安いプライド
「と、言いたいところですが忘れていませんか?学園長。一応、筆記試験も受けてもらわないと。」
「おぉ。そうじゃったな。魔法がこれだけの成績ならば筆記などなくてもAクラスは確実じゃから、抜けていたのじゃ。」
はぁっ⁈筆記ってなんだよ!自慢じゃないが中学も高校も成績はそこまで良くなかったんだぞ!高校は少しだけだったけど、それでもこの世界の知識とかほとんどないのに分かるわけないだろ!
「魔法学園と言うからには魔法が優先されている学校ですが、魔法関連のステータスINTは知力にも関わりますので、そこそこ座学にも力を入れてあるのですよ。」
「零点でも文句を言わないなら受けてもいいぞ。」
俺は何をアホなことを言っているのだろうか。
「そ、そんなに自信がないのですか…」
「ま、まあ多少貴族の父兄の対応が面倒になるが仕方ないじゃろうて。のぅ?」
おい!戸惑いすぎだろ!
仕方ないじゃん!まだ一月くらいしか経ってないんだよ⁈その俺にどこまで望んでるんだよ!知らないとはいえ!ヘルプ神崎!
そういやあいつ見てないな。ここにいるはずなんだが。休みか?
「分かった。でも、急な話だから少しくらい融通してほしい。」
「そうだのう。お互いに急な話で準備できなかったことは否めないのう。そんなに大きくは譲歩できんが、わしらはどれくらい譲歩すれば良いかの?」
「試験として行われる教科を教えてほしい。あと、図書館の一時間、いや二時間の利用。どう?」
おお!その手があったな、レティ。
まさに神が手を差し伸べてくれる姿を幻視したよ。レティが神様に見えるよ!あれ?それじゃあ普段と変わらないな。
神様褒める時の例えって難しい。
まさに天使のようだ!とかでも考えようによっては下位互換だし、女神のようだ!でも、そのままじゃん。ってなるからな。
芸能人みたい。はこの世界では、はぁ?ってなるだけだからな。
「うーむ。その程度で良いなら儂は良いと思うが。そなたらはどう思うのじゃ?」
「試験の内容ではなく教科なのですから問題ないでしょう。大体、教科は受験する生徒全員に知らされていますから。」
「そうですね。それに、図書館を二時間利用した程度で何か変わるほど魔法学園の試験は甘くは作られていない。」
ルロイ先生とカルディナ先生の言葉もありレティの提案は承諾された。
筆記試験においても完全記憶がチート性能を発揮するのは火を見るよりも明らかだな!
ーーーーーー
というわけで図書館にやってまいりました。
ここには俺、クオ、レティ、リルの四人だけだ。他は授業やらなんやらがあるとか。
魔法試験だけで二時間くらいはやっていたからな。カルディナ先生の授業が二時間とかでない限り、一限分集団ボイコットしているな。
それにしても二時間は想定よりも長かったな。
まあ、カルディナ先生との戦闘やリロンコとかいう奴への神罰もとい周りへの見せしめなども込み込みでだが。
それにあの試験は魔法学園の入学試験と同じだというのだから長くはないのかもしれないな。
ルロイ先生曰く、魔法理論とかいう教科、算数レベルから数学レベルまで幅広く出るらしい数学、国語はこの場合アビド王国語で、最後に歴史の系四つの教科の試験らしい。
数学に算数レベルまで含まれているのは、この学園には魔法科と魔技科に将来的に別れるらしい。
この世界で難しい数学知識は魔技科など少しの分野でしか使われないようで、そこを目指す人達用に数学が入れてあるらしい。
それに、数学もそこまで進んでいないようだし。
どちらかというと数学が入っている算数なのだろう。
魔法があるので物理法則なんてあってないようなものなのかもしれない。
竜が空飛んでいるの見れば理解できるよ。
「ありがとな、レティ。お陰で零点は免れそうだ。」
「ん。どういたしまして。多分、リルエルも歴史が心配かと思った。」
「え、リルが?大丈夫じゃないのか?だって、」
「だって何かしら?そうね、私はここ百年以上の世界情勢なら百点ね。だって見てきたもの。」
や、やばい。もうちょっと言葉に気をつけるべきだった!
リルから黒いオーラが立ち上って見えるのは果たして幻影なのだろうか⁈
「うぅ。この!この!こんな口こうしてやる!」
涙目で優しく頬を引っ張られる。
くっ。この状況で不覚にも俺自身によくやったと言いたくなってしまう。
可愛すぎる…
ついニヤニヤしてしまう。
あれ?なんだか段々と痛くなって
「痛い、痛い!リル、ってあれ?いつから手が良く三本になったんだ?」
というかリルから俺の頬へ手が伸びていない?
じゃあ、この右頬を摘む手はどこから。確か俺の右には
「クオ、痛いんだけど。」
「分かってるよ。わざとだもん。」
な、なに⁈
これは自分もやりたくなってとかじゃなさそうだ。
怒っているみたいだが何か…
そうだった。
「ごめん、クオ!まさかそうとは知らなかったんだよ。それにあの完璧さは効果的だと思ったんだ。いや、言い訳だな。本当にごめん。」
「うん、許してあげるよ。でも、完璧だなんてコータは本当に口が上手いんだから。」
「コータは間違ってない。完璧すぎた結果があれだった。」
「うっ。そう言われたら素直に喜べないよ。」
よかった。クオが許してくれたみたいで。
「でも、次からはクオに一言言ってからにしたよね!」
「いいのか?てっきりやめろって言われると思ってたんだが。」
「心の準備の問題だよ。あれがまだ攻撃の方だったから耐えられたけど、もう一つの方だったら耐えられてなかったよ。」
あの魔法のもう一つの効果が分かっているのか⁈
すごいな、創造神。
「驚いている意味がわからない。左手がまだ残っている。それに詠唱で説明しているようなもの。」
「詠唱で救済とか言っている時点で丸わかりだよ。黒炎が攻撃で、もう一つのキラキラしてた方が回復とかなんでしょ?」
「そうそう、範囲回復をイメージしたんだよ。息吹で広範囲に運んで、運ばれた火が対象に触れたら回復。金の火っていうのが赤よりも回復っぽいと思ってさ。」
「ねぇ、さっきから不思議に思ってたんだけど。」
ん?どうしたんだろうか。
そういや、クオが赤面している時も不思議そうにしていたな。
「何であの魔法でクオが一喜一憂するか理由がわからないのよ。」
こんな話を目の前でする俺が悪かったな。
そりゃ気になるよな。
「でもすぐに聞かずにいたのよ。多分だけどまだ早い気がして。でも、ね。その楽しそうな姿を見ていたら私も混ざりたくなっちゃったのよ。」
「そう、だな。たしかにまだ早いと俺も思う。これはリルだけじゃなく俺の問題でもあるんだ。」
「守れないとか、強くないとか、危険に晒すとか、気にしているなら無問題。そろそろ限界。」
「そうだね。それを受け入れられるかはリル次第だよ。一方的な心配でリルを不安にさせるのはこれ以上は駄目だと思うよ。もし、何かあってもクオとレティがいるんだからね。」
不安に、か。そこまで考えが及んでいなかった。
よく考えなくても自分が体験してきたことなのに何故気がつかなかったんだよ。馬鹿じゃないのか、俺は!
あの自分だけのけもの扱いされているような感覚。
決して相手にその気がなくても、俺たちみたいなのは考えてしまうんだ。
なんで俺だけ、なんで私だけ。自分のなにが駄目だったのだろうか。また一人になってしまうのだろうか。と。
「ごめん、リル!その辛さは理解していたはずなのに。その不安は俺以上だと分かっていたはずなのに。リルの気持ちを考慮できていなかった。」
俺が一人にしていたのは事実だ。
俺の考えがどうであれ、そこに考えが及んでいなかったことに情けなさと怒りを覚える。
「わ、私は!もう!確かに、不安がなかったって言ったら嘘になるわ。でも、でもね、コータにはそれ以上の感謝をしているの。」
何かを言おうとして辞めるリル。
これは本心だというのが伝わってくる真剣さだ。
「理由を知った今と違って、受け入れられることに必死だった私を何の抵抗もなく受け入れてくれた。それまで竜族はもちろん、人族だって距離を感じたわ。」
理由とは神龍となるはずだった話だろう。
「それが私の全てだったのよ?あの時から私の心はコータでいっぱいになってしまってる。コータがどんなことを思っていようと変わらないわ。この気持ちを否定するのはコータでも許さない。」
こんな真正面から真剣に告白されるなんて想像もしてなかった。
その真剣な表情に普段の照れなんて一切ない。
「だから、少しの秘密くらい我慢しようと思っていたわ。隠しているのにもきっと理由があると思ったから。一昨日話してくれた時は内心かなり嬉しかったのよ?」
「理由なんて俺の我儘みたいなものだよ。」
守れない、危険に晒す。
クオとレティがいるのだ。これが俺の安いプライドの問題なのは明らかだ。
「コータが自分を許せないって言うなら、私はコータの考えよりも自分を優先させてしまった私を許せないわ。だから、私が自分を許すためにコータも許してやって?お願い。」
「それは卑怯だな。リルに言われたらそうするしかないじゃないか。」
「ふふっ。私を一人から救ったのはコータなんだから。もし、離れていこうとしても私が離さないからコータは心配しないでいいわよ。」
「本当にごめ…いや、ありがとうな、リル。」
微笑むリル。
リルは笑顔が良く似合うな。もうこの笑顔を奪うようなことはしない。
クオとレティが話さなかったのは俺が言い渋っていたからだろう。
この問題に関してクオやレティの意見を聞くべきだったな。当事者はクオとレティなのに。俺はオマケだ。
なのに、ずっと俺の推測でしか考えていなかった。
神様の事をむやみに話してはいけないだろう、と。
「もっと二人に相談するべきだったな。ごめん。」
「クオも悪かったよ。判断の全てをコータに任せてしまってたから。」
「私の考えも話すべきだった。ごめんなさい。」
なんだかみんなが暗い雰囲気になってしまった。
「はい!もう、終わり!もうこのことで悩むのはやめましょ、ね?」
「分かった。そうだよな、いつまでも落ち込んでるくらいなら早く話すべきだ。」
「それは宿に帰ってからでいいわよ。そんなに簡単に話せないことだから悩んでいたんでしょ?ここでは駄目よ。」
「リルがいいならそれが一番だけど。いいのか?」
確かにここでは誰が聞いているかわからない。
でも、結界を張ってもらうなりいくらでもやりようはある。
「待つわよ。そのくらい配慮は当然だもの。それに、今は時間がないでしょ?」
「そんなもの…そうだな。宿に帰ったら全部話すよ。」
リルは本当に優しい子だよ、まったく。
冗談交じりに言うリルに心を鷲掴みにされたのは言うまでもない。
次で100話目です!
ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございます!




