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オラシオン*フロール  作者: 煮豆シューター
錬金術師の少女
4/23

04.隠し通路の先で

 ゴーレムたちに導かれるがまま森の中を彷徨うこと一時間。

 空はとっくに爽やかな朝から元気いっぱいな昼間へとジョブチェンジを果たしており、爛々と輝く太陽も真上を過ぎて西に傾きかけている。


「ここが目的地?」


 たどりついた場所は、家屋ほどの大きさを誇る巨岩が鎮座する森の空き地だった。

 ここがなんなのかということももちろん気になる。気になるが、ここに来るまでにも実は奇妙な出来事がいくつかあった。

 たとえば、意味もなく右や左にと唐突に行き先を変更したり、ぐるりと一定の範囲を回るようして同じ道を通ったり。明らかに遠回りだというのに。

 一度、棍棒のゴーレムが狭い木々の隙間を通った際に、隣を歩いていたエコーは樹木を回り込むようにして通ろうとしたことがあった。しかしそれは棍棒のゴーレムに、直前で進行方向を腕で塞がれ首を横に振られるという形で静止された。

 その時はなにかいけないことしちゃったんじゃないかと気が気でなく涙目になった人見知りコミュ障ことエコーだったが、ゴーレムが指し示すがまま後ろについて木々の隙間を通っていけば、棍棒のゴーレムは今度はこくこくと首を縦に振ってくれた。

 おそらく、おそらくだけれども、この巨岩の広場にたどりつくためには、森の中の特定のルートを通る必要があるのではないだろうか。

 それはいわば木を一本回り込むような小さな差異でもたどりつけなくなる、針に糸を通すがごとく精密な魔法的迷路。

 そしてエコーはそういう異界や異次元じみた特性を持つ地帯の事例を、呼び方を知っていた。


(……この辺り一帯が、ダンジョンになってる?)


 ダンジョン。それは際限なく魔物が生成され続ける、最重要危険区域のことだ。

 ダンジョンは世界中のあらゆる場所に唐突に出現する可能性を持ち、周辺の物理法則を書き換えて新たな空間を構築する。

 その中心にはダンジョンコアと呼ばれるものが存在し、そのダンジョンコアが無限に魔物を生み出し続け、周辺の法則を改変しているという。

 今回のように特定の箇所を通らなければ元の場所に戻される場合もあれば、横から見たらそんなに大きくないはずなのに、いざ入ってみたら広大な空間が広がっていたり、なんてこともダンジョンではざらにある。

 そういうダンジョンコアの影響が及んでいる土地のことをダンジョンを呼ぶ。


(だとしたらかなり危ないはず、なんだけど……)


 最重要危険区域の呼び名は伊達ではない。ダンジョンは発見次第可能な限り迅速に制圧、及びコアを完全に破壊することが望ましいとされている。

 ダンジョンコアを撤去しなければいつまでも魔物が生成され続け、やがて大量の魔物が人が住む村や街などになだれ込んできてしまうのだから当然の処置だ。

 エコーはダンジョンの攻略に参加したことはないが、もしもダンジョンが発生した場合、近場の冒険者ギルドにダンジョン制圧の緊急依頼が貼り出されるのが通例である。

 加えて、腕がある冒険者には直接声がかかる。さらには街の人々に注意換気がなされるなど、本格的に災害クラスの対応がされる。

 だからもしエコーがいる森の一帯が本当にダンジョンと化しているのであれば、状況は相当深刻である……はずなのだが。


(このゴーレムさんたち、なんだか悪い魔物には見えないんだよねぇ)


 ダンジョンの構造を把握し切っている以上、このゴーレムたちはこの辺りのダンジョンのダンジョンコアによって生成された魔物で間違いない。

 けれど今に至っても彼らがエコーに襲いかかってくる様子も、害意を向けてくる気配もなかった。

 いや、そもそもゴーレムたちは人間ではなく同じ魔物であるはずのゴブリンを積極的に狩っていたではないか。

 魔物だって生物だ。当然、諸々の事情で人以外の生物を襲うことだってある。

 しかしエコーには、このゴーレムたちがわざわざ自分たち以外の魔物を積極的に狩る理由が思いつかなかった。

 仮に魔物同士で縄張り意識が存在し、ゴブリンがそれを荒らしていたにしても、それではゴーレムたちがエコーに襲いかかってこない理由に説明がつかない。

 あるいは……存在するのか? エコーには検討もつかないが……ゴーレムたちが人を傷つけず、他の魔物だけを優先して狩る理由が。

 もしもあるとしたら非常に気になる。ただ、あいにくと情報が不足しすぎている。

 ゴーレムたちがエコーを襲わず、他の魔物を狩る理由。そんなもの、今のエコーがどんなに想像したところで絵に描いた餅にしかならない。


「えっと、どうしたの?」


 広場にやって来てからゴーレムたちは動きを止めてしまっている。

 不思議に思って棍棒のゴーレムに問いかけてみると、ゴーレムは「エコー」と答えた。


「『ちょっと待ってて』って……なにかあるのかなぁ」


 お昼時。ちょうどお腹が空いてくる頃合いだが、残念ながら今回エコーは食糧を持参してきていなかった。

 いつもなら、街を出る前にサリアと一緒に――同じ依頼を一緒に受けるにせよ、そうではないにせよ――昼ご飯を買っていく。

 けれど例によってエコーは魔物退治以上に他人に話しかけることが苦手だ。

 別にお昼ご飯を食べずとも死ぬわけではない。なのでサリアが隣にいない現状で、他人とまともに話せないエコーが「今日はお昼抜きでもいいよね……」なんて思考に至ってしまうのはごくごく自然なことと言えた。

 なんだか手持ち無沙汰になってしまったエコーは、巨岩をぐるりと一周してみることにした。

 歩き出してもゴーレムが止めてくることはなかったので、どうやらこの広場は例の魔法的迷路の法則の範囲外にあるようだ。


「うーん、ただのおっきな岩にしか見えない……」


 もしかしたらこの岩自体が超巨大なゴーレムなのかも? とか軽く妄想していたエコーだったが、そんなことは全然なく、見て回った限り、なんてことない普通の岩塊だ。

 明らかに特別な場所っぽいので破壊してみれば岩の中からなにか出てくるかもしれないけれど、明らかに特別な場所っぽいからこそ、そんなことを容易に実行はできない。それに、そんなことをしたらせっかくできたお友達候補に嫌われてしまう。

 結局これと言ったものも見つからず、エコーは佇んでいる二体のゴーレムの近くに戻ってきてしまった。

 それからは、特にすることもなく二体のゴーレムと揃ってぼーっとしていた。

 転機が訪れたのは、それから数分後のことだ。


(……これは)


 草木をかき分けて、なにかが近づいてくる。

 それも、二足歩行のなにか。しかしただの足音ではない。どこか鈍く、重く、一歩一歩が人と比べて少々遅い。その割に近づいてくる速度はそれなりなので、そもそもとして体が普通の人間よりも大きいのだろうと推測を建てる。

 というか、エコーはこの足音をここ一時間ずーっと聞き続けていた。

 やがて姿を現したのは、エコーが予想していた通り、そばにいる棍棒や大剣を持つ彼らと同じ新たな二体のゴーレムだ。

 その手に握られているのはまたそれぞれ別の武器で、一体が無骨な槍で、もう片方が盾。

 盾を武器として扱っていいのかはわからないが、盾しかその手に持っていないので、やはりあれを武器にしているのだろう。シールドバッシュなどの盾による攻撃の技術があるように盾は一応武器としても機能する。

 彼らのもう片方の腕には棍棒と大剣を武器とする二体のゴーレムと同様に、魔物の死体が担がれている。

 新たなゴーレム二体は棍棒と大剣のゴーレムに近づいてくると、そのそばに立つエコーを見やって、不思議そうに首を傾げた。


「わ、わわ私っ、え、エコーって言いまひゅ! よ、よりょしきゅ、よろしくお願いしましゅ!」


 説明を始めようとしたであろう棍棒のゴーレムよりも先に、エコーはお辞儀をしゅぱーっと決めてみせる。


「……エ、コー?」

「う、うん!」

「エコー」

「エコー」

「エコー」

「エコー」


 槍のゴーレムがエコーの名前を呼ぶと、呼応するように盾のゴーレムも口にする。

 そしてなぜか棍棒もゴーレムも、大剣のゴーレムもそれに続いた。


(わ、私に……人見知りの私に、こんな温かく接してくれるなんて……!)


 ゴーレムたちが口々に言っていたのはエコーへの歓迎の言葉だ。それに、エコーはうるうると感涙していた。

 エコーの歓迎の儀式が収まると、新たに現れた二体のうち一体――盾のゴーレムが、ずんずんと広場の中央にある岩に近づいていった。


(なにする気なんだろ……)


 盾を持っていない方の手を近づけ、岩に触れた。その瞬間。


「わひゃぁっ!?」


 ずぅんっ! 小さな地震でも起きたかのように地面が鳴動する。

 へんてこな悲鳴を上げながらも、無駄に高い反射神経で転ばないようとっさにしゃがむエコー。一方、ゴーレムたちはさも当然のごとく何事もなかったかのように立ち尽くしたままだった。

 いったいなにが起きているのか。振動に耐えるためにしゃがみながら様子を見ていると、ごごご、と巨岩に変化が訪れる。

 盾のゴーレムが触れた部分のすぐ隣に亀裂が生じて、地面から数メートル辺りの一部だけが、どんどん地面に飲み込まれていく。そして、やがてそこにゴーレム一体が軽く通れるほどの穴が露わになる。

 完全に道が開き切った段階で、揺れも収まった。

 そうっと中を覗き込んでみれば、斜め下に向かって通路が続いていた。ご丁寧に定期的に松明が飾られているようで、視界も確保されている。


「隠し通路……」


 特定の道筋を通らねばここまでたどりつけず、特定のゴーレムが持つ鍵がなければ入り口を開けることもできない。あまりにも厳重な隠蔽工作だ。

 それはつまり、この先にそれほどまでに重要ななにかが隠されていることにほかならない。

 そうなると……この先のどこかに、ゴーレムたちを生み出したダンジョンコアが鎮座しているのか。

 今更ながら、エコーは自分がここにいる事実に場違い感を覚えていた。

 エコーはただ、ゴーレムと友達になりたい一心で話しかけてみたに過ぎない。いやそれも割と頭がおかしいのだが、一介の冒険者の一人にしか過ぎない自分がなぜこんなところに案内されているのか、本当に不思議でならなかった。

 エコーが足踏みしている間に、ゴーレムたちはぞろぞろと洞窟の中へ入っていく。

 一向に動かないエコーに、一番最後に続こうとした棍棒のゴーレムが、『来ないの?』とエコーの顔を覗き込んできていた。


「い、行く。行くよっ。ここまで来たら引くわけにはいかないもん」


 エコーは頭をぶんぶんと横に振って迷いを振り払うと、棍棒のゴーレムに並んで一緒に中に入って行った。

 洞窟の通路はゴーレムが通れる大きさなだけあって、人間のエコーにはずいぶんと余裕がある。地下だからか、心地がいい冷たさもあるし、空気だって悪くない。

 ある程度進んだかと思うと、ずずず、と洞窟全体がわずかに振動した。その音は後ろ、エコーたちがやって来た通路の方からだ。入り口が閉じているのだろう。

 閉じ込められた、と取ることもできる。しかしエコーにかかれば多少の岩の壁程度は問題なく破壊が可能だ。そんなことをすればゴーレムたちも怒ると思われるので最終手段ではあるが、この程度では閉じ込められたうちには入らないことは間違いない。

 そもそも、帰りたくなったら素直に出口を開けてくれるように頼めばいいだけの話だ。

 進めば進むほどに、どんどん道の幅や高さが広くなっていく。通路も、でこぼことしたものから加工された石の床や壁に変化する。気づけば辺りはいつの間にか、天然の洞窟から、まるで人工的に作られた遺跡の地下のような様相になっていた。


「うん……? ここ、もしかして厨房……?」


 使い古された雰囲気のある設備や並べられた器具の数々はゴーレム用なのか、エコーの記憶にある通常サイズの倍以上の大きさをしているものの、たどりついたそこはどこからどう見ても調理場だ。

 その一角に、ゴーレムたちがそれぞれ担いでいた魔物をどさどさと下ろしていく。


「……え? ま、まさか料理するの? できるの? っていうかそれ食べれるの……?」


 戦々恐々とした気持ちで棍棒のゴーレムに問いかけると、「エコー」と自信満々に胸を張られる。どうやら料理には自信があるらしい。

 ゴーレムたちがそれぞれ武器を壁に立てかける。そして一体のゴーレムがどこかへ行ったかと思えば、その手にゴーレムサイズのエプロンを四つ持って帰ってきた。


(ど、どういうこと? ほんとに料理するの? えぇ……? どういう……どういうことなの?)


 頭の中をおたまでかき混ぜられているような心境で、四体のゴーレムの妙に手慣れた作業を呆然と見守る。

 エプロンを身につけ、一体が魔物たちを作業台のまな板の上に置くと、もう一体がこれまたゴーレムサイズの包丁を振りかざし、振り下ろす。

 ぽーんっ! と勢いよく飛んだゴブリンの頭を、別のゴーレムが麻袋の中に入れていた。

 混乱するエコーをよそに、調理らしき奇行か、はたまた奇行のごとき調理が続く。魔物を捌き、血抜きをし、おおよそ食べられそうな部位を厳選して。

 少し経ってようやく若干正気が戻ってきたエコーだったが、状況についていくのはまだ難しかった。


「あの……私は……どうすれば……」


 おずおずと、一番多くコミュニケーションを交わした棍棒を武器とするゴーレムに近寄って声をかける。

 エコーが困っていることを理解したらしい棍棒のゴーレムは、他の仲間と顔を見合わせた。そして次の瞬間、棍棒のゴーレムの体を巡る翆色の光の線が不定期に明滅し始める。それを見た他のゴーレムもまた、同じようにちかちかと光を放つ。

 それはゴーレムたちにおける会話のようなものなのだろう。光の信号によってお互いの意思を伝える、そういう意思の伝達方法。

 こればかりはエコーでもその内容を読み取ることはできない。


「ひゃっ!?」


 仲間内で話し合って、なにやら結論が出たらしい。棍棒のゴーレムはエコーの両側に腕を伸ばすと、ひょいっ、と彼女を軽く持ち上げた。

 そのまま少し離れたところに移動して、石造のイスにエコーを下ろす。


「エコー」

「『ここで休憩してて』って……で、でも」


 エコーがなにか言うよりも先に、棍棒のゴーレムは調理へと戻っていってしまった。


「あぅ……」


 残されたエコーはいたたまれなさで縮こまりつつ、結局は魔物の調理をおとなしく見物することにした。


(うぅーん……ゴブリンの料理って、おいしいのかな……)


 一言で魔物と言っても、一般的に食材として流通している魔物とそうでない魔物が存在する。ゴブリンは後者だ。

 一応食べられるということは知っているが、たとえるならそれはその辺の芋虫をどうにかこうにか食べようとするかのようなものだ。

 要はゲテモノである。


(っていうか、もしかしてだけど……)


 ぶるり、とエコーは体を震わせる。


(この調子だと、完成した料理、食べさせられるのでは……)


 エコーがゴーレムに友好的なように、ゴーレムたちもどういうわけか割りかしエコーに友好的だ。そうなる確率は残念ながら高いように思える。


(で、でも、ナマじゃ無理だったけど調理済みなら! 焼いたりした後なら! ゴーレムさんたちと一緒にお食事して絆を築いて、お友達になるためなら……ゴブリンだっていけるっ! いける、いけるって! きっと食べられるって!)


 涙ぐましい決意がそこにはあった。


(頑張れ、頑張れ私! ファイト私ー!)


 エコーが一人気合いを入れていると、いつの間にかゴーレムの調理が止まっていた。

 見たところ、どうやら水が必要になったらしい。ここは厨房ではあるが水道はなかった。

 水を汲みに行くためか、一体のゴーレムが厨房を出ようとする。それを見たエコーは、ふとゴーレムたちの役に立てることを思いつき、出ていこうとしたゴーレムに駆け寄って引き止めた。

 ゴーレムは首を傾げていたが、このままずっと見ているというだけなのも忍びない。


「ふっふっふ……サリアちゃんに教わった四元素のうちの一つ、水の魔法……今こそ使う時!」


 エコーが意気揚々と指先に水の塊を生み出してみせると、ゴーレムの体を巡る光の線が驚いたようにちかちかと点滅した。


「水とか火なら私に任せて! 必要なら風の刃を包丁代わりにしたりとか、土の魔法で細かい汚れを取り除いたりとかもできるよ!」


 得意げにゴーレムの手を引いて、厨房に戻る。岩石の塊だけあってそれなりに重かったが、体内での魔力の循環によって身体能力を引き上げれば、ずるずると引きずるくらい余裕だ。

 必要な場面で水を出したり、時には火をつけたり、風の刃で細かく切ったり。その後はエコーもたびたび調理に加わった。

 と言っても厨房はゴーレムサイズなので、ぶっちゃけエコーの手は作業台の上に届かない。なのでエコーが手を出す時はゴーレムに抱えてもらいながら作業を行った。

 調査依頼を受けた時には、まさかこうしてゴーレムと仲良く魔物の調理に勤しむだなんて思いもしなかった。まったく奇妙なこともあるものである。


「あとはもう焼くだけだねー」


 最後に火を提供すると、もうやることがなくなってしまった。あとは出来上がるのを素直に待っていればいい。

 エコーは石のイスに戻って腰を下ろすと、上機嫌に体を揺らし始める。共同作業を行ったこともあってか、この異常な状況にも少しずつ順応できてきていた。

 と、そんなエコーの視界に影が差す。


「棍棒さん? どうかしたの?」


 影の正体は近寄ってきた、棍棒を武器としていたゴーレムだ。

 いつの間にやら、気がついた時にはエコーはゴーレムの前でもサリアに普段接しているように素面でいられるようになっていた。それはゴーレムたちが人とは程遠い見た目をしていることもあるが、一緒に調理に勤しんだ賜物でもある。

 ついでにゴーレムたちのことも使っている武器にちなんだあだ名で呼ぶようになってもいた。


「エコー」


 棍棒のゴーレムが小さなお皿を差し出してくる。

 お皿には、小ぶりでおいしそうな赤色の木の実が乗っていた。たまに採取の依頼を行うこともあるエコーが見たこともない品種だ。


「もしかして、くれるの?」

「エコー」

「わっ、ありがとう! お昼ご飯食べてないからお腹空いてたんだよね。このまま食べちゃっていいっ?」

「エコー」

「わーいっ!」


 ゴブリンの死体を差し出された時と違って、今回は普通に食べられそうなものだったので安心だ。

 エコーは早速木の実を摘んで口の中に放り込む。


「んー! 意外と甘いっ! でも、しつこいって感じじゃないね。料理の材料とかにちょうどよさそうかも」

「エコー」

「うん、おいしい! とってもおいしいよ! えへへ、これで私たちも友達になれ、たか……な……?」


 ぐらり、と。視界が揺れる。


(これ、って)


 自分が倒れたことに気がついたのは、見えている景色が横になっていることを、数秒遅れで認識してからだった。

 体の内が熱い。そのくせして、血の巡りが急激に失われていく。震える手を目の前まで持ってくれば、肌が青白く変質しているのが見て取れた。


「こ、これ……毒……?」


 得体も知れない木の実。普段のエコーなら、口にすることはなかったはずだ。

 ただ、仲良くなり始めたゴーレムがくれたものだったから。それだけで、警戒する気持ちをなくしてしまった。

 朧気になっていく視覚の中で、最後の力を振り絞って、エコーは木の実をくれたゴーレムの方を見た。

 ゴーレムはこれまでで初めて見るくらい激しいペースで翆色の光の線を明滅させ、エコーの近くでおろおろとしている。その慌てようを見る限りでは、どうやら毒だとは知らなかったか、エコーが倒れるとは思わなかったらしい。

 それがなんとなく、よかった、なんて。

 そんな風に感じてすぐに、エコーの意識は闇に飲まれた。

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