被害者
「い、言えません……」
「それは、何か隠していることがあって受け取っていいんだな?」
言い淀んだメガネの男に追撃。その顔が苦渋に染まる。
「えっと……」
「どうしても、言えない話なのか?」
四人の男女は俺の言葉を聞いて言い淀む。メガネの男はチラチラと藤宮と話す真田とそれに付き従うリーゼントの男に視線を向け、言いたいけど言えない、そんな雰囲気を醸し出していた。
「……今なら二人とも俺のツレとの会話に夢中でこっちの声なんか聞こえないと思うぞ」
俺が言い放ったそのセリフをトリガーに男女はハッとした顔で俺を見つめ始めた。
ゴクリ。生唾を飲む音がイヤに鮮明に聞こえた。しばらくの沈黙の後、意を決したように男は口を開く。
「じつは、俺たち――あのリーゼントの奴以外は別に真田先輩と好きで一緒に行動しているわけじゃあ無いんです」
「まあ、それは薄々分かってはいたが、そりゃあまたなんでなんだ?」
いやなら別に一緒に行動する理由は無いと思うんだがな……
「それは……俺たちが弱いからです」
悔しそうに顔面を歪めて俯きながら拳を握りしめる。周りの女達も同様に悔しげな表情を浮かべていた。
「先輩は性格こそアレですけど、本当に強いんです。レベルが、とかいう問題じゃあなくて、最初から戦い慣れてるっていうか……戦いって普通は怖いものなのに、先輩は」
「楽しんでいるんです」。メガネ男子の口からその言葉が出た時、俺の肩がビクリと跳ねた。お前はあの真田とかいう男と同類だ、と言われたような気がしたのだ。
「弱い俺たちは強い先輩に着いて行くことでしか生きる術が無いんです……そうするしかなかったんです」
悲しげにそう呟く男に、しかし俺は共感は出来なかった。弱くても、生きていけないなんてことはない。自分が弱いと思っているのは何もしないからだ。
そもそも、魔物は凶暴な生き物で俺たち人間にとって害悪そのものだが、ダンジョンにさえ入らなければそれは脅威とはなり得ない。
生きるだけならば真田なんかに着いていかなくても十分生きていけたはずなんだ。
甘ったれるな。そう言いたいのを我慢して、今は大人しく彼らの話を聞くことに集中する。俺が今何か言っところで何が変わるわけでもないのだから。
「もともと俺たちは同じ大学のサークル仲間だったんです。それに人数だって今よりもずっと多くて、それこそ二十人以上はいたんです。でも……」
「何か、あったのか?」
間髪入れずに問いかける。思い出したくない記憶なのだろう、露骨に不快げな表情を見せながら、それでもゆっくりと喋り出す。
「殆どの奴らは……殺されました。先輩に」
「は……?」
彼の口から告げられた予想だにしない事実に俺は口を開けたまま固まった。
「な、なんでそんなこと」
「反抗したからですよ。後は逃げようとして殺された人もいましたね……何人かは逃げられた人も居ましたけどそれの腹いせに何人かが殺されました」
男は虚ろな瞳で遠くを見る。女達も目尻に涙を溜め歯をくいしばる。
さっき甘ったれるな、なんて思っていたが、これは撤回せざるを得ない。そりゃあこんな恐怖政治敷かれてたら着いて行くしかねぇだろうな。
俺の彼らへの認識は甘ったれた人頼みな奴らから可哀想な被害者へと変わっていた。
「この子達も夜は真田先輩の性欲処理に駆り出されて俺は先輩がムカついた時のサンドバッグ役としてなんとか着いていけていますけど、正直いつ切り捨てられても不思議じゃありません」
無情なまでの残酷な事実を叩きつけられて俺は唖然とした。よく見れば四人とも体に痛々しい青痣が出来ているのが分かる。
「貴方たちも仲間になれば好き勝手に使われて用済みになったら捨てられる未来しかありません。だから、このダンジョンを出たらすぐにでも別れた方がいい」
「特にあの女の子は」。そう忠告されるも、真田は何故か藤宮にあり得ないほどの執着を見せている。最悪、力尽くで連れて行かれる可能性もある。その場合、俺の力でなんとか出来るかと言われたら難しい。
俺も出来ることなら今すぐにでもここから立ち去りたいのだが、そうも行かない。真田はやる気満々なようだし、これで今俺たちがやっぱ止めますなんて言おうものなら何されるか分かったものじゃあない。
俺はムカムカとした気持ちを胸に燻らせながら藤宮に目を向けた。イヤそーな顔で渋々ながら真田の話し相手を務める藤宮に、しかし真田は気づくことなく絶え間なく会話を弾ませる。
遠くから見るぶんにはただのイケメンなんだが、やはり人は見た目だけでは判断できないのだと再認識させられた。
「ああ、最後に一つだけ、知っておいた方がいいことがあります――」
男は再度口を開いた。
真田の野郎はマジで糞




