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赤髪

 

 騒がしいほどの人の声。不規則な複数の足音。ガチャガチャとうるさい金属の擦れる音。間違いなく人がいる、それも相当近くに。


 俺と藤宮は顔を見合わせて動き出す。


 最初はあくまで様子見。考えなしに出ていけばどうなるか分からないのだから、まずは相手がどんな目的でここに来たのか、性格は、強さは、人数は、装備はどうか。それをこの目で見て、確かめる。


 足音を消して慎重に移動するため、速度は多少遅くなるものの誤差の範囲内だ。藤宮が先を行き、俺がその後に続く形になって声を頼りに徐々に近づいていく。一歩、一歩と近づくたびに雑音じみた声のノイズが会話として聞き取れるまでになると速度を緩めて聞き耳をたてる。


「それにしてもあの警官、アホだったねぇー」


 最初に聴こえたのは若い男の声だった。口調は軽く、重みを感じない声。しかし、その話の内容は鮮烈で俺たちに驚愕を与えるものだった。


「まさか子供を囮にするとは思わなかったけど、子供ごと殺しちゃえば関係ないよね」


 子供を……殺した。殺人を犯したというのを何の罪悪感もなく言い放ったのだ。その男は。


 背筋に悪寒が走った。こんなクズが声の聞こえる距離にいるのだと考えると吐き気がした。そしてそれに同調するように続けられた複数名の男女の声。そのどれもが若く、恐怖や畏敬、中には憧憬の色が混じった声も聞き取れた。


 物陰に隠れて藤宮と二人、声を押し殺してその姿を視認する。リーダーと思わしき男は声から想像した通り、ザ・チャラ男といった容貌で髪は染髪したのか人工的な赤色、顔は整っているがニヤニヤとした笑みと今時の若者らしい派手な服装から軽薄そうなイメージが拭えない。体は中肉中背で鍛えられているといった感じもしないが、見た目では判断できない特殊な力があるのかもしれない。


「――ちょっ! さ、佐伯、あいつヤバイ!」


 焦ったように藤宮が俺の肩をゆする。声はヒソヒソと限りなく小さくしているようだが、彼女の声からは緊迫した空気を感じ取れた。


「どうした?」


 俺の疑問に藤宮は小さく「鑑定」とだけ答えた。そこまで言われれば俺も察することくらいできるというもの。赤髪のチャラ男に向けて視線を飛ばし【鑑定】を発動させ、ステータスを盗み見る。


 ――真田 幸仁(さなだ ゆきと)

 Lv.16

 状態:健康


 能力値

 体力: 6 筋力: 10

 思考: 4 敏捷: 8

 魔力: 1 耐久: 5

 器用: 2 幸運: 3


 スキル

【鑑定】

【召喚:十字焔槍(じゅうじほむらのやり)


 魔法

【火球】


 pt.0


 ――


 ステータスをみて、生唾を飲む。レベル16。このデパートダンジョンの要求レベルを満たしていないまでも俺たちとは隔絶したレベル差。敵対すれば否応無く死を想起せざるを得ない相手と言える。これを見たならば藤宮の焦燥も頷ける。


 にしても――


「あのレベルでここのダンジョンを攻略するつもりなのか?」


 見たところ人数は全員で六人。更なる【鑑定】の結果レベルも赤髪の彼――真田よりも高いやつはいないというのは判明している。


【鑑定】スキルは持っているようだし、要求されているレベルがどれほどか分かっていないわけではないだろうに。


 深まる謎。湧き出る好奇心。けれど俺と藤宮二人分の命と天秤にはかけられない。


「藤宮、今日のところは撤退だ。ここはもう少しレベルを上げてから来た方がいい」

「りょーかい。サッサと離れよう」


 俺の言葉に反対することなく藤宮は一も二もなく踵を返す。彼女も彼らと今戦えば命がないと分かっているが故の即決。逃げたといえば聞こえは悪いがここは危機管理がなっているとポジティブに考えるべきだろう。


「あのダンジョンはダメだったわけだけど、どうすんの?」


 ある程度まで離れたところで早足に歩きながら藤宮が問う。「どうすんの?」と聞かれても困ってしまうが、敢えて案を出すなら「取り敢えずレベル上げしよう」ってとこだな。


「レベル上げ、ねぇ。私たちのレベルならFかEランクくらいの難易度が適正だろうけど問題はどこのダンジョンに行くかってことだよね」

「本来の目的は食料――それも物持ちのいい物――と生活に必要な品を手に入れること。そのためにデパートにも来たわけだけど、ぶっちゃけ食料品店と薬局にでも行けば一通り揃うんだよな」


 ってことで、次の行き先は最寄りのスーパー、並びに薬局。薬局はスーパーの隣にあるらしいから移動は多くないってのはポイント高い。


 チャラ男たちはもうダンジョンに入っていったのか声は聞こえてこない。


 出来ることなら彼らとも敵対したくはないけれど、彼らのやっていること、犯した行為を俺たちはそうやすやすと受け入れることはできないだろう。であれば、敵として合間見えることがないとは言い切れない。そんな時、俺か藤宮か、どちらかが殺し(・・)をしなければいけないのだと考えれると寒気がする。


 表情には出さないながら俺たちのスーパーに向かって歩く足はいつもより少しだけ早く感じた。



ちなみに真田君の取り巻きは五人で男二人女三人で、雑魚モブです。

主人公たちと真田君の関係がこれからどうなるのか、楽しみに待っていてください。


最後に一つ裏設定を。真田君は童貞ではありません。卒業済みのヤリ○ンです。童貞のみなさんは真田が出てくるたびに怨念を送ってあげてください。

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