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異世界トリップしたら鬼娘に!?  作者: ひなた こはる
第一章
32/59

#31


しばらくそうしていると、私の中の何かが落ち着いてくるのが分かる。


「ありがとうございます…アル」


『いや、コヒナの力になれたのならよかった……コヒナ』


「はい、なんですか?」


アルの声色が真剣なものに変わり、アルは私と向き合うように少し動いた。

顔を合わせたアルの目はとても真剣で、私も少し緊張してしまう。


『コヒナ、言いたくないのなら言う必要はない』


「……」


『だが辛いこと、苦しいことを自分の中に押し殺したままでは、いつかコヒナの心が壊れてしまう。話せる範囲でいい、話してくれないか。そうすれば少し、コヒナもスッキリするかもしれない』


……話してもいいのだろうか。

アルは、今までと同じように接してくれるだろうか。


京介さん達にも話したけど、あれは感情が爆発してしまって口から勝手に出たけど、今回は私の意志で話すことになる。

話している間、私はアルに嫌われてしまわないか…という恐怖と闘いながら話すことになる。


でも、京介さん、愛華さんは受け止めてくれた。

だから、アルもきっと……と思ってもいいのではないだろうか。


「……アル、実は私…異世界からきたんです」






それから、どれだけ時間が経ったのだろうか。

話をしているうちに苦しくなって、泣いて、何度も途切れたけどアルは決して遮ることも、急かすこともしないで全て聞いてくれた。


そう、全て話した。

私の事を全て。


「……コヒナ」


「はい」


アルはいつの間にか人の姿に戻っていて、私をまっすぐ見ている。

その瞳には私を拒絶する色はなくて、少し安心した。


「辛い過去を話させてしまってすまない」


「いえ…アルはちゃんと、話したくないなら話さなくていいって言ってくれました。これは私の意志です」


確かにきっかけはアルの言葉だけど、私は私の意志で話したのだ。

アルに嫌われるのが怖くて、迷っていたのはあるけど。


「コヒナ、俺はお前に下手な慰めは言えない……その代わりに誓おう。これからコヒナが笑顔でいられるように、お前を守ると」


それは昔、大人たちに言われた言葉だけの慰めなんかよりずっと嬉しくて、心に響いてきた。


「それにしても、広くて明るい場所が苦手ということは…街も本当は駄目なのか?」


「はい……」


それに人込みも苦手だ。

だから、町は本来私の苦手なものしかそろっていない。


だから、元の世界にいた頃は学校が休みの日、絶対に外にでなかった。


「そうか……だが、それは勿体ないな」


「もったいない…?」


「明るさとは光、光とは温かいものだ。本来なら、暗闇にいるよりずっと心を癒してくれる」


明るさは光……光は…温かい。


アルの言葉を心の中で反復してみる。

今までずっと、明るい場所が嫌いだったから考えてもみなかった。

暗い場所だけが、私に安らぎをくれたから。


「……好きに…なれるでしょうか」


「俺は、好きになってほしいと思うよ。そして、そのための手助けは惜しまない」


アルとなら…アルと一緒なら、できるだろうか。

今まで嫌っていたものを好きになることが、本当にできるのだろうか。


「……アル」


「なんだ?」


「どこか、人が来なくて落ち着ける明るい場所はありませんか?」


私が急にそんなことを言い出すものだから、アルはとても驚いた顔になってしまった。


でも、しょうがない。

実は言った私自身も驚いている。

自分の口から、こんな言葉が出てくるとは思わなかった。


「確かに、コヒナに明るい場所を好きになってほしいとは言ったが、そんなに急ぐ必要もないと思うぞ」


「善は急げ…と言いますし、それに…日を開けると決心が揺るぎそうで…」


駄目でしょうか…とアルを見ると、彼は優しい顔をしながら頷いてくれた。



アルは後で迎えに来ると、一度部屋から出ていく。


……そういえば、私部屋着のままアルと話していた。

ああ…思い出したら恥ずかしくなってきた。


「…とりあえず、アルが迎えに来るまでに早く着替えないと」

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