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死闘の始まり

 


「なんだよ、あれ……」


 俺たちは足を進めるごとに遭遇するゴブリンを各個撃破し、いくつかレベルを上げた。そしてやっとの事で一階の体育館前まで辿り着き、もう少しで出られるというところで見たくも無いものを見てしまった。


「デカすぎだろ、あのゴブリン」


 俺が知っている体育館より数倍は広いそこで佇むのは、優に5メートルは越すだろう超長身で、しかも隆起した立派な筋肉を持つ化け物じみたゴブリン。体こそ立派なもののその顔に浮かぶのは狂気じみた愉悦。性根は他の小さいゴブリンと変わらず腐っているみたいだ。


 そして、その巨大なゴブリンと対峙していたのが、さっき二手に分かれたバスケ部と柔道部だった。


「何やってんだよ、あいつら」

「あれ、死ぬよ。……どうすんの?」


 どうするの、とは助けるのかということだろうか。もちろん助けられるものなら助けてやりたいが、生憎とそれは出来ないだろう。


「俺たちが助けに入ったところであれを倒すのは無理があるだろ」

「まあ、そうだよね」

「アイツ、まだ俺たちに気づいて無いみたいだ。今のうちに早く逃げよう」


 コソコソと極力音を出さないように気配を消しながら立ち去ろうとする。

 が、不幸は続くもので、踵を返そうとしていた俺たちの下まで巨大ゴブリンの棍棒に吹き飛ばされたバスケ部が転げ回ってきたのだ。


「――チッ!」


 なんてタイミングが悪いんだ! 無意識に舌打ちが出る。


「お前……さえ、き、か?」


 虚ろな表情で腹を手で押さえながら掠れ声で問いかける。よく見れば押さえた腹部からは血が滲み、白いワイシャツがジンワリと赤く染まりはじめている。あれだけもろに喰らったなら、内臓までダメージが言っているかもしれない。


「頼む、たす、けて……くれ」


 もはやその命は風前の灯火。しかし残念ながら自分に怪我を治してやる術はない。


「すまん」


 俺では彼を助けてやることは出来ない。


「ゲガァァァァァァ!!」


 巨大なゴブリンが吼えた。空気を振動させるほどの咆哮が鼓膜を揺らし、体を硬直させる。

 そしてその時、柔道部も動きを阻害され、木製の巨大バットが振るわれた。ブォンという風切り音に後、柔道部の体はギャグ漫画か!? とばかりに盛大に吹き飛ばされ、次に巨体ゴブリンの視線が俺たちに向く。


「クソッ! 気づかれた!!」

「逃げ……るのは無理、だよね。当然」


 逃げようとしても足は確実にあっちの方が速い。どうやっても追いつかれてしまうだろう。


「ハハッ、これもう詰んでんだろ」


 思わず乾いた笑いが口から漏れる。こんな時はいつもグミが欲しくなるのだが、お生憎様、それもさっき切らしてしまった。


「でも、生きるにはやるしかない、でしょ?」


 藤宮は不敵に笑う。無駄に怯えて体を縮こませているよりは断然いいし、頼もしいことこの上ないが――


「足、震えてるぞ」


 口では強がっていても、やはり怖いのに変わりはない、ということだ。


「うっさい。……本当は怖いに決まってんじゃん。でも、無抵抗で殺されるのがいやなだけ」


 アンタも同じでしょ? そう、彼女の切れ長の瞳が訴えかけてくる。全く、目は口ほどに物を言う、とはよくいったものだ。


「そんじゃ、生き残るために精々――足掻こうか! 最後まで!!」


 俺は金属バット片手に疾駆する。体が風を切り、巨体ゴブリンと視線が交差する。


 ――なんだこれ、体が軽い。


 今まで感じたことのないような不思議な感覚。バットの重さも全く気にならない。

 なんで?


「これが、ステータスの恩恵……」


 僅かな、ほんのちょっとの光明が差した。それはひとつまみほどの希望だけれど、それでも可能性があるのなら十分だ。


「ウォォォォ!!」


 地面を踏みしめて、体は進む。それなりに鍛えられた脚はステータス強化によって更なる促進力を生み、それは攻撃力として変換される。


 ブレーキをかけることなく、勢いの乗った体でバットをフルスイング。構えも、振り方も、体勢もそんなものは関係ない。ただがむしゃらに力任せに振るう。


 金属の棒は凶器となってゴブリンを襲う、が、その攻撃が届くことはなくキィンという金属音と共に腕ごと吹き飛ばされ、バットは宙を舞う。


「クッソ……イテェ」


 棍棒でバットを弾かれた。コイツ、えげつないくらい力が強い。弾かれた手がまだ痺れたままだ。


 しかしまあ、どうしたもんか……バットを回収しようにも、動いたら多分即殺される。

 ニヤニヤとイヤラシイ顔で笑うゴブリンがそれを教えてくれている。

 ヤバイ、打つ手がない。そう、焦りを感じ始めていた時。一つの影が俺の横を通り過ぎた。


「ハァァァァ!!」


 フワリと浮く金髪、鼻腔をくすぐる女子特有の甘い香り。俺の目が捉えたのは――


「藤宮!?」


 自由箒に手に彼女は走る。その速度は俺を遥かに上回っていた。


「――疾っ!」


 その程度の武器じゃあ自分に攻撃は通らない。そう確信していたのか、避けるそぶりも防御の体勢も取ろうとしないゴブリン。だが、箒はゴブリンの右足に深々と突き刺さり赤々とした鮮血を放出する。


 この光景には俺も目を疑った。なぜ箒での攻撃であんなに血が出るんだ、と。

 答えは簡単だった。先端に雑魚ゴブリンたちが使っていた短剣を括り付けていただけの話。誰でも思い浮かぶことだ。


 そういえばいくつか短剣を奪っておいたんだっけ、と思い返す。


「そう、だよな。リーチは短くても短剣の方がバットより攻撃は通るか……」


 俺もズボンのポケットに無理矢理突っ込んでいた短剣を取り出した。






この話もうちょっと続くかも……

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