06.『純粋な力』のダンジョンコア
アルメリアと友達になれたことで最初はうざいくらいスーパーるんるん気分なエコーだったが、アルメリアが「まだ毒が抜けたわけじゃないれすし、あんまり興奮すると心臓破裂しちゃうれすよ?」と注意すると、それは即座に収まった。
と言っても、エコーにとってはなんと言っても人生で二人目の友達ができるという記念すべき日なのだ。浮かれた気持ちがすぐに収まり切れるわけではない。
寝ていた方がいいとアルメリアに言われているけれども、どうにも眠気がやってこなかった。
「アルメリアちゃん、なに読んでるの?」
天井を見上げる以外にやることもなかったので、ベッドのそばでロッキングチェアに腰をかけ、ぱらぱらと本のページをめくっているアルメリアに話しかけてみる。
アルメリアは本から視線を外すことなく、エコーの質問に答えた。
「錬金術の学術書れす」
「学術書、というと?」
「錬金術についてのいろんなことが記された本ってことれすよ」
へえ、と呟きつつ、エコーは改めてアルメリアが手に持っている本を見た。
ベッドで横になっているエコーからは、表紙に隠れて本のページになにが書いてあるのかまでは読み取れない。ただ、本の表紙がところどころ色褪せ、そしてくたびれていることから、長期間にわたって何度も読み返したであろうことが窺えた。
あのぶんでは、アルメリアはあの本の中身をほとんど把握し切ってしまっているのではないだろうか。
事実、彼女が本をめくるスピードは均等ではない。読みたい部分だろうところまでページを一気に読み飛ばすこともあれば、必要以上にじっくり時間をかけて読み込んでいる箇所もあった。
「……その本、大切な本なの?」
「うーん、そうれすね……大切、かもしれないれす。実はこの本、昔、わたしの母が書いた本なんれすよ」
「え? アルメリアちゃんにお母さんっていたの?」
「いや、いるれすよ。なに変なこと言ってるんれすか」
「や、だってゴーレムさんたちと家族みたいなものだって言ってたから、てっきり……」
てっきり、この辺りのダンジョンコアが生み出した魔物の一種なのかも? なんて。
ダンジョンコアが人とほぼ同一の魔物を生み出した前例はない。ないけれども、あのゴーレムたちのように人を襲わない魔物の前例だって同じようになかったのだ。
ならば、人と同じ姿かたちを持った魔物がいたっておかしくはない。そんな妄想をしていたのだが、どうやらアルメリアにはきちんと親が存在していたらしい。
(っていうか、そもそもアルメリアちゃんって……)
「てっきり、なんれすか?」
今はアルメリアの視線は本のページに向いている。
彼女の心を読む力は対象を視界に入れることによって初めて適用されるため、思案に耽り始めたエコーの心中は見えていなかった。
「……アルメリアちゃんって、いったい何者なの?」
錬金術師だということは知っている。魔物ではなく、人間だということにも確信は持てた。けれどもまだ根本的なことはまったくわかっていない。
ここがまだ巨岩の隠し通路の先だとして、アルメリアはどうしてこんなところで暮らしている?
アルメリアはエコーが接触したゴーレムたちのことを家族みたいなものだと表現した。それはいったいどういう意味なのだろうか?
まだまだたくさんある。ゴーレムが人を襲わない理由、ここが本当にダンジョンなのかどうか、ダンジョンだとして危険はあるのかどうか。
アルメリアがエコーの方を向く。人の心を読み取る力が、エコーの要領を得ない質問に含まれた意味合いを正確に読み取っていく。
「今更な質問れすね、それ」
「あはは……」
確かに、友達がどうとかそういう以前に、一番初めに問いかけるべきようなことだ。
アルメリアは小さく息をつくと、本をぱたんと閉じて膝の上に置いた。
「お友達に隠すようなことでもないれす。一つずつ説明していきたいと思うれす」
「よ、よろしくお願いします」
エコーがぺこりと頭を下げれば、アルメリアも律儀に礼を返す。
どこから話したものか。アルメリアは数秒ほど考え込んで、とりあえず今いる場所についてから話すことにした。
「まず、ここがどこなのかということれすが、エコーさんの想像通りで間違いないれす。わたしは八年前から外に出てないので大分記憶が曖昧れすが、確かに森の地下だったはずれす」
「やっぱりそうなんだ。でも八年前からって……」
八年前、なにかがあったのだろうか。
エコーが冒険者となり、ファームの街で活動するようになったのがおよそ六年前。八年前はこの辺りにいなかったので、その頃のことはよくわからない。
「別になにがあったってわけでもないんれすけどね。世間的には何事もない普通の年だったはずれすよ」
「そう、なの? じゃあ、アルメリアちゃんはなんでこんなとこに引きこもってるの?」
「……亡くなった母の言いつけなんれす」
「え、亡くなったって……」
「八年前、ちょうど亡くなったんれす。どんなお薬でも治せなかった、不治の病れす」
そう言って、アルメリアは膝の上にある本の表紙をそっとなぞった。
(八年前って、そういう……そっか。その本、亡くなったお母さんの形見だったんだ……それなら大切に決まってるよね)
アルメリアと違って、エコーにはアルメリアの心は見えない。
だけど、ぼろぼろになった本を見つめる寂しそうな表情から少しだけそれが読み取れたような気がして、ほんのちょっとエコーの胸が痛む。
そしてそんなエコーの心も、やはりアルメリアにはお見通しだ。
「……エコーさんが気にすることではないれす。とにかく、母は亡くなる寸前にわたしを森の地下のここまで連れてきて……それから口を酸っぱくして言ったんれす。『これからはここで暮らしなさい。絶対絶対、絶対に外に出ようとしちゃいけないわ。私はもうすぐそばにはいられなくなっちゃうけど……私の代わりに、このゴーレムたちがいつまでも一緒にいてくれるから』って」
「出ちゃいけないって、そんな……どうして? アルメリアちゃんがお母さんのことがすっごく好きで大切に思ってるのは伝わってくるけど、でも……」
まるで監禁じみた言いつけだ。母親としてあまり正しい選択だとは思えない。
それに、アルメリアの母はもう亡くなってしまっている。約束を守る理由なんて義理以外にありはしない。アルメリアが出ようと思えば、ここから抜け出すことはいつでも可能なはずだ。
それでも、アルメリアはふるふると首を左右に振る。
「いいんれす。母がわたしをここに押し込めたのは、わたしを思ってくれたからこそのことだってことはわかってるれすし」
「アルメリアちゃんを思ってのこと?」
「わたしのこの心が見えてしまう力は生まれつきなんれす。ずっとずっと昔から……それこそ物心つく前、母の胎内にいた時から、ずーっと誰かの心を見続けていたれす」
アルメリアは自らの目元に、そっと手を添える。
「そんなわたしを一人残していくことが心配で心配で、だから母はわたしをここに押し込めたんれす。特に、その時のわたしは年端もいかない子どもれしたから」
「それは……」
自分を守る力を持たない、異端な力を宿した身寄りのない子ども。
そんな存在がまともに外で生きていこうとした時、どんな未来をたどるのか……少なくとも、それが決して良い結末を迎えないことだけはわかる。
「……でも……」
「いいんれす。わたしには、母が残してくれた四人の家族がいるれすから。外になんて出られなくても、アルファちゃんたちがいてくれるだけで、わたしはじゅうぶん幸せなんれすよ」
それが強がって口にした言葉ではないことは、アルメリアの穏やかな微笑みから伝わってきた。
日の当たらない地下空間で、母の言いつけ通りに何年も過ごしてきて。
そしてこれから何十年も変わらずそれを繰り返し、ずっと暮らしていく。それをアルメリアは受け入れている。
アルメリアの母の選択。子どもをこんな狭い世界に死ぬまで閉じ込めておくことなんて、正しくないに決まっている。
決まっているけれど……本心から子どもの安全を願って決めただろうそれを、完全にすべて間違っていると否定することは、エコーにはできなかった。
正しくないからと言って間違っているのか。間違っているからと言って正しくないのか。
世界は白と黒で完全に分別できるほど簡単にできてはいない。
それでもエコーは正直、アルメリアと違って彼女がずっとここで暮らし続けていくことに少し納得できていなかったが、
「あ、アルファちゃんたちだけじゃないれすね。なんならこれからはエコーさんも来てくれそうれす。なら、わたしにとってこれ以上に幸せなことなんてないれすよ」
「うぇっ!? そ、そう言ってもらえたらすっごく嬉しいけど……」
「ちょっと図々しかったれすかね……? エコーさんにはエコーさんの事情があるれすもんね……」
「ち、違う違う! ちゃんと来るよ! 何度でも来る! アルメリアちゃんは大切な友達だし!」
「大切、れすか。えへへ、嬉しいれすね」
こんなことを笑顔で言われてしまったら、もうなんにも言えなくなってしまう。
そして心が読めるアルメリアは、それがわかっていてこんなことを言ってきたはずだ。
意外と意地が悪い。照れで顔を赤らめてしまいつつも、若干恨めしげに睨みつけてみる。けれどアルメリアはひょうひょうとした態度で「わたしのことは以上れす」と、抗議の視線をものともせず話を締めた。
「次は、アルファちゃんたちゴーレムについてれすね」
「……お願いします」
「そんな拗ねないでくらさい。飴ちゃん上げますから」
「そ、そんなものでつられないよ! 子どもじゃあるまいし! ……も、もらうけど」
アルメリアが差し出した棒付きキャンディを受け取って、口に含む。
どうやらイチゴ味のようだ。とろけるように口の中に染み渡っていく優しい甘さに、「ほわぁー」とエコーの頬が緩んだ。
「おいしいれすか?」
「うん、すっごくおいしい! これどこで買ったのっ?」
「自作れすよ。錬金術師れすから」
「はぁー。錬金術師ってすごいなぁ……」
つられないとか大声で宣言しておきながら即座に籠絡されているのはいかがしたものだろう。
あまりのちょろさにアルメリアも口元を隠して笑いを堪え切れない様子だ。
「な、なんで笑ってるの?」
「ふっ。いえ……エコーさんは甘いものが好きなんれすね」
「えへへ、わかる? 特にイチゴのケーキなんか大好物でね、この前なんかサリアちゃんと一緒に、あ、サリアちゃんって言うのは――」
「せっかくできた友達のことれすので聞きたい気持ちはあるれすが、今はアルファちゃんたちについて話してもいいれすか?」
「あ、そうだね。ごめんね。話、遮っちゃって」
エコーが改まると、アルメリアはゴーレムについて話し始める。
いわく、盾のゴーレムがアルファ、棍棒のゴーレムがベータ、槍のゴーレムがガンマ、大剣のゴーレムがデルタ。アルファは綺麗好きで、ベータはいろいろと抜けているところがあって、ガンマは――。
一体ずつゴーレムを紹介するアルメリアの声音は興奮したように若干上ずっている。まるで、自慢の弟や妹でも紹介するかのようだ。
いや、きっと彼女は実際にそういう気持ちなんだろう。
「アルファちゃんたちとは母が亡くなった八年前からの付き合いなんれす。その時から、母の代わりに幼かったわたしのそばにずっといてくれたんれす」
「へえー。そういえば、お母さんがこの森の地下にアルメリアちゃんを連れてきたって言ってたけど、それってつまり、アルメリアちゃんのお母さんはそれより前からここのゴーレムさんたちと知り合いだったってこと?」
「知り合いというか……アルファちゃんたちは母が作り出したダンジョンから生まれたゴーレムれすから、わたしとアルファちゃんたちは言ってしまえば腹違いの兄弟姉妹みたいなものれすね」
「へえー…………え? 今なんて?」
「腹違いの兄弟姉妹みたいなものれすね」
「そ、そっちじゃなくて! その前! いやそっちも気になるけど!」
母が作り出したダンジョン。アルメリアは確かにそう言った。
しかしエコーが知る限り、ダンジョンとは個人の意思でどうこうできるような存在ではないはずだった。
ダンジョンは自然的に発生し、人を襲う魔物を無限に生み出し続ける。
ダンジョンが発見されたなら即制圧が基本。ダンジョンコアは粉々になるまでに破壊するべし。それが冒険者、ひいては世界の常識だ。
まさか錬金術師というものはダンジョンコアさえ作ってしまえるほどに強大な力を持つのだろうか? だとしたら、まさかアルメリアも……。
そんなエコーの思考を読んだアルメリアは慌てて首を横に振っていた。
「い、いえ、錬金術はそんな万能なものではないれす! 母だって、自分の病気を治すことだけはどうやってもできませんれしたし……わたしだって同じれす。ダンジョンコアなんていう構成物を欠片も読み取れない物質をどうこうできたりはしないれす」
「じゃあ、ダンジョンを作ったって、いったいどういう……?」
「……実はわたしも詳しくは知らないのれすが……母いわく、ダンジョンを生成する段階に至る前の、まだ『純粋な力』を保っていたダンジョンコアを見つけたとかどうとか……そんなことを言っていたことは覚えているれす」
「『純粋な力』のダンジョンコア……?」
エコーが知っているのは、本や噂話で耳にすることにある、ダンジョンの奥に鎮座するというダンジョンコアだけ。ダンジョンを生成する前の段階のダンジョンコアなんて見たことも聞いたこともない。
だが、仮に本当にそんなものが存在し、見つけることができたというのなら……。
「……アルメリアちゃんのお母さんは、アルメリアちゃんをここでずっと安全に生活させられるよう、自分が望む形でダンジョンが作られるように書き換えたってこと? つまりアルメリアちゃんを……人を襲わず、逆に人を害する他の魔物を狩るような魔物だけを生み出す、そんなダンジョンに」
「おそらくそうだと思うのれすが……ごめんなさいれす。わたしもその辺りのことだけは本当に知らないんれす」
アルメリアは申しわけなさそうに目を伏せる。
アルメリアには人の心を読む力があるはずだ。それでも、母が知っていたはずのことを知らない。
それはアルメリアの力がそこまで万能ではないことの証明でもあるだろうが、それ以上に、もしかしたらアルメリアは母と一緒にいられた時間があまりなかったのかもしれない。
なにせ、アルメリアは母が不治の病にかかっていたと言っていた。アルメリアの母も錬金術師であるようだから、治せる薬の作り方や方法を探し続けていただろう。
そんな状態でこんな森の奥地にあった『純粋な力』のダンジョンコアを探し当てた。さらに同じ錬金術師のアルメリアにも一切が読み取れないというダンジョンコアが、一体全体どういうものなのか、その研究だって行っていたはずだ。
なんにしても、すべてを知っているのは、もうすでに亡くなってしまったアルメリアの母だけ。真実は闇の中ということになる。
「アルメリアちゃんが謝ることじゃないよ」
確信に繋がる事実を知ることはできずとも、想像の余地を作る情報を得ることはできた。ならば今後の調べようにも目星がつくというものだ。
「お気遣いありがとうれす。とにかくそういうわけで、母がなんらかの手段を用いてこの地下空間の奥地にあるダンジョンコアに干渉し、その結果生まれたのがアルファちゃんたち、ということになるれす」
「なるほどねぇ……アルメリアちゃんはそのダンジョンコアを見たことがあるんだよね?」
「れす。ここはエコーさんが倒れた厨房からもう少し奥に行ったところにある部屋なのれすが、ここからさらに奥の奥、最奥の広間にコアはあるれす」
やはりこの辺りがダンジョンの中心部のようだ。わかり切っていたことだが。
「一応言っておくれすけど、壊さないでくらさいね。アルファちゃんたちはあれの魔力供給で生きてるんれすから」
「うん。私も念のために確認しておくけど、そのダンジョンコアに危険はないんだよね?」
「れす。わたしが知る限り、今のところあのダンジョンコアが作ったのはアルファちゃんたち四人だけれす。人を傷つけるような魔物を生み出したことは一度だってないれす」
「なら大丈夫。友達の大切なものを傷つけるわけにはいかないもん」
このぶんでは、森の調査依頼は失敗という形にしておくほかになさそうだ。
ゴーレムがいたとバカ正直に伝えることはアルメリアの家族を危険にさらすことに直結する。加えて森を調べられ、このダンジョンの存在にも感づかれてしまうかもしれない。
もしもそうなったら制圧作戦が実施され、迷路が解明されてしまえば最後、四体のゴーレムと最奥のダンジョンコアは破壊されてしまうだろう。
エコーが危険はないと必死に説得すれば、あるいは破壊をまぬがれるかもしれない。だけどそれでも研究対象にされることは避けられない。そうなればアルメリアの今の生活も脅かされ、彼女がゴーレムたちと過ごす日々は終わりを迎えてしまう。
冒険者ギルドへの義理よりも、目の前の友達の方がエコーにとっては大事だった。
そもそも八年以上も前からダンジョンは存在しているのに何事も起きていないのだから、危険がないことの証明はすでにされている。
「……ありがとうございます、れす」
本来とは違うまったく別の性質を持ったダンジョンコア。
これを調べれば、ダンジョンという存在の謎に迫れるかもしれない。その端役を担ったとなれば、エコーはギルドから相当な評価や報奨金を受け取ることができるだろう。
そういう未来を放棄して、ついさきほどできたばかりの友達を優先した。それも一切迷うことなく。
人の心を読めるアルメリアには、その温かい心がよく見えていた。
ダンジョンコアの研究がもたらすかもしれない恩恵を考えれば、エコーの選択は未来の人類にとって間違ったものだと言える。ダンジョンの研究が進めば、もしかすれば発生場所を割り出せたり、ダンジョンを有効活用できる方法だって見つかるかもしれない。
だけどしょせん、かもしれない、という程度の可能性の話だ。未来のことは誰にもわからない。
「えへへ、そんなに嬉しそうに笑われるとこっちも照れちゃうなぁ……」
「今は、ベータちゃんがエコーさんに毒を盛ってくれて本当によかったと思ってるれす」
「や、それはちょっと……ていうかね? あの木の実を食べなくても、あの流れだったら私、普通にゴーレムさんたちにアルメリアちゃんを紹介されてたと思うんだ」
「や、それだとたぶん泣き出されて謝られて逃げられるれすし」
「いやいやそんなことあるわけ……あるわけ……ある、わけ……」
普通にありえるというか絶対ある。実際エコーは毒で倒れてから目が覚めて、そばに人がいると認識したら即座に逃げ出そうとしていた。体調が万全ではなかったからベッドから転げ落ちるだけだったが、万全だったなら巨岩の広場くらいにまで逃げ帰っていたはずだ。無論、隠し扉は破壊して。
そんな自分の未来がエコー自身にもありありと容易に想像できてしまったがために、どんどん言葉がしぼんでいってしまう。アルメリアはアルメリアであきれた表情をしていた。
「さすがに、八年以上引きこもってるわたしに劣るコミュニケーション能力はどうにかした方がいいと思うんれすけど……」
「返す言葉もありません……」
エコーだって一応努力はしているのだ。一度でも聞いた名前は絶対覚えるようにしたり、サリアと話す時と同じような感覚だと自分に言い聞かせてみたり、夜の寝る前に「明日こそは!」と気合いを入れたり……しまいにはぬいぐるみを相手にシミュレーションとかしてみたり。
だけれど、どうしても結果に結びつかない。暖簾に腕押し糠に釘、骨折り損のくたびれ儲け。
エコーは本当に超筋金入りの人見知りだった。
「ふーむ。なんか、大変なんれすね」
「うぅ、わかってくれる?」
「いえ、わたし確かに心見えますけど、それと共感できるかどうかは話は別れす。わたしは人見知りじゃないのでちょっとよくわかんないれすね」
「ひ、ひどい! 友達だと思ってたのに!」
「友達れすよ。でもれすね、んー……助け合うことも重要れすが、自分の力で乗り越えた方が得るものも大きいじゃないれすか。そういう感じのあれれす」
「な、なるほど。一理あるかも!」
(てきとー言っただけなのに、あいかわらずちょろいれすね……)
なんかいい感じのことをそれっぽく言われるだけで納得してしまう。本人に自覚はないが、もしかしたら煽てられただけで調子に乗るサリアよりちょろい可能性がある。