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An Endowment  作者: アタマオカシイ
第2章 発芽
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15蹴 速すぎる…別れ

それは、いつも通りの日常に紛れ込んできた、いわば異物であった。

まさか、そんなことになるとは、思ってもいなかった。

彼女の腹から、血がしたたり落ちる。

遡ること数時間…


出待ちはいなくなった。安心して通学できるな。まあ、日本ほど安全じゃないから、いつも父に連れられて学校に行っている。

「おはよう」

声をかけて、自分の席に座る。教室でも人気者になれたようで、

「タケル、おはよう」

「今日はクラブサボって、ゲーセンでも行こうぜ」

などと声をかけてきてくれる。嬉しいものだ。

「ファァー、あ、タケル、おはよ」

と言って俺の後に教室に入って来たのは、アーデルハイトだった。

「おい、愛しのガールフレンドが来たぞ!!」

「俺たちゃ退散するかね」

うーん、冷やかしは勘弁である。

「あんたのアイドルが来たわよ」

「冗談じゃない頼んでない」

「そうつれないこと言わないでよー。あたしはあんたにぞっこんなんだからさ」

ホントにそうだといいのだが…前世の影響で、女子は未だに怖い、そう思っている部分がある。

あれは、中学に上がったばかりの頃…どんくさかった俺は、廊下でこけた。そして立ち上がろうとしたときに、見えてしまったのだ。いや、どちらかと言うと、見せられたのだ。

「こいつ、パンツジロジロ見てるよー。キモーイ」

「もしかして、パンツ見たかったからこけたんじゃね?」

などと言われた。その後は悪口雑言の数々である。そのうえ、教師にも呼び出しを喰らった。

「あなた、パンツを覗いたんでしょ」

それ以来、女子という存在がトラウマになっているのである。


アーデルハイトのおかげで、その精神的なダメージは癒えてきたのだが、やはりまだ怖いと思ってしまうところがある。

うん、本音を見れたらいいんだけどな、尊はそう思った。



授業も終わり、いつも通りアーデルハイトとクラブに向かう、その時だった。

「タケル、お前はもう終わりだ…」

血走った目で俺を見るのは、ヨナタンである。その手に握りしめるは、サバイバルナイフだった。

刹那。ヨナタンは俺に突撃してきた。回避行動をとろうとした、その時。いや、回避行動はすでにとっていた。しかし…


「ウッ…ゴホッ」

「「アーデルハイト!!!」」

「そんな、嘘だ、俺はそんなつもりじゃ…」

狼狽えるヨナタン。

「アーデルハイト!しっかりしろ!いま救急車を呼ぶからな!」

そういった俺の手を、アーデルハイトは掴み、

「ヨナタン、タケル、よく聞いて。ゴホッ…」

と言った。

「アーデルハイト、無理するな、いま救急車が来るからな!」

「いや、もうだめ、アタシは助からない…ゲホッゴホッ…だから…ヒュー…あんたたちに誤っておかなきゃ…」

アーデルハイトは言った。

「ヨナタン、ごめんね…ゴホッ…あんたには大きな恩があるのに…ゲホッ…あんな形で…フっちゃって…だから、あんたが刺したのは…ゴホッゴホッ…あたしのせいだ…」

「そんなことない!俺が悪かった!頼むから、逝かないでくれ!」

急いで救急に電話し、場所を伝える。

「だから、ヨナタン…ゴホッ…自分を責めないでくれ…ヒュー…本当に、悪かったよ…」

アーデルハイトは続ける。

「タケル…あんたとの付き合いは…ゴホッ…短かったけど楽しかったよ…」

「アーデルハイト!そんなこと言うな!まだ助かる!今救急車が来る!」

「ヒュー…無駄だよ…それよりも…あんたに伝えなければならない…ゴホッ…大事なことが…」

アーデルハイトは話すのも辛そうである。

「もういい、話さなくていい!!踏ん張れ!救急車が来るからな!」

「あたしは…初めて会った時から…あんたに惚れた。…一目惚れだったんだ…ケホッ…」

咳も弱弱しくなっている。

「アーデルハイト!もういい!話さなくてもいいんだ!俺はここにいるぞ!」


「サヨナラ…あたしの初恋の人…」

そう言って、彼女は息を引き取った。

「もしもし…警察ですか?僕…今、人を刺してしまいました…はい…はい…」

ヨナタンのその声も、聞こえなかった。

救急車が到着した。アーデルハイトは死んだ。俺は、泣き喚いた。泣いて、泣いて、泣いて、泣いて…泣きとおした。


警察に保護された俺を、父が迎えに来た。アーデルハイトの訃報を知り、ただ俺を抱きしめた。また泣きそうになった。アーデルハイトは、両親が刑務所にいるうちに、死んだ。遺族は、彼女の祖母だけだった。


葬式の日、参列した俺に、彼女の祖母は話しかけてきた。

「貴方が、タケルね。ハイジの言っていた通り、優しそうな人ね」

「どうも…」

「これ、ハイジが生前大事にしていたものなの。あなたなら、大事にしてくれるでしょう?持っていてあげてくれるかしら。」

そう言って手渡されたのは、一つのペンダントだった。高級なものではない。しかし、俺にとっては何にも勝る物だった。


ヨナタンは、殺人罪で裁判を受けることになる。十分反省しているようだったし、仮に復讐でも使用もんなら、アーデルハイトが悲しむ。憎しみの心はわいてきたが、それを抑えつけた。涙に替えた。


俺の彼女が死んだ。大事な人だった。守れなかった。苦しい。

俺は翌日以降、1か月ほど家から出なかった。

もう最終回は決めました!

アーデルハイトとか、ヨナタンとか、そもそもドイツに行くことさえ、今日思いついたことなのですが(汗)

書いてみたら思ったより良く書けてる気がする…アーデルハイトの死は、僕も泣きそうになりながら書いてます

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