14蹴 彼女?冗談だろ
あれから1週間…
毎日特に変わりは無し。成長はしている。サッカーも、上手くなっているのだろう。日本一のプレイヤーに稽古をつけてもらっておいて、上達しないとなるとそれは甘えである。唯一変わったことと言えば…
「ターケルっ♪」
とびかかってくるのをすっと避け、彼女に答えた。
「アーデルハイト、後ろからとびかかってくるのはやめてくれ」
そう、やってきたのはアーデルハイトであった。
「いいじゃんケチー。あんなことした責任、取ってよ!」
「誤解を招く発言はやめてくれ。むしろ君を助けたんだから、責任じゃないでしょ」
「むー。タケルは私のこと嫌いなの?」
あの後、アーデルハイトは俺にベタベタしてくるようになった。いやね。彼女は結構美人だし、うれしくないと言ったらいやになるよ。だがね!ヨナタンに殺意ある目を向けられ続けていたら、嬉しさどころか命の危機まで感じる。
「ヨナタンは君の希望だったんだろ?これまでも助けてもらってたみたいだし、俺が悪かったんだから、ヨナタンとよりを戻してもいいんじゃない?」
「あいつは嘘ついてたのよ?一番上手いなんて言って。ほんとの一番はタケルだってこと分かったし、タケルはクラブ1どころじゃなさそうだしね。あたしの恋人は1番じゃないと!」
うーん、ヨナタンに睨まれてなければこの状況を楽しむんだけど…
ヨナタンはかなりひどい形で、彼女に振られたらしい。それ以上は聞けなかった。あまりにもみな口が重そうだったから。
「俺にベタベタする時間があったら、練習しようぜ」
そういうと彼女は
「練習ばっかじゃモテないぞ!」
と言って笑った。余計なお世話だ。
変化と言えば、ヨナタンはクラブミュンヘンから脱退した。あとの奴らとは仲良くやれている。連携も取れるようになってきた。
俺のサッカーテクの成長と言えば、例えば、俯瞰的視点からの状況把握、各々の能力からパスコースを算出、正確にその場所に蹴りだせるようになった。それだけではない。シュートの威力も向上、精度も上がり、PK戦では負け無しである。PKになる前に得点して、勝っちゃうけどね。練習試合もしょっちゅうできている。クラブ同士の交流も思ったよりもあるし、クラブメンバーは高校生ばかりではない。ドイツのスポーツクラブって、すげぇなぁ。素直に称賛した。いろいろな年齢層、様々な実力、バラエティ豊かな…あれ?テストなんて聞いたけど、そんなものなさそうだぞ?テストに合格とか言われて舞い上がってたけど、逆に不合格なんてないんじゃ…
「テスト?ああ、そんな冗談言ってたな」
まじかよ。てっきりセレクション代わりにアーデルハイトと戦わされたのかと思ったよ。
実際に来てみると、ドイツは知らないことが多い。いや、そりゃ日本で得られる情報は少ないんだけども。10年ほど前に変革期があったようだが、それ以外はほとんど変わっていないとか。
「ここのスポーツクラブは、周辺住民ほぼすべてが入ってるからねぇ。大所帯だね。普段は仕事で来られないとか、家が忙しくて顔出してらんない、って人が多いから、あんまりこないけど」
アダムが説明してくれた。へぇ、そうなんだ。年齢層が幅広いから、いろんな人にいろんな話を聞けたが、みんないるならそりゃ年齢層広いわなぁ。おかげで、俺もレベルアップできた。上手い人も下手な人もいたが、みんな何かしらの面で、俺の教師になった。カールじいさん(どっかで聞いたなこの名前)にはコーナーキックのフォームをアドバイスされた。ペーターさんには速度を落とさずに方向転換を行う技術を、イェニーさんには、女の口説き方を…今はいいよ!早いよ!子供に何教えてんだこの人は!
その結果…近所で負けなしどころか、俺の名前はドイツ中に知られることになった。
【日本から来た小さな巨人!】
【プロ顔負けのテクニック】
【驚きの練習量】
【徹底された食事管理!】
取材が殺到…怖いよ。校長曰く、これまで一切取材陣がこなかったのが不思議なくらいだという。多くのプロリーグからのスカウトも来た。
「うちにこないか?」
「契約金は…」
「うちには日本人選手もたくさん…」
家の位置もバレた。それも、ドイツ中に。
【谷口も認める】
【隣人はトッププロ】
【将来に期待】
ちなみに、俺は転生して、そこそこ美形になったようである。その結果がこちら。
引き出し。大量に詰め込まれたラブレター。
自宅のポスト。たくさんの贈り物。
あげく、出待ちも現れ。
「タケル!」「タケルゥ!」
「「「「「「「タケル!」」」」」」」」
大合唱である。さすがにまともな生活ができないので、警察に出張ってもらった。
暫くすると尊ブームは落ち着いた。アーデルハイトが
「やっと私が独り占めできるわ」
と言った。けっこうぞっとしたのは内緒だ。
この状況を、俺はぶーたれながらも楽しんでいた。今思うとそうだったのだろう。
俺は知らなかった。騒がしいながらも楽しい日常は、ここで崩れることになることを。
ドイツの実際とは大きく異なります。
注意としてあるように、特に記載していませんでしたが、これはフィクションです。
僕はドイツに行ったことがありません。パソコンで調べてわかる範囲しか正しくありませんし、わかる範囲も間違ってたりします。ご了承ください。