ずーっと以前に書いた創作怪談シリーズとショートショートシリーズ
ほこらのある森
ある小学校に、クラスの皆から、薄気味悪がられている男の子がいました。
彼はいつもうつむいて何かに語り掛けているようでした。クラスの皆は誰も彼のそばには近寄りたがりませんでした。彼の声は地底から響くようように不気味でした。彼はいつもひとりぼっちでしたが、友達が欲しいと思わないわけではありませんでした。
ある時。
その小学校では、クラスで劇をすることになりました。
彼のクラスでは、「世界樹の森」というお話をすることになりました。
そのお話は、小さな女の子がお寺で隠れんぼしていると、いろんな木が語り掛けてくる、そういうお話でした。
クラスの皆は、薄気味の悪い彼に、しなびて枯れそうな木の役が一番だ、と口々に言いました。
その瞬間まで、一言も口を開かなかった彼が、劇の役が決まる直前、
「魔法使いの木の役のほうがいい。」 と言いました。
その木の挿絵は、とても気味が悪く小さな女の子を暗い世界へと連れ去ろうとするのです。
クラスの皆は、彼が言うように、してあげました。
誰も、そんな気味の悪い役はやりたがらなかったからです。
劇の当日。
体育館でカーテンが下ろされていました。見ている人達は、その劇の臨場感に驚きました。暗い舞台では小さな女の子が小さな石のほこらに隠れていました。薄気味の悪い声が響きます。女の子は怖くて怖くて、小さな石のほこらのなかで身をちぢこませていました。けれど、ここにいれば大丈夫。女の子は言いました。
その時、舞台の「魔法使いの木」からは無数の顔のついた手が伸びていきました。誰の目にも、それをどうやっているのかわかりませんでした。手はどんどん伸びていって、体育館の観客席をおおうようになっていきました。
ちょうどその時、一人の高校生の女の子が体育館に入ろうとしていました。その子は言いました。
「なにこれ?気持ち悪い。」
その体育館の扉から、無数の顔のついた手がゆらゆらと揺れながら、さらに数を増しながら、あふれ出てきたからです。高校生の女の子は後退りして逃げようと思いました。
その瞬間、気持ちの悪い顔の手はすうっと吸い込まれるように消え、かわりに普通の手が扉の中から「おいで、おいで。」しました。
高校生の女の子はその手に導かれるように暗い体育館の中に入りました。
そこでは、劇の真っ最中でした。
小さな女の子が、小さな石のほこらの中でかくれんぼをしていました。薄気味悪かった声が急に優しい声に変わって高校生の女の子を舞台のほうへ誘いました。女の子は導かれるままに舞台に上がり小さな女の子と一緒に小さな石のほこらに入りました。怖がっていたちいさな女の子は、お姉ちゃんが来たので安心しました。
その時、体育館の扉が閉まり劇場は真っ暗になりました。
そして、舞台の中も真っ暗になりました。
小さな女の子は、薄暗い森の中で今も暮らしています。大人になるまで、そこを出ることは出来ません。薄気味の悪い男の子は大好きな女の子と二人きりになれて、とても喜びました。