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ゴブリン襲来

 素っ頓狂な声を上げた俺だったが、耳を澄ませば皆も同じ反応を取ったことがうかがえた。


「ギギャ……?」


 先頭に立つ一匹の緑肌の小人がくぐもった声を発する。頭を捻り、辺りを見渡すと、獲物を見つけたような猟奇的な笑みを浮かべた。口元をニヤリと歪め、その瞳には欲望にまみれた狂気が見え隠れする。


 ――なんだ、こいつら?


 コスプレ集団? にしてもなんでこんなところにいるんだ? というか、コスプレにしてはあんまりにもリアルすぎる……


「ゴブリン?」


 誰かがポツリと呟いた。声の元は恐らく右斜め前の席に座るメガネの少年。あまり交流はなかったが、名前は確か安藤だったかな。アニメや漫画、ラノベなんかが好きで趣味の合うもの同士で集まって話している印象があった。


 そして、彼の呟いたあの言葉。ゴブリン。確か邪悪な醜い妖精……だったかな? ファンタジー小説なんかによく出てくるモンスターの名前だ。


 確かに昨今のライトノベルなんかで出てくるそれに類似しているように見えなくも無い。

 でも、普通に考えて有り得ない。ファンタジーの存在が、現実に現れるなんて……


 テロ組織がコスプレをして襲撃してきたと言われた方がまだ信憑性がある。


 だがしかし、これが異常事態であるということは明らか。緑肌の集団がこの教室に訪れるまでに誰にも合うことがない、なんてことはあり得ないと言っていい。少なくとも忙しなく教室間の移動を繰り返す教師の誰かに遭遇すれば、誰何された後、学校からつまみ出されるのがオチだ。


 ならばなぜ?


 湧き上がる疑問は次の瞬間、消え去ることとなる。

 動揺する俺たち生徒をよそに緑肌の集団は簡素で黄ばんだ腰布に吊るした短剣を抜き放ったのだ。


「おい、なんだよあれ……」

「まじかよ……」


 困惑の声が聞こえてくる。ドッキリだろ、と強がる声もいくつかあるものの俺にはどうしてもそうは思えなかった。


 ――殺気だ。


 中学二年の時、高校生ヤンキーに喧嘩売って殺されそうになった時と同じ感覚。だから瞬時に俺は悟った、悟ってしまった。ああ、こいつらはヤバイ。


 短剣じたいは錆びでところどころが赤茶色に変色してしまっているが、彼らにとってそんなものは関係ないのだろう。十数体のゴブリンは好色そうな笑みで教室中を見渡し、特に女子の体を舐め回すように視姦する。


 そして彼らは、ドヨドヨと騒めくばかりでなんの行動に移すことも出来ずにいた俺たちに一塊となって陣形を組み、にじり寄る。


 そこで、遂に意を決した我がクラスの学級委員長が待ったをかけた。正義感の強い彼のことだ、俺たちの中で最初に動くだろうと思っていた。内心で賞賛しながら事の成り行きを見守る。


「あの……すみません。この学校は部外者立ち入り禁止となっていまして、それにそのナイフ? は危険ですのでしまっていただけないでしょうか」


 なんで肌が緑色なのか、とかの一番のツッコミどころはスルーでいく方針らしい。また、彼の言っていることは至極当然のことであるが、だからといってハイそうですかと出て行くわけもないだろう。


 さて、どうなるのか。

 俺は自分からは動かずに観察に回る。


「ええと、聞こえてますか?」


 委員長は再度問うた。しかれども、その返答は声ではなく暴力によって返された。


 抜き身の短剣を鋭く閃かせ委員長の腹部を深く抉り、赤黒い飛沫が宙を舞う。


「は、え……?」


 ビチャリ、と血の滴る音が鼓膜を刺激する。突然の出来事に一度、静寂が訪れ、そして次の瞬間それは甲高い悲鳴と絶叫に変わった。


「ゲヒッゲヒッ!」


 気色の悪い笑い声、愉悦に浸ったその笑みに心臓が凍るような寒気を感じた。ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。やっぱりこいつら、狂ってやがる。俺の予想の数倍、もしかしたらそれ以上に頭がおかしい。


 ――逃げなきゃ。今すぐに。じゃないと、殺される!


 俺の脳は瞬時にそう判断した。限りなく気配を消せ。物音を立てるな。目立たないように。速やかにここを離れろ。


 俺は直感を信じ、静かに席を立つ。慌てふためくクラスメイトたち盾にして。


 だがしかし俺の思考を読んだのか、それとも偶然か、二つある扉を完全に封鎖された。


「チッ!」


 俺は静かに舌を打った。どうする、どうすればいい?

 焦りで頭の回転が鈍る。


「糖分が足りねぇ」


 ブレザーのポケットからグミを取り出して一掴み、大量のグミを荒々しく食らう。

 充分に糖分を補給したら落ち着いてきた。


 視線をチラリと扉の前へ移すと、やはりそこには変わらず委員長の血に濡れた姿があった。

 タラリと頬を汗が伝う。とうの昔に夏も過ぎたっていうのにどうも体が熱くて仕方がない。


 これは、現実だ。紛れもなく。


 手をつねっても、頬を叩いてもそれが証明するのはこれが夢ではないという事実のみ。


 やらなきゃやられる。


 煩いくらいの悲鳴が上がったというのに誰も救援に来る様子がないということはつまり、もう既に死んでいる、または動けない状況にあることを意味している、はずだ。


 なら、自分の身体は自分で守る。それができないならその時は即ち、死あるのみ。


「――殺されるくらいなら、殺してやる」



また明日もこの時間に投稿します。

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