#30
結局あの夢を見た後、眠れなくて朝までずっと起きていたら、起こしに来たメイドさんに体調不良と間違われて医者を呼ばれそうになり必死で止める事から朝が始まった。
でも、お腹は空いていないのでメイドさんに軽食を用意してもらった後今日の予定を考える。
「今日は、アルと街に行く約束……」
正直、昔の夢を見た後では街に出る気にはならない。
でも、アルには会いたい。
あの人の温かさにふれていたい。
「コヒナ、開けてもいいか」
「はっはい!どうぞ」
「おはよう、昨日はよく眠れたか?」
あぁ、キラキラしてる。
眩しい位なのに、決して怖くはない。
アルは初めて会った時から、傍にいてとても落ち着いた。
お兄ちゃんと一緒にいる時とは少し違うけど、でもそんな感じの温かさ。
扉を開けても、アルは部屋に入って来ようとはしない。
そのまま入ってくればいいと思うのだが、それは駄目らしい。
神花にいた頃、アルがライオンの姿になってくれた時私の部屋に招待したら最後まで渋られた。
縁側では駄目なのかと言われたけど、少し肌寒くてアルが風邪でも惹いたらひいたら大変だと半ば無理やり部屋に入れた記憶がある。
「アル、あの……」
「どうした?…あまり顔色が良くないな」
「……分かるんですか?」
アルは部屋に入ってきていないし、私も部屋にあるソファーに座って動いていない。
遠いというほどじゃないけど、顔色が分かるほど近くもない。
「目は良い方なんだ」
「そう…なんですか」
「今日は街に行くのをやめておこうか」
「でも……」
せっかく誘ってもらったのに。
それにアルは仕事があって、次はいつ行けるか分からないのに。
「コヒナ、部屋に入ってもいいか?」
「え?……はい」
アルは部屋に入ってくると、まっすぐ私の方に歩いてきて頭を撫でてくる。
その手の優しさが、お兄ちゃんを思い出させる。
「街へはコヒナの滞在中いつでも行ける。だから今日は無理をしないで休め」
「はい……あの、アル」
「ん?なんだ」
アルのライオン姿がまた見たくて、呼んでみたけどそれ以上言葉にならない。
けどアルはなんとなく察したらしく、ライオンの姿になると座ってくれた。
私はソファーから降りるとその毛並みに触れて、そのまま枕にするように顔を埋めて寝転がる。
……ふわふわ…あったかい。
「アル……しばらくこのままでもいい…ですか?」
『あぁ、コヒナの気のすむまで』




