取引
シリアスです。
音が聞こえる。木々のざわめく音が。俺は目を開けた。するとそこは森の中だった。
見たこともない木々が生えており薄暗い。が、真っ暗というわけではなく木々の根元に生えているほのかに光るきのこのおかげで20メートルくらいまでなら見渡せる。
どちらかというと、木々やきのこを除けば富士の樹海を思い起させるがきみは悪くない。
これはいったい。?もしや異世界に来たのだろうか。?混乱しかける思考を整理しようとする。
体は前と同じ、変わったとこもない。だが、きっとここが地球でないことは何となく解った。とうとう夢がかなったのだろうか?
いやいや、ちょっと待て。例えば能力とかないのか?いや、まあでも異世界に来た?し、これ自体が贈り物と考えると。だが、どうやって生きていこう。?
俺は弱い。武術も知らない。能力とか魔法とか確かめようがない。魔法はそれっぽい動きをしたがでなかった。
つんだかもしれない。まあ、俺らしいといえば俺らしいが。昔からついてなかった、というか中途半端についてるっていうか。兎に角、今のところ生物は見た感じいない。取り合えず出来る事をしよう。
持ち物は服以外ない。周りには食べれそうな物も、水もないから探さなくちゃならない。まあ取り合えず、光るキノコが多い方に進むことにした。
1時間は歩いただろうか。開けており、光るキノコが岸に多く生えている泉に出た。
泉は底が見える程透き通っていてあまり深くなく、周囲の光るキノコの光をキラキラと映し幻想的な雰囲気を醸し出していた。
喉が渇いていて泉の水をむさぼるように飲んだ。細菌とかがいて危険かもしれないがそれを調べる知識も、すべもなく、ましてや背に腹は代えられず。喉の渇きが癒えるまで飲んだ。
水を飲み一息つきこれからのことを考えた。色んな事を思い出した。今頃家族は、家はどうなっているか。
そしたら寂しさとかが今更襲ってきて、でも何時からか上手く泣けなくて、慣れてるはずなのに前の世界と変わらない冷たさと悲しみが心を塗り上げ、孤独だけが存在を主張する。
孤独を完全に受け入れる強さも、孤独をつっ撥ねることもできない。半端で、孤独に感じると同時に弱さを突き付けられる。そして、見ず知らずの所に一人。
何も持たず、あるのはこの体のみ。誰も味方はいない。ただ、その事実がより孤独を増長させる。
そして、これからの不安と、見ず知らずの場所で一人という事の恐怖を胸に、もう戻れないであろう物たちを振り払うかの様に、目から涙が溢れ世界を歪ませた。
どれ位泣いただろうか。泣いたことで少し楽になった。だから、今まで気づかなかったことにも気づいた。
木の陰から注がれる視線に。
木の陰から覗いていたのは緑色のつるりとした頭、そして尖った耳と鼻。ファンタジー世界でお馴染みの。
そう、ゴブリンだ。奴はいい獲物を見つけたがごとくなめ切って、俺が気づくのを待っていたんだろう。
そして、ゆるりとした足取りで全身を表した。