孤独
「行ってくるよ。すぐ終わ…頑張ってくるね。」
きっとすぐ終わらせると言いたかったんだろうが、カルディナ先生がそれを許さない雰囲気だ。
俺は見てないけど、さっきのレティがあるからな。嘘と切り捨てられないんだろうな。
前から思っていて言えなかったことがある。
それは、戦闘時のクオの格好についてだ。
普段は色々な服を着て、俺の目を楽しませてくれるクオだが、戦闘時は白のワンピースに黒のマントを羽織った姿に一メートル程の杖だった。杖は先の捻れただけのシンプルな謎の木で出来たものだ。
正直言ってこの格好はハロウィンにお菓子をねだりにくる子供の格好の様にしか見えなかった。
まあ、可愛かったこともあり言えずにいたのだが、それが制服に変わったことで大分良くなったと思う。
「頑張れよ、クオ。再戦を申し込まれない程度に。」
「コータ、お前とはまた戦うからな。」
いや!言い逃げすんなよ!
カルディナ先生はその言葉を残して降りて行った。
「クオ、駄目みたいだ。勝ってしまったらこの先これが付きまとってくるらしい。」
「えー。でも、まずは戦ってくるよ。負けるつもりもないからね。」
クオはカルディナ先生の後をトコトコと追いかけて行った。
因みに、地面に埋まっていた先生は爺さんの隣で大人しくしている。もう一回もう一回と再戦要求、というか駄々をこねていたら爺さんの一喝が入ったからだ。
リルを除く俺達三人はなんだよ爺さんのくせに。的な感じで見ていたが、生徒の中には怖がっている人もいた。教師陣は気にした様子はなかったが、当の怒られた本人はシュンと萎縮していた。
筋肉ダルマがシュンとする姿なんて一概あって一利なしだと思う。爺さんに抗議したいくらいだった。
「なあ、ふと思ったんだが、なんで純粋な魔法使いって少ないんだ?生徒の方は分かりにくいけど、教師の方はルロイ先生以外全員魔法戦士とザ・戦士みたいな先生しかいないじゃないか。」
「別にいないわけじゃないですよ。この先生方はこの試験で戦えるからと試験官を自分から立候補した方々でして。」
ティアやラヴィに聞いたつもりだったんだが、ルロイ先生が答えてくれた。
「ですが、この学園に限らず純魔法使いが少ないのもまた事実です。それは人族だから。というのが一番な要因でしょうか。」
「人族だから?他の種族と何か…あぁ、なるほど。」
人族だから、か。そりゃそうか。
ステータスには種族によって傾向がある。
例えば、獣人族だったらSTR、DEFが高くINT、MNDが低かったり、エルフだとその逆でINT、MNDが高くSTR、DEFが低かったりする。これは上位種族に至るための条件にも絡んでくることなのでそれ関連で聞いた話だ。
種族それぞれに特色があるが人族の場合は、全てが同じくらいなことが多いのだ。特別秀でたところはないが、大体のことは出来る。良く言えばオールラウンダー、悪く言えば器用貧乏。
魔法に秀でているのなら変に他のことはせずに魔法だけを伸ばしていくのが正解なのかもしれない。だが、人族は言ってみればすべての種族の平均値なのだ。竜族は例外だが。
それでは他の種族に敵わないだろう。だから、その差を埋めるために両方掛け合わせた戦い方が主流になっているということだろう。
「気づいたみたいだね。逆にエルフには純魔法使いは多いよ。精霊魔法があるのも大きいんだけどね。」
「そういやディアナはエルフだったな。でも、エルフだと長寿だから魔法戦士も多い気がするな。」
長寿ということはレベルも高くなってくるということだ。レベルが高くなればステータスは当然高くなる。ある程度ステータスが確保されれば物理職に手を出してもおかしくない。
「そうだね。でも、どちらかというと弓士とかの物理職でも遠距離タイプの方が多いかな。エルフって森の中好きだからね。」
森の中では取り回し難い近接武器よりも外の方が良いのだろうか?それとも自分たちのなれている森の中では遠距離の方が良いからだろうか?
「まあ、飽くまでも割合の話だからね。魔法剣士も魔法槍士いるし、割合で言えば純魔法使いが一番多いかな。それに、エルフの使う物理職なんて殆どの場合、どこまでいってもサブウェポン止まりなんだよね。」
魔力が尽きた時、接近された時用の予備ってことか。
「始まる。」
レティの声に顔をそちらに向けるとクオはいつもの杖を構え、カルディナ先生は拳を構えてお互いに開始の合図を待っている。
押し付けた手前見ないなんてのはありえないからな。
「始めるのじゃ!」
開始の合図とともに二人は前に飛び出した。
あれ?これ魔法実技の試験だったよな?
ーーークオ視点ーーー
えへへ〜。頼れるのはクオしかいないなんて言われたよ。
もう!コータはクオがいないとダメなんだから。
「何ニヤニヤしているんだ?ボーッとしているとすぐに勝負がつくぞ。」
「大丈夫だよ。クオは負けないから。」
リルもレティも勝ったんだからクオだけ負けるなんて許されないんだよ。
「私も負けてばかりはいられないからな。今度こそ勝つ!」
「えー。あまりしつこいと嫌われるよ。」
「うっ。戦うことが好きで何が悪いんだ!なんでいつもいつも猛獣とか暴れ牛とか言われなきゃいけないんだ!どいつもこいつも男のくせに。」
あれ?そんなこといってないよ?
何か言っちゃいけないこといったのかな?
「大体、私より軟弱な奴なんてこっちから願い下げだ。」
「クオそんなこといってないよ?カルディナだったけ?どうしたの?」
ハッとした顔をした後に急に精巧な顔つきになったんだよ。
「いや、全力で戦えそうだと思っただけだ。」
「もう!何も変わってないから!」
早く終わらせてコータのところに行きたいけど、カルディナはきっとそれを許してくれないね。
コータ何か考えてるなぁ。考えること好きみたいだもんね。
「真面目にやれよ。じゃないと怪我をしても知らないからな。」
「コータの横顔は一日中でも見ていられるよ。そうだ!今度コータの観察日記でも書こうかな。」
「話を聞け!そんなに良い男だとは思わんがな。まあある程度の強さではあったが、あのくらいなら普通にいるぞ。」
「カルディナには分からないよ。コータはクオにとって特別だからね。」
コータにとってのクオがどうかは分からないけど、クオにとっては唯一無二の存在なんだよ。
今ではあの約束は、あの時信じられなかった約束は、クオにとってかけがえのないものなんだよ。
「あ、始まるみたいだよ。」
コータを見ていたら視界の端でお爺さんが杖を振り上げた。
その動作を見てクオは杖を、カルディナは拳を構えた。
「始めるのじゃ!」
その声と同時に土を蹴る。
カルディナは暴れたいみたいだからね。カルディナの得意な土俵で戦って満足させる作戦なんだよ。
最初の攻撃はカルディナの右ストレート。それを杖の上、捻れた方を使っていなす。
顔の左横を通り過ぎた拳がブォンってなったんだよ。
コータも言ってたけど、生徒相手にする攻撃じゃないからね⁈
弾かれた右の拳の勢いも利用して左の蹴りがくる。
クオも拳を弾いたままの方向に杖を回して、杖の下側で顔に迫っていた蹴りをさらに跳ね上げる。
バランスを崩してくれるかと思ったのに、跳ねあげられた勢いと右足で地面を蹴り上げた勢いで右足でクオの顎を狙いながらバク転して距離を取ろうとするカルディナ。
だけど甘いよ。杖で背中を押してあげる。
「えいっ!」
「うぉあっ!ぶな。」
バランスを崩しながらも着地する。
運動神経良すぎだよ。今のは転んだと思ったのに。
「やるな。流石あの連中の仲間なだけはあるな。」
「四人の中じゃクオが一番強いからね。このくらい当たり前だよ。」
多分だけど、コータが一番強くなれる可能性があるんだよ。
何故なら、コータは世界の外側の存在だからね。色々とこの世界には縛られないんだよ。クオはありがたかったけど、よくメーティスはコータを規格外な存在にしたよね。今までのメーティスじゃ考えられないよ。
「レティよりもクオの方が強いのか。それが本当なら勝てる気がしないな。」
「信じてないね?わかったよ、クオが指導してあげるんだよ。」
「ははっ。是非お願いしたいもんだね!」
また突撃してくるカルディナの猛攻を杖で次々といなしていく。
「そこが空いてるよ!」
できた隙を遠慮なくついていく。
でも、それで戦闘不能にすると信じないまま終わるかもしれないからダメージは最小にとどめて当てる程度にする。
「次はここ!ほらここも疎かになってるよ!」
「くっ。ここまでなのかっ。当たらないにも程がある!」
次は右拳、左拳をフェイントに右足、そしてまた右拳。
カルディナの攻撃は手に取るようにわかるんだよ。
「段々、動きが大きくなってるみたいだね。それじゃ当たらないんだよ。」
クオは今、ステータスを上げたりしてないんだよ。コータとレベルを上げた時のまま。
ステータスに頼らなくてもこのくらいの差なら埋まる方法はいくらでもあるんだよ。
「そろそろ降参したらどうかな?」
でも、裏を返せば倒す手段もないってことだよ。
さっきは戦闘不能がどうとか言ったけど、実のところダメージが少しずつしか通らないだけなんだよね。
このままだと負けることもないけど、勝つこともなく時間が過ぎていくだけなんだよ。
「私が降参することになるなんてな。負けたことは何度もあるが、自ら負けを認めるなんて初めての経験だ。」
お、意外と素直だね。
「こう、なんだろうな。負けるってこういうことを言うのか。ん?なんでクオが悲しそうな顔をしているんだよ。」
「クオには分からないよ。」
敗北か。なんでだろうね。
羨ましいよ。クオも知らないんだもん。その心から負けるって感情を。知ることができないんだよ。
久し振りに孤独を感じたよ。




