光太vs
「勝ったよ!どうだった?凄かったでしょ?」
クオとカルディナ先生が戻ってきた。
最初クオの顔が曇っているように見えた。でもすぐにその顔は引っ込み満面の笑みで、楽しそうに感想を聞いてきた。
クオが勝つ様子はここからしっかり見ていた。だからこそ知っている。最後、勝った後にしていた悲しそうな顔を。
あの時の、この世界に来た初日に泣く前にした悲しそうな顔に似ていた。
「クオ…あぁ、超強かったな。でも二人とも忘れているんじゃないのか?これ魔法実技の試験だぞ。」
この今のクオの表情。空元気というわけではない。
この楽しそうな満面の笑みは心の底からきているように思える。
クオが俺に心配させまいと隠しているのか、違うとは思うが見間違いか、どんな理由かは分からないしその悲しそうな顔を何故していたのかも分からない。
でも、今の俺では解決できない悩みのような気がしてならない。
また俺はクオにあんな顔をさせて、この世界に来て何か成長できているのだろうか。
俺は自分が情けなくて、クオに何かあったのかと聞けなかった。
「あ、すっかり忘れてたよ。それもこれもカルディナが最初から突撃して来たからでしょ!」
「あ⁈お前だって人のこと言えないだろうが!」
いつものクオだな…
カルディナ先生と言い合うクオはとても楽しそうだ。悲観した様子は欠片もない。
早くクオが俺を頼ってくれるくらい強くならないとな。
「お主達、いい加減にするのじゃ。じゃが、これでは終わりには」
「もう一回なんて絶対嫌だよ!」
叫んだかと思うと急に目を瞑り集中しだすクオ。
魔法を使っているようだ。
「えーっとぉ、これじゃ足りないなぁ。あ、これくらいでいいかな。えいっ!」
ゴゴゴゴゴゴ
いつもの掛け声と同時に魔法が行使され、地面がせり上がり何かが現れた。
はぁ?なんだこれ?
「な、な、なんと⁈これは!」
「これだって立派な魔法だよ。これあげるからいいでしょ?」
現れたのは金ピカの爺さん像だった。
こんなの絶対に要らない。
ただ、無駄に精巧な意匠なのは流石創造神なだけはあると思う。
「こんなのでクリアなんて出来るわけ」
「よし、次じゃ次!こんな精巧な像は初めてじゃ。中庭にあるものとはだんちがいじゃのぅ。この細かい皺、最高じゃわい。」
「こんなのでいいのかよ。」
これで合格できるなら貴族とかの金持ちだったら裏口入学やり放題だ。
「こんなのとは失礼だよ。結構大変だったんだからね。この量の金を見つけ出すのに三キロ近く地中を探したんだから。」
「そうじゃぞ!この凛々しい像に対しても失礼とは思わんのか!」
出てない汗を拭うクオと自分の像を凛々しいという爺さん。
クオが使ったらしい魔法は距離・範囲、速さ、繊細という三点が特にすごいらしく、クオの言葉を聞いて驚きの声が上がっている。
自分の像に頬擦りをする爺さんを見てどうしてもクオの魔法よりインパクトが強すぎてそのすごさに目がいかないのは仕方ないと思う。
「わかったわかった。次なんだろ?よし、決めた。俺の相手は爺さんだ。」
このアホな光景を見て思ったが、戦闘狂じゃないのがもう一人いるじゃないか。
それに、戦って多くを盗もうと思うなら強ければ強い方がいい。この試験という条件下ならば、敗北は死ではないのだ。
負けるというのは嫌だが、そんな小さなプライドよりも大事なものがある。
今この中でクオ、レティ、リルを除いて異質なのは爺さんだけだ。せっかくなら爺さんを相手にするのがいいだろう。
「儂か?面白いことを言うのぅ。じゃが拒否するのじゃ。なぜ儂がそんなこと。」
「ふーん。爺さんが相手をしてくれないなら、手を滑らせて俺の崩壊魔法がその金の像に当たるかもしれないなぁ。」
「なっ⁈卑怯じゃぞ!くっ。」
クオ、そんな悲しそうな顔しないでくれ。
さっきの顔とは違うとはいっても、今の俺の中では洒落にならない。
「し、仕方ないのじゃ。相手をしてやる!してやるから間違っても血迷うでないぞ!」
「よし、決まりだな。危なかったな、もう少しで血迷うところだった。それはそうと、それどれだけ気に入ってるんだよ。」
「ふぅ。鬼畜じゃ!老人をいじめよって!鬼畜のコータじゃ!」
こんのっ、クソジジイ!
そんなこと言うから変な噂が広まるだろ!自分の立場を考えやがれ!賢者とか言われているやつの発言は洒落にならないんだからな!
「それにしてもお主、勝てるとは微塵も思って内容じゃがよく儂を選んだのぅ。」
「いやいや、思ってるさ。」
たしかに勝てるなんて思っていない。
神化をしたステータスで勝てるのかも怪しいとすら思っている。
勝てるなんて慢心どころの話じゃない。
今回俺がやるべきことは人族の最高峰に俺の全力をぶつける事。そして出来るだけ引き出した技術を盗むこと。
正直、どれくらい通用するのかもわからない。だけど、やる価値はあるはずだ。
「まあ、良いのじゃ。そうと決まれば移動するかの。」
爺さんの後に続いて階段を降りていく。
階段までの途中にすれ違った生徒達は、まさか俺が爺さんを選ぶとは思っていなかったのか驚きの表情だ。
てっきり俺は選ばなかった教師達に絡まれるかと思ったのだが、クオの魔法が印象的だったのか俺も私もと像を作ってもらおうと俺たちが離れたそばから群がっていった。カルディナだけが羨ましそうに俺を見ていた。
中心まで移動して、少し距離を取る。
「よし、いつでもよいぞ。どこからでもかかってくるのじゃ。」
「じゃあ、遠慮なく行かせてもらう!」
まずは剣を抜かずに爺さんに向かって右手を翳す。
そしてある魔法を行使する。
これは一対一だ。魔法名すら邪魔になる。
「なんじゃ、虚仮威しかの?」
側から見れば可哀想なやつ、滑稽なやつかもしれない。
威勢良く叫んで勢いよく右手を振り翳し、結果何か起きた様子はない。
俺だって立場が逆ならそう思うだろう。
だが、俺の魔法は成功している。しっかりと。
「きちんと発動したさ。まあすぐにわかると思うぞ!」
次の魔法に移る。
俺が爺さんより優っているところなんて殆どないと言っていいだろう。
だが、それでも少ないがあるのだ。その一つが並列思考。
こういう少しでも勝る部分を有効活用して行かなければいけないと思う。
「次はこれでもくらえ!」
並列思考をフル活用した基本七属性のボール系の魔法の弾幕だ。
四方八方様々な方向から撃っていく。
それに対して爺さんは杖を一振り。
確実に全てを防ぐ為か周りにドーム状の半透明の魔法を張る。
ドゴゴゴゴゴゴゴ
この訓練場はむき出しの地面になっている。そのせいもあり、何十、何百の魔法はたとえ小威力であったとしても盛大な砂埃を巻き上げた。
こんなので勝てるはずもないので瞬きせずに爺さんのいるであろう場所を見据える。
すると、一陣の風が吹き視界を塞いでいた砂埃が晴れた。
そこには傷一つ負っていない爺さんが立っていた。
「七属性の同時行使とはやるのぅ。」
「余裕綽々って感じだな。」
予想通りすぎてやっぱりぐらいの感想しか出てこない。




