03.不可思議なゴーレム
樹木から伸びる枝がところどころの日差しを覆い隠し、森の中を光と影の色彩で彩っている。たまに風が吹き抜けた際に鼻をくすぐる緑の匂いは決して不快なものではなく、もしこの森に魔物が徘徊でもしていないのであれば、のんびり散歩でもしたいような気分にさせてくれる。
エコーが現在散策をしているのは、彼女が拠点としている街であるファームの近くにある森林だ。特にこれと言った名称はなく、ファームの住民には街からの方角の関係から南東の森と呼ばれている。
「ここ、久しぶりに来たなぁ」
この森はそう強い魔物が存在せず、かつ容易に日帰りが可能なほど街との距離が近いことから、低ランク冒険者ご用達の稼ぎどころとされている。かく言うエコーもランクが低かった昔はサリアとともに毎日のように訪れたものだ。
冒険者ギルドにおいては、安全性や信頼性などの問題から低ランクの冒険者が高ランク指定の依頼を受けることができない。だからあの頃のサリアは「なぜ神である私がこのような低級を……」といつもぶつくさと口にしていたものである。
逆に、低ランクの冒険者の仕事を高ランク冒険者が受けることもあまり推奨されない。こちらは受けることができないわけではないのだが、新人教育などの正当な理由なしにやりすぎるとギルドから忠告を受けることもある。
高ランク冒険者がこぞって低ランクの依頼をやってしまえば低ランク冒険者は仕事がなくなってしまう。加えて、受けられる者が限られる難しい高ランクの依頼は達成されないものが溜まっていくばかりなので、当然と言えば当然の処置だ。
そのぶん、ランクが上がれば上がるほど依頼の報酬も目に見えて上昇する。エコーやサリアのような、なんだかんだギルドにも頼られるほどの高ランク冒険者ともなれば、ちょっとした小金持ちだ。
「んー、空気が気持ちいいー……今度サリアちゃんと一緒に森で散歩したり、日向ぼっことかしてみてもいいかも」
心地のいい自然に包まれて、頬が緩む。
低ランクの冒険者にとっては少なからず命がけの仕事場となる南東の森も、エコーにとっては気軽に出歩ける近所の林のようなものだ。
調査依頼の件もあって、異変はないかとそれとなくあちこちに目を配りつつ、どんどん森の奥へ足を進めていく。
(ゴーレムみたいにそこそこ強い魔物の痕跡なら、森の奥の方にあると思うんだよね)
冒険者とは常に危険と隣り合わせである以上、生き残るために慎重を期す必要がある。
この森に訪れるような低ランクの冒険者は、基本的に森の手前側でしか活動を行わない。あまり奥に行きすぎると魔物との戦闘で怪我を負った際などに危険度が格段に増すからだ。さらに言えば行方不明になった際の捜索だって難航するだろう。
低ランク冒険者はよく無謀なことに挑みやすいが、その辺りは先輩冒険者がいつだって口を酸っぱくして注意している部分だ。
低ランク冒険者は奥へは足を踏み入れず、異常事態が発生しない限りは弱い魔物しか出現しないこの森に、高ランク冒険者はそもそも訪れない。そして調査依頼は未だに解決されず貼り出され続けている。
だとすれば誰も行こうとはしない森の奥地に手がかりがある可能性が高い。そうエコーは考えていた。
(私なら、いざという事態も対処できるし)
今回の調査対象はゴーレムと思しき痕跡であり、ゴーレムは討伐依頼として貼り出される際、討伐Cランク以上の冒険者を推奨指定して貼り出される。
このCランクと言うのは、あくまで「一対一において高確率で勝利できる目安」だ。なので実際にはDランクでも、あわよくばEランク冒険者でも倒せる可能性はある。
だが、冒険者の鉄則の一つにこんな言葉がある。魔物は一体いたら同じ魔物が一〇体はいると思え。
討伐Dランクの冒険者でもどうにか勝利できる可能性があるとしても、二体いるのなら? 一〇体いるのなら?
それらの危険を事前に察知し、手を打つなり脱するなりするためには、最低限一対一の勝負で安定して勝利できる実力が必要になる。そういうことも考慮した上での討伐Cランク以上推奨依頼だ。
本来ならば討伐Aランクのエコーが討伐Cランク相当の魔物であるゴーレム関連の依頼を受けることはあまりいい顔をされない。しかしそれはあくまで討伐依頼の話であり、まだ存在が確定していない調査依頼の場合は話が別である。
(ゴーレムは低ランクの冒険者には荷が重すぎるし……かと言って調査の段階じゃ全然報酬に旨味がないから、高ランクの人たちはよほどのことがないと森には行かない。被害が出る前に本当にゴーレムがいるかどうか、ちゃんと確かめておかないと危ないもんね)
ゴーレムと友達になれるかも! とかアホみたいなことを言っていたエコーも、その辺はきっちり考えていた。
だてに何年も冒険者をやってはいないのだ。
「……それにしても」
木々の間を吹き抜ける風が髪を揺らし、枝を揺らし、濃淡を演出する木漏れ日のコントラストがまるで水面のように揺らぐ。美しい森の一面であろう。
この森に入ってからからそろそろニ時間以上は経つのだが、そんな綺麗な森の景色だけがずっと続いている。
「ちょっと変かも……? まだ一回も魔物と会ってない。いつも他の冒険者の人たちが魔物を狩ってる手前側ならともかく、こんな奥まで来て一体とも出会わないのは、正直……」
異常だ。
その一言は口には出さなかったが、エコーの意識を確かに切り替えた。
気軽に森を探索していた心持ちを、わずかな違和感さえ察知する鋭敏な認識へ。腰に佩いた剣の柄にそっと手を添えて、いつどんな危険が襲いかかってきても対応できるように。
「……むむむ」
警戒心を引き上げたエコーだったが、やはり今までと同様に魔物と遭遇することはなかった。
緊張感を保ったまま歩き続けること、さらに数十分が経過した頃。
森が深くなるばかりでずっと変わらなかった状況に、ようやく終止符を打たれる出来事が起こる。
「これは……悲鳴?」
けれど人間のものではない。
耳に届いたそれは、魔物の絶叫。断末魔だ。
(この先に私とおんなじ冒険者の人がいて、魔物を狩ってる……?)
そう予測を立てたエコーだったけれども、それもかなり疑わしい。
例によって低ランク冒険者はこんな奥地にはやってこないし、かと言って高ランク冒険者がこの森に来ている可能性もかなり低い。
というか、もしもいるのならギルド職員のランが教えてくれていたはずだ。彼女はベテランなのでそれくらいの気遣いは当たり前のようにしてくれる。
それがなかったということは、つまり冒険者以外の何者かが魔物を狩っているか、あるいはエコーの想像の埒外にある別のなにかが起きているか。
「……なんにしても、行ってみないとね」
一旦立ち止まり、胸の前に手を置いて、少し深呼吸。
人見知りと言えど、仕事は仕事。もし誰か他の人間と鉢合わせするようなことになっても、どうにか冷静に会話を……。
(でき、できるかなぁ……)
魔物などよりもそちらの心の準備を真っ先にする辺り、エコーは筋金入りのコミュ障だった。
「よ、よーし……!」
意を決し、魔物の悲鳴がした方角へ向かう。どきどきと心臓が高鳴っているのは、危険があるかもしれないとか謎を解き明かす好奇心とかそういうこともあるが、一番大きいのはやはり人と会うかもしれない可能性への緊張だ。
歩を進める最中、魔物の悲鳴が再び聞こえた。その距離は決して遠くはない。
警戒しながら進み続けていると、少し開けた場所に出る。
「……魔物の死体……」
そこにあったのは倒れ伏すゴブリンの群れだった。共通していることは、ほとんどの死体の肉体の大部分がぐちゃりと凹んで、ほとんど原型が残っていないことだ。
そしてそれらの死体のそばに、この惨状を生み出した原因だろうそれは立っていた。
全長はおよそ二メートル半。人型でありながらも人ではない。丸みを帯びたフォルムと、岩石で作られた肉体。体の表面には彫刻によって幾何学的な模様が描かれており、その模様の線に沿って翆色の光が走っている。
「ゴーレム……本当にいた……」
人間のように分かれた五指を備えた手には無骨な岩石の棍棒が握られている。ゴブリンの緑色の血で滴っていることから、それによってゴブリンを倒したのは明白だ。
エコーもゴーレムとは何度か交戦したことがあるが、今目の前にいるこのゴーレムは初めて見るタイプのゴーレムだった。
エコーがあちらを視認したように、ゴーレムもエコーを見つけたらしい。その巨躯の正面が、ふとエコーの方へ向く。
(来る……!)
即座に腰のブロードソードを抜き放ち、最大限の警戒をもって相対した。
エコーとゴーレム。二人の視線が宙空で混じり合う。
ゴーレムに目玉があるわけではないが、目に当たるだろう部分が存在することは見て取れた。その緑色の光を発する機械的な眼と、エコーの空色の瞳。その二つが交錯している。
そうしてしばらくなにをするでもなく見据えあっていたが、ふいにゴーレムがエコーから視線を外した。
まるで、途端にエコーから興味をなくしたかのように。
「……あ、あれ?」
なにかの作戦か? と、しばらく様子を見てみたが、襲いかかってくる気配はまったくない。
いや、それどころかそもそもこのゴーレムは最初から、手に持っている武器を構えてすらいなかった。
肩透かしを食らった気分だったが、その下がりかけた警戒心は、ゴーレムの視線が向いた先を追ったことで引き戻される。
ゴーレムがエコーから目線をそらした先にいたのは、もう一体のゴーレム。新たに現れたそのゴーレムの手には一体目のような棍棒ではなく、無骨な岩の大剣が握られている。
(増援……なら、今度こそ来るはず)
身構えるエコー。しかし、これもまた肩をすかされる結果となる。
「へ?」
新たに現れた大剣のゴーレムも、最初の棍棒のゴーレムと同じようにエコーを一瞥しただけで、攻撃をしかけてくる様子がなかった。
それどころか二体のゴーレムはエコーを無視してゴブリンの死体を整理し始める。
原型をとどめていない死体には手を付けず、できるだけ傷がない、新鮮な死体を一箇所にまとめていく。ほとんどの死体は体の大部分が潰れているが、運良く外傷が最小限に済んでいる個体も一応存在していた。
どうやら魔物の死体を運ぼうとしているようだが……。
(……え? 私、これどうすればいいの……?)
基本的に魔物は人間を見つけると、ぴりぴりと肌がひりつくような害意を向けてくる。
頭がいい魔物はこちらを誘い込むためにすぐには襲いかかってこないこともあったりするが、人間を殺そうとする意思に関しての例外はなく、事実エコーが冒険者として活動してきた六年以上の期間、それが覆ったことはない。
しかしこれはどうだろう。感じるはずの敵意を感じず、ゴーレムたちがエコーに襲いかかってくることはないどころか、まるで興味がないかのように振る舞っている。
(このゴーレムたちってまさか動物……や、そんなはずは……)
動物とは、魔法的要素が存在しない通常の生物のこと。そして魔物とは、人という種に絶対的な敵意を抱き、魔法的要素を内包する生き物のこと。
しかし、このゴーレムが魔法的要素のないただの動物などという戯言を信じられるものか。
だけれど事実として、敵意を感じさせないゴーレムは確かにここに存在している。
魔法的要素を内包していながら人への敵意を持たない生き物。
この明らかな異常事態に直面したエコーが悩みに悩み、最終的に導き出した結論は――。
(――はっ!? こ、ここ、これはまさか、朝の私の願望を汲み取ってくれた神さまが、このゴーレムたちと友達になれる機会を与えてくださってるのではっ!?)
我、天啓を得たり。とどのつまりアホであった。
無論、神さまがどうだとか、そんなわけがないとはわかってはいる。
しかし、どんなに真面目に考えたところで正しい答えなんて見つからないのだ。なにせ情報が少なすぎる。
(友達になれるかもって、あれ、半分冗談のつもりだったんだけど……)
魔物は人への敵意を持つ。本来、それに例外はない。
友達になんてなれるはずはない。そんなこと、あの時のエコーだって本当はわかっていた。
(でも……もし叶うのなら)
半分は冗談だった。だが、残りの半分は?
これまで冒険者として生活してきた六年の中で、エコーがまともに話せた相手はサリア一人しかいなかった。
六年ともなれば、エコーが一〇歳の頃からの話である。そんな子どもの頃から、サリア以外の誰ともまともに付き合えないできた。
本当はずっと、誰かともっと楽しく話したかった。たとえその相手が人間でなかったとしても、意思さえ通じるのなら……。
そんな自分の思いを再確認したエコーは、二体のゴーレムのうちの片方、棍棒のゴーレムに歩み寄った。
「あ……あのっ!」
見たところ、ゴーレムに聴覚器官と思しきものは見当たらない。だからもしかしたら無反応で終わる危惧があったが、幸いなことに、ゴーレムはエコーの声に反応を示してくれた。
魔物の死体を回収する手を止めて、ぐぐぐ、と。
腕でもなく、足でもなく、『なにか用?』と疑問を訴えるかのように、首を傾ける仕草をする。
ちなみにどうでもいい話だが、ゴーレムがもし無視を決め込んでいたら、エコーは「え、あ、その……えっと……ぅ、うぅ……ごめ、ごめんなさい……なんでも、ないです……ひっく」と涙目になって立ち尽くしていたことだろう。反応してくれて本当によかった。
「わ、私っ、エコー! エコー・ランカルって言います! あ、あなたおにゃま、おに、お名前、教えてくりゃさい!」
そんな噛みまくりなエコーの言葉を受けたゴーレムは、初めは首を傾げたまま動かなかった。
噛みすぎて意味が伝わってない、というわけでもないだろう。
なら、もしかして言葉が通じないのか?
そう思い、エコーが涙目になりかけたところでゴーレムはようやく動き出した。
傾けていた首の位置を元に戻し、
「エ、コー」
そう、ぽつりと答える。
低く、ひどくくぐもって、聞き取りづらい。
それでも確かに、口もないはずなのにエコーの名前を復唱した。
(お、おぉ……!)
その返事はエコーが問いかけたゴーレムの名前ではなかったが、言葉が返ってきた事実そのものに、エコーは深い感動を覚えた。
友達は一人、知り合いは指で数えられる程度、しかしていざ友達になれた時のために覚えた名前は数知れず。
そんな中、ようやく見えた一筋の希望の光。種族を超えた友情の芽生えの兆し。
エコーは今、無邪気な子どものように心の底からはしゃいでいた。
……もっとも、名前を呼び返してくれたくらいでこれとか、ちょっとコミュ障こじらせすぎな気がしなくもない。
「エコー」
再度エコーの名前を呟いたゴーレムが、その当人であるエコーに歩み寄ってくる。
反射的に武器を構えようとしてしまったエコーだったが、すぐにそれはやめた。ゴーレムから敵意を感じなかったからだ。
エコーに近づいてきたゴーレムは持っていた棍棒をゆっくりと地面に置くと、担いでいたゴブリンのうちの一体を両手に抱えるようにして、エコーの方へ差し出してくる。
エコーはアホではあっても察しが悪いわけではないで、ゴーレムの行動の意図にもすぐに気がついた。
「えっと……くれるの?」
「エコー」
友好の証、とでも言おうか。そのゴーレムの行動からは、善意のようななにかをエコーは感じていた。
ただ……。
「そ、その……ぷ、プレゼントしてくれるのは、嬉しいん、だけど……し、死体はちょっと……あはは……」
まあ、よほど倒錯的な趣味趣向でも持っていなければ、誰だって死体なんていらない。
断られたせいか、ゴーレムが心なしかしょぼんと肩を落としているように見える。
発する声も「エコー……」となんだかちょっと覇気がなくなっていた。
……それにしても、エコーの名前を鳴き声みたいに使っているのも、友好の証かなにかなのだろうか……?
「だ、大丈夫っ! 死体は受け取れないけど、その、えっと、き、気持ち? うん、気持ちだけは受け取ったから! うん!」
エコーもゴーレムが落ち込んでしまったことに気がつき、慌ててフォローを入れる。
そんなエコーの発言に、ゴーレムは再び首を傾げた。
「エコー?」
「き、気持ちって具体的にどういうものなのかって? そ、そんなこと聞かれても……うぅ、ゴーレムさんは体が有機物じゃなくて無機物だから、そういうのよくわかんないのかな……」
どういう理由からかはわからないが、エコーには、ゴーレムがなにを伝えたいのかが感覚的に理解できていた。
このゴーレムに意思を伝達する能力があるわけではない。本当に、ただの勘のようなものだ。
見た限り、このゴーレムもエコーの名前を復唱するだけで他者とのコミュニケーション能力が不足している。
あるいは、コミュ障同士なにか通じ合うものでもあったのかもしれない。
なんにせよ重要なのは、意思を通じ合わせることができるという一点である。
「えぇと、気持ち、気持ち……気持ちっていうと心のことだから、心は魂……? あ、そうだ! この魔物さんの心だけは、魂だけはちゃんと受け取ったから! うんっ!」
まるで悪魔である。
そもそも受け取るべきなのはそっちじゃなくてゴーレムの心遣いのはずなのだが……エコーは他にうまいいいわけを思いつかなかった。
「エコー」
それでも、どういうわけか棍棒のゴーレムはエコーの言いぶんで納得できたようだ。
『なるほど、それならよかった』なんて言いたげに、元気を取り戻して満足そうにこくこくと頭を縦に振った。
こんないいわけで納得してしまう辺り、案外ポンコツなのかもしれない……。
エコーが棍棒のゴーレムと話している間も、もう一体の大剣のゴーレムは死体処理の作業を進めていた。
そして今ちょうどその作業が終わったようで、大剣のゴーレムが棍棒のゴーレムの肩をこつこつとつつき、その事実を伝達する。
棍棒のゴーレムも振り返ってそれを確認すると、大剣のゴーレムによって厳選された傷が少なめのゴブリンの死体をさらに肩に担ぐ。そしてエコーの方を向き、
「エコー」
「え……?」
ついてきて。
エコーが聞き取ったのは、棍棒のゴーレムのそんな意思だった。
どうするべきか悩む時間もなく、エコーが困惑している間に、二体のゴーレムはこの場を後にし始める。エコーが来た方向とは反対側、森のさらに奥地へと足を進め始めていて。
ついてこないならそれでもいい。そう告げているかのようだ。
(……行くしかない、よね)
あいかわらず敵意は感じない。
彼らの謎を暴くためにも、そしてその心を知るためにも、ついていくしかない。
ずっと抜いたままだった剣を鞘に収め、エコーは小走りで走り寄り、棍棒のゴーレムの隣に並んだ。棍棒のゴーレムはそんなエコーを一瞥し、小さく頷いた。
道中、辺りの草木に魔物の血と思しき液体が飛び散っている場所を何度か通りかかる。十中八九、ゴーレムたちが魔物と交戦した跡地だ。
エコーがここまで一切魔物と出会わなかったのは、このゴーレムたちがこうして魔物を駆逐していたからなのだろう。
(このゴーレムさんたちって、いったいどういう存在なんだろ……)
魔物は例外なく人への敵意を有する。魔法的要素を内包しながら人への敵意を持たない生物は人を除いて存在しない。少なくともエコーが知る常識ではそうだ。
いや、もしかすればエコーが知らないだけで、魔物の中にも人への敵意を持たない、いわば魔族とでも呼ぶべきような生物も、この世には存在するのかもしれない。
そんなものエコーはこれまで見たことも聞いたこともないが、事実そうとしか思えない存在がすぐそばにいるのだから。
歩きながら、エコーはちらりとゴーレムの顔を覗き込んでみた。もちろん、そんなことをしても体が岩なので顔色なんてわかるはずもないけれど。
エコーの視線に気づいたゴーレムが、『どうかした?』と首を傾げる。
「ううん、なんでもない」
エコーはそう首を横に振って、妙なことになったなぁ、と。
枝が覆い被さる草木の天井を見上げ、まったく予測がつかない未来に思いを馳せた。