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出逢いと無知

「もうこんなに時間が経ったのか」

俺はただ一言呟いた。

「そうね、あの時はあなたとこんな風になるなんて考えもしなかったわ」

そう言って彼女は微笑み、指輪をつけた手で包丁を扱っている。二人だけの空間。それはかけがえのない幸せであり、失いたくないものだった。

これは俺がこの日常を手に入れる数年前の話である。



「いってきます」

そう言って玄関を出る。いつもどおり通学路を歩いていると、機嫌がいいのか、やたらはしゃぐ男子、何度も制服を気にしている女子がちらほらと視界に入った。

季節は春であり近所の家では花壇にはアネモネが咲いていた。

今日は入学式が終わり、学校生活が始まる初日である。だが、俺はすでに入学式を一年前に経験している。そう、俺は高校生活二年目を迎える。

クラス替えの発表は入学式前に行われ、俺はCクラスだった。

特に緊張などはないがそっと教室のドアを開ける。

...誰だろうこいつら

そんな風に思い、自分のコミュニケーション能力の低さを痛感する。自分の席を確認して席に着く。隣はまだ空いていた。

...はぁ、隣に知り合い来てくんねぇかなぁ

バンッ!!と騒音を立て、俺を見つけ近づいてくる男がいた。

「ハァ...ハァ...ま、間に合ったよな隼世!」

「そうだな」

「まじで焦ったぞ、二年のしょっぱなから笑い者になるところだったぜ」

既にドアを全力で開けた奴として笑い者になっているかもしれないことは俺は伝えないでおいた。

「そういえば、おまえもクラス上がったんだな、無理だと思ってたぜ」

ニヤニヤしながら肩を組んでくる。

「やめろ、潤逸、はなせよ気持ち悪りぃ」

鶴田(つるた) 潤逸(じゅんいち)ー去年知り合った友人。エロゲーマーでとてつもないオタク。

... こいつだったが知り合いがいてよかった。そう安心した。

「私また一緒だったんだー今年もよろしくぅ」

「いたのか、気づかなかった」

「ひどっ!絶対気づいてたでしょ!」

ー外ヶ(そとがはま) 魅波(みなみ)ー同じ中学校だった女子。人当たりがいいのか、ただ軽いのか友人は多い。

「あれ?あんたの隣ってだれ?もうすぐで時間だけど」

「知らない。まだ来てないみたいだ」

もうすぐで遅刻になる時間だが誰も座る気配がない。しかも俺の席は最終列の窓際だ。隣がいないとボッチだ。それは避けたい。

そんな願いも叶わずチャイムが鳴ると同時に担任が入ってきた。

「皆は今日から二年生です。これから頑張りましょう!」

先生は軽めの挨拶を終わらせた。

平内(ひらない) (つかさ)パッと見20代後半の女性だが詳しくは知らない。男子からの評判はいいらしい。

「これから、一人ずつ自己紹介をしてもらいます。では名簿順で」

出た、第一の難所。俺はとてつもなく苦手で嫌いなものだ。

「ーーーです。好きな女優はーーーです。よろしく」

は?好きな女優だと!?まずいテレビを観ないから全く知らない。こいつはなんて事をしやがったぁぁぁぁぁ。

時間と順番が進んでいき、ついに俺の番だ。まずい。

「えー、蓬田(よもぎた) 隼世(はやせ)です。えー、好きな女優は特にいません。えー、よろしくお願いします」

俺の陰キャルートが確定した。べつに構わない、一人が好きだ。なんだか悲しい。そんな感情が襲った。

「えーっと?そこの席は倉石(くらいし) 紅葉(くれは)さんだね。今日は欠席みたいです」

隣は女子か気まずい関係が永遠と続くだろうな。そんな予感がした。

「倉石さんには後日、自己紹介をしてもらうことにするね」

地獄の自己紹介が終わった。

「ハハハハハ、ドンツ マインヅ」

「うるさい。それとDon’t mind 、ドンマイな」

「相変わらずねぇ」

潤逸と魅波は茶化してきた。余計なお世話だと心の底から思った。

「結局来なかったねー」

「そうだな」

「アニメなら超絶美少女がくるぞ。期待しろ隼世」

ニヤニヤしながら話してくるこいつを殴りたくなったがやめておいた。

この時三人は後に潤逸の言ったことが本当になるとは知らなかった。


次の日、その女の子はやってきた。

「倉石 紅葉です。皆と仲良くなりたいです!よろしくお願いします」

机に伏せていた俺は寝言は寝て言えと思った。顔を上げ俺は隣に来る女子の顔を確認した。普通だった。特に何も感じない。そう、普通。

「おい!めちゃくちゃかわいい女子じゃん。羨ましいぃ」

「普通じゃないか?」

「何言ってるのよ!綺麗な人だったじゃない!」

「まじか」

「そういえば一人この学校にかわいい女子がいるって聞いたことがあるぞ!」

「価値観が違うからどこにでもそんな噂あるだろ」

「よかったじゃない、隼世」

「はいはい、どーも」

正直言ってこの頃の俺は倉石 魅波を全く知らなかった。彼女を知ったのはもっと後のことだった。

「出だしは順調だったはず。この学校のトップになるまで私は変われない」

風呂場に湯船に浸かる倉石の声が響いた。


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