16蹴 夜明け
友達は、俺を外に連れ出そうとしてくれた。教師達は、俺を慰めてくれた。記者たちは、俺を記事にして、ファンたちは募金活動までしだした(これは後で知った)。
俺は引きこもっている。アーデルハイトの死から、いまだに立ち直れていない。こんなことをしていたら、彼女に
「タケル!なにやってんのよ!学校に来なさいよ!」
と怒られそうだ。だが、彼女はもういない…なにかして、彼女のことを忘れられたら、気は楽なのだろうが、彼女のことを忘れることはできない。忘れたくない。
「タケル、入るぞ」
父が部屋に入ってきた。
「…」
俯く俺。
「いつまで甘えているんだ?お前はプロになりたいんだろ!」
意外な叱責に、目を見開く。
「ガールフレンドが死んだ?確かに忘れられない最悪の記憶かもしれない。だが、お前の中の彼女は言っているだろ!タケルらしくない!めげるな!立ち上がれ!と」
「お前のことだ、夢中になったら一直線だ。どうせ、パソコンも開いていないのだろう。ほら、見てみろ」
顔を上げると、父が持つポータブルデバイスの画面があった。そこには…
「尊くん、頑張れ!」
「未来の日本代表として、ドイツに名を残しますように」
「君の恋人は誰も忘れない。君の心にもいるだろう。彼女は君の活躍を待っている」
多くの励ましの言葉が書かれていた。先生方も、校長も、クラスメイトも、それだけではない。ドイツ中、日本中の人から、応援メッセージが届いていたのだ。
日本では、内田選手と安達選手が俺を励ますメッセージ募集を提案したそうだ。
ドイツでは、新聞社が発起人となって、メールが送られていた。
一つ一つに目を通す。
「俺は…こんなにたくさんの人に支えられているのか…」
最後に目についたのが、谷口選手のメッセージ。
「君のガールフレンドのことは、お父さんから聞いたよ。君は将来、世界サッカー界をリードする大選手になるだろう。いや、そうなることが、そのガールフレンドへの、手向けになると思う。だから、これからも努力家な君の姿を、君の1ファンとして観察させてほしい。復帰、待ってるよ」
と書かれていた。気持ちがあふれ出した。
齢6歳なのに、俺のサッカー選手としての大成を疑わない人がいる。俺の技術を信じている人がいる。まだプロでもないのに、支えてくれるサポーターがいる。彼らのために、俺はプロにならなければならない。
決意した。もう、二度と泣かない。サッカー選手として成功するまで。もう、二度とファンを悲しませない。もう、二度と練習をサボらない。俺は固く決意した。
彼女の微笑んだ顔が、空のかなたに見えた気がした。
今回は短いよ!
エピローグじゃないけど、章末だからね!