光太vs爺さん
少し短いです
「賢者ともあろうものが格下の魔法相手に安パイな手を打ってくるなんてな。」
「何が言いたいのじゃ。」
特に何か思うところがあるわけでもない、ただのわっかりやすい挑発である。
こんな風に言えば乗ってきてくれると信じている。
「いや、ただ人類の最高峰なんて言われていても所詮この程度かと思っただけだ。」
完全に受け止められていた奴が言える台詞ではないと自分でも思う。
「ならば、どうすればよかったと?」
「賢者様くらいになるとあの弾幕一つ一つを同規模の魔法で相殺するぐらいでないとな。」
「また無茶を言うのぅ。お主、それが難しいことをわかった上で言っておるの?」
ん?そんなに難しいか?
俺の場合は七属性なんて無意味でアホなことをやったから難しいかもしれないけど、単一属性の魔法で数だけ出そうと思えばそう難しくはないと思う。
まあ、一つ一つを相殺っていうのがかなりの魔力操作レベルを要するとは思うが、そこはほら、賢者補正でちょちょいと。
威力を考えないなら俺は出来ると思う。並列思考もあるし、魔力操作だって完璧だ。
魔力操作はチートのおかげなんですけどね。
「まさかコータよ。お主、それが出来ると本気で思うとるのか?」
俺の顔色から察したようだ。
いかんな。すぐ顔に出てしまうのは直さなければ。
これで損してきたことは山のようにあるのにいつも上手くいかない。
「はっ!まさか賢者ともあろうものがそのくらいも出来ないとはな!見損なったぞ!」
「まさか、お主まで規格外じゃったとは。どうなっておるんじゃ、このパーティーは。」
盛大に開き直ってみた。
規格外か。ゆくゆくはそうなる予定だが今は違う。
そう言われていつもだったら目立ちたくないと嘆くところだが、目立つことを少し許容した今なら、自分が本当に規格外でないことに嘆きを覚える。
「そうだな。賢者よ、今一度チャンスをやろう。再び賢者の威厳を取り戻すチャンスを。」
(((何様だよ。)))
ぐっ。今、観客席から満場一致の心の声が聞こえてきた気がする。
演技なことくらい見てわかれよな!
「今度は正面から俺が超威力の魔法を放つ。お前が本当に賢者と言うのならば、魔法使いの最高峰を名乗るのならば!それを打ち破ることで証明してみせろ!」
「つまり、リルエル様とルロイ先生が行っておったのに似たことをするのじゃな?」
冷静に返さないでください、お願いします。
爺さんは挑発だとわかっているはずだ。なんてったって俺の言い方はすごく態とらしいからな。
その上でのこの爺さんの反応も、観客席から向けられるこの視線も、今この訓練場内の全てが俺の精神を蝕んでくるんですが!
MND、仕事しろ!
「理解が早くて助かるな!それじゃ、行くぞ!」
「ま、待つのじゃ!こちらにも準備というものが!」
準備なんて戦闘中にする暇はありませんー。今の会話中にしてない方が悪いんですー。
ごほんっ。
少々自棄気味になってしまったが、これも作戦のうちだ。本当だぞ!
極力準備をさせないことで、あまり考えさせないことがポイントだ。本当だからな!
「『総てを司りし神は仰った。創造と破壊は表裏一体だと。なれば総てを司りし神は救済と破滅を齎すだろう。」
とか言っておいて詠唱して行くスタイル。しかもちょっと厨二ちっく。
こういう世界だ。厨二ちっくなのは凄そうだと錯覚させやすい。
この際、恥ずかしさなんて我慢する。
詠唱と同時に俺の背後には、金色の半透明で巨大な完璧女神が現れた。あの完璧バージョンのクオを幻影で再現した。
「右手に原初の炎を、左手に破滅の業火を。今、下される。汝に与えられるのは破滅なり!」
左右の方ほどまで挙げられた両手には、右手に輝く炎が、左手に漆黒の炎が現れる。
俺の詠唱が進み、その内容に従い右手の炎は消え、左手の炎ごと口元に持っていくパーフェクトクオ。
「ヘブンズベンジェンス!』」
その魔法名とともにパーフェクトクオは黒炎を息吹に乗せ爺さんの元まで運ぶ。
この魔法は演出にも大分拘ったが、威力もアホみたいにあると思う。本当に今の俺のありったけだ。
この黒炎には各種状態異常やら、崩壊魔法やら、色々とぶち込んだ。
だから、当たればたとえ爺さんであってもただでは済まないと思う。
まあ、塞がれるとは思っているが。
「なんと美しい魔法じゃ。それにしてもお主はこの老いぼれを殺す気かの?」
まだまだ余裕そうだ。
その余裕も今に崩れるだろう。今までの全てはこの為の布石なのだから。
失敗したように見えた魔法も、わざわざ全方位からの魔法にしたのも、無駄な挑発も、恥ずかしい詠唱も、全てだ。
「そうじゃの。儂は皆から賢者と呼ばれておるのじゃ。その名に恥じぬ程度には頑張らんとの。この魔法はそれを示すのに不足はないのじゃ!」
ニヤッ。
おっと。いけないいけない。
思わず顔に出てしまいそうだ。今までの布石が台無しになってしまう。
「勝負だ!賢者(仮)!」
「(仮)じゃと⁈今に訂正させてやるのじゃ!『サンダーストーム!』」
やはりというかなんというか、詠唱なしの想像だけの域までは達しているのか。
魔法名はわざとだろうな。俺が無駄に詠唱していたからだろうか。
「なっ!解放!『アブソリュートディフェンシブウォール!』」
爺さんの放った雷の嵐は黒炎の息吹に、俺の方に向かってくることはなく、俺とクオ、レティ以外は予測できないであろう爺さんに向かって進行し始めたのだ。
それに対して爺さんは驚いたようだが、すぐさま動いた。
爺さんは教師達が七人がかりで築いた壁よりも数倍は強固そうな壁をノータイムで築いてみせた。
これには次は俺の番だと言わんばかりに驚かされた。
その速さは無詠唱スキル顔負けの速度だったのだ。
ドゴゴゴゴゴゴゴゴワァアア!!!
数瞬もせずにサンダーストームは爺さんの築いた壁に到達。威力は抑えてあったのか表面を削る程度だ。その後、黒炎の息吹が壁へと激突し壁を端から崩壊させていく。
その勢いは長くは続かず本当に端を崩す程度で止まった。
ここまでしてこれくらいしか無理だったか。魔力もほとんどないしここまでだな。




