名も知らぬ後輩達よ、すまんな
「消滅魔法、じゃと…」
大層驚いているようだが、そんな名前の魔法属性ではない。
消滅魔法ではなく、崩壊魔法というらしい。魔法スキル欄に新しく記されてある。
ブレイクダウンは分解の魔法だ。ものを分子、原子レベルで分解できる。
即興で作った割にはかなり使い勝手が良さそうだ。まあ並列思考を総動員して作ったんだから、即興でも常人の何倍もの思考を巡らせていたが。
「崩壊魔法みたいだね。久し振りに見たよ。」
「ん。使える人の少ない魔法。使い勝手はいい。でも、危険でもある。」
「そんな魔法まで使えるのね。」
危険なのはどの魔法も同じだろうが、この魔法は他の魔法よりも危険度が高いということだろう。
それは今の状況からも分かることだ。
格上の魔法使い七人が高等技術を用いて作った魔法の壁をいともたやすく消し去った。
ものを分解するだけならこうはならない。この魔法は、魔力を魔素に分解する。
「崩壊魔法とはなんじゃ。消滅魔法とどう違うのじゃ。消滅魔法も昔一度古い文献でしか見たことない魔法属性。それと似ている魔法まで使うとはのぅ。」
「賢者である学園長までもが知らない魔法か。気になるな。」
そういう風に言うな!聞こえが悪いだろ!
「消滅魔法は文字通り全てを消滅する魔法だよ。使えば最後、何も残らないの。」
「崩壊魔法は、崩す壊すを行う魔法。どれだけ壊されようとも消滅することはない。今回も原子レベルで残っている。」
見える結果は同じでも、起こっている結果は違うのか。
そりゃ爺さんが間違っても仕方ないな。
「消滅魔法は完全に崩壊魔法の上位互換だな。」
「ん。それは当たり前。消滅魔法は崩壊魔法の上位属性。基本属性以外で上位属性のある珍しい魔法。」
強いのは他の属性と比べて生み出すことがないからかな。
完全に攻撃特化だからな。物理的な防御は意味を成さず、魔法的な防御も魔力量が大幅に上回ってなければ防ぐことは出来ない。
分解するといっても、所詮は魔法なのでそう出来る範囲や時間は魔力量で長くも短くもなるからな。
「気になるかもしれんが、先に進めようかのぅ。」
このままでは進まないと判断したのか爺さんが言う。
俺達はすぐ脱線する傾向にあるので、その判断は至極正しいものだろう。
ただ、爺さんが自分にも言い聞かせるように言っていることで本心が伝わってくるというものだ。
「次はクオがやるよ。」
「またあれを作るのか。今年はいったい何度作ればいいんだか。」
文句を垂れながらまたあの要塞並みの壁を作り出す七人の教師達。
「光はリルが使うだろうからクオは空間魔法にするよ。」
気にするほどのことではないだろ。
今後の役割分担的な意味では有効かもしれないけど、光魔法は回復でも役に立つから何人いてもいいと思う。
まあ、わざわざかぶせる必要もないか。
「じゃあいくよ?『ディメンションシュレッダー』」
方眼紙のような線が壁の四方に現れる。徐々に近づいていくそれは当たると同時に方眼紙を刻む見込むように切っていく。
それが通り過ぎた後の壁は、綺麗な立方体の重なったオブジェクトになっていた。
「見事に細切れだな。」
「ん。綺麗な断面。」
魔法の衝撃で壁だったものの一部は地面に転がっている。
空間ごと切っているので綺麗な凹凸のない断面をしている。
「おいおい、何回作り直させる気だよ。まったく、楽しみじゃないか。」
「私はなぜカルディナ先生がワクワクしているのか分かりかねます。」
壊されて嬉しそうにしている先生が大半だ。
なんだよ、こいつら。
「クオとか言ったか?この際、お前でもいいぞ。」
「え?嫌だよ。特に理由はないけど嫌。」
理由なく拒絶されるカルディナ先生。
そんなに戦いたいのか。
「そんなつれないこと言うなよ。」
それでも諦めないカルディナ。
「カルディナ先生、次をお願いするのじゃ。」
「チッ。仕方ない、また後でな。」
爺さんの一声でクオは助かったようだ。
「なんでクオが目をつけられてるの?コータのせいだよね?見てないで助けるべきだよ!」
怒られた。でも、頑張ってくれとしか言えない。
「次は私がやる。」
「お、頑張れよレティ。」
全力で話を逸らしに行くスタイル。
また作り直された壁の正面に立つレティは魔法名を唱えることなく目を瞑っている。
そんなに集中して何をするつもりなのだろうか。
ここにいる俺達パーティー以外の全員が食い入るように見つめる。それは、先の戦いでグリムリーパーという人にとって強敵である存在を使役しているのを目の当たりにしたからかもしれない。
「何をする気なんだろうな。」
「レティがあんなに集中しているの初めて見たわ。」
「クオも検討つかないよ。」
それほど待たずに変化は起きた。
壁を覆うように巨大な魔法陣が現れたかと思うと、壁が変形し始めたのだ。
固いはずの壁が、粘土のように変形していく。
土魔法ではないみたいだな。魔力感知で知っている属性なら判別出来るのだ。
どの属性か分からないので、俺の知らない、見たことのない属性なんだろう。
「あれは錬金魔法だね。」
「前に聞いたことがある魔法だな。」
刻印魔法の時にロアかプランから聞いたような気がする。刻印魔法の一つ前に出来た魔法属性だとかで。
「でも、錬金魔法で何をする気なのかしら。薬を使ったりで役に立ってる魔法でも、この場面で使う魔法ではないと思うのだけど。」
「錬金魔法は素材さえあれば何でも作り出せる魔法だからね。使い方次第ではものすごく強い魔法だよ。」
これは試験の裏をかいた形だな。
壁に魔法を放ち、それの威力を見る試験。壁がどうにかなれば評価される。
錬金魔法は聞く限り、威力という面では皆無に等しいが、形を変えたりは出来るようだ。
こうなると、威力はないけど評価せざるを得ないだろう。
来年から変わるな、この試験。
「なんだよ、これ。そういうものを面白半分で作らないで欲しいんだが。」
巨大な俺が巨大なレティを膝に乗せ撫でている。
穏やかな顔をしているな。幸せそうだな、俺。
でもな、
「恥ずかしいだろ!こんな像をこの広い場所のど真ん中に作らないでくれ!どんな羞恥プレイだよ!」
「む、いつもこんな感じ。完璧な出来。」
「そうだね。コータは撫でてくれる時、こんな感じで優しい顔してるよ?」
「そう?私の時は恥ずかしがってるイメージなんだけど。」
「そういうこと言ってるんじゃないだろ!頼むから撤去して下さい、お願いします。」
じゃないと恥ずかしすぎて死ねる。
通っている学校に自分の像があるって意味わからないだろ。二宮尊徳や校長とか創設者ぐらいしか像なんて見たことないぞ。因みに、二宮尊徳は通称金次郎と呼ばれている。
俺は親しみを込めてたかのり君と呼ぶけどな。すみません、調子に乗りました。
「仕方ない。せっかくいい出来だったのに。保管しておく。」
影に沈んでいく巨大な俺とレティ。
それ持って帰るのか。
「それにリル、それはリルが恥ずかしそうに言ってくるから俺も恥ずかしくなってるんだろ⁈」
顔を赤くして私も。なんて毎回言ってくるからいけないことをしている気分になるのも仕方ないと思う。
それにそういうことを言う時のリルは何故か妙に色香を放っている。
「そっ、それは!分かったわよ!今度から大胆に頼めばいいんでしょ!」
「それは違うんじゃ…」
あー、行ってしまった。まだ用意されてないのに定位置につくリル。
恥ずかしそうに頼んでくるリルは結構くるものがあるので、そのままでいいのだが。
それに大胆は違うと思うんだが。まあ、クオとレティのように違和感なくねだってくるのはすごいと思うが。
リルが位置についたことで急かされるように四回目の壁を作る教師陣。
大変そうだなぁ、頑張れ!
なんて思っているとカルディナに睨まれた。こわっ!
「大胆に、大胆に。『我が敵に聖なる裁きを。ホーリージャッジメント!』」
出来たばかりの強固な壁は、天から降り注ぐ極太な一本の光の柱に包まれる。
大胆にの部分は詠唱じゃないが、この光景を見るとそこも詠唱のように思えてくる。
光の柱は徐々に小さくなっていき、やがて消えた。
壁は瓦礫の山へと変貌を遂げていた。
この試験で威力という目的を純に果たしたのはリルだけかもしれないなどと思っていると、
「どうだった、コータ?」
「凄まじい魔法だな。すごかったよ。」
リルが感想を求めてきたので、思ったことを素直に言う。
「そう?なら、言葉よりも行動で示してほしいわね。撫でてくれないかしら?」
大胆とはこっちのことか。
顔は赤いけど今日は流してあげよう。
「凄かったよ、リル。」
撫でている時の顔なんて意識したことはなかったので分からないが、今はほっこりとした気分だ。
この気持ちはいつもクオやレティを撫でている時に近いかもしれないな。
「本当ね。クオやレティの時はこんな顔をしているのね。恥ずかしそうな顔もいいけど、こっちの顔もいいわね。」
「クオには恥ずかしがる顔なんてあまり見せてくれないから逆に羨ましいよ。」
「ん。クオ様と私には恥じらいが足りないのかもしれない。」
クオが恥じらうって想像できないんだが。
「こんな感じかな?べ、別にコータに撫でて欲しくなんてないんだからね!でも、そんなに撫でたいなら撫でさせてあげてもいいけど。こんな感じかな?」
「むぅ。ちょっと違う気がする。多分こんな感じ。お兄ちゃん、撫でて?」
「「「……うおぉぉぉおおお!!!」」」
二人とも違うぞ。
それにレティは自分ではなく、相手を恥ずかしくさせようとしてるだろ。
アホな男どもが頬を赤らめて歓喜しているじゃないか。
「違ったみたい。あの顔を引き出せるリルは才能がある。」
「今度リルに色々教えてもらおうかな。」
なんの勉強だよ。それはいいが、あまり外れた方向に進まないでもらいたい。
慣れてきたとはいえ、急にくるので対応に困るのだ。大抵、斜め上な行動だし。
そんな一幕もありながら次の試験に進む。
次の試験は次々現れる的に魔法を当てると言うものだ。
正直苦労はしなかった。詠唱前提の学生用の試験だ。俺、クオ、レティは無詠唱が出来るし、リルは強力な魔法でなければ最短詠唱で放つことができる。
三つ目も難しいものじゃなかった。
始める前は二百メートルなんて無理だと思ったが、魔力に物をいわせたり、魔力操作LV.10の力が伊達ではなかったりで簡単に突破。三人も楽々突破していた。
本来この試験は決められた位置から魔法を放って狙うという試験だろうが、俺達は魔法の発動場所を極限まで近づけることでクリアした。
発動地点が自分から離れるほど加速度的に魔力消費が大きくなるが、消費量の少ないボール系などの魔法なら今の魔力量なら容易である。
「こんなにも容易にクリアされるとは思ってもなかったのじゃ。来年は見直しが必要かのぅ。」
「そうですね。コータさん達が特別というのもあるでしょうが、あの創意工夫は真似のできるものもありました。魔法の認識が大幅に変わるでしょうからね。」
レティの錬金魔法や三つ目の試験、それに無詠唱というのも才能ある人間ならすぐに習得してしまうだろう。ここは才能のある人間がその才能を開花させる為に通う場所なのだから。変えざるを得ないだろうな。
見たこともない名も知らぬ後輩達よ、すまんな。
「まあ、そんな未来のことはいいじゃないですか。早く次に進みましょう。分かってるよな、誰でもいいから私を選べよ。」
「そう急ぐでない、カルディナ先生。」
せんせーい!偉い人が圧力をかけてきます!
あっ、こいつが先生だった。
どんだけ戦いたいんだよ!さっき暴れたばかりだろ。
まあ、戦いたいなら三人の誰かに頼んでくれ。俺は嫌です。
「じゃが、ここで時間をかけても仕方がないのぅ。誰から戦うのじゃ?」
「私から行こうかしら。早い方が良さそうだもの。」
あ!ずるいぞ、リル!
リルが指名したのはルロイ先生だった。これで残りは脳筋だけになった。はぁ。
錬金魔法は魔法言語で指定しないと使えない魔法ですが、それは魔法陣で行なっています。
記載場所は手の温もり1です。




