はじめまして
静かで何もない砂漠と打って変わって、都市はたくさんの人で賑わっていた。
人ではない者もいるが、ここは異世界だ。
気にしないようにしよう、そうしよう。
少しドキドキしながら人混みを歩いているとグランツさんにそっと手を取られた。
驚いて顔を上げると、琥珀色の瞳がこちらを見ていた。
あまりに綺麗なそれに見とれていると、栗毛色の髪と少しのヒゲを持つ彼が二カリと笑った。
「嬢ちゃんはちっこくて迷子になりそうだからな!念の為だ」
「あ、はい」
これは完全に子供扱いだ。
そりゃそうだよね。周りの女性を見ると皆美人だし、背は高いし、見目麗しい人ばっかりだし?童顔で背の低い私なんてちんちくりんなガキにしか見えないよね。
うん、自分で言っといてあれだけど泣きそう。
グランツさんに大人しく引っ張られながら歩いていると、開けた場所に出た。
見たところ広場のようだ。
「ハル、ちょっとここに座って待っててくれ。飲み物を買ってくるからな」
「あ、ありがとうございます」
グランツさんは「いいってことよ」と笑うと近くにあるお店へと入っていった。
私は時々ムーちゃんと戯れながら、ボーッとベンチに座りながらグランツさんが戻るのを待っていた。
「陛下......?こんなところで何をしているんです?」
「え?」
「ムー?」
若干ノイズのかかった男性の声が上から聞こえて顔を上げると、いつから居たのだろう、黒い装甲に身を包んだロボットがこちらを覗き込んでいた。
「陛下、仕事はどうしたんです?また散歩ですか」
「ムィーッ!ムッムッ!!」
「ほぉ、今仕事をしているところだと?」
「ムッムッ、ムーー!」
「グランツがここに?それでは今まで魔物退治をされていたのですか?」
「ムィッ!ムームッムー!!」
「なるほど、この方が......」
ロボットは納得したようにひとつ頷くと春を見た。
「あの、ムーちゃんのお知り合いですか?」
「ムーちゃん?......あぁ、陛下のことですか。仲が良いようでなによりです。良かったですね、陛下」
「ムィー♪」
「あ、えっと......」
「あぁ、自己紹介が遅れてしまい申し訳ありません。私の名はアーク。この都市の警備隊として働いています。陛下から話は聞きました。新しく異世界から来た方ですね?」
「は、はい!篠原春、いえ、春です。よろしくお願いします」
「はい、ハル様。こちらこそ」
アークさんと自己紹介をしあっていると、グランツさんがピンクと黄色の飲み物を2つ持ちながらこちらへと歩いてきていた。
「おーい、アーク!ちょうど良かった、今からお前のとこへ向かおうと思ってたんだ」
「グランツ、話は陛下から聞きました。彼女がそうですね?」
「ああ、俺の"嫁"さんだ」
「......はっ!?」
グランツさんの爆弾発言に脳が一瞬フリーズする。
今この人なんて言った!?YOME!?
「......グランツ、まさかあなた説明してないだなんてことはありませんよね?」
「あー......すまない、口が滑った。説明してない」
「馬鹿か貴様は!!!」
敬語が外れたアークさんの罵倒と鉄拳がグランツさんへと下される。
うわぁ、すごい音したよ。痛そう......。
「ってー!殴るこたぁないだろ!?第一、砂漠は危険地帯だ!説明は後でしようとしてたんだよ!」
「それは分かった。しかしだ!説明していないのに口を滑らすやつがあるか!どうしてお前はこうアホなんだ!?これだからいつまで経っても結婚出来ないんだ」
「そ、それは関係ないだろ!?つーか、嫁ならもういる」
グランツさんが私の肩をおもむろに抱き寄せると、アークさんが「汚い手で触るな!」と思いっきり引き剥がした。
なんだ、この状況。誰か、ヘルプミー。
「あの、お二人共。落ち着いてください。その、人目もありますし......ね?」
私がそう言ってなだめると、二人は顔を見合わせた。
「確かにハル様の言う通り、一旦落ち着きましょう。馬車を呼んで、城へ向かいます。この馬鹿に文句を言うのはそこでも良いでしょう」
「おい......」
「ハル様、先程はお見苦しいものをお見せしてしまい申し訳ありません。この馬鹿にはきちんと言っておきますので」
「あの、ぜんぜん気にしていないので大丈夫です。なので顔を上げてください」
アークさんが頭を下げだしたので慌てて止めると「グランツにはもったいない方ですね」と優しい声色で言われてしまった。
あの、そういった耐性がないので勘弁していただきたいッ!あと、低音ボイスありがとうございます!耳が幸せです!!
訳の分からない言葉を心の中で叫びながら顔を赤らめていると、グランツさんが不貞腐れた顔で私を抱き寄せてきた。
あの、心臓が持たないんでホントやめて欲しい。真面目に。
「おい、ハル様が嫌がっているだろう。離せ」
「何言ってんだ、嫌がるわけないだろう。なぁ、ハル?」
「いや、あの、ホント勘弁してください...」
思わず本音を口にすると、グランツさんは「何故だ!?」と嘆き、アークさんはそれを見て鼻で笑った。