リルvsルロイ
「私でよろしいのですか?他の方々もいますよ?」
「だって他はみんな同じじゃない。選ぶのなら貴方しかいないわ。」
リルが選んだ瞬間にルロイ先生にかかる六人の圧。
リルは気づいているはずだが頑として譲らなかった。
「仕方ありませんね。私に当たらないでくださいよ、皆さん。」
「ちっ、仕方ない。そのかわり早く終わるか終わらせるかしてくださいよ。」
ルロイ先生、カルディナ先生を除く五人の中の一人が言う。
こいつら、自分の番じゃなかったらどうでもいいのかよ。一応試験だろ?
壁の残骸は綺麗に撤去され、その場にリルとルロイ先生を残して他は一段上に作られている観客席的なところまで移動する。
「この建物は他の訓練施設よりも頑丈に作ってあるからの。多少のことでは傷もつかんのじゃ。好きに暴れてよいぞ。」
「じゃあ、もし壊れても文句言うなよ。修理代は爺さん持ちだからな。」
まあ、試験中のことで好きに暴れていいとまで言われたんだから爺さん持ちは当たり前だがな。
「リル!思い切り暴れていいってよ!」
「お主達!ほどほどにのぅ!」
リルは長寿種と言うことを忘れているのだろうか。ボケが始まっているんだな、きっと。
それか、本当に強固なのかもしれないな。
爺さんはリルとルロイ先生に向かって叫んでいる。
「ちょっとは歳を考えろよ。年甲斐もなく叫んだりして。」
「お主もじゃからな、コータ。」
「何のことだか分からないな。」
ガレスには一矢報いることは出来たがこの爺さんにはまだだ。
少しくらいの反抗は許されるだろう。
「くっ、もういいのじゃ。始めるとするかのぅ。」
でも、賢者とか言われている爺さんが太鼓判を押すんだから相当頑丈なんだろうな。
「合図は?」
「儂がするのじゃ。位置についとるの。では、始めるのじゃ!」
ルロイ先生は杖を掲げ、リルは二メートル程の槍を構えている。
そして、開始の合図とともに両者動き出した。
ーーーリル視点ーーー
「どうやって始めればいいのかしら。」
みんなが観客席に向かってから少しして疑問に思った。
「学園長が合図してくれますよ。それよりも、手加減してもらえると助かります。」
「貴方結構強いでしょ。手加減なんて必要ないと思うんだけど。」
確かに私が負けることはないかもしれない。
竜族と人族をはじめ他の種族とでは才能値という面でのアドバンテージがある。それにこの人族と私とでは言いたくはないが生きた年月も倍以上離れている。
竜族には取得経験値二分の一倍加というスキルが種族特性としてあるけど、私は仮にも竜族の姫。スキルスクロールの取得経験値6倍加で3倍にまで上がっている。6倍なんて滅多に出回らない。
私と同年代の竜族の中でなら頭一つ抜きん出ている自負はある。
そんな私に勝てないまでもこの人族は結構強いと思う。
この前の弱い方の邪竜を相手にできるくらいには。流石に後から出て来た方の邪竜は無理ね。私でも勝てるか分からないもの。
「強いといってもリルエル様程ではありませんよ。人族の中ではという注釈が付く程度です。」
「そうもしれないけど、私も負けるわけにはいかないわ。コータの前で格好悪い姿見せたくないもの。」
好きな人の前では少しでもよく見せたいものよね。
「そうですか。仕方ありませんね。私もすぐに負けないよう頑張ります。」
なんて時間つぶしの話をしていると、大きな声が聞こえてきた。この声はあの賢者と呼ばれているお爺さんの声だ。
「お主達!ほどほどにのぅ!」
コータが悪い顔をしているわ。また何か言ったのかしら?
コータはたまに悪戯っ子の顔を出すときがあるのよね。色々と理由をつけてはいるけど、きっとあれは関係ないわ。
まあ、やられたらやり返すスタイルみたいだから相手も自業自得な部分はあると思うけどね。少し例外はあるけど。エマとか。
「今度は何を言ったのかしら。あの顔の時は本当に楽しそうよね。」
「コータさんはあの学園長にも臆さず接していて凄いですね。私には真似できません。」
「クオやレティから聞く限りでは昔はああじゃなかったらしいけどね。」
コータは昔の自分のことを恥じているみたいだった。
それに、コータ達が何かを隠していることぐらい私にも分かる。
でも、コータ達が自分から話してくれるまで待とうと思う。話したくないなら無理矢理にでも聞こうとは思わないけどね。
「想像できませんね。」
「そう?時々そんな感じの顔を覗かせるわよ。コータの百面相は見ていて面白いもの。」
面白い、楽しいのはそれだけじゃないわね。
コータに出会えて、ついてきて本当に良かったと思うわ。コータに出会う前の私に、頑張ることで精一杯だった私に言ってやりたいもの。
世界はこんなに広くて、楽しい場所なんだ。って。
あの狭い中で必死に認められようと頑張って、楽しむ余裕なんてなかったものね。
「そろそろ始まるみたいですよ。」
その言葉に賢者のお爺さんの方を見る。
確かに、杖を掲げ始まりの合図を出しそうな感じだ。
私となんて名前だったかしら?ルロイ先生ってコータは言ってたわね。
私とルロイ先生はお互いに構える。
私はマジックバックから取り出した愛用の槍を、ルロイ先生は身長よりもやや低い長杖を。
「始めるのじゃ!」
その声を合図に私は突貫する。
一応、魔法実技の試験なので魔法は使わないといけないのかしら?
ということで、心ばかりの魔法を使うことにする。
「『我が槍に宿れ。何者にも汚されない光よ、彼のものに導きを。エンチャントライト。』」
コータに教えてもらった魔法だけど、武器に使うとアンデットに特攻を持つくらいの効果しかないけど一応使っておく。
あぁ、それとビーム出したりすると少し威力が上がったりしたかしら。
せっかくなのでビームで牽制しておきましょうか。
「『一条の光よ、敵を討て。シャイニングレイ!』」
でも、この詠唱をしないでいいってなると格段に戦闘が楽になるわね。今度二人きりでコータに教えてもらおうかしら。
ふふっ。今から楽しみね。
あら、躱されてしまったわね。予想通りだったけど。
躱したところにすかさず突きを入れる。
純粋な魔法使い相手には魔法を撃つ隙を与えないことが基本戦術になる。
でも流石ね。躱しながらも詠唱を続けるなんて並みの魔法使いにはできないわ。
「『大地よ、隆起し我が敵を貫け。アップヒーヴァル」
危ないわね。
私の足元の地面が急に隆起したので躱す。躱した直後にまた足元が隆起。その繰り返しに躱すことに集中せざるを得ない。
でも、このくらいならまだまだ対応圏内ね。
ん?
「バースト。』」
そう小さく呟かれた直後、隆起した地面が次々爆発する。
くっ。間一髪ね。
なるほど、詠唱にはこんな使い方もあるのね。
今のは、魔法の内容全てを詠唱するんじゃなくて一部だけを詠唱に頼ることで相手を騙して油断を誘って、詠唱しなかった部分を当てるっていう技術かしら。
無詠唱も確かにすごいけどこういう技術もなかなかね。
「今のを初見で躱しますか。自信を無くしますね。」
「わざとらしいわね。今の最後のバーストはわざとでしょう?あれがなかったら最低でも掠るくらいはしてたわね。」
ステータス的な差はかなりのものがあるのに、掠りそうになるなんて思ってもなかったわ。一歩間違えば直撃もあり得る攻撃、慢心かしらね。
ステータスに依存しないこういう技術は流石と言わざるを得ないわね。
学園ではこういうことを学べたりするのかしら?だとしたら有意義なものになりそうね。
「それでも掠る程度ですか。そうですね、次で最後にしましょう。」
「最後?何をするのかしら?」
「どちらかが倒れるまでというのも性に合いませんから、お互い一撃ずつ放つというのはどうでしょうか?」
「いいわよ。じゃあ、あなたが放ってきた魔法を私が打ち返す形でいいかしら?合図をしてくれる人間がいないのよね。」
なんだか私、さっきから嫌な奴ね。
でも、仕方ないわよね。私は人一倍努力してきた自負があるもの。そう簡単に負けてられないわ。
「ええ。私が打ち返す側でしたらそのまま当たってしまいそうですからね。それでお願いします。」
「いつでも撃ってきていいわよ。」
「分かりました。『母なる大地よ、大いなる風よ、導きの炎よ、我が敵を貫く砲弾と成せ。ロックブラスターキャノン!」
土柱が爆速で迫ってくる。
複合魔法ね。かなりのレベルだわ。
土属性を主に風と火を推進力として使っているようね。
さっきの魔法も複合魔法だったのかしら?
「こっちも早く撃たないと間に合わなさそうね。『光の槍よ、必殺必中のアッサルの槍よ、五条の光線となりて我が敵を討ち滅ぼせ。光槍ブリューナク!」
手に現れた光の槍を土柱目掛けて投槍する。
投げてすぐに五条の光線に変わり、全てが寸分の狂いなく土柱に命中する。
ドゴーンッ!!!
土柱を貫いた光線はそのままルロイ先生の真横をすり抜けて背後に着弾する。
一応、当たらないように魔法を放っておいて正解だったわね。
「私の完敗のようですね。」
「それはどうかしら。私にも反省すべき点は色々とあったわ。」
とはいえ、コータに格好悪いところを見せずに済んで良かったわね。
ーーー光太視点ーーー
「おお、無事勝ったみたいだな。それにしても両方すごかったな。」
「ん。レベルが違うのもある。けど、技術面でもかなりのものだった。」
「クオだって!こうして、こうして、こうだよ!」
クオはリルの槍技の真似をしているようだ。
学園長が言うにはあの槍はミスリルとオリハルコンの合金のようだ。オリハルコンはミスリル程じゃないが魔法との親和性が高いのでよく武器に用いられるらしい。
魔法使いの杖にミスリル、魔法戦士の武器にオリハルコンらしい。オリハルコンは鋼よりも物理防御に長けているそうな。
「それにしてもアッサルにブリューナクか。不思議でもないのか。」
この世界は昔から日本人が勇者として召喚されている。
向こうの神話がこちらで知られていても何も不思議ではない。
今度、刻印魔法の練習がてら擬似アッサルの槍を作ってみても面白いかもしれないな。
イヴァルと唱えて投げれば必中して、アスィヴァルと唱えれば戻ってくる的な。稲妻となって敵を焼き尽くすなんてのは真似できないかもしれないがな。
「なんにせよ、リルは勝ったみたいで良かったよ。」
どの戦闘狂と戦うにせよ、俺も頑張らないとな。
くそっ!どれ選んでも戦闘狂なんてやる気削がれるな。




