学校で常に上位に入ってくるモテ野郎だぞ。よく見なくてもムカつく程に顔面が整ってるだろ」


「え、ゴウさんっておモテになるのですか?」



ルシファーまで。


ちょっと可哀相だな、剛。



「いや、ソウに比べたらオレなんか小指の先にも満たねぇよ。ソウに相手にされない女達が諦めた時の保険みたいなもんだからな、オレなんて」


「そんな事ねぇよ。 」



…自惚れじゃなく事実だけどな。


オレの事を好きだの惚れた腫れた言ってた女がいつの間にか剛に夢中になってるなんてよくある話だ。


まあ、コイツはオレと違ってサービス精神が豊富だからいつもヘラヘラして女と話してたし。関わりやすいってのもあるんだろうが。



「──んで?ソウはどんな感じだ?」


「ああ、着け心地がいいから忘れてた。お前のと同じだ、ほら」



左手首につけられたリストバンドを見えるように前に差し出した色気もクソもない動き。


でも、改めて自分の手首でキラキラと光る金の刺繍を見ると、やっと本気で笑えるくらい嬉しさが込み上げた。



「ありがとな二人とも。こんな嬉しく思えるプレゼントを貰ったのは初めてだ」


「オレとお揃いだしな」



「いや、正直それはイヤだったけど」


「「え…」」



「バカ、本気にすんなよ照れてるだけだからコイツ」


「ちょ、言うなよ!」



オレは無意識にリストバンドで口を塞いだ。



「あ…でもやっぱ、ソウの方がカッコイイわね。ゴウと同じ動きするとよくわかるけど…やっぱ本物は次元が違うわ」


「あ、あたりまえでしょ!!」



それを見ていた女子二人がはしゃぐけど、恥ずかしいだけで嬉しくありませんって。



「ハハッ!だから言ってんじゃねぇか、オレがモテ男で上位に入るとか褒めてるように聞こえるかもしんねぇけど、コイツは万年首位だからな!」



「あ、やっぱり?」


「あたりまえですっ!♪」



いや、ここお前らが照れるとこじゃねぇからな!



「ん…これ特殊効果ついてんのか?」



じっとすると、すうっと体が癒されるように気持ちのいい霧みたいなモノが体内へと流れ込んでいく。



「え?マジで!?オレ何もないけど」


「じっとしてみろ」



言われた通りにカチッと固まる剛は怪訝な顔から徐々にニヤけた。



「あ…何か涼しい?ってゆーか、え…なんだろこれ、なんかミストみたいなのが息を吸うと体に入ってくるみたいな?」


「だよな?オレもそんな感じだ」



二人して何度も深呼吸を繰り返していると、ルシファーがおもむろに口を開いた。



「それは魔力の回復が自然と出来る効果が付いているリストバンドです。ソウさんが昨日下さったブレスレットにそのような効果が付けられていたので、私も普通のものではなく少しでも役立つものをと思いまして、そちらにしました」


「あ、因みにアタシだけ回復効果のモノを身に着けてなかったからピアス買っちゃった。」



ごめんね、と謝るフェリスはそれでもどこか自慢気にピアスを見せてきた。


オレが渡したブレスレットが魔力の回復出来ただなんてな。随分と都合がいいがこれは何か良くないことの前置きか?


オレが運がいいとか有り得ねぇだろ。

毎日厄日だぞ。



「いや、いい。とにかく金が減ったと思うからボシーヘイデットを落ち着かせてからどこかで稼げそうな場所があったら稼いでくるか。まだ余裕あるか?」



ルシファーに持ち金の残高を訊ねた。



「えっと…前々日に受け取った15000ルンドと前日受け取った50000ルンドに…エレノア様から受け取った50000ルンド…フィーが別行動の時に稼いだのが20000ルンド…で、シェイさんのお手伝いで20000ルンド…少し使ってしまったので…」



…結構な金持ちじゃねえかよ。

つか母さん一言くらい言ってくれてもよくねーか?


焦って金集めた意味だろ。



「…今はこれだけです」



テーブルの上にバラバラと置いたのは意外にも結構な金額の金。



「デカイのだけ数えてくれ」


「あ…はい」



ルシファーは返事をすると、1、2、3、4と札になってる金を集め始めた。


終始黙って見ているオレら三人。

何を考えているのかは表情からは読み取れねぇ。


剛に至っては腹減ったとかしか考えてねぇんだろうが。


…あ、フェリスもか。



「──ンドっと、…そうですね、小銭を含めないのでしたら130000ルンドです。…リストバンドに結構なお金を使ってしまったので」


「あ、でもそれはアタシ達が働いたお金で買ったからソウのお金は使ってないよ!」



申し訳なさそうに言うルシファーを庇うようにフォローしたのはフェリス。


お前らどんだけいい子なんだよ。


むしろ頑張って働いた金をオレらに使わせて申し訳ないくらいだから。



「いや、せっかく働いたのにそれをオレ達に使ってよかったのか?」


「も、もちろんです!自分で稼いだお金を好きに使っただけです!」



「そーだよ!そんな申し訳ない顔されるなら、ありがとうって笑ってくれた方が何倍も嬉しいわ!」


「…そうか…ありがとな」



「はい!」

「うん!」



なんか目から熱いもん溢れてきたわ。



「お前泣きそうかよ!」


「…るせぇ!バカみてぇに嬉しいんだよ!」



「…やっと本気で喜んでもらえた。よかったです♪」



ズッと鼻を啜って溢れるもんを留まらせた。


男は泣いちゃいけませんからねママ。

心は滝のように涙が流れて潤ってるけど。


コイツら仲間にして良かったわ。



「…その細かい端数は自分達で自由に使える金にするか」



気を取り直して指示を出す。


1000ルンドの細かい札はピッタリ10枚。

使い方が分からなくて大きいので支払いをしていたのか?



「まあこの10枚はルーとフィーで5枚ずつ分けてくれて構わない。オレらはこの残った小銭で充分だから」



小銭の方は全て掻き集めると5000ルンド程になった。これを剛と分けることにしよう。



「え、こんなに…」

「アタシこんなに要らない!」


「この金は自分の欲しい物に使ってくれ。欲しいものがないならずっと持ってろ。いつか欲しいものがあった時に我慢なんてさせたくないからな。ただ、旅に使う雑費には絶対使うなよ?」



二人の意見を押し退けて強引に事を済ませた。



「…わかりました」

「…わかったわ」



何を言っても無駄だと感じ取った二人は渋々首を縦に振る。



「…ん、これお前の分」



そしてオレは区切りを付けてから剛に小銭を渡そうと分けた金を差し出した。



「オレは要らねぇからソウが持ってろ」


「いいから持ってろ」



「…要らねぇ。どうせ一緒に居るんだからお前が持っててもオレが持ってても変わんねぇだろ?」


「そのうち別行動になる事もあるんだ、持ってろ」



ここにきてまたも無駄な小競り合いが始まる。


なんでこうスムーズに話を終わらせないんだよコイツは。急にスイッチ入れてんじゃねぇぞ。



「だったらそん時渡せばいいだろ、オレは要らない。だからお前が持ってろ」


「だから何でわかんねぇんだよ。どっかで喉乾いたり腹減った時に何も買えなかったらお前盗むのか?」



「ンな事する訳ねぇだろ…そん時は…我慢するからいい」



バカじゃねぇの。



「我慢させたくないから言ってんだ。とにかく1000ルンドでもいいから持っててくれ」


「要らん!」



クッソ野郎!!!!

マジぶっ殺してぇコイツ!!



「くだらない意地を張るな!オレからの頼みが聞けねぇってのかよ!」


「ぐ…。…なら500ルンドでいい」



やっとの事で観念した剛は500ルンドなら受け取ると生意気に言った。


もうそれでもいいから持っててくれ。



「それでいい。無くなったら絶対言えよ?」


「分かってるよ、うるせぇな」



何なんだよコイツ。


甘えたり、怒らせてみたり、ワガママ言ったり忙しいヤツだな。



「じゃあコレ」



パチッとテーブルに強く置いた500円玉サイズの小銭。


地球のにそっくりなソレを、不貞腐れながら受け取った剛は小銭に目を向けること無く着流しの袖にしまった。


…何が気に食わねぇんだよ。

よくわかんねぇわコイツ。



「──…そろそろボシーヘイデットに向かうから今の内に話したいこと、やりたいことあるなら言ってくれ」



剛に言うつもりで他の二人に言った。



「あ…私は大丈夫です」



ルシファーが先に返事して剛も無いと答えた。


最後に返事をするのはフェリスなのだが何やら気難しい顔して腕を組んでいる。



「フィー?どうした」



オレはとりあえず訊いてみる。



「うん、ちょっとゴメンネ」



オレに断りを入れるように謝ってから剛の目の前に立つフェリス。そして、驚いたように顔を見上げた剛を一瞬強く睨んで軽く息を吸った。



「あのさぁ!一日に何回ソウを困らせたら気が済むワケ?恥ずかしいからやめてくれない?」


「え?何でお前が恥ずかしいワケ?」



「え、あ、それは…その…とにかく!見てて恥ずかしいのよ!子供じゃないんだから甘ったれるのもいい加減にしなさいよね!」



腰に手を当てて反り返って怒るフェリスは、昔オレらを叱る剛の母ちゃんの動きにソックリだった。



「るっせぇなババァ…──あ、わり、違っ!今のは!」



アイツの中で何かがフラッシュバックでもしたのだろうか、見事に自分の母親と間違えて顔面蒼白してる。



「は?…ババァ?ケンカ売ってんの!?」



事態は更に悪化。



「今完全に母親と間違えました!」



潔く謝る剛に我慢出来なくなって吹き出すオレ。


やっぱり間違えてたか。

でも、今のはしょうがねぇよな。スゲェ似てたし。



「お母さんって…まあもういいわ。

とにかくアンタがソウの事大好きなのは知ってるけど、アンタだけの仲間じゃないんだからもっと周りを考えなさい!いちいちくだらない小競り合いに巻き込まれるのもいい加減イヤなのよ!…いつだってソウばっかり!」


「あーそういうこと?オレがソウを独り占めしてるからヤキモチ妬いたって事?」



ハッとして少し傷ついたように笑った剛。


バカか、どう考えても逆だろ。



「ち、ちが…」



何も伝わらなくて意気消沈するフェリスが哀れに思えた。



「でも残念だったな!オレよりコイツに近づけるヤツなんざこの世のどこ探しても居ねぇんだよ!ぶはは!」



吐き捨てるようにヤケクソに言い放った剛に色々諦めたような顔でもういいと返したフェリスは…とりあえずドンマイ。


そして諦めるな頑張れ。



「もう、二人共やめましょうよ。これからボシーヘイデットで別行動するんですよ?二人がその調子ならペアを変えなければいけなくなります」



見兼ねたルシファーが優しく仲裁に入ってくれたおかげで、オレも口を出せる程度にマシにはなった。



「そうだ。ルーの言う通りだぞ。そんなふうに揉めるなら計画に差し支えるかもしれないから変えてもいいが?」



オレとフェリス、剛とルシファーって感じで。


野郎二人が揃う訳にはいかねぇし、必然的にそうなるけど。



オレは別に構わねぇけど、フェリスとオレが二人きりでいいのか?しかもお前、あんまり仲良くないルシファーとペアだぞ?



「どうすんだよゴウ」


「…いや、悪かった。ごめんな、フィー」



「…し、しょうがないわね、許してあげるわ」



これでいいだろ?と剛がオレのを様子を伺うから、それでいい。と頷いた。



「…これで、向かえますね」


「ああ。助かった」



やれやれとため息混じりで首を振ったオレを労るように笑うルシファーは、オレにとって永遠の癒しとなるだろう。



「そろそろ向かうなら、アタシお手洗い行ってくる!」



パタパタと動き出すフェリス。



「あ、オレも!もう1杯だけ水飲んでから便所行くわ」



釣られるように席を立つ剛。



「そうですね。私はジスタさん達の軽食を作ってきます」



ルシファーも挙って動き始めた。



「あー、じゃあオレ、大将と最終確認して来るわ」



誰も聞いちゃいねぇが何となく言ってダイニングを後にした。




──トントンッ




キッチリと締められた扉の前で勝手に開けるか迷ったが何となくソレはしなかった。



「あ?どうした?」



中から聞こえた返事に開けるぞと言い返してすぐにドアノブを捻る。



「いや、そろそろ行くから顔だけ見てこうと思って。…あと、最終確認も」


「何そんな不安そうなツラしてんだよ。オレはお前に頼んだ瞬間から腹括ってんだ、今更怖気付く事は無いから心配すんな。…たく、変な所でいじらしいなお前は」



「んだよ、そんだけ憎まれ口叩けるなら心配要らなかったな。悪かったよ」


「…いや、ぶっちゃけ少し緊張してるが、お前の顔見たら心がラクになった。…あ、ゴウには言うなよ?アイツまた妬きまくって騒ぐから」



「ああ、そうだな。オレも大将を見て、今一度決心をしたかったところだ。…これで、お互い大丈夫だな」



フッと笑ったら、100倍くらいのイケメンで笑い返してくれた大将。


ベッドに横たわったままのダルそうな野郎に話し掛けてるだけなのに…なんて言うか物凄く安心した。



「お前、マジマジと見るとムカつくくらい顔整ってんのな。いつも真顔か怒ってるから気付かなかったけど笑うとすげぇイイ感じだ」


「なんだ、今頃気づいたのか?オレだって人間だ、笑う事もある」


「まあ、気を張ってなきゃいけないヤツの性だよな感情を押し殺すってのは。まだ覚束無いとこもあるがお前には素質があるから心配はしてねぇ。

…だがそれに慣れてつまんねぇ野郎にだけはなるなよ?」



大将は体を起こしてすぐ脇に立っていたオレの腕を摩った。



「どうだかな」


「また可愛げのねぇ返事しやがって。

…今、お前におまじない掛けたから大丈夫だ。オレは、ボシーヘイデットから全員を救ってお前が戻って来るのを待ってるよ」



「おう、任せとけ」



“──行ってこい”



深く響いたその言葉。



気合が注入されたように胸を熱く震わせた。





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大将の家・リビング

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「よし、そろそろ行くか」



一通りやり残した事を終わらせた全員が再び席に着くのを待って、三人が戻って来たとこで口火を切った。



「オレは大丈夫だ!こーんなでっけぇクソ──」


「──わかったから」



「あ、私も大丈夫ですよ!」


「アタシも!」



「よし、ここから先は怪我する可能性、予定通りに動けない可能性がある。気を引き締めて、自分が今何をすべきかしっかりとその胸に言い聞かせながら必ずこの国を救うぞ。わかったか!」



「おうよ!」

「任せて!」

「はいッ!」



オレの気合が完全に入った。


今、絶好調でノリノリだ。



「よし、じゃあルー。転移の魔法陣を作ってくれ…お前らは離れてろよ?」


「はい。…では、テレポートα(アルファ)」



「ちょ、家の中かよ!」



すぐさま返事をするルシファーを遮るように剛が口を挟む。



「大丈夫だ。途中で魔法陣を消す事がない限り暴走はしない。お前も一回乗っただろ?」



オレはルシファーに続けさせる為、割り込んで返事をした。



「…皆越のヤツか?」


「違う、アレは勇者召喚だ、ほら親父の所にいた時にルーに王室まで連れてって貰っただろうが」



「ああ!!あれか!なら平気だな」



…勇者召喚、相当怖かったんだな。コイツの中で軽いトラウマになりかけてる。


上天界の時も、魔法陣に乗ることを躊躇ってたしな。


あんだけ怪我すればトラウマにもなるか。



「とにかく外では目立つから家の中で移動をする。誰に見られるか分かんねぇからな」



────パアアアァ!



オレが言い終えたと同時に光が強く放たれて、思わず顔を背けたオレはゆっくりと顔を戻した。



「で、出来ましたっ!早くっ!」



ルシファーが息を切らせながら焦るように叫び、それを聞いたオレ達三人は飛び乗るように魔法陣を踏み込んだ。



瞬間、



──シュンッ!!



一瞬だけ視界が真っ暗になったか思うと、すぐにそれは晴れて辺り一面に大自然が広がっていた。






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ボシーヘイデット国前・大草原

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リトルウィアークの草原とは少し違う気持ち程度に舗装されたような細い道がある。



「この道を辿るとボシーヘイデットに着くみたいです」



ルシファーの問いかけにわかったとだけ答え、オレを先頭にして左隣に剛、右横の一歩後ろにルシファー、そして剛とオレの間、その一歩後ろにフェリスの形で歩き始めた。



「この道は、舗装されてるのかと思ったが、そうでもないみたいだな」


「はい、人が通る道として何度も何度も踏まれた事で草が生えなくなったのだと思います」



「あー確かに砂利がスゴイからアタシ転びそうだもん」


「大丈夫かよ。てかなんでそんな歩きにくい靴履いてんだよ」



オレから順に一言ずつ話す様子は、周りの大自然も相俟って、有名RPGのワンシーンのようだ。



「別にいいじゃない、これしか持ってないんだもの」


「はあ?先に言えよ!ボシーヘイデットに着いたら新しい靴オレが買ってやる!」



「500ルンドで?」


「あ」



二人の会話を黙って聞いていたが、オレもルシファーも耐え切れず吹き出してしまった。


早速後悔してんのかよバカ剛。

だからあんだけ金持ってろって言ったのに。


ざまあみやがれクソゴリラ。



「そ、ソウ!金くれ!」



オレがそんなに優しい男に見えるのか剛。

縋るような顔しても無駄だ。ナメるな。



「あ?なんでだ?お前さっきオレの気持ち踏みにじってまで要らねぇ!って叫んでただろ?そんなお前にやる金なんかない」


「え!?ウソー!なんで!?いいじゃん!

さっきはそういう気分だったけど今はちゃんと欲しいと思ってますぅ!」



「いや、そんなもんが通用するのなら、さっきは金を持たせたかったけど、今はお前に渡す金ほど無駄なもんはないと思ってる。…残念だったな剛、諦めろ」


「ウソでしょ!?お前、そんなに冷たい奴だったのか!?違うよな!?今のオレ達の会話聞いてたか?!フィーが靴これしか無くて可哀想だからプレゼントしてやりてぇって思ったんだぞ!?」



「お前こそオレの話聞いてんのかよ。お前に渡す金などねぇって言ったんだ。恨むんなら意地張って要らねぇ!って言い切ったテメェを恨むんだな」


「ぐ…」



「…あ、フィー。オレがお前にボシーヘイデットで一番いい靴を買ってやるから心配するな。そこまでは少しツライかもしれないが、我慢してくれ。…なんならおぶってやるが?」



悔しそうに唇を噛み潰す剛が何も言えなくなる所へオレは更にフェリスの頭を撫でてからドヤ顔で剛を煽る。



「く、クソヤロウ!!最低か、お前!そうやって自分だけ好感度あげやがって!ふ、ふざけるなよソウ!」



指を差し出した状態で焦りを隠せない剛。


爽快感MAXだなこれ。クセになりそう。



「…ふーん…じゃあソウにおんぶしてもらうかなっ♪アタシ可愛い靴欲しいから後でちゃんと買ってよね!」



上目遣いでオレを見上げるフェリスもオレの企みが通じたように同調してくる。


イタズラに笑ってから行動に移してきた。



「おい、やめろ!ルー!コイツら見ろよ!お前の事差し置いてイチャイチャしてるぞ?いーのか?よくないよな!?うん!よくねぇーよ!全っ然よくねぇ!引き剥がさねぇとな!」



ルシファーに問いかけたハズがただの自問自答に変わりオレを強く掴みフェリスから距離を取る。


バカの極みかお前は。



ん…?



…てか、ちょっと待て。



ルシファーの事…忘れてた。



「ソウ…さん?フィー?」



普段より2割増しで声のトーンを落としたルシファーが静かにオレ達二人を呼ぶ。



「わぁぁ!違う!違うぞルー!勘違いするな!これは剛にバツを与えないとと思ってだな!その、あの──」


「──話しかけないでください」



「ええぇぇぇ…」



咄嗟に弁解に回るも全く意味を成さないその行動。剛を強く睨むとオレの倍以上のドヤ顔で挑発的に笑ってた。


マジ死ね。



「ルー話を聞いてくれ!お前も見てただろ?違うんだって!」


「いいです。ボシーヘイデットまでフィーをおぶって差し上げればいいじゃないですか。後から可愛い可愛い靴も買ってあげて…自分で言ったのでしょう?」



先をスタスタと歩くルシファーを必死に追いかけながら身振り手振りで説明を試みるオレ。


ちくしょうこんなにキレるとは思わなかったぜ。



「ルー、機嫌直せって。…な?」


「な?って、なんですか?ゴウさんがフィーのこと好意的に思ってるってわかっててあんな事言ったんですよね?」



足を止めてデカいため息をついてから横目で睨むルシファー。


…怖すぎ。



「いや、だからあの、さっきは金要らねぇって言ってたのに、自分の都合が悪くなるとコロコロ言う事を変えるのに腹が立ったって言いますか、その…」


「なら、注意して終わらせればよかったんです。それを子供みたいに嫌がらせまでして…信じられないです、ソウさん」



見損なったと言うと再び足を進めるルシファー。


てか、オレが悪いのかよ!なんでこんな怒られてんのオレ。


確かに注意して済ませればいいのかもしれないが、コイツにそんな軽い注意が効くとでも思ってんのかよ!


叫びたかった。


が、そんなこと怖くて出来ません。

…嫌われるのも怒られるのも嫌です、はい。



「ルー…」


「反省してください」



「…っ!…わかった」



突発的に言い返しそうになったが何とか押し留めた。



「…ゴウ、悪かったよ。

とにかくお前オレの言う事を聞いてくれ。悪いようにはしてないはずだ。いつだってお前の事を考えて何かを言ってるつもりなんだ。今のは少しやり過ぎたけど…」


「いや、いいよ。とりあえずフィーに靴を買ってやりたいから金くれ」



「フィーの靴は旅に必要なモノだから雑費として出してやれるが?」


「いや、オレが買ってやりたい。だから金をくれ」



剛が足を止めて真っ直ぐオレを見据えた。


…コイツ、悪意がないだけ厄介な野郎だ。



「…チッ。なんだよ…。あー…フィー。ちょっとルーと先歩いててくれ。」


「…?…わかった」



とりあえずフェリスを隔離した。



「…2500ルンドじゃ足りねえと思うからこれも持ってろ」



オレはイラつく心を抑えて着流しの袖からありったけの金を出した。



「ば、それはお前の分だろ?」


「──違う。みんなの金だ。お前がカッコつけてフィーにいい顔したいのはよくわかる。でも足りなかったらどうするんだ。そんなみっともねぇ事をお前にさせたくねぇんだ。持ってろ」



押し付けるように剛に差し出した。



「お前はどうすんだよ」


「大丈夫だ、気にするな。…ほら行くぞ」



オレは要件を済ませて先を歩く二人を追い掛ける。



「──あ、来た来た!用は済んだの? 」


「ああ」



「…そう。ならいいけど…」


「…仲直りは…しましたか?」



「ああ」


「…そう、ですか…」



「てか、はぇーよ!お前ら二人共そんな高い靴はいてよくそんだけ早く歩けるよな」



オレのイラつきを悟ってそれ以上に何も言わない二人に割り込んだように入ってきたのは追いかけてきた剛。


場の空気を読み取って話題を切り替えた。



「私はもう慣れましたよ。最初はグラグラして歩くことが少し怖かったんですが…」


「あーアタシも別にって感じ?ただ、こういう歩き慣れてない道は少し危ないけど、そのうち慣れるっしょ」



フェリスとルシファーは必死に空気を変えようと剛の計らいに答えるが正直クソも楽しくねぇ。


なんだよ、みんなのリーダーやんなら感情全てを押し殺せってか?…ふざけんな。



「チッ…」


「「「…」」」



オレの舌打ちで固まる三人を気にするとこなく抜いて先頭に出る。


正直焦っていた。


こういう時に身分の差って言うのを感じる。

剛は別としても女二人はオレを神創神の息子として一緒にいる訳だからこんな時に思い切り言い返して来るヤツなんか居ない。


平等な仲間と言ってもこんな所で思い知らされる。


不愉快な話だ。



「ソーウ!」



ここでガシッとオレの肩に腕を回すのは剛。


お前の自分勝手を事許したつもりはないが、この空気を変えられるってならさっきのは無かったことにしてやってもいい。


助けてくれ。



「なんだよ」



剛を睨みながら返事をした。



「はーいソウ!みんなの方向いて!ほら、見てこの怒った顔。怖いでしょ?でもこのイケメンをこんな顔にしたの誰だろうな?…そう、オレと…」



“お前だ”冷たく言い放つ剛が顎をしゃくり上げて向けた先はルシファー。



「ッ…」



胸に手を当てて俯いてしまった。



「いいかー?お前らよーく聞けよ?コイツはな、オレに何かするときに意味の無いことは絶対にしない。コイツがオレにキレるときはオレが何かした時だ。それ以外で八つ当たりしたり嫌がらせしたりする事は死んでもしない。

多少やり方が卑劣?やりすぎ?じゃあ、オレは昨日も一昨日も一年前も五年前も昔からどんだけコイツを怒らせたと思ってんの?」


「それは…」



「ッ…」



「もういいからゴウ、行くぞ」



…違うんだよ。オレが求めてんのは。

この状況を上手く終わらせろという意味だバカ野郎。


期待したオレがバカだったのか。

悪化させやがって。


アホらしいと踵を返して足を進めようとすると、まだだ。とオレの腕を掴んで元に直した。



「んだよ、早くしろよ!」



オレは今、わりと今はまでに無い程に腹が立ってんだぞ。よく考えてくれ。これ以上悪化させんな。



「てか、お前も自分で分かってるよな?

あんな風に勢い任せでキレたけど、ンなもんただのヤキモチだって。それをソウを注意するって後ろ盾で当たってんじゃねぇよ。どう考えてもオレが悪いだろ。

てか、まずお前ソウを怒らせて何したいの?オレみたいに怒らせてもこうして毎日一緒に居れる自信でもあんの?」



ズバズバと斬るようにルシファーを責める剛。何も言えずに俯くルシファーに少しだけ心が揺らいだ。



「おい…お前ら、喧嘩する為にオレと共にわざわざ上天界から降りてきたのか?…イライラさせるな。ルー…オレが悪かったよ。…お前も足…痛いんだろ?靴擦れしてるぞ」



この世には腑に落ちねぇ事が腐る程ある。

…例えばこのオレが悪いのか分からないこの状況で謝る事とかな。


でも、関係性が崩れるくらいならどんなに腹が立っても耐えなきゃいけねぇ事だってあるからよ。



「…ほら歩けるか?ゴウ、お前はフィーをおぶれ。オレはルーを連れてくから」



「な──」


「「…」」



話はまだ終わってねぇみたいな顔してるけど、このまま言い争いを続けて何になるんだ。


ろくな事にならねぇだろ?



「痛てぇなら回りくどい八つ当たりしねぇでお前もはっきり言えばいい話だ。ほら、来いよ」



いつも通りに話し掛けるとルシファーは俯きながら横に首を振る。


オレはルシファーに背中を向けてしゃがんだ。



「あのなぁ…気を遣われるのも気を遣うって前に言ったろ?剛を懲らしめる為にさっきはあんな事言ってこんなめんどくせぇことになったが、別に喧嘩したくてイライラした訳じゃねぇよ。…ルー、いいから乗れ」



「えー!アタシも足痛いからおんぶー!」


「二人は流石に出来ねぇよ」



「ルーだけズルいー!」



悶々とした空気の中、意を決してオレに合わせてくれたのは騒がしい割に案外しっかりしてるフェリスだ。


オレのムカっ腹の内側に隠された焦りを上手く読み取ってくれたのだろう。


さすがだなお前は。



「ケッ…しょうがねぇな、じゃ、オレがおんぶしてやる」



ここで剛も諦めたかのようにオレに合わせて気を取り直し、ワガママを言うフェリスに歩み寄った。


よしよし、いい感じだ。


嬉しそうにホント!?と目を輝かすが、



「でもその前にオレも謝るからお前も謝れ!」



と、強く言いつけた所はまだまだだなと思うがしょうがねぇ、今回だけは目を瞑ってやるよ。



「ププッ!ごめんねゴウ!ヤキモチ妬いた?!」


「おう、オレもごめん。マジぶっ殺すって思った。…ほら、乗れよ。重てぇの我慢してやるから」



また余計な事を。

そしてサラッとヤキモチ認めてるし。



「はいはい、そんなにアタシと喧嘩するのがイヤなのねアタシをおんぶ出来て光栄に思いなさいよ」


「あーはいはい。お前をおんぶ出来てオレは幸せデスヨー」



流れるようなやり取りを見せつけてきた二人は、少しお互いの扱い方が上手くなったような。


…ンな訳ねぇか。



「ほら、ルー行くぞ」



暫くしても乗ってこないルシファーを催促すると、小さな声の返事が聞こえてフワッと後ろから抱き着いた。



「…っしょ、お前軽いから何も背負ってないみたいだな」



軽い話をして足を進める。



「ソウさん…ごめんなさい」


「もういいって。オレこそガキみたいに本気でキレて悪かったよ」



「あ、耳真っ赤…」


「るっせぇ…。しょうがねぇだろ体質だ」



コイツの嫉妬深さも考えものだが、剛の傲慢な性格は何とかしないとならねぇな。


オレはもうとうに慣れてアイツの扱いをわかっていてもルシファーやフェリスはまだまだ剛の事を知らない訳だから。


そのうち嫌われてしまうかもしれねぇ。

ギスギスした関係にはなりたくねぇからオレがなんとかしねぇと。



「…みんな貴方に追いつきたくて必死で背伸びしてます。だからたまには砕けて少し止まってくれないと、私達、みんな筋肉痛になってしまいます。だから思った事は何でも話してください。

この世で1番強い方の傍に居れる唯一の理由を蔑ろにしないでください。私達は苦しむ貴方が見たくて一緒に居る訳じゃないんです」


「ッ…」



オレの腹でも読んだのかルシファーはオレに背負われた腕を回しながら耳元で優しく呟いた。


自分だって足痛てぇの我慢してたくせによく言うよ。



「…みんな、ソウさんが大事で大好きなんです。とくに剛さんは、悔しいけど勝てる気がしません。…でもそれは今だけの話。いつかきっと約束は守ってもらいますよソウさん」



優しく耳元で話すルシファーの息が狂おしいほどに甘い。


──ゾクッとした。



「ああ、任せとけ。…それと、もっとお前らに甘えるようにする。オレも…大将の家に行ってから自分が足を引っ張ってるみたいな感覚になってな…」


「そんなこと無いですよ!」



「いや、あるんだよ。

お前らが朝早くから秘密会議開いてオレに心配かけないように魔法で眠らせたりとかな?…色々思うとこあるんだよ」



自分ばっかり我慢してって思っちまったか、オレも存外足を引っ張ってるって。



「それは…当然です。

貴方に倒れられると私達は何も出来ませんから。それに、余計な心配は不要ですよね?だから聞かせなくていいモノは排除した迄です」


「まあ、大事なお前達がオレに気を使ってくれるんだ。少しくらい甘えてもバチ当たんねえだろ?とか思ってな」



「あたりません!そうして欲しくてこっちは動いてるのに、いつまでも甘えてくれない方が罰当たりです!」


「…だからたまには甘える事にする。いつも甘えてたらオレの為にもよくねぇし」



「…百歩譲ります」


「二歩ぐらいにしとけよ」



「いや、二歩とか、私達の気持ちはそんな軽いものじゃありません!」


「そーかよ。じゃあ有り難く受け取るよ。…そろそろ前の騎馬に合流するか」



悪くねぇな。

こんなふうに人に心配かけて思い切り説教食らうのも。



「はい!遠慮は無しで♪

あ、あんまりフィーとゴウさんの邪魔しないでくださいね。あの二人いい感じなんですから」



…とか言うオレらはいい感じじゃねぇんですか?とか思っちまうが。



「わかったよ、ちゃんと掴まってろよ!」



オレはルシファーの位置をヒョイと直してから、勢いを付けて走りだした。


ちょっと心の枷が外れて気が晴れたからな。



「わ、ちょ、ちょ!ソウさん!?危なっ!危ないですぅぅぅ!」


「だから、ちゃんと、捕まれって言った!」



走りながら喋ると言葉が途切れる。


ルシファーも背中で揺さぶられて言葉が途切れ途切れなのが少し笑えた。



「──うわ!敵軍が攻めてきた!逃げるぞッ!」


「え!?え?!何ゴウ!やめて!」



オレの気配をいち早く察した剛が振り返ってから、一目散に走り出す。


状況を飲み込めないフェリスが、甲高い声できゃぁぁぁぁ!!と悲鳴を上げた。



「あ、待て!逃げるなァァアッ!」


「ソウさん!ソウさぁぁぁあん!」



「来るなぁぁぁあ!オレらが先に着くんだ

!」



バカみたいに体力を使ってまで走ったオレら野郎二人はボシーヘイデットの門が目の前に(ソビ)える1歩手前、見上げる形で力尽きた。



「ハァッ…ハァッ…」


「クソ…ッ、この底無し体力が…ハァッ…ハァッ」



「アンタ達…よくも…あれだけ揺さぶってくれたわね…」


「止まってくださいと何度も叫びましたよ…?」



「「だってコイツがッ!」」


「「~~~~~~~~~~ッ!!!!」」




──その後、

降ろされた女子組にこっ酷く怒られたのは、この心底くだらない小競り合いの報酬として有り難く受け取った話は思い出すだけで泣けてくるからやめておくことにする。


許せ。






ーリトルウィアーク編(終)─

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