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『XIV TEMPERANCE 節制』 のカード絵によせて

作者: 倉木 碧


この短編は、連載中の『理解不能の、弱い蒼』の中で作中の人物が語ったとされる童話風の作り話です。(本編4 ☆部分)

連載中の小説に挿入してしまうと、流れを切ってしまうという理由で番外編としました。


ウェイト版タロットカードの『XIV TEMPERANCE 節制』を1枚の絵として眺めて思いついたという設定のもので、正当な解釈に基づくものではなく、正位置、逆位置への配慮もなく、タロット占いの参考になりません。ご了承ください。

また、西洋の文化に基づき、神さま=創造主としての価値観で書きましたが、特定の宗教を称えているわけではないので、読者の方には最も相応しい言葉・概念に読み替えて頂けたらと願います。最後の段落では、タロットカードの意味を考えるというよりは、《諸行無常》をプラスアルファした感じです。

 これはたぶん、どこかでのお話です。


 小さな白い(水)蛇が、湖をクルクルと泳ぎまわって遊んでいました。

 そして、ある日、気づきました。

 湖の中に白い衣をまとった貴人が立っています。その方の背中には大きな羽があって、二つの壺を持っています。その壺で水をすくっては、双方の壺の間を行き来させているのです。


「あれ、だあれ?」

「天使さまだよ」

「なに、してるの?」

「お役目を果たしているんだよ、お仕事だよ」

「お側にいってもいい?」

「おまえなんか、つまんないへびでしかないじゃないか。

 お邪魔しちゃダメだよ」


 それこそつまんないやとへびは思い、またクルクルと泳ぎまわっていました。


 湖は想像したよりも広くて浅いところや深いところがあり、それに伴って水の色も様々に変化するのでした。

 青、水色、泡の透明な透き通った白色、深い淵の黒っぽい深緑、蒼、翡翠、碧、藍色、紺、黄緑と好きな色だったり、嫌いな色だったりしていて、それをくぐって遊んでおりました。


 ある日ぷかーっと水面に顔を出してみると、天使さまのまん前でした。


 目があったと思ったので、

「お仕事、なにしてるの?」

 と聞いてみました。

「ないまぜにしてるんだよ。善と悪、是と非、北と南、東と西、強さと弱さを全部揺すぶって混ぜているんだよ。

 そのままで楽しく幸せに共に在って欲しいから混ぜているんだよ」

「ふーん、いろんなものがあっちこっちに揺すぶられていくんだね?

 ボク、つまんないへびらしいから、もっと良いへびになれるところを探してるの」

 天使さまはニコニコ笑いました。

「つまらないへびなのかい?そのままでいいんだよ」

「ほんと?」

「みんながみんな、良いところも悪いところも併せ持っているのだよ。

 みんながみんな、良い方に必死に行くと争いが起きる。

 みんながみんな、悪い方を粛正しようとすると争いが起きる。

 悪い方を粛正したのに、また悪いものを見つけては怒り、自分の中に悪を見つけて絶望し、誤魔化したり、それは悲しいことだねえ。

 良いものも悪いものもあっていいんだよ。もともと最初からあったんだ。創造主たる神さまがお造りになられたのだよ」

「天使さまと神さまはいい者で、怪物とか悪魔は悪者だって聞いたよ。対立してるんじゃないの?」

「そうだねえ。

 天使と悪魔は相反するもの同士だから対立してるといえるね。全部が全部じゃないけど。

 神さまはたくさんのものをお造りになられた。だから、すべてのものよりはるか高い上位にいらっしゃる。

 つまり、相反するもの、対立するもの双方を同じように大事にお造りになられたのだ。


 相反するものをどうしてお造りになられたのか?

 対立して争うようにお定めになられたのか?

 そもそも。

 悪しきものも善きものも、およそ生きているものにすべて他のものの命を奪いとりながら生きていくように定められたのはどうしてなのか?

 愛したもの愛されたもの憎んだもの憎まれたものすべて最終的には滅びて死んでしまうように定められたのはなぜなのか?


 相反するものは必ずしも対立して争うことはないのだよ。そのような定めはない。

 相反するものが在ってくれるからこそ生まれる、争いじゃないものもあるのさ。


 神さまはすべてのものにも長所や短所を持ったまま、存在しているのを十分ご存知でお赦しになってくださってるよ。

 相反するもの、対立するもの双方に理がある、意義があるとわかっていてくださる」


 へびは天使さまの頭のあたりに空の上から光が降りてきて金色に輝いているのを見つめ、また双方の壺を支える両腕の形を見て、天使さまが三角形を体現しているのかなと思いました。

「ああ、わかったぞ、それで胸についてる飾りが三角形なんだね。

 みんな神さまの下にいるのか。

 ボク、どこにいてもどっちにいってもいいんだね。

 つまんないへびと言われて、それは本当かもしれないし、自分でも自分がつまらないへびなのかそうじゃないのか良くわからなくなっていらいらしたりしてたけど、そいつにそうじゃないって言い返してもいいし、我慢してもいいんだよね」

「そうだよ。良いものが悪いものになったり、悪いものが良いものになったりもする。

 おまえは生まれてきてくれただけで沢山のお役目を果たしている立派なへびだよ」

「ほんと?」

「ああ、おまえを含めて天使でも悪魔でも、すべて神さまのもとに在ってくれるだけで、神さまは喜んでくれているのだよ」

「ふーん、ありがとう」


 天使さまは、ずっとそこにいてお役目を果たしているのです。

 へびは今までいたその湖をますます好きになり、ずっとそこにいたいと思いました。でも、へびはクルクルと遊ぶうちに天使さまから遠ざかったり近くなったりします。

 それは当然といえば当然ですが、ものはいつでもそこに在って永遠という約束があるわけではなく、時間の経過と共に、また他の要因が介在して自己が変化したり、変質させられたりするのをへびはいつか知るのです。


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