表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/28

二度目の宝箱

 

「ハァァァァァ!!」


 裂帛の気合いとともに繰り出されるは銀色の剣閃。振り抜いたナイフは向かいくる緑肌のモンスター――ゴブリンの体を深々と切り裂き、鮮血が飛散する。


 赤々とした血は地面を濡らし、一瞬の間を置いてゴブリンのその体はドサリという音を立てて地に倒れ伏す。


 《レベルアップしました》

 《ダンジョンボスの討伐、ダンジョンの攻略を確認しました》

 《ダンジョン攻略報酬としてランダムでアイテムが贈呈されます》


 脳内に響くアナウンスに安堵の息を吐き、体を地面に預ける。噴き出る汗に構う余裕もなく、視線だけを動かせばすぐ横には俺と同じように汗だくで地に横たわる藤宮の姿があった。


 本日三度目のレベルアップ。スーパーのダンジョンとドラッグストアのダンジョンは出現するモンスターがどちらもゴブリン、と同一種であったというのもあって面倒ということはなかったが、いかんせん数が多かったためにとにかく疲れた。


 それらはどちらもランクはEで要求レベルは10と13。現在の俺たちのレベルは9と要求を満たしてはいなかったのを考えれば仕方のないことなのかもしれない。


 疲労し、摩耗した体に鞭打って薬や包帯、毛布に食料と次々に魔法背嚢へと放り込んでいく。収納限界を迎えたのはそれからしばらく経ったあとだった。


 入りきらない、でも必要な物は普通のカバンに入れて持ち帰る。俺は背中に魔法背嚢を肩にショルダーバッグを二つ、手には手提げ袋をひっさげて短剣は腰のベルトにさす。藤宮もまた、俺ほどではないにしても相当量の荷物を抱えていた。


「さ、佐伯……もう無理持てない」


 藤宮のギブアップ宣告もあって残りの品は諦めて、最後、俺たちは此処を出る前に店内中央に鎮座する二つの木箱に目を向ける。


 昨日のコンビニダンジョンの時と同じような作りだ。アナウンスでも言っていたようにこの箱の中に報酬であるアイテムがあるのだろうけど……さて、今回は何が出てくるのか。


 俺も藤宮も内心興味と興奮が渦を巻き、ガチャガチャやギャンブルのようなランダム仕様には一種の高揚感さえも感じる。


「ね、今日は私からでもいい?」


 身長差があるため若干上目遣いになって見上げるように尋ねる藤宮に、特に反対する理由もないので先を譲る。先日手に入れたククリナイフが予想以上に気に入ったみたいで今回も期待大のようだが、はたして……


 恐る恐るといった手つきで二つのうち一つの木箱を開き、出てきたのは――タワシでした。


 ――

 “清浄”のタワシ

 “清浄”の魔法が付与されたタワシ。擦る力が強いほどキレイになる。頑固な汚れもこれ一つで全て解決!

 ――


 藤宮は自分が予想していた物とかけ離れた物だったからかズーンという効果音でも出そうなほどあからさまに気分が落ち込んだ。そりゃあ楽しみにしていたガチャで星一のザコキャラ当たったみたいなものだろうし、落ち込むのは当然だろう。だが、これは俺にはどうにもできないので放置。


 俺は俺の分の木箱を特に躊躇いもなく開く。タワシより酷いのは出ないだろとは思うが、ハズレを引いた時のダメージが大きくならないよう、あまり期待はしないでおくことを学んだ俺だった。


 そんでもって出てきたのは小さな、手のひらに収まるくらいのサイズをした瓶だった。


 瓶、といっても空っぽという訳ではなく、半透明な青色の液体が閉じ込められた瓶だった。疑問に思うと同時に俺は【鑑定】を発動させる。


 ――

 “回復”の魔法薬

 “回復”の魔法が込められた液体。摂取する事で体力、魔力を回復させる効果がある。*瓶には何の効果もない。

 ――


「まあ、タワシよりはいいかな……」


 いや、このアイテムだって本当ならすごい物に違いない。魔力についてはよく分からないが、飲むだけで体力が回復するというのだから、今の科学では到底作ることのできない品であるはず。


 でも、でもだ……魔法背嚢みたいな超有用アイテムが初手でくると落差を感じざるを得ないのだよ!


 内心で不満を吐露しながらも俺は表情には出さずカバンの空いたスペースに“回復”の魔法薬を突っ込み、舌打ちしながらタワシで延々と地面を磨く藤宮に視線を向ける。一部だけピカピカに輝くフローリングの地面を見て効果は本当なんだな。なんてことを思いながら声をかけるが、藤宮は俺の声に一瞥だけしてまた地面磨きを再開させる。


 なんというか……目が虚ろだ。あの目はお年玉で貰った三万を全てガチャに回して爆死した時の俺に似ている。


 わかる。お前の気持ちは痛いほど分かる。でもな……


「いい加減にしてくれ……」


 俺のつぶやきは虚空へと消えた。



お年玉三万を課金したといったな……あれは事実だ.°(ಗдಗ。)°.



補足:コンビニで手に入れた商品は家に置いてきているため、魔法背嚢の中身はほとんどない状態です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ