光太vsレティ⁈
といってもこれは勝つための試験じゃないんだろうけどな。
「見てたかしら?勝ったわよ。」
リルが戻ってきて第一声、そう言った。
「ちゃんと見てたよ。格好良かったな。クオなんてさっきまで真似してたぞ。」
クオの棒術も凄いんだけどな。
両方俺から見れば凄すぎてどちらが上かなんて分からないが。
「うん、格好良かったよ。あの次々躱していくところとか、その後の相手の策略を破っていくところとか。」
「ん。普通だったら当たる。」
「うんうん。間違いなく俺だったら当たってたな。」
あのアップヒーヴァルだっけ?の最初の地面の隆起だけならまだ可能性はあるが、その後の爆発は無理だろうな。だって完全に騙してきてたし。
「あれは詠唱をわざと終わらせてなかったからよ。バーストの一声がなかったら流石に掠るくらいはしてたもの。下手したら直撃もあり得たわね。」
「それでも凄いと思うけどな。」
それでも俺だったら直撃していると思う。
でも、どこまでいってもこれは試験ということだろうか。
「でも、意外と短かったな。」
「はい。それはですね、どうしてもこの後が長くなるように感じましたので、ある程度で終わらせてもらいました。それに私は他の先生方と違って戦いはそこまで好きではありませんから。」
そういや、六人の戦闘狂集団に圧を掛けられてたな。
俺もあんな感じですんなり終わらせてもらいたいものだ。
いくら技術を盗めるといっても一日でできることなんて限られている。
そうなんどもあんなのを相手にしていたら俺の精神がもたない。
「とかいってられる時間もないからな、俺の場合。誰にしようか悩む時間が一番憂鬱だな。」
思わず思っていたことが口から漏れる。
「次は私がやる。カルディナ?先生?はクオ様が相手をするから私はあの中から選べばいいはず。それじゃあ、一番右。あなたでいい。」
悩んでいる俺とは違ってすんなり決めるレティ。
カルディナ先生と言う間に疑問符が二回付いていたような気がするが気のせいだろう。
一個目はまだ分かる。名前がうろ覚えだったとかだろう。だが二回目は、先生と言うことに疑問を覚えたのだろうか?うん。俺も同じだぞ、レティ。
「ちょっと待ってよ、レティ⁈なんでクオは決定しているの⁈おかしいよね!」
「諦める。もう決まったこと。」
きっぱりと切り捨てるレティ。
いつ決まったのかは知らないが、クオが戦ってくれるのならありがたい。
「そうだな。頑張れ、クオ!きっとさっき負けてるから、一段としつこくなってるだろうけどな。」
何度も言うがカルディナ先生は負けて終われるようなタイプの人間じゃない。
いくら本気ではなく遊んでいる程度だったとはいえ、負けてなにも感じないなんてこの人に限って有り得はしないと俺の感が言っている。
相手が俺じゃなくても八つ当たりぐらいはしてきそうだ。
「それ聞いたらもっと嫌になったよ!クオに押し付けないでよね!」
「光太、私は行ってくる。」
あ、クオを放置して行ってしまった。
カルディナの二つの眼は、今の会話を聞いて完全にクオをロックしている。
「逃げたな、レティのやつ。クオ、俺のためと思って頑張ってくれ。クオしか頼る相手がいないんだ。」
「え?そう?仕方ないなぁ。コータがそこまで言うならクオが戦ってあげるよ。」
流石クオ。チョロ…頼り甲斐があるな!
「始めるのじゃ!」
「そのかわり今日の夕食はコータのアーンを要求するよ!」
「そんな事でいいならお安い御用だ。是非お願いする。」
昔の俺だったら躊躇っていたかもしれないが、最近は色々ありすぎて感覚が麻痺しているのかもしれない。
公衆の面前でする会話じゃないな、これ。
「カルディナ先生。是非、是非!私と一戦戦いましょう!」
「いや。お前は関係ないだろ、セレスティア。」
流石のカルディナも関係ないセレスティアと戦うのはやめるようだ。
だが、一国の王女に向かって呼び捨てとはどうなのだろうか。自分のことを棚に上げていることは百も承知だ。
さっきの一件からティアとさえ呼ぶようになっている俺が言えることじゃない。
「残念ですね。次の機会を待ちましょう。」
なんで俺は男子から睨まれなくちゃいけないんだ!
完全なるとばっちりだろ。
「決まりだね。レティの次はクオがやるよ。」
これであと決まってないのは俺だけだな。
などと考えながら、まだ始まらないのかとレティがあるはずの階下に目を向けると、
上半身を地面から生やした筋骨隆々の大男しかいなかった。
いや、自分でも何言っているのかわからないが事実なのだから仕方がない。
大男、つまりはレティの対戦相手の先生の周りには大きな影が広がっているのでレティの魔法なのだろう。
「あれ?レティの試験はどうなったんだ?」
「わからないわ。そんなに時間も経ってないのにあの状況っていうのが尚更謎を呼ぶわね。」
「あ?何言ってるんだ?セレスティアが私に対戦を申し込んできた時には終わっていたぞ。」
「ん。降りて行ってすぐに始めた。」
「おわっ!」
横からヌルッと現れたレティ。驚かすんじゃない!
そのどこか満足げな表情がさらに俺を煽ってくる。
「何よ、おわって。そんなことでビックリするのはコータくらいよ。」
「よし。今度リルには飛びっきりのドッキリをプレゼントしよう。」
決まりだな。絶対にリルを驚かせてやる!小さい男だとかそういう非難は一切受け付けません!
そりゃ、正面にいるリルには俺の驚きなんて理解できないだろうが後ろから急に声を掛けられたら驚くだろ?
それにレティは分かっていてやってきたんだ。その証拠に足跡を消していたし、あの満足げな表情。決定的だろう。
「クオはしーらない。コータってこういう時、すごく無慈悲なんだよ?怒った時は口も聞いてくれないもん。」
「ん。自分も辛いくせに無駄に意地を張る。」
しみじみというクオに対して、レティは挑発的だ。
くせにとか、無駄とか言うんじゃない!実際クオには効果的だろ⁈
見てなかったことを怒っているのか?
「え?そうなの?でも大丈夫よ。私はコータじゃないもの。」
「ほー。わかった。そんなに驚かせてほしいのか。どうなっても知らないからな。」
あの手この手を使って驚かせてやるからな。
「まあ、この話はまた後でだ。で、あれはどうするんだよ。」
「知らない。来る前も戦って面倒だったからすぐ終わらせたら、再戦を要求してきたからそのまま埋めてる。」
ふむふむ、なるほどな。その言葉だけである程度想像はできる。
リロンコだったっけ?とも戦って、また戦うのも面倒だからすぐ終わらせたら今のは無効だとか言ってきたんだろ?
そりゃ戦闘狂なのに、楽しみにしていた戦いを一瞬で片付けられたらそう言いたくもなるよな。
でも、レティの気持ちもよく分かる。
「レティが勝ったってのは分かったんだが、いつ始まったんだ?合図とかあったか?」
「光太がクオ様のことをチョロいと思っていたくらいの時に賢者が開始の合図をした。」
はぁ⁈何言っているんだよ!そんなこと断じて思っていませんから!
思い直して言葉を変えただろ!
「そんなこと思ってたの!とてもショックだよ。」
「思ってないから!頼りになるなぁ。って思ってただけだから!」
「そうなの?えへへ。じゃあ、問題ないよ。」
チョ…かわいいなぁ。
「また思った。」
「なんだよ!そんなに見てなかったこと怒ってるのか⁈謝るよ、本当にごめんなさい。だから許してくれないか?」
「私にもアーンするなら考える。どうする?」
そっちかよ!なんでそこ聞いてるんだよ!
大体、レティがクオを煽っておいて逃げたからそうなったんだろ!
と言ってもきっとレティに丸め込まれるだけなので了承するしかないのだが。
決して、決して俺がしたいからとかじゃないからな!
どれだけ羞恥に悶えることになるか。
「わかったよ。」
くっ!また俺はレティに敗北してしまった。
勝ったことなんてないけどな!いつもレティの思惑通りになっている気がする。
「えー。せっかくクオが約束取り付けたのになぁ。」
「ごめんな、クオ。レティは手強すぎるんだ。」
「そっか。その気持ち分かるよ、コータ。」
いつもレティに弄られているクオは分かってくれたようだ。
「勝った。」
涙を流す思いの俺とクオの前でピースをするレティ。
俺にはその二本指が二勝を表しているようにしか思えなかった。がくっ
あー。わかってるよ。リルもだろ?
大体こういう時は、最後にリルがモジモジと顔を赤くして自分もと言ってくる。
今もモジモジしている。
「リルもな。でも二人とも、今日のはクオが引き受けてくれるからだからクオを優遇するからな。」
「ん。わかった。」
「え、えぇ。私もそれでいいわ。」
自分から言わずに済んだからか、理解してもらえたからかホッとしているリルの表情が可愛い。
この顔を見ていたら驚かせるのもやめておこうかなという気分になってくる。
まあ、やめないがな!さっきのは少々イラっときてしまったのだ。俺は小さい男である。
「おい!その言い方は私に失礼だぞ!」
「知るか!クオが引き受けてくれなかったらきっと誰も戦わなかったんだからクオに感謝しろよな。ひいてはクオになすり…頼んでやった俺にも感謝するんだな。」
いかんいかん。思わず口が滑るところだった。
まさかカルディナ先生まで罠を仕掛けてくるとは。ここには敵しかいないのか。
まあ、突発的な罰ゲーム?ご褒美?もあったが、次はクオの番だな。
俺の番も近づいてきたが誰にするか。誰を選んでも同じ気もするんだがな。残りの先生は知らない人だけだからな。




