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世界が狂い始めた日

新作です!



 俺の目に映るのは暴れ、喰らい、犯し、奪う異形たちの姿。緑肌の化け物が俺の目の前で見知ったクラスメイトの腹をかっ捌いた。手に持った錆びついた短剣を深々と突き刺し、ぐちゃぐちゃと掻き回しては、彼の、彼女の肉を貪った。血があちこちに飛散して赤色に染まる。


 クチャクチャ。血肉を咀嚼する音がやけに耳に残る。気持ち悪い。嘔吐感が俺を襲い、遂には朝に食べた飯を全て胃から放出してしまった。


 緑肌の化け物の群れはそれだけに飽き足らず死体と化した彼らを喜色満面の笑みでズタズタに切り裂いていく。


 ――狂っている。


 つい数分も前までは平穏無事であった日常は呆気なく崩れ去り、笑顔で満たされていた教室は全てが血と暴力で埋め尽くされた。


「なんだよ、なんでこんなことに……一体、俺たちが何をしたっていうんだよ! 頼むからもう、やめてくれ……」


 しかし、その願いは叶うことなく、俺を絶望の道へと誘う。


「ギギャ、ガキャァァァァァア!!」


 一体の緑の異形が甲高く叫びをあげ、一歩、また一歩と俺へと迫る。


 そして――



 ◆


「……おい、おい起きろ佐伯! まだ授業中だぞ!」

「う、ん?」


 俺は寝ぼけ目を擦って周囲を見渡し、今の状況を確認する。


 クラスメイトたちの視線は全てこちらに向けられ、特に怒髪天を突くという表現が似合うオッサン国語教師――武田の鬼の形相に突き刺さっていた。

 ああ、と全てを察したところでお決まりのセリフを吐く。


「すみません。寝てました」

「そんなことは見ればわかる! 後で職員室まで来いっ! いつもいつも俺の授業で寝やがって!」


 怒り心頭の彼にはもうこれは通じないようだ。申し訳なさそうな態度を演じるのには自信があったんだが、多用し過ぎて効果が薄れてしまったか。


「職員室か……面倒だな」

「何か言ったか!」

「……いえ、なにも?」


 全く、なんて地獄耳だ。ボソリと誰にも聞こえないくらい小さな声での呟きでも彼にとっては筒抜けだ。……恐ろしい。


「だいたいお前は――」


 また長い説教が始まった。傍観者サイドにいる時は授業の時間が潰れるのでありがたいのだが、こうして説教される側になるとそれも苦痛へと変わる。昨日ガチャ石集めをするために徹夜で周回なんてしなければ良かった。


 それもこれも、稼いだバイト代のほとんどをつぎ込んだのにも関わらず、高レアが全く排出されない鬼畜仕様のあのソシャゲが悪いんだ。


 心中での言い訳もそこそこにチラリと時計に視線を向けると授業終了の時間まであと一分を切っていた。


 ――キーンコーンカーンコーン。


 鐘が鳴り、授業の終わりを告げる。そして武田はハァッと深くため息を漏らし、俺への説教を中断すると教卓へ足を進めた。


「それじゃあ授業はここまで。日直、挨拶」

「きりーつ、れい」


 本日の日直の気が抜けた挨拶で授業が終わり、安堵の息を吐いたが武田が教室を出る前に釘を刺してくる。


「佐伯、昼休みに職員室だ。忘れるなよ!」


 うるさい。うざい。めんどくさい。内心で悪態をつきながら俺は適当に首肯で返し、武田が教室を出たのを見計らって盛大に舌打ちした。


「よう、災難だったなぁ、(しゅう)

「本当にな。これでこの後バックれたらどうなんのか、気にならないでも無いけど……やめとくわ」


 もしかしたら殺されるかもしれん。聞いた話じゃあ柔道の有段者だっていうし。

 それにしても、あのゴリラ顔で既婚者だっていうんだから人生なにが起こるか分からねぇもんだな。


 ブレザーに入れていたグミを取り出して口に含む。


 さっきのが三時限目。次の授業が終わったらすぐ行かないとなぁ。……職員室に呼ばれるなんてヤンチャしていた中学時代以来だ。


 憂鬱な気分がどうしても拭え無いまま予鈴が鳴る。


 各々友達と談笑を繰り広げていたクラスメイトたちは誰に言われるでもなく自ら席へ戻っていく。伊達に進学校を自称していない、といえる規律の良さだ。


 そして始業のチャイムが鳴ると同時にガラガラという音を立てて扉が開いた。


 次の授業は数学か……寝ても大丈夫だな。あの先生は武田みたいにうるさくなかったはず。


 俺は開かれた扉へ視線を向ける。

 そして――


「……は?」


 扉の先から現れたのは見慣れた数学教師などではなく、黄ばんだ腰布だけを身に纏った緑色の肌をした小汚い様相の小人たちだった。






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