#31
しばらくそうしていると、私の中の何かが落ち着いてくるのが分かる。
「ありがとうございます…アル」
『いや、コヒナの力になれたのならよかった……コヒナ』
「はい、なんですか?」
アルの声色が真剣なものに変わり、アルは私と向き合うように少し動いた。
顔を合わせたアルの目はとても真剣で、私も少し緊張してしまう。
『コヒナ、言いたくないのなら言う必要はない』
「……」
『だが辛いこと、苦しいことを自分の中に押し殺したままでは、いつかコヒナの心が壊れてしまう。話せる範囲でいい、話してくれないか。そうすれば少し、コヒナもスッキリするかもしれない』
……話してもいいのだろうか。
アルは、今までと同じように接してくれるだろうか。
京介さん達にも話したけど、あれは感情が爆発してしまって口から勝手に出たけど、今回は私の意志で話すことになる。
話している間、私はアルに嫌われてしまわないか…という恐怖と闘いながら話すことになる。
でも、京介さん、愛華さんは受け止めてくれた。
だから、アルもきっと……と思ってもいいのではないだろうか。
「……アル、実は私…異世界からきたんです」
それから、どれだけ時間が経ったのだろうか。
話をしているうちに苦しくなって、泣いて、何度も途切れたけどアルは決して遮ることも、急かすこともしないで全て聞いてくれた。
そう、全て話した。
私の事を全て。
「……コヒナ」
「はい」
アルはいつの間にか人の姿に戻っていて、私をまっすぐ見ている。
その瞳には私を拒絶する色はなくて、少し安心した。
「辛い過去を話させてしまってすまない」
「いえ…アルはちゃんと、話したくないなら話さなくていいって言ってくれました。これは私の意志です」
確かにきっかけはアルの言葉だけど、私は私の意志で話したのだ。
アルに嫌われるのが怖くて、迷っていたのはあるけど。
「コヒナ、俺はお前に下手な慰めは言えない……その代わりに誓おう。これからコヒナが笑顔でいられるように、お前を守ると」
それは昔、大人たちに言われた言葉だけの慰めなんかよりずっと嬉しくて、心に響いてきた。
「それにしても、広くて明るい場所が苦手ということは…街も本当は駄目なのか?」
「はい……」
それに人込みも苦手だ。
だから、町は本来私の苦手なものしかそろっていない。
だから、元の世界にいた頃は学校が休みの日、絶対に外にでなかった。
「そうか……だが、それは勿体ないな」
「もったいない…?」
「明るさとは光、光とは温かいものだ。本来なら、暗闇にいるよりずっと心を癒してくれる」
明るさは光……光は…温かい。
アルの言葉を心の中で反復してみる。
今までずっと、明るい場所が嫌いだったから考えてもみなかった。
暗い場所だけが、私に安らぎをくれたから。
「……好きに…なれるでしょうか」
「俺は、好きになってほしいと思うよ。そして、そのための手助けは惜しまない」
アルとなら…アルと一緒なら、できるだろうか。
今まで嫌っていたものを好きになることが、本当にできるのだろうか。
「……アル」
「なんだ?」
「どこか、人が来なくて落ち着ける明るい場所はありませんか?」
私が急にそんなことを言い出すものだから、アルはとても驚いた顔になってしまった。
でも、しょうがない。
実は言った私自身も驚いている。
自分の口から、こんな言葉が出てくるとは思わなかった。
「確かに、コヒナに明るい場所を好きになってほしいとは言ったが、そんなに急ぐ必要もないと思うぞ」
「善は急げ…と言いますし、それに…日を開けると決心が揺るぎそうで…」
駄目でしょうか…とアルを見ると、彼は優しい顔をしながら頷いてくれた。
アルは後で迎えに来ると、一度部屋から出ていく。
……そういえば、私部屋着のままアルと話していた。
ああ…思い出したら恥ずかしくなってきた。
「…とりあえず、アルが迎えに来るまでに早く着替えないと」




